【課題】水蒸気などの極性ガスおよび乾燥空気などの無極性ガスを含む空気などの2成分混合ガスに混入した水素ガスなどの検知対象ガスをより正確に検知する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のガス検知方法は、第1成分ガスおよび第2成分ガスを含む混合ガスと検知対象ガスとが含まれる測定対象ガスにおける検知対象ガスを検知する方法であって、測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度と検知対象ガスの濃度との間の対応を示す相関関数、および、信号強度検出工程において得られた信号強度から、検知対象ガスを検知し、相関関数が、混合ガスと検知対象ガスとの相互作用を考慮した相互作用関数、および、混合ガスの熱伝導率および検知対象ガスの熱伝導率を用いて求められる測定対象ガスの熱伝導率関数から得られることを特徴とする。
前記相互作用関数が、前記第1成分ガスおよび前記第2成分ガスを含む混合ガスを1成分とした前記混合ガスの粘度および分子量と、前記検知対象ガスの粘度および分子量とに基づいて求められることを特徴とする請求項1または2に記載のガス検知方法。
前記相互作用関数が、前記第1成分ガスおよび前記第2成分ガスを含む混合ガスを1成分とした前記混合ガスの粘度および分子量と、前記検知対象ガスの粘度および分子量とに基づいて求められることを特徴とする請求項4または5に記載のガス検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るガス検知装置およびガス検知方法を説明する。
【0017】
本実施形態のガス検知装置およびガス検知方法はそれぞれ、極性ガスである第1成分ガスおよび無極性ガスである第2成分ガスを含む2成分混合ガスに検知対象ガスである第3成分ガスが含まれる測定対象ガスにおける第3成分ガスを検知する装置および方法である。ガス検知装置およびガス検知方法は、たとえば、原子炉格納容器内や原子炉建屋内の水素ガスを検知する目的や、燃料電池から漏出する水素ガスを検知する目的のために用いることができるが、その適用範囲はこれらに限定されることはなく、ガス検知が必要な他の用途にも適用可能である。
【0018】
ガス検知装置およびガス検知方法の測定の対象となる測定対象ガスに含まれる第1成分ガスは、極性分子により構成される気体である。より詳細には、第1成分ガスは、分子全体として双極子モーメントを有し、かつ、非共有電子対を有する分子により構成される気体である。つまり、第1成分ガスは、特異な分子間相互作用として水素結合する能力を有し、異種分子間相互作用または同種分子間相互作用しやすい傾向を示し、異種分子または同種分子と衝突しやすく、測定対象ガスの熱伝導率に特異な影響を及ぼす気体である。測定対象ガスにこのような第1成分ガスが含まれる場合であっても、本実施形態のガス検知装置およびガス検知方法を好適に用いることができ、以下で詳しく述べるように、測定対象ガス中の検知対象ガスをより正確に検知することができる。第1成分ガスとしては、たとえば水蒸気(水分子ガス)、アンモニアガス、一酸化炭素ガス、ならびに、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、シアノ基、エーテル結合、含酸素複素環および含窒素複素環のいずれか1種または2種以上を有する有機化合物が含まれるガスの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。より具体的には、第1成分ガスとして、水蒸気(水分子ガス)、アンモニアガス、一酸化炭素ガス、メタノールガス、エタノールガス、1−プロパノールガス、2−プロパノールガス、1−ペンタノールガス、2−ペンタノールガス、3−ペンタノールガス、フランガス、テトラヒドロフランガス、テトラヒドロピランガス、ピペリジンガス、1−メチル−2−ピロリドンガス、ピロリジンガス、ピロールガス、ジメチルアミンガス、N,N−ジメチルアセトアミドガス、アセトニトリルガスおよびイソブチルニトリルガスなどの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。
【0019】
また、測定対象ガスに含まれる第2成分ガスは、無極性分子により構成される気体である。より詳細には、第2成分ガスは、双極子モーメントを有さない分子により構成され、第1成分ガスと第3成分ガスとの熱伝導率の差分値よりも、第1成分ガスとの熱伝導率の差分値が小さい気体である。本実施形態のガス検知装置およびガス検知方法では、測定対象ガスにこのような第2成分ガスが含まれる場合に、互いの熱伝導率の差分値の大きい第1成分ガスと第3成分ガスとではなく、互いの熱伝導率の差分値の小さい第1成分ガスと第2成分ガスとを1成分として取り扱うことで、測定対象ガス中の検知対象ガスをより正確に検知することができる。その中でも、第2成分ガスは、支燃性ガスおよび不活性ガスの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスであることが好ましい。第2成分ガスとしては、たとえば乾燥空気、酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスおよびキセノンガスなどの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。
【0020】
また、測定対象ガスに含まれる第3成分ガスは、検知対象となるガスであり、第1成分ガスおよび第2成分ガスとは異なる極性分子または無極性分子により構成される気体である。第3成分ガスは、1種のガスにより構成される単体ガスであってもよいし、2種以上のガスにより構成される混合ガスであってもよい。より詳細には、第3成分ガスは、第1成分ガスと第2成分ガスとの熱伝導率の差分値よりも、第1成分ガスとの熱伝導率の差分値が大きい気体である。その中でも、第3成分ガスは、可燃性ガス、支燃性ガスおよび不活性ガスの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスであることが好ましい。さらに、第3成分ガスは、可燃性ガスおよび希ガスの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスであることが好ましい。第3成分ガスは、無極成分子により構成される気体として、たとえば水素ガス、ヘリウムガスおよびアルゴンガスなどの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。ただし、例外として、オレフィンガスの中でもプロピレンガスなどや、芳香族炭化水素類ガスの中でもトルエンガスなどの、双極子モーメントを有する極性ガスは、炭素原子間にsp
2混成軌道により構成される二重結合を有し、極性ガスである第1成分ガスと強く相互作用することがないので、無極性ガスと同等に取り扱うことができ、第3成分ガスとして採用することができる。また、第3成分ガスは、極性分子により構成される気体として、アンモニアガス、アルコール類ガス、エーテル類ガス、ケトン類ガス、カルボン酸類ガスなどの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。ただし、極性ガスとしての第3成分ガスは、たとえば溶媒中における溶質ガスの混合量について扱うヘンリーの法則が適用可能な希薄濃度範囲のように、測定対象ガス中における第3成分ガスの濃度の変化が測定対象ガスの熱伝導率の変化に比例する濃度範囲であることが好ましい。つまり、極性ガスとしての第3成分ガスは、第1成分ガスおよび第2成分ガスとの相互作用因子を無視できる濃度範囲であることが好ましい。あるいは、「第3成分ガスと第1成分ガス」、「第3成分ガスと第2成分ガス」および「第3成分ガスと第1成分ガス」のそれぞれの組み合わせの相互作用エネルギーが略同じで、理想気体としてみなすことができる濃度範囲であることが好ましい。たとえば、極性ガスとしての第3成分ガスの測定対象ガス中の濃度は、10vol%以下が好ましく、8vol%以下がより好ましく、6vol%以下がさらに好ましく、4vol%以下が最も好ましい。第3成分ガスとして検知対象となり得るガスとしては、水素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、酸素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化硫黄ガス、一酸化二窒素ガス、エタンガス、メタンガス、プロパンガス、プロペンガス、ブタンガス、1−ブテンガス、2−ブテンガス、ペンタンガス、1−ペンテンガス、トランス−2−ペンテンガス、シス−2−ペンテンガス、ヘキサンガス、1−ヘキセンガス、トランス−2−ヘキセンガス、シス−2−ヘキセンガス、ヘプタンガス、オクタンガス、ノナンガス、シクロヘキサンガス、シクロヘキサノンガス、イソブタンガス、六フッ化硫黄ガス、三フッ化窒素ガス、ベンゼンガス、トルエンガス、キシレンガス、トリメチルベンゼンガス、ヨードベンゼンガス、クロロベンゼンガス、フルオロベンゼンガス、ジメチルエーテルガス、ジエチルエーテルガス、フルオロカーボンガス、クロロフルオロカーボンガス、ハイドロクロロフルオロカーボンガス、ハイドロフルオロカーボンガス、トリフルオロヨードメタンガス、ハイドロフルオロエーテルガスおよびハイドロフルオロオレフィンガスなどの中から選択される1種の単体ガスまたは2種以上の混合ガスを例示することができる。
【0021】
<ガス検知装置>
ガス検知装置は、第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスを含む測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出し、その信号強度から測定対象ガスに含まれる第3成分ガスを検知する。ガス検知装置の詳細を以下で説明するが、以下の説明では、ガス検知装置の一例として気体熱伝導式ガス検知装置を挙げ、その気体熱伝導式ガス検知装置を、第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスがそれぞれ、水蒸気、乾燥空気および水素ガスであり、水蒸気である第1成分ガスおよび乾燥空気である第2成分ガスを含む2成分混合ガスが空気である測定対象ガスにおける水素ガスの検知に適用した例を用いて説明する。しかし、ガス検知装置は、以下に例示する気体熱伝導式ガス検知装置に限定されることはなく、非定常熱線法などの他の公知の熱伝導率測定法の測定原理が適用された装置であってもよい。また、第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスも、水蒸気、乾燥空気、水素ガスに限定されることはなく、上述した他のガスの組み合わせであっても構わない。
【0022】
<気体熱伝導式ガス検知装置>
気体熱伝導式ガス検知装置は、本実施形態では、水蒸気および乾燥空気を含む空気に水素ガスが含まれる3成分系の測定対象ガスにおける水素ガスを検知する。気体熱伝導式ガス検知装置1は、
図1に示されるように、測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出する信号強度検出部2と、その信号強度に基づいて水素ガス(第3成分ガス)を検知する第3成分ガス検知部3とを備えている。
【0023】
<信号強度検出部>
信号強度検出部2は、本実施形態では、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した信号強度を検出することにより、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いを検知する。信号強度検出部2は、
図1に示されるように、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した信号強度として電位差を生成する検知回路4と、検知回路4に直流電圧を印加する直流電圧源5と、検知回路4に生じる電位差を検出する電位差計6とを備えている。
【0024】
検知回路4は、ホイートストンブリッジ回路として構成され、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因して回路内の抵抗値に違いが生じ、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した電位差を生成する。検知回路4は、
図1に示されるように、検知素子41および補償素子42が直列に接続された検知片と、第1固定抵抗43および第2固定抵抗44が直列に接続された、ブリッジ回路における検知片に対する対辺抵抗片とが並列に設けられている。検知片および対辺抵抗片の両端(a点、b点)は、直流電圧源5の正極および負極の2つの端子のそれぞれに接続され、検知素子41および補償素子42の間(c点)と、第1固定抵抗43および第2固定抵抗44の間(d点)とは、電位差計6の正極および負極の2つの端子のそれぞれに接続されている。
【0025】
検知素子41は、測定対象ガスが貫流(自然拡散)されて、測定対象ガスとの熱収支により抵抗値が変化する部材である。検知素子41は、
図2(a)に示されるように、測定対象ガスとの熱収支により抵抗値が変化する第1変動抵抗体41aと、第1変動抵抗体41aを収容し、測定対象ガスが貫流可能な検知用容器41bとを備えている。第1変動抵抗体41aは、測定対象ガスとの熱収支が測定対象ガスの熱伝導率に影響を受けるため、測定対象ガスの熱伝導率に応じて抵抗値が変化する。第1変動抵抗体41aは、測定対象ガスの熱伝導率の変化に応じて抵抗値が変化するように構成されていれば、特に限定されることはなく、たとえば公知の白金薄膜抵抗体を用いることができる。検知用容器41bは、本実施形態では、
図2(a)に示されるように、上部に測定対象ガスが貫流可能な貫流孔が設けられて、測定対象ガスが貫流可能に構成されている。しかし、検知用容器41bは、第1変動抵抗体41aが測定対象ガスに曝露されるように測定対象ガスが貫流可能であれば、図示された構造に限定されることはなく、貫流孔が検知用容器41bの側部に設けられるなどの他の構造であってもよい。
【0026】
補償素子42は、測定対象ガスに対して基準となる標準ガスが充填されて、標準ガスとの熱収支により抵抗値が変化する部材である。補償素子42は、
図2(b)に示されるように、第1変動抵抗体41aと熱的に等価な第2変動抵抗体42aと、第2変動抵抗体42aを収容し、標準ガスが充填される補償用容器42bとを備えている。第2変動抵抗体42aは、標準ガスとの熱収支が標準ガスの熱伝導率に影響を受けるため、標準ガスの熱伝導率に応じて抵抗値が変化する。なお、測定中において、標準ガスの熱伝導率が変化しないように状態が一定に保たれる場合には、第2変動抵抗体42aの抵抗値が変化することはない。第2変動抵抗体42aは、第1変動抵抗体41aと熱的に等価であれば、特に限定されることはなく、たとえば第1変動抵抗体41aと同じ構成のものを用いることができる。補償用容器42bは、標準ガスが充填されて、他のガスが流入しないように構成されている。補償用容器42bは、充填された標準ガスが所定の状態に維持されて、第2変動抵抗体42aがその標準ガスに曝露されるように構成されていれば、その構造はいかなるものであってもよい。標準ガスとしては、測定対象ガスに対して基準となるガスであれば、特に限定されることはなく、たとえば乾燥空気、ヘリウムガス、窒素ガスなどを用いることができる。
【0027】
第1固定抵抗43および第2固定抵抗44は、固定された所定の抵抗値を有する部材である。第1固定抵抗43および第2固定抵抗44はそれぞれ、本実施形態では、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とが同じ場合に、検知回路4のc−d点間に電位差が生じないようにその抵抗値が設定されている。ただし、検知回路4としては、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率が同じ場合と、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率が異なる場合とで、検知回路4のc−d点間に生じる電位差に有意な差が生じればよい。したがって、第1固定抵抗43および第2固定抵抗44はそれぞれ、上述した抵抗値に限定されることはなく、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率が同じ場合と、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率が異なる場合とで、検知回路4のc−d点間に生じる電位差に有意な差が生じるように抵抗値が設定されればよい。
【0028】
本実施形態の信号強度検出部2では、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とが同じであれば、第1変動抵抗体41aおよび第2変動抵抗体42aの抵抗値は同じままであり、検知回路4のc−d点間に電位差が生じることはない。一方、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とが異なる場合には、第1変動抵抗体41aおよび第2変動抵抗体42aのそれぞれと測定対象ガスおよび標準ガスのそれぞれとの熱収支が異なるため、第1変動抵抗体41aおよび第2変動抵抗体42aの抵抗値に違いが生じ、それによって検知回路4のc−d点間に電位差が生じる。信号強度検出部2は、検知回路4のc−d点間に生じた電位差を電位差計6により測定することで、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した電位差を信号強度として検出することができる。ただし、信号強度検出部2は、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した信号強度を検出するように構成されていれば、上述した構成に限定されることはなく、たとえば電位差計の代わりに電流計を用いて信号強度として電流を検出するように構成されていてもよい。
【0029】
信号強度検出部2は、本実施形態では、上述したように、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因した信号強度を検出するように構成されている。しかし、信号強度検出部は、測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出するように構成されていれば、本実施形態に限定されることはなく、たとえば、他の測定原理を適用したガス検知装置では、測定対象ガスの熱伝導率の変化に起因した信号を検出するように構成されていてもよい。
【0030】
<第3成分ガス検知部>
第3成分ガス検知部3は、信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す相関関数、および、信号強度検出部2により得られた信号強度から、水素ガスを検知するように構成されている。すなわち、第3成分ガス検知部3は、信号強度Vと水素ガスの濃度xとの間の対応を示す相関関数(V=F(x)またはV≒F(x))を用いて、信号強度検出部2により得られた信号強度Vを、水素ガスの濃度xに対応した値に変換(x=F
-1(V)またはx≒F
-1(V))することで、測定対象ガス中の水素ガスの有無および/または濃度を検知するように構成されている。ここで相関関数は、信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す関数であって、信号強度と水素ガスの濃度との関係を完全な形で示す関数(V=F(x))だけではなく、たとえば水素ガスの濃度の増減に応じて信号強度が増減するように構成されるなど、信号強度が水素ガスの濃度に対応するように構成された関数(V≒F(x))も含む。また、水素ガスの濃度に対応した値は、水素ガスの濃度だけでなく、水素ガスの濃度の増減に対応して増減する間接的な値も含む。
【0031】
第3成分ガス検知部3は、
図1には、信号強度検出部2の直流電圧源5および電位差計6に通信可能に接続された情報処理装置として示されている。第3成分ガス検知部3は、本実施形態では、電位差計6から電位差を受信し、受信した電位差と相関関数とを用いて、測定対象ガス中の水素ガスの濃度に対応した値を算出する。第3成分ガス検知部3としては、CPUなどの演算処理装置、ハードディスクなどの記憶装置、ネットワークインターフェースなどの通信装置、キーボード・マウスなどの入力装置、液晶ディスプレイなどの表示装置などを内部または外部に備えたパーソナルコンピュータなどの公知の計算装置を用いることができる。しかし、第3成分ガス検知部3は、信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す相関関数、および、信号強度検出部2により得られた信号強度から、水素ガスを検知するように構成されていれば、上述した実施形態に限定されることはなく、たとえば信号強度検出部2の外部ではなく信号強度検出部2と一体となって設けられるなど、様々な変形が許容される。
【0032】
信号強度Vと水素ガスの濃度xとの間の対応を示す相関関数(V=F(x)またはV≒F(x))は、測定対象ガス中の水素ガスの濃度xを変数とする測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))から得られる(V=F(λ
samp(x))またはV≒F(λ
samp(x)))。より具体的には、本実施形態では、相関関数は、測定対象ガス中の水素ガスの濃度xを変数とする測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))と、定数である標準ガスの熱伝導率(λ
ref)との差(λ
samp(x)−λ
ref=Δλ(x))を含む形で得られる(V=F(Δλ(x))またはV≒F(Δλ(x)))。ただし、相関関数は、測定対象ガス中の水素ガスの濃度を変数とする測定対象ガスの熱伝導率関数から得られるものであればよく、その具体的な構成は、用いられる気体熱伝導式ガス検知装置の検知原理および/または実測値に応じて適宜決定することができ、気体熱伝導式ガス検知装置以外のガス検知装置が用いられる場合には、そのガス検知装置の検知原理および/または実測値に応じて適宜決定することができる。
【0033】
ここで、測定対象ガスの熱伝導率関数は、単純に測定対象ガスに含まれるガス成分のそれぞれの熱伝導率にそれぞれの比率を掛け合わせて合算することによっては得ることができない。これは、ガス成分が互いに相互作用するため、この相互作用を無視することができないからである。したがって、測定対象ガスの熱伝導率関数は、たとえば、Wassiljewaの式(以下の数式1)を用いて、測定対象ガスに含まれるガス成分同士の相互作用を考慮しつつ、各ガス成分の熱伝導率に各ガス成分の比率を乗じてその和を得ることによって求められる。乾燥空気、水蒸気および水素ガスの3成分が含まれる本実施形態の測定対象ガスに、この数式1を用いた方法を採用する場合には、乾燥空気、水蒸気および水素ガスのそれぞれの相互作用を考慮しつつ、乾燥空気、水蒸気および水素ガスの熱伝導率にそれぞれの比率を乗じて合算することになる。しかしながら、本発明者らはこの数式1を用いた方法を詳細に検討したが、この方法では、後に詳述するように、信号強度検出部2により得られた信号強度に対応するような熱伝導率関数を求めることができず、それにより正確な相関関数を得ることができないことが分かった。これは、測定対象ガスに双極子モーメントが大きい水蒸気(水分子)が含まれ、その水蒸気(水分子)が、特異な分子間相互作用として水素結合をする能力を有するので、異種分子間相互作用または同種分子間相互作用しやすい傾向を示し、異種分子または同種分子と衝突しやすく、測定対象ガスの熱伝導率に特異な影響を及ぼすことによるものと考えられる。したがって、測定対象ガスの熱伝導率関数をより正確に求め、相関関数をより正確に求めるには、水蒸気(水分子)の双極子モーメントを考慮する必要がある。
【0034】
【数1】
λ
m:混合ガスの気体熱伝導率
λ
i:成分iの気体熱伝導率
x
i、x
j:成分iおよび成分jのモル分率
A
ij:相互作用を考慮した相互作用関数(A
ii=1)
【0035】
以上に述べた理由により、本実施形態では、測定対象ガスの熱伝導率関数は、乾燥空気、水蒸気および水素ガスの3成分ではなく、乾燥空気および水蒸気を含む空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数、ならびに空気の熱伝導率および水素ガスの熱伝導率により求められる。より具体的には、測定対象ガスの熱伝導率関数は、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数と、空気の熱伝導率および水素ガスの熱伝導率とを用いて、上述した数式1から求められる。そして、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数は、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度および分子量と、水素ガスの粘度および分子量とに基づいて求められる。測定対象ガスの熱伝導率関数を求めるにあたり、乾燥空気、水蒸気および水素ガスの3成分ではなく、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮することで、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度に水蒸気(水分子)の双極子モーメントの影響を反映させることができるので、より正確な熱伝導率関数を求めることができる。さらに、相対比較として、互いの熱伝導率の差分値の大きい水素ガスと水蒸気とを1成分として取り扱うのではなく、互いの熱伝導率の差分値の小さい水蒸気と乾燥空気とを1成分として取り扱うことにより、より正確な熱伝導率関数を求めることができる。したがって、相関関数をより正確に求めることができ、測定対象ガス中の水素ガスをより正確に検知することができる。同じ観点から、双極子モーメントの大きいアンモニアガスや一酸化炭素ガスなどの第1成分ガスと、第1成分ガスとの熱伝導率の差分値が小さい酸素ガスや窒素ガスなどの第2成分ガスと、第1成分ガスとの熱伝導率の差分値が大きいヘリウムガスやアルゴンガスなどの第3成分ガスとが測定対象ガスに含まれる場合には、第1成分ガスの双極子モーメントを考慮しつつ、第1成分ガスと第2成分ガスとが1成分として取り扱われて、測定対象ガスの熱伝導率関数が求められる。
【0036】
ここで相互作用関数は、2成分ガス間の相互作用を考慮した関数であり、相互作用する2成分ガスのそれぞれの分子量、粘度、分子間相互作用に関係する経験的なパラメータ(相互作用パラメータ)によって表わされる。本実施形態では、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数は、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度および分子量と、水素ガスの粘度および分子量とを用いて、以下のMasonとSaxenaの式(数式2)から求められる。
【0037】
【数2】
M
i、M
j:成分iおよび成分jの分子量
λ
tri、λ
trj:成分iおよび成分jの気体熱伝導率
γ:相互作用パラメータ
η
i、η
j:成分iおよび成分jの粘度
【0038】
また、空気の粘度は、たとえば公知の粘度センサによっても測定することができるが、本実施形態では、水蒸気の分子量、双極子モーメント、臨界圧力、臨界温度および空気中の濃度と、乾燥空気の分子量、双極子モーメント、臨界圧力、臨界温度および空気中の濃度とを用いて求められる。より具体的には、空気の粘度は、水蒸気の分子量、双極子モーメント、臨界圧力、臨界温度および空気中の濃度と、乾燥空気の分子量、双極子モーメント、臨界圧力、臨界温度および空気中の濃度とを用いて、以下のReichenbergの式(数式3)から求められる。
【0039】
【数3】
η
m:混合ガスの粘度
M
i、M
j、M
k:成分i、成分jおよび成分kの分子量
x
i、x
k:成分iおよび成分kのモル分率
η
i:成分iの粘度
T
rij:対臨界温度(reduced temperature)
T
ci、T
cj:成分i、成分jの臨界温度
μ:双極子モーメント
P
c:臨界圧力
T
c:臨界温度
【0040】
なお、第3成分ガスが、都市ガス(13A)のように2種以上のガスを含む混合ガスである場合には、水蒸気(第1成分ガス)および乾燥空気(第2成分ガス)を含む空気(2成分混合ガス)と、第3成分ガスに含まれる2種以上のガスとの、3種以上のガス成分同士の組み合わせの相互作用を考慮して、測定対象ガスの熱伝導率関数を求めてもよいし、2種以上のガスを1つの第3成分ガスとして取り扱って、2成分混合ガスと第3成分ガスとの相互作用を考慮して、測定対象ガスの熱伝導率関数を求めてもよい。このとき、第3成分ガスに含まれる2種以上のガスのそれぞれの熱伝導率は、実験的に得られた値を用いてもよいし、経験的な式や半経験的な式により求めた値を用いてもよいし、以下に述べる剛体球近似を用いて算出してもよい。また、2種以上のガスを1つの第3成分ガスとして取り扱う場合には、第3成分ガスの熱伝導率は、2種以上のガス同士の相互作用の大きさに応じて、異なる方法により求めることができる。たとえば、第3成分ガスの熱伝導率は、2種以上のガス同士の相互作用が比較的強い場合には、2種以上のガス同士の相互作用を考慮して、上述した数式1、数式2および数式3を用いて算出してもよいし、上述した数式1および数式2と、数式2中の熱伝導率の比(λ
tri/λ
trj)を求めるRoy-Thodosの手法(以下の数式7)とを用いて算出してもよい。また、2種以上のガス同士の相互作用を無視できる場合には、2種以上のガスのそれぞれの比率にそれぞれの熱伝導率を掛けて単純に足し合わせて、第3成分ガスの熱伝導率を算出してもよい。
【0041】
ここで、空気中の水蒸気濃度は、公知の湿度センサなどを用いて測定することが可能である。たとえば、水素ガスが含まれない空気中の湿度が湿度センサにより測定される場合には、湿度センサによって測定された湿度を空気中の水蒸気濃度に換算することができ、水素ガスが含まれる測定対象ガス中の湿度が湿度センサにより測定される場合には、空気中の水蒸気濃度は、水素ガスの濃度xの関数として表わされる。この目的のために、気体熱伝導式ガス検知装置1は、空気中の水蒸気(第1成分ガス)濃度および/または測定対象ガス中の水蒸気(第1成分ガス)濃度を測定するための、公知の湿度センサなどを用いた第1成分ガス濃度測定装置を備えていてもよい。
【0042】
また、気体熱伝導式ガス検知装置1は、測定対象ガスおよび/または標準ガスの温度を直接的または間接的に測定するための公知の温度センサを備えていてもよい。たとえば測定対象ガスおよび/または標準ガスの温度が変動する場合には、測定対象ガスおよび/または標準ガスの熱伝導率が変化するので、温度センサは、その温度変化による影響を補償するために用いることができる。
【0043】
信号強度Vと水素ガスの濃度xとの間の対応を示す相関関数(V=F(λ
samp(x))またはV≒F(λ
samp(x)))は、測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))から、たとえば、用いられる気体熱伝導式ガス検知装置の検知原理に応じて理論的に求めることもできるし、水蒸気の空気中の濃度および水素ガスの濃度が異なる複数の状態にある測定対象ガスから得られる複数の信号強度と、測定対象ガスの熱伝導率関数とをフィッティングさせることにより得ることもできる。後者の場合、本実施形態では、測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))および標準ガスの熱伝導率(λ
ref)の差の関数(Δλ(x))と、水蒸気の空気中の濃度が異なる条件下で得られた水素ガスの濃度変化に対する信号強度変化の関係とをフィッティングさせることにより、水蒸気の空気中の濃度に応じて相関関数を得ることができる。
【0044】
つぎに、本実施形態のガス検知方法について説明する。
【0045】
<ガス検知方法>
ガス検知方法は、第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスを含む測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出する信号強度検出工程と、その信号強度に基づいて、第3成分ガスを検知する第3成分ガス検知工程とを含んでいる。また、ガス検知方法は、任意で、第1成分ガスおよび第2成分ガスを含む2成分混合ガス中の第1成分ガスの濃度および/または測定対象ガス中の第1成分ガスの濃度を測定する第1成分ガス濃度測定工程を含んでいてもよい。また、ガス検知方法は、任意で、測定対象ガスおよび/または標準ガスの温度を直接的または間接的に測定するガス温度測定工程を含んでいてもよい。
【0046】
ガス検知方法のさらなる詳細を以下で説明するが、以下の説明では、上述した気体熱伝導式ガス検知装置1を用いて、第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスがそれぞれ、水蒸気、乾燥空気および水素ガスであり、水蒸気である第1成分ガスおよび乾燥空気である第2成分ガスを含む2成分混合ガスが空気である測定対象ガスにおける水素ガスを検知する例について説明する。しかし、本発明のガス検知方法は、以下の例に限定されることはなく、気体熱伝導式ガス検知装置1以外の装置を用いてもよいし、水蒸気、乾燥空気および水素ガス以外のガスを第1成分ガス、第2成分ガスおよび第3成分ガスとしてもよい。なお、測定対象ガスの熱伝導率関数、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数、および空気の粘度は、上述した方法と同じ方法により求められるので、以下ではその詳細な説明は省略する。
【0047】
信号強度検出工程において、上述した気体熱伝導式ガス検知装置1を用いた実施形態では、信号強度は、気体熱伝導式ガス検知装置1を用いて、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いに起因して検出される。より具体的には、信号強度検出の前段階として、気体熱伝導式ガス検知装置1の信号強度検出部2の補償用容器42bに標準ガスである乾燥空気が充填され、検知用容器41bに、気体熱伝導式ガス検知装置1の周囲の測定対象ガスが自然拡散される。そして、直流電圧源5により検知回路4のa−b点間に電流が供給される。水素ガスが発生していない場合には、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とは同じであるが、水素ガスが発生している場合には、検知素子41の第1変動抵抗体41aおよび補償素子42の第2変動抵抗体42aはそれぞれ、検知回路4に供給された電流により加熱される一方で、検知用容器41b内の測定対象ガスおよび補償用容器42b内の標準ガス中にその熱が放散される。このとき、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とが異なるため、第1変動抵抗体41aと第2変動抵抗体42aとで、放熱効率に差が生じ、その温度および抵抗値に差が生じる。その結果、検知回路4のc−d間に電位差が生じ、この電位差が電位差計6により信号強度として検出される。この電位差を検出することにより、測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の違いが検知される。ただし、信号強度検出工程は、測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出することができれば、検出に用いる装置は特に限定されることはなく、本実施形態の気体熱伝導式ガス検知装置1ではない、他の公知の気体熱伝導式ガス検知装置を用いて実施してもよいし、気体熱伝導式ガス検知装置ではない、測定対象ガスの熱伝導率に関連した信号強度を検出可能な他の装置を用いて実施してもよい。
【0048】
第3成分ガス検知工程において、上述した気体熱伝導式ガス検知装置1を用いた実施形態では、信号強度検出工程により得られる信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す相関関数、および、信号強度検出工程において得られた信号強度から、水素ガスを検知する。より具体的には、信号強度である電位差Vと水素ガスの濃度xとの間の対応を示す相関関数(V=F(x)またはV≒F(x))を用いて、信号強度検出工程により得られた電位差Vを、水素ガスの濃度xに対応した値に変換(x=F
-1(V)またはx≒F
-1(V))することで、測定対象ガス中の水素ガスの有無および/または濃度を検知する。
【0049】
このとき、信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す相関関数(V=F(x)またはV≒F(x))は、測定対象ガス中の水素ガスの濃度xを変数とする測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))から得られる(V=F(λ
samp(x))またはV≒F(λ
samp(x)))。そして、測定対象ガスの熱伝導率関数(λ
samp(x))は、乾燥空気、水蒸気および水素ガスの3成分ではなく、乾燥空気および水蒸気を含む空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数、ならびに空気の熱伝導率および水素ガスの熱伝導率により求められる。そして、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数は、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度および分子量と、水素ガスの粘度および分子量とに基づいて求められる。すでに上述したように、測定対象ガスの熱伝導率関数を求めるにあたり、乾燥空気、水蒸気および水素ガスの3成分ではなく、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮することで、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度に水蒸気(水分子)の双極子モーメントの影響を反映させることができるので、より正確な熱伝導率関数を求めることができる。さらに、相対比較として、互いの熱伝導率の差分値の大きい水素ガスと水蒸気とを1成分として取り扱うのではなく、互いの熱伝導率の差分値の小さい水蒸気と乾燥空気とを1成分として取り扱うことにより、より正確な熱伝導率関数を求めることができる。したがって、相関関数をより正確に求めることができ、測定対象ガス中の水素ガスをより正確に検知することができる。
【0050】
第3成分ガス検知工程は、たとえば本実施形態の気体熱伝導式ガス検知装置1の第3成分ガス検知部3により実施することができるが、信号強度検出工程により得られる信号強度と水素ガスの濃度との間の対応を示す上記相関関数、および、信号強度検出工程において得られた信号強度から、第3成分ガス(水素ガス)を検知することができればよく、第3成分ガス検知部3とは異なる他の装置を用いて実施してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をもとに本発明のガス検知装置およびガス検知方法の優れた効果を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<実施例>
気体熱伝導式ガス検知装置として、
図1および
図2に示される装置を用意し、水蒸気、乾燥空気および水素ガスが含まれる3成分系の測定対象ガスと、乾燥空気である標準ガスとについて、検知回路4中のc−d点間の電位差を測定した。測定対象ガス、標準ガス、検知素子41の第1変動抵抗体41aおよび補償素子42の第2変動抵抗体42aについては、以下の条件のものを用いた。第1固定抵抗43および第2固定抵抗44については、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率とが同じ場合に、検知回路4のc−d点間に電位差が生じないようにその抵抗値を設定した。
(1)測定対象ガス
ガス種:水蒸気、乾燥空気および水素ガス
測定対象ガス中の水素ガスの濃度(vol%)=水素ガス/(水蒸気+乾燥空気+水素ガス)x100(vol%):0、1、2、3、4
水素ガス濃度が0vol%のときの相対湿度(%RH):4.5、36.5、55.9、75.8、90.2
水素ガス濃度が1〜4vol%のときの相対湿度(%RH):20、40、60、80
温度(℃):80
(2)標準ガス
ガス種:乾燥空気
温度(℃):80
(3)第1変動抵抗体
作製方法:アルミナ基板上に、スパッタリング法により白金を蛇行形状で成膜し、その上層にシリカをコーティングして作製
温度(℃):100、200、300、400、500、600
(4)第2変動抵抗体
作製方法:第1変動抵抗体と同じ
温度(℃):80
【0053】
つぎに、測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率との差を計算により求め、その計算結果と上述した測定の結果との対比を行なった。測定対象ガスの熱伝導率および標準ガスの熱伝導率は、以下の方法で計算した。なお、以下の例では、個々のガスの熱伝導率等を数式4〜6を用いた計算により求めたが、他の式を用いて求めてもよいし、実験的に得られた値や経験的もしくは半経験的な式により求めた値を採用してもよい。
(1)測定対象ガスの熱伝導率
測定対象ガスの熱伝導率を以下の手順で求めた。まず、水蒸気および乾燥空気を1成分とした空気の粘度を上述した数式3により求め、水素ガスの粘度を剛体球近似(以下の数式4)により求めた。空気の粘度を求める際に、測定対象ガスの温度を、第1変動抵抗体41aの温度と同じ温度まで上昇しているものと仮定し、第1変動抵抗体41aの温度と同じとした。つぎに、空気の粘度および分子量と、水素ガスの粘度および分子量とを用いて、上述した数式2により、空気と水素ガスとの間の2成分の相互作用を考慮した相互作用関数(相互作用係数)を求めた。このとき、経験的パラメータ(相互作用パラメータ)γは、極性分子(空気)−無極性分子(水素ガス)の相互作用を考慮して、TandonとSaxenaによる推奨値(P. K. Tandon and S. C. Saxena, Appl. Sci. Res., 19, 163(1965))を採用した。最後に、得られた相互作用関数(相互作用係数)と、空気の熱伝導率および水素ガスの熱伝導率とを用いて、上述した数式3により、測定対象ガスの熱伝導率を求めた。なお、空気の熱伝導率は、多項式で表わされる経験的な式(以下の数式5)により求め、水素ガスの熱伝導率は、剛体球近似(以下の数式6)により求めた。
【0054】
【数4】
η:粘度
m:分子の質量
k:ボルツマン定数
T:気体の温度
ε:ポテンシャルパラメータ
a
0:0.354125
a
1:−0.427581
a
2:0.149251
a
3:−0.037174
a
4:0.003176
σ=0.2968nm(水素の分子直径)
(参考文献)M. J. Assael and S. Mixafendi, J. Phys. Chem. Ref. Data, 15, 4(1986)
【0055】
[数式5]
λ
A=A
A+B
A・T+C
A・T
2+D
A・T
3
λ
A:ガスの熱伝導率
T:ガスの温度
A
A、B
A、C
A、D
A:ガス種に応じた定数
(参考文献)A. Melling, et al., J. Phys. Chem. Ref. Data, 26, 4(1997)
【0056】
【数5】
λ(H
2):水素ガスの熱伝導率
T:水素ガスの温度
M:水素ガスの分子量
k:ボルツマン定数
T:気体の温度
ε:ポテンシャルパラメータ
σ=0.2968nm(水素の分子直径)
A:1.16145
B:0.14874
C:0.52487
D:0.77320
E:2.16178
F:2.43787
(参考文献)P. D. Neufeld, A. R. Janzen, and R. A. Aziz, J. Chem. Phys., 57, 1
100(1972)
(2)標準ガスの熱伝導率
標準ガスの熱伝導率は、多項式で表わされる経験的な式(上記数式5)により求めた。
【0057】
図3は、測定環境周囲温度が80℃で、水素ガスの濃度が0vol%で、第1変動抵抗体41aが異なる温度条件のときの測定結果であり、空気中の相対湿度の変化に対する検知回路4のc−d間の電位差の変化を示す。
図3から、第1変動抵抗体41aの温度が200℃以下の場合には、相対湿度が50%に増加するまで電位差は増加するが、相対湿度が50%を超えて増加すると電位差が減少していることがわかる。また、第1変動抵抗体41aの温度が300℃以上では、相対湿度の増加に伴い電位差は増加するが、その増加率は徐々に減少していることがわかる。
【0058】
図4は、
図3の測定結果に対応する計算結果であり、測定環境周囲温度が80℃で、水素ガスの濃度が0vol%で、第1変動抵抗体41aが異なる温度条件(測定対象ガスが異なる温度条件)のときの、空気中の相対湿度の変化に対する測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の差の変化を示す。
図4から、第1変動抵抗体41aの温度が200℃以下の場合(測定対象ガスが200℃以下の場合)には、相対湿度が50%に増加するまで熱伝導率の差は増加するが、相対湿度が50%を超えて増加すると熱伝導率の差が減少していることがわかる。また、第1変動抵抗体41aの温度が300℃以上(測定対象ガスの温度が300℃以上)では、相対湿度の増加に伴い熱伝導率の差は増加するが、その増加率は徐々に減少していることがわかる。この
図4に示された相対湿度の変化に対する熱伝導率の差の変化は、
図3に示された相対湿度の変化に対する電位差の変化と非常によく整合している。
【0059】
図5は、測定環境周囲温度が80℃で、第1変動抵抗体41aの温度が200℃で、測定対象ガス中の水素ガスの濃度が異なる条件のときの測定結果であり、空気中の相対湿度の変化に対する検知回路4のc−d間の電位差の変化を示す。
図4から、1〜4vol%のいずれの水素ガス濃度の場合でも、空気中の相対湿度の増加に伴い電位差は減少するが、その減少率は徐々に減少していることがわかる。
【0060】
図6は、
図5の測定結果に対応する計算結果であり、測定環境周囲温度が80℃で、第1変動抵抗体41aの温度が200℃(測定対象ガスの温度が200℃)で、測定対象ガス中の水素ガスの濃度が異なる条件のときの、空気中の相対湿度の変化に対する測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の差の変化を示す。
図6から、1〜4vol%のいずれの水素ガス濃度の場合でも、空気中の相対湿度の増加に伴い熱伝導率の差は減少するが、その減少率は徐々に減少していることがわかる。この
図6に示された相対湿度の変化に対する熱伝導率の差の変化は、
図5に示された相対湿度の変化に対する電位差の変化と非常によく整合している。
【0061】
図7(a)〜(d)は、
図6に示された熱伝導率の差と、
図5に示された電位差との関係を示す。空気中の相対湿度が20〜80%のいずれの場合でも、計算された熱伝導率の差と測定された電位差とが、非常に良い直線関係を有し、しかもほぼ同一の傾きを有している(傾きが約2.6〜2.7の範囲)ことがわかる。この直線関係(4つの傾きの平均値)を用いて、
図6に示された熱伝導率の差を変換した値を、
図4上に重ね合せた結果を
図8に示す。
図8から、測定された電位差と、計算された熱伝導率の差から変換された値とが非常によく一致していることがわかる。
【0062】
<比較例>
測定対象ガスの熱伝導率と標準ガスの熱伝導率との差を、上述した実施例とは異なる方法による計算により求め、その計算結果と上述した測定の結果との対比を行なった。測定対象ガスの熱伝導率は、以下の方法で算出した。なお、ここに記載していない条件は、上記実施例と同じとした。
【0063】
まず、水蒸気、乾燥空気および水素ガスのそれぞれの分子量、臨界温度、臨界圧力を用いて、Roy-Thodosの手法(以下の数式7)により、上述した数式2の中のλ
tri/λ
trjの値を求めた。得られたλ
tri/λ
trjの値を用いて、上述した数式2により、水蒸気、乾燥空気および水素ガスの3成分のうちのすべての組み合わせの2成分間の相互作用を考慮して、相互作用関数(相互作用係数)を求めた。このとき、経験的パラメータ(相互作用パラメータ)γは、無極性ガス(乾燥空気)と無極性ガス(水素ガス)との組み合わせについては、無極性分子−無極性分子の相互作用を考慮して、MasonとSaxenaによる推奨値(E. A. Mason and S. C. Saxena, Phys. Fluids, 1, 361(1958))を採用し、極性ガス(水蒸気)と無極性ガス(乾燥空気または水素ガス)との組み合わせについては、極性分子−無極性分子の相互作用を考慮して、TandonとSaxenaによる推奨値(P. K. Tandon and S. C. Saxena, Appl. Sci. Res., 19, 163(1965))を採用した。そして、得られた相互作用関数(相互作用係数)と、水蒸気の熱伝導率、乾燥空気の熱伝導率および水素ガスの熱伝導率とを用いて、上述した数式1により、測定対象ガスの熱伝導率を求めた。なお、水蒸気の熱伝導率および乾燥空気の熱伝導率は、上述した数式5により求め、水素ガスの熱伝導率は、剛体球近似(数式6)により求めた。
【0064】
【数6】
λ
tri、λ
trj:成分iおよび成分jの気体熱伝導率
T
c:臨界温度
P
c:臨界圧力
M:分子量
【0065】
図9は、
図5の測定結果に対応する計算結果であり、測定環境周囲温度が80℃で、第1変動抵抗体41aの温度が200℃(測定対象ガスの温度が200℃)で、測定対象ガス中の水素ガスの濃度が異なる条件のときの、空気中の相対湿度の変化に対する測定対象ガスおよび標準ガスの熱伝導率の差の変化を示す。
図9から、1〜4vol%のいずれの水素ガス濃度の場合でも、空気中の相対湿度の増加に伴い熱伝導率の差が直線的に減少していることがわかる。このことは、
図5に示された相対湿度の変化に対する電位差の変化と、
図9に示された相対湿度の変化に対する熱伝導率の差の変化とが整合していないことを示している。
【0066】
図10(a)〜(d)は、
図9に示された熱伝導率の差と、
図5に示された電位差との関係を示す。空気中の相対湿度が20〜80%のいずれの場合でも、計算された熱伝導率の差と測定された電位差とが直線関係を有しているものの、
図7(a)〜(d)に示された実施例とは異なり、それぞれの傾きが互いに大きく異なる(傾きが約3.2〜4.3の範囲)ことがわかる。この直線関係(4つの傾きの平均値)を用いて、
図9に示された熱伝導率の差を変換した値を、
図5上に重ね合せた結果を
図11に示す。
図8から、測定された電位差と、計算された熱伝導率の差から変換された値とが全く一致していないことがわかる。
【0067】
上述した実施例および比較例から分かるように、水蒸気、乾燥空気および水素ガスの3成分として相互作用関数を求めて測定対象ガスの熱伝導率を算出しても、算出された熱伝導率の差と測定された電位差との間に良好な相関関係は得られないが、水蒸気および乾燥空気を含む空気と水素ガスとの2成分として相互作用関数を求めて測定対象ガスの熱伝導率を算出すると、算出された熱伝導率の差と測定された電位差との間に良好な相関関係が得られる。特に、従来法(3成分で計算)によれば、算出された熱伝導率の差と測定された電位差との間の関係(傾き)が、測定対象ガス中の水蒸気の濃度の変化に伴って変化するが、本実施形態の方法(2成分で計算)によれば、測定対象ガス中の水蒸気の濃度の変化に影響を受けることなく、算出された熱伝導率の差と測定された電位差との間に良好な相関関係(傾きがほぼ一致)を得ることができる。したがって、水蒸気、乾燥空気および水素ガスの3成分を、空気と水素ガスとの2成分として取り扱い、水素ガスの濃度を変数とする測定対象ガスの熱伝導率関数を求めれば、その熱伝導率関数から、電位差(信号強度)と水素ガスの濃度との間の対応を示す、より正確な相関関数を得ることができる。そして、その相関関数を用いることにより、測定対象ガス中の水素ガスを精度よく検知することができる。