【解決手段】空調装置150と車室空間125とを繋ぐ流路であるダクト空間117を備え、ダクト空間117が鉄道車両100の車室床部102の下より側構体103を通って屋根部101側に抜ける鉄道車両100のダクト構造において、側構体103の表面に断熱材層136が形成され、側構体103の内側に配置される内装パネル130には、断熱材層136に当接する仕切板131が形成され、断熱材層136の表面と、内装パネル130と、仕切板141とで構成されたダクト空間117が、流路として利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような立ち上がりダクト(縦ダクト)を用いる方法では、概ね座席と座席の間に形成される吹寄部毎に形成される必要がある。この為、1車両に20箇所以上の立ち上がりダクトが設置されることになる。この結果、ダクト製作費並びに設置コストなどが発生する。コスト削減の求められる鉄道車両は、こうした部分の簡略化を進める事での対策が望まれている。
【0006】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、ダクト製作費並びに設置コストを削減可能な鉄道車両のダクト構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両のダクト構造は、以下のような特徴を有する。
【0008】
(1)空調装置と室内とを繋ぐ流路を備え、前記流路が鉄道車両の客室床の下より側構体に沿って天井側に抜ける鉄道車両のダクト構造において、前記側構体の室内側表面に断熱材層が形成され、前記側構体の内側に配置される内装パネルには、前記断熱材層に当接する仕切板が形成され、前記断熱材層の表面と、前記内装パネルと、前記仕切板とで構成された空間が、前記流路として利用されること、を特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の態様によれば、従来の様に空調装置用に専用のダクト部材を用意する必要が無くなるため、ダクト部材を鉄道車両内部に組み付ける工数などを削減できる。鉄道車両の車内には、このような流路が複数設けられ、具体的には新幹線などの車両では1吹寄部毎に取り付けられるため、1つの車両で30〜40箇所程度のダクトが設けられる。そうなると、ダクト部材を鉄道車両に取り付ける時にはそれなりの工数を必要とする。
【0010】
しかしながら、本発明では、断熱材層と内装パネルと仕切り板とで構成された空間を空調装置と室内とを繋ぐ流路としている。したがって、内装パネルを取り付けることでダクト空間を形成することが可能となる。この結果、ダクト施工の工数を減らし、ダクト部材に必要なコストを削減することができ、結果的に製造コストの削減に寄与することができる。
【0011】
(2)(1)に記載の鉄道車両のダクト構造において、前記内装パネルの継ぎ目には、前記内装パネル端部の一方にL字状のフランジ部を備え、前記内装パネル端部の他方に弾性部材が備えられ、前記フランジ部と前記弾性部材とが当接することで、空気漏れを防止していること、が好ましい。
【0012】
上記(2)に記載の態様によれば、内装パネル端部の一方と他方が当接し、その間に弾性材料を用いた目地部材が用いられているために、内装パネル側からの調和空気の漏れを防ぐことができる。流路に接続される空調装置から供給される調和空気は、冷気、暖気などを送り出す程度の圧力であるため高圧とはならない。そのため、内装パネルの継ぎ目に弾性部材を用いてシールすることで空気漏れを防ぐことができ、流路に面する内装パネルに継ぎ目があったとしても、流路として機能させることができる。通常、このような流路は窓と窓との間に配置されるため、内装パネルの継ぎ目が流路部分に配置されることが多くなる。しかしながら、このような構成を採ることで、空調用の調和空気流路として機能させることが可能となる。
【0013】
(3)(1)又は(2)に記載の鉄道車両のダクト構造において、前記内装パネルの前記流路側の表面に、断熱塗装が施されること、が好ましい。
【0014】
上記(3)に記載の態様によれば、内装パネルに断熱塗装を施す事によって、空調装置に接続される流路の断熱性を高める事ができる。内装パネルは樹脂製の板である場合には、ある程度の断熱性を有してはいるが、断熱塗装を施す事でより断熱性を高めることが可能となる。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の鉄道車両のダクト構造において、前記内装パネル内に設けられた前記流路の出口側に調和空気の流れを案内する案内ダクトが設けられること、が好ましい。
【0016】
上記(4)に記載の態様によれば、流路の出口側に調和空気の流れを案内する案内ダクトが設けられているために、任意の方向に調和空気を案内することが可能である。内装パネルを利用した流路を用いる場合、出口の形状に工夫が必要となり、ここに案内ダクトを用いることで任意の方向に調和空気を吹き出す事ができる。この結果、鉄道車両内に送り出す調和空気が均一に広がるように調整することが出来る。
【0017】
(5)(4)に記載の鉄道車両のダクト構造において、前記案内ダクトの少なくとも一部が前記断熱材層を形成する断熱材の一部で構成されていること、が好ましい。
【0018】
上記(5)に記載の態様によれば、案内ダクトの一部が断熱材層を利用して形成されているため、案内ダクトの取り付け手順の簡易化を図ることが可能となり、コスト削減に貢献することが可能となる。これは、案内ダクトを三次元形状で構成するために、複数のパーツを用いて形成しなければならないケースが考えられ、そうした場合に断熱材層の一部を成形して案内ダクトの機能を持たせることで、施工性や部品点数の削減に貢献することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明を行う。
図1に、第1実施形態の鉄道車両の断面図を示す。なお、断面部分を示すハッチングなどは説明の都合上、省略している。また、説明のためにセンターラインから右半分を側構体部分の吹寄部断面とし、左半分を側構体部分の窓部断面としている。鉄道車両100は、屋根部101、車室床部102、及び側構体103にて車室空間125が囲まれる造りとなっている。
【0021】
側構体103の中央部には側窓104が配置され、下部には側梁107が配置されている。また、側構体103の車内側には内装パネル130が設けられている。上部には車室空間125に突き出すように荷物棚140が設けられている。
【0022】
車室床部102には、シート120が備え付けられ、リターン口118が開口している。リターン口118は、車室床部102の下側に配置される床中吸気ダクト113に接続されている。床中吸気ダクト113は、鉄道車両100の進行方向に連通するように2本、配置されている。床中吸気ダクト113の外側に平行に配置されるのが床中送気ダクト111である。床中送気ダクト111も2本配置されている。
【0023】
床中吸気ダクト113は床下吸気ダクト114で接続され、床中送気ダクト111は、床下送気ダクト112で接続されている。また、床中送気ダクト111は、側構体103と内装パネル130との間に形成されるダクト空間117に接続される。その接続口、通風口には分岐ダクト115と風量調整部116が設けられている。
【0024】
床中送気ダクト111及び床中吸気ダクト113と、床下送気ダクト112及び床下吸気ダクト114の間には、気密床106で仕切られており、気密床106と車室床部102との間は複数の床受105によって支えられている。気密床106は、側梁107に渡された横梁108によって支えられている。床下送気ダクト112及び床下吸気ダクト114は、空調装置150と接続されている。空調装置150は1両の鉄道車両100に対して1つか2つ設けられることが多い。
【0025】
側構体103の車室空間125側には、断熱材層136が設けられ、その内側に内装パネル130が配置される。
図2に、車室空間側から側構体を見た断面図を示す。
図1のAA断面に相当する。
図3に、側構体吹寄部の断面図を示す。
図1及び
図2のBB断面に相当する。
図2に示されるように内装パネル130は、吹寄部134に継ぎ目が来るような構成となっている。この断面図として示されているのが
図3である。便宜上、
図3の左側に示される内装パネル130を第1内装パネル130Aとし、右側に示される内装パネル130を第2内装パネル130Bとしている。第1内装パネル130Aは、その端にL形フランジ部132を備え、第2内装パネル130Bは、その端に形成される端部材133に沿って隙間塞ぎ部材135を備えている。隙間塞ぎ部材135にはスポンジ状の弾性部材が用いられている。
【0026】
また、第1内装パネル130A及び第2内装パネル130Bにはそれぞれ車室空間125の高さ方向に連続して形成される仕切板131が設けられており、内装パネル130を取り付けた状態で、その仕切板131の先端が断熱材層136に埋没するように当接している。また、内装パネル130のダクト空間117に面する部分には、断熱塗装137が施されている。また、ダクト空間117は分岐ダクト115を介して床中送気ダクト111に接続されており、ダクト空間117を形成する内装パネル130とはシール材122によって気密が保たれている。
【0027】
次に、空調装置150からの調和空気の流れについて簡単に説明する。ここで言う調和空気は空調装置150から車内までの経路を流れる流体を指し、単に空気という場合は車内から空調装置に戻るもの等を指すこととする。空調装置150は、床下送気ダクト112に接続され、床中送気ダクト111に繋がっているので、空調装置150からの調和空気は床中送気ダクト111内を鉄道車両100の長手方向に送られる。そして、床中送気ダクト111に設けられている複数の分岐ダクト115から、風量調整部116を通過してダクト空間117に調和空気が送られる。
【0028】
ダクト空間117は、車室空間125の上側、荷物棚140の下辺りに開口しており、ここから車室空間125に連通する。よって、調和空気はダクト空間117から車室空間125に送られる。そして、車室空間125の空気はリターン口118から床中吸気ダクト113に送られ、床下吸気ダクト114を通って空調装置150に戻ってくる。
図1には、A1からA6まで順に調和空気及び空気の流路が示されているが、概ねこの通りに調和空気及び空気は鉄道車両100内部を循環することになる。また、
図2に示されるように、ダクト空間117から車室空間125への吹き出し口は、A41、A42、A43の3方向に調和空気が分かれるように吹き出し口が工夫されている。
【0029】
第1実施形態の鉄道車両用のダクト構造は上記構成であるので、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0030】
まず、ダクト製作に関するコストの削減が可能になる点が効果としてあげられる。これは、第1実施形態の鉄道車両用のダクト構造が、空調装置150と車室空間125とを繋ぐ流路であるダクト空間117を備え、ダクト空間117が鉄道車両100の車室床部102の下より側構体103を通って屋根部101側に抜ける鉄道車両100のダクト構造において、側構体103の表面に断熱材層136が形成され、側構体103の内側に配置される内装パネル130には、断熱材層136に当接する仕切板131が形成され、断熱材層136の表面と、内装パネル130と、仕切板131とで構成されたダクト空間117が、流路として利用されること、を特徴とする為である。
【0031】
このように、側構体103に内装パネル130と仕切板131と断熱材層136とで囲まれた空間を作り、ダクト空間117として空調装置150からの調和空気を送る構成とすることで、立ち上がりダクトなどの部材を使わずに流路を形成することが可能となる。ダクト空間117は内装パネル130を側構体103の車室空間125側に取り付けることで形成される。
【0032】
図4に、従来の、側構体吹寄部の断面図を示す。
図4では、同じ機能を果たすものに関しては、同じ符号を示している。側構体103の内表面には断熱材層136とL形金具211が設けられている。そして、L形金具211に支持されるようにダクト部材210が設けられる。ダクト部材210の内部がダクト空間117として機能する。従来は、このようなダクト部材210を設けて空調装置150からの調和空気を車室空間125に供給していたが、このダクト部材210は1両の鉄道車両100に30〜40本前後取り付けられる。
【0033】
こうしたダクト部材210は所定の断熱性能を備えたものであり、部材そのもののコストも必要だが、複数のダクト部材210を鉄道車両100の側構体103に取り付けていく作業は、取り付け数が多い事などからそれなりの工数を必要とする。第1実施形態の方法であれば、こうしたダクト部材210を省略できる上に、取り付け工事を必要としなくなるため、その分の製造コストの削減を図ることが可能となる。
【0034】
また、内装パネル130の継ぎ目には、内装パネル130の端部の一方(第1内装パネル130A)にL形フランジ部132を備え、内装パネル130の端部の他方(第2内装パネル130B)に弾性材料を用いた隙間塞ぎ部材135が備えられ、L形フランジ部132と隙間塞ぎ部材135とが当接することで、調和空気漏れを防止している。
【0035】
空調装置150から供給される調和空気は、車室空間125内を正圧に保つことができ、室内温度を調整できる程度で良いため、ダクト空間117内の圧力が高くなることは無い。したがって、L形フランジ部132を設けて隙間塞ぎ部材135と当接する程度のシールで空気漏れを防ぐことができることを確認している。このため、吹寄部134に内装パネル130の継ぎ目が配置された場合でも、空調装置150からの流路として機能させることができる。
【0036】
また、内装パネル130の流路側、つまりダクト空間117に面する部分の表面に、断熱塗装137が施される。このため、内装パネル130の断熱性能を高めることが可能となる。内装パネル130の車室空間125側は乗客が触れる部分である為、触れた際に不快な感じがしない程度に断熱が行われる事が望ましい。内装パネル130の材質にはアルミニウム合金などが用いられることが多く、断熱性能を持たせる為には断熱塗装137を用いて断熱性を高めることが必要となる。
【0037】
この様な断熱塗装137の厚みを適切に調整することによって、車室空間125内からの輻射熱を利用した暖房及び冷房も可能となる。更に、ダクト空間117は内装パネル130の形状を利用した構造となるので、立ち上がりダクトを用いる場合よりも有効断面積を大きくし易いというメリットも得られる。有効断面積が大きくなることで空調に用いる調和空気の流速を下げ、風切り音などの流体騒音を低く抑えた暖房及び冷房を実現することが可能となる。また、立ち上がりダクトを用いない分、鉄道車両100の軽量化に繋がる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明を行う。第2実施形態は第1実施形態の構成とほぼ同じであるが、内装パネルの構成が若干異なる。
図5に、第2実施形態の、車室空間側から側構体を見た断面図を示す。第1実施形態の
図2に対応する。
図6に、側構体吹寄部の断面図を示す。
図5のCC断面であり、第1実施形態の
図3に対応する。なお、第1実施形態と同じ機能を果たすものには、同じ符号を付し相違する点のみを説明する。
【0039】
鉄道車両100の側構体103には、第1実施形態と同様に断熱材層136が車室空間125側に設けられており、その上に内装パネル330が設けられている。ただし、内装パネル330は吹寄部に注目してみると3つのピースからなり、第1内装パネル330A、第2内装パネル330B、及び第3内装パネル330Cを有する。第2内装パネル330Bが吹寄部の中央に来るような配置となり、左右から第1内装パネル330Aと第3内装パネル330Cとが重ねられるように配置される。
【0040】
第2内装パネル330Bには、仕切板331が2箇所に設けられており、第2内装パネル330Bが側構体103に取り付けられた状態で、仕切板331は断熱材層136に部分的に埋没するように構成されている。また、第2内装パネル330Bと仕切板331と断熱材層136で囲まれる空間がダクト空間117になり、ダクト空間117に面した第2内装パネル330Bと仕切板331の表面には断熱塗装137が行われている。
【0041】
第2実施形態の鉄道車両のダクト構造は上記構成である為、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。また、第2内装パネル330Bの様に構造的に継ぎ目がない為、第1実施形態に示したようなL形フランジ部132や隙間塞ぎ部材135を必要とせず、空調装置150からの調和空気がより高圧であっても漏れる心配を必要としない点で優れている。
【0042】
次に、本発明の第3の実施形態について図面を用いて説明を行う。第3実施形態は第1実施形態とほぼ同じ構成であるが、内装パネルの構成が異なる。
図7に、第3実施形態の車室空間側から側構体を見た断面図を示す。第1実施形態の
図2に対応する。
図8に、側構体の断面図を示す。
図7のDD断面であり、第1実施形態の
図3に対応する。
図9に、側構体の上部の断面図を示す。
図7のEE断面である。
図10に、鉄道車両の部分断面図を示す。
【0043】
第3実施形態では内装パネルに、内装外側パネル430と内装内側パネル440の2種類が用いられた造形となっている。内装外側パネル430は、側窓104を中心として切り欠かれた形状となっており、内装外側パネル430に内装内側パネル440が重ねられるようにして側構体103に取り付けられる。内装内側パネル440は車室空間125内に向けて反り上がった形状であり、出口には案内ダクト435が設けられている。
【0044】
内装外側パネル430には仕切板431が設けられており、断熱材層136に埋没するように配置される。内装外側パネル430には、L形フランジ部432や端部材433、隙間塞ぎ部材135などが第1実施形態と同様に設けられる。鉄道車両100の車室床部102と内装外側パネル430との隙間は内装下部パネル445で塞がれている。車室空間125の上部、即ち、ダクト空間117の出口付近には、案内ダクト435が設けられている。この案内ダクト435は、内装外側パネル430の一部が切り欠かれて、内装外側パネル430と断熱材層136の間に配置され、ダクト空間117からの調和空気を案内する機能を備える。
【0045】
第3実施形態の鉄道車両のダクト構造は上記構成である為、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。また、案内ダクト435を利用することで、適切な向きに風を送ることが容易になる。
【0046】
次に、本発明の第4の実施形態について図面を用いて説明を行う。第4実施形態は第3実施形態とほぼ同じ構成であり、案内ダクト435の構成が多少異なる。
図11に、鉄道車両の部分断面図を示す。
【0047】
第4実施形態では、第3実施形態で用いている案内ダクト435の代わりに案内部材436を用いている。案内部材436は、断熱材層136の一部にはめ込むように設けられ、断熱材層136と同じ材質で形成されている。ただし、分かり易いように分離して示しているだけで、必要に応じて断熱材層136に一体的に形成されても良い。無論、案内部材436だけ別の断熱材を用いて形成しても良い。この案内部材436は、案内ダクト435と同等の働きをするので、第3実施形態と同様の効果が得られる。ただし、断熱材層136の一部として形成すれば、組み付け手順の効率化が期待できるため、コスト削減に貢献できる。
【0048】
以上、本発明に係る鉄道車両のダクト構造の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、パネル背面の断熱処理について、断熱塗料に限らず多孔質系の断熱材や不織布系の断熱材を貼り付けても良い。