(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-103433(P2018-103433A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】万年筆
(51)【国際特許分類】
B43K 5/18 20060101AFI20180608BHJP
【FI】
B43K5/18 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-250881(P2016-250881)
(22)【出願日】2016年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】芳野 清隆
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350HA01
2C350HC04
2C350KA03
2C350KC19
2C350KF01
2C350NA07
(57)【要約】
【課題】インキ吸入の際に効率よくインキ吸引を行うことができ、且つ空気溝にあるインキが紙面に落下し難い構造の万年筆を得る。
【解決手段】インキ溝7aが上側面に形成され空気溝7bが前方から後方に渡って形成されたペン芯7と、当該ペン芯7の上側面に隣設されたペン体6とを有し、当該ペン芯7を軸筒2の前方開口部3aに挿着した万年筆1であって、ペン芯7が、空気溝7bの内面に前後方向へ延びた縦溝17bを有した万年筆1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ溝が上側面に形成され空気溝が前方から後方に渡って形成されたペン芯と、当該ペン芯の上側面に隣設されたペン体とを有し、当該ペン芯を軸筒の前方開口部に挿着した万年筆であって、前記ペン芯が、前記空気溝の内面に前後方向へ延びた縦溝を有したことを特徴とする万年筆。
【請求項2】
前記縦溝が、前記ペン芯の前方から後方へ向かって漸次巾が細くなるテーパー形状であることを特徴とする請求項1に記載の万年筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は万年筆に関し、さらに詳細には、ペン芯の後方にインキ吸入器を装着してインキタンク内にインキの吸入を行う万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペン芯の後方に装着したインキ吸入器を操作することで、インキタンク内へインキを吸入する構造の万年筆は知られている。
例えば、特許文献1では、軸筒内にある塗布液貯留部(インキタンク)で前進したスリーブが後方へ移動することで、液体貯留部(インキタンク)に負圧を生じさせ、インキ瓶のインキ中に没入させた液貯留芯(ペン芯)を介して液体貯留部(インキタンク)にインキを吸入する万年筆が記載されている。
【0003】
このような万年筆では、主にペン芯の空気溝を通してインキの吸入が行われるが、ペン芯をインキ瓶のインキに浸けた際に、インキに漬かったペン芯の高さまでは、インキが空気溝を上がってくることになるが、それ以上の高さまでインキを引き上げるためには、インキ吸入器を操作してインキタンク内及び空気溝内を負圧にする必要があった。
【0004】
なお、このような万年筆では、インキ吸入後も当該空気溝内少量のインキが残る場合があり、筆記時の振動で空気溝内のインキが落下して紙面を汚してしまう虞があった。また、筆記時や携帯時に、インキタンク内の圧力が上がってインキが空気溝の方まで移動することもあり、空気溝に移動したインキが落下して紙面を汚してしまう虞もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−235548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、インキ吸入の際に効率よくインキ吸引を行うことができ、且つ空気溝にあるインキが紙面に落下し難い構造の万年筆を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.インキ溝が上側面に形成され空気溝が前方から後方に渡って形成されたペン芯と、当該ペン芯の上側面に隣設されたペン体とを有し、当該ペン芯を軸筒の前方開口部に挿着した万年筆であって、前記ペン芯が、前記空気溝の内面に前後方向へ延びた縦溝を有したことを特徴とする万年筆。
2.前記縦溝が、前記ペン芯の前方から後方へ向かって漸次巾が細くなるテーパー形状であることを特徴とする前記1項に記載の万年筆。」である。
【0008】
空気溝の内面に形成する縦溝は、毛管力が働く巾で形成することが肝要であるが、滑らかな筆記を行うためには、ペン体へインキを供給するインキ溝の毛管力以下となる巾で設定することが望ましい。
本発明では、空気溝内に縦溝を設けることによって、インキ瓶内のインキを当該縦溝の毛管力でインキタンクがあるペン芯の上方へ向かって引き上げ、インキ吸入の操作時に効率のよいインキ吸入を行うことが可能となる。
また、空気溝内に少量のインキが存在した場合には、そのインキを空気溝内の縦溝にて貯留させることができることから、筆記時に振動が加わっても、インキが落下して紙面を汚してしまうことを防止することが可能となる。
【0009】
また、縦溝を、前方から後方へ向かって漸次巾が細くなるテーパー形状に形成することによって、インキ瓶内のインキが、相対的に毛管力が弱いペン芯の前方から毛管力が強い後方へ向かって移動するので、さらに効率のよいインキ吸入を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の万年筆によれば、インキ吸入の際に効率よくインキ吸引を行うことができ、且つ空気溝にあるインキが紙面に落下し難い構造の万年筆を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施例の万年筆を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、ペン芯の斜視図で、
図4Aはペン体側から見た図で、
図4Bはその反対側から見た図である。
【
図5】
図5は、ペン芯を射出成形している状態の図で、
図5Aは第一状態の断面斜視図で、
図5Bは第二状態の断面斜視図である。
【
図6】
図6は、インキ瓶よりインキを吸入する状態を示す図である。
【
図7】
図7は、インキ瓶よりインキを吸入した状態を示す図である。
【
図8】
図8は、インキを吸入した状態の要部拡大図である。
【
図9】
図9は、筆記を行っている状態の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下、図面を参照して本実施例の万年筆について説明をする。本実施例においては、ペン体がある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0013】
図1は、本実施例の万年筆を示す縦断面図である。
図2は、
図1の要部拡大図である。
図3は、横断面図であり、
図3Aは
図2のA−A線端面図であり、
図3Bは
図2のB−B線端面図であり、
図3Cは
図2のC−C線端面図である。
図4は、ペン芯の斜視図で、
図4Aはペン体側から見た図で、
図4Bはその反対側から見た図である。
【0014】
本実施例の万年筆1は、軸筒2を、首部材3と軸筒本体4と尾冠5とで構成し、首部材3に形成した前方開口部3aに、ペン体6と、該ペン体6を上側面に隣設させたペン芯7とを挿着してある。首部材3の後部には、外筒部3bと内筒部3cとを突設しており、内筒部3cの内方にはペン芯7の後部が挿着され、外筒部3bと内筒部3cとの隙間3dには、インキ吸入機構8の前端部8aを挿着してある。
【0015】
インキ吸入機構8は、インキ収容筒81と、インキ収容筒81の内方に形成したインキタンク81aの内面に摺動する弁体82と、弁体82に形成した後部開口82aに嵌着させた押棒83と、押棒83の外面に形成した雄螺子部83aに螺合する雌螺子部84aを形成した回転操作部84と、インキ収容筒81の後部に嵌着され回転操作部84の前方に形成した大径部84bを抜け止め状態で保持する保持筒85と、保持筒85の内段85aとインキ収容筒81の後端で挟持された円環状のパッキン86と、を有している。
【0016】
ペン芯7は、前記ペン体6を隣接させる上面側に、ペン芯7の前後方向へ延びるインキ溝7aを形成してあり、空気溝7bをペン芯7の前端面7cから後端面7dに渡って形成してある。空気溝7bは、ペン芯7の前方に形成した前方溝71bと、ペン芯7の中間部の下面側に形成した中間溝72bと、ペン芯7の側面に形成した連絡溝73bと、ペン芯7の後方にインキ溝7aと一体で形成した後方溝74bと、を有している。
前方溝71bは中間溝72bに連通し、中間溝72bは連絡溝73dに連通し、連絡溝73bは後方溝74bに連通しており、インキタンク81a内のインキ減少に伴い、空気溝7bを通して空気をインキタンク81a内へ取り込むことができる構造としてある。
【0017】
また、ペン芯7は、中間部のペン体6と隣設させる上面を除いた全周に突条7eを形成してあり、ペン体6及びペン芯7を首部材3の前方開口部3aに挿着した際に、ペン体6の上側面が首部材3の内周面3eに密着し、ペン芯7の突条7eが圧縮変形されて首部材3の内周面3eに密着し、結果、インキ溝7aと空気溝7bとを除き、インキタンク81aと外部とを流通できる経路が存在しなくなる。
【0018】
本実施例のペン芯7は、その中間部に、前記インキ溝7aと空気溝7bとを連結する連結溝75bを設けてある。連結溝75bは、首部材3の前方開口部3aの中でインキ溝7aと空気溝7bとに隣接している。また、連結溝75bの毛管力は、連結溝75bに隣設した部分の空気溝7bより大きく、連結溝75bに隣接した部分のインキ溝70aより小さくなるよう形成してある。
また、空気溝7bの内面における前記ペン体6側には、当該空気溝7bに沿って前後方向にへ延びた二本の縦溝17bを形成してある。本実施の、縦溝17bは、軸径方向に対して45度でそれぞれ外方へ開くよう形成してあり、その隙間は当該ペン芯7の前方から後方へ向かって漸次細巾になるよう形成してある。したがって、
図3Bにおける縦溝17b1は、
図3Cにおける縦溝17b2より狭い。
【0019】
次に、
図5を用いて、ペン芯の射出成形に関する製造方法について説明を行う。
図5は、ペン芯を射出成形している状態の図で、
図5Aは第一状態の断面斜視図で、
図5Bは第二状態の断面斜視図である。
図5Aでは、ペン芯7の空気溝7bの箇所にコアピン101が配置され、ペン芯7のインキ溝7aの箇所に平板形状の上側キャビティ102が配置され、ペン芯7の連結溝75bの箇所に下側キャビティ103が配置された状態である。実際には、その他の射出成形金型(図示せず)が、ペン芯7の周りを取り囲むように配置された状態で、射出成形用の樹脂が各金型間に流れ込むことによって、ペン芯7が形成される。
この際、前方溝71bに配置されている細いコアピン101の端部101aは、その上部に上側キャビティ102の連結溝75bの位置に該当する突部102aが当接し、その下部に下側キャビティ103の突起部103aが当接して、コアピン101の芯ブレが防止され、コアピン101の破損を防止できる。
【0020】
本実施例では、空気溝7bにおけるペン芯7の連結溝75bに隣設した前方溝71bに、ペン芯7の外方へ開放する開放部71を設けており、前記下側キャビティ103の突起部103aは、この開放部71を通過して、ペン芯7の端部101aの下部に下側キャビティ103の突起部103aが当接するようにしてある。
図5Bは、
図5Aの状態で成形されたペン芯7からコアピン101,上側キャビティ102,下側キャビティ103が離間していく状態を示している。
また、コアピン101の上方には、当該空気溝ペン芯7に縦溝17bを形成するための二本の縦突条101bを有しており、各縦突条101bは、ペン芯7における前方(コアピン101における先端側)から後方へ向かって漸次巾が細くなるテーパー形状に形成してある。したがって、
図5Bに示すように、コアピン101を成形されたペン芯7から前方へ向かって引き抜く際に好適である。
【0021】
次に、
図6および
図7を用いて、インキタンク内にインキを吸入する吸入操作について説明を行う。
図6は、インキ瓶よりインキを吸入する状態を示す図である。
図7は、インキ瓶よりインキを吸入した状態を示す図である。
首部材3から軸筒本体4(
図1参照)を取り外すことで、インキ吸入機構8の回転操作部84が操作できる状態となり、回転操作部84を回転することで弁体82を前進させた状態にして、ペン体6及びペン芯7をインキ瓶200のインキ300中に浸け、回転操作部84を逆回転することで弁体82を後退させてインキタンク81a内を負圧にし、ペン芯7を通してインキ瓶200内のインキ300をインキタンク81a内に吸入することができる。
【0022】
また、
図6に示すように、ペン芯7をインキ瓶200のインキ300中に浸けた際に、インキ300に漬かったペン芯7の高さまで、インキ300が空気溝7bを上がってくると共に、縦溝17bの毛管力でインキタンク81aがあるペン芯7の上方へ向かって引き上げられ、効率のよいインキ吸入を行うことができる。
さらに本実施例では、前記縦溝17bが前方から後方へ向かって漸次巾が細くなるテーパー形状になっていることから、毛管力がペン芯7の前方から後方へ向かって、つまりインキ瓶200からインキタンク81aに向かってインキ300が移動しやすくなり、
図7に示したインキ300の吸引時に、インキ吸入機構8による吸入力に加え、当該縦溝17bの毛管力によるインキ300の吸入が行える。
具体的に本実施例の縦溝17bは、前端部(前端面7c側)の巾を0.4mmで形成し、後端部(前端面7cの反対側)の巾を0.2mmで形成してある。
【0023】
次に、
図8と
図9を用いて、本実施例の万年筆で筆記を行う状態について説明を行う。
図8は、インキを吸入した状態の要部拡大図である。
図9は、筆記を行っている状態の要部拡大図である。
図8に示す万年筆1は、インキ瓶からインキを吸入した後に上方へ万年筆1を持ち上げた状態の断面を示しており、ペン体6が下方に向いた状態である。
インキ吸入を終えたばかりの万年筆1は、インキ溝7aにインキ300aが、連結溝75bにインキ300bが、空気溝7bの前方溝71bにインキ300cが入っているが、このインキ300cは、毛管力で縦溝17bに吸引されると共に、前端面7c付近で働く表面張力により、空気溝7b上方へ向かって引っ張り上げられる。
【0024】
図9の状態で筆記を開始すると、万年筆1は振動するが、空気溝7b内のインキ300cは、縦溝17bの毛管力により貯留されていることから、インキ300cが落下して紙面を汚してしまうことを防止することが可能である。
また、
図9に示すように、空気溝7bの前方溝71bに入っているインキ300cは、連結溝75bに隣設した部分の空気溝70bから毛管力が強い連結溝75bへ移動し、次いで連結溝75bに入っているインキ300bは、連結溝75bの毛管力より強い毛管力の連結溝75bに隣接した部分のインキ溝70aへ移動して、ペン体6のペン先6aで筆記を行うことができるようになり、空気溝7bの前方溝71bに残っていたインキ300cを、書き始めの方で消費することができ、衝撃でペン芯から落下して紙面を汚すことをさらに防止することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…万年筆、2…軸筒、
3…首部材、
3a…前方開口部、3b…外筒部、3c…内筒部、3d…隙間、3e…内周面、
4…軸筒本体、5…尾冠、
6…ペン体、
7…ペン芯、
7a…インキ溝、7b…空気溝、7c…前端面、7d…後端面、7e…突条、
17b…縦溝、
71…開放部、
71b…前方溝、72b…中間溝、73b…連絡溝、74b…後方溝、75b…連結溝、
70a…連結溝に隣接した部分のインキ溝、
70b…連結溝に隣設した部分の空気溝、
8…インキ吸入機構、8a…前端部、
81…インキ収容筒、81a…インキタンク、
82…弁体、82a…後部開口、
83…押棒、83a…雄螺子部、
84…回転操作部、84a…雌螺子部、84b…大径部、
85…保持筒、85a…内段、
86…パッキン、
101…コアピン、101a…端部、101b…縦突条、
102…上側キャビティ、102a…突部、
103…下側キャビティ、103a…突起部、
200…インキ瓶、300…インキ。