【解決手段】被験者の上腕と足首とのそれぞれの時系列の脈波信号を取得する(S11)。上腕−足首間脈波伝播速度を求める(S12)。伝達関数を算出して、少なくとも位相線図を作成する(S14)。各被験者の位相線図を4つのグループのいずれかに分類する(S16)。上記4つのグループのいずれかに位相線図が分類された各被験者について、それぞれのグループに対応して設定された判定基準によって、腹部大動脈瘤の有無を判定する(S17,S18)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で検証に用いられた脈波伝播モデル(
図2(A)は全身動脈の脈波伝播モデルを示し、
図2(B)はその腹部大動脈近傍の部分を拡大して示している。)の動脈径は実際の生体の動脈径よりも細い。また、腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm;AAA)を再現した腹動脈の内径は100mmに設定され、実際の腹部大動脈瘤の3倍以上に設定されて検証されているため、透過損失などの伝達関数の変化が過大評価されている可能性がある。このように、特許文献1の方法は、臨床データから乖離しており、評価の精度に疑問がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる測定装置、測定方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の測定装置は、
被験者における腹部大動脈瘤の有無を判定する測定装置であって、
上記被験者の上腕と足首とのそれぞれの時系列の脈波信号を取得する脈波信号取得部と、
上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号とに基づいて上腕−足首間脈波伝播速度を求める脈波伝播速度算出部と、
上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号とから、伝達関数を算出して、少なくとも位相線図を作成する伝達関数算出部と、
各被験者の位相線図を4つのグループのいずれかに分類する位相線図分類部とを備え、この位相線図分類部は、上記位相線図が表された周波数対位相平面上に、上記上腕−足首間脈波伝播速度に対応して傾斜した位相遅れを表すbaPWV線を設定して、各被験者の位相線図を、
上記baPWV線に対して位相線図が沿っている第1グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が徐々に離れる第2グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が階段状に離れる第3グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が一旦離れ、再び接近する第4グループと
に分類し、
上記4つのグループのいずれかに位相線図が分類された各被験者について、それぞれのグループに対応して設定された判定基準によって、腹部大動脈瘤の有無を判定する動脈瘤判定部を備えたことを特徴とする。
【0008】
本明細書で、周波数対位相平面上での、「上腕−足首間脈波伝播速度に対応して傾斜した位相遅れを表すbaPWV線」とは、上腕−足首間脈波伝播速度(単位;m/s)を周波数対位相平面上での傾き(単位;deg/Hz)に単位換算し、その平面上に、その傾きを持ち原点を通る線としてプロットしたものである。具体的には、baPWV線の傾きは、上腕・足首間距離をbalength(単位;m)、上腕−足首間脈波伝播速度をbaPWV(単位;m/s)としたとき、−2π・balength/baPWVによって表される。
【0009】
この発明の測定装置によれば、上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号、それらに由来する上腕−足首間脈波伝播速度、位相線図などの臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【0010】
一実施形態の測定装置では、
上記伝達関数算出部は、上記位相線図に加えて、ゲイン線図を作成し、
上記動脈瘤判定部は、上記判定基準を定めるために、
上記周波数対位相平面上で、予め定められた対象周波数範囲における上記baPWV線と上記位相線図との間の差分の総和を表す第1パラメータと、
上記ゲイン線図において振幅最大値を与える周波数を表す第2パラメータと、
上記ゲイン線図において上記脈波信号の基本周波数のゲインと同じゲインを与える周波数を表す第3パラメータと、
上記被験者と年齢、性別および血圧が同じである健常者について統計図表から求められた統計的上腕−足首間脈波伝播速度と、上記被験者について実測された上記上腕−足首間脈波伝播速度との間の差分を表す第4パラメータと
を算出して用いることを特徴とする。
【0011】
上記「対象周波数範囲」とは、下限側に上記脈波信号の基本周波数を含み、上限側は10Hz程度までの範囲を指す。
【0012】
上記脈波信号の「基本周波数」とは、パワースペクトルにおいてピークを与える最小の周波数を指す。通常は、基本周波数は1〜1.5Hz程度である。
【0013】
「統計図表」とは、典型的には、年齢、性別および血圧をパラメータとした上腕−足首間脈波伝播速度のノモグラムを指す。なお、以下では、統計的上腕−足首間脈波伝播速度に対して、単に「上腕−足首間脈波伝播速度」というときは、上記被験者について実測された上腕−足首間脈波伝播速度を指す。
【0014】
一実施形態の測定装置では、
上記第1グループに対応して設定された判定基準は、上記第4パラメータが予め定められた第1上下限範囲内にあるとき腹部大動脈瘤なしと判定する一方、上記第4パラメータが上記第1上下限範囲外にあるとき腹部大動脈瘤ありと判定する基準であり、
上記第2グループおよび上記第3グループに対応して設定された判定基準は、
上記第1パラメータ、上記第2パラメータがそれぞれ予め定められた第1閾値未満、第2閾値未満であるとき腹部大動脈瘤なしと判定し、
上記第1パラメータが上記第1閾値以上であり、または、上記第2パラメータが上記第2閾値を上回る第3閾値以上であるとき腹部大動脈瘤ありと判定し、また、
上記第1パラメータが上記第1閾値未満で、かつ、上記第2パラメータが上記第2閾値以上、上記第3閾値未満である場合は、上記第4パラメータと上記上腕−足首間脈波伝播速度とを直交軸とするパラメータ平面内で、上記第4パラメータと上記上腕−足首間脈波伝播速度とで定まるデータ点が予め定められた第1許容領域内にあるとき腹部大動脈瘤なしと判定する一方、そのデータ点が上記第1許容領域外にあるとき腹部大動脈瘤ありと判定する基準であり、
上記第4グループについては、
上記第4グループを、上記第3パラメータが予め定められた第4閾値以下であるか否かに応じて第1サブグループと第2サブグループとに分類し、
上記第1サブグループに対応して設定された判定基準は、上記第4パラメータが予め定められた第2上下限範囲内にあるとき腹部大動脈瘤なしと判定する一方、上記第4パラメータが上記第2上下限範囲外にあるとき腹部大動脈瘤ありと判定する基準であり、
上記第2サブグループに対応して設定された判定基準は、上記第4パラメータと上記上腕−足首間脈波伝播速度とを直交軸とするパラメータ平面内で、上記第4パラメータと上記上腕−足首間脈波伝播速度とで定まるデータ点が予め定められた第2許容領域内にあるとき腹部大動脈瘤なしと判定する一方、そのデータ点が上記第2許容領域外にあるとき腹部大動脈瘤ありと判定する基準である
ことを特徴とする。
【0015】
別の局面では、この発明の測定方法は、
被験者における腹部大動脈瘤の有無を判定する測定方法であって、
上記被験者の上腕と足首とのそれぞれの時系列の脈波信号を取得するステップと、
上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号とに基づいて上腕−足首間脈波伝播速度を求めるステップと、
上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号とから、伝達関数を算出して、ゲイン線図および位相線図を作成するステップと、
各被験者の位相線図を4つのグループのいずれかに分類するステップとを備え、このステップは、上記位相線図が表された周波数対位相平面上に、上記上腕−足首間脈波伝播速度に対応して傾斜した位相遅れを表すbaPWV線を設定して、各被験者の位相線図を、
上記baPWV線に対して位相線図が沿っている第1グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が徐々に離れる第2グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が階段状に離れる第3グループと、
周波数が大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が一旦離れ、再び接近する第4グループと
に分類し、
上記4つのグループのいずれかに位相線図が分類された各被験者について、それぞれのグループに対応して設定された判定基準によって、腹部大動脈瘤の有無を判定するステップを備えたことを特徴とする。
【0016】
この発明の測定方法によれば、上記上腕の脈波信号と上記足首の脈波信号、それらに由来する上腕−足首間脈波伝播速度、位相線図などの臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【0017】
なお、上記脈波伝播速度を求めるステップと上記伝達関数を算出するステップとは、いずれを先に実行しても良いし、互いに並行して実行しても良い。
【0018】
別の局面では、この発明のプログラムは、上記測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0019】
この発明のプログラムによれば、上記測定方法をコンピュータに実行させることができる。これにより、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【0020】
また、上記プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録させておくのが望ましい。より好ましくは、上記プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に非一時的(non-transitory)に記録させておくのが望ましい。これにより、上記記録媒体から上記プログラムをコンピュータが読み取ることによって、上記測定方法をコンピュータに実行させることができる。その結果、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【発明の効果】
【0021】
以上より明らかなように、この発明の測定装置、測定方法およびプログラムによれば、臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
(1)アルゴリズムの構築および検証に用いる症例データベースの構築
アルゴリズムの構築および検証に用いる症例データベースを次のようにして構築した。
(1−1)データ取得のための装置
被験者の上腕および下肢の脈波信号を、オムロンコーリン株式会社(東京、日本)製の血圧脈波検査装置(BP203RPEIII Form3またはBP−203RPEII Form2)(符号100で表す。)により取得した。
図3Aに示すように、この装置100は、架台110に載置された本体1と、4つのカフ24ar,24al,24br,24blと、心音または心電測定用ツール111と、プリンタ112とを含んでいる。本体1には、表示部4と、操作部6とが設けられている。4つのカフ24ar,24al,24br,24blは、それぞれ被験者の右足首、左足首、右上腕、左上腕に装着される仕様になっている。以下の説明では、右足首、左足首用のカフ24ar,24alをカフ24aと総称し、右上腕、左上腕用のカフ24br,24blをカフ24bと総称する。
【0025】
図3Bは、カフ24a、カフ24bが被験者200の足首、上腕に装着された状態で、この装置100の本体1のブロック構成を示している。本体1は、表示部4、操作部6に加えて、処理部2と、測定部20a,20bとを含んでいる。簡単のため、測定部20a,20bは、左足首、左上腕用のみが図示されているが、右足首、右上腕用の測定部も同様に設けられている。
【0026】
処理部2は、装置100全体の制御を行う。この処理部2は、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0027】
CPU10は、ROM12に予め格納されているプログラムを読み出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。
【0028】
処理部2には、表示部4、操作部6、および、
図3A中に示したプリンタ112が接続されている。表示部4は、ユーザによる各種設定の入力を促したり、処理部2からの演算結果を表示したりする。これに対して、ユーザは、表示部4に表示される内容を確認しながら操作部6を操作して、所望の設定入力や操作を行う。なお、表示部4は、この例では、LED(Light Emitting Diode)やLCD(Liquid Crystal Display)などからなる。プリンタ112は、表示部4に表示された演算結果等を紙にプリントアウトする。
【0029】
より具体的には、
図3Bに示す処理部2は、測定部20a,20bに対して測定指令を与えるとともに、当該測定指令に応答して測定された測定信号Pa(t),Pb(t)を受信し、当該測定信号Pa(t),Pb(t)に基づいて、後述するような臨床データを取得する。
【0030】
測定部20a,20bは、被験者200の所定の測定部位に装着されたカフ(空気袋)24a,24bの内圧(以下、「カフ圧」という)を加圧して、それぞれの測定部位における脈波の時間波形を測定する。すなわち、測定信号Pa(t)およびPb(t)は、それぞれカフ24aおよび24bが装着された位置の脈波信号になる。処理部2は、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の周波数特性を利用して処理を実行するので、処理部2からは、測定部20aおよび20bが互いに同期して測定信号を測定できるように、測定指令が同時に与えられる。
【0031】
より詳細には、例えば、カフ24aおよび24bは、それぞれ被験者200の足首部(好ましくは、前脛骨動脈の周辺)および上腕部(好ましくは、上腕動脈の周辺)に装着され、それぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bから供給される空気によって加圧される。この加圧によって、カフ24aおよび24bは対応の測定部位に押圧され、当該測定部位の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bへ伝達される。
【0032】
測定部20a,20bは、この伝達される圧力変化を検出することで、測定部位の脈波の時間波形を測定する。なお、測定信号Pa(t)およびPb(t)の所定の周波数成分(一例として、0〜20[Hz])に対して演算処理を行うことが好ましいので、測定信号Pa(t)およびPb(t)の測定周期(サンプリング周期)は、この周波数成分に応じた時間間隔(一例として、25msec)より短くすることが好ましい。
【0033】
このような測定動作を実行するために、測定部20aは、圧力センサ28aと、調圧弁26aと、圧力ポンプ25aと、配管27aとを含む。圧力センサ28aは、配管22aを介して伝達される圧力変動を検出する。圧力センサ28aは、単結晶シリコンなどの半導体チップ上に所定間隔で配列された複数のセンサエレメントを含む。調圧弁26aは、圧力ポンプ25aとカフ24aとの間に介挿され、測定時にカフ24aを加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25aは、処理部2からの測定指令に応じて作動し、カフ24aを加圧するための加圧空気を供給する。
【0034】
同様に、測定部20bは、圧力センサ28bと、調圧弁26bと、圧力ポンプ25bと、配管27bとを含む。各部の構成については、測定部20aと同様である。
【0035】
(1−2)臨床データの取得
上述の装置100を用いて、被験者200の四肢の血圧値(収縮期血圧(Systolic Blood Pressure;SBP)および拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure;DBP))を同時に測定し、足関節上腕血圧比ABI(Ankle Brachial Index)を算出するとともに、血圧測定後、所定のカフ圧で一定時間四肢の脈波信号を取得し、上腕−足首間脈波伝播速度baPWV(brachial ankle Pulse Wave Velocity)を取得した。
【0036】
上腕−足首間脈波伝播速度baPWVは、例えば
図4に示すような脈波信号(この例では、被験者200の左半身、右半身について、それぞれ上腕の波形の立ち上がりに対する足関節の波形の立ち上がりの遅れがΔTl、ΔTrになっている。)における立ち上がりの遅れΔTl、ΔTrに基づいて、被験者200の左半身、右半身について、それぞれbaPWV=(Lb−La)/ΔTにより算出される。ここで、Lbは大動脈起始部から足関節までの距離を表し、また、Laは大動脈起始部から上腕までの距離を表している。ΔTは、ΔTlまたはΔTrを表している(簡単のため、“l”,“r”の記号を省略している)。
【0037】
(2)アルゴリズムの構築
腹部大動脈瘤(AAA)の有無を判定するために、上腕−足首間脈波伝播速度baPWV、位相線図などの臨床データを元にした新たなアルゴリズムを、次のようにして構築した。
図5は、腹部大動脈瘤の有無を判定するための処理フローを、既述の脈波信号の取得(ステップS11)および上腕−足首間脈波伝播速度baPWVの取得(ステップS12)を含めて、一実施形態の測定方法の処理フローとして示している。
【0038】
(2−1)処理ブロックの選別
まず、時系列の脈波信号を、時間的に複数の処理ブロックに区分して、腹部大動脈瘤の有無を判定するために使用すべき処理ブロックを選別した(
図5のステップS13)。
【0039】
すなわち、生体信号である脈波信号は、脈波間隔や振幅が1拍毎に変動している。そのため、仮に、取得した脈波信号の全データを使用して伝達関数を算出すると、位相線図に含まれる脈波信号の変動成分が、腹部大動脈瘤の有無判定の精度に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、
図6(A)に示すような時系列の脈波信号を、
図6(B)に示すような約3.4s(秒間)を1処理ブロックとし、1処理ブロックの1/2ずつシフトしながら複数の処理ブロックに区分した。
【0040】
このようにして得られた複数の処理ブロックから、腹部大動脈瘤の有無を判定するために使用すべき処理ブロックを次のようにして選別した。まず、上腕の脈波信号から得られた処理ブロックごとにパワースペクトルSxxを算出して、基本周波数および第1次高調波を抽出した。それとともに、足首(下肢)の脈波信号から得られた処理ブロックごとにパワースペクトルSyyを算出して、基本周波数および第1次高調波を抽出した。次に、上腕において、同一の基本周波数および第1次高調波を持つ処理ブロックが最も多い処理ブロックを抽出した。さらに、その基本周波数および第1次高調波と一致する基本周波数および第1次高調波を示す足首(下肢)の処理ブロックを、腹部大動脈瘤の有無を判定するために使用すべき処理ブロックとして選別した。
【0041】
(2−2)伝達関数の算出
次に、上腕の脈波信号と足首の脈波信号とから、伝達関数を算出して、ゲイン線図および位相線図を作成した(
図5のステップS14)。
【0042】
伝達関数を算出する際には、ノイズの影響を低減するために、上腕のパワースペクトルSxxと、上腕と下肢のクロススペクトルSxyとを、各処理ブロックごとに算出したのち、それぞれ複数の処理ブロックに関して加算平均をとった。それぞれ加算平均をとった上腕のパワースペクトルSxxave、上腕と下肢のクロススペクトルSxyaveを用いて、次式(Eq.1)により伝達関数Gを算出して、ゲイン線図および位相線図を作成した。
G=Sxyave/Sxxave ・・・(Eq.1)
【0043】
(2−3)エラー判定
この後、学習群のデータのうち次のi)、ii)のいずれかに該当するデータを、正確に大動脈瘤の有無が検出できないデータであるとして、エラーとして排除した(
図5のステップS15)。
i)下肢狭窄の疑いがあるデータ
下肢狭窄を発症している場合、上腕に比較し下肢の脈圧が小さくなるため、脈波の振幅成分を周波数軸で見た場合、上腕と下肢の振幅比は高調波になるほど大きくなる。そこで、ゲイン線図において、第1次高調波のゲインが基本周波数のゲイン以下であるデータを下肢狭窄の疑いのあるデータとして、エラーとして排除した。
ii)不規則脈波の混入の疑いのあるデータ
処理ブロック選別後の処理ブロック数が全16処理ブロックのうち4処理ブロック以下(全4処理ブロックの場合は1処理ブロック以下)であり、かつ平均脈波間隔に対し±25%以上の拍が残りの処理ブロックに含まれている場合、不規則脈波の混入の疑いのあるデータとして、エラーとして排除した。これにより、前述の処理ブロック選別で除去しきれなかった不規則脈波の混入を除去した。
【0044】
(2−4)位相線図のグルーピング
次に、各被験者の位相線図を4つのグループのいずれかに分類した(
図5のステップS16)。これは、学習群の伝達関数Gを算出し位相線図を算出すると、それらの位相線図の形状が大別して
図7A〜
図7Dに示す4つのグループに分類される可能性が見えたからである。
【0045】
詳しくは、
図7A〜
図7Dに示すように、それぞれ位相線図(実線で示す)が表された周波数対位相平面PL上に、上腕−足首間脈波伝播速度baPWVに対応して傾斜した位相遅れを表すbaPWV線(破線で表す)を設定した。このbaPWV線とは、上腕−足首間脈波伝播速度(単位;m/s)を周波数対位相平面PL上での傾き(単位;deg/Hz)に単位換算し、その平面PL上に、その傾きを持ち原点を通る線としてプロットしたものである。具体的には、baPWV線の傾きは、上腕・足首間距離をbalength(単位;m)、上腕−足首間脈波伝播速度をbaPWV(単位;m/s)としたとき、次式(Eq.2)によって表される。
−2π・balength/baPWV ・・・(Eq.2)
【0046】
ここで、
図7Aの例では、baPWV線に対して位相線図が沿っている。このタイプのデータを第1グループG1に分類する。
図7Bの例では、周波数fが大きくなるに連れて、baPWV線に対して位相線図が徐々に離れている。このタイプのデータを第2グループG2に分類する。
図7Cの例では、周波数fが大きくなるに連れて、baPWV線に対して位相線図が階段状に離れている。このタイプのデータを第3グループG3に分類する。
図7Dの例では、周波数fが大きくなるに連れて、baPWV線に対して位相線図が一旦離れ、再び接近している。このタイプのデータを第4グループG4に分類する。定量的には、学習群のデータを、次の表2に示す分類条件によって上記4つのグループG1〜G4に分類した。なお、表2において、或る周波数fでのbaPWV線と位相線図との間の位相差をΔφと表している。
(表2)位相線図の分類条件
【0047】
(2−5)パラメータの算出
次に、上述の位相線図、ゲイン線図より腹部大動脈瘤のデータに特有の現象を表す特徴パラメータとして、次に述べる第1パラメータPR1、第2パラメータPR2、第3パラメータPR3、および、第4パラメータPR4の、計4つのパラメータを算出した(
図5のステップS17)。
【0048】
第1パラメータPR1は、位相線図とbaPWV線との差分の総和である。特許文献1(特開2013−94264号公報)に開示されているように、位相線図は腹部大動脈瘤の内径が増加することにより変化する。この変化量を定量化した指標を第1パラメータPR1とする。この第1パラメータPR1は腹部大動脈瘤の内径に関連する指標となる。具体的には、例えば
図8Aに示すように、周波数対位相平面PL上で位相線図とbaPWV線とが表されるとき、予め定められた対象周波数範囲(この例では、周波数f=1.47Hz〜10.25Hz)におけるbaPWV線と位相線図との間の差分Δφ(絶対値)の総和を第1パラメータPR1とする。第1パラメータPR1の値が大きいほど、腹部大動脈瘤の可能性が高いと言える。
【0049】
第2パラメータPR2は、ゲイン線図において振幅最大値を与える周波数である。特許文献1(特開2013−94264号公報)に開示されているように、位相線図の極小値をとる周波数間隔は腹部大動脈のヤング率が増加することにより高くなる。この周波数間隔を定量化した指標を第2パラメータPR2とする。この第2パラメータPR2は腹部大動脈瘤の発生機序である動脈の伸展性に関連する指標となる。具体的には、
図8Bに示すように、ゲイン線図において、予め定められた対象周波数範囲(この例では、周波数f=0Hz〜8Hz)においてゲインが最大となる周波数を第2パラメータPR2とする。第2パラメータPR2の値が大きいほど、腹部大動脈瘤の可能性が高いと言える。
【0050】
第3パラメータPR3は、ゲイン線図において脈波信号の基本周波数のゲインと同じゲインを与える周波数である。特許文献1(特開2013−94264号公報)に開示されているように、伝達関数の極小値をとる周波数間隔は腹部大動脈瘤の長さに比例して狭くなる。この周波数間隔を定量化した指標を第3パラメータPR3とする。この第3パラメータPR3は腹部大動脈瘤の長さに関連する指標となる。具体的には、
図8Cに示すように、ゲイン線図において、予め定められた対象周波数範囲(この例では、脈波信号の基本周波数から10Hzまでの範囲)において脈波信号の基本周波数のゲインと同じゲインとなる周波数を第3パラメータPR3とする。実際には、ゲイン線図は周波数分解能ごとにしか値をとらないため、低周波数側から探索して脈波信号の基本周波数のゲインの値を下回った直後の周波数を第3パラメータPR3とする。第3パラメータPR3の値が小さいほど、腹部大動脈瘤の可能性が高いと言える。
【0051】
第4パラメータPR4は、被験者と年齢、性別および血圧が同じである健常者について統計図表(例えば、
図9(A)、
図9(B)に示すノモグラム)から求められた統計的上腕−足首間脈波伝播速度(これを「ノモグラム推測baPWV」と呼ぶ。)と、被験者について実測された上腕−足首間脈波伝播速度(これを「実測baPWV」と呼ぶ。)との間の差分ΔbaPWVである。第4パラメータPR4は、次式(Eq.3)により算出される。
PR4≡ΔbaPWV=(ノモグラム推測baPWV)−(実測baPWV)
・・・(Eq.3)
例えば、84歳、女性、収縮期血圧(SBP)140mmHgの被験者の実測baPWVが、
図9(A)中に△印P1で示すように、1340m/sであったとする。この場合、被験者と年齢、性別および血圧が同じである健常者についてのノモグラム推測baPWVは、
図9(A)中に○印P0で示すように、2100m/sである。したがって、第4パラメータPR4≡ΔbaPWV=760m/sとして求められる。この第4パラメータPR4は腹部大動脈瘤における2つの事象を表す指標である。1つは、腹部大動脈瘤の発生機序の一つである動脈硬化(大動脈の伸展性)を表している。動脈硬化が進行(大動脈の伸展性が低下)するとbaPWVは速くなるため、第4パラメータPR4は正の値をとり得る。一方、ブラムウエル(Bramwell)とヒル(Hill)らの文献(“Velocity of transmission of the pulse-Wave and elasticity of arteries”, Bramwell JC, Hill AV, Lancet, 1922; 199(5149); 891-892)によると、大動脈瘤の患者では頸動脈―橈骨動脈PWVが減少すると報告されている。これは、大動脈瘤による大動脈内径の拡大、あるいは大動脈壁性状の変化によりbaPWVが低下するためと考えられる。このことより、第4パラメータPR4は負の値をとり得る。
【0052】
(2−6)決定木(decision tree)の作成および腹部大動脈瘤の有無の判定
4つのグループG1〜G4と4つのパラメータPR4を組み合わせて、腹部大動脈瘤検出の感度および特異度が最良となる決定木を作成した。すなわち、それぞれのグループG1〜G4に対応して、腹部大動脈瘤の有無を判定するための判定基準を作成した。これにより、4つのグループG1〜G4のいずれかに位相線図が分類された各被験者について、それぞれのグループG1〜G4に対応した判定基準によって、腹部大動脈瘤の有無を判定した(
図5のステップS18)。
【0053】
詳しくは、
図10の上部に、位相線図のグルーピング(
図5のステップS16)によって分類された4つのグループG1〜G4を示している。決定木の作成に際しては、グループG1〜G4ごとに第1パラメータPR1と第2パラメータPR2との組み合わせによる散布図、および、第2パラメータPR2と第3パラメータPR3との組み合わせによる散布図を作成した。また、第4パラメータPR4については、横軸を実測baPWVとする散布図を作成した。これらの散布図より、腹部大動脈瘤検出の決定木および閾値を、次のようにグループG1〜G4ごとに構築した。
【0054】
(2−6−1)第1グループG1についての判定基準
第1グループG1は位相線図に著明な変化がないことから腹部大動脈瘤の可能性が低いグループである。そこで、
図10(A)に示すように、第4パラメータPR4が第1上下限範囲UL1内にあるとき(この例では、−141<PR4<375.5であるとき)、腹部大動脈瘤なしと判定した。一方、第4パラメータPR4に基づいて、腹部大動脈瘤の影響により実測baPWVが減少していると考えられるとき(この例では、PR4≧375.5であるとき)、もしくは、腹部大動脈瘤の影響により動脈の伸展性が低下していると考えられるとき(この例では、PR4≦−141であるとき)、腹部大動脈瘤ありと判定した。
【0055】
(2−6−2)第2グループG2および第3グループG3についての判定基準
第2グループG2および第3グループG3は位相線図において著明な変化が見られることから、腹部大動脈瘤ありの可能性が高いグループである。そこで、
図10(B)に示すように、第1パラメータPR1が位相線図の変化が小さいと考えられる第1閾値α1未満(この例では、PR1<25)であり、かつ、第2パラメータPR2が動脈の伸展性が低下していないと考えられる第2閾値α2未満(この例では、PR2<2)であるとき、腹部大動脈瘤なしと判定した。一方、第1パラメータPR1に基づいて位相線図の変化が大きいと考えられるとき(この例では、PR1≧25であるとき)、または、第2パラメータPR2に基づいて動脈の伸展性が低下していると考えられるとき(この例では、第2パラメータPR2に対する第2閾値α2(=2)を上回る第3閾値α3(=3)を設定して、PR2≧3)である場合、腹部大動脈瘤ありと判定した。
【0056】
第2グループG2および第3グループG3が上記のいずれにも該当しない場合(PR1<25、かつ、2≦PR2<3である場合)は、
図10(C)に示すように、第4パラメータPR4と実測baPWVとを直交軸とするパラメータ平面PL1内で、第4パラメータPR4と実測baPWVとで定まるデータ点(図中に○印または△印で示す。)が第1許容領域CA1内にあるとき、腹部大動脈瘤なしと判定した。ここで、第1許容領域CA1は、第4パラメータPR4に関して−260<PR4<170の範囲内で、かつ、次式(Eq.4)で定まる閾値Th1未満である領域として定めた。
Th1=−0.7261×(実測baPWV)+1384 ・・・(Eq.4)
この式(Eq.4)を導入した理由は、第2グループG2および第3グループG3は、腹部大動脈瘤ありの可能性が高いことから、第4パラメータPR4の値だけではなく、実測baPWVとの関係も考慮するのが望ましいからである。一方、パラメータ平面PL1内で、第4パラメータPR4と実測baPWVとで定まるデータ点が第1許容領域CA1外にあるときは、腹部大動脈瘤ありと判定した。
【0057】
(2−6−3)第4グループG4についての判定基準
第4グループG4も位相線図において著明な変化が見られることから、腹部大動脈瘤ありの可能性が高いグループである。そこで、まず、
図10(D)に示すように、第4グループG4を、第3パラメータPR3が第4閾値α4(=5)以下であるか否かに応じて第1サブグループG4−1と第2サブグループG4−2とに分類した。
【0058】
第1サブグループG4−1は、第3パラメータPR3が第4閾値α4以下(この例では、PR3≦5)であるから、腹部大動脈瘤ありの可能性がより高い群になる。
図10(E)に示すように、第1サブグループG4−1については、第4パラメータPR4が第2上下限範囲UL2内にあるとき(この例では、−260<PR4<170であるとき)、腹部大動脈瘤なしと判定する一方、第4パラメータPR4が第2上下限範囲UL2外にあるとき(すなわち、−260≧PR4、または、170≦PR4であるとき)、腹部大動脈瘤ありと判定した。
【0059】
第2サブグループG4−2(すなわち、5<PR3であるデータ群)については、
図10(F)に示すように、第4パラメータPR4と実測baPWVとを直交軸とするパラメータ平面PL1内で、第4パラメータPR4と実測baPWVとで定まるデータ点(図中に○印または△印で示す。)が第2許容領域CA2内にあるとき、腹部大動脈瘤なしと判定した。ここで、第2許容領域CA2は、第4パラメータPR4に関してPR4<170で、かつ、次式(Eq.5)で定まる閾値Th2未満である領域として定めた。
Th2=−1.1093×(実測baPWV)+1804.7 ・・・(Eq.5)
一方、パラメータ平面PL1内で、第4パラメータPR4と実測baPWVとで定まるデータ点が第2許容領域CA2外にあるときは、腹部大動脈瘤ありと判定した。
【0060】
以上のようにして腹部大動脈瘤の有無を判定した。
【0061】
図11は腹部大動脈瘤の有無を判定する今回のアルゴリズムによる判定結果についての感度、特異度を示している。
図11において、表側は、本アルゴリズムにより「瘤あり」、「瘤なし」と判定された区分を示している。表頭は、医師によるCTA診断(確定診断)により「瘤あり」、「瘤なし」と判定された区分を示している。表体は、それらの区分に当てはまる症例数を示している。
図11から分かるように、検証群における感度は74.6%、特異度は67.9%となった。
【0062】
また、
図12(A)、
図12(B)は、腹部大動脈瘤の外径(最大短径)ごとの検出率を、それぞれ棒グラフ、表形式で示している。これらの図では、瘤の外径は、40mm以下の範囲と、40mm超かつ50mm以下の範囲と、50mm超かつ60mm以下の範囲と、60mm超の範囲とに区分されている。60mm超の範囲は別にして、前3つの範囲では、検出率は略一定になっている。したがって、今回のアルゴリズムによれば、腹部大動脈瘤の検出率(判定結果)は瘤の外径に依存しないことが示された、と言える。
【0063】
また、参考までに、
図13(A)、
図13(B)は、瘤形状(紡錘状、嚢状)ごとの検出率を、それぞれ棒グラフ、表形式で示している。
【0064】
また、参考までに、
図14は、AAA患者についての瘤の外径(最大短径)と(実測)baPWVとの散布図を示している。ベイリー(Bailey)らが文献(“Carotid-femoral pulse wave velocity is negatively correlated with aortic diameter”, Bailey MA, Davies JM, Griffin KJ, et al., Hypertension Research, 2014, 37, 926-932)で示しているように、瘤の外径(最大短径)とbaPWVとの間に明らかな相関関係は見られない。
【0065】
以上より明らかなように、この実施形態の測定方法によれば、臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。検証群における感度74.6%、特異度67.9%という判定結果(
図11参照)は、集団健診などでの一次スクリーニングとしては十分有益なレベルであると考えられる。
【0066】
(測定装置の実施形態)
図15は、本発明の一実施形態に係る測定装置(全体を符号100Aで示す。)の概略ブロック構成を示している。この測定装置100Aは、被験者における腹部大動脈瘤の有無を判定する測定装置であって、上述の新たなアルゴリズムを含む測定方法を実施するものに相当する。
【0067】
この測定装置100Aは、大別して、臨床データ取得部102(脈波信号取得部103を含む。)と、信号処理部104と、出力部109とを備えている。
【0068】
臨床データ取得部102は、被験者の四肢の血圧値(収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP))を同時に測定し、血圧測定後、脈波信号取得部103によって所定のカフ圧で一定時間四肢の時系列の脈波信号を取得する(
図5中のステップS11に相当する。)。この例では、臨床データ取得部102は、例えば
図3B中に示したような、カフ24a、カフ24b、および、処理部2によって制御される測定部20a,20b、および、カフ24a、カフ24bと測定部20a,20bを接続する配管22a,22bによって構成される。
【0069】
信号処理部104は、脈波伝播速度算出部105と、伝達関数算出部106と、位相線図分類部107と、動脈瘤判定部108とを備えている。この信号処理部104は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、および、RAM(Random Access Memory)を含むコンピュータで構成される。
【0070】
脈波伝播速度算出部105は、脈波信号取得部103によって取得された上腕の脈波信号と足首の脈波信号とに基づいて、上腕−足首間脈波伝播速度baPWVを求める(
図5中のステップS12に相当する。)。
【0071】
伝達関数算出部106は、脈波信号取得部103によって取得された上腕の脈波信号と足首の脈波信号とから、伝達関数を算出して、少なくとも
図7A〜
図7D中に例示したような位相線図を作成する(
図5中のステップS14に相当する。)。なお、伝達関数算出部106は、予め処理ブロックの選別(
図5中のステップS13に相当する。)を行うのが望ましい。また、位相線図作成後に、エラー判定(
図5中のステップS15に相当する。)を行うのが望ましい。
【0072】
位相線図分類部107は、各被験者の位相線図を4つのグループG1〜G4のいずれかに分類する(
図5中のステップS16に相当する。)。具体的には、この位相線図分類部107は、
図7A〜
図7D中に例示したような位相線図が表された周波数対位相平面PL上に、上腕−足首間脈波伝播速度baPWVに対応して傾斜した位相遅れを表すbaPWV線を設定する。そして、この位相線図分類部107は、各被験者の位相線図を、
上記baPWV線に対して位相線図が沿っている第1グループG1と、
周波数fが大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が徐々に離れる第2グループG2と、
周波数fが大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が階段状に離れる第3グループG3と、
周波数fが大きくなるに連れて、上記baPWV線に対して位相線図が一旦離れ、再び接近する第4グループG4と
に分類する。分類に際しては、既に表2に示した位相線図の分類条件を用いる。
【0073】
動脈瘤判定部108は、上記4つのグループG1〜G4のいずれかに位相線図が分類された各被験者について、それぞれのグループG1〜G4に対応して設定された判定基準によって、腹部大動脈瘤の有無を判定する(
図5中のステップS18に相当する。)。
【0074】
ここで、グループG1〜G4にそれぞれ対応する判定基準は、
図10を用いて既に説明したものである。その判定基準は、既述のように、被験者の臨床データに基づいて
図8A〜
図8C,
図9を用いて説明した4つのパラメータPR1〜PR4を算出した上(
図5中のステップS17に相当する。)、それら4つのパラメータPR1〜PR4を用いて設定される。
【0075】
出力部109は、動脈瘤判定部108によって得られた腹部大動脈瘤の有無の判定結果を出力する。この出力部109は、例えば
図3A中に示したような、表示部4、または、プリンタ112によって構成される。
【0076】
この測定装置100Aによれば、上腕の脈波信号と足首の脈波信号、それらに由来する上腕−足首間脈波伝播速度、位相線図などの臨床データを元にした新たなアルゴリズムによって、被験者における腹部大動脈瘤の有無を精度良く判定できる。
【0077】
なお、信号処理部104は、上述の処理に加えて、足関節上腕血圧比ABI、正規化脈波面積%MAP、アップストローク時間UTなどの臨床データを算出する処理を行ってもよい。出力部109は、それらの臨床データとともに、上述の腹部大動脈瘤の有無の判定結果を出力してもよい。
【0078】
上述の実施形態では、被験者の上腕と足首とのそれぞれの時系列の脈波信号を、カフ24a、カフ24bを用いて圧力変化として測定して取得する例について説明した。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、被験者の測定部位に微少の一定電流を流すとともに、脈波の伝播に応じて生じるインピーダンス(生体インピーダンス)の変化によって生じる電圧変化を、脈波信号として取得してもよい。
【0079】
また、被験者の上腕と足首とのそれぞれの時系列の脈波信号を、測定装置100Aの外部から有線または無線の通信回線(ネットワークなど)を介して入力して取得してもよい。
【0080】
(その他の実施形態)
さらに、上述の実施形態に係る測定方法を実現させるためのプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk - Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体にて非一時的(non-transitory)に記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて非一時的に記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。このようなプログラムを、例えば既述のオムロンコーリン株式会社(東京、日本)製の血圧脈波検査装置(BP203RPEIII Form3またはBP−203RPEII Form2)のコンピュータ(処理部2)にインストールすれば、上述の測定方法を実行することができる。
【0081】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。