(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-9363(P2017-9363A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】測位システム
(51)【国際特許分類】
G01C 21/30 20060101AFI20161216BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20161216BHJP
G09B 29/10 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
G01C21/30
G01C21/26 P
G09B29/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-123441(P2015-123441)
(22)【出願日】2015年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】田中 欽也
(72)【発明者】
【氏名】今野 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】茂木 隆
(72)【発明者】
【氏名】田端 謙一
【テーマコード(参考)】
2C032
2F129
【Fターム(参考)】
2C032HB22
2C032HD30
2F129AA02
2F129BB19
2F129BB21
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129EE09
2F129EE78
2F129FF12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自律航法のように移動しながら現在位置を計測する手法であって、フロアガイドマップなどのカラー地図を利用することで、計測した現在位置を適宜補正する測位システムを提供する。
【解決手段】測位システム200は、座標及び色情報を具備する地図データを用いて、移動者又は移動体の現在位置を提示する。地図データ記憶手段203と、測位手段201、計測位置記憶手段202、色情報取得手段204、色情報記憶手段205、補正判断手段206、補正手段208を備える。地図データは、座標及び色情報を具備するとともに、複数の領域を含み、かつ、この領域に所定の色情報が付与されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標及び色情報を具備する地図データを用いて、移動者又は移動体の現在位置を提示する測位システムにおいて、
複数の領域を含み、かつ該領域に所定の前記色情報が付与された前記地図データを、記憶する地図データ記憶手段と、
前記移動者又は移動体の位置を計測し、計測位置として取得する測位手段と、
前記測位手段で計測された前記計測位置を、記憶する計測位置記憶手段と、
前記計測位置を包含する前記領域が具備する前記色情報を、取得する色情報取得手段と、
前記色情報取得手段で取得された前記色情報を、記憶する色情報記憶手段と、
前記計測位置の補正の実行を、判断する補正判断手段と、
前記補正判断手段の判断結果に基づいて、前記計測位置を補正する補正手段と、を備え、
前記補正判断手段は、今回取得した前記色情報と、前回取得した前記色情報との差分が、所定閾値を超えるときに前記計測位置を補正することとし、
前記補正手段が補正するときは、今回取得した前記計測位置を、前回取得した前記計測位置を包含する前記領域内に変更する、ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記補正手段が補正するときは、今回取得した前記計測位置と、前回取得した前記計測位置とを結ぶ線分上の所定位置に、今回取得した前記計測位置を変更する、ことを特徴とする請求項1記載の測位システム。
【請求項3】
今回取得した前記計測位置と、前回取得した前記計測位置とを結ぶ線分を、生成する線分生成手段を、さらに備え、
前記補正判断手段は、前記線分生成手段で生成された前記線分の一部が、あらかじめ定めた通過領域内にあるときは、前記色情報の差分にかかわらず、前記計測位置の補正を実行しないこととする、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の測位システム。
【請求項4】
今回取得した前記計測位置と、前回取得した前記計測位置とを結ぶ線分を、生成する線分生成手段を、さらに備え、
前記補正判断手段は、前記線分生成手段で生成された前記線分の一部が、あらかじめ定めた禁止領域内にあるときに、前記計測位置の補正を実行する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の測位システム。
【請求項5】
前記測位手段が、前記計測位置を起点とし、前記移動者又は移動体の移動距離及び移動方向に基づいて、次の計測位置を推定する自律航法による、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、移動中の物や人の位置を計測する技術に関するものであり、より具体的には、誤差を解消するために移動途中での計測値を適正な位置に補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショッピングモールなど数多くの店舗が集合する施設では、通常、フロアガイドマップが置かれている。このフロアガイドマップは、店舗と通路、あるいは店舗業種ごとに色分けされており、至って分かりやすい地図となっている。しかしながら、フロアガイドマップを頼りに目的の店舗を目指す際、その店舗を地図上で押さえることはできるものの、自身の現在位置が分からないため、結局どう進めばよいか分からないというケースも少なくない。
【0003】
一方、近年著しい速度で普及しているナビゲーションシステムの場合、施設や経路を含む地図情報を表示するとともに、自身の現在位置をリアルタイムで計測して表示するものが主流であり、これを用いると極めてスムーズに目的地まで到達することができる。いわゆるカーナビはその代表例であるが、昨今ではスマートフォンなど携帯型端末機の普及に伴い、歩行者を案内するナビゲーションシステム(以下、「歩行者ナビ」という。)も急速に広まっている。
【0004】
ナビゲーションシステムが普及した背景には、測位技術の進歩とその普及がある。1900年代、それまで軍事用としてのみ利用されていたGPS(Global Positioning System)が民生用として利用されるようになり、さらに2000年には「意図的に精度を落とす仕組み(SA:Selective Availability)」も撤廃され、容易かつ高精度に、しかもリアルタイムで現在位置を計測できるようになった。
【0005】
GPSに代表される衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)は、衛星からの電波を受信することで測位する手法であり、電波の届く範囲であれば地球上あらゆる場所で測位できるが、建物の中など衛星からの電波が届かない場所では当然ながら測位することができない。既述の歩行者ナビの場合、むしろ屋内で利用する場面が多く、したがって衛星測位システムのみの測位では十分とならない。そこで近年、歩行者ナビの需要に応じて種々の屋内測位技術が開発されている。例えば、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法、室内に電波発信機を配置して測位するIMES(Indoor Messaging System)、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、赤外線通信を利用した測位方法などが挙げられる。
【0006】
上記例示した屋内測位技術や衛星測位システムなどのように信号の送受信を伴う測位手法のほか、他との通信を必要としない自律航法も注目されている。自律航法は、与えられた初期位置と、その後の移動距離及び移動方向に基づいて、移動後の位置を求める手法であり、例えばカーナビの場合、トンネルや地下道など衛星からの電波が届かない場所を補完する目的で利用されている。今後は、加速度センサを備えたスマートフォンの普及、さらには眼鏡型ウェアラブル端末の登場により、自律航法を用いた歩行者ナビ(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)が多用されることが予想される。
【0007】
自律航法は、他機器との通信を必要としないため、屋内・屋外を問わず採用できるのが一つの特徴である。しかしながら、現状の技術水準では解決し難い問題点も抱えている。すなわち自律航法システムは、過去の位置に基づく逐次計算によって現在位置を算出するものであり、センサ誤差および演算誤差の蓄積により位置精度が徐々に劣化していくことが知られている。また、自律航法において欠かせない移動距離や移動方向の取得は、ジャイロセンサや加速度センサを用いるのが主流となっているが、ジャイロセンサや加速度センサは動作環境によってその計測が不安定になることがあり(例えば磁気センサは、強い磁場で用いると正しい結果が得られない)、この点でも精度上の問題を指摘することができる。
【0008】
ところで、フロアガイドマップが種々の色を用いて表現されることから、極めて分かりやすい地図になることは既述のとおりである。ところが、フロアガイドマップをはじめ色分けされた地図(以下、「カラー地図」という。)がナビゲーションシステムに利用されることは、それほど多くなかった。そのような中、特許文献1ではカラー地図を利用してナビゲーションする技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−013525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、観光地図や古地図といったカラー地図の位置精度が正確でないことを前提とした技術であり、現在位置をカラー地図上に表示する際、計測した現在位置が道路上にないときは、現在位置が道路上となるように補正して表示するものである。そして、あらかじめ道路の表示色を基準値として設定しておき、計測した現在位置に相当するカラー地図上の位置の色を取得し、この現在位置の色と基準値を比較することによって、道路上にあるか否かを判断するものである。
【0011】
しかしながら、ショッピングモールなど屋内におけるナビゲーションでは、むしろ現在位置の計測精度が大きな問題となっている。もちろん、多数の計測用機器(無線LANアクセスポイントやIMES)を配置すれば、比較的高い精度での位置計測は可能になるが、設置やメンテナンスに係る費用を考えると現実的ではない。結局、限られた計測用機器による計測や自律航法を採用することになり、歩行者ナビなどにとって満足できる計測精度を提供できていないのが現状である。
【0012】
一方で、昨今のフロアガイドマップは、それほどデフォルメされることもなく、比較的忠実に現地を再現して作成されている例が多い。すなわちフロアガイドマップは、相当の位置精度を備えた上に、極めて分かりやすい地図であり、ナビゲーション用として有効な地図といえる。特許文献1では、カラー地図の位置精度が正確でなく、計測した現在位置が正しいことを前提にした技術であるが、現状の屋内ビゲーションはその逆で、計測した現在位置の信頼度が低く、カラー地図の位置精度が相当の信頼度を有していることが前提となっている。
【0013】
本願発明の課題は、上記問題を解決することであり、すなわち自律航法のように移動しながら現在位置を計測する手法において適宜正しい位置情報に補正することであり、より詳しくは、フロアガイドマップなどのカラー地図を利用することで、計測した現在位置を適宜補正する測位システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、移動しながらの測位結果を補正するにあたって、背景地図の色情報を利用するという点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0015】
本願発明の測位システムは、座標及び色情報を具備する地図データを用いて、移動者又は移動体(以下、「移動者等」という。)の現在位置を提示する測位システムであり、地図データ記憶手段と、測位手段、計測位置記憶手段、色情報取得手段、色情報記憶手段、補正判断手段、補正手段を備えたものである。地図データ記憶手段は、地図データを記憶するものである。この地図データは、座標及び色情報を具備するとともに、複数の領域を含み、かつこの領域に所定の色情報が付与されたものである。測位手段は、移動者等の位置を計測し、その結果を計測位置として取得するものであり、計測位置記憶手段は、測位手段で計測された計測位置を記憶するものである。また、色情報取得手段は、計測位置を包含する領域が具備する色情報を取得するものであり、色情報記憶手段は、色情報取得手段で取得された色情報を記憶するものである。補正判断手段は、計測位置の補正の実行を判断するものであり、補正手段は、補正判断手段の判断結果に基づいて計測位置を補正するものである。そして、補正判断手段は、今回取得した色情報と前回取得した色情報との差分が、所定閾値を超えるときに計測位置を補正することとし、補正手段が補正するときは、今回取得した計測位置を、前回取得した計測位置を包含する領域内に変更する。
【0016】
本願発明の測位システムは、さらに技術的特徴を具備する補正手段を備えたものとすることもできる。すなわちこの場合において補正手段が補正するときは、今回取得した計測位置と前回取得した計測位置とを結ぶ線分上の所定位置に、今回取得した計測位置を変更する。
【0017】
本願発明の測位システムは、線分生成手段をさらに備えたものとすることもできる。線分生成手段は、今回取得した計測位置と前回取得した計測位置とを結ぶ線分を生成するものである。この場合の補正判断手段は、線分生成手段で生成された線分の一部が、あらかじめ定めた通過領域内にあるときは、色情報の差分にかかわらず、計測位置の補正を実行しないこととする。あるいは、線分の一部があらかじめ定めた禁止領域内にあるときに限り、計測位置の補正を実行することとすることもできる。
【0018】
本願発明の測位システムは、自律航法を用いた計測を行う測位手段を備えたものとすることもできる。ここで自律航法とは、現在位置を起点とし、移動者等の移動距離及び移動方向に基づいて次の現在位置を推定する計測手法である。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の測位システムには、次のような効果がある。
(1)移動しながらの測位であるため累積誤差を生じやすいが、要所で正しい位置に補正するため、比較的正確な測位を継続することができる。
(2)取得した色情報で判断できるため複雑な座標計算を行う必要がなく、したがって、演算処理にかかる負荷が小さく、迅速に結果を得ることができる。
(3)既成のフロアガイドマップ等を利用することができるため、低コストでシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】ショッピングモールの1フロアを表す地図データを説明するためのモデル図。
【
図3】本願発明の測位システムを説明するブロック図。
【
図4】店舗内を移動している歩行者の計測位置を示す説明図。
【
図5】店舗領域に居た歩行者が、出入り口を通過して通路領域に移動した状況を示す説明図。
【
図6】出入り口を通過して異なる領域に移動するケースも考慮した、本願発明の処理の流れの一部を示すフロー図。
【
図7】通過位置を求めることなく出入り口の通過を判断する処理の流れの一部を示すフロー図。
【
図8】店舗領域に居た歩行者が、禁止領域を通過して通路領域に移動した状況を示す説明図。
【
図9】禁止領域の通過により補正判断を行う場合の処理の流れの一部を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の測位システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0022】
1.全体概要
図1は、本願発明の主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。まずはこのフロー図を参考に、本願発明の全体概要について説明する。なお本願発明は、自動車や工場内運搬機といった移動体、及び歩行者を含む移動者が、屋外や屋内において実施できるものであるが、ここでは便宜上、歩行者が屋内を移動する例で説明する。
【0023】
歩行者が移動を開始すると、随時、歩行者の現在位置を計測する(Step10)。この測位方法は、前記例示した屋内測位技術や衛星測位システムなど、種々の手法を採用することができるが、便宜上ここでは自律航法の例で説明する。自律航法で測位する場合、定期的、断続的、あるいは連続的に現在の歩行者位置を測位し、この結果は「計測位置」として、測位時刻や測位回(序数)などとともに当該測位を特定する識別子に関連付けられて記憶される。
【0024】
次に、取得した計測位置と地図データに基づいて、現在位置の「色情報」を取得する(Step20)。ここで、地図データと色情報について詳しく説明する。
図2は、ショッピングモールの1フロアを表す地図データ100を説明するためのモデル図である。この図に示すように、地図データ100は平面座標を具備しているため、座標軸(図では、平面直角座標軸X−Y)上に適切に配置することができる。また、地図データ100は、網羅する範囲をいくつかに分割した「領域101」によって構成されている。例えば
図2の場合、領域101a〜101eで示す5つの店舗領域と、領域101fで示す通路領域の6つの領域101で構成されている。
【0025】
そして、各々の領域101は、それぞれ固有の色を有している。なお、領域101すべてがそれぞれ異なる色を有することもできるが、多数の領域101を含む地図データ100では用意すべき色も多数となってしまうことから、このような場合いくつかの領域101は同じ色にすると良い。
図2の例では、店舗領域101a〜101eと通路領域101fの色を分け、店舗領域101aと、101c、101eを同色とし、店舗領域101bと101dを同色としている。なお、少なくとも隣接する領域101どうしは、異なる色を採用することが望ましい。
【0026】
各領域100が色を有すると説明したが、これはすなわち各領域101に色情報が付与されることを意味する。色情報とは、色を定量化(数値化)した情報のことであり、例えば、RGBや、CMYK、NCSといった色モデルによって表される値である。この色情報は、地図データ100を作成する際に所望の色を選定することもできるし、既存のフロアガイドマップがカラー地図であれば、そのままの色を採用することもできる。
【0027】
既述のとおり地図データ100は平面座標を具備していることから、測位により得られた計測位置を地図データ100に示す(プロットする)ことができる。この結果、計測位置がどの領域101に包含されるかが分かり、すなわち計測位置と対応する色情報を取得することができる。取得した色情報は、当該測位を特定する識別子に関連付けられて記憶される。
【0028】
現在の計測位置の色情報を取得できると、前回の測位で取得した色情報を読み出し、両者の色情報を比較し差分を算出する(Step30)。そして、その差分とあらかじめ定めた閾値に基づいて、測位により得られた現在の計測位置を補正すべきか否か判断する(Step40)。具体的には、差分が閾値を超えないときは、前回(つまり移動前)と今回(つまり移動後)で取得した色情報が同じであり、すなわち同一の領域101内で移動したと考え、補正の必要なしと判断する。一方、差分が閾値を超えるときは、前回と今回で取得した色情報が異なり、すなわち異なる領域101間を跨いで移動したと考え、補正すべきと判断する。出入り口など特別な範囲を通過しない限り、異なる領域101間を跨いで移動することはないはずであり、このような結果が得られたということは今回の測位結果が適切でなかったと考えるわけである。
【0029】
計測位置の補正判断の結果、補正すべきとされた場合は、前回測位の計測位置を包含する領域101内に、今回測位の計測位置を変更し(Step50)、これを現在位置として確定する(Step60)。一方、補正の必要なしとされた場合は、今回測位の計測位置をそのまま現在位置として確定する(Step60)。確定された現在位置は、例えば背景地図(例えば地図データ100)上に表示される(Step70)。ここまでの処理を繰り返し行い、目指す店舗に到達した(Step80)など歩行者の目的が達成されると、一連の処理を終了する(Step90)。
【0030】
次に、本願発明の測位システムの主な構成について説明する。
図3は、本願発明の測位システム200を説明するブロック図である。この図に示す測位手段201は、自律航法等によって移動中の歩行者の位置を随時計測するもので、ここで得られた結果は「計測位置」として計測位置記憶手段202に記憶される。地図データ記憶手段203には、地図データ100が記憶されている。
【0031】
色情報取得手段204は、計測位置記憶手段202から今回測位の計測位置を読み出すとともに、地図データ記憶手段203から地図データ100を読み出し、当該計測位置を包含する領域101を求めて該当する色情報を取得する。ここで取得された色情報は、色情報記憶手段205に記憶される。
【0032】
補正判断手段206は、色情報記憶手段205から、今回測位で取得した色情報と、前回測位で取得した色情報を読み出し、さらに両者の色情報の差分と所定の閾値を照らし合わせて、補正すべきか否かを判断する。補正の必要なしと判断した場合、計測位置記憶手段202から今回測位の計測位置を読み出し、これを現在位置として現在位置記憶手段207に記憶させる。一方、補正すべきと判断した場合、補正手段208が当該計測位置を補正する。具体的には補正手段208が、計測位置記憶手段202から今回測位の計測位置を読み出し、前回測位の計測位置を包含する領域101内の所定座標に変更し、これを現在位置として現在位置記憶手段207に記憶させる。現在位置が確定すると、ディスプレイ等の表示手段209によって、現在位置が例えば背景地図上に表示される。
【0033】
以下、本願発明の測位システムを構成する主な要素ごとに詳述する。
【0034】
2.測位手段
既述のとおり本願発明は、屋内測位技術や衛星測位システムなど様々な手法の測位手段201を用いることができるが、自律航法による測位手段201とするとより顕著な効果が得られる。自律航法は、移動する歩行者が通過する地点の位置座標を逐次計測して記録するもので、過去の通過点(起点)座標に基づいて移動後の座標を求める手法である。したがって測位手段201には、歩行者が移動した距離と方向(方位)を取得するための軌跡計測手段と、座標を求めるための座標演算手段が必要である。
【0035】
軌跡計測手段には、移動しながら距離を計測するもの(以下、「距離計測器」という。)と、移動しながら方向(方位)を計測するもの(以下、「方位計測器」という。)が備えられる。例えば、距離計測器としては、加速度を計る加速度センサや、車輪(タイヤ)の回転から距離を計測するDMI(Distance Measuring Indicator)といったものが例示できる。一方、方位計測器としては、角速度を計るジャイロセンサや、地磁気を検知する地磁気センサ(例えば、電子コンパス)などを例示することができる。なお、距離計測器と方位計測器は、それぞれ別体として用意することもできるし、両者を搭載した一体型のものを利用することもできる。例えば現在のスマートフォンは、電子コンパスと加速度センサを内蔵しているものが主流であり、これを軌跡計測手段として利用すれば歩行者も携行しやすく好適となる。
【0036】
座標演算手段は、コンピュータによって実行されるプログラムとするとよい。このプログラムをスマートフォンに組み込めば、軌跡計測手段と座標演算手段を具備する自律航法型の測位手段201とすることができる。あるいはスマートフォンに代えて、眼鏡型ウェアラブル端末を自律航法型の測位手段201として利用することもできる。この場合、軌跡計測手段と座標演算手段を具備するとともに、表示手段209としてディスプレイを具備することも可能で、その結果、両手は自由となり移動中に他の処理を行うこともできるようになる。さらに、眼鏡型ウェアラブル端末を利用することで、種々の拡張現実(AR:Augmented Reality)を表示手段209に表示させることもできる。
【0037】
3.補正判断
図4は、店舗内を移動している歩行者の計測位置を示す説明図である。この図では、歩行者が店舗領域101e内を移動しており、歩行者位置の測位結果が、計測位置P01→計測位置P02→計測位置P03の順で得られている。そして、計測位置P01を得たときの測位では店舗領域101eに付与された色情報Ceを取得しており、同様に計測位置P02の測位でも店舗領域101eの色情報Ceを取得しているが、計測位置P03の測位では通路領域101fの色情報Cfを取得している。
【0038】
計測位置P01で得た色情報Ceと、計測位置P02で得た色情報Ceを比較すると、同じか略同じ値を示す。これにより計測位置P01と計測位置P02は、同じ店舗領域101e内にあると判断できる。なお、地図データ100を作成する際に、店舗領域101e内はすべて同じ色情報Ceとなるよう設定すれば、計測位置P01と計測位置P02で得た色情報は同じ値となるが、フロアガイドマップをスキャニングすることで色情報を付与する場合など、同じ領域101内でも色情報が若干異なることがある。このような若干の相違を許容するため、色情報が同一の場合に限らず略同じ場合でも同じ領域101内にあると判断することとした。
【0039】
一方、計測位置P02で得た色情報Ceと、計測位置P03で得た色情報Cfを比較すると、大きく相違する値を示す。これにより計測位置P03は、計測位置P02を包含する店舗領域101eの外にあると考えられる。なお、大きく相違するか、同一領域101内の若干の相違なのかは、あらかじめ設定した閾値と照らし合わせることで判断することができる。
【0040】
既述のとおり、連続する2回の測位で取得した色情報の差分が、閾値を超える(つまり、相当程度大きい)ときは、移動者等が異なる領域101間を移動していると考え補正することとする。つまり
図4の例では、計測位置P02と計測位置P01の色情報の差分は十分に小さい(もしくは0である)から同じ領域101にあると考え補正しないが、計測位置P03と計測位置P02の色情報の差分は相当程度大きいから同じ領域101にないと考え補正すべきと判断する。
【0041】
ここで、色情報の差分について説明する。色情報とは、色を表す物理量であり、いわば色を定量化(数値化)した情報である。したがって色情報の差分は、2つの物理量によって求められる値である。例えば、色情報がRGBによって表される値である場合、R値の差と、G値の差、B値の差を求め、それぞれの絶対値の総和を差分とすることができる。あるいは、R値の差、G値の差、B値の差の二乗和を差分とすることもできる。もちろんこれに限らず、R値の差、G値の差、B値の差のうち最大値(あるいは最小値)を差分としたり、各差に所定の係数を乗じた上で総和したものを差分としたり、その他種々の方法で求めた値を差分とすることができる。
【0042】
ところで、歩行者が出入り口など特定の場所を通過したときは、実際に異なる領域101を跨って移動することとなる。
図5は、店舗領域101aに居た歩行者が、出入り口を通過して通路領域101fに移動した状況を示す説明図であり、歩行者位置の測位結果が計測位置P10→計測位置P11の順で得られている。計測位置P10で取得した色情報Caと、計測位置P11で取得した色情報Cfは、その差分が閾値を超える程度に大きいはずであるが、この図に示す経路で移動した場合、計測位置P11を店舗領域101a内に補正することは適切でない。
【0043】
図5に示すケースでの補正を防ぐため、出入り口等を通過したときは補正しないという処理を取り入れることが望ましい。この処理方法について、
図6を参照しながら具体的に説明する。事前に、出入り口など移動者等が通過可能な場所をあらかじめ「通過領域」として設定し、さらに各領域101の境界である「領域境界線」を設定しておく。そして、今回測位して得られた計測位置と、前回測位して得られた計測位置とを結ぶ「線分」を生成し(Step100:線分生成手段)、この線分と領域境界線が交差する点を「通過位置」として算出する(Step110:通過位置算出手段)。この通過位置と通過領域内を照らし合わせ(Step120)、通過位置が通過領域内にあるときは、出入り口等を経由したうえで異なる領域101に移動したと判断し(Yes)、たとえ色情報の差分が閾値を超えたとしても補正しないと判断するわけである。そのほか
図7のフロー図に示すように、通過位置を求めることなく、単に線分の一部が通過領域に含まれるときには、出入り口等を通過したとして補正しないと判断することもできる。
【0044】
通過領域を用いて補正判断する手法に代えて、「禁止領域」を用いて補正判断する手法を採用することもできる。
図8は、店舗領域に居た歩行者が、禁止領域を通過して通路領域に移動した状況を示す説明図である。この図に示すように禁止領域とは、店舗と通路の間に設置される隔壁のように人が通過することができない障害物を含んだ領域であって、あらかじめ設定される領域である。この領域は、
図8のように「面」として設定することもできるし、隔壁そのものを表現する「線」として設定することもできる。
【0045】
禁止領域を通過することは考えられないので、当該領域を経由して異なる領域に移動した場合は適正な移動ではないと判断して補正する。
図9のフロー図を参照しながら、通過領域を用いて補正判断する処理について具体的に説明する。あらかじめ、隔壁など移動者等が通過できない障害物を含む「禁止領域」を設定しておく。補正の判断(Step40)において、連続する2回の色情報の差分が閾値を超えると判断された場合、「線分」を生成する(Step100)。既述のとおりこの線分は、今回測位して得られた計測位置と、前回測位して得られた計測位置とを結ぶことで生成される。そして、この線分の一部が禁止領域に含まれるときには、適切でない移動と判断して補正することとし(Step130:Yes)、線分が禁止領域に含まれないときには、適切な移動と判断して補正しないこととする(Step130:No)。
【0046】
ところで、今回測位して得られた計測位置が禁止領域内にあるケースも考えられる。もちろんこのような事態は生じ得ないことから、今回測位の位置は補正する必要があり、前回測位して得られた計測位置を含む領域内に変更する補正を行う。
【0047】
4.補正
既述のとおり、補正判断の結果、補正すべきとされた場合は、今回測位の計測位置を補正する。具体的には、今回測位の計測位置を、前回測位の計測位置を包含する領域101内に変更する。例えば
図4では、補正すべきと判断された計測位置P03を、店舗領域101e(計測位置P02を包含する領域101)の所定位置に変更する。なお、領域101の所定位置は、あらかじめ定めた複数の定位置のうち今回(又は前回)計測位置に最も近いものとすることもできるし、もしくは前回計測位置そのものとすることもできるし、前々回計測位置と前回計測位置に基づいて推定した位置とすることもできる。あるいは、今回測位して得られた計測位置と、前回測位して得られた計測位置とを結ぶ線分を生成し、線分上であって前回測位の計測位置を包含する領域101内に変更することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明の測位システムは、屋内に限らず屋外の広い範囲でも利用可能であり、歩行者のほか、車や自転車等での移動にも利用できる。また、工場や、学校、病院など、施設内で物品運搬を頻繁に行う場所で、特に効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
100 地図データ
101 領域
200 測位システム
201 測位手段
202 計測位置記憶手段
203 地図データ記憶手段
204 色情報取得手段
205 色情報記憶手段
206 補正判断手段
207 現在位置記憶手段
208 補正手段
209 表示手段