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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-102261(P2018-102261A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】三次元造形食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20180608BHJP
【FI】
   A23L29/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-254680(P2016-254680)
(22)【出願日】2016年12月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】埋橋 祐二
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC05
4B041LD01
4B041LE10
4B041LH08
4B041LH10
4B041LK14
4B041LK18
4B041LK44
4B041LP04
(57)【要約】
【課題】三次元造形可能であり、且つ造形後に三次元形状を維持可能なゲルとなり、保形性、耐熱性、色調にすぐれた食品を得ることができる三次元造形食品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る三次元造形食品の製造方法は、基材と、該基材を分解可能な分解剤と、ゲル化剤とを混練することによって、流動性を有し、且つ三次元構造を維持可能な三次元造形食品の材料を得る第1工程と、該三次元造形食品の材料を三次元造形する第2工程とを有する三次元造形食品の製造方法であって、前記第2工程の終了後に前記ゲル化剤がゲル化し、該ゲル化と同時又は該ゲル化後に前記基材が分解することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材を分解可能な分解剤と、ゲル化剤とを混練することによって、流動性を有し、且つ三次元構造を維持可能な三次元造形食品の材料を得る第1工程と、
該三次元造形食品の材料を三次元造形する第2工程とを有する三次元造形食品の製造方法であって、
前記第2工程の終了後に前記ゲル化剤がゲル化し、該ゲル化と同時又は該ゲル化後に前記基材が分解することを特徴とする三次元造形食品の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程が前記材料を吐出可能な器具から吐出することにより行われる請求項1記載の三次元造形食品の製造方法。
【請求項3】
前記分解剤が酵素及び/又は食品用微生物である請求項1又は2記載の三次元造形食品の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元設計データに基づいて造形物を製造する3Dプリンタ(三次元造形装置)が知られている。このような3Dプリンタの方式としては、光造形法、粉末焼結法、インクジェット法、溶融樹脂押し出し造形法など、様々な方式が提案され、製品化されている。
【0003】
近年、3Dプリンタを応用して食品を三次元造形する技術が開発されている。例えば特許文献1には、粉体状の被成形食材を結合誘起液で結着させることにより成形する三次元成形食品の製造方法が開示されている。また、例えばインクジェット方式や押出方式を応用して、溶融チョコレートをノズルより吐出して積層することにより得られるチョコレート菓子等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−131507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、3Dプリンタを用いた食品の三次元造形において、使用可能な食材は限られている。例えばインクジェット方式や押し出し造形方式を応用して食品を造形する場合、ノズルから吐出することができ、且つ吐出後も形状を維持することのできる高粘度、高付着性を有する材料のみを使用することができる。このような三次元造形が可能な食材は、成形性には優れているが、喫食した際に硬すぎたり、べたつきが感じられたりと、食感が好ましいものではない。また、食品の透明性が求められる際、特に冷蔵、冷凍保存後に白濁するなど、透明性が失われることがある。透明性が求められない場合であっても食材本来の色調が失われる場合がある。
【0006】
食感の良い三次元造形食品を得るために、ゲル材料を用いることが考えられる。しかし、ゲル材料を用いて三次元造形しようとする場合、形状を保つことができなかったり、次層に積層されたゲルとの付着性が悪かったりするため、うまく造形できないことが想定される。
【0007】
一般にゲルの成形は、溶液を型に流し込んで固めることにより行われるが、このような方法では、複雑な構造を有するゲルの三次元構造体を得ることができない。また、ゲルを用いて三次元造形した食品を殺菌や加温提供のために加熱した際に、その形状が失われるという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、三次元造形可能であり、且つ造形後に三次元形状を維持可能なゲルとなり、保形性、耐熱性、色調に優れた食品を得ることができる三次元造形食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材、基材を分解可能な分解剤及びゲル化剤を混合してなり、流動性を有し、且つ三次元形状を維持可能な材料を用いて三次元造形を行うことで、一定時間経過後に基材の分解、及びゲル化剤のゲル化が完了することにより、三次元形状を維持可能なゲルとなり、保形性、耐熱性、色調に優れた食品を得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る三次元造形食品の製造方法は、基材と、該基材を分解可能な分解剤と、ゲル化剤とを混練することによって、流動性を有し、且つ三次元構造を維持可能な三次元造形食品の材料を得る第1工程と、該三次元造形食品の材料を三次元造形する第2工程とを有する三次元造形食品の製造方法であって、前記第2工程の終了後に前記ゲル化剤がゲル化し、該ゲル化と同時又は該ゲル化後に前記基材が分解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明に係る三次元造形食品の製造方法によれば、三次元造形可能であり、且つ造形後に三次元形状を維持可能なゲルとなり、保形性、耐熱性、色調にすぐれた食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る第1工程は、三次元造形食品の材料を得る工程である。三次元造形食品の材料(以下、単に「材料」という場合がある)は、流動性を有し、且つ三次元形状を維持可能であり、基材と、基材を分解可能な分解剤と、ゲル化剤とを含有する。
【0013】
本発明において、ゲル化剤が第2工程前又は第2工程中にゲル化せず、第2工程後に材料が三次元形状を維持しているうちにゲル化するように、基材、分解剤及びゲル化剤の含有量が調整される。すなわち、ゲル化剤がゲル化するまで基材が分解されず、材料が三次元形状を維持できるように、基材、分解剤及びゲル化剤の含有量が調整される。
【0014】
本発明に係る三次元造形食品の材料は、流動性を有し、且つ三次元形状を維持可能である。すなわち、第2工程における三次元造形中の三次元造形食品の材料の応力が1g/cm〜700g/cmとなるように調整されており、5g/cm〜500g/cmがより好ましい。三次元造形食品の材料の応力は、例えばテクスチャーアナライザーによって測定される。応力が1g/cm〜700g/cmであることで、第2工程における成形性に優れ、例えば3Dプリンタのノズルや、生クリーム用の絞り袋、デコペン用の可撓性を有するプラスチック容器、包餡機、デポジッター等の器具から吐出して、三次元造形を行うことができる。応力が700g/cmより大きい場合、粘度が高すぎて吐出が困難となるため好ましくない。
【0015】
基材として、固体の食品、液体の食品いずれも使用することができ、例えばアルファ化澱粉やベータ化澱粉をアルファ化して得られるアルファ化澱粉、油脂及びその乳化物、タンパク質及びその加熱変性物、セルロース粉末などの食物繊維等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
基材がアルファ化澱粉である場合、アルファ化澱粉として粉末状のものを用いることが好ましい。アルファ化澱粉の由来原料としては特に限定されず、例えばコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、それらの化工澱粉等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0017】
基材がアルファ化澱粉である場合、アルファ化澱粉の含有量は、三次元造形食品全体に含まれる水分に対して1.0%〜22.0%であることが好ましく、12.5%〜17.5%であることがより好ましい。
【0018】
油脂としては常温で液体のものでも、固体のものでもよい。例えばキャノーラ油、大豆油、ひまわり油、米油、ごま油、パーム・ヤシ油、カカオ脂、ココナッツ脂等の植物油や、魚油、牛脂、豚脂等の動物油、マーガリン、ショートニング、バター等が挙げられる。
【0019】
基材が油脂である場合、油脂の含有量は、三次元造形食品の材料全体に含まれる水分に対して50重量%〜70重量%であることが好ましい。
【0020】
タンパク質として、粉末、粒状、水溶液、分散溶液、その状態は問わない。これを基材となりえるように加熱変性等で粘度を増して使用する。その由来原料は問わないが、例えば大豆タンパク、エンドウ豆タンパク、乳タンパク、卵タンパク等が挙げられる。
【0021】
基材がタンパク質である場合、タンパク質の含有量は三次元造形食品の材料全体に含まれる水分に対して10重量%〜20重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る分解剤として、基材を分解可能な化合物であれば特に限定はないが、例えば酵素や麹菌、乳酸菌、酵母などの食品用微生物等を使用することができる。用いる分解剤は、基材の種類に応じて適宜変更することが好ましい。基材は、第1工程における三次元造形食品の材料の調製後、第2工程における三次元造形が完了するまでには分解されない。
【0023】
分解剤の含有量は、基材を分解できる含有量であれば特に限定はなく、例えば、三次元造形食品全体に対して0.001%以上含有することが好ましい。
【0024】
例えば基材がアルファ化澱粉である場合、分解剤として、アミラーゼを使用することができる。また、基材が油脂である場合、分解剤として、リパーゼを使用することができる。基材がタンパク質である場合、分解剤として、プロテアーゼを使用することができる。基材がセルロースである場合、分解剤として、セルラーゼを使用することができる。
【0025】
本発明に係る三次元造形食品の材料において、基材は、材料の調製後2時間〜24時間で分解が完了することが好ましい。2時間未満で基材が分解されてしまうと、三次元造形時に三次元形状を維持することができなくなり、分解に24時間以上要する場合は、調整から食品の喫食までに時間がかかりすぎてしまい、腐敗の虞があるため好ましくない。
【0026】
本発明に係るゲル化剤として、例えばアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、およびこれらを低分子化したもの、ペクチン、ジェランガム、カラギーナン等が挙げられる。これらのゲル化剤のうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。さらに、寒天、ゼラチン、カードラン、タマリンドガム、キサンタンガム、マンナン、グアーガム、タラガム、アラビアガム、フェヌグリークガム、プルラン、大豆多糖類等を上記ゲル化剤と併用することができる。これらのうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0027】
ゲル化剤がアルギン酸塩、ペクチン、ジェランガム等のカルシウムイオンと反応してゲルを形成するゲル化剤である場合には、これらゲル化剤をゲル化させるためにカルシウム塩を使用することができる。カルシウム塩として、食品添加物として認可されているものであれば特に限定されず、例えば第3リン酸カルシウム、リン酸1水素カルシウム、リン酸1水素カルシウム水和物、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の難溶性カルシウム塩、塩化カルシウム、乳酸カルシウム等の易溶性カルシウム塩が挙げられる。中でも、ゲル化剤との反応速度を遅くするために、難溶性カルシウム塩であることが好ましい。カルシウム塩として易溶性カルシウム塩を使用する場合は、リン酸水素ナトリウムなどの金属封鎖剤を使用することによってゲル化剤のゲル化速度を遅くすることができる。
【0028】
本発明において、ゲル化剤は、材料の調製後2時間〜24時間でゲル化が完了することが好ましい。2時間未満でゲル化してしまうと、第2工程での三次元造形時に三次元形状を維持することができなくなり、ゲル化に24時間以上要する場合は、調整から食品の喫食までに時間がかかりすぎてしまい、腐敗の虞があるため好ましくない。また、本発明に係るゲル化剤は、第2工程後に基材の分解が完了すると同時、又は基材の分解が完了する前にゲル化が完了する。これにより、三次元造形時の成形性、保形性に優れる材料となる。
【0029】
本発明に係る三次元造形食品は、ゲル化剤のゲル化を遅延させるためにゲル化遅延剤を含有することができる。ゲル化剤が材料の調製後すぐにゲル化してしまうと、材料同士の付着性が悪化したり、粘度の低下により成形性が悪くなったりしてしまい、三次元造形を行うことが難しくなるため好ましくない。従って、ゲル化遅延剤を含有することで、ゲル化剤のゲル化を遅延させ、造形時にも三次元形状を維持することができ、造形を行いやすくすることができる。ゲル化剤として例えばアルギン酸ナトリウムを使用した場合、ゲル化遅延剤としては、グルコノデルタラクトン(GDL)や、クエン酸カルシウムといった徐放性カルシウム等が挙げられる。
【0030】
ゲル化剤の含有量は、望ましい強度、硬さの三次元造形食品を得るために適宜調節することができるが、三次元造形食品の材料全体に含まれる水分に対して0.03重量%〜10.0重量%であることが好ましく、0.3重量%〜7.0重量%であることがより好ましい。また、ゲル化遅延剤を含有する場合、その含有量はゲル化剤の含有量に合わせて適宜調節することができる。
【0031】
本発明に係る三次元造形食品の材料は、水を含有することができる。水としては特に限定はなく、水道水、蒸留水、脱イオン水、工業用水、井戸水等を使用することができる。
【0032】
基材が油脂である場合、乳化剤をさらに含有することが好ましい。乳化剤として、例えばシクロデキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、ユッカフォーム抽出物、植物性ステロール等が挙げられる。乳化剤を含有することで、時間経過とともに油脂と水分とが分離することを防ぐことができる。
【0033】
また、本発明に係る三次元造形食品の材料には、本発明の効果を阻害しない程度に、糖類、調味料、着色料、香料、酸味料、保存料、酸化防止剤等の公知の食品添加物を添加することができる。糖類として、例えばグラニュー糖、三温糖、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖、ブドウ糖、果糖、液糖、水飴等が挙げられる。
【0034】
第1工程において、基材、基材を分解可能な分解剤、ゲル化剤のうちすべてを同時に混合することも、いくつかに分けて混合することもできる。例えば、基材が粉末状のアルファ化澱粉、タンパク質又はセルロース等である場合は、当該粉末状の基材と、水以外の他の粉末状の成分とを予め混合しておき、その後水を添加して混練することで、三次元造形食品の材料を得ることができる。また、基材が液体の油脂である場合には、油脂及び水以外の粉末状の成分を予め混合し、水とともに混練して、その後油脂を添加して撹拌して乳化して、三次元造形食品の材料とすることができる。
【0035】
第2工程は、第1工程により得られた材料を用いて三次元造形を行うことができる方法であれば、特に限定されない。例えば、材料を手で三次元造形する方法、材料を型に流し込んで三次元造形する方法、材料を吐出可能な絞り袋やチューブ、パイプ、ノズル、注射器等の器具から吐出して積層する方法、インクジェット方式や押出方式の3Dプリンタを用いて当該3Dプリンタのノズルから吐出して三次元造形する方法などが挙げられる。また、饅頭やパンなどを成型する際に用いられる包餡機やデポジッターを使用することもでき、得られた三次元造形食品の内部に既存の食品を内包させることや、同時に絞り出すこともできる。より複雑な構造を有する三次元造形食品を三次元造形する場合には、絞り袋等の器具から吐出して積層する方法や、3Dプリンタを用いる方法とすることが好ましい。第2工程で得られる三次元造形食品の形状は、任意に設定することができる。
【0036】
第2工程は、第1工程の終了後なるべく早く行われることが好ましく、第1工程の終了後2時間以内に行われることが好ましい。分解剤による基材の分解、及びゲル化剤のゲル化が進行してしまうと、材料の粘度や付着性が低下し、造形しにくくなってしまう。
【0037】
また、第2工程の終了後、得られた三次元造形食品を加熱又は冷却する工程を行うことで、分解剤による基材の分解、及びゲル化剤のゲル化を促進することができる。
【0038】
本発明に係る三次元造形食品は、上記の材料を上記方法により三次元造形することにより得られる。本発明に係る材料を三次元造形して得られた三次元造形食品を10分間〜72時間放置することで、ゲル化剤のゲル化が完了し、且つ基材の分解が完了して、三次元形状を維持したゲル状食品となる。なお、分解した基材はゲルのネットワーク中に残存し、風味や食感に寄与する。
【0039】
本発明に係る三次元造形食品は、ゲル化剤のゲル化が完了し、且つ基材の分解が完了した際の10℃における応力(ゲル強度)が5g/cm〜2000g/cmである。応力の測定は、例えばテクスチャーアナライザー等の公知の装置を用いて行うことができる。応力が5g/cm〜2000g/cmであることで、喫食した際に硬さや飲み込みにくさが感じられず、食感の良い三次元造形食品とすることができる。
【0040】
さらに、ゲル化剤のゲル化、及び基材の分解が完了した三次元造形食品は、切断、味付け、加熱等の調理、殺菌や保存、提供のための加温等に供することもできる。
【0041】
以上のように、本発明に係る三次元造形食品は、三次元形状を維持したゲル状食品であり、調理に供することもできるため、例えば咀嚼・嚥下困難者のための食品として用いることができる。また、包餡タイプの水まんじゅうや大福などの和菓子、ゼリーやクリームを含む洋菓子として用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。また、以下の実施例において「%」表示は特に規定しない限り質量基準(質量パーセント)である。なお、各表中の「対水分%」とは、モデル食品中の水分量に対する含有量を示す。
【0043】
<モデル食品>
下記実験例1〜3に記載の方法により、3Dプリンタによる三次元造形に供する材料を想定したモデル食品を調整した。
【0044】
実施例1〜25及び比較例1〜7に係るモデル食品において用いた材料は、以下の通りである。
タピオカα化澱粉:マツノリン(登録商標)M−22(松谷化学工業社製)
アルギン酸ナトリウム:イナゲル(登録商標)GS−80(伊那食品工業社製)
第2リン酸カルシウム:太平化学産業社製
βアミラーゼ:天野エンザイム社製
リパーゼ:天野エンザイム社製
液油:キャノーラ油
環状デキストリン:α−サイクロデキストリン(シクロケム社製)
粉末状大豆タンパク質:不二製油社製
プロテアーゼ:天野エンザイム社製
【0045】
<評価方法>
(保形性評価)
モデル食品を調整後、60ccの樹脂製のゼリーカップに充填した。調整から1時間が経過したところ(20℃)でゼリーカップに充填したモデル食品の硬さを測定した。硬さは、テクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社製)を用い、1cmのプランジャーを進入させ、10mm進入時の応力(g/cm)を測定し、応力の値を硬さの指標とした。この値が大きいほど硬さがあり、保形性があることを示す。
【0046】
また、モデル食品を調整後、星型の口金のついたビニール製の絞り袋に充填を行った。3Dプリンタのノズルからの吐出を模して、絞り袋に充填したモデル食品をステンレス製のバット上に約15cmの長さで絞り出し、星型の線がどれくらい維持されるかを観察し、保形性の指標とした。測定した応力と絞り出した食品の様子を基に、以下の5段階にて保形性を評価した。
5点:星型の線が鮮明に維持され、きわめて保形性が高い。
4点:星型の線は維持されており、保形性が高い。
3点:星型の線は絞り出し直後のみ維持されているが、1時間後には不鮮明になってしまう。
2点:星型の線は絞り出し直後から不鮮明でだれてしまう。
1点:絞り出し袋から流れてしまい、まったく保形性がない。
【0047】
(硬さ・官能評価)
モデル食品を調整後、樹脂製の60ccのカップに充填し、調整から24時間冷蔵(5℃)したものの硬さを上記の保形性評価と同様にして測定した。得られた応力が大きいほど硬く、重い食感となる。
【0048】
また、得られたモデル食品の食感、口どけについてパネラー5名を用いて官能評価試験を行った。硬さの評価及び官能評価において得られた点の平均点を評価点とした。(小数点以下切捨て)
5点:やわらかく、軽い食感で、口当たりはべとつきがなく、口どけがよい。
4点:軽い食感で、口当たりはべとつきがない。
3点:やや硬いが、口当たりはべとつきがない。
2点:やや硬く、重たい食感、口当たりはべとつきがある。
1点:硬く、重たい食感、口当たりはべとつきがあり、口どけが悪い。
【0049】
(耐熱性評価)
実施例及び比較例で得られたモデル食品を上記保形性評価と同様に絞り袋に充填し、樹脂製の皿に絞り出した。これを24時間冷蔵した後、600Wの電子レンジにて30秒加熱した。レンジアップ後の星型の線や状態を観察し、形状をとどめるものを耐熱性あり、形状をとどめずにだれてしまうものを耐熱性なしとした。
【0050】
(透明度の評価)
モデル食品を調整後、上記保形性評価と同様に樹脂製の60ccのカップに充填した。これを24時間冷蔵し、カップから取り出した後、白色の紙に黒のラインを引きそのライン上にモデル食品を載せた。黒のラインの見え方をパネラー5名の目視によって採点した。採点は下記のような基準によって行ない、点数を透明度の評価値とした。尚、透明度の評価は下記実験例1のみにおいて行なった。
3点:透明度が高く、モデル食品背後の黒い線が良く見える。
2点:透明とも白濁ともどちらともいえない。
1点:透明感はなく、モデル食品背後の線が不明瞭である。
【0051】
<実験例1>
下記表1〜3の配合にて実施例1〜17及び比較例1〜3に係るモデル食品を調整した。詳細には、まず表1の原料Aを予め混合しておき、それを原料Bと混ぜ合わせる。原料A及び原料Bはそれぞれ20℃前後の室温である。混ぜ合わせた後、原料が均一に混ぜ合わされるように十分練り合わせ、混練を行った。得られた食品をそれぞれの評価方法に合わせて充填、保管を行なった。モデル食品の配合と評価結果を表1〜3に示す。食品用微生物としては糀粉末を用いた。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
以上のように、実施例1〜17に係るモデル食品は、保形性、硬さ、食感、耐熱性及び透明性に優れていた。
【0056】
<実験例2>
下記表4の配合にて実施例18〜21及び比較例4、5に係るモデル食品を調整した。詳細には、まず表の原料Aを予め混合しておき、それを原料Bと混ぜ合わせた。原料が均一に混ぜ合わされるように十分練り合わせ、混練をおこなった。さらに得られたものを原料Cの液油と混合し、ハンドミキサーによって乳化し、練り餡状の乳化物を得た。いずれの原料も20℃前後の室温である。得られた食品をそれぞれの評価方法に合わせて充填、保管を行なった。モデル食品の配合と評価結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
以上のように、実施例18〜21に係るモデル食品は、保形性、硬さ、食感及び耐熱性が優れていた。
【0059】
<実験例3>
下記表5の配合にて実施例22〜25及び比較例6、7に係るモデル食品を調整した。詳細には、まず表の原料Aを予め原料Cの水に分散する。これを加熱して得られたものに配合Bの粉末を混ぜ合わせた。原料が均一に混ぜ合わされるように十分練り合わせ、混練をおこなった。得られた食品をそれぞれの評価方法に合わせて充填、保管を行なった。モデル食品の配合と評価結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
以上のように、実施例22〜25に係るモデル食品は、保形性、硬さ、食感及び耐熱性が優れていた。