(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-103968(P2018-103968A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/04 20060101AFI20180608BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20180608BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20180608BHJP
【FI】
B60C15/04 C
B60C15/06 B
D07B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-256064(P2016-256064)
(22)【出願日】2016年12月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 由彦
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA22
3B153AA43
3B153CC52
3B153FF16
3B153GG05
(57)【要約】
【課題】フィラーレス構造の空気入りタイヤにおいて操縦安定性能の低下とエア入りの発生を抑制する。
【解決手段】環状のビードコア6が埋設された一対のビード部1と、その一対のビード部1の間に設けられたカーカスとを備え、ビードコア6の周りでビードフィラーを配設することなくカーカスが折り返されたフィラーレス構造の空気入りタイヤにおいて、ビードコア6が、本体部61と、その本体部61のタイヤ径方向外側に位置する外周部62とで構成されており、本体部61が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ一定の列数でタイヤ径方向へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ71により形成されており、外周部62が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ72により形成されており、外周部62の最内層の列数が本体部61の列数よりも少ない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のビードコアが埋設された一対のビード部と、その一対のビード部の間に設けられたカーカスとを備え、前記ビードコアの周りでビードフィラーを配設することなく前記カーカスが折り返されたフィラーレス構造の空気入りタイヤにおいて、
前記ビードコアが、本体部と、前記本体部のタイヤ径方向外側に位置する外周部とで構成されており、
前記本体部が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ一定の列数でタイヤ径方向へ複数層に積み重ねられたビードワイヤにより形成されており、
前記外周部が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤにより形成されており、前記外周部の最内層の列数が前記本体部の列数よりも少ないことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記本体部の列数と前記外周部の最内層の列数との差が2以上である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記外周部の最外層の列数が1である請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記外周部を形成するビードワイヤが正三角形状に積み重ねられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外周部の幅中央位置が前記本体部の幅中央位置よりもタイヤ幅方向外側に配されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記外周部が、前記本体部よりもタイヤ幅方向に張り出さない位置に配されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記本体部の列数が5以上であり且つ層数が4以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部にビードフィラーが配設されていないフィラーレス構造の空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤのビード部では、ビードワイヤにより形成されたビードコアと、硬質ゴムにより形成されたビードフィラーが埋設され、それらの周りでカーカスが折り返されている。一方、ビードコアの周りでビードフィラーを配設することなくカーカスが折り返されたフィラーレス構造の空気入りタイヤも知られており、例えば特許文献1〜3に開示されている。かかる構造のタイヤによれば、ビードフィラーを用いないためにタイヤの質量と縦剛性が低下し、それに伴う接地面積の増加とショルダー接地圧の向上により、転がり抵抗の低減や制動性能の向上といった改善効果が得られる。
【0003】
しかし、その反面、ビード部の剛性が弱くなり、特に旋回時にビード部が容易に捩れて変形しやすくなるので、操縦安定性能が低下するという問題があった。また、ビードフィラーが省略されているために、タイヤ成形時には、ビードコアとその周りで折り返されたカーカスとの間に隙間が形成されやすく、それに起因してエア入りと呼ばれる工程不良を生じることがあった。したがって、フィラーレス構造による改善効果を維持しながら、操縦安定性能の低下やエア入りの発生を抑制しうる手法が望まれるものの、それに適した具体的な構造は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−162204号公報
【特許文献2】特開2013−39851号公報
【特許文献3】特開2013−63679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィラーレス構造の空気入りタイヤにおいて操縦安定性能の低下とエア入りの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る空気入りタイヤは、環状のビードコアが埋設された一対のビード部と、その一対のビード部の間に設けられたカーカスとを備え、前記ビードコアの周りでビードフィラーを配設することなく前記カーカスが折り返されたフィラーレス構造の空気入りタイヤにおいて、前記ビードコアが、本体部と、前記本体部のタイヤ径方向外側に位置する外周部とで構成されており、前記本体部が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ一定の列数でタイヤ径方向へ複数層に積み重ねられたビードワイヤにより形成されており、前記外周部が、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤにより形成されており、前記外周部の最内層の列数が前記本体部の列数よりも少ないものである。
【0007】
このタイヤでは、ビードコアの本体部のタイヤ径方向外側に、ビードワイヤを積み重ねて形成された外周部が配設されているので、ビード部の剛性を高めて操縦安定性能の低下を抑制できる。外周部は、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤで形成されており、全体として先細りの形状となる。それ故、ビードコアとカーカスとの間の隙間を減らして、エア入りの発生を抑制できる。また、外周部の最内層の列数が本体部の列数よりも少ないため、外周部のサイズが適度に小さくなり、フィラーレス構造による改善効果を維持するのに都合が良い。
【0008】
前記本体部の列数と前記外周部の最内層の列数との差が2以上であることが好ましい。かかる構成によれば、外周部のサイズがより確実に小さくなるので、転がり抵抗の低減や制動性能の向上といったフィラーレス構造による改善効果を維持するうえで更に都合が良い。
【0009】
前記外周部の最外層の列数が1であることが好ましい。かかる構成によれば、外周部の最外層が細く形成されることから、ビードコアとカーカスとの間の隙間を適切に減らして、エア入りの発生を良好に抑制することができる。
【0010】
(請求項4)ものが好ましい。かかる構成によれば、ビードコアとカーカスとの隙間を適切に減らして、エア入りの発生を良好に抑制することができる。
【0011】
前記外周部の幅中央位置が前記本体部の幅中央位置よりもタイヤ幅方向外側に配されていることが好ましい。この場合、外周部がタイヤ幅方向外側に寄せられるため、ビード部のタイヤ幅方向外側の部分の剛性が高められる。車両の旋回時には、ビード部の中でもタイヤ幅方向外側の部分が特に大きく捩れて変形することから、かかる構成によれば操縦安定性能の低下を効果的に抑えることができる。
【0012】
前記外周部が、前記本体部よりもタイヤ幅方向に張り出さない位置に配されているものが好ましい。これにより、ビードコアとカーカスとの間で不要な隙間が形成されないようにして、エア入りの発生を良好に抑制できる。
【0013】
前記本体部の列数が5以上であり且つ層数が4以上であるものが好ましい。このような本体部を有するビードコアは、フィラーレス構造による改善効果が大きく見込めるサイズのタイヤに備えられるビードコアとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を模式的に示すタイヤ子午線半断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示した空気入りタイヤTは、環状のビードコア6が埋設された一対のビード部1と、その一対のビード部1の間に設けられたカーカス4とを備える。更に、このタイヤTは、ビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、トレッド部3に埋設されたベルト5とを備える。
【0017】
カーカス4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列した複数のコードをゴム被覆してなるプライ(カーカスプライ)により形成されている。コードの材料には、スチールなどの金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好ましく用いられる。本実施形態では、カーカス4が1枚のプライによって構成されているため、複数枚のプライを積層して配設した場合に比べて軽量である。このことは、転がり抵抗の低減を企図するフィラーレス構造の実効性を高めるうえで都合が良い。
【0018】
カーカス4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、その端部がビードコア6の周りでタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。別の言い方をすると、カーカス4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体プライに、ビードコア6のタイヤ幅方向外側に配された折り返しプライを一連に設けてある。リムベースラインを基準としたカーカス4の折り返し端部の高さH4は、タイヤ断面高さTHの0.4〜0.5倍であることが好ましい。これにより、タイヤ成形時においてカーカス4に作用する張力の分布が安定し、不良率の低減に繋がる。
【0019】
ベルト5は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードをゴム被覆してなるプライ(ベルトプライ)により形成されている。ベルト5は、複数枚(本実施形態では2枚)のプライにより構成され、そのプライ間でコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルト5の外周には、実質的にタイヤ周方向に延びるコードをゴム被覆してなるベルト補強材を設けてもよい。ベルト5の両端部を覆うようにしてベルト補強材を配することにより、高速走行時の遠心力によるベルト5の浮き上がりを抑えて高速耐久性を向上できる。
【0020】
タイヤTは、ビードコア6の周りでビードフィラーを配設することなくカーカス4が折り返されたフィラーレス構造の空気入りタイヤである。一般的な空気入りタイヤでは、硬質ゴムからなるビードフィラーがビード部1に埋設されているが、この空気入りタイヤTでは、そのようなビードフィラーが省略されており、本体プライと折り返しプライとの間にはビードコア6のみが配設されている。かかるフィラーレス構造によれば、タイヤの質量と縦剛性が低下し、それに伴う接地面積の増加とショルダー接地圧の向上により、転がり抵抗の低減や制動性能の向上といった改善効果が得られる。
【0021】
図2は、
図1に示したビードコア6の拡大図である。
図2において、右側はタイヤ幅方向外側であり、左側はタイヤ幅方向内側である。ビードコア6は、ビードワイヤ7をタイヤ幅方向へ複数列に且つタイヤ径方向へ複数層に積み重ねることにより形成されている。ビードワイヤ7は、複数本のフィラメントを撚り合わせたマルチフィラメントコードでもよく、或いは、1本のフィラメントで構成されたモノフィラメントコードでもよい。ビードワイヤ7の材料は特に限定されないが、好ましくはスチールワイヤが採用される。
【0022】
ビードコア6は、本体部61と、その本体部61のタイヤ径方向外側に位置する外周部62とで構成されている。本体部61の断面形状は、それを囲む破線BL1のように矩形状をなし、外周部62の断面形状は、それを囲む破線BL2のように三角形状をなす。したがって、ビードコア6は、全体として矩形に三角形を載せたような断面形状を有する。説明の便宜上、本体部61及び外周部62を形成するビードワイヤ7について、それぞれビードワイヤ71,72という異なる符号を用いるが、これらは同一のビードワイヤであっても構わない。
【0023】
本体部61は、タイヤ幅方向へ複数列に且つ一定の列数でタイヤ径方向へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ71により形成されている。本実施形態では、ビードワイヤ71が、タイヤ幅方向へ5列に且つ一定の列数で(即ち、5列一定で)タイヤ径方向へ4層に積み重ねられている。即ち、本体部61は、5列4層構造を有する。本体部61は、シングルストランドタイプとグロメットタイプの何れでも構わない。前者は、ゴム被覆された1本のビードワイヤが渦巻状に巻回されたものである。後者は、平行に並べた複数本のビードワイヤをゴム被覆してなる集束体が渦巻状に巻回されたものである。
【0024】
外周部62は、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ72により形成されている。本実施形態では、ビードワイヤ72が、タイヤ幅方向へ2列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ2層に積み重ねられている。即ち、外周部62は、2列2層構造を有する。外周部62は、シングルストランドタイプとグロメットタイプの何れでも構わないが、好ましくは前者である。その場合、ビードワイヤ72は、本体部61を形成するビードワイヤ71から連続していてもよく、不連続でも構わない。
【0025】
外周部62の列数は2以上であり且つ層数は2以上であるため、ビード部1の断面には少なくとも3本のビードワイヤ72が現れる。
図2のように、外周部62の最内層の列数は本体部61の列数よりも少ない。本実施形態では、本体部61の列数が5であるため、外周部62の最内層の列数は2〜4の範囲内となり、この例における外周部62の最内層の列数は2である。なお、外周部62の最内層は、外周部62におけるタイヤ径方向の最内側の層を指し、後述する外周部62の最外層は、外周部62においてタイヤ径方向の最外側の層を指す。
【0026】
このビードコア6では、本体部61のタイヤ径方向外側に上記の如き外周部62が配設されているので、ビード部1の剛性を高めて操縦安定性能の低下を抑制できる。外周部62は、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ72で形成され、全体として先細りの形状となるので、ビードコア6とカーカス4との間の隙間を減らして、エア入りの発生を抑制できる。また、外周部62の最内層の列数が本体部61の列数よりも少ないため、外周部62のサイズが適度に小さくなり、フィラーレス構造による改善効果を維持するのに都合が良い。
【0027】
フィラーレス構造の採用に伴うビード部1の剛性低下を補うため、カーカスの外側に有機繊維などのコードを含んだ補強層を設ける手法が公知であり、例えば上掲した特許文献2に開示されている。しかし、本実施形態では、タイヤの縦剛性を低下させるというフィラーレス構造の本来の目的に鑑みて、そのような補強層を設けておらず、カーカス4の折り返した部分(折り返しプライ)には、ビード部1の外表面を構成するゴム部材が直に貼り合わせられている。
【0028】
本体部61の列数が5以上であり且つ層数が4以上であることが好ましい。このような本体部61を有するビードコア6は、フィラーレス構造による改善効果が大きく見込めるサイズのタイヤに備えられるビードコアとして有用である。フィラーレス構造による改善効果が大きく見込めるサイズのタイヤとは、例えばリム径が16インチ以上のタイヤである。タイヤTのリム径は、タイヤサイズとしてサイドウォール部2の表面に表示されている。
【0029】
外周部62は、タイヤ幅方向へ複数列に且つ列数を1つずつ減らしながらタイヤ径方向外側へ複数層に積み重ねられたビードワイヤ72により形成されている。これにより、ビードコア6の剛性がタイヤ径方向に沿って漸減し、急激な剛性変化が避けられる。また、外周部62の最外層の列数は1であり、これによれば外周部62の最外層が細く形成されることから、ビードコア6とカーカス4との間の隙間を適切に減らして、エア入りの発生を良好に抑制できる。タイヤの縦剛性を低下させるというフィラーレス構造の本来の目的に鑑み、外周部62の層数は、本体部61の層数と同じかそれ以下が好ましい。
【0030】
本実施形態では、外周部62を囲む破線BL2が正三角形をなしており、外周部62を形成するビードワイヤ72が正三角形状に積み重ねられている。かかる構成によれば、ビードコア6とカーカス4との間で不要な隙間が形成されないようにして、エア入りの発生を良好に抑制できる。この場合、外周部62の断面においてビードワイヤ72は千鳥状に配される。一方、外周部62を形成するビードワイヤ72が直角三角形状に積み重ねられた構造も考えられるが(
図5参照)、エア入りを抑制する観点では、このように正三角形状に積み重ねられた構造の方が好ましい。
【0031】
図3〜5には、それぞれビードコア6の変形例を示している。これらは、以下で説明することを除けば、前述した実施形態と同様の構成であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。前述した実施形態で説明した部位と同一の部位には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図3(a)は、外周部62が3列3層構造を有する例を示し、
図3(b)は、外周部62が4列4層構造を有する例を示す。本体部61の列数と外周部62の最内層の列数との差は、
図2では3であり、
図3(a)では2である。これらのように、本体部61の列数と外周部62の最内層の列数との差が2以上であることが好ましい。かかる構成によれば、外周部62のサイズがより確実に小さくなるので、転がり抵抗の低減や制動性能の向上といったフィラーレス構造による改善効果を維持するうえで都合が良い。
【0033】
図4は、外周部62の幅中央位置62cが本体部61の幅中央位置61cよりもタイヤ幅方向外側に配されている例を示す。幅中央位置61c,62cは、それぞれ本体部61及び外周部62におけるタイヤ幅方向での中央位置を指す。本実施形態では、幅中央位置62cが、幅中央位置61cからビードコア幅の20%タイヤ幅方向外側に配されている。この場合、外周部62がタイヤ幅方向外側に寄せられるため、
図2の実施形態と比べて、ビード部1のタイヤ幅方向外側の部分の剛性が高められる。車両の旋回時には、ビード部1の中でもタイヤ幅方向外側の部分が特に大きく捩れて変形することから、かかる構成によれば操縦安定性能の低下を効果的に抑えることができる。
【0034】
図5は、外周部62を形成するビードワイヤ72が直角三角形状に積み重ねられた例を示す。外周部62を囲む破線BL2は直角三角形をなしている。また、この例では、
図4の実施形態と同様に、外周部62の幅中央位置62cが本体部61の幅中央位置61cよりもタイヤ幅方向外側に配されている。この構成では、外周部62がタイヤ幅方向外側へ目一杯に寄せられているため、操縦安定性能の低下がより効果的に抑えられる。
【0035】
ビードコア6とカーカス4との間でのエア入りの発生を抑制する観点から、外周部62は、本体部61よりもタイヤ幅方向に張り出さない位置に配されていることが好ましい。したがって、
図4,5のように外周部62をタイヤ幅方向外側へ寄せて配設する場合においては、その外周部62を本体部61からタイヤ幅方向外側に張り出させないことが望ましい。
【0036】
本発明の空気入りタイヤは、ビードコアを上記の如く構成すること以外は、従来公知のフィラーレス構造の空気入りタイヤと同等に構成することができ、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用できる。
【実施例】
【0037】
本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。
【0038】
(1)転がり抵抗
JIS D 4234(ISO28580)に規定された試験方法に準じて転がり抵抗を測定し、その測定値を算出した。評価に供したタイヤは標準リムに装着し、その空気圧は250kPaとした。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほど転がり抵抗が小さく、良好であることを示す。
【0039】
(2)制動性能
時速100kmで走行中の車両がABSの作動によりフルブレーキングしてから停止するまでの制動距離を測定し、その測定値の逆数を算出した。評価に供したタイヤは標準リムに装着し、車両指定の空気圧を充填した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど制動性能に優れていることを示す。
【0040】
(3)操縦安定性能
フラットベルト式コーナリング試験機を用いてタイヤをベルト上で走行させ、横滑り角を±1度変化させたときのコーナリングフォースの差を求め、それを角度差(2度)で除して得られる値を操縦安定性能の指標とした。評価に供したタイヤは標準リムに装着し、その空気圧は250kPaとした。走行条件は、速度10km/h、荷重4.83kNとした。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど操縦安定性能に優れていることを示す。
【0041】
(4)エア入り不良率
生産本数に対する、ビードコアとカーカスとの間でのエア入り不良が発生した本数の比を求めて、その逆数を算出した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほどエア入り不良の発生が少なく、良好であることを示す。
【0042】
比較例及び実施例
サイズ205/60R16 92Vのタイヤにおけるビードコアの形態を異ならせて、それぞれ比較例1〜3及び実施例1,2とした。比較例1は、
図6に破線で示したようなビードフィラーを有する一般的な構造を有する。これに対し、比較例2,3及び実施例1,2は、いずれもビードフィラーを備えないフィラーレス構造を有する。その他のタイヤの構成については、各例において共通である。評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1の通り、転がり抵抗と制動性能に関して、実施例1,2は、フィラーレス構造を有しない比較例1よりも優れており、フィラーレス構造を有する比較例2,3と比べても遜色ない。それでいて、操縦安定性能とエア入りに関して、実施例1,2では、比較例2,3と比べて同等以上に良好な結果が得られている。
【符号の説明】
【0045】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 ビードコア
7 ビードワイヤ
61 本体部
62 外周部
71 ビードワイヤ
72 ビードワイヤ
T 空気入りタイヤ