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特開2017-99393新規細菌および細菌の抽出物並びに使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-99393(P2017-99393A)
(43)【公開日】2017年6月8日
(54)【発明の名称】新規細菌および細菌の抽出物並びに使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20170512BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20170512BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20170512BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170512BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20170512BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170512BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20170512BHJP
   C12R 1/36 20060101ALN20170512BHJP
【FI】
   C12N1/20 AZNA
   C12N1/20 A
   C12N1/20 E
   A61K35/74 A
   A61K35/74 B
   A61P17/06
   A61P17/02
   A61P17/04
   A61P29/00
   A61K37/02
   C12N1/20 A
   C12R1:36
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-3631(P2017-3631)
(22)【出願日】2017年1月12日
(62)【分割の表示】特願2013-545395(P2013-545395)の分割
【原出願日】2011年12月22日
(31)【優先権主張番号】1061081
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】FR
(71)【出願人】
【識別番号】500166231
【氏名又は名称】ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】502381140
【氏名又は名称】ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シジェム)
(71)【出願人】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、ルバロン
(72)【発明者】
【氏名】ミュリエル、ブーレン
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー、カステス‐リッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ティエン、グエン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BA22
4B065BD16
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084BA05
4C084BA22
4C084CA04
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC50
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炎症性疾患、とりわけ皮膚科学的病理の治療および予防を対象とした新規組成物の提供。
【解決手段】地下水から単離されたベータプロテオバクテリア綱、ナイセリア科の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌であって、該細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列が特定の配列であり、1つのプラスミドを含み、非線維状である非病原性グラム陰性細菌。また、該細菌の抽出物を含む組成物であって、炎症性疾患、特に皮膚科学的病理の治療および予防を対象とする新規組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータプロテオバクテリア綱、ナイセリア科の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌であって、該細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列が配列番号1の配列を含む、非病原性グラム陰性細菌。
【請求項2】
配列番号2の配列または配列番号2と少なくとも80%の同一性を有する配列を含んでなる少なくとも1つのプラスミドを含んでなる、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
非線維状である、請求項1または2に記載の細菌。
【請求項4】
CNCMに寄託番号I−4290として2010年4月8日に寄託された、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌または他の変異体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の細菌の懸濁液から得られる細菌抽出物。
【請求項6】
細胞内成分を除去する方法で細菌の懸濁液を処理した後に得られる、請求項5に記載の細菌抽出物。
【請求項7】
細胞内成分が少なくとも核酸を含む、請求項6に記載の細菌抽出物。
【請求項8】
少なくとも膜タンパク質、ペリプラズムタンパク質および鞭毛から生じるタンパク質を含んでなるE0フラクションを含む、請求項6または7に記載の細菌抽出物。
【請求項9】
膜タンパク質が、ポリン、OmpA、リポポリサッカライドおよび/またはリポタンパク質からなる、請求項8に記載の細菌抽出物。
【請求項10】
少なくとも分泌ペプチドおよびタンパク質並びに二次代謝物を含むS0フラクションを含む、請求項6または7に記載の細菌抽出物。
【請求項11】
少なくともE0フラクションおよびS0フラクションを含んでなるES0フラクションを含む、請求項6または7に記載の細菌抽出物。
【請求項12】
それぞれ30kDa〜36kDa、41kDa〜45kDaおよび47kDa〜51kDaの範囲の分子量に対応する3つの主要なバンドを含む、SDS−PAGEにより得られるタンパク質プロフィールを有するES0フラクションを含む、請求項11に記載の細菌抽出物。
【請求項13】
TLR2、TLR4およびTLR5の活性化を意図した組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細菌、および/または、請求項5〜9および12のいずれか一項に記載の細菌抽出物の使用。
【請求項14】
PAR2アンタゴニスト組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細菌、および/または、請求項10若しくは12に記載の細菌抽出物の使用。
【請求項15】
皮膚科学的炎症性障害の治療および/または予防を意図した組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細菌、および/または、請求項5〜12のいずれか一項に記載の細菌抽出物の使用。
【請求項16】
皮膚科学的炎症性障害が、アトピー皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬からなる、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
少なくとも、請求項1〜4のいずれか一項に記載の1種の細菌、および/または、請求項5〜12のいずれか一項に記載の1種の細菌抽出物を有効成分として含んでなる組成物。
【請求項18】
皮膚科学的炎症性障害の治療のための請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
皮膚科学的炎症性障害が、アトピー皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬からなる、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
1以上の典型的な皮膚科学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項17〜19のいずれか一項に記載の化粧用または皮膚科学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水から単離された新規細菌株に関する。本発明は、細菌抽出物および炎症の治療上のその使用にも関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、炎症性疾患、とりわけ皮膚科学的病理の治療および予防を対象とした新規組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
アトピー性皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬などの皮膚科学的疾患は、小児において増加的に頻発している。アトピー性皮膚炎の有病率は、発展途上国において過去30年で2〜3倍になった:15〜30%の子どもおよび2〜10%の成人が冒されている(Williams H. et al., JACI 2006; 118:209-13)。アトピー性皮膚炎は、アトピーの皮膚における症状であり;遺伝学的決定要因群により生じる慢性炎症性皮膚炎また湿疹である。現在では、主要な公衆衛生の問題として考えられている。アトピー性皮膚炎は、しばしばアレルギー性鼻炎および喘息などの他のアトピー性障害を伴う。この疾患は、幼児期に最も頻繁に現れ、数年にわたり繰り返し発症することを特徴とする。これは急激に進展し、自然な寛解により妨げられる。
【0004】
アトピー性皮膚炎に苦しむ患者のQOLは、大いに影響を受ける。許容された処置としては、局所的コルチコステロイドおよび免疫調節剤、頻発する副作用が長期使用に限られる全身性薬剤および皮膚軟化剤が挙げられる。現在の治療は、よく効く−発症の処置−であるが、しかし、発症および皮膚炎の制御に焦点をおいた早期介入が、疾患の制御と喘息および/または鼻炎の潜在的発症の両方の制御の観点で有利であり(Bieber, T. 2008, Atopic dermatitis, The New England Journal of Medicine, vol. 358(14) 1483-1494)、アトピー性皮膚炎はアトピー進行の早期段階と考えられている。多くの場合、処置は、患者に最適な緩和を提供するために局所的成分を含む。
【0005】
アトピー性皮膚炎の標準的処置は、局所的コルチコステロイドまたは免疫抑制剤の使用であることは明白であるが、このような処置は特に子どもにおいて副作用を伴う。
【0006】
アトピー性皮膚炎は、複雑であり、多因子的である。文献によれば、ある疫学調査では、都市環境における「衛生」因子がアレルギーや自己免疫疾患を促進することが示されている。他方、人が微生物および/またはアレルゲンに恒常的に接触する農村環境では、そのような暴露が生まれてからの人の防御的免疫系を刺激する。
【0007】
アトピー性皮膚炎では、皮膚の遮蔽機能が弱まり阻害され、病原体(細菌、ウイルス)、特に、皮膚の片利共生細菌を圧倒することで知られる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の侵入および定着を促進する。
【0008】
免疫学的には、この問題は免疫応答の不均衡の一つである。アトピーは、アレルギー症状(IgE媒介性、サイトカインIL−4、IL−5、IL−13優性)またはTh2応答としてしばしば記載されている。後者は黄色ブドウ球菌の「抗原性刺激」の存在においてさらに強調される。免疫調節は、免疫の恒常的機能をTh1/ Th2均衡に戻すことである。
【0009】
自然免疫は、哺乳類の免疫応答のうち、一時的で、迅速な非特異的応答である。細胞の最初の防御障壁は、トル(Toll)様受容体(TLR)から構成されている。各TLRは、外来微生物から生じる核酸(TLR3)、ペプチド、表面タンパク質、リポテイコ酸(TLR2)、鞭毛(TLR5)およびリポポリサッカライド(TLR4)などの病原体関連分子パターン(PAMP)を特異的に認識する。あるモチーフ(アゴニスト)とTLRとの特異的な相互作用は、NFκBの転写とそれに続く炎症誘発性サイトカインおよび抗炎症サイトカイン並びにケモカインの産生に至る複雑な反応カスケードを開始させる(Kang et al., 2006)。他の薬学的に生じる結果は、病原体(細菌、ウイルス、寄生体)の増殖を阻害する能力を有する抗微生物ペプチド(AMP)の産生である(Glaser, R. et al. 2005, Nat. Immunol. 6:57-64)。
【0010】
アトピー性皮膚炎は、しばしば痒みおよび掻痒症を伴い、従って日常生活においては不快やいらだちを引き起こす(引掻き、睡眠損失など)。炎症性病理の原因の一つは、PAR2(プロテアーゼ活性化受容体2)と呼ばれるGタンパク質共役受容体の活性化による(Steinhoff, M. et al. 2003 J Neurosci. 23:6176-6180)。PAR2は、多くの細胞、特にケラチノサイト、内皮細胞、結腸筋細胞、腸細胞、腸神経細胞および免疫細胞の表面に発現する。表皮に豊富に存在するプロテアーゼ(トリプシン、トリプターゼ)は、PAR2をN末端で開裂させ、この同じ受容体を活性化させる特異なペプチドを露出させる(自己活性化現象)(Vergnolle, N. 2009 Pharmacol. Ther. 123:292-309)。この過程は、NFκB遺伝子の活性化とそれに続く炎症誘発性サイトカインの誘導を伴い、従って炎症を開始させる。この意味で、PAR2のアンタゴニストおよび/またはプロテアーゼ阻害剤の開発が掻痒症の病理を処置する高い可能性を有している。
【0011】
乾癬もまた、慢性進行を伴う皮膚炎症性疾患であり;人口の2%が患っている。アトピー性皮膚炎に加えて、乾癬も最も一般的な慢性皮膚炎症性疾患の一つである。乾癬は、炎症反応を伴う表皮細胞の異常な増殖を特徴とする。炎症現象の中心的なメカニズムは、Th1細胞優性の免疫系のT細胞の働きに関連し(Wilsmann-Theis, D. et al., Eur J Dermatol., vol. 18(2) 172-180)、炎症過程を開始させ維持し、ケラチノサイトの過剰な増殖を刺激し、それは亢進した不完全な分化段階を通して進行する。ケラチノサイトは、炎症シグナルに対してこれらを感受性にする受容体を発現し、炎症誘発性メディエーターを放出する。このように、掻痒症炎症は、T細胞およびケラチノサイトの相互の刺激により維持される。
【0012】
このように、この疾患は、長期にわたって処置されなければならない。従って、これらの炎症性皮膚疾患の治療的な代替に対するニーズと高い要求が存在する。
【0013】
アトピー性皮膚炎の処置のためのビトレオシラ・フィリホルミス(Vitreoscilla filiformis)(V. filiformis)の細菌抽出物の使用を記載する、特許書類EP2018891(Gueniche A., 2009)およびGueniche A. et al., 2006 (European Journal of Dermatology, 16, 4, 380-384)で言及がなされている。このような抽出物は、硫黄フリーのミネラルウォーターを含む培地で線維状細菌であるV. filiformisを培養する必要があるという不利益を有する。
【0014】
この意味で、本発明は、従来開示されたことのない、新規細菌の単離、性質特定およびフラクションによりこれらの炎症性障害の処置への解決策を提供する。
【発明の概要】
【0015】
まず最初に、そして驚くべきことに、本発明者らは地下水から新規細菌種に属する株を単離することに成功し、その細菌株(または細菌)はLMB64と命名された。
【0016】
この細菌LMB64は、単離された事実に加えて、ベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ナイセリア科(Neisseriaceae)の亜科に属するとして性質特定され定義されたが、この新規属は、おそらくいまだ定義されたことがない。16SリボソームRNA(rRNA)をコードする遺伝子配列の解析により、この細菌は、クロモバクテリウム属(Chiromobacterium)、パルディモナス属(Paludimonas)、ルテリア属(Lutelia)およびグルベンキアナ属(Glubenkiana)の近種であることが分かり、95%の配列相同性を有している。
【0017】
この非病原性細菌は、グラム陰性であり、実施例において詳細にわたり記載されている。この細菌は、非線維状であるという性質を有する。その上、この細菌は、どのようなタイプの水、特に通常の水を含む培地でも培養することができるという利点を有する。例として、V. filiformisと対比して、本発明の細菌LMB64の培養は、特定の培養条件を必要とせず、より具体的には、少なくとも硫黄フリーのミネラルウォーターおよび/または温泉水を含む培地を必要としない。このことは、培養条件および施設の点で、並びに、経済的観点で明白な利点を表す。
【0018】
16S rRNAをコードする遺伝子は、ほぼ完全に配列解読されている(1487bp、配列番号1の配列に対応)。細菌LMB64は、10948bpの環状プラスミドを有する。このプラスミドは、完全に配列解読され、配列番号2の配列中に示されている。
【0019】
第一の態様によれば、本発明は、ベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ナイセリア科(Neisseriaceae)の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌であって、その16S rRNAをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1の配列または配列番号1の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の同一性を有する核酸配列を含む、または含んでなる。
【0020】
好ましい態様では、本発明は、ベータプロテオバクテリア綱(Betaproteobacteria)ナイセリア科(Neisseriaceae)の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌であって、その細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1の配列を含む、または含んでなる。
【0021】
本発明では、二つの核酸配列の「同一性パーセンテージ」とは、最良なアラインメント(最適なアラインメント)の後に得られる、二つの比較する配列間での同一なヌクレオチドのパーセンテージを意味し、このパーセンテージは、純粋に統計学的なものであり、二つの配列間の相違はランダムに全長に渡り分布している。二つの核酸配列間の配列の比較は、最適にこれらを整列させた後にこれらの配列を比較することにより通常は行われ、比較は、セグメント毎にまたは「比較窓」毎に行われる。比較のための配列の最適なアラインメントは、手動で行うことに加えて、Smith and Waterman (1981) [Ad. App. Math. 2:482]の局所的相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch (1970) [J. Mol. Biol. 48:443]の局所的相同性アルゴリズムにより、Pearson and Lipman (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. The USA 85:2444]の同様の検索方法により、または、これらのアルゴリズムを用いたコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Group Computer, 575 Science Dr., Madison, WI、または、BLAST N若しくはBLAST P比較ソフトウェアのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により実施することができる。
【0022】
二つの核酸配列間の同一性パーセンテージは、最適に整列された二つの配列を比較することにより決定され、比較される核酸配列は、これら二つの配列間の最適アラインメントのための参照配列との関係で挿入または欠失を含み得る。同一性パーセンテージは、ヌクレオチドが二つの配列間で同一である箇所の数を決定することにより算出され、比較窓内で同一箇所の数を総箇所数で除算することおよび得られた結果に100を乗じてこれら二つの配列間での同一性パーセンテージを得ることにより算出される。
【0023】
例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlにおいて入手可能な「BLAST 2配列」プログラム(Tatusova et al., "Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences," FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)は、既定値のパラメータ(特にパラメータ「open gap penalty」:5および「extension gap penalty」:2とし;選択されるマトリックスは、例えば、プログラムにより提案される「BLOSUM 62」マトリックスである)で用い得るものであり、比較される二つの配列間の同一性パーセンテージは、プログラムにより直接的に算出される。「ALIGN」または「Megalign」ソフトウェア(DNASTAR)などの他のプログラムを用いることもできる。
【0024】
他の態様によれば、本発明の細菌は、配列番号2の配列または配列番号2の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の同一性を有する配列を含んでなる少なくとも1つのプラスミドを含む。
【0025】
好ましくは、細菌LMB64は、配列番号2の配列を含んでなる少なくとも1つのプラスミドを含む。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、細菌LMB64は、非線維状であることに特徴がある。
【0027】
細菌LMB64の他の特徴は、下記実施例に記載されている。
【0028】
さらに本発明の細菌LMB64は、ブタペスト条約に則って、寄託番号I−4290としてCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM)、パスツール研究所、パリに2010年4月8日に出願人の名義で寄託されている。
【0029】
従って本発明の一つの対象は、寄託番号I−4290としてCNCMに2010年4月8日に寄託された細菌、またはその類似体、子孫若しくは他の変異体である。
【0030】
用語「変異体」は、I−4290株から直接的に生じた細菌を意味し、例えば、細胞増殖に関連した組換え、細胞分裂(細菌の分裂またはDNA複製の間に生じるエラーによる変異)などの自然の変異若しくは組換え、または、特定の化合物に対して抵抗性の変異体若しくは抵抗性になった変異体の選択などの自然選択の他のメカニズムを含んでなり得る。そのゲノム配列に1以上の変異を含んでなるI−4290株から生じる細菌がこれらの変異体に含まれ、この変異は、放射線により、ウイルスにより、トランスポゾンによりまたは変異原性化合物により引き起こされたものである。
【0031】
本発明の第一の態様によれば、全バイオマスは、細菌培養物から公知の様々な方法、例えば、濾過、アルコール(エタノール、イソプロパノール、イソブタノール)を用いた凝固により、小片化したプレ層を有するシリンダー上で乾燥させることにより、単離し得、その後、凍結乾燥して、または加熱不活性化形態で用いられ得る。
【0032】
他の好ましい態様では、本発明は、上記の細菌、すなわち細菌LMB64の懸濁液から得られる細菌フラクションとも呼ばれる細菌抽出物に関する。
【0033】
用語「細菌抽出物」は、細菌バイオマスの抽出物若しくはフラクション、またはその抽出物の活性フラクションを意味する。例えば、そのような抽出物は、細菌LMB64の培養物から得られ、その調製方法は、少なくとも1つの細菌の溶解工程と1つの遠心分離または濾過により構成される様々なフラクションの分離工程とを含んでなる。
【0034】
特に限定されないが、本発明の抽出物は、例えば、遠心分離により濃縮された培地から単離された細菌細胞;または、細胞膜が超音波の作用若しくはオートクレーブなどの当業者に公知の手法により破裂する操作を加えた濃縮細菌細胞;または濾過により得られる上清からなり得る。
【0035】
本発明の抽出物の調製方法の重要な工程の1つは、例えば、核酸(染色体DNA、染色体外環状DNA、プラスミド)、リボソーム並びにグリコーゲン、でん粉およびポリ−β−ヒドロキシブチレートなどの細胞内貯蔵物質などの様々な細胞内成分の除去からなる。
【0036】
好ましくは、本発明の細菌抽出物は、細胞内成分を除去する方法で細菌懸濁液を処理した後に得られる。
【0037】
結果として、本発明の抽出物は、主に、膜から生じる成分、プリプラズム空間から生じる成分および/または細胞外空間から生じる成分を含む。
【0038】
より具体的には、細胞内成分は少なくとも核酸を含んでなる。
【0039】
細胞内成分の除去に加えて、特に限定されない例として、細菌の溶解と遠心分離の後に、培養上清の成分(以下、「S0フラクション」)およびペレットを形成する成分(以下、「E0」)を分離することは当業者に容易に可能である。例えば、S0とE0の構成成分の間の分離閾値は、おおよそ100kDaの分子量であることが示唆され得る。結果として、S0フラクションの構成成分はその大部分が100kDa未満の分子量を有するが、E0フラクションの構成成分はその大部分が100kDaを超える分子量を有する。
【0040】
従って、より具体的には、当業者に知られた技術により、培養上清(S0)に見出される生体分子を、細菌の表面タンパク質およびペリプラズムに局在するタンパク質(E0)から主に構成されるものから抽出し分離すること可能である。
【0041】
本発明の一態様では、細菌抽出物は、少なくとも膜タンパク質、ペリプラズムタンパク質および鞭毛から生じるタンパク質を含んでなるE0フラクションを含む。
【0042】
ペリプラズムタンパク質は、浸透圧ショックにより、またはカオトロピック試薬若しくは界面活性剤を含む培地中でのインキュベートにより放出され得るグラム陰性細菌のペリプラズム空間に存在するタンパク質を含む(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3 edition: Sambrook and Russell. CSHL Press)。
【0043】
鞭毛から生じるタンパク質は、鞭毛の多量体タンパク質または鞭毛の断片を含む。全細菌鞭毛を界面活性剤を用いて単離精製し、その後(CsCl勾配の存在下で)超遠心分離する方法が文献に開示されている。本発明では、抽出方法の例は、鞭毛断片の回収を可能にする。
【0044】
膜タンパク質は、膜に固定され、その一部が表面に露出したタンパク質(外膜タンパク質、Omp)、膜表面に接着したタンパク質、リポタンパク質およびポリン(Ward JB., Microbial adhesion to surfaces, 1980)を含む。
【0045】
好ましくは、膜タンパク質は、ポリン、OmpA、リポポリサッカライドおよび/またはリポタンパク質からなる。
【0046】
本発明の別の態様では、S0フラクションを用いることが好ましい。
【0047】
より具体的には、本発明の細菌抽出物は少なくとも分泌ペプチドおよびタンパク質並びに二次代謝物を含んでなるS0フラクションを含む。
【0048】
分泌ペプチドおよびタンパク質は、細菌LMP64により天然に産生され分泌され、遠心分離によりまたは濾過により回収され得るペプチドおよびタンパク質を含む。
【0049】
二次代謝物は、細菌LMB64が培地中に生産し分泌する低分子を含む。
【0050】
S0フラクション中のリポポリサッカライドの存在は、ここで述べられるべきである。
実際、リポポリサッカライドは、E0フラクション中に主に見出されるが、にもかかわらずS0フラクション中にも少ない量ではあるが見出される。
【0051】
有利には、E0およびS0フラクションは、例えば、4℃の温度で約5時間培地をインキュベートし、塩基性培地(pH9〜11)と反応させて澄んだES0溶液を得るために遠心分離によりおよび0.2μmで濾過することによりES0フラクションを得る方法で組み合わされ得る。
【0052】
細菌抽出物ES0は、従って、他の物の中に膜タンパク質、リポポリサッカライド、ペリプラズムタンパク質、鞭毛のタンパク質断片並びに細菌により産生される一次および二次代謝物から構成される。
【0053】
好ましくは、抽出物ES0は、SDS−PAGE技術によれば、
バンド1:30kDa〜36kDa、好ましくは34kDa;
バンド2:41kDa〜45kDa、好ましくは43kDa;
バンド3:47kDa〜51kDa、好ましくは49kDa
の範囲の分子量(特にバイオラッドラボラトリーズ社製分子標準に対して与えられるおおよその分子量)にそれぞれ対応する3つの主要なバンドを含む、少なくとも12のバンドを含んでなるタンパク質プロフィールを有する。
【0054】
本発明の別の態様では、細菌抽出物は、少なくともE0フラクションとS0フラクションとを含んでなるES0フラクションを含む。
【0055】
本発明の好ましい態様では、細菌抽出物は、30kDa〜36kDa、41kDa〜45kDaおよび47kDa〜51kDaの範囲の分子量にそれぞれ対応する3つの主要なバンドを含む、SDS−PAGEにより得られるタンパク質プロフィールを有するES0フラクションを含む。
【0056】
本発明の好ましい態様では、34kDa、43kDaおよび49kDaの分子量にそれぞれ対応する3つの主要なバンドを含む、SDS−PAGEにより得られるタンパク質プロフィールを有するES0フラクションを含む。
【0057】
別の側面では、本発明は、
a)好適な培地中で細菌LMB64を培養する工程;および
b)細胞内成分を除去する工程
を含んでなる細菌抽出物の調製方法を記載する。
【0058】
別の態様では、本発明の方法は、細菌抽出物S0を調製する方法であって、
a)好適な培地中で細菌LMB64を培養する工程;
b)培養物を遠心分離する工程;および
c)上清S0を回収する工程
を含んでなる方法からなる。
【0059】
別の態様では、本発明の方法は、細菌抽出物E0を調製する方法であって、
a)好適な培地中で細菌LMB64を培養する工程;
b)培養物を遠心分離して上清を除去する工程;
c)細胞内成分を除去する方法で工程b)で得られたバイオマスを処理する工程;およびd)基材E0を回収する工程
を含んでなる方法からなる。
【0060】
好ましくは、本発明の方法は、工程c)は、工程b)で得られたバイオマスの超音波処理、その後の細胞内成分を含んでなるペレットを除去するための初回遠心分離、およびその上清の二回目の遠心分離からなる。
【0061】
別の態様では、本発明の方法は、細胞抽出物E0を調製する方法であって、
a)好適な培地中で細菌LMB64を培養する工程;
b)培養物を遠心分離して上清を除去する工程;
c)工程b)で得られたバイオマスを超音波で処理する工程;
d)超音波処理したバイオマスを遠心分離して得られたバイオマスを除去する工程;
e)工程d)で得られた上清を遠心分離する工程;および
f)基材E0を回収する工程
を含んでなる方法からなる。
【0062】
上記の様々な方法は、例示のためにのみ提供されたのであって、他の当業者に知られた方法も用いることができることに留意すべきである。
【0063】
下記実施例から明らかになるように、本発明者らは、この種の抽出物に対して予期される活性に加えて、従来記載されたことのないいくつかの新規な活性を証明している。
【0064】
本発明の第一の優れた面は、免疫調節に関連し、炎症誘発性サイトカインの調節特性にある。より具体的には、本発明の細菌および/または抽出物の使用は、Th1免疫応答に優先的に関係するサイトカインIL−10、IL−12およびTNF−αを顕著に誘導し、サイトカインIL−4およびIL−6を顕著に阻害する。結果は、ランゲルハンス細胞の活性化とTh1/Th2バランスへの回帰である。
【0065】
さらに、他の観察は、本発明の細菌および/または抽出物の使用がIgE受容体の発現を大きく減少させることができることを示したが、このことは、IgEがアレルギー減少を強化する点で興味深い。
【0066】
本発明の他の利点は、実施例から明らかなように、本発明の細菌および/または抽出物は、例えば、ペプチドhBD−2、hB−3、S1007AおよびLL−31などの抗微生物ペプチドの生産を誘導する事実にある。
【0067】
より具体的には、上述のように細菌Vitreoscilla filiformisの抽出物(Gueniche A. et al., Eur J Dermatol 2006; 16:380)は、OmpAの存在によりTLR2に対して、リポポリサッカライドの存在によりTLR4に対して活性を有することで知られている。V. filiformisから得られる抽出物は、V. filiformis細菌での鞭毛の欠如のために、TLR5活性を有しない。
【0068】
発明者らは、今回初めて、TLR2およびTLR4に対する活性に加えてTLR5に対しても活性を有する、本発明の細菌抽出物を記載する。
【0069】
従って、本発明は、上記の様に細菌および/細菌抽出物の、TLR2、TLR4およびTLR5の活性化因子としての使用に関する。
【0070】
好ましくは、TLR2、TLR4およびTLR5の細菌抽出物活性化因子は、鞭毛から生じるすべてのまたは一部のタンパク質を含んでなる抽出物からなる。この場合、例として抽出物は、優先的にE0抽出物またはES0抽出物である。
【0071】
TLR5活性化活性は、TLR5がソリアシン(psoriasin)(S100A7)およびhBD−2などのある抗微生物ペプチドを誘導することで知られる点で大変興味深い(Glaser et al., Journal of Investigative Dermatology (2009) 129, 641-649)。さらに、TLR5アゴニストは、TLR2のアゴニストおよびTLR4のアゴニストと協調的に作用し、抗微生物ペプチドの産生を強化させることができる。抗体によりTLR5を遮断すると、後者は産生されなくなるかほとんど産生されなくなることが示されている。
【0072】
従って、この側面は、本発明の細菌および/または抽出物の免疫調節への適用性の観点で特に革新的である。
【0073】
さらに予想外なことには、本発明者らは、従来までに記載されてきた細菌抽出物とは対照的に、PAR2に対するアンタゴニスト活性を証明している。この活性は、抗炎症処置の観点で非常に興味深い。
【0074】
従って、本発明は、とりわけ、上述のように細菌および/または細菌抽出物のPAR2アンタゴニストとしての使用に関する。
【0075】
好ましくは、PAR2アンタゴニスト細菌抽出物は、S0抽出物またはES0抽出物からなる。
【0076】
PAR2は、内皮細胞、結腸筋細胞、腸細胞、腸神経細胞、免疫細胞およびケラチノサイトに過剰発現している。環境中に豊富に存在するプロテアーゼ(トリプシン、トリプターゼ)は、PAR2をそのN末端で開裂させ、この同じ受容体を活性化させる特異的ペプチドを露出させる(自己活性化現象)。結果として、これは、炎症誘発性サイトカインの産生を活性化し、炎症を開始させる(Vergnolle, N., 2009 Pharmacol. Ther. 123:292-309)。この現象は、野生型マウスにおいて観察され、KOマウス(PAR2欠陥)では見られない。抗プロテアーゼおよび/またはPAR2アンタゴニストを用いた処理は、この炎症現象を防ぐ。
【0077】
これらのすべての活性の組み合わせおよび協調は、この細菌LMB64またはこの細菌から生じる抽出物に、炎症性疾患、およびとりわけ、PAR2が関与し、および/または免疫系が弱まり、撹乱され若しくは不均衡である炎症性疾患を処置する高い可能性を付与する。
【0078】
従って、本発明は、皮膚科学的炎症性障害の治療および/または予防を意図した組成物の調製における、上述の細菌および/または細菌から生じる細菌抽出物の使用に関する。
【0079】
好ましくは、皮膚科学的炎症性障害は、アトピー性皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬からなる。
【0080】
別の態様では、本発明は、少なくとも1の本発明の細菌および/または1の細菌抽出物を有効成分として含んでなる組成物に関する。
【0081】
従って、本発明は、好ましくは、化粧または皮膚科学的組成物に関する。
【0082】
本発明の組成物は、皮膚科学的炎症性障害の処置に関する。
【0083】
好ましくは、皮膚科学的炎症性障害は、アトピー性皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬からなる。
【0084】
本発明の組成物は特に、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水結合剤、展着剤、安定化剤、着色剤、着香剤および保存剤などの添加剤並びに製剤助剤を含み得る。
【0085】
本発明の化粧または皮膚科学的組成物は、1以上の典型的な皮膚科学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでなる。
【0086】
本発明の組成物は、油中水型(W/O)若しくは水中油型(O/W)エマルション、例えば、水中油中水型(W/O/W)若しくは油中水中油型(O/W/O)エマルションなどの多層エマルション、マイクロエマルション、または、ハイドロディスパーション若しくはリポディスパーション、ゲル若しくはエアロゾルの形態で調製し得る。
【0087】
皮膚科学的または化粧品的に許容可能な賦形剤は、乳剤、クリーム剤、香膏、オイル、ローション、ゲル、発泡性ゲル、ポマード、スプレー剤の形態で局所適用のための組成物を得るために、当業者に知られた賦形剤うちのいずれの賦形剤でもあり得る。
【0088】
皮膚科学的および化粧組成物に加えて、本発明は、薬剤として使用するための医薬組成物にも関する。
【0089】
従って、本発明は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでなる医薬組成物に関する。
【0090】
本記載では、「薬学的に許容可能な担体」とは、医薬組成物の一部を構成する化合物または化合物の組み合わせを意味し、二次反応を引き起こさず、例えば、活性化合物の投与を容易にし、体内におけるその寿命および/または有効性を増大させ、溶液中での溶解性を向上させ、またはその保存性を改善する。薬学的に許容可能な担体は、周知であり、選択される活性化合物の性質や投与形態に応じて当業者が採用するであろう。
【0091】
好ましくは、前記化合物は、筋肉内、皮内、腹腔内若しくは皮下経路または経口経路により全身に投与され得る。本発明の抗体を含んでなる組成物は、様々な用量で期間に広がって投与され得る。
【0092】
これらの最適な投与形態、投与スケジュールおよびガレニック形態は、例えば、患者の年齢または体重、患者の一般的健康状態の重篤度、処置への寛容性および記載された副作用などの、患者に適合した処置の確立において一般的に検討される基準に従って決定され得る。
【0093】
本発明は、権利範囲を制限することのない、発明を例示する下記の実施例を好著してよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1は、LMB64株の16S rRNAをコードする配列の系統学的な位置を示す。この系統樹に表される配列は、LMB64の配列に最も近いGenBankデータベースからの配列である。
図2図2Aおよび2Bは、透過型電子顕微鏡(A)および走査型電子顕微鏡(B)による細菌LMB64の像を表す。
図3図3は、温度、pHおよびR3培地の塩度の関数として決定された最適な増殖を示す。
図4図4は、E0抽出物によるサイトカインIL−10およびIL−12の誘導(用量依存的効果)を示す。
図5図5は、E0抽出物による表面分子CD80、CD86、CD83およびCD54の誘導(用量依存的効果)を示す。
図6図6は、E0抽出物によるIgE受容体の阻害を示す。
図7図7は、ES0抽出物によるTLR2の活性化を示す。
図8図8は、ES0抽出物によるTLR4の活性化を示す。
図9図9は、ES0抽出物によるTLR5の活性化を示す。
図10図10は、ES0抽出物による特異的PAR2アンタゴニスト活性を示す。
図11図11は、ES0抽出物による抗微生物ペプチドおよびタンパク質の誘導を示す。
図12図12は、ES0抽出物のSDS−PAGEからなる。
【実施例】
【0095】
実施例1:細菌LMB64の選択および性質決定
細菌AV13は地下水から単離された。
【0096】
新規細菌LMB64の分類学上の位置は図1に提案される。
【0097】
より具体的には、細菌LMB64は、長さがおおよそ2.3μm(±0.3)であり、幅がおおよそ1.0μm(±0.1)の棒状形状である。この細菌の特徴的な性質は、極鞭毛の存在である(図2Aおよび2B)。この像で見ることができるように、細菌LMB64は、非線維状細菌である。
【0098】
上述の通り、細菌LMB64はおおよそ11kbpの環状プラスミドを有する。このプラスミドは完全に配列解読されている(配列番号2)。
【0099】
16S rRNAをコードする遺伝子もまた配列解読されている(配列番号1)。細菌は、合成培地の発酵槽中で培養された。増殖速度は、培地が低炭素基質濃度を有するときにより高かった。
【0100】
検査した培地は、R3、MS−グルコースおよびLB培地であり、それらの組成はそれぞれ、下記表1a、1bおよび1cに示されている。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
培地の関数としての細菌LMB64の増殖速度は下記表2に示されている。
【0105】
【表4】
【0106】
最適な増殖は、温度、pHおよびR3培地の塩度の関数として決定された(図3)。
【0107】
細菌により同化可能な炭素源は、API 50CHギャラリー(インキュベーション温度:25℃)を用いて性質決定した。結果は、下記表3にまとめられている。
【0108】
【表5】
【0109】
API ZYMギャラリー上で証明された酵素活性は、アルカリホスファターゼ、エステラーゼ(C4)、エステラーゼ/リパーゼ(C8)、ロイシンアリールアミダーゼ、バリンアリールアミダーゼ、酸ホスファターゼ、ナフトール−AS−BI−ホスホヒドロラーゼおよびα−グルコシダーゼである。
【0110】
細菌LMB64は、下記表4に示される、試験したすべての抗生物質に感受性である。
【0111】
【表6】
【0112】
実施例2:E0、S0およびES0フラクションを抽出する方法
前培養:AV13株を250mLのMSグルコースピルビン酸培地(下記表5参照)を含むエルレンマイヤーフラスコ中に植菌し、30℃(pH7)にて200rpmの攪拌条件下でおおよそ40時間であるが、OD600≒1.5が得られるまでインキュベートした。
【0113】
【表7】
【0114】
培養:前培養は、その後、3.7LのMSピルビン酸培地+114mLの20%グルコース溶液を含む発酵槽(アプリコン(Applikon))中に植菌した。温度センサーが温度を好ましい30℃付近に制御した。酸素センサー(Applisens)を用いて、培地に溶解した酸素濃度を18〜25%に維持した。pHセンサー(Applisens)を用いて、低流速ポンプにより10%NHOHの添加によりpHを7に維持した。ウェッジウッド分析センサー(Wedgewood Analytical sensor)を用いて、実時間で光学密度の変化をモニターした。培養物は、フェドバッチモードにプログラムし;可変流速ポンプにより20%グルコース溶液を供給した。発酵は、一般的におおよそ30時間後であるがOD600≒22〜26のときに停止させた。
【0115】
S0抽出物:上清を4℃にて4000gで1時間遠心分離することによりバイオマスから分離した。
【0116】
E0抽出物:湿ったバイオマスをNaCl溶液(1M)に溶解させた。4℃にて9000gで15分間遠心分離した後に、上清を廃棄して、ペレットを1M NaCl溶液に溶解させた。試験管をその後50〜60Wの出力設定で冷却した超音波浴槽に差し込んだ。
4℃にて6000gで30分間遠心分離した後に、ペレットを廃棄し、上清を回収した。
2倍量の冷エタノールを添加し、上清を4℃で一晩放置した。4℃にて6000gで30分間遠心分離した後に、上清を廃棄し、ペレットを25mMのTris緩衝液、pH8.8に溶解させた。
【0117】
ES0抽出物:培養物を塩基性緩衝液で塩基性pH(9〜11)にした。次の工程は、4℃の温度における5時間攪拌下でのインキュベーションである。遠心分離後、上清を前置濾過して残存したバイオマス残屑を除去し、その後、0.2μmフィルターで濾過した。澄んだ黄色溶液を得た(ES0)。
【0118】
タンパク質は、DCタンパク質アッセイキットII(バイオラッド社)のプロトコルに従って分析した。糖は、フェノール/硫酸法に従ってグルコース当量で分析した(Dubois, M. et al., 1956)。
【0119】
実施例として、下記表6は、下記の条件下で得られるES0抽出物の、ある特異的な性質を示す。
【0120】
【表8】
【0121】
上記データは、例示目的だけのためにここに示されていることは明確に理解される。
【0122】
より正確には、このデータは、3つの主要なバンドを示すSDS−PAGEにより得られるタンパク質プロフィールに関する。
【0123】
SDS−PAGEプロトコル:
ES0抽出物は、緩衝液(20mM Tris−HCl、pH8.0;1mM EDTA;2.5%SDSおよび0.01%ブロモフェノールブルー)および1M DTT(1,4−ジチオスレイトール)中に溶解させる。試料と分子量マーカーの混合物をそれぞれ8〜16% SDS−PAGEアクリルアミドゲル(GeBaGel, Gene Bio-Application)のウェルに沈降させた。泳動緩衝液は2.5mM Tris、19.2mMグリシンおよび0.01%SDS(w/v)を含む。泳動は、160Vの低電圧下で約1時間行った(GeBaGelシステム)。タンパク質のバンドは、その後、クマシーブルーで染色した(Instant Blue, Expedeon)。サイズは、既知の標準(STD)との関係で計算された。
【0124】
得られたゲルは図12に示される。
【0125】
本発明の一つの態様では、これら3つのバンドは、それぞれ34kDa、43kDaおよび49kDaの分子量を有する。
【0126】
実施例3:E0フラクションおよびES0フラクションの薬理学的活性の実証
ランゲルハンス細胞(LC)はフランス国家血液サービス(Etablissement Francais du Sang (EFS) Pyrenees Mediterranee)からの白血球層の小袋(Buffy-coat pouch)から単離したヒト単球からインビトロで生み出された:フィコール勾配上での単離(リンパ球分離媒体。密度1.077g/mL)および磁気免疫的選択による精製(Miltenyi Biotec);LCの分化はサイトカインカクテル(GM−CSF/IL−4/TGFβ)の存在下で6日間行った。RPMI−5%FCS培地中の24穴プレートに分配したLCはES0抽出物を用いて24時間インキュベートする。
【0127】
表面分子を三重または四重染色:CDla/CD54/CD80/CD83/CD86/FcεRIでフローサイトメトリー(FACSCalibur, BDバイオサイエンシズ社製)により分析し;培養上清に分泌されるサイトカインは、Cytometry Bead Array(製品番号:550749、BD)を用いてフローサイトメトリーで分析する:IL−6、IL−8、TNF、IL−4、IL−10、IL−12。
【0128】
3.1 Th1分化に対する主要サイトカインの誘導
E0抽出物は、ランゲルハンス細胞によるサイトカインIL−10およびIL−12の発現を用量依存的効果に従って誘導する(図4)。これらのサイトカインは、ナイーブTリンパ球のTH1分化の誘導を促進する。
【0129】
3.2 ランゲルハンス細胞の成熟とIgE受容体(FcεRI)の抑制
E0抽出物は、表面分子CD80、CD86、CD83およびCD54の用量依存的誘導により観察されるランゲルハンス細胞の成熟を誘導する(図5)。同様に、E0抽出物は、用量依存的効果に従ってIgE受容体(FcεRI)の発現を抑制する(図6)。
【0130】
3.3 トル様受容体(TLR)の活性化
ES0のTLR活性は、TLR2、TLR4またはTLR5の遺伝子およびレポーター遺伝子NFκB−sAP(分泌型アルカリホスファターゼ)により共トランスフェクションしたHEK293細胞モデルを用いて、TLR2、TLR4およびTLR5に対して評価した。リガンドのそのTLRへの結合は、転写因子NFκBの活性化を引き起こし;sAP遺伝子がNFκBにより誘導されうるプロモーターの制御下に置かれている。このレポーター遺伝子により、TLRを経由する細胞シグナリングをモニターすることが可能である:ES0により誘導され、比色分析により測定されるsAPの放出により、この活性成分のTLR2、TLR4またはTLR5アゴニストとしての活性を決定することができる。
【0131】
この研究は、下記のヒト胚性肝臓(HEK293)細胞系統:
− TLR2に対しては、HEK−BleuTM−2細胞、
− TLR4に対しては、HEK−BleuTM−4細胞、
− TLR5に対しては、HEK−BleuTM−5細胞
で実施された。
【0132】
これらの細胞系統は、HEK−BleuTM Selection 10%FCS培地中で維持され、その後、ES0存在下でHEK−BleuTM Detection培地中に96穴プレートに18時間配分した。プレートは、620nmの熱量測定を用いて測定した。
【0133】
3.3.1 TLRの活性化
ES0抽出物は、用量依存的効果に従ってTLR2の活性化を誘導し、最大の活性化は100ng/mLである(図7)。
【0134】
3.3.2 TLR4の活性化
ES0抽出物は、用量依存的効果に従ってTLR4の活性化を誘導し、最大の活性化は10ng/mLである(図8)。
【0135】
3.3.3 TLR5の活性化
ES0抽出物は、用量依存的にTLR5の活性化を誘導する。この活性は、抗TLR5抗体の存在により阻害され、ES0抽出物のTLR5に対する活性化特異性が実証される(図9)。
【0136】
3.4 プロテアーゼ活性化受容体2(PAR2)
ES0抽出物によるプロテアーゼ活性化受容体の阻害は、stratum corneum tryptic enzyme (SCTE)を用いてPAR2を特異的に刺激した後に誘導される細胞内カルシウム流入を測定することにより、細胞系統由来のヒトケラチノサイト(HaCaT)上で評価された。蛍光プローブFluo−4/AMが用いられ:そのエステル化形態は細胞内での受動的拡散によりその浸透を促進し;カルシウムイオンと結合した脱エステル化形態のみが485nm蛍光化で励起し、535nmで発光する。
【0137】
蛍光プローブは、96穴プレート中に植菌した細胞中で30分間取り込まれ、その後、ES0抽出物が30分間インキュベートされる。カルシウム流は、SCTEの注入前後の動特性に従って実時間でウェル毎に測定する。プレートは、Mithras LB940TM リーダー(ベルトールドテクノロジーズ社(商標))を用いて測定する。
【0138】
ES0抽出物は、ヒトSCTEにより誘発されるPAR2の用量依存的活性化を阻害する(図10)。
【0139】
3.5 ケラチノサイトにおけるアトピー性皮膚炎の標的の調節
研究は、アトピー性皮膚炎の表現型の誘導の観点で、正常なヒト表皮ケラチノサイト(NHEK、K−SFM培地)上で実施された。ES0の活性は、ポリI:C+IL−4+IL−13+TNF−αを用いて24時間刺激した後にアトピー性皮膚炎の表現型を生じるケラチノサイト上で行われ、32の選定された遺伝子のパネルの発現をPCRアレーにより分析した。
【0140】
ケラチノサイトに対しては、ES0抽出物は、下記表7で明確に示されるように、アトピー性皮膚炎の病理に関連するメディエーターのうち、用量依存的効果に従って、15の標的を阻害した(結果は、各遺伝子に対して得られる阻害のパーセンテージを示す)。
【0141】
【表9】
【0142】
3.6 抗微生物ペプチドの誘導
抗微生物ペプチドおよびタンパク質の発現に対するES0抽出物の活性は、HaCaTケラチノサイト細胞系統で試験される:ES0の存在下での3時間の処理の後に、細胞は、定量的RT−PCRにより抗微生物性の標的の発現の解析のために回収され;全RNAが抽出され、分析され;mRNAのcDNAへの逆転写の後に、iCycler quantitative PCR system (バイオラッド社)で96穴プレートで定量的PCR増幅工程を実施する。得られた結果は、有効成分を含まない対照に対するES0による処置後のmRNAの相対量(RQ)として表現される。IL−1βは抗微生物ペプチド発現の参照陽性誘導剤として並行して用いられる。目的遺伝子の発現は、RQ>2(誘導)またはRQ<0.5(阻害)のときに制御されていると考えられる。
【0143】
ES0抽出物は、抗微生物ペプチドの発現、並びに、タンパク質hBD2、hBD3、S1007A、LL37、PI3、RNアーゼ7およびNOD2の発現を誘導する(図11)。
【0144】
実施例4:ES0細菌抽出物を含んでなる「体および顔」クリームの製剤
【0145】
【表10】
【0146】
実施例5:ES0細菌抽出物を含んでなる「体および顔」クレンジングゲルの製剤
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2017年2月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータプロテオバクテリア網、ナイセリア科の亜科に属する非病原性グラム陰性細菌の懸濁液から得られうる細菌抽出物であって、前記細菌の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列が配列番号1の配列を含み、かつ、前記細菌が、配列番号2の配列、または配列番号2の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を含んでなる、少なくとも1つのプラスミドを含むことを特徴とし、ここで、前記細菌抽出物が、前記細菌の培養培地を除去し塩基性培地においてインキュベートし反応させて、遠心分離を行い、濾過を行って、透明なES0溶液を得ることにより得られうる画分ES0を含む、細菌抽出物。
【請求項2】
前記画分ES0が膜タンパク質、リポポリサッカライド、ペリプラズムタンパク質、鞭毛のタンパク質断片、および前記細菌により産生される一次および二次代謝物を含んでなるものである、請求項1に記載の細菌抽出物。
【請求項3】
前記画分ES0が、SDS−PAGEにより得られる、それぞれ30kDa〜36kDa、41kDa〜45kDa、および47kDa〜51kDaの範囲の分子量に相当する3つの主要バンドを含む、タンパク質プロフィールを有する、請求項2に記載の細菌抽出物。
【請求項4】
TLR2、TLR4およびTLR5の活性化因子として使用するための組成物であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌抽出物を含んでなる、組成物
【請求項5】
Th1応答、Th2応答、またはTh17応答をホメオスタシスに回復させるための組成物であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌抽出物を含んでなる、組成物。
【請求項6】
前記細菌抽出物が、2010年4月8日に、CNCMに寄託番号I−4290として寄託された細菌の懸濁液から得られうるものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
PAR2アンタゴニストとして使用するための組成物であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌抽出物を含んでなる、組成物
【請求項8】
少なくとも請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌抽出物を含んでなる、組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌抽出物を有効成分として含んでなる、皮膚科学的炎症性障害の治療および/または予防のための組成物
【請求項10】
皮膚科学的炎症性障害が、アトピー皮膚炎、掻痒症、湿疹および乾癬からなる、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
1以上の典型的な皮膚科学的に許容可能な賦形剤をさらに含み、化粧用または皮膚科学的に用いられる、請求項9または10に記載の組成物。
【外国語明細書】
2017099393000001.pdf