【解決手段】工作機械の主軸(100)に取り付けて用いられる工作物把持装置(1)であって、基端側に位置し、主軸と嵌合して一体的に回転するシャンク(11)と、シャンクと同軸上に配置され、周方向に沿って円弧状の溝(21a,21b)が設けられたカム板(20)と、シャンクと同軸上に配置され、シャンクとカム板とを一体的に連結する連結軸(15)と、カム板の溝に遊嵌して、カム板の回転に伴って溝内を移動するピン(31a,31b)と、ピンの移動をカム板の径方向に規制するガイド部(40)と、カム板より先端側に位置し、ピンを介してカム板と係合すると共に、ピンの径方向への移動に連動してワークを把持する把持部材(50a,50b)と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る工作物把持装置を工作機械に取り付けた状態の全体構成図(縦断面図)、
図2は
図1のA−A断面図、
図3は
図1のB−B断面図である。本実施形態に係る工作物把持装置1は、
図1に示すように、例えば周知の工作機械150の主軸100のテーパ穴101に装着して使用され、自動工具交換装置(ATC)により工作機械150のツールマガジン(不図示)との間で交換可能である。なお、
図1において、上側が基端側、下側が先端側である。
【0010】
この工作物把持装置1は、ボディ2と、テーパ形状の軸部材であるシャンク11と、カム板20と、シャンク11とカム板20とを連結する連結軸15と、エンドプレート30と、カム板20のカム溝(溝)21a,21bに遊嵌されたピン31a,31bと、ピン31a,31bの移動を規制するガイド部40と、ワークWを把持する一対の爪(把持部材)50a,50bと、を備える。なお、シャンク11、連結軸15、及びカム板20は同軸(Z軸)上に配置され、一体的に構成されている。
【0011】
ボディ2は、略箱型に形成され、上面に固定部3、下面に円筒穴5がそれぞれ設けられると共に、上下方向(Z軸方向)に貫通する軸孔4が設けられている。固定部3が工作機械150の回り止め部材115に設けられた回り止め穴(固定穴)116に嵌め込まれることにより、工作物把持装置1が工作機械150に対して位置決めされる。そして、固定部3が回り止め穴116に挿入されているため、主軸100の回転によってボディ2がZ軸回りに回転するのが防止される。また、円筒穴5にはカム板20が収容され、軸孔4には連結軸15が挿入される。この軸孔4にはベアリング60,61が設けられており、これらベアリング60,61によって、連結軸15がZ軸回りに回動自在に軸支される。
【0012】
ガイド部40は、
図2に示すように、スライドプレート41a,41bとガイドレール42a,42bとを備える。ガイドレール42a,42bは、エンドプレート30の下面に左右方向(径方向)に並べて配置されている。スライドプレート41aは、一対のガイドレール42aに案内されて左右方向にスライド自在に構成される。スライドプレート41aの上面にはピン31aが取り付けられている。よって、スライドプレート41aはピン31aと一体で左右方向に移動する。スライドプレート41bについても同様に、一対のガイドレール42bに案内されて、ピン31bと一体で左右方向に移動する。なお、符号45は、後述する爪50a,50bを取り付けるための取付穴である。
【0013】
エンドプレート30は、円板状の蓋体であって、円筒穴5を塞ぐようにボディ2の下面に取り付けられる。エンドプレート30にはガイド孔32a,32bが設けられており、ガイド孔32aにはピン31aが、ガイド孔32bにはピン31bがそれぞれ挿入される。ガイド孔32a,32bは、ピン31a,31bの左右方向への移動が可能な程度の大きさの長穴で形成されている。ガイド孔32a,32bは、スライドプレート41a,41bに覆われるようにその大きさを決定される。
【0014】
また、
図1に示すように、エンドプレート30の下面の中心には、先端側に突出するノズル(ノズル部材)70がエンドプレート30と一体に設けられている。なお、エンドプレート30の上面には、後述するカム板20の中心に形成された突出部22を挿入するための挿入穴34が設けられている。この挿入穴34にはベアリング64が設けられており、ベアリング64によってカム板20の突出部22が回動自在に軸支されている。
【0015】
カム板20は、円板状の部材から成り、
図3に示すように円周方向に沿って2つの円弧状のカム溝(溝)21a,21bが形成されている。カム溝21aは、ピン31aの外径よりやや大きい幅で形成されると共に、その一端から他端に行くに連れて、カム板20の中心から離れるような円弧形状から成る。具体的には、カム板20の中心からカム溝21aの一端は距離L1だけ離れた位置にあり、他端に行くほど中心からの距離(径方向の距離)が徐々に遠ざかり、他端では中心からの距離がL2(L2>L1)となるような形状となっている。カム溝21bもカム溝21aと同様の形状となっている。なお、カム溝21aとカム溝21bとはカム板20の中心を基準にして点対称の関係になるように配置されている。そして、カム板20は、
図3のR1方向とR2方向とに正逆回転自在に構成されている。
【0016】
一対の爪(把持部材)50a,50bは、その断面が略逆L字状に形成され、爪50aはスライドプレート41aの下面の取付穴45に、爪50bはスライドプレート41bの下面の取付穴45に、それぞれ複数のボルト65を用いて取り付けられている。スライドプレート41a,41bの左右方向への移動に連動して、爪50a,50bは互いに近接離隔するよう移動する。そして、爪50a,50bが近接する方向に移動することでワークWを把持し、爪50a,50bが離隔する方向に移動することで把持したワークWを放す。
【0017】
また、
図1に示すように、ボディ2には、その固定部3の上面から内部を貫通して、軸孔4の内周面にまで至る流路7aが形成され、連結軸15には、その軸方向の略中央部から内部を貫通して、カム板20の突出部22の先端にまで至る流路7bが形成され、エンドプレート30には、軸方向に沿って内部を貫通し、ノズル70の先端にまで至る流路7cが形成されている。これら流路7a、流路7b、及び流路7cが連通することで、1つの流路7が形成される。そして、この流路7は圧縮空気供給源121と接続されており、圧縮空気供給源121から送り出された圧縮空気が流路7a、流路7b、流路7cの順に流れてノズル70から大気(外部)に放出される。なお、圧縮空気が流路7の隙間から外部に漏れるのを防止するために、パッキン62,63,66が設けられている。
【0018】
圧縮空気供給源121と流路7aとを繋ぐ流路には、流路を開閉する開閉弁122、流路内の圧力を調整するレギュレータ123、流路内の圧力を検出する圧力検出器130が設けられている。開閉弁122は、コントローラ140からの指令信号に従って動作する。ここで、コントローラ140は、工作機械150の制御盤をいい、数値制御装置を含んでいる。また、圧力検出器130からの検出信号はコントローラ140に入力され、コントローラ140は、圧力検出器130からの検出信号に基づき、工作機械150の各種制御を行う。なお、コントローラ140、開閉弁122、レギュレータ123、圧力検出器130は、工作機械150のスプラッシュカバーの外側に設置されている。
【0019】
以上のように構成された工作物把持装置1の動作について、主に
図1,4,5を用いて説明する。
図4は主軸100がR1方向に約90度回転した状態におけるB−B断面図、
図5は主軸100がR1方向に約90度回転した状態における工作物把持装置1の全体構成図(断面図)である。
図1は、工作機械150の主軸100にセットされた工作物把持装置1の初期状態を示しており、この初期状態ではワークWは把持されていない。この初期状態において、コントローラ140からの指令により工作機械150の主軸100を90度回転させると、テーパ穴101に嵌め込まれたシャンク11が主軸100と一体でZ軸回りに回転する。
【0020】
シャンク11がR1方向に回転すると、この回転に伴ってカム板20がZ軸回りに回転する。カム板20がR1方向に回転すると、カム溝21a,21bに遊嵌されたピン31a,31bがカム溝21a,21b内を移動するが、上述したようにスライドプレート41a,41bはガイドレール42a,42bによって移動がカム板20の径方向(左右方向)に規制されているため、スライドプレート41a,41bに取り付けられたピン31a,31bも、カム溝21a,21b内を移動しながらカム板20の径方向に移動する。
【0021】
より詳細には、
図4に示すように、ピン31aは右側に移動し、ピン31bは左側に移動する。つまり、ピン31aとピン31bとは、カム板20の径方向に互いに近接するように移動する。その結果、
図5に示すように、ピン31a,31bとスライドプレート41a,41bを介して一体的に取り付けられた爪50a,50bは、互いに近接する方向に移動して、ワークWを挟むようにして把持する。ここで、コントローラ140が主軸100への負荷トルクを制御することで、ワークWの把持力が調整される。
【0022】
なお、コントローラ140が主軸100への負荷トルクを制御することに替えて、コントローラ140が主軸100の回転角度を制御し、爪50a、50bに弾性をもたせても良い。即ち、ワークWの把持部の寸法にばらつきがある場合に、爪50a、50bが主軸100の負荷により弾性変形することによって、爪50a、50bがワークWに倣い、ワークWを柔軟に把持できる。
【0023】
また、コントローラ140が主軸100への負荷トルクを制御する場合においても、爪50a,50bがある程度の弾性を有していれば、主軸100がサーボ制御される場合において、サーボ系の発振を防止できる。
【0024】
一方、把持されたワークWを開放する場合には、工作機械150の主軸100をR2方向に回転させる。すると、カム板20がR2方向に回転し、ピン31a,31bが互いに離隔するようにカム板20の径方向に移動する。その結果、爪50a,50bも互いに離隔する方向に移動し、爪50a,50bがワークWを開放する。
【0025】
ここで、本実施形態では、ワークWを把持しているか否かを検出するために、コントローラ140が開閉弁122を開弁して、流路7に圧縮空気を送るように制御している。ノズル70にワークWが当接した状態では、圧縮空気が流路7から漏れることはない。そのため、流路7内の圧力が高くなる。この流路7内の圧力を圧力検出器130により検出し、所定の圧力を超えている場合に、コントローラ140はワークWが定位置に把持されていると判断して工作機械150の作動を制御している。この構成によれば、爪50a,50b等にワークWを検出するための電気部品等を別途設ける必要がないため、部品点数の低減が可能となる。
【0026】
加工室であるスプラッシュカバーの内側は、クーラントおよび切り屑が飛散している。クーラントは油分、防錆剤等の化学薬品を含む。加工室内は、クーラントの飛散により、湿度が高く、機械の駆動および切削により発生する熱によって、気温が上昇している。そのため、加工室内は電気部品、駆動部品の設置環境として望ましくない。本実施形態では、圧力検出器130、レギュレータ123、開閉弁122は、スプラッシュカバーの外に設けることができる。そのため、圧力検出器130、レギュレータ123、開閉弁122の寿命を長期化できる。
【0027】
以上説明したように、第1実施形態に係る工作物把持装置1によれば、カム板20の回転によりピン31a,31bを径方向に移動させることで爪50a,50bがワークWを把持する構成としたので、工作物把持装置1自体の構成がシンプルとなり、装置を小型・軽量化することができる。特に、ラックとピニオンを用いた従来技術の構成と比べて、カム板とピンとを用いた本実施形態の構成は小型・軽量化への貢献度が極めて高く、小型工作機械などの工具ポットの取り付けピッチの小さい自動工具交換装置により適したものとなる。また、第1実施形態に係る工作物把持装置1は、既存の工作機械にそのまま取り付けることができるので、汎用性が高いといった利点もある。
【0028】
また、工作物把持装置1は、ワークWを挟むように把持するため、工作物把持装置1がワークWを把持したときに、工作物把持装置1とワークWとの位置関係を厳密に関係づけることができる。したがって、ワークWを正確に工作機械150のジグに載せることができる。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態に係る工作物把持装置201について説明するが、第1実施形態と同一の構成については説明を省略する。
図6は本発明の第2実施形態に係る工作物把持装置201を工作機械に取り付けた状態の全体構成図(縦断面図)である。第2実施形態に係る工作物把持装置201は、第1実施形態と比べて、ノズル70の代わりにプッシャ290を設けた点、圧縮空気の流路が異なる点、及び爪の形状が異なる点が主に相違する。以下、これら相違点を中心に説明する。
【0030】
プッシャ290はZ軸方向に移動自在にケース292に収容されており、バネ291の付勢力によって下方向(先端側)に押圧された状態でケース292内に保持されている。そして、上方向(基端側)に押圧力が加わると、バネ291の付勢力に抗して上方向に移動する。このプッシャ290には流路207cが設けられており、ホース207bを介してボディ202の流路207aと連通している。すなわち、流路207a、ホース207b、及び流路207cにより、1つの流路207が形成されている。なお、流路207cとホース207bとはアダプタ294により接続され、流路207aとホース207bとはアダプタ295により接続される。
【0031】
圧縮空気供給源121から送られた圧縮空気は、ボディ202の流路207a、ホース207bの順に流れ、プッシャ290の流路207cに導入された後、プッシャ290の先端から大気(外部)に放出するが、プッシャ290がワークWと当接した状態では圧縮空気が外部に漏れないため、流路207内の圧力が上昇する。この圧力を圧力検出器130で検出することにより、工作物把持装置201がワークWを把持しているかを判定している点は第1実施形態と同様である。
【0032】
なお、第2実施形態では圧縮空気をボディ202からホース207bを介してプッシャ290まで導いているため、連結軸215、カム板220、エンドプレート230には第1実施形態のように内部を貫通する流路は設けられていない。また、第2実施形態に係る爪(把持部材)250a,250bは、その先端が互いに内側に折り曲げられた屈曲部251a,251bを有して、断面略コ字状に形成される。
【0033】
このように構成された工作物把持装置201は、爪250a,250bの屈曲部251a,251bをワークWの下面にセットして、ワークWをすくい上げるようにして把持する。その際、プッシャ290がバネ291の付勢力によりワークWを下方に押圧する。よって、ワークWをプッシャ290と爪250a,250bとの間で確実に把持することができる。
【0034】
さらに、ワークWの下面を屈曲部251a,251bがすくう形で保持するため、爪250a,250bの開度は、厳密にワークWに倣う必要はない。したがって、第1実施形態においては、主軸100の負荷トルクを制御したが、本実施形態においては、主軸100のトルクは、制御される必要がない。本実施形態においては、主軸100は、あらかじめ決められた角度だけ回転すれば良い。
【0035】
また、主軸100をR2方向に回転させて爪250a,250bが離れる方向に移動すると、バネ291の付勢力でプッシャ290がワークWを下方に押し出すように作用する。そのため、ワークWを確実に爪250a,250bから開放することができる。特に、ワークWの表面に油等が付着している場合、第1実施形態のノズル70の構成では、ワークWがノズル70にくっついてしまう虞があるが、第2実施形態のようにプッシャ290を設けることにより、ワークWの開放動作がより確実となる。
【0036】
圧縮空気の漏れによってワークWを検出するときは、ワークWと流路7の開口とが密着する必要がある。本実施形態では、プッシャ290に流路207cの開口が設けられており、プッシャ290は、ケース292内に隙間をもって支持されている。さらに、プッシャ290は、バネ291によって付勢されているため、プッシャ290は、ワークWの表面に追従するようにその姿勢を自在に変更する。したがって、プッシャ290に設けられた流路207cの開口は、ワークWに密着し、圧力検出器130は、良好にワークWを検出できる。
【0037】
次に、本発明の第3実施形態に係る工作物把持装置301について説明するが、第2実施形態と同一の構成については説明を省略する。
図7は本発明の第3実施形態に係る工作物把持装置301を工作機械に取り付けた状態の全体構成図(縦断面図)である。
図7に示すように、第3実施形態に係る工作物把持装置301は、第2実施形態の構成に加えて、連結軸215とカム板220とをカップリング(トルク吸収部材)280を用いて連結している点に特徴がある。
【0038】
このカップリング280は、例えば工作機械150の制御トラブル等により主軸100に大きなトルクが掛かった場合に、トルクを吸収して工作物把持装置301の破損を防止するためのものであり、連結軸215とカム板220との間に取り付け可能な構造のものであれば、ゴムカップリングなど各種のものを適用することができる。また、カム板220と連結軸215との接続部に多数のスリットを設けておき、これらスリットによってトルクを吸収させるような構成としても良い。また、カップリングに代えてトルクリミッタを設けるようにしても良い。トルクリミッタの取付位置は、連結軸215とカム板220との間でも、シャンク11と連結軸215との間でも良い。
【0039】
工作物把持装置301は、カップリング280がトルクを吸収できる。このため、主軸100がサーボ制御されたときに、主軸100のサーボ系が発振しにくく、工作物把持装置301は、良好にワークWを把持できる。
【0040】
なお、コの字状の爪250a,250bに替えて、逆L字状の爪50a,50b(
図1参照)を用いても良い。この場合には、カップリング280がトルクを吸収するため、爪50a,50bは弾性を備える必要はない。
【0041】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0042】
例えば、上記実施形態では一対の爪50a,50b(250a,250b)を互いに近接離隔させる構成としたが、この構成の代わりに一方の爪50a(250a)を固定し、他方の爪50b(250b)のみ左右に移動する構成としても良い。この場合、ピンとカム溝は1つずつ設けられていれば良い。また、上記実施形態では、一対の爪50a,50b(250a,250b)を互いに近接離隔させる構成としたが、この構成の代わりに3本の爪を近接隔離する構成としても良い。