【解決手段】光トランシーバ1は、ホスト装置2に対して活線挿抜される。光トランシーバ1は、ホスト装置2から一次電圧Vcc3が供給され、それぞれ所定の二次電圧を出力する複数のDC/DC変換器10と、活線挿抜時に、ホスト装置から一次電圧Vcc3の供給を受け、一次電圧Vcc3が所定の最小値に達した時に、ダミー電流を引き抜くドレイン電流回路30と、活線挿抜時に、一次電圧Vcc3の変化を検知し、一次電圧Vcc3の変化に応じてドレイン電流回路30のダミー電流を調整する制御部20を有している。
前記ドレイン電流回路は、可変電流源と、前記一次電圧を分圧して前記可変電流源に動作設定値を与える抵抗分圧回路と、該抵抗分圧回路の一方の抵抗を短絡するスイッチを有し、
前記制御回路は、前記一次電圧が所定の前記最小値に達した時に、前記スイッチの短絡を解除する請求項1から3のいずれか1に記載の光トランシーバ。
【背景技術】
【0002】
ビデオオンデマンド、LTE(Long Term Evolution)などの普及に伴い光通信の大容量化が進んでいる。光トランシーバ1個当たりの伝送容量として100Gbpsの速度の実現に際しては、レーザダイオード(LD)の動作速度が限界に近づくため、マルチチャンネル、マルチ波長を用いたシステムが主流になっている。例えば、IEEEで規格が制定されたCFP(Centum gigabit Form Factor Pluggable)光トランシーバでは、25Gbps×4波長の多重化/多波長化によって100Gbpsの速度を実現している。
【0003】
CFP光トランシーバの場合、扱う電気信号は10Gbps×10チャンネルとなるため、25Gbps×4チャンネルと10Gbps×10チャンネルの間での変換機能として、いわゆるギアボックス機能が必要となる。このように、マルチチャンネル化や、ギアボックス機能の実現により、光トランシーバに搭載される各部品の消費電力は増加の一途をたどっており、CFPの基本仕様を規定するMSA(Multi-Source Agreement)によれば、消費電力はクラス4の場合で32Wまで許容されている。
【0004】
光トランシーバは大容量であってもホスト装置に対して活線挿抜される。したがって、活栓挿抜のための対策として、突入電流の発生を制限しながら光トランシーバの内部回路を起動させる必要があることはよく知られている。これは、光トランシーバへの突入電流の発生がホスト装置側の電源電圧の低下を誘引し、装置全体の障害につながるからである。
【0005】
例えば、特許文献1には、電源接続時に電子装置へ流れ込む突入電流を防止するために、電子装置の第1のコネクタの+側の電源接続ピンとコンデンサ及び電子回路とを接続する電源ライン上に半導体スイッチング素子を介在させ、この半導体スイッチング素子のオン抵抗を各コネクタが接続されてから所定時間が経過するまでに略絶縁状態から略0Ωまで徐々に変化させることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本願発明の実施形態の詳細)
本発明に係る光トランシーバの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれる。また、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0013】
図1は、本発明の対象となる光トランシーバにおけるホスト基板との関係を説明するための回路ブロック図であり、光トランシーバ1の電源部のブロック図と、この光トランシーバ1が活線挿抜されるホスト装置のホスト基板2のモジュールインターフェースを示している。基本仕様として、電源電圧、消費電力、突入電流、リップル等がMSAで決められており、ホスト基板2側には、十分な電流を供給可能な電圧源(Vcc1)に加えて、リップルを削減するためのコンデンサC
A、コイルL
A、およびコンデンサC
Bからなるフィルタが設けられている。ホスト基板2と光トランシーバ1との接続は、プラガブル対応のためコネクタを用いることがMSAで同様に規定されている。このため、コネクタ部には接触抵抗R
Aが数mΩ程度生じてしまい、光トランシーバ1に加わる電源電圧Vcc3は、ホスト基板2側からの供給電圧Vcc2に対して抵抗R1による電圧降下分小さな値となる。
【0014】
光トランシーバ1には、ホスト基板2から供給される電源に重畳されているリップルを除去するためにコンデンサC
Cが搭載されている。制御部20は、最初に起動して光トランシーバ1全体を制御する必要があるため、電源電圧Vcc3に直接または積分フィルタを介して接続される。また、光トランシーバ1には、ギアボックス11、TOSA(Transmitter Optical Sub-Assembly)12、その他の部品13等が搭載されている。そして、各部品で必要とされる電源仕様が異なっていたり、一つの部品で複数の電源電圧を用いる必要があったりするため、光トランシーバ1内に複数のDC/DC変換器10が搭載され、必要な各電源電圧を生成し、各部品に供給している。
【0015】
ちなみに、MSAで規定された突入電流は、最大電流10A、増加率100mA/μs等が制限され、制御部20は各部品の起動順を調整するなどして、これらのすべての規格を満足させる。なお、DC/DC変換器10には電源電圧Vcc3が一次電圧として印加され、生成される電圧が二次電圧として各部品に供給される。
【0016】
図2は、
図1に示す回路ブロックにおける光トランシーバの電源電圧に対する消費電力と消費電流の関係を示すグラフである。光トランシーバが内蔵するDC/DC変換器10が理想的な効率で動作している場合を想定し、制御部20の消費電力がきわめて少なく光トランシーバ1の消費電力に比べて無視でき、また、すべての部品がDC/DC変換器10の下流に接続されているとすると、消費電力は
図2(A)に示すように、電源電圧に依存せずに一定となる。また、消費電流は
図2(B)に示すように、電源電圧の増加とともに減少する。
【0017】
実際には、DC/DC変換器10の効率が100%ではなく、また、制御部20の消費電力も有限な値であるため、光トランシーバ1の消費電力は電源電圧の増加に伴いわずかに増加し、消費電流の減少割合も低下する。しかし、光トランシーバ1の特徴的な点は、消費電流が電源電圧の増加とともに減少することであり、このことは、ホスト装置の電源装置から光トランシーバ1を見た場合に、負性抵抗が接続されている場合と等価となる。
【0018】
図3は、
図1に示す回路ブロックの等価回路を示しており、
図1に示す回路ブロックにおいて、DC/DC変換器10を負性抵抗R
Bに置き換え、制御部20を削除したものである。この等価回路を基にシミュレーションを行うと、電源電圧Vcc1を0Vから上げていった場合に、電源電流Icc1が発振するという挙動を示した。これは、コイルL
Aのインダクタンスが大きいほど顕著であったが、リップルを除去するためにはコイルL
Aのインダクタンス数μHにする必要があるため、発振を避けることはできない。また、発振を避けるためにコンデンサC
A、C
Bの容量を大きくすることも考えられるが、光トランシーバ1の筐体の大きさはMSAで厳密に規定されているため、大きなキャパシタを搭載することは、他の部品の搭載スペースを削減することになる。したがって、発振を緩和するためには、DC/DC変換器10の負性抵抗R
Bを緩和することが考えられる。
【0019】
(第1の実施形態)
図4は、本発明に係る光トランシーバの回路ブロックの一例と、ホスト基板との関係を示す図であり、
図4に示す回路ブロックは、
図1に示す回路ブロックと比べて、ドレイン電流回路30を備えている点で異なっている。
図5は、本発明に係る光トランシーバのドレイン電流回路に流れる電流特性を模式的に示す図であり、光トランシーバ1に印加される電源電圧Vcc3が上昇するとドレイン電流(ダミー電流)が増加する、正性抵抗(負性抵抗とは逆の特性を有する。)を模している。そして、ドレイン電流回路30の正性抵抗は、DC/DC変換器10およびその下流に接続される各部品により模式的に生成される負性抵抗を相殺する。
【0020】
図6は、本発明に係る光トランシーバのドレイン電流回路を含む周辺回路の一例を示すブロック図である。ドレイン電流回路30は、電源電圧Vcc3をモニタする電圧検知回路31、および、ドレイン電流を駆動する電流駆動回路32、および、電圧検知回路31の出力に基づいて電流駆動回路32を制御する電流制御回路33を有する。
【0021】
以下、ドレイン電流回路30の動作について説明する。ホスト装置に光トランシーバ1が装着され、ホスト基板2から光トランシーバ1に電源が供給された後、電源電圧Vcc3が所定の値に達すると、制御部20のパワーオンリセット部21からの信号により、CPU22の初期化が開始される。この初期化過程で電源電圧Vcc3の値を検知し、光トランシーバ1の仕様最小値に達したことをCPU22が確認すると、CPU22は各DC/DC変換器10にイネーブル信号(DC/DC_ENB)を送出し、DC/DC変換器10を動作させる。DC/DC変換器10は、それぞれの固有の時定数にしたがって所定の電圧を各部品に供給する。
【0022】
同時に、CPU22は、ドレイン電流回路30にイネーブル信号(Drain_ENB信号)を送出し、ドレイン電流回路30は、その時定数にしたがってドレイン電流I
D(ダミー電流)を生成し、電源からドレイン電流I
Dを引き抜く。ホスト装置側から見ると、電源電圧Vcc3の増加に伴いドレイン電流I
Dは増加する。電源電圧Vcc3の仕様最小値では0であり、仕様の上限で最大値Maxにドレイン電流I
Dを設定している。通常はありえないが電源電圧Vcc3が仕様上限値を超える場合は、ドレイン電流I
Dはこの最大値を維持する。仕様最小値以下でドレイン電流I
Dを0とするのは、光トランシーバ1の起動時の突入電流の増加を抑制するためである。そして、仕様最小値以上で、DC/DC変換器10の負性抵抗を補償する最小限のドレイン電流I
Dをホスト装置から供給することで、電源の発振による不安定化を避けることが可能となる。
【0023】
起動時(初期化時)以降、DC/DC変換器10が安定動作に移行した後は、ドレイン電流I
Dは光トランシーバ1の消費電流の増加のみをもたらし、光トランシーバ1の安定動作には寄与しない。したがって、初期化が終了した時点において、ドレイン電流I
Dを再度0に設定することが好ましい。光トランシーバ1の規格では、初期化時間は2.5秒と規定されている。また、ドレイン電流I
Dを瞬断すると電源が再度不安定化する可能性が大きくなるため、そのため、ドレイン電流I
Dを0にする場合、所定の割合で漸減させることが望ましい。
【0024】
次に、ドレイン電流回路の具体的な構成例について説明する。
図7は、本発明に係る光トランシーバのドレイン電流回路の一例を示す回路図である。電圧源V1は電源電圧Vcc3を一定値ドロップさせており、これにより、電源電圧Vcc3が0Vから数Vまでの範囲でドレイン電流回路30が動作する不感帯を設定するとともに、後述する抵抗分圧回路の分解能を向上させている。比較器U1、FET(電界効果トランジスタ)J1、および、抵抗R1は可変電流源として機能する。
【0025】
FETJ1のゲートバイアスが調整して、FETJ1を流れるドレイン電流I
Dにより抵抗R1に誘起される電位降下値を、2つの抵抗R2、R3の抵抗分圧回路により決定される中間ノード電位Vpに一致させる。Vcc3が増加すると、抵抗分圧回路の中間ノード電位Vpも上昇するので、FETJ1に流れるドレイン電流I
Dも増加する。
【0026】
トランジスタQ1はスイッチとして機能する。CPU22から与えられる制御信号であるDrain_ENB信号は通常ハイレベルに設定されているため、トランジスタQ1はオン状態に維持されている。このため、抵抗R2は短絡されることになり、抵抗分圧回路は動作しない。そして、中間ノード電位Vpはほぼ0Vに維持されるため、FETJ1にはドレイン電流I
Dは流れない。Vcc3が仕様最小値に達するとDrain_ENB信号がネゲートされトランジスタQ1はオフとなる。これにより、抵抗分圧回路は正常に動作し、中間ノード電位VpにはVcc3に基づく電位が発生する。
【0027】
電圧源V1は抵抗分圧回路のゲインを調整するためのものであり、電圧源V1の電圧値を有している。V1=0場合、抵抗分圧回路はVcc3を直接分割しているので、比較器U1の非反転入力端子の電位は、中間ノード電位VpであるVcc3×R2/(R2+R3)となる。また、電圧源V1が有意な値の場合は、中間ノード電位Vpは(Vcc3−V1)×R2/(R2+R3)となり、抵抗分圧回路の分割比の分解能が向上する。
【0028】
この回路は抵抗R2の存在によって、ドレイン電流I
Dが完全には0とならず、Vcc3が仕様最小値(Vccmin)であっても、ドレイン電流I
Dは(Vccmin−V1)×R2/(R2+R3)で与えられる有意値となる。電源電圧Vcc3が仕様最小値VccminとなってDrain_ENB信号によりトランジスタQ1をオフした瞬間に、ドレイン電流I
Dがこの有意値に設定され、電源電圧Vcc3が増加するとドレイン電流I
Dがこの有意値から漸増する。このため、ドレイン電流I
Dは0から漸増することにはならない。
【0029】
なお、
図7に示す電圧源V1および抵抗R2、R3からなる抵抗分圧回路が、
図6に示す電圧検知回路31に対応し、
図7に示す比較器U1、FETJ1、抵抗R1で構成される可変電流源が、
図6に示す電流駆動回路32に対応し、
図7に示すトランジスタQ1が
図6に示す電流制御回路33にそれぞれ対応する。
図8は、ドレイン電流回路に流れるダミー電流とトランシーバに供給される電流の関係を示す図であり、ドレイン電流I
Dの存在によって、起動時に発振することなく、電源電流Icc1は安定的な挙動を示すことになった。
【0030】
(第2の実施形態)
図9は、本発明に係る光トランシーバのドレイン電流回路の他の例を示す回路図である。
図7に示す回路と比べて、抵抗分割回路の抵抗R3を省略した回路に相当する。ここで、電圧源V1の値は仕様最小値Vccminに設定している。トランジスタQ1がDrain_ENB信号によりオフとなってドレイン電流回路30が動作を開始すると、比較器U1の非反転入力端子の電位は電圧源V1と抵抗R2の回路によって設定される中間ノード電位Vpとなる。電圧源V1の値を仕様最小値Vccminに設定すると、非反転入力端子の電位はVccmin−V1に相当する電圧となり、比較器U1、FETJ1、抵抗R1で構成される可変電流源によって電圧/電流変換を行うことにより、ドレイン電流I
Dを電源電圧Vcc3が仕様最小値Vccminのときに0、仕様最大値Vccmaxのときに最大値とすることができる。電圧源V1は、例えば、複数のダイオードを順方向に直列接続した回路ツェナーダイオードによる定電圧源、あるいは両者の組み合わせで実現できる。
【0031】
また、上述したように、電源電圧Vcc3が仕様値に達し、光トランシーバ1の初期化処理(起動処理)が終了した段階で、ドレイン電流I
Dを漸減させ、最終的には0とすることが消費電力の面からは好ましい。これは、抵抗R2または抵抗R1に並列にキャパシタを接続することで実現できる。また、Drain_ENB信号を漸増させることによって、トランジスタQ1を流れる電流を漸増し、中間ノード電位Vpを漸減させることによっても可能である。本実施形態では、電圧源V1と抵抗R2が、本発明の可変電流源に動作設定値を与える設定回路に相当する。
【0032】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態では、ドレイン電流回路の電流値を設定するために、抵抗分圧回路、あるいは抵抗分圧回路と定電圧源との組み合わせを用いていたが、本実施形態では、比較器U1の非反転入力端子にCPU22からの制御信号を直接入力することによって、ドレイン電流回路の電流値を制御している。この場合、制御信号はCPU22の出力段階(出力I/F)でD/A変換を行いアナログ信号にする必要がある。
【0033】
すなわち、CPU22によって電源電圧Vcc3をモニタし、電源電圧Vcc3が仕様最小値Vccminになったときに、ドレイン電流I
Dを流し始める。次に、電源電圧Vcc3の増加とともに制御信号を徐々に大きくし、電源電圧Vcc3が所定の仕様値Vccmaxまで増加した後、制御信号を漸減させ、ドレイン電流I
Dを徐々に減少させる。これらの動作をすべてプログラム制御によって実施することにより、所定のドレイン電流I
Dの動作を実現することができる。
【0034】
ただし、このような動作をCPU22に行わせた場合、CPU負荷を増大させることになる。光トランシーバ1の初期化処理時にはCPU負荷が最も大きくなる時であり、ドレイン電流I
Dの動作を実施するために、所定のCPUの初期化処理が損なわれないようにする必要がある。CPU負荷が大きくなってCPUの初期化処理に支障を来す場合は、第1および第2の実施形態に示したアナログ制御を行う必要がある。