(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-103931(P2018-103931A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20180608BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20180608BHJP
B60C 15/00 20060101ALI20180608BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20180608BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C9/08 J
B60C15/00 B
B60C13/00 G
B60C15/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-254791(P2016-254791)
(22)【出願日】2016年12月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 和生
(57)【要約】
【課題】転がり抵抗を維持しながら、優れた操縦安定性能と乗心地性能を発揮できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るカーカス層4と、サイドウォール部2の外表面を形成するサイドウォールゴム7と、ビード部1の外表面を形成するリムストリップゴム8とを備える。カーカス層4とサイドウォールゴム7との間でリムストリップゴム8がタイヤ径方向に延在しており、ビード部1に埋設されたビードコア1aの外径位置を基準にしたリムストリップゴム8の高さHrがタイヤ外径位置の高さHtの70%以上であり、タイヤ最大幅位置14におけるリムストリップゴム8の厚みTwが、タイヤ最大幅位置14よりもタイヤ径方向外側におけるリムストリップゴム8の最大厚みTmよりも小さく形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカス層と、前記サイドウォール部の外表面を形成するサイドウォールゴムと、前記ビード部の外表面を形成するリムストリップゴムと、を備え、
前記カーカス層と前記サイドウォールゴムとの間で前記リムストリップゴムがタイヤ径方向に延在しており、前記ビード部に埋設されたビードコアの外径位置を基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ外径位置の高さの70%以上であり、
タイヤ最大幅位置における前記リムストリップゴムの厚みTwが、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側における前記リムストリップゴムの最大厚みTmよりも小さく形成されている空気入りタイヤ。
【請求項2】
ビードベースラインを基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ断面高さの75%以上である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記リムストリップゴムの厚みTwが0.5mm以上である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記リムストリップゴムの厚みTwと最大厚みTmとの差が0.5mm以上である請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイドウォールゴムと前記リムストリップゴムとの界面の露出位置からタイヤ径方向外側に向かって前記リムストリップゴムの厚みが漸減しており、タイヤ最大幅位置からタイヤ径方向外側に向かって前記リムストリップゴムの厚みが漸増している請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ビード部から前記サイドウォール部に亘ってタイヤ径方向に延在するサイド補強層が埋設されており、前記サイド補強層の上端が、タイヤ最大幅位置を中心としてタイヤ径方向に30mmの領域内に配置されている請求項1〜5いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記サイド補強層の上端が、タイヤ最大幅位置からタイヤ径方向に10mm以上離れている請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ビード部において巻き上げられた前記カーカス層の巻き上げ端が、前記トレッド部に埋設されたベルト層に到達している請求項1〜7いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり抵抗を維持しながら、優れた操縦安定性能と乗心地性能を発揮できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤは、サイドウォール部のタイヤ径方向外側の領域、いわゆるバットレス領域において局部的な撓みを生じやすい。それ故、ヨーイングの発生により操縦安定性能が低下したり、タイヤ全体での撓みを妨げて乗心地性能が悪化したりする傾向にある。従来は、タイヤの厚みを増すことによりバットレス領域の剛性を高めて局部的な撓みを抑制していたが、バットレス領域の厚みを増やすとエネルギーロスが増加するため、転がり抵抗が悪化するという問題があった。
【0003】
特許文献1には、リムストリップゴムの高さを、タイヤの内縁から赤道までの高さの36〜44%とした空気入りタイヤが記載されている。しかし、この程度の高さを有するリムストリップゴムはバットレス領域に配置されないため、バットレス領域の剛性を高めて局部的な撓みを抑制する効果は得られない。
【0004】
特許文献2には、リムストリップゴムの高さを、タイヤ断面高さの0.5〜0.7倍の範囲内で波状に変化させ、その平均高さをタイヤ断面高さの0.6倍以下とした空気入りタイヤが記載されている。しかし、リムストリップゴムの高さが周期的に低くなることから、バットレス領域の剛性が十分に高められないと考えられる。そもそも、該文献では、平均高さがタイヤ断面高さの0.6倍を超えると、転がり抵抗の向上効果が損なわれると位置付けている。
【0005】
特許文献3には、リムストリップゴムの上端を、タイヤ外径位置を基準としてタイヤ断面高さの60〜75%(ビードベースラインを基準として25〜40%)に配置し、複層ゴム構造としたサイドウォールゴムの内側ゴム層の下端を、タイヤ外径位置を基準としてタイヤ断面高さの30〜50%(ビードベースラインを基準として50〜70%)に配置した空気入りタイヤが記載されているが、リムストリップゴムの上端や内側ゴム層の下端に歪みが局部的に集中することによる転がり抵抗の悪化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−54925号公報
【特許文献2】特開2013−241043号公報
【特許文献3】特開2003−312213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転がり抵抗を維持しながら、優れた操縦安定性能と乗心地性能を発揮できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカス層と、前記サイドウォール部の外表面を形成するサイドウォールゴムと、前記ビード部の外表面を形成するリムストリップゴムと、を備え、前記カーカス層と前記サイドウォールゴムとの間で前記リムストリップゴムがタイヤ径方向に延在しており、前記ビード部に埋設されたビードコアの外径位置を基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ外径位置の高さの70%以上であり、タイヤ最大幅位置における前記リムストリップゴムの厚みTwが、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側における前記リムストリップゴムの最大厚みTmよりも小さく形成されているものである。
【0009】
このタイヤでは、ビードコアの外径位置を基準にしたリムストリップゴムの高さがタイヤ外径位置の高さの70%以上であることにより、バットレス領域の剛性が高められて操縦安定性能が向上する。しかも、タイヤ最大幅位置では、バットレス領域に比べてリムストリップゴムの厚みが相対的に小さく形成されているので、リムストリップゴムの高さを大きくしながらもサイドウォール部が撓みやすい。その結果、バットレス領域での局部的な撓みが抑えられ、タイヤ全体で撓むようになり、優れた乗心地性能が発揮される。
【0010】
タイヤ最大幅位置におけるリムストリップゴムの厚みを相対的に小さくすることは、上記のように乗心地性能に対して有利になるだけでなく、操縦安定性能や転がり抵抗にも有利と考えられる。即ち、タイヤ最大幅位置の周辺部分が撓みやすくなることにより、バットレス領域に集中しがちな歪みが分散されるため、操縦安定性能を向上できる。また、エネルギーロスの原因となるバットレス領域での歪みを軽減することになるので、リムストリップゴムの高さを大きくしながらも転がり抵抗を維持できる。
【0011】
リムストリップゴムによってバットレス領域の剛性を高める観点から、ビードベースラインを基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ断面高さの75%以上であることが好ましい。
【0012】
カーカス層とサイドウォールゴムとの間をタイヤ径方向に延在してバットレス領域に到達するリムストリップゴムを適切に形成する観点から、前記リムストリップゴムの厚みTwが0.5mm以上であることが好ましい。
【0013】
タイヤ最大幅位置におけるリムストリップゴムの厚みを相対的に小さくする観点から、前記リムストリップゴムの厚みTwと最大厚みTmとの差が0.5mm以上であることが好ましい。
【0014】
前記サイドウォールゴムと前記リムストリップゴムとの界面の露出位置からタイヤ径方向外側に向かって前記リムストリップゴムの厚みが漸減しており、タイヤ最大幅位置からタイヤ径方向外側に向かって前記リムストリップゴムの厚みが漸増していることが好ましい。かかる構成によれば、リムストリップゴムによる剛性変化が緩やかとなり、乗心地性能を向上するうえで好都合である。
【0015】
前記ビード部から前記サイドウォール部に亘ってタイヤ径方向に延在するサイド補強層が埋設されており、前記サイド補強層の上端が、タイヤ最大幅位置を中心としてタイヤ径方向に30mmの領域内に配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、走行時の歪みをタイヤ最大幅位置の周辺部分に集中させて、バットレス領域に集中しがちな歪みを効果的に分散できるため、転がり抵抗を良好に維持しながら、より優れた操縦安定性能が発揮される。
【0016】
上記の場合においては、前記サイド補強層の上端が、タイヤ最大幅位置からタイヤ径方向に10mm以上離れているものが好ましい。サイド補強層の上端をタイヤ最大幅位置から適度に離すことにより、走行時の歪みが局部的に集中することを防いで、操縦安定性能と乗心地性能の改善効果を確保できる。
【0017】
前記ビード部において巻き上げられた前記カーカス層の巻き上げ端が、前記トレッド部に埋設されたベルト層に到達していることが好ましい。かかる構成によれば、リムストリップゴムだけでなくカーカス層によってもバットレス領域の剛性が高められる。また、サイド補強層やビードフィラーの上端の近傍に巻き上げ端が配置されないため、部材端が集中する箇所で歪みが局部的に集中することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示す空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、環状のビードコア1aと、そのビードコア1aのタイヤ径方向外側に設けられたビードフィラー1bとが埋設されている。ビードコア1aは、鋼線などの収束体をゴムで被覆して形成されている。ビードフィラー1bは、タイヤ径方向外側に延びた断面三角形状の硬質ゴムにより形成されている。バットレス領域2Bは、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側の領域であって、平坦な舗装路での通常走行時には接地しない領域である。
【0021】
この空気入りタイヤTは、更に、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るカーカス層4と、トレッド部3の外表面を形成するトレッドゴム5と、サイドウォール部2の外表面を形成するサイドウォールゴム7と、ビード部1の外表面を形成するリムストリップゴム8とを備える。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム9が設けられている。トレッドゴム5のタイヤ径方向内側には、カーカス層4に積層されたベルト層10と、そのベルト層10に積層されたベルト補強層11が設けられている。
【0022】
カーカス層4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列した複数のコードをゴムで被覆したカーカスプライにより形成されている。このコードの材料には、スチールなどの金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好ましく用いられる。カーカス層4は、1枚のカーカスプライにより構成されているが、これに代えて、積層した複数枚のカーカスプライを使用しても構わない。本実施形態では、後述するように超ハイターンアップ構造を採用しているため、カーカスプライが1枚であっても、カーカス層4による剛性向上の効果が適切に得られる。
【0023】
カーカス層4は、ビードコア1aとビードフィラー1bを挟むようにして、ビード部1において巻き上げられている(ターンアップされている)。別の言い方をすると、カーカス層4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体プライに、ビードコア1a及びビードフィラー1bのタイヤ幅方向外側に配置された巻き上げプライを一連に設けてある。巻き上げ端4Eは、その巻き上げられたカーカス層4(の巻き上げプライ)の端部である。
【0024】
ベルト層10は、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に配列した複数のコードをゴムで被覆したベルトプライにより形成されている。ベルト層10は、複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライにより構成され、そのプライ間でコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。このコードの材料には、スチールが好ましく用いられる。ベルト補強層11は、実質的にタイヤ周方向に延びるコードをゴムで被覆した補強プライにより形成されている。このコードの材料には、前述したような有機繊維が好ましく用いられる。ベルト層10の端部をベルト補強層11で覆うことにより、高速走行時のベルトプライの浮き上がりを抑えて高速耐久性を向上できる。
【0025】
本実施形態のタイヤTのビード部1には、その外表面をタイヤ幅方向外側に隆起させてなるリムプロテクタ12が形成されている。リムプロテクタ12は、路肩の縁石などと接触することによるリムフランジの変形や損傷を防止する機能を有する。サイドウォールゴム7のタイヤ径方向内側にはリムストリップゴム8が連なっており、それらの界面の露出位置13は、リムプロテクタ12の内周面に設定されている。尚、本発明の空気入りタイヤは、このようなリムプロテクタが形成されたものに限られない。
【0026】
タイヤ最大幅位置14は、サイドウォール部2におけるタイヤTの外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道からタイヤ幅方向において最も離れる位置である。このプロファイルラインは、リムプロテクタ12などの突起を除いたサイドウォール部本体の外表面の輪郭であり、通常、複数の円弧を滑らかに接続することで規定されるタイヤ子午線断面形状を有する。
【0027】
リムストリップゴム8は、タイヤTが装着される不図示のリムと接触する部位に設けられている。リムストリップゴム8は耐摩滅性に優れたゴムにより形成され、リムストリップゴム8のモジュラスはサイドウォールゴム7のモジュラスよりも高い。但し、本実施形態のリムストリップゴム8はタイヤ径方向に長く延びてサイドウォール部2に配置されるため、タイヤTの縦剛性を過度に上昇させない観点から、リムストリップゴム8のモジュラスはビードフィラー1bのモジュラスよりも低いことが好ましい。上記モジュラスは、JISK6251に準拠して測定した100%伸長モジュラス(M100)を指す。
【0028】
リムストリップゴム8は、カーカス層4とサイドウォールゴム7との間でタイヤ径方向に延在している。ビード部1に埋設されたビードコア1aの外径位置を基準にしたリムストリップゴム8の高さHrはタイヤ外径位置の高さHtの70%以上である。基準線SLは、ビードコア1aの外径位置を通ってタイヤ幅方向に延びる仮想直線である。この基準線SLからリムストリップゴム8の上端8Eまでのタイヤ径方向距離が高さHrとなり、同じくタイヤ外径位置までのタイヤ径方向距離が高さHtとなる。上端は、その部材におけるタイヤ径方向の外側端を指す。
【0029】
そして、この空気入りタイヤTでは、タイヤ最大幅位置14におけるリムストリップゴム8の厚みTwが、タイヤ最大幅位置14よりもタイヤ径方向外側におけるリムストリップゴム8の最大厚みTmよりも小さく形成されている。リムストリップゴム8の厚みは、カーカス層4に対して垂直な方向に沿って測定される。
図2に拡大して示すように、タイヤ最大幅位置14では、リムストリップゴム8の外表面が、タイヤ幅方向内側(
図2左側)に向かって窪んだ湾曲面で形成されており、その厚みが局部的に小さくなっている。
【0030】
このタイヤTでは、上記のように高さHrが高さHtの70%以上であり、バットレス領域2Bにリムストリップゴム8が配置されるので、バットレス領域2Bの剛性を高めて操縦安定性能を向上できる。しかも、バットレス領域2Bでのリムストリップゴム8の最大厚みTmに比べて、タイヤ最大幅位置14ではリムストリップゴム8の厚みTwが相対的に小さいため、リムストリップゴム8の高さを大きくしながらもサイドウォール部2が撓みやすい。その結果、バットレス領域2Bでの局部的な撓みが抑えられ、タイヤ全体で撓むようになり、優れた乗心地性能が発揮される。
【0031】
また、タイヤ最大幅位置14においてリムストリップゴム8の厚みが相対的に小さいことにより、そのタイヤ最大幅位置14の周辺部分が撓みやすくなり、バットレス領域2Bに集中しがちな歪みが分散されるため、操縦安定性能を良好に向上できる。更には、エネルギーロスの原因となるバットレス領域2Bでの歪みを軽減することになるので、リムストリップゴム8の高さを大きくしながらも転がり抵抗を維持できる。このような歪みの分散効果を奏するには、バットレス領域2Bとタイヤ最大幅位置14との間でリムストリップゴム8の厚みに差を設けることが肝要となる。
【0032】
バットレス領域2Bの剛性を高める観点から、ビードベースラインBLを基準にしたリムストリップゴム8の高さHr’はタイヤ断面高さHt’の75%以上であることが好ましい。本実施形態では、リムストリップゴム8の上端8Eがトレッドゴム5に到達していないが、これに限られない。上端8Eは、ビードフィラー1bや後述するサイド補強層6の上端よりもタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層4の巻き上げ端4Eよりもタイヤ径方向内側に配置されている。リムストリップゴム8の高さは、タイヤ周方向に沿って実質的に一定である。
【0033】
本実施形態では、バットレス領域2Bの外表面に段部15が形成されている。段部15は、加硫成形用金型のセクターとサイドプレートとの嵌合部に対応した位置に設けられる。この段部15の周辺で走行時の歪みが局部的に集中することを防ぐ観点から、段部15の頂点を通ってカーカス層4に垂線に延びる法線とカーカス層4の外表面との交点よりも上端8Eがタイヤ径方向外側に位置し、且つ、その交点から上端8Eが5mm以上離れていることが好ましい。
【0034】
カーカス層4とサイドウォールゴム7との間をタイヤ径方向に延在してバットレス領域2Bに到達するリムストリップゴム8を適切に形成する観点から、厚みTwは0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。バットレス領域2Bとタイヤ最大幅位置14との間でリムストリップゴム8の厚みに差を設ける観点から、リムストリップゴム8の厚みTwと最大厚みTmとの差(Tm−Tw)は、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態では、サイドウォールゴム7とリムストリップゴム8との界面の露出位置13からタイヤ径方向外側に向かってリムストリップゴム8の厚みが漸減している。リムストリップゴム8の厚みは、界面の露出位置13において最大であり、そこからタイヤ最大幅位置14まで漸減して厚みTwとなる。また、リムストリップゴム8の厚みは、タイヤ最大幅位置14からタイヤ径方向外側に向かって漸増して最大厚みTmとなる。リムストリップゴム8は、その上端8Eとタイヤ最大幅位置14において厚みを小さくしているが、それらの間では最大厚みTmを維持しつつカーカス層4に沿って延在している。
【0036】
本実施形態では、ビード部1からサイドウォール部2に亘ってタイヤ径方向に延在するサイド補強層6が埋設されている。サイド補強層6は、互いに平行に引き揃えられた複数のコードをゴムで被覆したサイドプライにより形成されている。本実施形態においてサイドプライを構成するコードはスチールコードであり、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に配列されている。サイド補強層6の下端(タイヤ径方向の内側端)は、ビードコア1aの側方に配置されている。サイド補強層6は、ビードフィラー1bとカーカス層4の巻き上げプライとの間に介在するようにして設けられているが、カーカス層4のタイヤ幅方向外側に貼り合わせるようにして設けられる場合もある。
【0037】
サイド補強層6の上端6Eは、タイヤ最大幅位置14を中心としてタイヤ径方向に30mmの領域内に配置されていることが好ましい。これにより、タイヤ最大幅位置14の周辺部分に歪みを集中させて、バットレス領域2Bに集中しがちな歪みを効果的に分散できるため、転がり抵抗を良好に維持しながら、より優れた操縦安定性能が発揮される。ビードコア1aの外径位置を基準にしたサイド補強層6の高さHsは、例えば高さHtの15〜40%に設定される。
【0038】
上記のようにサイド補強層6の上端6Eをタイヤ最大幅位置14の近傍に配置する場合においては、その上端6Eをタイヤ最大幅位置14からタイヤ径方向に10mm以上離すことが好ましい。上端6Eをタイヤ最大幅位置14から適度に離すことにより、走行時の歪みがピンポイントで局部的に集中することを防いで、操縦安定性能と乗心地性能の改善効果を確保できる。
【0039】
本実施形態では、ビード部1において巻き上げられたカーカス層4の巻き上げ端4Eが、トレッド部3に埋設されたベルト層10に到達している。これは超ハイターンアップ構造とも呼ばれ、巻き上げ端4Eはベルト層10の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置される。これにより、リムストリップゴム8だけでなくカーカス層4によってもバットレス領域2Bの剛性が高められる。また、サイド補強層6やビードフィラー1bの上端の近傍に巻き上げ端4Eが配置されないため、部材端が集中する箇所で歪みが局部的に集中することを防止できる。
【0040】
リムストリップゴム8の高さHrなど上述したタイヤTの各寸法は、タイヤを標準リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の状態で測定したものとする。図示したようなゴム界面は、加硫成形後のタイヤ断面において特定が可能であり、例えば鋭利な刃物でタイヤを切断することによって、その断面に薄く観察されるゴム界面の性状によって判別することができる。
【0041】
標準リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim"、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とする。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE" とする。
【0042】
本発明の空気入りタイヤは、リムストリップゴムを上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、製法などが何れも本発明に採用できる。上記の如きリムストリップゴムの構造は、少なくともタイヤの片側に適用されていればよいが、改善効果を高めるうえではタイヤの両側で適用されることが好ましい。
【0043】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0044】
本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。下記(1)〜(3)の性能評価では、それぞれサイズ295/40R20 106Yのタイヤを20x10.5Jのリムに装着し、空気圧を250kPaとした。
【0045】
(1)転がり抵抗
JIS D 4234(ISO28580)に規定された試験方法に準じて転がり抵抗を測定した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほど転がり抵抗が小さく、良好であることを示す。
【0046】
(2)操縦安定性能
タイヤを車両(3000ccクラスのSUV)に装着して評価路面を走行し、旋回や制動、加速試験を実施してドライバーによる官能評価を行った。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど操縦安定性能に優れることを示す。
【0047】
(3)乗心地性能
タイヤを車両(3000ccクラスのSUV)に装着して乾燥した評価路面を走行し、ドライバーによる官能評価を行った。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど乗心地性能に優れることを示す。
【0048】
比較例1〜4
前述の実施形態においてリムストリップゴムの形態を異ならせ、それぞれ比較例1〜4とした。比較例1では、
図3に示したリムストリップゴム81のように、その上端81Eがタイヤ最大幅位置14に到達しないため、厚みTw及びTmは、いずれもゼロである。比較例2〜4では、
図3に破線で示したリムストリップゴム82のように、界面の露出位置13からタイヤ径方向外側に向かって厚みを漸減させた後、一定の厚みでタイヤ径方向に延びるため、厚みTwは厚みTmと同じ大きさである。また、比較例4では、サイド補強層の上端がタイヤ最大幅位置に合致する。その他のタイヤの構成については、実施例1と共通である。
【0049】
実施例1
前述の実施形態においてリムストリップゴムの高さを異ならせ、実施例1とした。実施例1では、リムストリップゴムの厚みTwが厚みTmよりも小さく形成され、サイド補強層の上端がタイヤ最大幅位置からタイヤ径方向内側に11mmだけ離れて配置されている。その他のタイヤの構成については、各例において共通である。尚、表1において、厚みTb,Tsは、それぞれビードフィラーの上端位置、サイド補強層の上端位置におけるリムストリップゴムの厚みである。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、実施例1では、転がり抵抗を維持しながら、比較例1〜4よりも優れた操縦安定性能と乗心地性能を発揮できている。
【符号の説明】
【0052】
1 ビード部
1a ビードコア
1b ビードフィラー
2 サイドウォール部
2B バットレス領域
3 トレッド部
4 カーカス層
4E カーカス層の巻き上げ端
5 トレッドゴム
6 サイド補強層
6E サイド補強層の上端
7 サイドウォールゴム
8 リムストリップゴム
8E リムストリップゴムの上端
10 ベルト層
13 界面の露出位置
14 タイヤ最大幅位置