【解決手段】熱変色性インキが吐出可能な筆記先端部を有する筆記体と、軸筒3と、軸筒の後端部に設けられた樹脂製のノック体5を備え、ノック体5の押圧により、筆記先端部を突出した状態と筆記先端部を軸筒内に没入した状態にする出没機構と、ノック体の後端部に設けられ、熱変色性インキの筆跡を摩擦熱で熱変色可能な摩擦部6を備えた熱変色性筆記具であって、摩擦部6が紙面Hに接した状態で摩擦操作が行われるとき、ノック体5が傾動してノック体5の径方向に移動することにより、ノック体5の外側面5Aと外側面5Aと対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bとが接触し、ノック体5の外側面5A及び対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bの少なくとも一方に凹凸面が設けられていることにより、軸筒に対するノック体の前方移動が阻止される。
前記ノック体の外側面及び対向する前記軸筒の内側面の一方に前記凹凸面が設けられているとき、前記凹凸面を有する側の面の硬度が前記凹凸面を有しない側の面の硬度より高いことを特徴とする請求項1に記載の熱変色性筆記具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、軸筒後端のノック体を前方に押圧するタイプにおいて、操作部に摩擦部を設けた場合、この摩擦部を用いて摩擦操作すると、紙面側に向かう押圧力が加わると、ノック体が前方に移動し、安定した摩擦操作を行うことができないおそれがあった。特に、筆記先端部突出操作及び筆記先端部没入操作のいずれもがノック体を前方に押圧操作するタイプの出没機構(いわゆるダブルノック式)を採用し、且つ、ノック体に摩擦部を設けた場合、ノック体が前後方向にがたつき、安定した摩擦操作を行うことができないおそれがあった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、ノック体後端の摩擦部を用いて、シンプルな構造で安定した摩擦操作が可能な熱変色性筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の実施態様に係る熱変色性筆記具は、
内部に熱変色性インキが収容されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の前端部に設けられた熱変色性インキが吐出可能な筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体を前後方向に移動可能に収容する樹脂製の軸筒と、
前記軸筒の後端部に該軸筒の軸心に対し径方向に傾動可能に設けられた、前記軸筒の内径よりも小さな外形を有する樹脂製のノック体を備え、前記ノック体が前記軸筒の前端開口部方向に押圧されたとき、前記筆記先端部を前記軸筒の前端開口部から突出した状態にし、再度、前記ノック体が前方に押圧されたとき、前記筆記先端部の突出状態を解除して、前記筆記先端部を前記軸筒の前端開口部より軸筒内に没入した状態にする出没機構と、
前記ノック体の後端部に設けられ、熱変色性インキの筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦部と、
を備え、
前記摩擦部が紙面に接した状態で摩擦操作が行われるとき、前記ノック体が傾動して前記ノック体の径方向に移動することにより、前記ノック体の外側面と該外側面と対向する前記軸筒の内側面とが接触し、
前記ノック体の外側面及び対向する前記軸筒の内側面の少なくとも一方に凹凸面が設けられていることにより、前記軸筒に対する前記ノック体の前方移動が阻止されることを特徴とする。
【0007】
本実施態様によれば、ノック体の外側面及び対向する軸筒の内側面の少なくとも一方に凹凸面が設けられているので、後述するようなスパイク効果、ヒステリシスロスにより、ノック体の外側面及び軸筒の内側面の間の摩擦係数が著しく増大する。これにより、軸筒に対するノック体の前方移動が阻止される。
よって、ノック体後端の摩擦部を用いて、シンプルな構造で安定した摩擦操作が可能な熱変色性筆記具を提供することができる。
【0008】
本発明の第2の実施態様に係る熱変色性筆記具は、第1の実施態様において、
前記ノック体の外側面及び対向する前記軸筒の内側面の一方に前記凹凸面が設けられているとき、前記凹凸面を有する側の面の硬度が前記凹凸面を有しない側の面の硬度より高いことを特徴とする。
【0009】
本実施態様によれば、凹凸面を有する側の面の硬度が凹凸面を有しない側の面の硬度より高いので、凹凸形状を相手側の面により効果的に食い込ませることができる。よって、スパイク効果、ヒステリシスロスをより効果的に発揮させて、ノック体の外側面及び軸筒の内側面の間の摩擦係数を効果的に増大させることができる。
【0010】
本発明の第3の実施態様に係る熱変色性筆記具は、第1または第2の実施態様において、
前記凹凸面の表面粗さが算術平均粗さRa3.2〜25であることを特徴とする。
【0011】
本実施態様によれば、凹凸面の表面粗さが算術平均粗さRa3.2〜25なので、スパイク効果、ヒステリシスロスをより効果的に発揮させて、ノック体の外側面及び軸筒の内側面の間の摩擦係数を効果的に増大させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ノック体後端の摩擦部を用いて、安定した摩擦操作が可能となる熱変色性筆記具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本明細書において、「前」とは、筆記先端部側を指し、「後」とは、その反対側を指す。各図において、同一の機能を有する対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0015】
(本発明の1つの実施形態に係る熱変色性筆記具の説明)
図1〜
図6を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る熱変色性筆記具1の説明を行う。
図1は、本発明の1つの実施形態に係る熱変色性筆記具を示す縦断面図である。
図2は、
図1における筆記先端部が突出した状態を示す縦断面図である。
図3は、
図1における摩擦部を使用する状態の一例を示す図である。
図4は、
図1における一部省略した要部拡大断面図である。
図5は、
図2における一部省略した要部拡大断面図である。
図6は、
図3における一部省略した要部拡大断面図である。
【0016】
本実施形態に係る熱変色性筆記具1は、軸筒本体内に収容したボールペンレフィルからなる筆記体14を、コイルスプリングからなる弾発体7によって、軸筒本体の後端方向に向かって、摺動自在に付勢して収容してある。軸筒本体は、軸筒(前軸)2、軸筒(後軸)3からなり、軸筒(前軸)2と軸筒(後軸)3を着脱自在に螺着して軸筒本体を構成し、軸筒(後軸)3には、クリップを具備した頭冠8を設けてある。
【0017】
弾発体7は、軸筒(前軸)2の内壁によって、直接、先端部を受け止めてあり、もう一方の端部(後端部)は、筆記体10のチップホルダー12に、直接、当接して、筆記体10を軸筒本体の後端方向に向かって付勢している。
【0018】
軸筒(後軸)3の後端部には、軸筒(後軸)3の後端3Aから後方に突出するようにノック体5が配設される。ノック体5は、前端部に、回転カム4を先方に移動するとともに回転を誘導するように、先端に複数の鋸歯状のカム部(図示せず)を一体に備えている。
【0019】
また、ノック体5の後端部(外周面の角部)には、摩擦部6が装着されている。摩擦部6には、ゴム状弾性を有する弾性材料が用いられる。弾性材料として、例えば、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリエステル系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー等、ゴム状弾性を有するゴム、エラストマー等の弾性体が挙げられ、適宜選択して用いることができる。また、摩擦部6としては、ショアA硬度40以上、100以下が好ましく、ショアA硬度60以上、80以下がより好ましい。また、前記摩擦部を構成する弾性材料は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料を用いる。
【0020】
また、摩擦部6は、少なくともノック体の後端外周面の角部に設けてあれば、ノック体と一体又は別体であってもよい。具体的には、ノック体に嵌着、圧入、螺着、接着、融着によって具備すること、ノック体と摩擦部を二色成形によって一体に成形、或いはノック体自体を軟質部材で構成してあってもよい。また、摩擦部の色は、特に限定されるものではないが、無色透明、無色半透明色、白色等とすることで、部品の共通化等のコストダウンに繋がるため、好ましい。
【0021】
ノック体5は、軸筒の軸心Jに対し、径方向に傾動可能に設けるとともに、筆記体10の筆記先端部13が突出状態及び没入状態において、軸筒(後軸)3の後端3A方向に、弾発部材9によって後方に付勢して配設してある。
【0022】
また、出没機構は、ノック体5を軸筒(前軸)2の先端開口部2a方向に押圧することによって、ノック体5の前端部に設けたカム部(図示せず)、回転カム4からなる従来から知られている回転カムによる出没機構を作動させ、ボールペンチップからなる筆記先端部13を、軸筒(前軸)2の先端開口部2aから出没可能とするものである。
【0023】
また、筆記体10の筆記先端部12が軸筒(前軸)2の先端開口部2aから突出した状態で、再度、ノック体5を弾発体7の付勢力に抗して、軸筒(前軸)2の先端開口部2a方向に押圧することによって、回転カム4による出没機構を作動させ、筆記先端部12を、軸筒(前軸)2内に没入させることができる。
【0024】
筆記体10は、ボール抱持室と、ボール抱持室の中央にインキ流通開口部と、このインキ流通開口部に連通する放射状に延び、チップ後部開口部に達しないインキ流通溝を有する。更に、ボール抱持室の底壁に、φ0.5mmのタングステンカーバイド製のボールを載置し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部がチップ先端縁より突出するように回転自在に抱持されたボールペンチップからなる筆記先端部13が形成されている。この筆記先端部13が、インキ収容筒11の先端部に、チップホルダー12を介して装着されている。また、インキ収容筒11の後端部には尾栓が装着されている。また、ボールの後方には、ボールを常時、押圧するスプリング(図示せず)が配設されている。
【0025】
また、インキ収容筒11内には、熱変色性インキが収容されている。収容される熱変色性インキとしては、可逆熱変色性インキが好ましい。可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0026】
また、可逆熱変色性インキに含有される色材は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が好適に用いられる。
【0027】
更に詳細に述べれば、インキ収容筒11内には、レーザー回折による体積基準における平均粒径(D50)が0.5μmの可逆熱変色性のマイクロカプセル顔料を含有し、EM型回転粘度計における1rpmでのインキ粘度が1020mPa・s(25℃)、100rpmでのインキ粘度が84mPa・s(25℃)で、剪断減粘指数が0.48の熱変色性インキと、このインキの後端に、グリース状のインキ追従体が直に収容されている。
【0028】
この筆記体10を筆記すると、筆記先端部13のボールの回転と、筆圧によって、ボールが底壁側に移動して、チップ先端部の内壁とボールに隙間を生じ、インキを吐出して筆記することができる。
【0029】
紙面Hに筆記した筆跡を熱変色するには、
図3に示すとおり、ノック体5の後端部の角部に設けた摩擦部6をノート等の紙面Hに筆記した筆跡に圧接し、擦ることで発生する熱によって、熱変色性インキの筆跡を熱消色させることができる。この状態で、摩擦部6を筆跡に圧接することで、ノック体5は径方向に傾動し、ノック体5の外側面5A、及びこれに対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bが接触することで、ノック体5の軸筒(前軸)2の前端開口部2a側への移動が抑制されるようになっている。
【0030】
(ノック体の外側面及び軸筒(後軸)の内側面の間の摩擦力を増大させるための機構の説明)
次に、
図7、8を参照しながら、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力を増大させるための機構、及びノック体5が軸筒(前軸)2の前端開口部2a側に移動するのが抑制される仕組みを説明する。
図7は、摩擦部が紙面に接した状態で摩擦操作が行われるとき、ノック体5の外側面5Aと対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bとが接触した状態を模式的示す図である。
図8は、ノック体5の外側面5Aと対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bとの間の摩擦係数を上げるための手段を模式的に示す図である。
【0031】
図7は、
図6に示す状態において、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力、及びノック体5を軸筒(前軸)2の前端開口部2a側へ移動させる力の関係を示す模式図である。熱変色性筆記具1の軸心Jと紙面Hとがなす角度をθとし、紙面Hから熱変色性筆記具1が受ける反力をRとし、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数をμとする。
この場合、ノック体5を軸筒(前軸)2の前端開口部2a側へ移動させる力は、R*Sinθで表すことができ、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力は、μ*R*Cosθで表すことができる。
【0032】
ノック体5の軸筒(前軸)2の前端開口部2a側への移動が拘束されるには、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力が、ノック体5を軸筒(前軸)2の前端開口部2a側へ移動させる力よりも大きくなる必要がある。よって、下式が成り立つ必要がある。
μ*R*Cosθ > R*Sinθ
よって、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数をμは、
μ > Tanθ
である必要がある。
【0033】
熱変色性筆記具1の軸心Jと紙面Hとがなす角度θは、通常70〜80度と言われている。一方、クーロン力による樹脂の摩擦係数は、通常、最大でも1前後と言われている。その場合には、μ=Tanθとなる角度θは45度であり、熱変色性筆記具1の軸心Jと紙面Hとがなす角度θが70〜80度の場合には、ノック体5の軸筒(前軸)2の前端開口部2a側への移動を拘束することができない。
【0034】
そこで、本発明者らは、ノック体5の外側面5A及び対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bの少なくとも一方に凹凸面を設けることにより、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数μを著しく増大させることができることを知見した。
図8(a)は、ノック体5の外側面5Aに凹凸面が設けられている場合を示し、
図8(b)は、軸筒(後軸)3の内側面3Bに凹凸面が設けられている場合を示し、
図8(c)は、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの両方に凹凸面が設けられている場合を示す。
【0035】
ノック体5の外側面5Aを構成する領域及び軸筒(後軸)3の内側面3Bを構成する領域の少なくとも一方は、ゴム状弾性を有する弾性材料を用いることが好ましい。弾性材料としては、例えば、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリエステル系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー等、ゴム状弾性を有するゴム、エラストマー等の弾性体が挙げられ、適宜選択して用いることができる。また、表面の硬度については、ショアA硬度40以上、100以下が好ましく、ショアA硬度60以上、80以下がより好ましい。
【0036】
図8から明らかなように、ノック体5の外側面5A及び対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の面圧により、凹凸形状が接触する相手側の面に食い込むので、所謂スパイク効果が生じる。
更に詳細に述べれば、例えば、凹凸形状の凸部には、矢印Sに示すような剪断力がかかり弾性変形する。そのとき、変形した凸部は元の形に戻ろうとする。この元に戻ろうという力が、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力を増幅させる。これは、一般的にヒステリシスロスと称され、例えば、自動車のタイヤの大きな摩擦力は、このヒステリシスロスに因るところが大きいと言われている。
【0037】
より効果的に凹凸形状を相手側の面に食い込ませるためには、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの一方に凹凸面が設けられている場合、凹凸面を有する側の面の硬度を凹凸面を有しない側の面の硬度より高くすることが好ましい。例えば、凹凸面を有する側の面の硬度をショアA硬度70〜100程度とし、凹凸面を有しない側の面の硬度をショアA硬度40〜60程度にすることを例示できる。
なお、両方の面に凹凸面を有する場合には、仮に両面の硬度が同程度であっても、互いに凹凸が噛み合って、十分なスパイク効果、ヒステリシスロスが得られると考えられる。
【0038】
このようなヒステリシスロスが生じる場合の摩擦係数として、技術文献によれば、μ=3程度まで達すると言われている(例えば、”高分子材料と金属の摩擦摩耗” 渡辺真著、日本金属学会会報19巻1号(1980年)、修士論文”マルチスケールモデルによるタイやゴムの摩擦係数予測”熊沢卓著(2012年)参照)。
【0039】
仮にノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数μを3とすると、μ=Tanθ=3となる角度θは、71.6度となる。実際には、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の接触面以外の領域における摩擦抵抗や、弾発体7及び弾発部材9による付勢力も加わるので、θ=70〜80度において、ノック体5が軸筒(前軸)2の前端開口部2a側への移動するのを十分に拘束することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、ノック体5の外側面5A及び対向する軸筒(後軸)3の内側面3Bの少なくとも一方に凹凸面が設けられているので、上記のスパイク効果、ヒステリシスロスにより、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数μが著しく増大する。これにより、軸筒2、3に対するノック体5の前方移動が阻止されるので、ノック体5の後端の摩擦部6を用いて、シンプルな構造で安定した摩擦操作が可能な熱変色性筆記具1を提供することができる。
【0041】
更に、凹凸面を有する側の面の硬度が凹凸面を有しない側の面の硬度より高い場合には、凹凸形状を相手側の面により効果的に食い込ませることができる。よって、上記のスパイク効果、ヒステリシスロスをより効果的に発揮させて、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦係数μを効果的に増大させることができる。
【0042】
また、ノック体5の外側面5Aまたは軸筒(後軸)3の内側面3Bの凹凸面の表面粗さとして、算術平均粗さRa3.2〜25であることが好ましい。これにより、スパイク効果、ヒステリシスロスをより効果的に発揮させて、ノック体の外側面及び軸筒の内側面の間の摩擦係数を効果的に増大させることができる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B0601−2001に基づき表面粗さ測定機(テーラーホブソン株式会社 FORM TALYSURF intra)を用いて測定した。
【0043】
(変形例の説明)
次に、
図9を参照しながら、ノック体5の外側面5A及び軸筒(後軸)3の内側面3Bの間の摩擦力を増大させるための機構の変形例を説明する。
図9は、ノック体の外側面及び軸筒の内側面の間の摩擦力を増大させるための機構の変形例を模式的示す図である。
【0044】
本変形例では、軸筒(後軸)3の内側面3Bが、ノック体5の外側面5Aに対して角度αをなすように、筆記後端部側に広がったテーパ形状を有する。角度αとして、3〜10度を例示することができる。これにより、摩擦係数μが3より小さい場合であっても、θ=70〜80度において、ノック体5が軸筒(前軸)2の前端開口部2a側への移動するのを十分に拘束することができる。
【0045】
(その他の実施形態の説明)
本実施形態では、前軸と後軸によって軸筒を構成しているが、前軸、中間軸、後軸の3部品等、口金、前軸、後軸、頭冠の4部材など、部品点数は、特に限定されるものはない。また、規制部及び被規制部の形状は、特に限定されるものではなく、凸状及び/又は凹状からなり、突部、溝部、段部など、特に限定されるものはない。さらに、被規制部の形状も特に限定されるものではなく、段部、突部、凹部、後軸の開口端など、規制部が当接して移動を規制される形状であればよい。
【0046】
また、出没機構として、回転カムからなる出没機構を例示しているが、ノック体を押圧することで、筆記先端部が出没可能な出没機構であれば、出没機構は特に限定されるものではない。また、筆記体を軸筒の後端方向に付勢する弾発体は、コイルスプリングに限るものではないが、弾発体の付勢力は、ノック体の操作性に大きく影響するため、ノック操作性と摩擦操作性を鑑みて、弾発体の付勢力は、500gf〜800gfとすることが好ましい。尚、弾発体の付勢力は、プッシュプルスケールにて測定することができる。