【実施例】
【0028】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0029】
本実施例は、電極を体表に接触させて心電図信号を取得するための携帯型心電計装置であって、心電計部1と複数の誘導電極を有する電極部とから成り、前記心電計部1は前記電極部を介して体表面電位から心電図信号を取得するように構成され、また、前記心電計部1は前記心電図信号を解析機に無線送信可能に構成され、更に、前記心電計部1と前記電極部とは複数の接続部により着脱自在に設けられ、前記複数の接続部には夫々前記複数の誘導電極と接続するための誘導電極接点が設けられているものである。
【0030】
即ち、本実施例は、心電計部1に複数の誘導電極と接続するための複数の誘導電極接点2´を兼ねた接続部材2が設けられており、この接続部材2と前記電極部の被接続部材4とで接続部が構成されている。本実施例では、心電図信号を取得する方法として、手持ち可能な基体から成る手持ち電極部3を用いて、手持ち電極部3の被接続部材4と前記心電計部1の接続部材2(誘導電極接点2´)を接続させる構成について説明する。
【0031】
図1に図示したように、心電計部1には誘導電極接点2´を設けた接続部材2を通じて電極部(手持ち電極部3)から得られる体表面電位を心電図信号に変換するための信号処理手段と、信号処理手段で得られた心電図信号を標本化する標本化手段と、標本化した心電図信号を解析機に無線送信する送信手段が設けられている。この送信手段により、PC等の解析機に心電図信号が送信され、送信されてきた心電図信号を解析機上で解析し表示することができ、装置自体に心電図の解析機構やモニタ等の表示部が不要となり、それだけ装置自体やバッテリーを小型化且つ軽量化できる。具体的には、本実施例では信号処理手段としてアナログフィルタ、送信手段として電波を用いているが、信号処理手段としてデジタルフィルタ、送信手段として赤外線通信などの手段を用いてもよい。
【0032】
また、
図2に図示したように、手持ち電極部3には心電計部1が嵌合する嵌合凹部10が設けられ、嵌合凹部10に心電計部1を嵌合して装着することで、心電計部1の下面に設けられている(前記誘導電極接点2´を兼ねた)前記接続部材2と手持ち電極部3の上面(嵌合凹部10内)に設けられている被接続部材4とが着脱自在に接続される構成である。また、前記被接続部材4には誘導電極接点が設けられ接続部材2と同様に誘導電極接点を兼ねているため、これらを接続することで体表面電位が得られ心電図信号を取得できる構成となっている。
【0033】
本実施例においては、着脱機構として、心電計部1の接続部材2がその中央部に筒型凹部を有し、手持ち電極部3の被接続部材4が前記筒型凹部と凹凸嵌合する筒型凸部を有する、所謂スナップボタンタイプの機構を採用している。この両者を凹凸嵌合して接続することで、誘導電極A,Bから得られた体表面電位から心電図信号を取得することが出来る。なお、スナップボタンタイプに限らず、導電性面ファスナーや導電性テープ、導電性を確保し且つ容易に着脱できる機構であれば他の機構を採用してもよい。
【0034】
また、
図1,2に図示したように、本実施例においては、手持ち電極部3の2つの電極A,Bに対して夫々対応する2つの接続部材2(誘導電極接点2´)を心電計部1に設けている。手持ち電極部3の2つの電極A,Bは誘導電極であり、これらは離間した状態で設けられている。本実施例においては、誘導電極A,Bを基体の両側端面に被接続部材4(嵌合凹部10)を挟むように設けられている。この一対の側端面に設けた誘導電極A,Bは100mm以上離れて設けられているが、100mm以上離れていることで、両手の接触が避けられ、両手の体表面電位差を精度良く測定できる。
【0035】
また、
図3,4に図示した別例1のように、これら基体の一対の側端面に設けた誘導電極A,B以外に、手持ち電極部3の手前側に突出する突設部5に基準電極Cを設けることも出来る。この場合、例えば、
図8に図示したように、両手を前記一対の誘導電極A,Bに夫々接触させながら手持ち電極部3を把持すると共に、基準電極Cを胸(
図8中符号12)等に押し付けて検査を行うことで、誘導電極の1つである基準電極Cは誘導電極Aと誘導電極Bの電位差を得る際の基準電位となるので、この場合、心電図の基線揺動等のノイズの混入を防止して、より正確に心電図信号を取得することが可能となる。
【0036】
また、
図5,6に図示したように、前記手持ち電極部3の前記一対の側端面に設けられた誘導電極A,Bのうち、一方の誘導電極Aを設けた前記右側端面と略垂直な基体上面には、前記右側端面に設けた前記一方の誘導電極Aを右手の人差し指から拇指球にかけて接触させるように前記手持ち電極部3を把持した際、右手親指が当接する位置に半球状の親指誘導用窪み部7(
図4及び
図5参照)が設けられている。親指誘導用窪み部7は親指を誘導できるような形状であれば楕円体など半球状でなくても良い。
【0037】
また、前記手持ち電極部3の基体上面の反対側の基体下面には、前記右側端面に設けた前記一方の誘導電極Aを右手の人差し指から拇指球にかけて接触させるように前記手持ち電極部3を把持した際、右手中指が当接する位置に円弧溝状の中指誘導用窪み部8が設けられている。この中指誘導用窪み部8は、前記一対の誘導電極A,Bの対向方向と直交する方向に沿って設けられている。なお、この中指誘導用窪み部8は、中指と共に薬指を誘導する構成としても良い。
【0038】
従って、前記親指誘導用窪み部7及び前記中指誘導用窪み部8を設けたために、右手で手持ち電極部3を把持する際、より確実に、前記一方の誘導電極Aに右手をその人差し指から拇指球にかけて接触させ、安定した状態で把持することが可能となる。このように安定して手持ち電極部3を把持できれば、心電図への筋電の混入を減少でき、よりノイズの少ない心電図の測定が可能である。
【0039】
また、前記右手が接触する前記一方の誘導電極Aを設けた右側端面及び対向する他方の誘導電極Bが設けられた左側端面は、共に外側へ凸状に湾曲する形状に設定されている。なお、本実施例及び別例1においては、右側端面も同様に外側へ凸状に湾曲する形状に設定されている。
【0040】
従って、
図7に図示したように、右手が前記一方の誘導電極Aに接触するように持った状態で前記他方の誘導電極Bを胸の左側下部から左わき腹の間に押しあてた際、強い力を加えずとも体表(皮膚)に接触することができ、それだけ検査を容易に行えることになる。また、強い力を加える必要がないため、心電図への筋電の混入を減少でき、よりノイズの少ない心電図の測定が可能である。
【0041】
よって、本実施例及び別例1においては、右手のひらが一方の誘導電極Aに接触するようにして右手で手持ち電極部3を把持し、他方の誘導電極Bを胸等の右手以外の部位(例えば左足等)に押し当てる姿勢で測定を行うことが容易となる。この際、被検者に他方の誘導電極Bに接触する部位から心臓を通して一方の誘導電極Aと接触する右手に到達する回路が構成され、被検者の心筋の活動時に生じる電気的興奮に伴う活動電位を一方の誘導電極A及び他方の誘導電極Bとの電位差から得ることができ、心電図信号を測定することが可能となる。
【0042】
なお、別例1においては電極Cを基準電極Cとして説明しているが、基準電極とせずに誘導電極の1つとすることも出来、この場合は基準電極を用いる場合よりノイズが多くなる可能性はあるが、誘導電極Aと誘導電極Cの電位差及び誘導電極Bと誘導電極Cの電位差が得られることにより2種類の心電図信号の情報を得ることが出来る。この場合、情報量が多くなることで異なる視点で疾患の診断をすることが出来る。
【0043】
図9,10は別例2、
図11,12は別例3の構成である。
【0044】
図9に図示した別例2は、2つの接続部材2(誘導電極接点2´)を有する心電計部1を2つの誘導電極A,B及び2つの被接続部材4(
図2参照)を有する手持ち電極部3の嵌合凹部10に嵌合し、さらに心電計部1に誘導電極である副電極6を1つ取り付けた構成である。この副電極6は前記心電計部1の側面に導線を差し込むことで副電極接点9に接続される。具体的には、副電極6は心電計部1と手持ち電極部3とを嵌合し両手で把持した際、心電計部1の側面の手前側に導線を差し込むことで副電極接点9に接続される。別例2では副電極6として体表貼付用電極、具体的にはディスポーザブル電極を採用している。なお、別例2では、接続された副電極6を基準電極等として使用することが可能となるため、
図9には(本実施例の手持ち電極部3に相当する)基準電極Cを有していない手持ち電極部3を図示しているが、
図3〜8に図示した基準電極Cを有する手持ち電極部3を用いてもよい。この場合は手持ち電極部3に設けられた基準電極Cを使用しなければ良いだけである。副電極6を用いた場合、手持ち電極部3の基準電極Cを用いる場合よりもさらに心電図信号に対する基線揺動等のノイズの混入を防止して、より正確に心電図信号を取得することが可能となる。さらに筋電等のノイズの混入を防止するために、
図10に図示したように、別例2の心電計部1の接続部材2(誘導電極接点2´)に手持ち電極部3に替わって2つの体表貼付用電極11を取り付け、これを左胸部に貼り付けることによって体表の心電図信号を取得できる。残る1つの副電極6を例えば右下腹部に貼り付ける。この場合、体表貼付用電極11の使用によって運用コストが増すが、腕からの筋電によるノイズの影響を減少でき、さらに副電極6を基準電位として利用すれば(この電位を基準として誘導電極A,Bとの電位差を測れば)、心電図信号に対する基線揺動等のノイズの混入を防止して、より正確に心電図信号を取得することが可能となる。なお、別例2において体表貼付用電極11は手持ち電極部3と同様、被接続部材を有し、その中央部に心電計部1の筒型凹部と凹凸嵌合する筒型凸部を有する機構を採用しているため、接続部材2の中央部に筒型凹部を有する同じ心電計部1を用いて容易に着脱可能である。また、副電極6は右下腹部に貼り付けているが、例えば胴体で筋肉が少ない骨の上であれば、他の位置であってもよい。
【0045】
なお、心電計部1の下面には
図3のように3つ以上の接続部材2(誘導電極接点2´)を設けておいても良いが、この心電計部1に2つの体表貼付用電極11(ディスポーザブル電極)を接続させた場合、誘導電極または基準電極(副電極6)と接続されない接続部材2の1つは未使用なもの(余剰なもの)となる。
【0046】
図11に図示した別例3は、2つの接続部材2(誘導電極接点2´)を有する心電計部1を2つの誘導電極A,B及び2つの被接続部材4を有する手持ち電極部3の嵌合凹部10に嵌合し、さらに心電計部1に誘導電極である副電極6を3つ取り付けた(誘導電極が5つである)構成である。副電極6のタイプは別例2と同様の体表貼付用電極(ディスポーザブル電極)である。3つの副電極6は前記心電計部1の側面の手前側に導線を差し込むことで3つの副電極接点9に夫々接続される。この場合、3つの副電極6のうち2つを手持ち電極部3の誘導電極A、Bとは別の一組の誘導電極、残る1つを基準電極として用いることができ(即ち、二組の誘導電極と1つの基準電極という構成になり)、心電図信号を取得することが可能となる。このように、心電計部1の副電極接点9及び副電極6を増やし、誘導電極の組を増やすごとに、手持ち電極部3だけでは誘導できない体表面電位から得られる心電図の種類が増し、より精密な検査が可能となる。
【0047】
また、
図12に図示したように、別例3の心電計部1の接続部材2(誘導電極接点2´)に手持ち電極部3に替わって2つの体表貼付用電極11(ディスポーザブル電極)を取り付け、これを左胸部に貼り付け、さらに3つの副電極接点9に夫々副電極6を取り付けて、それらを左胸部以外の部位に貼り付けることも出来る。別例3では3つの副電極6を右胸上部、左腹部、右下腹部の箇所に貼り付け、合計5箇所から体表面電位を誘導できるようにしている。そのうち1箇所からの体表面電位を基準電位とすれば、4箇所から2種類の心電図信号を、腕からの筋電によるノイズの混入と基線揺動を防止しながら取得できる。即ち、5つのディスポーザブル電極のうち、4つ(二組)を誘導電極、1つを基準電極とすることで、より精度の高い測定結果を取得できる。
【0048】
なお、別例3の場合においても基準電極を用いずに心電図信号を取得することは出来、この場合は基準電極を用いる場合よりノイズが多くなる可能性はあるが、より多くの種類の心電図信号の情報を得ることが出来るため、異なる視点で疾患の診断が出来る。
【0049】
本実施例は上述のように構成したから、心電図信号を別途PC等の解析機に送信して解析し表示することができ、装置自体に心電図の解析機構やモニタ等の表示部が不要となり、それだけ装置自体やバッテリーを小型化且つ軽量化でき、手持ち電極部3を持って心電図信号を取得する際、筋電ノイズが混入し難くなる。
【0050】
従って、手持ち電極部3を用いながら筋電ノイズが混入し難い構成とすることで、簡易に精度の高い検査が可能となり、それだけ運用コスト安となる。
【0051】
また、ノイズを出来るだけ少なくしたい場合などには、心電計部1と手持ち電極部3を嵌合せず、心電計部1の接続部材2(誘導電極接点2´)へ体表貼付用電極11を取り付け、これを左胸部に貼り付けることによって心電図信号を取得することができる。
【0052】
また、心電計部1に副電極接点9を設けておき、副電極6を接続し得るように構成することで、基準電位若しくは両手のみからでは得られない心電図信号を取得できるので、より精度の高い検査を行うこともできる。
【0053】
よって、本実施例は、使用者が自身の症状や状況に応じて使い分けることができる極めて実用的な携帯型心電計装置となる。