【実施例】
【0066】
[実施例1]
実施例1は、SnO
2である遷移金属酸化物粒子が表面に位置したグラフェンが集積した中空構造を有し、グラフェンに対する遷移金属酸化物粒子の質量比が、1.6である中空体を製造した。
【0067】
中空体の製造に先立って、原料に用いる酸化グラフェンおよび高分子コアとしてポリスチレン粒子を製造した。
【0068】
まず、改良Hummers法を用いて天然グラファイト粉末から酸化グラフェンを製造した。氷浴中でグラファイト粉末(3.0g)および硝酸ナトリウム(1.5g)を98wt%の硫酸(70mL)と混合した。これらの混合物を5分撹拌した後、温度が20℃を超えないよう、過マンガン酸ナトリウム(9.0g)をゆっくりと添加した。これらの混合物を35℃の湯浴中で1時間反応させた。これにより、混合物はペースト状になった。
【0069】
このペースト状の混合物に脱イオン水(140mL)をゆっくりと添加し、さらに1時間撹拌した。次いで、この混合物を水(500mL)で希釈し、30%過酸化水素(20mL)をゆっくりと添加した。これにより、濃い茶色の混合物が、黄色の懸濁液となった。
【0070】
黄色の懸濁液を遠心分離機にかけ、得られた固体を10%の塩酸溶液および脱イオン水で数回洗浄し、金属イオンおよび酸を除去し、真空中で乾燥させた。このようにして負に帯電した酸化グラフェン(GO)を得た。
【0071】
ポリスチレン(PS)粒子は、モノマーとしてスチレン、および、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(AIBA)を用いて製造された。詳細には、ポリビニルピロリドン(PVP)(0.5g)とスチレン(20mL)とを、脱イオン水(100mL)を含む250mLフラスコ中で混合し、70℃まで加熱した。その後、30分撹拌した後、脱イオン水(20mL)に溶解したAIBA(0.2g)を添加し、24時間反応させた。得られた生成物を遠心分離機にかけ、脱イオン水で数回洗浄し、オーブンで一晩乾燥させた。このようにして正に帯電したPS粒子を得た。PS粒子を電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM、JEOL、JSM−7001F)により観察した。結果を
図5に示す。
【0072】
図5は、製造されたPS粒子のSEM像を示す図である。
【0073】
図5には異なる倍率のPS粒子のSEM像を示す。
図5(a)によれば、製造されたPS粒子は均一な球体であることが分かった。
図5(b)によれば、PS粒子の表面は滑らかであり、その直径は250nm以上350nm以下の範囲であることが分かった。
【0074】
GOと遷移金属塩としてSnCl
2・2H
2Oとを脱イオン水に分散させ、撹拌した(
図2のステップS210)。詳細には、GO(20mg)、SnCl
2・2H
2O(40mg)および酸化剤としてHCl(1mL)を脱イオン水(50)mLに分散させた。撹拌は、40℃で4時間行った。ここで、GOに対するSnCl
2・2H
2Oの質量比は2であった。このようにして、GOの表面にSnイオンを位置させ、酸化反応によってSnO
2粒子が位置したGOを得た。
【0075】
次に、PS粒子(20mg)が分散した脱イオン水(50mL)に、上述の分散液を撹拌しながら添加した(
図2のステップS220)。この混合溶液を、40℃で4時間撹拌した。ここで、GOに対するPS粒子の質量比は1であった。得られた生成物を遠心分離機にかけ、脱イオン水で数回洗浄した後、真空下で乾燥させた。生成物をFESEMおよび透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL、JEM−2100)により観察した。結果を
図6に示す。このようにして、SnO
2粒子が表面に位置したGOが集積し、PS粒子を被覆したコア・シェル構造体を形成した。
【0076】
図6は、形成されたコア・シェル構造体のSEM像(a)、(b)およびTEM像(c)、(d)を示す図である。
【0077】
図6(b)によれば、PS粒子の表面が、GOによって被覆されたことによって滑らかさが失われたことが分かる。
図6(c)および(d)によれば、コントラストが濃く示される斑点はSnO
2粒子を示しており、SnO
2粒子が表面に位置したGOが集積し、PS粒子を被覆していることが示された。さらに、
図6(a)によれば、被覆されたPS粒子は、互いに連結していることが分かった。以上から、ステップS220により連結したコア・シェル構造体が得られることを確認した。
【0078】
次いで、コア・シェル構造体を加熱した(
図2のステップS230)。なお、ここでは、加熱条件を最適化するため、大気中、昇温速度10℃/分で室温から700℃まで昇温し、その際の熱重量分析(TGA)を測定した。TGA測定は、SDTA851e分析器により行った。結果を
図7に示す。
【0079】
図7は、コア・シェル構造体の熱重量(TGA)曲線を示す図である。
【0080】
図7に示されるように、TGA曲線は、多段階の質量損失プロセスを示した。
図7の領域(A)に示される室温以上100℃以下の温度領域は、吸着した水分の損失を示す。
図7の領域(B)に示される150℃以上320℃未満の温度領域は、GOのグラフェン(G)への還元を示す。
図7の領域(C)に示される320℃以上420℃以下の温度領域は、PS粒子の焼失を示す。
図7の領域(D)に示される420℃を超えて550℃以下の温度領域は、グラフェンの焼失を示す。
図7の領域(E)は、残ったSnO
2粒子の質量を示す。
【0081】
図7より、コア・シェル構造体の加熱により高分子コアのみを除去するには、320℃以上420℃以下の温度で加熱することが好ましいことが分かった。また、
図7から、コア・シェル構造体の高分子コアを除去する目的の加熱を行えば、高分子コアの燃焼とともに酸化グラフェン(GO)はグラフェンに還元されることが確認された。以降では、コア・シェル構造体の加熱は、大気中400℃で2時間行った試料について調べた。
【0082】
図7に基づいて、PS粒子のみが除去され、グラフェンおよびSnO
2粒子のみとなった試料について、グラフェン(G)に対する遷移金属酸化物粒子(SnO
2)の質量比を算出した。領域(D)および領域(E)の質量(%)から、SnO
2/G=31.1/20≒1.6であることが分かった。
【0083】
コア・シェル構造体を、大気中400℃で2時間加熱した試料をFESEMおよびTEMにより観察した。結果を
図8および
図9に示す。試料のX線回折パターンをRigaku RINT 2500により測定した。試料のラマンスペクトルをRAMAN−11(Nanophoton)により測定した。測定に用いた光源の波長は532nmであった。さらに、試料のTGA曲線を測定した。これらの結果を
図11に示す。
【0084】
試料の元素分析および化学結合状態を確認するため、X線光電分光法(XPS)を、PHI Quantera SXM(Ultravac−PHI)により行った。結果を
図12に示す。
【0085】
試料のBrunauer−Emmett−Teller(BET)表面積および細孔容積を77KにおいてAUTOSORB iQ−MPにより測定した。結果を
図13および表2に示す。
【0086】
次に、試料をアノード電極材料に用いCR2032コイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。具体的には、エタノールに分散させた試料を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンにフィルタリングした。ここで、バインダなどの結合剤は用いなかった。
図14にフィルタリング後の様子を示す。これを直径15mmの円形にカットし、真空中、80℃で12時間乾燥させた。これをアノード電極(作用電極)とした。このアノード電極の片面にはCu箔からなる集電体を配置した。カソード電極(カウンタ電極)としてLi箔を用いた。
【0087】
ステンレス製のセル(
図4の450)内に多孔性のセパレータ(
図4の440)としてポリプロピレン(PP)メンブレン(Celgard2400)をこれら電極(
図4の410、420)間に配置し、電解質としてエチレンと炭酸ジエチルとの混合物(1:1、v/v)中に1MLiPF
6(
図4の430)を充填し、コイン型電池セル(
図4の400)を製造した。なお、電池セルの組み立ては、Arガスで充填されたグローブボックス内で行った。
【0088】
電池セルの電気化学測定を、VMP3電気化学ステーション(Biologic)を用いて行った。サイクリックボルタンメトリ測定、および、ガルバノスタット充放電測定を、室温において、0.005V〜2.5Vの電位範囲で行った。結果を
図15、
図16、表3および表4に示す。
【0089】
[実施例2]
実施例2は、SnO
2である遷移金属酸化物粒子が表面に位置したグラフェンが集積した中空構造を有し、グラフェンに対する遷移金属酸化物粒子の質量比が、0.75である中空体を製造した。
【0090】
実施例2は、実施例1における、GOと遷移金属塩としてSnCl
2・2H
2Oとを脱イオン水に分散させ、撹拌する(
図2のステップS210)際に、SnCl
2・2H
2O(20mg)とした以外は実施例1と同様の製造条件であった。実施例2では、GOに対するSnCl
2・2H
2Oの質量比は1であった。
【0091】
得られた試料をTEMにより観察した。結果を
図10(a)に示す。実施例1と同様に、TGA曲線を測定し、質量比を算出するとともに、BET比表面積および細孔容積を測定した。結果を表2に示す。実施例1と同様にコイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。結果を
図16および表3に示す。
【0092】
[実施例3]
実施例3は、SnO
2である遷移金属酸化物粒子が表面に位置したグラフェンが集積した中空構造を有し、グラフェンに対する遷移金属酸化物粒子の質量比が、3である中空体を製造した。
【0093】
実施例3は、実施例1における、GOと遷移金属塩としてSnCl
2・2H
2Oとを脱イオン水に分散させ、撹拌する(
図2のステップS210)際に、SnCl
2・2H
2O(80mg)とした以外は実施例1と同様の製造条件であった。実施例3では、GOに対するSnCl
2・2H
2Oの質量比は4であった。
【0094】
得られた試料をTEMにより観察した。結果を
図10(a)に示す。実施例1と同様に、TGA曲線を測定し、質量比を算出するとともに、BET比表面積および細孔容積を測定した。結果を表2に示す。実施例1と同様にコイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。結果を
図16および表3に示す。
【0095】
[比較例4]
比較例4は、SnO
2である遷移金属酸化物粒子が表面に位置したグラフェンが集積した中空構造を有し、グラフェンに対する遷移金属酸化物粒子の質量比が、6である中空体を製造した。
【0096】
比較例4は、実施例1における、GOと遷移金属塩としてSnCl
2・2H
2Oとを脱イオン水に分散させ、撹拌する(
図2のステップS210)際に、SnCl
2・2H
2O(160mg)とした以外は実施例1と同様の製造条件であった。比較例4では、GOに対するSnCl
2・2H
2Oの質量比は8であった。
【0097】
得られた試料をTEMにより観察した。結果を
図10(a)に示す。実施例1と同様に、TGA曲線を測定し、質量比を算出するとともに、BET比表面積および細孔容積を測定した。結果を表2に示す。実施例1と同様にコイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。結果を
図16および表3に示す。
【0098】
以上の実施例1〜3および比較例4の実験条件の一覧を簡単のため表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
図8は、実施例1の試料のSEM像を示す図である。
【0101】
図8は、種々の倍率で観察した実施例1の試料(PS粒子を焼成・除去後の試料)を示す。
図8(a)によれば、実施例1の試料は、ステップS230(
図2)の焼成後も、焼成前の球状の形状を良好に維持しており、均一であることが分かった。
図8(b)および(c)によれば、実施例1の試料は、ステップS230(
図2)の焼成後も、矢印で示されるように、球体が互いに結合していることを確認した。
【0102】
図9は、実施例1の試料のTEM像および制限視野電子回折(SAED)パターンを示す図である。
【0103】
図9(a)〜(c)により、実施例1の試料は、グラフェンが集積し、中空構造を有する中空体であることが分かった。このことから、ステップS230(
図2)によって、高分子コアであるPS粒子が除去されることが確認された。中空構造の形状は、用いた高分子コアであるPS粒子の形状を反映し、250nm以上350nm以下の直径を有する球状であった。中空体も、PS粒子の形状を反映し、300nm以上400nm以下の直径を有する球体であった。この結果は、
図8で示すSEM像の結果に良好に整合する。
【0104】
図9(d)によれば、矢印で示されるように粒子が、グラフェンの表面および集積したグラフェン間に均一に位置していることが分かった。また、粒子の粒径は、3nm以上8nm以下の直径を有し、ここでは平均5nmであった。
図9(e)および(f)の高分解能TEMおよびSAEDパターンは、SnO
2の回折パターンに整合しており、
図9(d)で示される粒子は、SnO
2粒子であることを確認した。
【0105】
図9(d)によれば、グラフェンのそれぞれの厚さは、3nm以上8nm以下の範囲であり、このようなグラフェンが、5層以上15層以下で集積されていることが分かった。
【0106】
図10は、実施例2、実施例3および比較例4の試料のTEM像を示す図である。
【0107】
図10(a)〜(c)は、それぞれ、実施例2、実施例3および比較例4の試料のTEM像である。
図10(a)および(b)によれば、実施例2および実施例3の試料は、グラフェンが集積し、中空構造を有する中空体であることが分かった。一方、比較例4の試料は、中空構造が崩壊し、中空体ではなかった。このことから、中空体を確実に得るには、ステップS210(
図2)において、酸化グラフェンに対する遷移金属塩の質量比は0.5以上8未満がよいことを確認した。
【0108】
図11は、実施例1の試料のXRDパターン(a)、ラマンスペクトル(b)およびTGA曲線(c)を示す図である。
【0109】
図11(a)のXRDパターンは、正方晶のSnO
2の回折パターン(JCPDS:41−1445)に良好に一致した。ここでも、高分解能TEMおよびSAEDパターンの結果と同様に、SnO
2粒子が位置することが示された。なお、グラフェンのメインピークである(002)回折ピークは、SnO
2の(110)回折ピークと重なっているため、XRDパターンからの判別は困難であった。
【0110】
図11(b)のラマンスペクトルは、特徴的なDバンドおよびGバンドを示し、ステップS230(
図2)の加熱により、酸化グラフェンの還元によりグラフェンが形成したことを確認した。
【0111】
図11(c)のTGA曲線によれば、420℃を超え550℃の温度の加熱により、グラフェンの分解が生じていることが分かった。このことからも、ステップS230(
図2)の加熱温度の上限は420℃であることが示される。残留したSnO
2粒子の質量(%)と、分解燃焼したグラフェンの質量(%)とから、グラフェンに対するSnO
2粒子の質量比(SnO
2/G)は、61.8/37.4=1.65であった。この値は、
図7を参照して説明したSnO
2/Gと良好に一致する。
【0112】
図示しないが、実施例2および実施例3も同様のXRDパターンおよびラマンスペクトルを示すことを確認した。また、実施例2および実施例3のTGA曲線によれば、実施例2および実施例3のSnO
2/Gは、それぞれ、0.75および3であった。
【0113】
図12は、実施例1の試料のXPSスペクトル(a)〜(c)および酸化グラフェンのXPSスペクトル(d)を示す図である。
【0114】
図12(a)は、実施例1の試料の定性分析の結果であり、Sn、OおよびCのみを検出し、それ以外の元素は検出されなかった。このことから、実施例1の試料は、Sn、OおよびCのみからなることを確認した。
【0115】
図12(b)は、実施例1の試料のSn3dのXPSスペクトルであり、495.5eVおよび487.1eVに2つのピークを有した。これらは、それぞれ、Sn3d 3/2およびSn3d 5/2に起因する。このことは、酸化スズは、スズがIV価であるSnO
2であることを示唆する。
【0116】
図12(c)は、実施例1の試料のC1sのXPSスペクトルである。一方、
図12(d)は、原料に用いた酸化グラフェンのC1sのXPSスペクトルである。いずれのXPSスペクトルも、284.6eV、286.7eV、287.8eVおよび289.1eVにピークを有した。これらは、それぞれ、C−C(sp
2)、C−O基、C=O基およびO−C=O基に起因する。
図12(c)の含酸素官能基(C−O、C=OおよびO−C=O)のピーク強度は、
図12(d)のそれよりも顕著に低かった。このことは、ステップS230(
図2)の加熱によって、酸化グラフェンがグラフェンに還元されたことを示唆する。
【0117】
図示しないが、実施例2および実施例3の試料も同様のXPSスペクトルを示すことを確認した。
【0118】
図13は、実施例1の試料の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0119】
図13によれば、吸脱着等温線は、IUPACのIV型を示した。このことは、実施例1の試料は、多数のメソポアを有することを示す。吸脱着等温線から、実施例1の試料の比表面積および細孔容積は、315m
2/gおよび1.15cc/gと算出された。この値は、報告されているSnO
2あるいは非特許文献1〜6に記載のSnO
2とグラフェンシートとの複合体のそれに比べてはるかに大きかった。
【0120】
図13には、吸脱着等温線からも求めた細孔分布(挿入図)を併せて示す。細孔分布によれば、2nm以上6nm以下を中心とするメソポアを有することを示した。このようなメソポアは、Liイオンの拡散に有利であり、アノード電極内への速い電子移動が可能となり、優れたレート特性が期待される。
【0121】
図示しないが、実施例2および実施例3の試料も同様の吸脱着等温線を示した。吸脱着等温線から求めた比表面積および細孔容積を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
以上から、
図2に示す製造方法により、グラフェンが集積し、中空構造を有する中空体であって、集積したグラフェン間およびグラフェンの表面に遷移金属酸化物粒子(実施例ではSnO
2粒子)が位置し、互いに連結している中空体が得られることを確認した。
【0124】
図14は、実施例1の試料をPTFEメンブレンにフィルタリングした様子を示す図である。
【0125】
図14によれば、実施例1の試料は、バインダなどの結合剤を用いることなく、PTFEメンブレン上に良好にフィルタリングされることを確認した。これは、
図8を参照して上述したように、本発明の中空体が互いに連結しているためである。
図14の挿入図に示されるように、PTFEメンブレンを曲げても、実施例1の試料にクラックが発生せず、破損しなかった。これにより、本発明の中空体が機械的柔軟性に富んでいることが分かった。このように、本発明の中空体をアノード電極材料に用いれば、導電性を下げ、全体の質量を増加させるバインダを不要にするので、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【0126】
図15は、実施例1で製造した電池セルの電気化学特性を示す図である。
【0127】
図15(a)は、電池セルの最初の3サイクルのCV曲線を示す図である。CV曲線は、0.005V〜2.5Vの電位において0.1mV/sの掃引速度で測定された。1回目のサイクルのCV曲線によれば、0.7Vにカソードピークを示した。これは、固体電解質界面(SEI)層の形成、および、次式で示すSnO
2からSnへの還元に起因する。なお、2回目および3回目のサイクルのCV曲線は、0.7Vのカソードピークを示さなかったことから、SEI層は安定したと言える。
SnO
2+4Li
++4e
−→2Li
2O+Sn
【0128】
CV曲線は、0.1Vにシャープなカソードピークを示した。これは、次式で示す、Li−Sn合金の形成およびリチウムとグラフェンとの間の反応に起因する。
Sn+xLi
++xe
−⇔Li
xSn(0≦x≦4.4)
xLi+yC⇔Li
xC
y
【0129】
CV曲線は、0.51Vおよび1.25Vにアノードピークを示した。これらは、それぞれ、Li−Sn合金の脱合金およびSnのSnO
2への部分的な可逆反応に起因する。このような可逆性は、高い導電性およびSnO
2とグラフェンとの間の優れたコンタクトといった本発明の中空体の構造に起因する利点といえる。
【0130】
図15(b)は、電流密度100mA/gにおける電池セルの最初の3サイクルの充放電曲線を示す図である。1回目のサイクルの放電曲線は、SnO
2からSnへの還元に起因する約0.78Vに電位の安定状態を示した。放電曲線は、0.5Vから0.005Vまで長い平坦なカーブを示した。これは、SnとLiとの反応に起因する。1回目のサイクルの放電曲線から得られる放電容量(1980mAh/g)は、充電曲線から得られる充電容量(1032mAh/g)よりも顕著に大きいが、これは、不可逆なLi
2Oの形成に起因しており、
図15(a)の結果に一致する。2回目のサイクルによる可逆容量は、1001mAh/gであり、非特許文献1〜6に代表されるSnO
2を用いたアノード電極の中でも大きな値が得られた。
【0131】
図15(c)は、サイクリング特性を示す図である。電流密度100mA/gで100回充放電サイクルを繰り返した後であっても、初期容量の85%を維持し、クーロン効率はほぼ100%を維持した。このことは、実施例1の試料の高いサイクリング安定性を示す。
【0132】
図15(d)は、充放電レート特性(サイクル特性)を示す図である。可逆容量は、1001mAh/g(@100mA/g)、777mAh/g(@200mA/g)、652mAh/g(@500mA/g)および492mAh/g(@1000mA/g)であった。実施例1の試料は、1000mA/gといった高い電流密度においても、グラファイトの理論容量(372mA/h)より高い可逆容量(492mAh/g)を示した。また、電流密度が1000mA/gから100mA/gに戻ると、可逆容量は約800mAh/gまで回復した。また、50回繰り返した後であっても、アノード電極に破損は見られず、本発明の中空体を負極活物質として用いたアノード電極材料は、体積変化によっても耐久性に優れていることを確認した
【0133】
図16は、実施例2、3および比較例4で製造した電池セルの充放電曲線を示す図である。
【0134】
参考のため、
図16には、
図15(b)で示した実施例1で製造した電池セルの2回目のサイクルの充放電曲線を併せて示す。実施例2、3および比較例4の電池セルの可逆容量(100mA/g)は、それぞれ、801mAh/g、667mAh/gおよび513mAh/gであった。
【0135】
【表3】
【表4】
【0136】
以上から、
図2に示す製造方法により、グラフェンが集積し、中空構造を有する中空体であって、集積したグラフェン間およびグラフェンの表面に遷移金属酸化物粒子(実施例ではSnO
2粒子)が位置し、互いに連結している中空体が得られ、リチウムイオン二次電池のアノード電極材料として好ましいことを確認した。特に、グラフェンに対するSnO
2粒子の質量が0.75以上3以下の中空体をアノード電極材料に用いた場合、レート特性に優れ、高い可逆容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることが分かった。