【解決手段】トレッド部の陸部20が硬度の異なる2以上のゴム層からなり、接地面16を有する第1ゴム層21が低硬度で、第1ゴム層21の下で第1ゴム層21と接する第2ゴム層22が高硬度である空気入りタイヤにおいて、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面23が陸部20の幅方向両側にそれぞれ頂部26、27を形成し、タイヤ接地端E側の頂部26がタイヤ中心線CL側の頂部27よりも高く、第1ゴム層21の体積が、陸部20の幅方向中心に対してタイヤ接地端E側とタイヤ中心線CL側とで同じか、タイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側において大きい。
トレッド部の陸部が硬度の異なる2以上のゴム層からなり、接地面を有する第1ゴム層が低硬度で、前記第1ゴム層の下で前記第1ゴム層と接する第2ゴム層が前記第1ゴム層より高硬度である空気入りタイヤにおいて、
前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面が前記陸部の幅方向両側にそれぞれ頂部を形成し、タイヤ接地端側の頂部がタイヤ中心線側の頂部よりも高く、
前記第1ゴム層の体積が、前記陸部の幅方向中心に対してタイヤ接地端側とタイヤ中心線側とで同じか、タイヤ中心線側よりもタイヤ接地端側において大きい、空気入りタイヤ。
前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面が、前記陸部の幅方向両側の側壁に露出し、その露出位置でそれぞれ前記頂部を形成している、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
車両の乗り心地を向上させる目的で、空気入りタイヤのトレッド部に低硬度のゴムが使用されることがある。しかし、トレッド部に低硬度のゴムが使用された場合、トレッド部の剛性が低下するため、空気入りタイヤの操縦安定性が悪化してしまう。
【0003】
ところで特許文献1では、トレッド部を構成するブロックの剛性を高めることにより空気入りタイヤの操縦安定性を改善することが提案されている。そのために、特許文献1では、接地面側(タイヤ径方向外側)に低硬度のゴムを使用し、その下(タイヤ径方向内側)に高硬度のゴムを使用し、タイヤ径方向外側の低硬度のゴム層の厚みをブロック幅方向両側で薄くすることが提案されている。
【0004】
また特許文献2では、トレッド部を動的弾性率の異なる2層のゴムからなるものとし、各層の厚みをタイヤ幅方向に変化させることが提案されている。また特許文献3では、タイヤ径方向外側に高硬度のゴムを使用し、タイヤ径方向内側に低硬度のゴムを使用し、各層の厚みをタイヤ幅方向に変化させることが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。また図面は、説明の都合上、長さや形状等が誇張されて描かれたり、模式的に描かれたりする場合がある。
【0011】
1.実施形態1
実施形態1の空気入りタイヤの基本的な構造は次の通りである。まず、束ねられた鋼線にゴムが被覆されたビードコアと、ビードコアのタイヤ径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラーとからなるビード部が、タイヤ幅方向両側に設けられている。カーカスが、タイヤ幅方向両側でビード部を包むと共に、これらのビード部間で空気入りタイヤの骨格を形成している。カーカスのタイヤ径方向外側にはスチールコードがゴムに被覆された1又は2以上のベルトからなるベルト層が設けられ、そのタイヤ径方向外側にベルト補強層が設けられている。さらにそのタイヤ径方向外側にはトレッド部10が設けられている。またカーカスのタイヤ幅方向両側にはサイドウォールが設けられている。またカーカスの内側にはインナーライナーが設けられている。これらの部材の他にも必要に応じて複数の部材が設けられている。
【0012】
図1に示すように、実施形態1のトレッド部10には、タイヤ周方向に延びる複数の主溝12が設けられている。なおタイヤ周方向は
図1に矢印Cで示されている。さらにトレッド部10には、タイヤ幅方向に延びる複数の横溝14が設けられている。横溝14は隣り合う主溝12同士を連結している。2本の主溝12と2本の横溝14とに囲まれた部分が、実施形態1における陸部であるブロック20である。タイヤ周方向に並ぶ複数のブロック20がブロック列を形成している。そしてトレッド部10には複数のブロック列が形成されている。
【0013】
図2に示すように、実施形態1のブロック20は、接地面16を有する第1ゴム層21と、第1ゴム層21の下(タイヤ径方向内側)の第2ゴム層22とからなる。第1ゴム層21と第2ゴム層22とは界面23において接している。
【0014】
第1ゴム層21と第2ゴム層22とは少なくとも硬度が異なる。第2ゴム層22が第1ゴム層21より高硬度である。なお硬度とはJIS K 6253で定められたタイプAのデュロメータで測定した硬度のことである。低硬度である第1ゴム層21の硬度は、限定されないが、例えばA50以上でA65以下である。高硬度である第2ゴム層22の硬度は、限定されないが、例えばA60以上でA75以下である。
【0015】
図2に示すように、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面23は、ブロック20の幅方向断面上で下に凸の曲線を描いている。ここで、ブロック20の幅方向はタイヤ幅方向と一致する。この界面23はブロック20の幅方向両側の側壁24、25に露出している。そして、界面23は、ブロック20の幅方向両側の側壁24、25に露出している位置で、界面23の左右それぞれの頂部26、27を形成している。タイヤ接地端E側(タイヤ幅方向外側)の頂部26は、タイヤ中心線CL側(タイヤ幅方向内側)の頂部27よりも高い。言い換えれば、タイヤ接地端E側の頂部26は、タイヤ中心線CL側の頂部27よりも、タイヤ径方向外側にある。なお、図中には、タイヤ接地端E側が矢印Eで、タイヤ中心線CL側が矢印CLで、それぞれ示されている。
【0016】
また、第1ゴム層21の体積は、ブロック20の幅方向中心面CFに対してタイヤ接地端E側とタイヤ中心線CL側とで同じか、タイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側において大きい。この関係を満たすために、
図2の場合は、ブロック20の幅方向断面上において界面23が描く曲線の曲率は、幅方向中心面CFよりもタイヤ接地端E側において大きく、幅方向中心面CFよりもタイヤ中心線CL側において小さい。つまり、ブロック20の幅方向断面上において界面23が描く曲線の曲率半径は、幅方向中心面CFよりもタイヤ接地端E側において小さく、幅方向中心面CFよりもタイヤ中心線CL側において大きい。
【0017】
このような構造のブロック20は、複数のブロック列のうち少なくとも1つのブロック列において形成されていれば良い。もちろん、トレッド部10の全てのブロック列において、このような構造のブロック20が形成されていても良い。いずれにしても、1つのブロック列を構成する全てのブロック20がこのような構造であることが望ましい。また、
図1に示すようにタイヤ中心線CL上にブロック列が形成されている場合は、そのブロック列を構成するブロックにおける2つのゴム層の界面形状は左右対称であっても良い。
【0018】
また、ブロック20のタイヤ周方向両側の側壁には、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面23が露出していても良いし、露出していなくても良い。
【0019】
このようなブロック20を有するトレッド部10は、例えばリボン巻き工法によって製造される。具体的には、まず、第2ゴム層22の原料であるゴムを押出機からリボン状に押し出す。このとき押し出されたリボンを第2リボンとする。次に、押し出された第2リボンを、成型ドラム上に多数周巻き付ける。ここで、ブロック20の幅方向両側の場所で第2リボンを多く巻き付け、ブロック20の幅方向中心付近の場所で第2リボンを少なく巻き付けることにより、巻き付け後の第2リボンが形成する表面形状を、上記の界面23の形状とする。
【0020】
次に、第1ゴム層21の原料であるゴムを押出機からリボン状に押し出す。このとき押し出されたリボンを第1リボンとする。次に、押し出された第1リボンを、上記の第2リボンの上から、多数周巻き付ける。ここで、ブロック20の幅方向両側の場所で第1リボンを少なく巻き付け、ブロック20の幅方向中心付近の場所で第1リボンを多く巻き付けることにより、巻き付け後の第1リボンが形成する表面形状を、接地面16の形状とする。
【0021】
このようにして製造された第2リボン及び第1リボンからなる積層体を、空気入りタイヤのベルト層の上に貼り付けて金型内で加硫成型することにより、実施形態1のトレッド部10が完成する。
【0022】
実施形態1の効果は次の通りである。まずブロック20において、接地面16を有する第1ゴム層21が低硬度で、第1ゴム層21の下の第2ゴム層22が高硬度であることにより、車両の乗り心地と操縦安定性とがある程度確保されている。
【0023】
その上で、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面23がブロック20の幅方向両側にそれぞれ頂部26、27を形成し、ブロック20の幅方向両側において高硬度の第2ゴム層22が厚くなっている。その第2ゴム層22が厚くなっている部分がブロック20をその幅方向両側から支えるため、ブロック20の剛性が高くなっている。しかも、界面23のタイヤ接地端E側の頂部26がタイヤ中心線CL側の頂部27よりも高いことにより、ブロック20の中でも操縦安定性への寄与が大きいタイヤ接地端E側の部分の剛性が高くなっている。以上のように剛性が高いことの効果として、空気入りタイヤの操縦安定性が向上している。
【0024】
また上記のように、第1ゴム層21の体積が、ブロック20の幅方向中心面CFに対してタイヤ接地端E側とタイヤ中心線CL側とで同じか、タイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側において大きい。そのことにより、界面23のタイヤ接地端E側の頂部26がタイヤ中心線CL側の頂部27よりも高いことによる車両の乗り心地の悪化を防いでいる。
【0025】
以上のことから、実施形態1の空気入りタイヤでは、車両の乗り心地と操縦安定性とが両立されている。
【0026】
また上記のように、実施形態1では、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面23がブロック20の幅方向両側の側壁24、25に露出し、その露出位置に界面23の左右それぞれの頂部26、27がある。そのことにより、ブロック20の幅方向両側の側壁24、25の位置で高硬度の第2ゴム層22が厚くなっている。そのため、ブロック20の幅方向両側の側壁24、25がブロック20を支えることになり、ブロック20の剛性がより高くなり、操縦安定性が向上している。
【0027】
また、2本の主溝12に挟まれた陸部が横溝で区切られておらずタイヤ周方向に延びるリブとなっている場合よりも、実施形態1のように2本の主溝12に挟まれた部分がブロック列となっている場合の方が、陸部の剛性が低くなりやすい。そのため、ブロック列を構成するブロック20において上記の構造とすることの効果が大きい。
【0028】
2.実施形態2
実施形態1と実施形態2とでは、低硬度の第1ゴム層21と高硬度の第2ゴム層22との界面123の形状が異なり、その他の特徴については共通する。実施形態2のブロック120を示す
図3では、実施形態1と共通する部分には実施形態1と同じ符号が付されている。
【0029】
実施形態2では、実施形態1と異なり、界面123が、ブロック120の幅方向両側の側壁24、25に露出しておらず、主溝12の下を通って隣のブロック120にまで連続している。つまり、第1ゴム層21が、主溝12内の部分を含めて、上(接地面16側)から第2ゴム層22を完全に覆っている。しかし
図3に示すように、実施形態1と同じく、界面123はブロック120の幅方向断面上で曲線を描いている。そして、界面123は、ブロック120の幅方向両側にそれぞれ周囲よりも高い頂部126、127を形成している。
図3の場合の界面123は、ブロック120の幅方向断面上では、2つの頂部126、127の間で下に凸の曲線を描いている。
【0030】
ここで、ブロック120を幅方向に4つの領域に等分し、タイヤ接地端E側から順に第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3、第4領域A4とする。このように4等分した場合に、タイヤ接地端E側の頂部126は一番タイヤ接地端E側の第1領域A1にあり、タイヤ中心線CL側の頂部127は一番タイヤ中心線CL側の第4領域A4にある。つまり、タイヤ接地端E側の頂部126はブロック120のタイヤ接地端E側1/4の領域にあり、タイヤ中心線CL側の頂部127はブロック120のタイヤ中心線CL側1/4の領域にある。また実施形態1と同じく、タイヤ接地端E側の頂部126は、タイヤ中心線CL側の頂部127よりも高い。
【0031】
また、実施形態2では実施形態1と同じく、第1ゴム層21の体積が、ブロック120の幅方向中心面CFに対してタイヤ接地端E側とタイヤ中心線CL側とで同じか、タイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側において大きい。
【0032】
このようなブロック120を有するドレッド部の製造では、まず、第1ゴム層21の原料であるゴムが、トレッド部10と同等の幅の第1ゴムシートとして押し出される。それと同時に、第2ゴム層22の原料であるゴムが、トレッド部10と同等の幅の第2ゴムシートとして押し出される。ここで、第1ゴムシートの下面及び第2ゴムシートの上面には、上記の界面123の頂部126、127に相当する形状が形成されている。次に、押し出された第1ゴムシートと第2ゴムシートとが貼り合わされる。次に、貼り合わされた2枚のゴムシートが空気入りタイヤのベルト層の上に貼り付けられ、加硫成型が行われる。加硫成型の際に、金型の凸部が空気入りタイヤの主溝12となる場所に押しつけられる。すると、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面123が、主溝12の下に押し下げられ、
図3に示す形状になる。
【0033】
実施形態2の空気入りタイヤでも、実施形態1と同様の理由により、車両の乗り心地と操縦安定性とが両立されている。
【0034】
3.変更例
実施形態1、2に対し、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々な変更を行うことができる。
【0035】
まず、2本の主溝12に挟まれた陸部は、横溝で区切られておらずタイヤ周方向に延びているリブであっても良い。そのリブの幅方向断面上の構造が、実施形態1、2と同じ断面構造であれば良い。
【0036】
また、2本の主溝12に挟まれた陸部は、硬度の異なる3以上のゴム層からなるものであっても良い。その場合は、接地面を有する第1ゴム層とその下で第1ゴム層と接する第2ゴム層とが、実施形態1、2と同じ特徴を有していれば良い。第2ゴム層より下のゴム層の硬度や、第2ゴム層より下におけるゴム層同士の界面の形状等については、限定されない。
【0037】
4.比較例及び実施例
表1に示す比較例及び実施例の空気入りタイヤの乗り心地及び操縦安定性を評価した。評価対象の空気入りタイヤのタイヤサイズは215/50R18で、その空気圧は250kPaであった。いずれの空気入りタイヤのトレッドパターンも、上記実施形態1と同じものであった。また、いずれの空気入りタイヤのブロックも、接地面16を有する第1ゴム層21とその下の第2ゴム層22とからなるものであった。そして、第1ゴム層21の硬度がA61、第2ゴム層22の硬度がA67で、第2ゴム層22が第1ゴム層21より高硬度であった。
【0038】
実施例の空気入りタイヤのブロックは
図2に示す実施形態1の断面構造を有するものであった。すなわち、表1に示すように、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面の頂部が、タイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側で高かった。また、第1ゴム層21の体積がタイヤ中心線CL側よりもタイヤ接地端E側において大きかった。
【0039】
一方、
図4に示すように、比較例の空気入りタイヤのブロック220では、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面223の形状が、ブロック220の幅方向中心面CFに対して左右対称であった。従って、表1に示すように、比較例の空気入りタイヤのブロック220では、タイヤ接地端E側の頂部226とタイヤ中心線CL側の頂部227とが同じ高さであり、第1ゴム層21の体積がタイヤ接地端E側とタイヤ中心線CL側とで同じであった。
【0040】
表1に、ブロックの高さL1、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面のタイヤ接地端E側の頂部の高さL2、及びタイヤ中心線CL側の頂部の高さL3の実測値をまとめる。また、高さL1、L2及びL3の場所を
図5に示す。表1に示すように、実施例では、第1ゴム層21と第2ゴム層22との界面のタイヤ接地端E側の頂部の高さL2が、タイヤ中心線CL側の頂部の高さL3の1.5倍であった。
【0042】
<乗り心地>
上記の空気入りタイヤをJATMA、TRA、ETRTO等の規格に定められている標準リムに装着して乗用車に取り付けた。2名のテストドライバーがその乗用車に乗車し、凹凸のある乾燥アスファルト舗装路上を走行し、乗り心地を指数で官能評価した。指数は、比較例の値を100とし、大きいほど乗り心地が良いことを示すものである。
【0043】
<操縦安定性>
上記の空気入りタイヤをJATMA、TRA、ETRTO等の規格に定められている標準リムに装着して乗用車に取り付けた。2名のテストドライバーがその乗用車に乗車し、アスファルト舗装乾燥路面上でレーンチェンジや旋回走行などを実施し、操縦安定性を指数で官能評価した。指数は、比較例の値を100とし、大きいほど操縦安定性が優れていることを示すものである。
【0044】
評価結果は表1の通りで、実施例の空気入りタイヤは、比較例の空気入りタイヤよりも、乗り心地及び操縦安定性が良く、これらが両立されていることが確認された。