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  • 特開2017096967-放射性セシウム吸着性布帛の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-96967(P2017-96967A)
(43)【公開日】2017年6月1日
(54)【発明の名称】放射性セシウム吸着性布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20170428BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20170428BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20170428BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20170428BHJP
【FI】
   G21F9/12 501A
   G21F9/12 501B
   B01J20/02 A
   B01J20/32 Z
   B01J20/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-252730(P2016-252730)
(22)【出願日】2016年12月27日
(62)【分割の表示】特願2011-199311(P2011-199311)の分割
【原出願日】2011年9月13日
(71)【出願人】
【識別番号】502355130
【氏名又は名称】二葉商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】塩野 剛司
(72)【発明者】
【氏名】福西 興至
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA41B
4G066AA47D
4G066AA51B
4G066AB05D
4G066AB07D
4G066AB13D
4G066AC01D
4G066AC03C
4G066AC03D
4G066AC23C
4G066AC26C
4G066AC35D
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA11
4G066BA16
4G066BA36
4G066CA12
4G066CA45
4G066DA07
4G066DA15
4G066FA03
4G066FA15
4G066FA21
4G066FA38
4G066FA40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射性セシウムを効率よく集め、しかも可及的に簡易な処理で効率よく減容化して小体積で保管などの処理ができる放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法を提供する。
【解決手段】微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持した繊維素材からなる透水性の編織布または不織布からなる放射性セシウム吸着性布帛であって、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を液中に超音波照射により微分散させ、この分散液を編織布または不織布からなる繊維素材に含浸して繊維間隙に前記フェロシアン酸塩化合物の微粒子を浸入させ、その後、前記微粒子を凝集させて二次粒子を繊維間隙に絡ませることにより繊維素材に担持させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持した繊維素材からなる透水性の編織布または不織布からなる放射性セシウム吸着性布帛。
【請求項2】
微粒子状のフェロシアン酸塩化合物が、繊維間隙に浸入した一次粒子のフェロシアン酸塩化合物同士が凝集することにより粒径の増大した二次粒子からなる微粒子状のフェロシアン酸塩化合物である請求項1に記載の放射性セシウム吸着性布帛。
【請求項3】
繊維素材が、塩基性基を有する羊毛またはナイロン繊維からなり、フェロシアン化物および2価の金属塩との化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を結合した繊維素材である請求項1または2に記載の放射性セシウム吸着性布帛。
【請求項4】
透水性の編織布または不織布が、水透過性の高分子膜で被覆されている請求項1〜3のいずれかに記載の放射性セシウム吸着性布帛。
【請求項5】
微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を液中に超音波照射により微分散させ、この分散液を編織布または不織布からなる繊維素材に含浸して繊維間隙に前記フェロシアン酸塩化合物の微粒子を浸入させ、その後、前記微粒子を凝集させて二次粒子を繊維間隙に絡ませることにより繊維素材に担持させる放射性セシウム吸着性布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性核種である放射性セシウムに対して吸着性を有し、水中や土壌などから放射性セシウムイオンを捕集および回収し、その処理を可能にする放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セシウム(Cs)は、自然界では少なくとも39種類の同位体を有し、その大半は放射性を示さないものであるが、原子力発電の燃料に使うウランなどが核分裂反応を起こして生成される放射性セシウムと呼ばれるセシウム137は、長い半減期(およそ30年)に応じて放射線を放出し続けて人体に悪影響を及ぼすため、生活環境から排除する必要がある。
【0003】
フェロシアン化鉄(III)は、このような放射性セシウムに対する吸着性を有する物質と
して知られており、近年、原子力発電所の放射能漏れ事故によって放出された放射性セシウムの結合剤(体外除去剤)としても知られている。
【0004】
また、フェロシアン化鉄(III)は、フェロシアン酸塩化合物の一つとして、青色の無機
の顔料であって、紺青、プロシアンブルー、ミロリブルー、ベルリンブルーなど多くの慣用名がある。これは、古くから藍色、紺色の顔料として塗料、印刷インキ、絵具に使用されてきた物質でもある。
また、フェロシアン化鉄(III)は、放射性物質の処理施設において、放射性セシウムイ
オンの捕捉剤として凝集沈殿処理剤と併用されることが知られている。
【0005】
フェロシアン酸塩化合物を担体に固定する態様については、イオン交換樹脂上への固定(非特許文献1、2)、ポリアクリルニトリル上にイオン結合を介してフェロシアン酸塩化合物を固定すること(非特許文献3)や、キレ−ト化剤を介して有機あるいは無機高分子に固定してセシウムイオンを分離可能にする(非特許文献4、5)ことが知られている。また、アクリル繊維上にフェロシアン酸塩化合物を生成させ、固定化することも知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−62032号公報
【特許文献2】特公平7−22699号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.J.Won, J.K.Moon, C.H.Jung, and W.Y.Chung, Nucl.Eng.& Tech., 40, 489(2008)
【非特許文献2】K.Watari, K.Imai, Y.Ohmomo, Y.Muramatsu, Y.Nishimura, M.Izawa, and L.R.Baules, J.Nucl.Sci.Tech., 25, 5(1988)
【非特許文献3】H.H.Someda, A.A.EIZahhar, M.K.Shehata, and H.A.EI-Nagger, Separation and Purification Tech., 29, 1(2002)
【非特許文献4】T.D.Clarke and C.M.Wai, Anal.Chem.,1998, 70(17), pp3708-3711
【非特許文献5】Chunqing Liu, Yongqing Huang, Nathaniel Naismith, and James Economy, Environ.Sci. Technol., 2003,37(18), pp4261-4268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、セシウムイオンを吸着するフェロシアン化鉄(III)は、非常に細かな微粒子
であるので、セシウムイオンの吸着後に水中などから分離・回収するのは容易なことではない。
【0009】
例えば、従来の放射性セシウムイオンの分離・回収方法である凝集沈殿法、無機担体による吸着法では、被吸着物であるセシウムイオン本体以外の狭雑物が大量に発生して、その二次廃棄物の処理方法の複雑さにより高コストになる。すなわち、現場で操作する際の薬剤の処理、汚泥の処理、吸着担体の分離、回収が容易ではないことおよびそれらの減量化の困難さに起因する問題点がある。
【0010】
また、イオン結合、キレ−ト結合を介して高分子にフェロシアン酸塩化合物を固定する粒子や塊状の繊維からなる担体は、安定した吸着担体であるが、充填塔にこれらの担体を詰めてセシウムイオンを吸着させる必要があるので、大量のセシウムイオンに対する吸着・分離・回収処理には煩雑で高コストになり適当なものではない。
【0011】
また、セシウムイオンの吸着後のフェロシアン化鉄(III)の分離方法としては、無機凝
集剤、高分子凝集剤を併用して共沈作用によって分離する方法が採用されるが、この方法は大容量の排水処理には適するが、薬剤のコストや水含有率の高い汚泥(二次破棄物)の処理に高額のコストが必要であり好ましくない。
【0012】
放射性セシウムイオンの除去に無機担体であるゼオライトが使われる場合もあるが、大量の処理水の場合、放射性物質の吸着したゼオライト廃棄物(二次廃棄物)の量が多くなるという問題点がある。
【0013】
このようにいずれの場合もセシウムイオンの吸着担体の調整、吸着後の処理担体の排水中からの分離、および放射性セシウムを含む放射性物質の二次廃棄物を減量化する必要性などに問題点がある。
【0014】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、排水中や土壌中から放射性セシウムを含む塩などを可及的に効率よく簡便に回収できる吸着性素材であって、回収されたものの減容性にも優れたものとし、すなわち、放射性セシウムを効率よく集め、しかも可及的に簡易な処理で効率よく減容化して小体積で保管などの処理ができる放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の発明者らは、放射性セシウムイオンをフェロシアン化鉄(III)などのフェロシア
ン酸塩化合物が、効率よく吸着して系外に分離・回収でき、しかも低コストで処理可能であり、簡便なプロセスで処理できる可能性のある点に着目して鋭意研究を重ねた結果、自由に変形可能で表面積が広く、しかも水の通過容易な布状の材質(布帛)を選択し、この布状材質にフェロシアン酸塩化合物を担持させ、セシウムイオンを含む流体中を移動、あるいは常置させて当該イオンを吸着させた後、布状材質を回収することにより発明を完成させたものである。
【0016】
すなわち、上記した課題を解決するために、この発明では、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持した繊維素材からなる透水性の編織布または不織布からなる放射性セシウム吸着性布帛としたのである。
【0017】
これにより布帛を構成する繊維に対し、気体や液体によく接触する状態に保持された粒子状のフェロシアン酸塩化合物は、効率よく放射性セシウムを含む塩などを回収し、しか
も回収後は、布帛を焼却または溶解または生分解させるなどにより、減容を簡便に行なえる。
【0018】
上記した担持が、繊維間隙に浸入した微粒子状のフェロシアン酸塩化合物同士が凝集することにより粒径の増大した二次粒子の担持であることにより、繊維間に粒子径の増大したフェロシアン酸塩化合物を埋め込むようにして、その保持を確実にすることができる。
【0019】
また、繊維素材が、塩基性基を有する羊毛またはナイロン繊維からなり、フェロシアン化物および2価の金属塩との化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を担持した繊維素材であることによって、繊維に対して結合力が高く、フェロシアン酸塩化合物を担持することができる。
【0020】
また、透水性の編織布または不織布が、水透過性の高分子膜で被覆されている上記の放射性セシウム吸着性布帛とすることにより、布帛上の微粒子状のフェロシアン酸塩化合物の摩擦堅牢性が高められ、しかも処理水中でセシウムイオンとの接触性も妨げられないものになる。
【0021】
また、上記した放射性セシウム吸着性布帛の製造方法としては、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を液中に無機凝集剤存在下で超音波照射により微分散させ、この分散液を編織布または不織布からなる繊維素材に含浸して繊維間隙に前記フェロシアン酸塩化合物を浸入させ、その後、前記微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を凝集させて二次粒子を繊維間隙に絡ませることにより繊維素材に担持させることからなる放射性セシウム吸着性布帛の製造方法を採用することが、フェロシアン酸塩化合物を効率よく確実に布帛に担持させるために好ましい。
【発明の効果】
【0022】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛よれば、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持する透水性の繊維素材からなる布帛としたので、排水中や土壌中から放射性セシウムを含む塩などを可及的に効率よく簡便に回収できる吸着性素材となり、しかも回収されたものの減容性にも優れたものとなる利点がある。
【0023】
また、上記放射性セシウム吸着性布帛の製造方法によれば、放射性セシウムを効率よく集め、しかも可及的に簡易な処理で効率よく減容化され小体積で保管できる物およびその製造方法になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の使用状態を示し、放射性セシウム吸着性布帛を用いた放射性セシウム分離・回収装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に用いる微粒子状のフェロシアン酸塩化合物は、一般式として、XY[Fe(CN)(式中、XはNH,NaまたはKであり、YはFe,Cu,Ni,CoまたはZnであり、n=1〜3である。)とも表わされ、そのうち代表的な化合物であるフェロシアン化鉄(III)、(NH)Fe[Fe(CN)]は、水に不溶の微粒子(0.
05〜0.1μm)である。
【0026】
このようなフェロシアン化鉄(III)の放射性セシウムであるセシウムイオン(Cs
についての吸着機構は、未だ充分に明確にされていないが、フェロシアン化鉄(III)のN
イオン(上式)とイオン交換で置き換わるという説、またはフェロシアン化鉄の結晶構造の空孔の中に選択的に取り込まれるという説があり、これまでの水処理実験や医薬
品としての除去効果からセシウムイオンがフェロシアン化鉄(III)に取り込まれる事実は
明らかである。
【0027】
このようなフェロシアン酸塩化合物を担持できる材質としては、表面積が広く、水通過性のあることから布帛を採用するが、布帛は有機、無機の繊維からなる織物、編み物、不織布から選択されるものである。例えば、天然繊維である綿、羊毛、絹、麻なども採用できるものであり、これらはフェロシアン酸塩化合物が安定的に担持される限り、特に種類を問わずに採用できる。
【0028】
合成高分子であるポリエステル繊維、ナイロン、アクリロニトリル繊維など布状の形態をもつ合成高分子も同様に採用できる。合成高分子からなる極細繊維から製造される織物、編み物、不織布もこの課題解決の最適の材質として選ばれる。無機物質であるガラス繊維や上記の各繊維からなる混合した複合繊維からなる布状の形態であってもよい。
【0029】
また、フェロシアン酸塩化合物として代表的なフェロシアン化鉄(III)は、化学構造
からみても中性で無機の顔料であり、水に不溶の微粒子である。このものは種々の繊維高分子に対して何らの相互作用を持たないので、顔料捺染に順じた糊剤あるいはバインダーを用いて繊維上に固着して処理水中に遊離するのを防ぐことが好ましい。
【0030】
しかし、この方法は糊剤またはバインダーによりフェロシアン化鉄が蔽われ、セシウムの接触が妨げられる欠点があるため、布帛上の微粒子の摩擦堅ろう性を高めるために、ゼラチン、寒天、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性の高分子を塗布、ゲル化することによって水透過性膜を形成し、この問題を解決することができる。
【0031】
上記方法に加えて、フェロシアン化鉄(III)を布帛の繊維の間隙に安定的に存在させる
ために、粒子の細かな分散液が繊維間の間隙に入った後、粒子の会合(凝縮)による粒子サイズの増大により布帛内に埋め込むことのできるアンカー効果を発揮させて、バインダーなどの高分子糊剤を使うことなく担持、すなわち固定化させることができる。
【0032】
粒子の細かな分散液の調製のためには、超音波照射、分散剤、凝集剤を採用することもでき、これら分散手段を活用することにより、分散状態の細かな一次粒子を布帛の繊維間隙に浸入させ、さらに一次粒子を凝集させて二次粒子を成長させ、すなわち繊維間隙より大きな粒子サイズの調製によりフェロシアン酸塩化合物粒子の繊維間への固定化を可能にした。
【0033】
また、布帛の繊維素材が、塩基性基を有する羊毛またはナイロン繊維からなる場合、繊維とフェロシアン化物および2価の金属塩との化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を化学的に繊維に結合させることにより担持した繊維素材としても良い。
【0034】
すなわち、塩基性基を有するウールやナイロン繊維を酸性下でフェロシアン化物(Na,K塩)を反応させた後、Ni,Co,Cu,Znの2価の金属塩を作用させて得られる担持の方法である。この方法によれば、先に示したフェロシアン酸塩化合物の構造式においてXY[Fe(CN)]nのYのFeの代わりにNi,Co,Cu,Znの導入も可能にする。
【0035】
上記した方法は、繊維上の塩基性基が酸性下で陽性化されたグループとフェロシアン化物([Fe(CN))とのイオン反応であり、次に続く2価の金属塩との反応によるフェロシアン酸塩化合物の生成反応であるので、ウールやナイロンに限定することはなく、繊維上に適当な塩基性基をもっている布帛であればよい。
【0036】
また、上記した方法は、ウールやナイロン繊維以外の繊維製布帛に対しても採用することができ、例えばカチオン化助剤によって布帛の繊維高分子がカチオン化し、フェロシアン化物(Na,K塩)と反応する布帛であってもよい。
【0037】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛によれば、セシウムイオンを含む環境中に、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛を配置することによって、セシウムイオンを捕集することができる。布帛は、すなわち布状であるので自由に変形可能であり、また、切断も可能であるので、水中、土壌中、地表面など目的に応じた配置が可能である。
【0038】
そして、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛をセシウムイオンが通過する流れの中に常置してセシウムイオンを選択的に捕集し、その後、吸着したセシウムイオンを含む布帛を回収することにより、新規なセシウムイオン分離・回収方法を提供できる。
また、この発明の放射性セシウム吸着性布帛を使用すると、大量の処理排水を短時間での処理が可能になる。
【0039】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛を用いたセシウムイオンの分離・回収方法は、布状の繊維構造体が、フェロシアン酸塩化合物を担持(固定化)した布帛からなるので、フェロシアン酸塩化合物を保持した布帛を排水中、土壌中、地表面上に移動、あるいは常置して、水中のセシウムイオンが布帛内を通過する際にフェロシアン酸塩化合物との反応あるいはイオン交換によって分離・捕捉され、布帛を回収することによって目的を達することができる。
【0040】
この発明にかかるフェロシアン酸塩化合物を担持(固定化)した布帛は前もって染色工場、捺染工場、製紙工場などにおいて製造され、ロール状あるいは板状として現場に搬送される。
【0041】
実施形態の放射性セシウム吸着性布帛の使用状態の例として、放射性セシウムイオンの分離・回収方法および装置を、以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、放射性セシウムイオンの分離・回収装置は、放射性セシウムを含有する被処理水Aの導入される上流側の被処理水の貯水槽1と、下流側に配置される処理済水Bの貯水槽2との間に、吸着処理槽3を設け、この吸着処理槽3内に、この槽内の被処理水A´の流れ(図中の水流を白抜きの矢印で示す。)を横切って可及的に多くの水流を受けるように、被処理水中に連続する帯状の放射性セシウム吸着性布帛(以下、単に布帛と称する。)4をジグザク状になるよう配置した複数対のガイドローラ8に巻き掛けている。
【0042】
図1中の装置を詳細に説明すると、セシウムイオンを含む被処理水Aは、図外から導入されて貯水槽1に貯留され、さらにバルブ弁5を介して吸着処理槽3に導入される。一方、反対側(下流側)からは、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛4が、ロール4aの状態から巻き戻されて吸着処理槽3の被処理水A´の水面下に導入され、必要に応じて水中および水面上まで繰り返し上下に移動して最後に絞りロール(マングル)6を介して脱水されてロール4bの状態に巻き取られ、これは図中鎖線に示すように、放射性セシウムを吸着した布帛4´として分離回収される。
【0043】
被処理水中のセシウムイオンは、布帛4を構成する不織布または編織布を構成する繊維の間隙を通って移動する際に、繊維に担持されているフェロシアン酸塩化合物と反応し、またはイオン交換されて布帛4に捕捉される。
なお、被処理水の入り口と、出口にはセシウムイオン濃度を検知するセンサー7が設置され、排水量、布帛の移動速度が制御されている。
【0044】
また、図示は省略したが、他の実施形態として、適当なサイズに裁断されたフェロシアン酸塩化合物を担持した布帛を土中2〜30cmの深さに平らに並べて任意の期間保持してもよい。
【0045】
この場合、土壌中のセシウムは、水中への溶出と共にフェロシアン酸塩化合物を担持した布帛に捕集され、分離・回収される。放射線セシウムは、フェロシアン酸化合物との反応によりより安定した化合物を形成し、地下水への漏出と植物の根への吸収が抑えられる。
【0046】
放射性セシウムイオンを含む排水や土壌処理水の場合、分離回収された布帛は、燃焼させて充分に減量(減容)化することができ、その際に生じた放射性セシウムイオンを含む焼却灰は、別途安全に保管される。
【0047】
すなわち、この発明の放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法によれば、従来の処理技術に比べて、処理方法の簡便さ、設備設置上での小スペース化、低い設備コスト、低ランニングコスト、巻き取られた布帛の焼却による容易な減量化を可能にすること、および実用面でも優れた効果を発揮することができる。
【0048】
そして、放射性セシウムイオンを選択的に吸着するフェロシアン酸塩化合物を担持させた布帛を、セシウムを含む環境中(排水、土壌、地表面など)を強制移動させるか、または静置することにより、セシウムイオンを吸着して分離し、セシウムを含む布帛全体を回収することにより上記した従来の処理における問題を解決できる。処理方法が簡単であるため、コストが大幅に低減し、布帛の焼却による減量化も容易である。
【実施例1】
【0049】
[フェロシアン酸塩化合物を担持(固定化)した布帛の調製(製造)方法]
フェロシアン化鉄の1%懸濁液200mlに硫酸アルミニウム8%溶液2mlを加えた混合溶液は速やかに凝集して沈下した。この凝集液を超音波照射し、フェロシアン化鉄(III)を微分散させ、見かけ上溶解した状態にした。この懸濁溶液にポリエステル不織布6
gを加えてしばらく撹拌し、そのまま静置した。不織布の表面の顔料を硫酸アルミニウムの希釈水溶液で流し落とし、そのまま乾燥して調製した。濃青色の不織布中のフェロシアン化鉄(III)の含量は、5.5%であった。
【実施例2】
【0050】
[フェロシアン化鉄の摩擦堅ろう性を必要とする布帛の調製(製造)方法]
実施例1の布帛に1〜2%のゼラチン水溶液を塗布した後、グルタルアルデヒド1%の架橋剤で処理した。
【実施例3】
【0051】
[フェロシアン化鉄の摩擦堅ろう性を必要とする布帛の調製(製造)方法]
実施例1の布帛に0.5%のアルギン酸ナトリウム水溶液を塗布した後、塩化カルシウム水溶液で処理をして不溶性の膜を生成させた。
【実施例4】
【0052】
[化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を結合した繊維素材]
羊毛生地4.4gを蓚酸酸性(pH 2.76,150ml)水溶液中に入れ、90−100℃で1時間加熱処理した後、この溶液に室温下でフェロシアン化ナトリウム(Na[Fe(CN)・10HO])2.1g、硫酸ソーダ(NaSO)の1.0gを加えて溶解して、室温下で一晩、放置した。次に、この処理布を硫酸ニッケル(NiSO・6HO)1.4gを溶解した水溶液150mlに入れ、80〜90℃で加熱する
と、緑色に着色した布帛が得られた。これは、Wool−NH+-[Fe(CN)
NiNaの化学構造を持つものと推測された。
【0053】
[実施例4で得られた布帛によるセシウムの吸着実験]
1cm角に切り取った布帛、0.49g、2.05gをポリプロピレン(PP)製ねじ口瓶にそれぞれはかり取り、塩化セシウム水溶液(セシウムとして10.0mg/L)50mlを加え、密栓後に良く振り混ぜた。1時間後のセシウム濃度は、ICP質量分析により測定したところ、それぞれ6.15mg/L,0.97mg/Lに減少していた。
【符号の説明】
【0054】
1、2 貯水槽
3 吸着処理層
4、4´ 放射性セシウム吸着性布帛
5、5´ バルブ弁
6 絞りロール
7、7´ センサー
8 ガイドローラ
A 被処理水
B 処理済水
図1
【手続補正書】
【提出日】2017年2月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊毛からなる透水性の編織布または不織布の繊維間隙に、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を浸入させて担持させる放射性セシウム吸着性布帛の製造方法において、
前記羊毛に酸性下でフェロシアン化物をイオン結合反応させた後、2価の金属塩を化合させることによりフェロシアン酸塩化合物を前記羊毛に担持させることを特徴とする放射性セシウム吸着性布帛の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性核種である放射性セシウムに対して吸着性を有し、水中や土壌などから放射性セシウムイオンを捕集および回収し、その処理を可能にする放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セシウム(Cs)は、自然界では少なくとも39種類の同位体を有し、その大半は放射性を示さないものであるが、原子力発電の燃料に使うウランなどが核分裂反応を起こして生成される放射性セシウムと呼ばれるセシウム137は、長い半減期(およそ30年)に応じて放射線を放出し続けて人体に悪影響を及ぼすため、生活環境から排除する必要がある。
【0003】
フェロシアン化鉄(III)は、このような放射性セシウムに対する吸着性を有する物質として知られており、近年、原子力発電所の放射能漏れ事故によって放出された放射性セシウムの結合剤(体外除去剤)としても知られている。
【0004】
また、フェロシアン化鉄(III)は、フェロシアン酸塩化合物の一つとして、青色の無機の顔料であって、紺青、プロシアンブルー、ミロリブルー、ベルリンブルーなど多くの慣用名がある。これは、古くから藍色、紺色の顔料として塗料、印刷インキ、絵具に使用されてきた物質でもある。
また、フェロシアン化鉄(III)は、放射性物質の処理施設において、放射性セシウムイオンの捕捉剤として凝集沈殿処理剤と併用されることが知られている。
【0005】
フェロシアン酸塩化合物を担体に固定する態様については、イオン交換樹脂上への固定(非特許文献1、2)、ポリアクリルニトリル上にイオン結合を介してフェロシアン酸塩化合物を固定すること(非特許文献3)や、キレ−ト化剤を介して有機あるいは無機高分子に固定してセシウムイオンを分離可能にする(非特許文献4、5)ことが知られている。また、アクリル繊維上にフェロシアン酸塩化合物を生成させ、固定化することも知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−62032号公報
【特許文献2】特公平7−22699号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.J.Won, J.K.Moon, C.H.Jung, and W.Y.Chung, Nucl.Eng.& Tech., 40, 489(2008)
【非特許文献2】K.Watari, K.Imai, Y.Ohmomo, Y.Muramatsu, Y.Nishimura, M.Izawa, and L.R.Baules, J.Nucl.Sci.Tech., 25, 5(1988)
【非特許文献3】H.H.Someda, A.A.EIZahhar, M.K.Shehata, and H.A.EI-Nagger, Separation and Purification Tech., 29, 1(2002)
【非特許文献4】T.D.Clarke and C.M.Wai, Anal.Chem.,1998, 70(17), pp3708-3711
【非特許文献5】Chunqing Liu, Yongqing Huang, Nathaniel Naismith, and James Economy, Environ.Sci. Technol., 2003,37(18), pp4261-4268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、セシウムイオンを吸着するフェロシアン化鉄(III)は、非常に細かな微粒子であるので、セシウムイオンの吸着後に水中などから分離・回収するのは容易なことではない。
【0009】
例えば、従来の放射性セシウムイオンの分離・回収方法である凝集沈殿法、無機担体による吸着法では、被吸着物であるセシウムイオン本体以外の狭雑物が大量に発生して、その二次廃棄物の処理方法の複雑さにより高コストになる。すなわち、現場で操作する際の薬剤の処理、汚泥の処理、吸着担体の分離、回収が容易ではないことおよびそれらの減量化の困難さに起因する問題点がある。
【0010】
また、イオン結合、キレ−ト結合を介して高分子にフェロシアン酸塩化合物を固定する粒子や塊状の繊維からなる担体は、安定した吸着担体であるが、充填塔にこれらの担体を詰めてセシウムイオンを吸着させる必要があるので、大量のセシウムイオンに対する吸着・分離・回収処理には煩雑で高コストになり適当なものではない。
【0011】
また、セシウムイオンの吸着後のフェロシアン化鉄(III)の分離方法としては、無機凝集剤、高分子凝集剤を併用して共沈作用によって分離する方法が採用されるが、この方法は大容量の排水処理には適するが、薬剤のコストや水含有率の高い汚泥(二次破棄物)の処理に高額のコストが必要であり好ましくない。
【0012】
放射性セシウムイオンの除去に無機担体であるゼオライトが使われる場合もあるが、大量の処理水の場合、放射性物質の吸着したゼオライト廃棄物(二次廃棄物)の量が多くなるという問題点がある。
【0013】
このようにいずれの場合もセシウムイオンの吸着担体の調整、吸着後の処理担体の排水中からの分離、および放射性セシウムを含む放射性物質の二次廃棄物を減量化する必要性などに問題点がある。
【0014】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、排水中や土壌中から放射性セシウムを含む塩などを可及的に効率よく簡便に回収できる吸着性素材であって、回収されたものの減容性にも優れたものとし、すなわち、放射性セシウムを効率よく集め、しかも可及的に簡易な処理で効率よく減容化して小体積で保管などの処理ができる放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の発明者らは、放射性セシウムイオンをフェロシアン化鉄(III)などのフェロシアン酸塩化合物が、効率よく吸着して系外に分離・回収でき、しかも低コストで処理可能であり、簡便なプロセスで処理できる可能性のある点に着目して鋭意研究を重ねた結果、自由に変形可能で表面積が広く、しかも水の通過容易な布状の材質(布帛)を選択し、この布状材質にフェロシアン酸塩化合物を担持させ、セシウムイオンを含む流体中を移動、あるいは常置させて当該イオンを吸着させた後、布状材質を回収することにより発明を完成させたものである。
【0016】
すなわち、上記した課題を解決するために、この発明では、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持した繊維素材からなる透水性の編織布または不織布からなる放射性セシウム吸着性布帛としたのである。
【0017】
これにより布帛を構成する繊維に対し、気体や液体によく接触する状態に保持された粒子状のフェロシアン酸塩化合物は、効率よく放射性セシウムを含む塩などを回収し、しかも回収後は、布帛を焼却または溶解または生分解させるなどにより、減容を簡便に行なえる。
【0018】
また、繊維素材が、塩基性基を有する羊毛またはナイロン繊維からなり、フェロシアン化物および2価の金属塩との化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を担持した繊維素材であることによって、繊維に対して結合力が高く、フェロシアン酸塩化合物を担持することができる。
【0019】
また、透水性の編織布または不織布が、水透過性の高分子膜で被覆されている上記の放射性セシウム吸着性布帛とすることにより、布帛上の微粒子状のフェロシアン酸塩化合物の摩擦堅牢性が高められ、しかも処理水中でセシウムイオンとの接触性も妨げられないものになる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛よれば、微粒子状のフェロシアン酸塩化合物を繊維間隙に浸入させて担持する透水性の繊維素材からなる布帛としたので、排水中や土壌中から放射性セシウムを含む塩などを可及的に効率よく簡便に回収できる吸着性素材となり、しかも回収されたものの減容性にも優れたものとなる利点がある。
【0021】
また、上記放射性セシウム吸着性布帛の製造方法によれば、放射性セシウムを効率よく集め、しかも可及的に簡易な処理で効率よく減容化され小体積で保管できる物およびその製造方法になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の使用状態を示し、放射性セシウム吸着性布帛を用いた放射性セシウム分離・回収装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に用いる微粒子状のフェロシアン酸塩化合物は、一般式として、XY[Fe(CN)(式中、XはNH,NaまたはKであり、YはFe,Cu,Ni,CoまたはZnであり、n=1〜3である。)とも表わされ、そのうち代表的な化合物であるフェロシアン化鉄(III)、(NH)Fe[Fe(CN)]は、水に不溶の微粒子(0.05〜0.1μm)である。
【0024】
このようなフェロシアン化鉄(III)の放射性セシウムであるセシウムイオン(Cs)についての吸着機構は、未だ充分に明確にされていないが、フェロシアン化鉄(III)のNHイオン(上式)とイオン交換で置き換わるという説、またはフェロシアン化鉄の結晶構造の空孔の中に選択的に取り込まれるという説があり、これまでの水処理実験や医薬品としての除去効果からセシウムイオンがフェロシアン化鉄(III)に取り込まれる事実は明らかである。
【0025】
このようなフェロシアン酸塩化合物を担持できる材質としては、表面積が広く、水通過性のあることから布帛を採用するが、布帛は有機、無機の繊維からなる織物、編み物、不織布から選択されるものである。例えば、天然繊維である綿、羊毛、絹、麻なども採用できるものであり、これらはフェロシアン酸塩化合物が安定的に担持される限り、特に種類を問わずに採用できる。
【0026】
また、布帛の繊維素材が、塩基性基を有する羊毛またはナイロン繊維からなる場合、繊維とフェロシアン化物および2価の金属塩との化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を化学的に繊維に結合させることにより担持した繊維素材としても良い。
【0027】
すなわち、塩基性基を有するウールやナイロン繊維を酸性下でフェロシアン化物(Na,K塩)を反応させた後、Ni,Co,Cu,Znの2価の金属塩を作用させて得られる担持の方法である。この方法によれば、先に示したフェロシアン酸塩化合物の構造式においてXY[Fe(CN)]nのYのFeの代わりにNi,Co,Cu,Znの導入も可能にする。
【0028】
上記した方法は、繊維上の塩基性基が酸性下で陽性化されたグループとフェロシアン化物([Fe(CN))とのイオン反応であり、次に続く2価の金属塩との反応によるフェロシアン酸塩化合物の生成反応であるので、ウールやナイロンに限定することはなく、繊維上に適当な塩基性基をもっている布帛であればよい。
【0029】
また、上記した方法は、ウールやナイロン繊維以外の繊維製布帛に対しても採用することができ、例えばカチオン化助剤によって布帛の繊維高分子がカチオン化し、フェロシアン化物(Na,K塩)と反応する布帛であってもよい。
【0030】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛によれば、セシウムイオンを含む環境中に、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛を配置することによって、セシウムイオンを捕集することができる。布帛は、すなわち布状であるので自由に変形可能であり、また、切断も可能であるので、水中、土壌中、地表面など目的に応じた配置が可能である。
【0031】
そして、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛をセシウムイオンが通過する流れの中に常置してセシウムイオンを選択的に捕集し、その後、吸着したセシウムイオンを含む布帛を回収することにより、新規なセシウムイオン分離・回収方法を提供できる。
また、この発明の放射性セシウム吸着性布帛を使用すると、大量の処理排水を短時間での処理が可能になる。
【0032】
この発明の放射性セシウム吸着性布帛を用いたセシウムイオンの分離・回収方法は、布状の繊維構造体が、フェロシアン酸塩化合物を担持(固定化)した布帛からなるので、フェロシアン酸塩化合物を保持した布帛を排水中、土壌中、地表面上に移動、あるいは常置して、水中のセシウムイオンが布帛内を通過する際にフェロシアン酸塩化合物との反応あるいはイオン交換によって分離・捕捉され、布帛を回収することによって目的を達することができる。
【0033】
この発明にかかるフェロシアン酸塩化合物を担持(固定化)した布帛は前もって染色工場、捺染工場、製紙工場などにおいて製造され、ロール状あるいは板状として現場に搬送される。
【0034】
実施形態の放射性セシウム吸着性布帛の使用状態の例として、放射性セシウムイオンの分離・回収方法および装置を、以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、放射性セシウムイオンの分離・回収装置は、放射性セシウムを含有する被処理水Aの導入される上流側の被処理水の貯水槽1と、下流側に配置される処理済水Bの貯水槽2との間に、吸着処理槽3を設け、この吸着処理槽3内に、この槽内の被処理水A´の流れ(図中の水流を白抜きの矢印で示す。)を横切って可及的に多くの水流を受けるように、被処理水中に連続する帯状の放射性セシウム吸着性布帛(以下、単に布帛と称する。)4をジグザク状になるよう配置した複数対のガイドローラ8に巻き掛けている。
【0035】
図1中の装置を詳細に説明すると、セシウムイオンを含む被処理水Aは、図外から導入されて貯水槽1に貯留され、さらにバルブ弁5を介して吸着処理槽3に導入される。一方、反対側(下流側)からは、フェロシアン酸塩化合物を担持した布帛4が、ロール4aの状態から巻き戻されて吸着処理槽3の被処理水A´の水面下に導入され、必要に応じて水中および水面上まで繰り返し上下に移動して最後に絞りロール(マングル)6を介して脱水されてロール4bの状態に巻き取られ、これは図中鎖線に示すように、放射性セシウムを吸着した布帛4´として分離回収される。
【0036】
被処理水中のセシウムイオンは、布帛4を構成する不織布または編織布を構成する繊維の間隙を通って移動する際に、繊維に担持されているフェロシアン酸塩化合物と反応し、またはイオン交換されて布帛4に捕捉される。
なお、被処理水の入り口と、出口にはセシウムイオン濃度を検知するセンサー7が設置され、排水量、布帛の移動速度が制御されている。
【0037】
また、図示は省略したが、他の実施形態として、適当なサイズに裁断されたフェロシアン酸塩化合物を担持した布帛を土中2〜30cmの深さに平らに並べて任意の期間保持してもよい。
【0038】
この場合、土壌中のセシウムは、水中への溶出と共にフェロシアン酸塩化合物を担持した布帛に捕集され、分離・回収される。放射線セシウムは、フェロシアン酸化合物との反応によりより安定した化合物を形成し、地下水への漏出と植物の根への吸収が抑えられる。
【0039】
放射性セシウムイオンを含む排水や土壌処理水の場合、分離回収された布帛は、燃焼させて充分に減量(減容)化することができ、その際に生じた放射性セシウムイオンを含む焼却灰は、別途安全に保管される。
【0040】
すなわち、この発明の放射性セシウム吸着性布帛およびその製造方法によれば、従来の処理技術に比べて、処理方法の簡便さ、設備設置上での小スペース化、低い設備コスト、低ランニングコスト、巻き取られた布帛の焼却による容易な減量化を可能にすること、および実用面でも優れた効果を発揮することができる。
【0041】
そして、放射性セシウムイオンを選択的に吸着するフェロシアン酸塩化合物を担持させた布帛を、セシウムを含む環境中(排水、土壌、地表面など)を強制移動させるか、または静置することにより、セシウムイオンを吸着して分離し、セシウムを含む布帛全体を回収することにより上記した従来の処理における問題を解決できる。処理方法が簡単であるため、コストが大幅に低減し、布帛の焼却による減量化も容易である。
【実施例】
【0042】
実施例1:化学反応により生成したフェロシアン酸塩化合物を結合した繊維素材]
羊毛生地4.4gを蓚酸酸性(pH 2.76,150ml)水溶液中に入れ、90−100℃で1時間加熱処理した後、この溶液に室温下でフェロシアン化ナトリウム(Na[Fe(CN)・10HO])2.1g、硫酸ソーダ(NaSO)の1.0gを加えて溶解して、室温下で一晩、放置した。次に、この処理布を硫酸ニッケル(NiSO・6HO)1.4gを溶解した水溶液150mlに入れ、80〜90℃で加熱すると、緑色に着色した布帛が得られた。これは、Wool−NH+-[Fe(CN)]NiNaの化学構造を持つものと推測された。
【0043】
[実施例で得られた布帛によるセシウムの吸着実験]
1cm角に切り取った布帛、0.49g、2.05gをポリプロピレン(PP)製ねじ口瓶にそれぞれはかり取り、塩化セシウム水溶液(セシウムとして10.0mg/L)50mlを加え、密栓後に良く振り混ぜた。1時間後のセシウム濃度は、ICP質量分析により測定したところ、それぞれ6.15mg/L(減少率:38.5%),0.97mg/L(減少率:90.3%)に減少していた。
【符号の説明】
【0044】
1、2 貯水槽
3 吸着処理層
4、4´ 放射性セシウム吸着性布帛
5、5´ バルブ弁
6 絞りロール
7、7´ センサー
8 ガイドローラ
A 被処理水
B 処理済水