【解決手段】搬送装置10の制振制御方法は、制御部104が、搬送物20を載せた昇降台車102が第1の高さ位置にある場合の振動の第1の固有角振動数を求め、第1の固有角振動数に基づいて導かれた振動が抑制される走行台車の加速時間を仮の加速時間として求めるとともに、搬送物20を載せた昇降台車102が第2の高さ位置にある場合の振動の第2の固有角振動数を求め、第2の固有角振動数に基づいて導かれた振動が抑制される走行台車の減速時間を仮の減速時間として演算するステップを含む。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行レール上を往復走行可能な走行台車と、走行台車に立設された昇降マストと、搬送物を搭載し前記昇降マストに沿って昇降する昇降台とを有するスタッカークレーンの制振方法が記載されている。
スタッカークレーンの最も一般的な走行速度パターンの形は、一定加速の時間、一定速度、一定減速の時間及び移動距離の指令に基づいた、いわゆる台形速度パターンである。台形速度パターンによる速度指令が制御装置から走行台車及び搬送物を載せた昇降台に対して出力され、走行台車及び昇降台車は、目標位置に到達する。
しかし、走行台車が停止した際、走行台車から見た昇降台は、慣性力により横振れし、その横振れの大きさが許容値以下に減衰するまで、待ち時間を要する。
ここで、走行台車が一定速度での昇降台車の横振れの無い状態から停止した際の、走行台車から見た昇降台の位置y(横振れ)は、次式で表される。
【0003】
y=(β/ω
n2)・(cos(ω
nt)−1) 式(1)
【0004】
ここで、βは走行台車の減速度、ω
nは固有角振動数、tは減速開始から減速停止までの減速時間、ω
ntは減速開始から減速停止までの位相角である。なお、この位相角ω
ntを位相角θと表記する場合がある。
【0005】
昇降台の高さ位置が固定されていれば、固有角振動数ω
nは一定である。従って、位相角ω
ntが2πの正の整数n倍となるように、減速時間tを次式で表される減速時間T3に設定すれば、(cos(ω
nt)−1)の値はゼロであり、走行台車から見た昇降台の位置(横振れ)yはゼロとなる。
【0006】
T3=2nπ/ω
n 式(2)
【0007】
台形速度パターンにおける加速の開始及び終了並びに減速の開始及び終了となる4ケ所は速度の変曲点であり、速度の微分値である加速度が大きくなるため、機械への強度、振動、異音などが発生することがある。そこで、通常、各変曲点においてS字加減速により、この加速度の減少を図っている。
【0008】
この点、特許文献2には、走行台車において、S字台形速度の加速の開始及び終了並びに減速の開始及び終了となる4ケ所にて微小時間の間に補正速度指令を加えて、昇降台車の横振れの波形に逆の波形を与えることで打消し、昇降台車の横振れの大きさを低減する技術が記載されている。
一例として、台形速度パターンによる速度指令にS字加減速(2段移動平均加減速)指令を付加し、更に補正速度指令を加えた場合の補正速度指令Vrevは次式で求めることができる。
【0009】
Vrev=a/ω
n2 式(3)
【0010】
ここで、aは速度の2階微分値又は加速度の微分値、ω
nは固有角振動数である。
昇降台車の横振れの固有振動数Ncは小さく、2Hzの場合の固有角振動数ω
nは下記の式で求まる。
【0011】
ω
n=2・π・Nc=2・π・2=12.57(rad/s) 式(4)
【0012】
加速開始の微小な時間Δtが0.05s、一定加速度αが1m/s
2の場合の速度の2階微分値又は加速度の微分値aは次式で求まる。
【0013】
a=α/Δt=1/0.05=20(m/s
3) 式(5)
【0014】
従って、式(4)及び式(5)を式(3)に代入することによって、補正速度指令Vrevは次式で表される。
【0015】
Vrev=a/ω
n2=20/12.57
2=0.127(m/s) 式(6)
【0016】
補正速度Vrevは微小時間Δtでのステップ状であり、立ち上がりの一定加速度α及び立ち下りの減速度βはそれぞれ次式で求められる。
【0017】
α= dVrev/dt 式(7A)
β=−dVrev/dt 式(7B)
【0018】
これら式(7A)及び式(7B)から分かるように、ACサーボの速度応答が良い場合、加速度及び減速度の絶対値は著しく大きい値となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。なお、図において、説明に関連しない部分は図示を省略する場合がある。
本発明の一実施の形態に係る搬送装置10は、
図1に示すように、走行台車101、昇降台車102、及び制御部104を備え、昇降台車102に載せられた搬送物20を所定の高さにある目標位置まで搬送できる。搬送装置10は、例えば、スタッカークレーンである。
なお、
図1に示す搬送装置10は、スタッカークレーンの実機を模擬したモデルである。以下、このモデルに基づいて説明する。
【0034】
走行台車101は、設置面に沿って、水平方向に移動できる。走行台車101は、ボールネジ22によってボールネジ22の長手方向に移動するスライダ用ナット24に固定されている。ボールネジ22は、カップリング26を介して走行用駆動モータ(ACサーボモータ)SVM1によって駆動される。
【0035】
昇降台車102は、搬送物20が載せられ、上下方向に移動できる。昇降台車102は、走行台車101に固定された上下方向に延びる門型マスト30に沿って昇降できる。昇降台車102は、タイミングベルト32に固定され、タイミングベルト32の回転に伴って昇降する。タイミングベルト32は、門型マスト30の上部に設けられた上プーリ34Uと、下プーリ34Lとの間に架け渡され、この下プーリ34Lは、走行台車101に固定された昇降用駆動モータ(ACサーボモータ)SVM2によって駆動される。
【0036】
制御部104は、サーボドライバSVA1、SVA2及び指令発生器CNTを有し、走行用駆動モータSVM1及び昇降用駆動モータSVM2を制御できる。
サーボドライバSVA1、SVA2は、それぞれ、走行用駆動モータSVM1及び昇降用駆動モータSVM2に接続され、各モータSVM1、SVM2を駆動できる。
指令発生器CNTは、各サーボドライバSVA1、SVA2に対し、各モータSVM1、SVM2を駆動するための指令を生成し、出力できる。
なお、指令発生器CNTが指令を生成するために行う演算は、指令発生器CNTに搭載されたCPUにて実行されるプログラムにより実現される。
【0037】
指令発生器CNTがサーボドライバSVA1及びサーボドライバSVA2に対して出力する指令は、それぞれ、
図2(A)及び
図2(B)に示すような加速(一定加速)期間I〜II、一定速度期間II〜III、減速(一定減速)期間III〜IVにより定められる台形速度パターンによる速度指令である。
走行台車101及び昇降台車102は、それぞれ、指令発生器CNTが出力する速度指令に従って、並行して移動する。その結果、昇降台車102は、最短軌跡で目標位置に移動する。また、昇降台車102が停止する際の横振れ(走行台車101の走行方向の振動)は抑えられる。
【0038】
次に、走行台車101から見た昇降台車102の横振れの大きさについて説明する。
搬送装置10の門型マスト30及び搬送物20が載った昇降台車102を1自由度振動系とみなした解析モデル(
図3参照)において、搬送物20を載せた昇降台車102の運動方程式は、下記の式で表される。
なお、同解析モデルにおいては、昇降台車102の高さ位置(門型マスト30の固定端となる下端部から昇降台車102の中央までの高さ位置)h(
図1参照)は変化せず、固定されている。また、門型マスト30の粘性減衰係数は極めて小さいので省略されている。
【0039】
−(Mw+Md)・(d
2x/dt
2)−k
s(x−u)=0 式(A1)
【0040】
ここで、Mwは搬送物20の質量、Mdは昇降台車102の質量、xは昇降台車102の位置、uは走行台車101の位置、k
sは門型マスト30の等価バネ定数である。
【0041】
走行台車101から見た昇降台車102の位置(横振れ)yは次式で表される。
【0043】
固有角振動数をω
nとすると、固有角振動数ω
n、門型マスト30の等価バネ定数k
s、並びに搬送物20の質量及び昇降台車102の質量(Mw+Md)の関係式は下記の式となる。
【0044】
k
s/(Mw+Md)=ω
n2 式(A3)
【0045】
式(A2)及び式(A3)を式(A1)に代入すると、次式が得られる。
【0046】
d
2y/dt
2+ω
n2=−d
2u/dt
2 式(A4)
【0047】
ここで、d
2u/dt
2は、走行台車101の加速度α1(正の一定値)であるので、式(A4)は次式となる。
【0048】
d
2y/dt
2+ω
n2=−α1 式(A5)
【0049】
この微分方程式の解は下記の式になる。
【0050】
y=(α1/ω
n2)・(cos(ω
nt)−1)
=(α1/ω
n2)・(cos(θ)−1) 式(A6)
【0051】
ここで、tは加速開始からの経過時間、ω
ntは時間tにおける位相角、θは位相角である。
【0052】
式(A6)から以下のことが分かる。
昇降台車102の高さ位置(門型マスト30の下部の固定端から昇降台車102の中央までの高さ位置)hが固定され、固有角振動数ω
nが一定の場合では、加速時間(加速開始から加速完了までの時間)T1における位相角θは下記の式になる。
【0054】
位相角θが2πの正の整数n倍であれば、(cos(θ)−1)はゼロとなり、昇降台車102の横振れ(走行台車101から見た昇降台車102の位置)yは、加速度α1及び固有角振動数ω
nに関係なく、ゼロとなる。
従って、走行台車101から見た昇降台車102の横振れyをゼロとするには、次式のように、加速時間T1が、2πの正の整数n倍を固有角振動数ω
nで除した値に設定される必要がある。
【0056】
式(A8)は、加速時間T1のみならず、減速時間T3についても同様に成立する。
なお、この式(A8)によって求められる加速時間T1は、固有角振動数に基づいて導かれた、横振れ(振動)が抑制される走行台車101の加速時間の一例であり、減速時間T3は、固有角振動数に基づいて導かれた、横振れが抑制される走行台車101の減速時間の一例である。
ところが、昇降台車102が昇降すると、固有角振動数ω
nは、例えば
図4に示すように、刻々と変化する。
従って、搬送装置10の横振れyを抑制するためには、昇降台車102の任意の高さ位置hにおける固有角振動数ω
nhを可能な限り正確に求めることが重要となる。
しかし、搬送物20の質量Mwと、昇降台車102の高さ位置hとの組み合わせのデータは膨大な量となり、固有角振動数ω
nhを求めることは容易ではない。
そこで、A)搬送物20を積載していない昇降台車102及びB)搬送物20を積載した昇降台車102それぞれについて、高さ位置hにおける固有角振動数ω
nhを求める方法を説明する。
【0057】
ここで、固有角振動数ω
n、固有角振動数ω
nh、固有角振動数ω
nh(s)、固有角振動数ω
nh(s+d)、固有角振動数ω
nh(d)、固有角振動数ω
nh(d+w)、及び固有角振動数ω
nh(s+d+w)を、それぞれ以下の通り定義する。
【0058】
(1)固有角振動数ω
nh(s)
固有角振動数ω
nh(s)は、昇降台車102や搬送物20を除く、門型マスト30を主体とした横振れyの固有角振動数である。
【0059】
(2)固有角振動数ω
nh(s+d)
固有角振動数ω
nh(s+d)は、
図5(B)に示す状態における横振れyの固有角振動数であり、搬送物20を積載していない昇降台車102が任意の高さ位置hにある場合における固有角振動数である。
【0060】
(3)固有角振動数ω
nh(d)
固有角振動数ω
nh(d)は、
図5(B)に示す状態において門型マスト30及び門型マスト30に取り付けられた上プーリ34U等の部品(走行台車101を除く)の質量がゼロと仮定した場合の、昇降台車102の任意の高さhにおける横振れyの固有角振動数である。
【0061】
(4)固有角振動数ω
nh(d+w)
固有角振動数ω
nh(d+w)は、
図5(C)に示す状態において門型マスト30及び門型マスト30に取り付けられた上プーリ34U等の部品(走行台車101を除く)の質量をゼロと仮定した場合の、搬送物20(質量Mw)を積載した昇降台車102(質量Md)の任意の高さhにおける横振れyの固有角振動数である。
【0062】
(5)固有角振動数ω
nh(s+d+w)
固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、
図5(C)に示す状態における横振れyの固有角振動数であり、搬送物20(質量Mw)を積載した昇降台車102(質量Md)の任意の高さhにおける固有角振動数である。
【0063】
(A)搬送物20を積載していない昇降台車102の高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d)
搬送物20を積載していない昇降台車102(昇降台車102単体の質量Md)の予め定めた高さ位置における固有角振動数ω
nh(s+d)のデータを実測又は計算で求め、直線とみなせる高さ区間にて直線回帰式により各データを集約する。例えば
図4においては、最小二乗法を用い、高さ区間1〜区間5ごとに、搬送物20を積載していない昇降台車102の高さ位置h(mm)と固有角振動数ω
nh(s+d)(rad/s)との関係が次式のような直線回帰式で表される。
【0064】
区間1(0≦h<168) :ω
nh(s+d)=20.94 式(B1a)
区間2(168≦h<285):ω
nh(s+d)=20.52−8.426h 式(B1b)
区間3(285≦h<518):ω
nh(s+d)=23.77−12.93h 式(B1c)
区間4(518≦h<672):ω
nh(s+d)=22.70−11.02h 式(B1d)
区間5(672≦h<791):ω
nh(s+d)=19.29− 5.92h 式(B1e)
【0065】
なお、
図4において、各直線は、高さ区間1〜区間5の境界に位置するデータを通る直線であり、前述の直線回帰式とは相違する。
【0066】
(B)搬送物20を積載した昇降台車102の高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d+w)
搬送物20の質量Mwを実測又は計算により求めることができれば、搬送物20を積載した昇降台車102の任意の高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d+w)を求めることができる。また、搬送物20の質量Mwが、例えば図面に関連付けられた情報等により既知であれば、その情報を用いて固有角振動数ω
nh(s+d+w)を求めることができる。
その理論及び具体的な計算式について、以下説明する。
【0067】
固有角振動数ω
nh(s+d)は、固有角振動数ω
nh(s)と、固有角振動数ω
nh(d)とを合成した値となり、ダンカレの式により以下の関係が成立する。
【0068】
1/(ω
nh(s+d))
2=1/(ω
nh(s))
2+1/(ω
nh(d))
2
式(B2)
【0069】
そうすると、固有角振動数ω
nh(d)は、次式により求められる。
【0070】
ω
nh(d)=((A・B)/(A−B))
1/2 式(B3)
【0071】
ここで、A=(ω
nh(s))
2、B=(ω
nh(s+d))
2である。
【0072】
すなわち、固有角振動数ω
nh(d)は、実測又は計算で求めた固有角振動数ω
nh(s)及び固有角振動数ω
nh(s+d)を式(B3)に代入することで求めることができる。特に、固有角振動数ω
nh(s+d)は、昇降台車102の高さ位置hが分かれば、例えば式(B1a)〜式(B1e)にて表される直線回帰式に代入することで、改めて実測又は計算をすることなく求めることができる。
【0073】
次に、固有角振動数ω
nh(d+w)及び固有角振動数ω
nh(d)の関係式を求める。
固有角振動数ω
nh(d)は次式で求まる。
【0074】
ω
nh(d)=(k
s/Md)
1/2 式(B4)
【0075】
ここで、k
sは門型マスト30の等価バネ定数、Mdは昇降台車102の質量である。
【0076】
固有角振動数ω
nh(d+w)は次式で求められる。
【0077】
ω
nh(d+w)=(k
s/(Md+Mw))
1/2 式(B5)
【0078】
固有角振動数ω
nh(d+w)と固有角振動数ω
nh(d)との関係式は、式(B4)及び式(B5)により次式で示すように表され、門型マスト30の等価バネ定数k
sに関係なく、昇降台車102の質量Mdと搬送物20の質量Mwのみで決まる。
【0079】
ω
nh(d+w)=(Md/(Md+Mw))
1/2・ω
nh(d) 式(B6)
【0080】
ここで、固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、固有角振動数ω
nh(s)と、固有角振動数ω
nh(d+w)とを合成した値となり、ダンカレの式により以下の関係が成立する。
【0081】
1/(ω
nh(s+d+w))
2=1/(ω
nh(s))
2+1/(ω
nh(d+w))
2
式(B7)
【0082】
そうすると、固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、次式(任意の質量の搬送物を載せた昇降台車が任意の高さ位置にある場合の固有角振動数を演算する関係式の一例)により求められる。
【0083】
ω
nh(s+d+w)=((A・C)/(A+C))
1/2 式(B8)
【0084】
ここで、A=(ω
nh(s))
2、C=(ω
nh(d+w))
2である。
【0085】
すなわち、固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、実測又は計算で求めた固有角振動数ω
nh(s)及び式(B5)から求めた固有角振動数ω
nh(d+w)を式(B8)に代入することで求めることができる。
【0086】
このように、実測又は計算で求めた固有角振動数ω
nh(s)及び質量Mdの昇降台車102の各高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d)のデータを実測又は計算により事前に求め、直線とみなせる高さ区間において直線回帰式により各データを集約することにより、データ量を抑えることができる。
また、搬送物20の質量Mwが分かれば、固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、予め実測又は計算した固有角振動数ω
nh(s)及び固有角振動数ω
nh(d+w)の値を式(B8)に代入することにより容易に求めることができる。
【0087】
次に、搬送装置10の制振制御方法(
図6参照)について説明する。
前述の通り、走行台車101から見た昇降台車102の位置(横振れ)yをゼロとするには、式(A8)にて示されるように、加速時間T1及び減速時間T3(
図2参照)が、2πの正の整数n倍を固有角振動数ω
nh(s+d+w)で除した値に設定される必要がある。
そこで、制御部104の指令発生器CNTは、以下のステップに従って、走行台車101及び昇降台車102に対し、それぞれ台形速度パターンによる速度指令を生成する。
【0088】
(ステップS1:各高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d)のデータ取得)
ユーザが、固有角振動数ω
nh(s+d)のデータを実測又は計算で求める。固有角振動数ω
nh(s+d)が図面に関連付けられた情報等により既知である場合には、その情報を用いても良い。その結果、例えば、表1に示すような測定データが得られる。
【0090】
次に、ユーザが、得られたデータに基づいて、例えば式(B1a)〜式(B1e)に示すような直線回帰式を求める。求められた直線回帰式は、指令発生器CNT(
図1参照)に設定される。
【0091】
(ステップS2:設定パラメータの決定)
ユーザが、走行台車101及び昇降台車102に対する台形速度パターン(
図2(A)及び
図2(B)参照)を規定する下記設定パラメータPA1〜PA3、PB1、PB2をそれぞれ決定する。なお、走行台車101及び昇降台車102の各台形速度パターンについて、加速時間T1、一定速度時間T2、及び減速時間T3はそれぞれ同一である。
【0092】
(1)ユーザが決定する走行台車101に関する設定パラメータ
1)設定パラメータPA1:始点の位置(現在位置)Pstart
2)設定パラメータPA2:終点の位置(目標位置)Pstop
3)設定パラメータPA3:加速度α1
なお、
図2(A)に示す運転時間Ttotal1は、走行台車101が、始点の位置Pstartから終点の位置Pstopまで移動するのに要する時間である。
【0093】
(2)ユーザが決定する昇降台車102に関する設定パラメータ
1)設定パラメータPB1:始点の高さ位置(現在位置)H
bottom
2)設定パラメータPB2:終点の高さ位置(目標位置)H
top
【0094】
(ステップS3:仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpの設定)
まず、指令発生器CNTは、搬送物20を載せた昇降台車102の始点の高さ位置H
bottom(加速開始位置であって第1の高さ位置の一例)における固有角振動数ω
nbottom(第1の固有角振動数の一例)をステップS1にて求めた直線回帰式(例えば式(B1a)〜式(B1e))より求め、式(A8)を満たすように、次式により仮の加速時間T1tmpを設定する。
【0095】
T1tmp=2nπ/ω
nbottom 式(C1a)
【0097】
次に、指令発生器CNTは、搬送物20を載せた昇降台車102の走行の終点での高さ位置H
top(減速完了位置であって第2の高さ位置の一例)における固有角振動数ω
ntop(第2の固有角振動数の一例)をステップS1にて求めた直線回帰式(例えば式(B1a)〜式(B1e))より求め、式(A8)を満たすように、次式により仮の減速時間T3tmpを設定する。
【0098】
T3tmp=2nπ/ω
ntop 式(C1b)
【0100】
仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpが設定されると、ステップS2にてユーザが決定した設定パラメータPA1〜PA3及び設定パラメータPB1、PB2に基づいて、以下に示す台形速度パターンを規定する仮のパラメータが定まる。
1)走行台車101の仮の一定速度Vc1tmp
2)走行台車101の仮の減速度β1tmp
3)仮の一定速度時間T2tmp
4)昇降台車102の仮の一定速度Vc2tmp
5)昇降台車102の仮の加速度α2tmp
6)昇降台車102の仮の減速度β2tmp
【0101】
(ステップS4:仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpの修正)
設定パラメータPA1〜PA3、PB1、PB2及び仮のパラメータに基づいて速度指令を生成すると、横振れyは抑制される。ただし、昇降台車102の上昇に伴い刻々と変化する固有角振動数ω
nh(s+d+w)を十分に考慮していないため、その効果は限定的である。
そこで、指令発生器CNTは、仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpを以下の通り修正する。
【0102】
(ステップS4−1:走行台車101の仮の加速時間T1tmpの修正)
【0103】
図7(B)に示すような昇降台車102の仮の台形速度パターンにおいて、仮の加速時間T1tmpをN等分した微小時間Δtは次式により求まる。
なお、Nは正の整数である。
【0105】
N等分した時間の中央の時間Δtcは下記の式により求まる。
【0107】
加速開始からN等分した時間の中央のk番目(kは整数)の経過時間t
kは次式により求まる。
【0108】
t
1=1・Δt
c
t
2=3・Δt
c=3・t
1
・・・・・・・・
t
k=(2k−1)・Δt
c=(2k−1)・t
1 式(C4)
【0109】
上記の経過時間t
kにおける昇降台車102の高さ位置h
kは下記の式で求まる。
【0110】
h
k=(1/2)・α2・t
k2+H
bottom
=(1/2)・α2・(2k−1)
2・t
12+H
bottom 式(C5)
【0111】
昇降台車102の各高さ位置h
kでの固有角振動数ω
nhk(s+d)を、ステップS1にて求めた直線回帰式(例えば式(B1a)〜式(B1e)にて表される直線回帰式)の昇降台車102の各高さ位置hの代わりに高さ位置h
kを代入することにより求める。同様に、これらの値を使って式(B3)、式(B6)、及び式(B8)に従って、各高さ位置h
kに対応する固有角振動数ω
nhk(d)、固有角振動数ω
nhk(d+w)、及び固有角振動数ω
nhk(s+d+w)を順次計算してそれぞれ求める。
それぞれの固有角振動数ω
nhk(s+d+w)に微小時間Δtを乗じた値の合計が、仮の加速時間T1tmpが経過した時点における仮の位相角θ1tmp(第1の位相角の一例)であり、次式により求められる。
【0113】
2πの正の整数n倍を仮の位相角θ1tmpで除した第1の修正係数ζ1を次式より求める。
【0114】
ζ1=2nπ/θ1tmp 式(C7)
【0115】
仮の加速時間T1tmpに第1の修正係数ζ1を乗じた修正加速時間T1revを次式より求める。
【0116】
T1rev=ζ1・T1tmp 式(C8)
【0117】
式(C8)によって求められた修正加速時間T1revを正規の加速時間T1とすることで、加速終了時点(定速移動開始時点)での位相角が2πの正の整数n倍に近づき、終点の高さ位置H
topにおける搬送物20を積載した昇降台車102の横振れyが低減される。
なお、式(C7)で求めた第1の修正係数ζ1が少なくとも±0.98〜1.02の範囲を超えるのであれば、修正加速時間T1revを新たな仮の加速時間T1tmpとして改めて計算を繰り返す。第1の修正係数ζ1が±0.98〜1.02の範囲内であれば、昇降台車102の横振れyはより小さくなる。
【0118】
(ステップS4−2:走行台車101の仮の減速時間T3tmpの修正)
前述の走行台車101の仮の加速時間T1tmpの修正と同様に、仮の減速時間T3tmpが経過した時点における仮の位相角θ3tmp(第2の位相角の一例)及び第1の修正係数ζ1に対応する第2の修正係数ξ3を求める。仮の減速時間T3tmpに第2の修正係数ξ3を乗じた修正減速時間T3revを次式より求め、求めた修正減速時間T3revを正規の減速時間T3とする。
【0119】
T3rev=ξ3・T3tmp 式(C9)
【0120】
式(C9)によって求められた修正減速時間T3revを正規の減速時間T3とすることで、減速終了時点での位相角が2πの正の整数n倍に近づき、終点の高さ位置H
topにおける搬送物20を積載した昇降台車102の横振れyが低減される。
なお、第2の修正係数ζ3が少なくとも±0.98〜1.02の範囲を超えるのであれば、修正減速時間T3revを新たな仮の減速時間T3tmpとして改めて計算を繰り返す。第2の修正係数ζ3が±0.98〜1.02の範囲内であれば、昇降台車102の横振れyはより小さくなる。
【0121】
(ステップS5:速度指令の生成)
指令発生器CNTは、ユーザが決定した設定パラメータPA1〜PA3、修正加速時間T1rev、及び修正減速時間T3revに基づいて、走行台車101に対する台形速度パターン(第1の台形速度パターンの一例)を規定するために必要な他のパラメータを改めて演算し、走行台車101の速度指令(第1の速度指令の一例)を生成する。
また、指令発生器CNTは、ユーザが決定した設定パラメータPB1、PB2、修正加速時間T1rev、及び修正減速時間T3revに基づいて、昇降台車102に対する台形速度パターン(第2の台形速度パターンの一例)を規定するために必要な他のパラメータを改めて演算し、昇降台車102の速度指令(第2の速度指令の一例)を生成する。
【0122】
(ステップS6:走行台車及び昇降台車の駆動)
指令発生器CNTによって生成された速度指令がそれぞれサーボドライバSVA1、SVA2に入力され、走行台車101及び昇降台車102がそれぞれ速度指令に従って駆動される。
【0123】
その結果、走行台車101は、昇降台車102の横振れyがゼロに近づくような加速時間T1及び減速時間T3で上昇するので、横振れyが抑制される。
また、昇降台車102は、搬送装置10の設置面から見て実質的に最短軌跡で目標位置に到達するので、昇降台車102が目標位置まで到達する時間が低減される。
【0124】
このように、搬送装置10の制振制御方法によれば、昇降台車102が目標の高さ位置に到達して停止した際の昇降台車102の横振れyが抑制されているので、横振れyの大きさが許容値以下に減衰するまでの待ち時間が短縮される。また、昇降台車102が目標位置まで到達する時間が低減される。
すなわち、搬送物20の搬送に要する時間が短縮される。
【0125】
なお、本実施の形態においては、昇降台車が上昇する際の制振制御方法について説明したが、昇降台車が下降する際にも同様の制振制御方法により横振れyを抑制できる。
【実施例】
【0126】
次に
図1に示した搬送装置(実機モデル)10を用いた実施例を示し、搬送装置10の制振制御方法について更に説明する。
【0127】
搬送装置(実機モデル)10の主な諸元は以下の通りである。
(1)門型マスト30
門型マスト30は、間隔を空けて上下方向に延びる2本の板状部材302、304を有している。各板状部材302、304の下端部は走行台車101に固定され、上端部は梁306に固定されている。各板状部材302、304の材質はアルミニウムであり、上下方向の長さ、幅、及び厚さは、それぞれ、880mm、30mm、及び3mmである。
(2)走行台車101
走行用駆動モータ(ACサーボモータ)SVM1の容量は0.1kWである。ボールネジ22のリードピッチは6mmである。
(3)昇降台車102
昇降台車102のみの質量Mdは0.310kg、搬送物20の質量Mwは0.265kgである。昇降用駆動モータ(ACサーボモータ)SVM2の容量は0.1kWである。
【0128】
まず、比較例として、以下の台形速度パターン(
図2参照)に従って、搬送装置10を制御した。
その結果、走行台車101及び昇降台車102が目標位置に到達し、停止した際の昇降台車102の横振れyの全振幅は約30mmであった。
(1)走行台車101の台形速度パターン
・移動距離L=0.192(m)
・加速度α1=0.8(m/s
2)
・減速度β1=0.7(m/s
2)
・一定速度Vc1=0.272(m/s)
・加速時間T1=0.34(s)
・一定速度時間T2=0.34(s)
・減速時間T3=0.39(s)
【0129】
(2)昇降台車102の台形速度パターン
・移動距離L=0.24(m)
・加速度α2=1.0(m/s
2)
・減速度β2=0.87(m/s
2)
・一定速度Vc2=0.34(m/s)
・加速時間T1=0.34(s)
・一定速度時間T2=0.34(s)
・減速時間T3=0.39(s)
【0130】
次に、実施例として、前述のステップS1〜S6(
図6参照)に従って搬送装置10を制御した。以下、ステップS1〜S6毎に説明する。
【0131】
(ステップS1:各高さ位置hにおける固有角振動数ω
nh(s+d)のデータ取得)
門型マスト30の固定端となる下端部から昇降台車102の中央までの高さ位置hを変え、各高さ位置hにおける固有角振動数のデータを23点測定した。なお、昇降台車102は、搬送物20を積載していない。前掲の表1は、その測定結果(データNo.3〜No.12は省略)を示している。
図4は表1に対応するグラフである。
これらのデータは、最小二乗法により5つの直線回帰式(相関係数:0.98〜1.02)である式(B1a)〜式(B1e)にて表された。
【0132】
これらの式(B1a)〜式(B1e)から、最終的に、搬送物20を積載している昇降台車102が任意の高さ位置にある場合の固有角振動数を求めることができる。
一例として、搬送物20(質量Mw=0.265kg)を昇降台車102(質量Md=0.310kg)に積載し、昇降台車102の中央から門型マスト30の固定端までの高さ位置H
top(791mm)における固有角振動数ω
nh(s+d+w)を求める具体的手順を以下に示す。
【0133】
まず、昇降台車102や搬送物20が無い状態で、門型マスト30を主体とした搬送装置の固有角振動数ω
nh(s)の実測値は、下記の如くなる。
【0134】
ω
nh(s)=20.94 (rad/s) 式(D1)
【0135】
次に、昇降台車102の高さ位置(h=0.791m)における固有角振動数ω
nh(s+d)を式(B1e)から求めると下記の如くなる。
【0136】
ω
nh(s+d)=14.61(rad/s) 式(D2)
【0137】
次に、ω
nh(d)は、式(B3)により下記の如くなる。
【0138】
A=(ω
nh(s))
2=20.94
2=438.5(rad/s)
2
B=(ω
nh(s+d))
2=14.61
2=213.5(rad/s)
2
ω
nh(d)=((A・B)/(A−B))
1/2=20・39(rad/s)
式(D3)
【0139】
次に、固有角振動数ω
nh(d+w)は、式(B6)により、下記の如くなる。
【0140】
Md=0.310(kg)
Mw=0.265(kg)
ω
nh(d+w)=(Md/(Md+Mw))
1/2・ω
nh(d)
=14.97(rad/s) 式(D4)
【0141】
最後に、固有角振動数ω
nh(s+d+w)は、固有角振動数ω
nh(s)及び固有角振動数ω
nh(d+w)を、式(B8)に代入して以下のように求められる。
【0142】
A=(ω
nh(s))
2=(20.94)
2=438.5((rad/s)
2)
C=(ω
nh(d+w))
2=14.97
2=224.1((rad/s)
2)
ω
nh(s+d+w)=((A・C)/(A+C))
1/2=12.2(rad/s)
式(D5)
【0143】
ここで、固有角振動数ω
nh(s+d+w)を実測したところ、その値(実測値)は、12.1(rad/s)であった。この実測値と前式(D5)に基づいて求められた計算値とを比較すると下記の如くなる。
【0144】
ω
nh(s+d+w)/ω
nh(s+d+w)(実測値)=1.01 式(D6)
【0145】
すなわち、誤差は1%以下であり、本実施例にて求められた固有角振動数ω
nh(s+d+w)は目標の誤差範囲内の値となった。
【0146】
(ステップS2:設定パラメータの決定)
走行台車101及び昇降台車102の運転条件は、以下の通りである。加速度α1については、比較例と同一とした。
この運転条件を満たす台形速度パターンを求めた。走行台車101及び昇降台車102の各台形速度パターンについて、加速時間T1、一定速度時間T2、及び減速時間T3はそれぞれ同一である。
【0147】
(1)走行台車101の運転条件
・始点の位置Pstart=0(m)
・終点の位置Pstop=0.35(m)
・加速度α1=0.8(m/s
2)
・一定速度Vc1≒0.35(m/s)
・減速度β1≦1(m/s
2)
・運転時間Ttotal1≒1.5(s)
【0148】
(2)昇降台車102の運転条件
・始点の高さ位置H
bottom=0.552(m)
・終点の高さ位置H
top=0.791(m)
・加速度α2≦1(m/s
2)
・一定速度Vc2≦0.35(m/s)
・減速度β2≦1(m/s
2)
・運転時間Ttotal2=Ttotal1≒1.5(s)
【0149】
上記運転条件を満たすよう、下記設定パラメータを決定した。
1)設定パラメータPA1:始点の位置(現在位置)Pstart=0(m)
2)設定パラメータPA2:終点の位置(目標位置)Pstop=0.35(m)
3)設定パラメータPA3:加速度α1=0.8(m/s
2)
4)設定パラメータPB1:始点の高さ位置(現在位置)H
bottom=0.552(m)
5)設定パラメータPB2:終点の高さ位置(目標位置)H
top=0.791(m)
【0150】
これら設定パラメータPA1〜PA3、PB1、PB2は、生成される台形速度パターンが最低限満たすべき条件を規定するものである。設定パラメータは、これらの設定パラメータPA1〜PA3、PB1、PB2に限定されるものではない。
第1の例として、設定パラメータPA3(加速度α1)に代えて、一定速度Vc1を設定パラメータとしてもよい。
第2の例として、設定パラメータPA3(加速度α1)に代えて、減速度β1を設定パラメータとしてもよい。
【0151】
(ステップS3:仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpの設定)
まず、走行台車101の仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpを設定した。
搬送物20が積載された昇降台車102の始点の高さ位置H
bottom=0.552(m)における固有角振動数ω
nbottomは、式(B8)より、14.48(rad/s)となった。従って、式(C1a)より、仮の加速時間T1tmpを以下のように設定した。
【0152】
T1tmp=2π/ω
nbottom=0.434(s) 式(E1a)
【0153】
なお、この仮の加速時間T1tmpは、昇降台車102が高さ位置H
bottomにある場合の固有振動周期である。
【0154】
搬送物20が積載された昇降台車102の終点の高さ位置H
top=0.791(m)における固有角振動数ω
ntopは、式(B8)より、12.2(rad/s)となった。従って、式(C1b)により、仮の減速時間T3tmpを以下のように設定した。
【0155】
T3tmp=2π/ω
ntop=0.515(s) 式(E1b)
【0156】
なお、この仮の減速時間T3tmpは、昇降台車102が高さ位置H
topにある場合の固有振動周期である。
【0157】
次に、設定された仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmp並びにステップS2にてユーザが決定した設定パラメータPA1〜PA3及び設定パラメータPB1、PB2に基づいて、
図7(A)に示す走行台車101の仮の一定速度Vc1tmp及び仮の減速度β1tmpを次式より求めた。
【0158】
Vc1tmp=α1・T1tmp=0.8・0.434≒0.347(m/s)
式(E2a)
β1tmp=Vc1tmp/T3tmp=0.347/0.515≒0.674(m/s
2)
式(E2b)
【0159】
次に、仮の一定速度時間T2tmpを次式から求めた。
【0160】
(Vc1tmp)・(T1tmp/2+T2tmp+T3tmp/2)
=(Pstop−Pstart) 式(E3a)
T2tmp=(Pstop−Pstart)
/(Vc1tmp)−(T1tmp/2+T3tmp/2)
=(0.350−0.000)/0.347−(0.434/2+0.515/2)
=0.5345(s) 式(E3b)
【0161】
図7(B)に示す昇降台車102の仮の一定速度Vc2tmp、仮の加速度α2tmp、及び仮の減速度β2tmpは、次式より求められた。
【0162】
Vc2tmp・(T1tmp/2+T2tmp+T3tmp/2)
=(H
top−H
bottom) 式(E4a)
Vc2tmp=(H
top−H
bottom)/(T1/2+T2+T3/2)
=(0.791−0.552)
/(0.434/2+0.5345+0.515/2)
=0.239/1.009
≒0.237(m/s) 式(E4b)
α2tmp=Vc2tmp/T1tmp
=0.237/0.434
≒0.546(m/s
2) 式(E4c)
β2tmp=Vc2tmp/T3tmp
=0.237/0.515
≒0.460(m/s
2) 式(E4d)
【0163】
(ステップS4:仮の加速時間T1tmp及び仮の減速時間T3tmpの修正)
(ステップS4−1:走行台車101の仮の加速時間T1tmpの修正)
Nを5とし、仮の加速時間T1tmpを5等分した微小時間ΔT1を下記の式により求めた(
図7(B)参照)。
【0164】
ΔT1=T1tmp/N=0.434/5=0.0868(s) 式(E5)
【0165】
上記のN(5)等分した時間の中央の時間ΔTc1は下記の式により求まる。
【0166】
ΔTc1=ΔT1/2=0.0868/2=0.0434(s) 式(E6)
【0167】
加速開始からの5等分した時間の中央のk番目の経過時間t
kを下記の式により求めた。
【0168】
t
1=1・ΔTc1
t
2=3・ΔTc1
・・・・・・・・・
t
k=(2k−1)・ΔTc1=(2k−1)・t
1 式(E7)
【0169】
経過時間t
1、t
2、t
3、t
4、t
5を式(E7)に従って計算すると、下記のようになった。
t
1=0.0434(s)
t
2=0.130(s)
t
3=0.217(s)
t
4=0.304(s)
t
5=0.391(s)
【0170】
上記の時間経過t
kにおける昇降台車102の高さ位置h
kを次式により求めた。
【0171】
h
k=(1/2)・α2・t
k2+0.552 式(E8)
【0172】
上記の各時間における昇降台車102の各高さ位置を、式(E8)に従って計算すると、下記のようになった。
h
1=0.553(m)
h
2=0.557(m)
h
3=0.565(m)
h
4=0.577(m)
h
5=0.594(m)
【0173】
搬送物20(質量0.265kg)を積載した昇降台車102の各高さ位置における固有角振動数ω
nk(s+d+w)を式(B3)、式(B6)、及び式(B8)に従って計算すると、下記のようになった。
ω
n1(s+d+w)=14.45(rad/s)
ω
n2(s+d+w)=14.40(rad/s)
ω
n3(s+d+w)=14.30(rad/s)
ω
n4(s+d+w)=14.10(rad/s)
ω
n5(s+d+w)=13.90(rad/s)
【0174】
上記の各固有角振動数ω
nk(s+d+w)に、仮の加速時間T1tmpを5等分した微小時間ΔT1=0.0868(s)を乗じた値をそれぞれ計算し、これらの値を合計した値が仮の位相角θ1tmp(rad/s)である。仮の位相角θ1tmpを、式(C6)に従って計算し、以下の値が得られた。
【0175】
【数2】
【0176】
この仮の位相角θ1tmpは2π(6.28)より小さい値である。そこで、以下に示すように、第1の修正係数ζ1を式(C7)により求め、仮の加速時間T1tmpに乗ずれば修正位相角θ1revは2πとなる。
【0177】
ζ1=2π/θ1tmp=2π/6.175≒1.0175 式(E10)
【0178】
従って、修正加速時間T1revを、次の計算式で求めた。
【0179】
T1rev=ζ1・T1tmp=1.0175・0.434≒0.442(s)
式(E11)
【0180】
(ステップS4−2:走行台車101の仮の減速時間T3tmpの修正)
修正減速時間T3revも前述の修正加速時間T1revと同様に計算し、下記の結果が得られた。
・仮の減速時間T3tmp=0.515(s)
・減速の終点での仮の位相角θ3tmp=6.3475(rad)
・第2の修正係数ζ3=2π/θ3=0.9899
・修正減速時間T3rev=ζ3・T3≒0.510(s)
【0181】
(ステップS5:速度指令の生成)
求めた修正加速時間T1rev及び修正減速時間T3revを、それぞれ本来の加速時間T1及び減速時間T3とし、走行台車101の台形速度パターンを規定する他のパラメータを求めた。
なお、走行台車101の加速度α1(設定パラメータPA3)は、変更されることなく0.8(m/s
2)のままである。
走行台車101の台形速度パターンを規定するパラメータは以下の通りとなった。
【0182】
・加速時間T1=0.442(s)
・減速時間T3=0.510(s)
・一定速度Vc1=0.3536(m/s)
・減速度β1=0.6933(m/s
2)
・一定速度時間T2=0.5138(s)
【0183】
なお、一定速度Vc1、減速度β1、及び一定速度時間T2は、次式により求めた。
【0184】
Vc1=α1・T1rev
=0.8・0.442
=0.3536(m/s) 式(E12)
【0185】
β1=Vc1/T3rev
=0.3536/0.510
=0.6933(m/s
2) 式(E13)
【0186】
Vc1・(T1rev/2+T2+T3/2)=(Pstop−Pstart)
式(E14)
T2=(Pstop−Pstart)/(Vc1)−(T1/2+T3/2)
=(0.350−0.000)/0.3536
−(0.442/2+0.510/2)
=0.9898−0.476
=0.5138(s) 式(E15)
【0187】
昇降台車102の台形速度パターンを規定する他のパラメータは以下の通りとなった。
【0188】
・加速時間T1=0.442(s)
・一定速度時間T2=0.5138(s)
・減速時間T3=0.510(s)
・一定速度Vc2=0.2415(m/s)
・加速度α2=0.5464(m/s
2)
・減速度β2=0.4735(m/s
2)
【0189】
なお、一定速度Vc2、加速度α2、及び減速度β2は、次式により求めた。
【0190】
Vc2・(T1/2+T2+T3/2)=(H
top−H
bottom)
式(E16)
Vc2=(H
top−H
bottom)
/(T1rev/2+T2rev+T3rev/2)
=(0.791−0.552)
/(0.442/2+0.5138+0.510/2)
=0.239/0.9898
=0.2415(m/s) 式(E17)
【0191】
α2=Vc2/T1
=0.2415/0.442
=0.5464(m/s
2) 式(E18)
【0192】
β2=Vc2/T1
=0.2415/0.510
=0.4735 (m/s
2) 式(E19)
【0193】
前述の演算結果より、指令発生器CNTが生成する台形速度パターンは、以下の通りとなった。
(1)走行台車101の台形速度パターン
・移動距離L(設定パラメータPA1、PA2)=0.35(m)
・加速度α1(設定パラメータPA3)=0.8(m/s
2)
・減速度β1=0.6933(m/s
2)
・一定速度Vc=0.3536(m/s)
・加速時間T1=0.442(s)
・一定速度時間T2=0.5138(s)
・減速時間T3=0.510(s)
【0194】
(2)昇降台車102の台形速度パターン
・移動距離L(設定パラメータPB1、PB2)=0.239(m)
・加速度α1=0.5464(m/s
2)
・減速度β1=0.4735(m/s
2)
・一定速度Vc=0.2415(m/s)
・加速時間T1=0.442(s)
・一定速度時間T2=0.5138(s)
・減速時間T3=0.510(s)
(ステップS6:速度指令の生成)
前述の台形速度パターンによる速度指令に従って、搬送装置10を制御した。
その結果、走行台車101及び昇降台車102が目標位置に到達し、停止した際の昇降台車102の横振れyの全振幅は1mm以下となった。
【0195】
このように、比較例の横振れyが30mmであったのに対し、本実施例の横振れyが1mm以下となった。すなわち、横振れyが大幅に抑制され、本実施の形態にかかる制振制御方法の有効性が確認できた。
【0196】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
【0197】
昇降台車102の横振れyを抑制することのみを考慮すると、必ずしも走行台車101と昇降台車102はそれぞれ同一の加速時間T1、一定速度時間T2、及び減速時間T3で移動しなくてもよい。昇降台車102の昇降単独運転(走行停止状態)では、昇降台車の横振れyに与える影響は小さいと考えられる。しかし、昇降台車の高さ位置が変化すれば走行方向の固有角振動が変化するので、本制振制御方法に従って走行台車101の加速時間T1及び減速時間T3の終点での位相角が2πの正の整数倍にすることで昇降台車の横振れの低減を図っているのである。
【0198】
第1の高さ位置及び第2の高さ位置は、任意に設定することができる。ただし、第1の高さ位置を高さ位置H
bottom、第2の高さ位置を高さ位置H
topに設定することで、演算が容易となる。
前記制御部が、前記修正加速時間及び前記修正減速時間によって少なくとも規定された第1の台形速度パターンによる前記走行台車の第1の速度指令を生成するステップと、
前記制御部が、予め求められた、前記搬送物の質量と前記昇降台車の高さ位置及び前記昇降台車に生じる振動の固有角振動数との関係に基づいて、前記搬送物を載せた前記昇降台車が第1の高さ位置にある場合の前記振動の第1の固有角振動数を求め、
修正減速時間を演算するステップ、並びに前記修正加速時間及び前記修正減速時間によって少なくとも規定された台形速度パターンによる前記走行台車の速度指令を生成するステップを実行する指令発生器を有する。
式(C8)によって求められた修正加速時間T1revを正規の加速時間T1とすることで、加速終了時点(定速移動開始時点)での位相角が2πの正の整数n倍に近づき、終点の高さ位置H