(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-103856(P2018-103856A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びそのカーカスプライ部材
(51)【国際特許分類】
B60C 9/02 20060101AFI20180608BHJP
B60C 15/00 20060101ALI20180608BHJP
【FI】
B60C9/02 C
B60C15/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-253163(P2016-253163)
(22)【出願日】2016年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】富高 祐
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サイド部におけるコードの配列不均等による剛性低下及びプライ端に発生するセパレーションによる耐久力不足を改善したカーカスプライ部材及びこのカーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げた空気入りタイヤの提供
【解決手段】空気入りタイヤ用カーカスプライ部材6は、第1カーカスコード70と第2カーカスコード80との2本のカーカスコード61をゴム被覆してなり、カーカスプライ部材において、第1カーカスコード及び第2カーカスコードを横方向X1の両端部60A,60B間を往復させて縦方向Y1に蛇行する様に配することにより、横方向中央領域Cにおいて、第1カーカスコードと第2カーカスコードとの交差部65が縦方向Y1に等間隔に配置され、第1カーカスコード及び第2カーカスコードの折り返し部72,82,74,84と交差部65とにより菱形状領域E,Fが縦方向Y1に隣接配置される様に構成した空気入りタイヤ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に沿って配置される縦方向とタイヤ子午線方向に沿って配置される横方向とを有するシートからなり、第1カーカスコードと第2カーカスコードとの2本のカーカスコードをゴム被覆してなる空気入りタイヤ用カーカスプライ部材において、
前記第1カーカスコードは、これを横方向の一端部側から他端部側へ傾斜しながら配して他端部で湾曲状に折返した後、一端部側へ傾斜しながら配することを繰り返すことにより横方向の両端部間を往復させて縦方向に蛇行するように配し、
前記第2カーカスコードは、前記第1カーカスコードに隣り合って配されるものであって、これを横方向の一端部から他端部へ傾斜しながら配して他端部で湾曲状に折返した後、一端部へ傾斜しながら配することを繰り返すことにより横方向の両端部間を往復させて縦方向に蛇行するように配し、
前記シートの横方向中央領域において、前記第1カーカスコードと前記第2カーカスコードとの交差部を形成し、
前記第1カーカスコードの折り返し部と、これに向き合う第2カーカスコードの折り返し部と、前記第1カーカスコードと前記第2カーカスコードとの隣り合う交差部とを結ぶ線により囲まれる領域が菱形状をなすように構成し、
前記の菱形状をなすカーカスコードの菱形状内における縦方向の第1間隔と、前記菱形状をなすカーカスコードと隣り合う前記菱形状をなすカーカスコードとの間隙における縦方向の第2間隔とが、前記中央領域における同一縦方向線上の第1間隔が第2間隔より大きくなるように配した
ことを特徴とする空気入りタイヤ用カーカスプライ部材。
【請求項2】
前記中央領域から前記折り返し部方向への所定距離における同一縦方向線上の前記第1間隔が前記第2間隔より大きくなるように配した
ことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用カーカスプライ部材。
【請求項3】
前記折り返し部において、同一縦方向線上の前記第1間隔が前記第2間隔と等しいか又は小さくなるように配置した
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ用カーカスプライ部材。
【請求項4】
前記折り返し部において、同一縦方向線上の前記第1間隔と前記第2間隔とが等しくなるように配置した
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ用カーカスプライ部材。
【請求項5】
ビードコアを含む左右一対のビードと、前記一対のビードコア間に架け渡されたカーカスプライとを備え、前記カーカスプライが前記一対のビードコアの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられてなる空気入りタイヤであって、
前記カーカスプライが請求項1〜4に記載のカーカスプライ部材により形成されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに用いられるカーカスプライ部材、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、その内部に埋設される補強材としてのカーカスプライは、その端部がビードコアを包み込むようにタイヤ幅方向内側から外側へ巻き上げる構成が一般的である。
【0003】
これに対し、ビードコアを含む左右一対のビードと、前記一対のビードコア間に架け渡されたカーカスプライとを有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカスプライが前記ビードコアの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられてなる構成の空気入りタイヤが提案されている。
【0004】
この構成により、カーカスプライにかかる張力の分布が変更され、タイヤ剛性に寄与しやすい位置の張力が増し、操縦安定性能を向上することができる。
【0005】
しかしながら、カーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げる構成は、周長が狭まる方向への巻き上げであるため、巻き上げ部に皺が生じやすく、コード間隔が不均等になることにより、サイド部の剛性低下の要因となったり、巻き上げ端部にセパレーションが生じて、耐久性を低下させたりする要因となる。
【0006】
下記特許文献1には、カーカスプライの巻き上げ部の端部におけるタイヤ周方向の複数箇所に切欠部を設けたことにより、カーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げた構成を有する空気入りタイヤにおいて、巻き上げ時の皺の発生を抑制して、耐久性を向上させた空気入りタイヤが示されている。
【0007】
しかしながら、巻き上げ時の皺の発生を抑制して耐久性を向上させるために、カーカスプライの巻き上げ部の端部におけるタイヤ周方向の複数箇所に切欠部を設けるものであり、切欠部を設けるための加工を要する。
【0008】
下記特許文献2には、トレッド部、サイドウォール部およびビード部を具えるとともに、それぞれのビード部に配設されて周方向に連続するそれぞれのビード補強層および、それらのビード補強層間にトロイダルに延在して上記各部を補強するカーカスプライを具え、このカーカスプライを、それぞれのビード補強層間にわたる往復をビード部円周に沿って位置する折返し部を介して順次に繰返す連続コードにより構成したものであって、カーカスプライを二枚以上配設するとともに、カーカスプライの相互間にゴムシートを介在させることにより、グリーンタイヤの自動成型が容易なカーカスプライ構造の下で、ビード部が必要とする強度および剛性を十分に確保して、カーカスコードの引き抜けを有効に防止し、ビード部耐久性を大きく向上させた空気入りラジアルタイヤが示されている。
【0009】
下記特許文献3には、一対のビードコアと、幅方向一方の端部付近が一方のビードコアで折り返され、幅方向他方の端部付近が他方のビードコアで折り返されたカーカスプライと、を備え、前記カーカスプライは、幅方向両端にて折り返されてタイヤ周方向に蛇行しながら延びる1乃至複数本のカーカスコードを含み、前記カーカスコードの周回数が少なくとも2周以上とされ、かつ周回数の異なる前記カーカスコード同士が前記カーカスプライの幅方向端付近で互いに交差しており、前記カーカスプライの幅方向両端において、前記カーカスコードの各折り返し端をタイヤ径方向に不均一に配置することにより、カーカスプライのアンカー効果が高く、かつ追加部材を必要とせずにビード部の剛性も確保可能にした空気入りタイヤが示されている。
【0010】
下記特許文献4には、両ビードコア間にトロイド状に延在するカーカスと、トレッドとの間にベルトを配設した空気入りタイヤにおいて、前記ベルトを、補強体とこれを被覆する被覆ゴムとよりなるベルトプライの少なくとも1層で構成し、少なくとも1層のベルトプライにおける補強体を、複数の無撚金属線を平面内に引き揃えて配列した金属線面状束の1束以上を周方向に対して傾斜配置するとともにこの金属線面状体をベルトプライ両側部で表裏反転させて折返して形成したことにより、ベルトプライの両側部を厚くすることのない、しかも、ベルトプライの両側部に切断端をもたない金属補強体で補強されたベルトを有する空気入りタイヤが示されている。
【0011】
下記特許文献5には、並設した延在体間にコードをジグザグ状に配設してなる中間材であって、前記延在体を、長手方向に変形可能で、かつ前記コードが折り返される係合部を長手方向に周期的に設けた構成にし、該係合部間に前記コードをジグザグ状に係合させたことにより、予め製造して使用時まで保存することを可能にすることで、複合材の成形時間を大幅に短縮することができ、かつ使用時においてコード間隔やコード角度を容易に変更することが可能な中間材、例えば、空気入りタイヤのカーカス層(複合材)に使用される補強材が示されている。
【0012】
以上の特許文献2〜5においては、カーカスプライのサイド部におけるカーカスコードの配列不均等による剛性低下及びカーカスプライ端に発生するセパレーションによる耐久力不足がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2015−105000号公報
【特許文献2】特開2000−301912号公報
【特許文献3】特開2004−224072号公報
【特許文献4】特開2011−51451号公報
【特許文献5】特開2003−252006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上の点を鑑み、カーカスプライのサイド部におけるカーカスコードの配列不均等による剛性低下及びカーカスプライ端に発生するセパレーションによる耐久力不足を改善したカーカスプライ部材及びこれをカーカスプライに用いたカーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げた構成を有する空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の実施形態は、第1に、タイヤ周方向に沿って配置される縦方向とタイヤ子午線方向に沿って配置される横方向とを有するシートからなり、第1カーカスコードと第2カーカスコードとの2本のカーカスコードをゴム被覆してなる空気入りタイヤ用カーカスプライ部材において、前記第1カーカスコードは、これを横方向の一端部側から他端部側へ傾斜しながら配して他端部で湾曲状に折返した後、一端部側へ傾斜しながら配することを繰り返すことにより横方向の両端部間を往復させて縦方向に蛇行するように配し、前記第2カーカスコードは、前記第1カーカスコードに隣り合って配されるものであって、これを横方向の一端部から他端部へ傾斜しながら配して他端部で湾曲状に折返した後、一端部へ傾斜しながら配することを繰り返すことにより横方向の両端部間を往復させて縦方向に蛇行するように配し、前記シートの横方向中央領域において、前記第1カーカスコードと前記第2カーカスコードとの交差部を形成し、前記第1カーカスコードの折り返し部と、これに向き合う第2カーカスコードの折り返し部と、前記第1カーカスコードと前記第2カーカスコードとの隣り合う交差部とを結ぶ線により囲まれる領域が菱形状をなすように構成し、前記の菱形状をなすカーカスコードの菱形状内における縦方向の第1間隔と、前記菱形状をなすカーカスコードと隣り合う前記菱形状をなすカーカスコードとの間隙における縦方向の第2間隔とが、前記中央領域における同一縦方向線上の第1間隔が第2間隔より大きくなるように配した空気入りタイヤ用カーカスプライ部材にある。
【0016】
本発明の実施形態は、第2に、前記中央領域から前記折り返し部方向への所定距離における同一縦方向線上の前記第1間隔が前記第2間隔より大きくなるように配した空気入りタイヤ用カーカスプライ部材にある。
【0017】
本発明の実施形態は、第3に、前記折り返し部において、同一縦方向線上の前記第1間隔が前記第2間隔と等しいか又は小さくなるように配置した空気入りタイヤ用カーカスプライ部材にある。
【0018】
本発明の実施形態は、第4に、前記折り返し部において、同一縦方向線上の前記第1間隔と前記第2間隔とが等しくなるように配置した空気入りタイヤ用カーカスプライ部材にある。
【0019】
本発明の実施形態は、第5に、ビードコアを含む左右一対のビードと、前記一対のビードコア間に架け渡されたカーカスプライとを備え、前記カーカスプライが前記一対のビードコアの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられてなる空気入りタイヤであって、前記カーカスプライが上記のカーカスプライ部材により形成された空気入りタイヤにある。
【発明の効果】
【0020】
本実施形態のカーカスプライ部材によれば、カーカスプライのサイド部におけるカーカスコードの配列不均等による剛性低下及びカーカスプライ端に発生するセパレーションによる耐久力不足が改善される。また、前記カーカスプライ部材を用いたカーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げた構成を有する空気入りタイヤに用いることにより、カーカスプライのサイド部におけるカーカスコードの配列不均等による剛性低下及びカーカスプライ端に発生するセパレーションによる耐久力不足が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図。
【
図3】一実施形態に係るカーカスプライ部材を模式的に表した一部拡大図付き部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1に示す実施形態の空気入りタイヤTは、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、接地面を構成するトレッド部1と、左右一対のサイド部2とを備えてなる。
【0024】
サイド部2は、タイヤ径方向内周側のビード部30と、ビード部30とトレッド部1の間に介在するサイドウォール部20とからなる。ビード部30には、ビードワイヤからなる環状のビードコア31と、ビードコア31の外周面に接合一体化されたビードフィラー32とからなるビード33が埋設されている。ビードフィラー32は、硬質ゴムからなり、先端側ほど幅狭の断面三角形状をなしている。
【0025】
タイヤTには、左右一対のビードコア31間に架け渡されたカーカスプライ4が埋設されている。カーカスプライ4は、トレッド部1から両側のサイド部2に延びて、その両端部がビードコア31で巻き上げられて係止されている。そのため、カーカスプライ4は、一対のビードコア31間に跨るトロイド状の本体部41と、本体部41の両端部においてビードコア31の周りに巻き上げられた巻き上げ部42とからなる。カーカスプライ4は、カーカスコードをゴム被覆してなり、カーカスコードがタイヤ周方向に対して実質上直角になるように配設され、この例では1枚のプライからなる単層構造をなしている。
【0026】
カーカスプライ4は、
図2に示すように、その両端部が、ビードフィラー32のタイヤ外面側を通ってビードコア31の周りをタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げられ、即ちターンアップされている。巻き上げ部42は、ビード33のタイヤ幅方向Xの内側において、タイヤ径方向Yの外方に延びている。この例では、巻き上げ部42の端部である巻き上げ端部(タイヤ径方向Yの外方端部)43は、ビードコア31の外周面31Aを越えてビードフィラー32に至るまで延在しており、ビードフィラー32のタイヤ径方向Yの外方端32Aよりもタイヤ径方向Yの内側で終端している。
【0027】
タイヤ内面には、気体バリアゴム層としてインナーライナー5が設けられている。インナーライナー5は、カーカスプライ4の内周側に配置されている。インナーライナー5は、その両端部が、ビードコア31の周りをタイヤ幅方向Xの内側から外側へ巻き上げられている。インナーライナー5の両端部は、ビードコア31の周りにおいて、ビードコア31とカーカスプライ4との間に延在している。
【0028】
トレッド部1におけるカーカスプライ4の外周側には、
図1に示すように、ベルト11が配されている。ベルト11は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して一定角度で傾斜させてなる1枚又は複数枚のベルト層からなり、この例では2枚のベルト層で構成されている。ベルト11の外周側には、ベルト補強層12を介してトレッドゴム13が設けられている。
【0029】
サイドウォール部20におけるカーカスプライ4のタイヤ外面側にはサイドウォールゴム21が設けられている。また、ビード部30には、ビードコア31の周りにおいて、カーカスプライ4及びインナーライナー5を被覆するように、ラバーチェーハー34が設けられている。
【0030】
カーカスプライ4を形成するカーカスプライ部材6の構成を
図3に示す。カーカスプライ部材6は、タイヤ周方向に沿って配置される縦方向Y1と、タイヤ子午線方向(タイヤ表面上でタイヤ周方向に直交する方向)に沿って配置される横方向X1とを有するシート60からなり、横方向X1を幅方向とし、縦方向Y1を長さ方向とする帯状部材である。カーカスプライ部材6には、第1カーカスコード70と第2カーカスコード80との2本構成のカーカスコード61が配されている。本実施態様ではカーカスコード61の打ち込み密度は1inch間で30本としているが、もちろん打ち込み密度は若干増減してもよい。カーカスコード61は、例えば有機繊維コードなどから構成され、未加硫ゴムで被覆してなり、未加硫ゴムからなるシート60中に埋設されてカーカスプライ部材6が構成される。
【0031】
カーカスコード61を構成する第1カーカスコード70及び第2カーカスコード80は、それぞれシート60の横方向両端部60A,60Bで折り返しながら往復して縦方向Y1に延びる連続コードで構成されている。
【0032】
すなわち、第1カーカスコード70は、シート60の横方向X1の一端部60Aから他端部60Bに向かって傾斜(図においては左下方へ)しながら直線状に延在する横方向延在部71を経由し、他端部60Bで湾曲状に折り返す折り返し部72を経由した後、他端部60Bから一端部60Aに向かって傾斜(図においては右下方へ)しながら直線状に延在する横方向延在部73を経由し、一端部60Aで湾曲状に折り返す折り返し部74を形成し、これを繰り返すことにより横方向X1の両端部60A,60Bの間を縦方向Y1に蛇行するように配されている。
【0033】
一方、第2カーカスコード80は、第1カーカスコード70に隣り合って第1カーカスコード70と対称的に配されるものであって、シート60の横方向X1の他端部60Bから一端部60Aに向かって傾斜(図においては右下方へ)しながら直線状に延在する横方向延在部81を経由し、一端部60Aで湾曲状に折り返す折り返し部82を経由した後、他端部60Aから一端部60Bに向かって傾斜(図においては左下方へ)しながら直線状に延在する横方向延在部83を経由し、一端部60Bで湾曲状に折り返す折り返し部84を形成し、これを繰り返すことにより横方向X1の両端部60A,60Bの間を縦方向Y1に蛇行するように配されている。
【0034】
したがって、第1及び第2カーカスコード70,80は、その折り返し部74,82(60A側),72,84(60B側)がシート60の横方向X1の両端部領域Pにおいて縦方向Y1に沿って交互に配され、各折返し部72,74,82,84は、それぞれ円弧による湾曲状に形成されており、この例では半円形状をなしている。また、シート60の横方向X1の中央領域Cにおいて第1及び第2カーカスコード70,80は交差して交差部65が縦方向Y1に等間隔に形成されるように配されている。
【0035】
そして、第1カーカスコード70の折り返し部72と、これに向き合う第2カーカスコード80の折り返し部82と、第1カーカスコード70と第2カーカスコード80との隣り合う上下の交差部65とを結ぶ線により囲まれる領域Eが菱形状(図においては横長菱形状)をなすように構成され、同様に第1カーカスコード70の折り返し部74と、これに向き合う第2カーカスコード80の折り返し部84と、第1カーカスコード70と第2カーカスコード80との隣り合う上下の交差部65とを結ぶ線により囲まれる領域Fが菱形状(図においては横長菱形状)をなすように構成され、この菱形状領域E,Fが縦方向Y1に交互に並列配置される状態となる。
【0036】
カーカスコードの間隔については、菱形状をなすカーカスコード61の菱形状内における縦方向の第1間隔Aと、菱形状をなすカーカスコード61と隣り合う菱形状をなすカーカスコード61との間隙における縦方向の第2間隔Bとが、中央領域Cにおける同一縦方向線上の第1間隔Aが第2間隔Bより大きくなるように配されている。また、中央領域Cから折り返し部72,74,82,84方向への所定距離の左右中間部Dにおける同一縦方向線上の第1間隔Aが第2間隔Bより大きくなるように配されている。さらに、折り返し部72,74,82,84において、同一縦方向線上の第1間隔Aと第2間隔Bとが等しくなるように配されている。なお、折り返し部72,74,82,84における同一縦方向線上の第1間隔Aが第2間隔Bより小さく配してもよい。そして、この状態においてゴム被覆されることにより全体で一体のカーカスコードとなり、交差部65では、コードが交差した状態でゴム被覆されることにより全体で一体のカーカスコードとなる。
【0037】
本実施形態のタイヤTでは、カーカスコード4は、カーカスプライ部材6の中央領域Cが
図1におけるトレッド部1に配置され、左右中間部Dはショルダー部14及びサイドウォール部20を含むサイド部2に配置され、左右中間部Dに含まれるビードコア部BCはビードコア31の回りに配置され、両端部領域Pはカーカスコード4がタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げられた巻き上げ部42を形成することになる。このビードコア部BCにおいては、第1間隔Aは第2間隔Bの1.0〜2.0倍とするのが適切である。
【0038】
本実施形態に係る空気入りタイヤTの製造方法は、カーカスプライ4を形成するカーカスプライ部材として、上記のカーカスプライ部材6を用いること以外は、公知の方法により製造することができる。例えば、特開2014−125120号公報に開示されているように、タイヤ成形ドラム上にインナーライナー5を貼り付け、インナーライナー5上にビード33を載置し、その上にカーカスプライ部材6を貼り付け、更にサイドウォールゴム21等を貼り付けた後に、カーカスプライ部材6の両端部をビード33の内周側に折り返して、一次成形体を作製する。その際、カーカスプライ部材6は、上記縦方向Y1をタイヤ周方向に配置し、横方向X1をタイヤ子午線方向になるようにして、インナーライナー5上に貼り付ければよい。その後、この一次成形体を径方向に拡張させた後、ベルト11及びトレッドゴム13を貼り付け、ついで、カーカスプライ部材6の両端部をビード33の内側に巻き上げて圧着させる。このようにして得られたグリーンタイヤを加硫成形することにより、空気入りタイヤTが得られる。
【0039】
以上よりなる本実施形態によれば、カーカスプライ4は、その両端部が、ビードフィラー32のタイヤ外面側を通ってビードコア31の周りをタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げられてなる構造のタイヤTにおいて、カーカスプライ4を2本の第1カーカスコード70及び第2カーカスコード80を配して形成し、第1カーカスコード70及び第2カーカスコード80は、それぞれシート60の横方向両端部60A,60Bで湾曲させて折り返しながら連続するコードで構成し、第1カーカスコード70及び第2カーカスコード80間を菱形状になるように配置したことにより、以下の作用効果が発揮される。
【0040】
(1) 2本構成のためタイヤ幅方向に均等となり、張力分布を均一にして剛性向上に寄与する。
【0041】
(2) カーカスプライ4の中央領域Cが位置するトレッド部1、及び、カーカスプライ4の中央領域Cから折り返し部72,74,82,84方向への所定距離の左右中間部Dに位置するサイド部2におけるカーカスコード61の間隔A,Bが変化するので軽量化しつつ剛性を確保できる。
【0042】
(3) サイド部2におけるカーカスコード61がサイド部周面に沿って傾斜して配されているので、タイヤ周方向の剛性が向上する。
【0043】
(4) カーカスプライ4をタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げられてなる構造であるため、サイド部2のカーカスコード61が寄ってくるため、カーカスコード61の間隔を変則的にすることによりサイド部2のカーカスコード61の間隔を密にすることで剛性が向上する。この場合、通常ではカーカスプライにおけるカーカスコードが密になりすぎることにより巻き上げ端部43で皺が発生して巻き上げ端部43の剛性に寄与しないカーカスコードもあるため耐久力が悪化するが、本実施態様では巻き上げ端部43においてカーカスコード61間に間隔を持たせることにより皺の発生を防止しているため、カーカスコード61の間隔が均一になるので全てのカーカスコード61が剛性に寄与して耐久力が向上でき、かつ、カーカスコード61の本数を減らすことができて軽量化できる。
【0044】
また、ビードコア31の回りにおいては、カーカスコード61の第1間隔Aと第2間隔Bは、第1間隔Aが第2間隔Bより大きくなるように配置しているため、カーカスプライ4をタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げたことにより、カーカスプライ4の中央領域Cが位置するトレッド部1からビード部30に行くにつれて徐々にカーカスコードが密になることを生かしてショルダー部14からビード部30にかけて徐々にカーカスコード61を密にしたことで剛性配分を変化させることができる。なお、ビードコア部BCではカーカスコード61の第1間隔Aは第2間隔Bの1.0を超えて2.0倍以下の間隔で配置するのが適切であり、ビードコア部BCから下記の両端部領域Pまでの間に間隔を設けて耐久性能を確保することができる。
【0045】
カーカスプライ4の横方向X1の両端部領域Pにおいては、カーカスコード61の第1間隔Aと第2間隔Bとが等しくなるように配置しているため、カーカスプライ4をタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げる際におけるカーカスコード61の間隔が寄せられることによる皺を防止でき、一定の間隔を設けることによりカーカスプライ4の端部のセパレーションを抑制でき、かつ、カーカスプライ4の端部におけるカーカスコード61の間隔を同一にすることによりカーカスコード61の配列を均一化することができる。
【0046】
カーカスプライ4の中央領域Cにおいては、カーカスコード61の第1間隔Aと第2間隔Bは、第1間隔Aが第2間隔Bより大きくなるように配置し、カーカスコード61が交差するカーカスプライ4の横方向X1の中央では、カーカスコード61の第2間隔Bは0となるように配置したので、ベルト11にスチールベルトが配置されるトレッド部1では、スチールベルトによる剛性を加味してカーカスコード61の密度を減らすことができて軽量化が達成でき、かつ、カーカスコード61の交差部65をタイヤTにおけるベルト11下部の変動が少ないトレッド部1内に配置することにより耐久力が確保できる。
【実施例】
【0047】
上記実施形態の効果を示すために、実施例1及び比較例1,2の乗用車用空気入りラジアルタイヤ(サイズ:195/65R15)を試作した。
【0048】
実施例1のタイヤは、
図1〜3に示す実施形態のタイヤである。
【0049】
比較例1のタイヤは、カーカスプライ部材として、多数本のカーカスコードを平行に引き揃えたもの(横方向両端部にコードの切断端を持つもの)を1枚用いて(カーカスコードの打ち込み密度=30本/25mm)、該カーカスプライ部材をビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側へ巻き上げた構造のタイヤである。
【0050】
比較例2のタイヤは、比較例1と同様のカーカスプライ部材を、実施例1と同様に、ビードコアの周りでタイヤ幅方向外側から内側へ巻き上げた構造のタイヤである。いずれの例も、その他の構成は同じ構成とした。
【0051】
これらの各タイヤについて、操縦安定性と耐久性と縦剛性と横剛性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0052】
・操縦安定性:各タイヤを装着したテスト車両(国産2Lセダン)を速度100km/hでの実車走行により、運転者が乾燥路にて、操縦安定性の官能評価を行ない、比較例1の官能評価を100とした指数で評価した。当該指数が大きいほど操縦安定性が良好であることを示す。
【0053】
・耐久性:米国自動車安全基準FMVSS139に定める条件に準拠した試験方法により、ドラム試験機で耐久性試験を行い、タイヤが故障するまでの走行距離を測定し、比較例1の測定結果を100として指数で評価した。当該指数が大きいほど耐久性に優れていることを示す。
【0054】
・縦剛性:50t剛性試験機を用い、50t剛性試験機にタイヤを15×6.5Jのリムに、空気圧220kPaで組み付け、キャンバー角0°の状態で、縦荷重が4.2kN±490Nの間における鉛直方向の負荷を増減させたときの鉛直方向の縦撓み量を測定し、その増減させた負荷量を縦撓み量で除した値を算出した。評価結果は、比較例1の結果を100とした指数で表示し、当該指数が大きいほど縦剛性が高いことを示す。
【0055】
・横剛性:50t剛性試験機を用いて、タイヤ内圧220kPa、リム15X6.5−Jのタイヤに縦荷重4.2kNをかけた状態で、更にタイヤに該縦荷重の30%の荷重を横方向の力として負荷して横撓み量を測定し、その横方向の力を横撓み量で除した値を作出した。評価結果は、比較例1の測定結果を100とした指数で表示し、当該指数が大きいほど横剛性が高いことを示す。
【0056】
【表1】
結果は、表1に示す通りである。比較例1に対し、カーカスプライの巻き上げ構造をタイヤ幅方向外側から内側の巻き上げに変更した比較例2では、操縦安定性は向上したものの、巻き上げ部に皺が入り、コード間隔が不均等になったことにより、耐久性に劣っており、また、縦横剛性の向上効果も小さいものであった。これに対し、実施例1では、カーカスプライをタイヤ幅方向外側から内側に巻き上げた構成において、2本の連続したカーカスコードを交差部を設けて配し、該交差部が中央領域に位置するように配したことにより、耐久性を向上することができ、また、縦剛性及び横剛性が向上して、操縦安定性が顕著に改善されていた。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
T…空気入りタイヤ、1…トレッド部、2…サイド部、4…カーカスプライ、5…インナーライナー、6…カーカスプライ部材、11…ベルト、12……ベルト補強層、13…トレッドゴム、14…ショルダー部、20…サイドウォール部、21…サイドウォールゴム、30…ビード部、31…ビードコア、31A…ビードコアの外周面、32…ビードフィラー、32A…径方向外方端、33…ビード、34…ラバーチェーハー、41…カーカスプライの本体部、42…巻き上げ部、43…巻き上げ端部、60…シート、60A,60B…シートの横方向端部、61…カーカスコード、65…交差部、70…第1カーカスコード、71,73…横方向延在部、72,74…折り返し部、80…第2カーカスコード、81,83…横方向延在部、82,84…折り返し部、X…タイヤ幅方向、Y…タイヤ径方向、X1…横方向、Y1…縦方向、C…中央領域、BC…ビードコア部、P…両端部領域、D…左右中間部、E,F…菱形状領域、A…第1間隔、B…第2間隔、