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特開2018-104761コンビナトリアルスパッタ方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-104761(P2018-104761A)
(43)【公開日】2018年7月5日
(54)【発明の名称】コンビナトリアルスパッタ方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180608BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20180608BHJP
【FI】
   C23C14/34 F
   C23C14/54 G
   C23C14/34 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-251841(P2016-251841)
(22)【出願日】2016年12月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構イノベーションハブ構築支援事業、情報統合型物質・材料開発イニシアティブ、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 道子
(72)【発明者】
【氏名】徐 一斌
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA05
4K029DC18
4K029DC39
4K029HA01
4K029JA02
(57)【要約】
【課題】スパッタ動作中に部材を移動する等の動的な制御を行なわずに、しかも従来よりも狭い基板表面領域を使ってコンビナトリアルスパッタを行うこと。
【解決手段】スパッタガンからのスパッタビームをピンホール等で細く絞ると、スパッタビームの直進方向へのビーム本体に加えて、その周辺に、ビーム本体の中心から離れる程弱くなるビーム(散乱ビーム)が無視できない強度で現れる。このビーム本体及び散乱ビームにより、制御された不均一なスパッタ量分布を基板表面に形成できる。これを使って基板上の狭い領域内で広い組成変化範囲のコンビナトリアルスパッタを実現する。複数枚の基板を交換しながらコンビナトリアルスパッタを行う装置に本発明を組み合わせることで、非常に多様なコンビナトリアルスパッタが可能となる。

【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタガンから射出されたスパッタビームを、開口部を有するスパッタビームマスクを介してスパッタ対象の基板に照射することにより、前記開口部により規制された前記スパッタビームによる前記基板上への照射の強度が位置によって異なる不均一強度分布を形成させ、
前記不均一強度分布によりコンビナトリアルスパッタを行う
コンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項2】
前記スパッタ対象の基板への前記照射が継続している間は前記不均一強度分布が変化しない、請求項1に記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項3】
前記スパッタ対象の基板への前記照射が継続している間は前記開口部の位置及び形状を一定に維持する、請求項2に記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項4】
前記開口部の前記スパッタビームの照射方向と平行な方向の長さを変化させることにより、前記不均一強度分布を変化させる、請求項1から3の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項5】
前記開口部は
板状体に設けられた開口と、
前記開口に接続され、前記開口を前記スパッタビームの照射方向に平行な方向に延長する中空のビームガイドと
を有する、請求項1から4に記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項6】
前記ビームガイドはパイプ状の形状を有する、請求項5に記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項7】
複数の前記スパッタガン及び前記複数のスパッタガンのそれぞれに対応した前記スパッタビームマスクを設け、
前記複数のスパッタガンの少なくとも2つから同時に前記スパッタビームの照射を行う、
請求項1から6の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項8】
前記複数のスパッタビームマスクを介して前記スパッタ対象の基板へ向かって照射される前記スパッタビームは、夫々前記スパッタ対象の基板上の互いに異なる位置を照射する、請求項1から7の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項9】
同時に単一の前記スパッタガンを使用する、請求項1から8の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項10】
一つの前記スパッタガンに表面上の位置によって異なる組成を有するターゲットを装着し、
前記スパッタビームマスクは前記一つのスパッタガンからの一つのスパッタビームを受け取って、前記受け取った一つのスパッタビームを異なる位置において絞ることにより複数の絞られたスパッタビームを射出し、
前記射出された前記一つのスパッタビームからの前記絞られた複数のスパッタビームを前記スパッタ対象の基板へ照射する、
請求項1から9の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項11】
スパッタ装置内部に複数の基板を装着し、
前記複数の基板から選択した基板に対してコンビナトリアルスパッタを行う、
請求項1から10の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項12】
前記選択された基板をコンビナトリアルスパッタを行う位置へ移動するステップを設けた、請求項11に記載のコンビナトリアルスパッタ方法。
【請求項13】
スパッタ対象の基板を取り付ける基板装着部と、
前記基板装着部に前記スパッタ対象の基板を取り付けた場合に前記基板の表面が位置する基板表面位置へスパッタビームを照射する少なくとも一つのスパッタガンと、
前記スパッタガンと前記基板表面位置との間に設けられ、前記スパッタガンから射出されたスパッタビームを、開口部を有するスパッタビームマスクを介して絞られたスパッタビームとして前記基板表面位置に照射することにより、前記開口部により規制された前記絞られたスパッタビームによる前記基板上への照射の強度が位置によって異なる不均一強度分布を形成させ、前記不均一強度分布によりコンビナトリアルスパッタを行う
コンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項14】
前記基板表面位置への前記照射が継続している間は前記不均一強度分布を変化させない、請求項13に記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項15】
前記開口部は板状体に設けられた開口及び前記開口に接続された中空のビームガイドとを有する、請求項14に記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項16】
前記スパッタビームマスクは、前記スパッタガンからの前記スパッタビームを受けるとともに、前記スパッタビームの照射方向に対して回転できる回転部材を有し、
前記回転部材の回転の軸からオフセットした位置に前記開口部を設けた、
請求項13から15の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項17】
複数の前記スパッタガン及び前記複数のスパッタガンのそれぞれに対応した前記スパッタビームマスクを設けた、請求項13から16の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項18】
前記複数のスパッタビームマスクを介して前記基板表面位置へ向かって照射される前記絞られたスパッタビームは、夫々前記基板表面位置上の互いに異なる部分を照射する、請求項17に記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項19】
単一のスパッタガンを設けた、請求項13から16の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項20】
前記スパッタビームマスクは、前記スパッタガンからの一つのスパッタビームを受け取って、前記受け取った一つのスパッタビームを前記スパッタビームの射出方向に垂直な断面上の異なる位置において絞ることにより複数の絞られたスパッタビームを射出する複数の開口部を有し、
前記射出された前記複数の絞られた前記一つのスパッタビームが前記基板表面位置上への照射を行う、
請求項13から19の何れかにコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項21】
前記基板装着部は複数の基板を装着可能に構成され、
前記基板表面位置は、前記複数の基板から選択された基板を移動できる位置のうちの前記絞られたスパッタビームを照射してスパッタを行うことができる位置である、
請求項13から20の何れかに記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【請求項22】
前記基板装着部は複数の基板を装着できる回転体であり、
前記回転体は回転することにより、装着された任意の基板の表面を前記基板表面位置へ移動させる
請求項21に記載のコンビナトリアルスパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタ方法及びスパッタ装置に関し、特にコンビナトリアルスパッタを簡単に実現するためのコンビナトリアルスパッタスパッタ方法、及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上への薄膜コーティングは、基板材料が本来有する優れた機能を増強したり、新たな機能を付加したり、さらには基板材料の長寿命化を図るなど、有力な材料開発手法の一つであり、工業的応用、生体応用、航空宇宙応用など幅広い分野で注目されつつある。このような薄膜コーティングにおいて、薄膜組成の探査については、既に、コンビナトリアル手法による成膜装置や、3元系相図に対応した薄膜を作製できるマスキング機構等が提案され(例えば、特許文献1参照)、所望のあるいは新規な特性を有する薄膜組成を効率的に見出すことができるようになってきている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示されるような、開口サイズを変化させ、(あるいは開口サイズの異なるマスクを順次切り替え、)その間にマスクと基板との位置関係を相対的に移動させながらスパッタリングを行うことで、スパッタ処理の際に基板上の各点の正面とスパッタガンとの間に障害物が存在しない時間を各点毎に変化させて濃度勾配を実現するコンビナトリアルスパッタでは、多くの場合、比較的大きな基板上(例えば3cm角以上)に成膜を行う必要がある。その理由は、スパッタガンの構造上、中心のマグネット及びその周囲に円環状に配置されたマグネットが必要となることから、スパッタガンが有するターゲットが2インチ程度以上のものが主流(現在入手可能な最小のものでもターゲットサイズは1インチ)であり、混合分布も大きな領域を必要としたからである。しかし、このような大きな基板上にスパッタリングを行った場合には、通常使用される膜の評価装置では評価領域サイズが1cm角以下のものがほとんどであることから、作製された膜上の各点毎に組成等の異なる材料のマッピング評価を行おうとしても、様々な評価装置が利用できないといった問題点があった。また、これらの手法は、材料の組成を変化させることが主であり、その他の結晶構造・結晶配向性を変化させたサンプルを効率よく作製することは困難であった。
【0004】
更には、成膜条件の探査については、多数の成膜条件パラメータを少しずつ変化させた幾通りもの成膜条件による実験と評価が必要とされ、最良の条件を決定するためには膨大な手間と時間、さらには困難さを伴っていた。すなわち、スパッタによる薄膜の作成に当たっては、スパッタ材料の組成やその組み合わせに加え、例えば、スパッタガス圧力、ガス種、分圧、スパッタ電力値、基板温度、基板−ターゲット間距離、サンプルバイアス等といった多くの成膜条件パラメータにより、得られるコーティング膜の特性が大きく左右されてしまう。そのため、最良条件の決定には各成膜条件パラメータを変化させた実験が必要とされるのであるが、実際には、1種類もしくは2 種類の成膜条件パラメータのみを変化させて実験について評価した場合がほとんどであり、得られるコーティング膜の諸特性について、成膜条件を最適化したとは言いがたいものであった。
【0005】
この問題を解決するため、本願発明者は以前、スパッタされる基板を複数準備し、これらを交換しながら多様な条件でコンビナトリアルスパッタを行う方法及び装置を提案した(特許文献2を参照)。この方法及び装置によれば、一連の自動的なコンビナトリアルスパッタ過程で、例えば、スバッタガス圧力、ガス種、分圧、スバッタ電力値、基板温度、基板−ターゲット間距離、サンプルバイアス等といった、特許文献1の手法では変化させることが不可能ではないとしてもそれほど簡単ではないスパッタ条件パラメータを基板間で高い自由度で変化させることができるという利点が得られた。
【0006】
しかしながら、スパッタ装置の真空チャンバーの容積には限度があることから、自動的に交換しながらコンビナトリアルスパッタを行うことのできる基板枚数を無制限に増やすことはできない(例えば、特許文献2に示す実施例では、試料ホルダに最大14枚装着可能)。そのため、スパッタ条件を広い範囲で、あるいは細かなステップで変化させるコンビナトリアルスパッタを行おうとすると、試料ホルダに装着した基板を途中で1回〜数回導入チャンバーからゲートバルブの開閉を伴って交換したり、あるいは、本体チャンバーをリークして、サンプル交換することが必要となる場合があり、単に人手の介在を要するだけではなく、サンプル交換時のサンプルの汚染や、交換後に真空引きからやり直す必要があるなど、実験の再現性の低下、サンプル作製の効率化等の観点から好ましくなかった。
【0007】
この問題を単純に解決するには、特許文献2に示すようなコンビナトリアルスパッタを行う装置に、特許文献1に示すような1枚の基板へのスパッタ条件を動的に変化させる機構を追加すればよい。しかし、このように特許文献1と特許文献2の両方の構成を有する装置を作製しようとすると、そのための機構がスパッタ装置の真空チャンバ内の大きな空間を占めることになるためにスパッタ装置の本来の機能であるスパッタの動作に支障が出たり、また自動化のための制御が複雑になるという問題を引き起こすので、あまり好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、特許文献1に示されたマスクとは原理・機能の異なるスパッタマスクを使用することで、構造やスパッタの制御を複雑化することなく、コンビナトリアルを実現し、しかも必要に応じて従来よりも小さな基板上でもコンビナトリアルスパッタを行えるようにすることにある。また、この新規なスパッタマスクは構成・動作が非常に単純であるため、特許文献2に示すコンビナトリアルスパッタ方法及び装置に単に追加するだけで、特許文献2の構成の作用・効果に悪影響を与えることなく、更に多様なスパッタ条件の変化を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、スパッタガンから射出されたスパッタビームを、開口部を有するスパッタビームマスクを介してスパッタ対象の基板に照射することにより、前記開口部により規制された前記スパッタビームによる前記基板上への照射の強度が位置によって異なる不均一強度分布を形成させ、前記不均一強度分布によりコンビナトリアルスパッタを行うコンビナトリアルスパッタ方法が提供される。
ここで、前記スパッタ対象の基板への前記照射が継続している間は前記不均一強度分布が変化しなくてよい。
また、前記スパッタ対象の基板への前記照射が継続している間は前記開口部の位置及び形状を一定に維持してよい。
また、前記開口部の前記スパッタビームの照射方向と平行な方向の長さを変化させることにより、前記不均一強度分布を変化させてよい。
また、前記開口部は板状体に設けられた開口と、前記開口に接続され、前記開口を前記スパッタビームの照射方向に平行な方向に延長する中空のビームガイドとを有してよい。
また、前記ビームガイドはパイプ状の形状を有してよい。
また、複数の前記スパッタガン及び前記複数のスパッタガンのそれぞれに対応した前記スパッタビームマスクを設け、前記複数のスパッタガンの少なくとも2つから同時に前記スパッタビームの照射を行ってよい。
また、前記複数のスパッタビームマスクを介して前記スパッタ対象の基板へ向かって照射される前記スパッタビームは、夫々前記スパッタ対象の基板上の互いに異なる位置を照射してよい。
また、同時に単一の前記スパッタガンを使用してよい。
また、一つの前記スパッタガンに表面上の位置によって異なる組成を有するターゲットを装着し、前記スパッタビームマスクは前記一つのスパッタガンからの一つのスパッタビームを受け取って、前記受け取った一つのスパッタビームを異なる位置において絞ることにより複数の絞られたスパッタビームを射出し、前記射出された前記一つのスパッタビームからの前記絞られた複数のスパッタビームを前記スパッタ対象の基板へ照射してよい。
また、スパッタ装置内部に複数の基板を装着し、前記複数の基板から選択した基板に対してコンビナトリアルスパッタを行ってよい。
また、前記選択された基板をコンビナトリアルスパッタを行う位置へ移動するステップを設けてよい。
本発明の他の側面によれば、スパッタ対象の基板を取り付ける基板装着部と、前記基板装着部に前記スパッタ対象の基板を取り付けた場合に前記基板の表面が位置する基板表面位置へスパッタビームを照射する少なくとも一つのスパッタガンと、前記スパッタガンと前記基板表面位置との間に設けられ、前記スパッタガンから射出されたスパッタビームを、開口部を有するスパッタビームマスクを介して絞られたスパッタビームとして前記基板表面位置に照射することにより、前記開口部により規制された前記絞られたスパッタビームによる前記基板上への照射の強度が位置によって異なる不均一強度分布を形成させ、前記不均一強度分布によりコンビナトリアルスパッタを行うコンビナトリアルスパッタ装置が提供される。
ここで、前記基板表面位置への前記照射が継続している間は前記不均一強度分布を変化させないようにしてよい。
また、前記開口部は板状体に設けられた開口及び前記開口に接続された中空のビームガイドとを有してよい。
また、前記スパッタビームマスクは、前記スパッタガンからの前記スパッタビームを受けるとともに、前記スパッタビームの照射方向に対して回転できる回転部材を有し、前記回転部材の回転の軸からオフセットした位置に前記開口部を設けてよい。
また、複数の前記スパッタガン及び前記複数のスパッタガンのそれぞれに対応した前記スパッタビームマスクを設けてよい。
また、前記複数のスパッタビームマスクを介して前記基板表面位置へ向かって照射される前記絞られたスパッタビームは、夫々前記基板表面位置上の互いに異なる部分を照射してよい。
また、上記コンビナトリアルスパッタ装置は単一のスパッタガンを設けてよい。
また、前記スパッタビームマスクは、前記スパッタガンからの一つのスパッタビームを受け取って、前記受け取った一つのスパッタビームを前記スパッタビームの射出方向に垂直な断面上の異なる位置において絞ることにより複数の絞られたスパッタビームを射出する複数の開口部を有し、前記射出された前記複数の絞られた前記一つのスパッタビームが前記基板表面位置上への照射をおこなってよい。
また、前記基板装着部は複数の基板を装着可能に構成され、前記基板表面位置は、前記複数の基板から選択された基板を移動できる位置のうちの前記絞られたスパッタビームを照射してスパッタを行うことができる位置であってよい。
また、前記基板装着部は複数の基板を装着できる回転体であり、前記回転体は回転することにより、装着された任意の基板の表面を前記基板表面位置へ移動させてよい。
【発明の効果】
【0010】
以下で詳細に説明するように、スパッタ中に動的に構造を変化させる必要のない、単純な構造のスパッタマスクを使用するだけでコンビナトリアルスパッタを実現できるだけではなく、従来よりも狭い領域中においてスパッタ条件を広い範囲で変化させた測定用の試料を作成することができる。また、特許文献2のような基板を自動的に交換しながら基板毎に条件を変化させることで基板単位でスパッタ条件を変化させるコンビナトリアルスパッタと本発明に係る新たな原理に基づくコンビナトリアルスパッタとを組み合わせることで、特許文献2に示されるコンビナトリアルスパッタで実現できるスパッタ条件変化の多様性を、他の面での悪影響を引き起こすことなく拡張することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例のスパッタ装置の全体の概念的な構成図。
図2図1に示すスパッタ装置において、混合ブロックマスクのカバーを取り外して、内部のスパッタビームマスクアセンブリが見えるようにした概念的な構成図。
図3図2に示すスパッタ装置において、スパッタビームマスクアセンブリを中心とした部分を示す概念的な拡大構成図。
図4】実際に作製した図2及び図3に示すスパッタビームマスクを下(スパッタガンに向いた側)から撮影した写真。
図5図4に示されるスパッタビームマスクアセンブリを上(スパッタ対象の基板側)から撮影した写真。
図6図4及び図5の写真に示されるスパッタビームマスクアセンブリを下(スパッタガン側)から見た斜視図。
図7図4及び図5の写真に示されるスパッタビームマスクアセンブリを上(スパッタ対象の基板側)から見た斜視図。
図8図4及び図5の写真に示されるスパッタビームマスクアセンブリを上から見た底面図。
図9図6及び図7に示すスパッタビームマスクアセンブリの実施例を下から見た上面図。
図10】スパッタ装置に取り付けた状態にある、図7から図9に示すスパッタビームマスクアセンブリの実施例を、2本のスパッタビームの中心軸を含む平面で切断した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一形態においては、スパッタガンとスパッタ対象の基板との間に、スパッタガンからのスパッタビームを絞るスパッタビームマスクを設ける。ここで使用されるスパッタマスクは、特許文献1で開示されているマスクとは異なり、コンビナトリアルスパッタを行っている過程でその開口度を動的に変化させる必要はない。
【0013】
特許文献1のマスクを使用したコンビナトリアルスパッタを行っている間、スパッタビームがマスクの開口部を通過して、基板上の直接ビームが照射される領域(言い換えれば、スパッタガンからマスクの開口部を通して「直視できる」領域)に対してスパッタを行っていた(このように直接的に基板に照射されるスパッタビームを、以下では「ビーム本体」とも呼ぶ)。これに対して、本発明の一形態では、スパッタマスクに設けられたピンホールとも言うことができる小さな開口部によってスパッタビームを充分に細く絞ることにより、絞られた後のスパッタビームが、その中心部分の周囲にその半径方向に向かって、強度を減衰させながらも比較的大きく広がる(このようにスパッタビーム中のビーム本体の周囲に拡がっていく部分を、以下では「拡散ビーム」とも呼ぶ)ことを利用してコンビナトリアルスパッタを行う。
【0014】
より具体的に言えば、スパッタ中にスパッタビームマスクを動的に変化させなくても、絞られたスパッタビームが基板に照射されるときの強度には、当該絞られたスパッタビームの中心から周囲に向かって減衰するという勾配(勾配を有する強度の分布を本願では不均一強度分布とも呼ぶ)ができるので、これによって基板上に形成されるスパッタ材料の量にもこれを反映した勾配が現れる。本発明はこのような絞られたスパッタビームそれ自体により形成されるビーム照射強度勾配、従ってスパッタ材料の量の勾配を利用してコンビナトリアルスパッタを行うものである。この勾配の大小は絞られたスパッタビームの径により変化するので、スパッタビームを十分細く絞ることで、基板上の短い距離の間にスパッタされる材料の量についての大きな勾配を正確にしかもスパッタ中に特に複雑な制御を行なうことなく簡単に形成することができる。
【0015】
ビーム本体が太い場合にもビーム周囲への上述のような「ビームの拡散」は僅かに起こるが、これによってビーム本体の周囲へ拡散ビームとなって広がっていく物質微粒子の量はビーム本体により基板に供給される物質微粒子の量に比べてほとんど無視できるものであり、そのため従来はこのように拡散ビームがビーム本体の周囲にスパッタビームの中心からの距離に応じて強度を低下させながら漏れ出していく現象を、スパッタ量の基板上の分布に勾配を与えるために積極的に利用するという発想はなかった。
【0016】
ビーム本体とその周囲へ漏れ出していく拡散ビームの強度との比の値や拡散ビームが広がっていくビーム半径方向の距離は、スパッタマスクの開口部の径によって変化させることができる。すなわち、開口部の径を小さくするほど、ビーム中心部の強度に比べた場合の拡散ビーム側の領域の強度の低下が少なく、また遠方へ広がるようになる。この性質を利用して、スパッタマスクの孔径を調節して基板上でコンビナトリアルスパッタが行なわれる領域の範囲やスパッタされる物質量の勾配を制御することができる。なお、スパッタリングを行っている間は、特許文献1の場合とは違って、スパッタマスクの径を動的に変化させる必要はないので、スパッタと次のスパッタとの間でスパッタマスクを交換することでその開口部の径を簡単に変更することができる。もちろん、開口部の径を変化させる機能・機構をスパッタマスク自体あるいはその周辺に搭載してもよい。
【0017】
また、拡散ビームの広がりの程度を制御するためには、開口部の孔径だけではなく、この開口部がビーム進行方向に沿ってその前後(前と後ろの一方、あるいは両方)に延長された構造を取るようにした場合のこの延長部分、すなわち狭窄部の長さも重要である。薄い板に開設された開口部、すなわち単なる孔によってスパッタビームの径を規制するだけでは、孔を通り抜けることによって絞られたスパッタビームは比較的急速に広がってしまう。一方、狭窄部の入り口開口から入り込んだスパッタビームは、狭窄部内を所定距離進んだ後、その出口開口から射出されて、基板に向かうが、この間、狭窄部は一種のビームガイドとして機能し、その内部を進行するスパッタビーム中で斜め方向に進もうとする粒子をその内壁で捕捉するなどして抑制する。その結果、狭窄部が長いほど、その出口開口から射出された後の拡散ビームの広がりが抑制される。狭窄部の内径は、その入り口の径とほぼ同じとするのが通常は好ましい。この場合には開口部の孔径が狭窄部の内径となる。ある程度の長さの狭窄部を実現するためには、金属等のブロックに細長い貫通孔を形成してもよいが、他の構成としては、例えば比較的薄い板に孔を設け、この孔を貫通する、あるいは孔から一方向に伸びるパイプをそこに設置してもよい。このように、開口部の孔径と狭窄部が形成するビームガイドの長さの両方あるいは片方を調節することで、スパッタビームマスクを出た後のビームの広がり、すなわち基板上でのビーム強度の分布を最適化することができる。
【0018】
複数の成分からなる物質をスパッタで基板上に形成する際に、複数のスパッタ源から同時に各成分を供給し、基板上でこれらの成分を混ぜ合わせることで所望の物質をその場で形成あるいは合成することがしばしば行わる。コンビナトリアルスパッタにおいても、3つ程度のスパッタ源からの各成分の供給量の比を連続的に、あるいは段階的に変化させることで、位置によって成分間の組成比が変化する物質の膜を基板上に形成することが通常行われる。本発明の一形態では、このような同時スパッタによるコンビナトリアルスパッタを実現するため、複数のスパッタガンを設け、これらのスパッタガン毎に上述したスパッタビームマスクを設けることで、対応するスパッタビームを絞るようにする。
【0019】
更に、複数のスパッタガンによって基板上にスパッタされる複数の成分量の総量(スパッタによって形成される膜の厚さにほぼ相当する)が基板上の所定領域内では比較的一定であるようにするためには、これらのスパッタビームマスクによって絞られたそれぞれのビーム本体の中心を通る線(中心線)と基板との交点が、対応するスパッタガン毎に異なるようにすればよい。例えば3本のスパッタガンを使用する場合、上記交点がほぼ正三角形を形成するように構成すればよい。そして、それぞれ対応するスパッタビームマスクによって絞られた3本のスパッタビーム(ビーム本体+拡散ビーム)によって基板に供給される各成分の量が互いにほぼ等しくなるように設定し、かつ各スパッタビーム中の拡散ビームが他のスパッタビームに対応する他の2つの上述の交点近傍まである程度の強度で到達できるように上記交点間の距離、スパッタビームマスクの開口径等を調節しておくことにより、当該正三角形内部及びその周囲近傍部分ではスパッタによって形成される膜厚がほぼ一定となるとともに、3つの成分の組成比が広い範囲で変化する薄膜が得られる。同時に使用されるスパッタガンの本数が3本以外の場合にも同様である。
【0020】
ここで、複数のスパッタビームマスクにより絞られたスパッタビームの中心線と基板等との複数の交点間の相対的な位置関係を調節するためには、例えば、複数のスパッタガンにそれぞれ対応付けられた複数のスパッタビームマスクを搭載したスパッタビームマスクアセンブリを複数種類準備しておくことができる。各アセンブリ上のスパッタビームマスクには対応するスパッタガンからのスパッタビームの中心から横方向にオフセットした位置に開口部を設け、このオフセットの角度及び/または距離をアダプタ毎に異なるようにすれば、アセンブリの交換によって上記相対位置の調節を実現できる。
【0021】
あるいは、スパッタビームマスクアセンブリに設けられた複数のスパッタビームマスクの全部あるいは一部について、対応するスパッタガンからのスパッタビームの中心からのオフセットの角度及び/またはオフセット距離を変更できるように構成しておくこともできる。その具体的な実現形態としては、これに限定されるものではないが、アセンブリ上の複数のスパッタビームマスクの少なくとも一部をアセンブリに固定的に設置する代わりに、回転可能部材を介してそこに取り付けることができる。この構成では、スパッタビームマスクを載せた回転可能部材をスパッタガンからのスパッタビームの中心の周りに回転させることで、スパッタガンからのスパッタビームの中心に対するスパッタビームマスクのオフセットの角度及び/またはスパッタビーム中心からのオフセット距離を変化させることができる。なお、回転可能部材の回転軸をスパッタガンからのスパッタビームの中心と一致させておけば、その回転によってスパッタマスクのオフセットの角度だけが変化する。しかし、この場合でも上で説明したところの基板上の複数の交点間の距離やこの交点が形成する多角形の形状を変化させることができる。もちろん、回転可能部材の中心軸がスパッタガンからのスパッタビームの中心と一致しないように構成することもできる。以下で説明する実施例では後者の場合を説明する。
【0022】
また、スパッタガンを一つだけ使用する場合でも、例えば当該スパッタガンに装着されたターゲットの成分組成をその表面上の位置によって段階的にあるいは連続的に異ならせることで、スパッタビームの照射方向に垂直な断面内で同様に成分組成を異ならせることができる。この場合、スパッタビームを受けるスパッタビームマスクアセンブリ上に当該スパッタビームに対応付けて異なる位置に複数の開口部及び必要に応じてパイプ等の形状を有するビームガイドを設けることができる。これらの開口部/ビームガイドから射出された、複数の絞られたスパッタビームが基板上へ同時に照射されることにより、複数のスパッタガンからの同時照射と同じ動作をさせることによるコンビナトリアルスパッタを実現できる。もちろん、ここでこれらの絞られたスパッタビームのそれぞれによる基板上の照射位置を互いにオフセットさせることができる。もちろん、このような一つのスパッタガンを用いた複数の材料の同時のスパッタと先に説明した複数のスパッタガンを用いた複数の材料の同時のスパッタとを併用することも可能である。
【0023】
また、スパッタビームで同時に与えられた複数の材料を基板表面上で混合して成膜するのではなく、場所によってスパッタされる量、つまりスパッタによる層の厚さが違う複数の層を順次積層するという形態のコンビナトリアルスパッタであれば、単一のスパッタガンを使用して、ターゲットを順次交換することにより実現できる。もちろん、装着されたターゲットの種類の異なる複数のスパッタガンを順次切り替えてスパッタを行っても同じ結果を得ることができる。
【0024】
また、本発明を引用文献2に示すような基板単位でのコンビナトリアルスパッタと組み合わせることにより、複数枚設置された基板のうちの1枚をある組成分布で作製し、例えば、次の基板は開口部間の相対的な位置をずらしで複数のスパッタガンから供給される元素等の成分間の重なり具合を変えることで、異なる組成分布の薄膜がスパッタされた基板を作製していくことも可能である。また、組成分布は最初の1枚の状態で固定した上で、2枚目以降の基板では別のスパッタ条件(例えば、基板温度、ガス圧力、反応性ガス種など)でスパッタを行うこともできる。後者の場合には、組成分布は互いに同じであるが、結晶構造・結晶配向・ナノ構造などを変化させた複数の薄膜が作製可能となる。
【0025】
このように、本発明によれば狭い領域中で組成分布が広い範囲で変化するコンビナトリアルスパッタを行うことができ、しかも非常に簡単な構成で、かつスパッタを行っている間にスパッタマスク等を動的に変化させる必要なしでコンビナトリアルスパッタを実現できる(もちろん、必要があれば動的な変化を組み合わせることも可能である)。更には、特許文献2の基板単位のコンビナトリアルスパッタと組み合わせることにより、スパッタ装置構成や動作中の装置の制御の複雑化をきたすことなく、従来の組成変化サンプルを主流にしてきたコンビナトリアル材料探索の材料種を、組成変化と結晶構造・結晶配向・ナノ構造などの変化との組み合わせと言う、より高次元のコンビナトリアル探索にまで拡張することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下では実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。当然のことであるが、本発明はこの実施例に限定されるものではないことをここに注意しておく。
【0027】
図1は本発明の一実施例であるコンビナトリアルスパッタ装置の概念的な構成図である。本装置は特許文献2で開示されたところの複数枚の基板を切り替えながら基板間でコンビナトリアルスパッタを行う装置に本発明を適用したものである。そのため、スパッタされるべき複数の基板を装着した基板ホルダが装置上部から下に伸びているシャフトにより回転できるように構成されている。基板ホルダには基板が下向きに取り付けられていて、スパッタ位置(図中で複数の基板のうちの右端の基板が装着されている位置)の基板は、その上部に設けられたヒータユニットによって加熱することで当該基板を所望の温度に維持した状態でスパッタできるようになっている。それ以外の位置の基板は、装置上部から供給される冷却水により、やはり基板の上側に設置されている冷却ユニットを介して比較的低温に維持される。複数の基板を切り替えながらコンビナトリアルスパッタを行うための装置構成及びその制御は既に知られている事項であるのでこれ以上詳細に説明しないが、必要なら特許文献2を参照されたい。
【0028】
装置下部にはマグネトロンスパッタ源が設置されている。そこに上向きに設けられた3本のスパッタガンには装置外部からAr(アルゴン)及び/または反応性ガスが供給され、それら内部に収容されたターゲットから所望の成分の微粒子をただき出してスパッタビームを形成し、スパッタ対象の基板へ向けて放出する。また、各スパッタガンはスパッタビームの放射方向に平行に前後に移動可能に構成されることで、スパッタガンと基板との距離を所望の値に設定できるようになっている。
【0029】
スパッタビームの経路上には、この経路を覆うことで必要に応じてスパッタビームを遮断することができるシャッタ、及び混合マスクブロックが設けられている。また、スパッタ対象の基板に近接して設けられている水晶発振子マイクロバランスにはスパッタ対象の基板と同時にスパッタが行なわれるので、このマイクロバランスの測定結果に基づいてスパッタの進行状況を知ることができる。
【0030】
図1中の混合マスクブロックのカバーを取り外した状態を図2に示す。図2に示すように、混合マスクブロック内部には、各スパッタガンの方を向いた円筒状部材が3本設置されたスパッタビームマスクアセンブリが設けられている。スパッタビームマスクアセンブリを中心とした拡大図を図3に示す。上述したように、このスパッタビームマスクアセンブリは3本のスパッタガンからのスパッタビームを夫々細く絞ったうえでそれらを基板上に照射する。上で説明したように、これら絞られたスパッタビーム中の拡散ビーム同士の重なり合いが基板上の位置毎に異なることを利用して、基板上の所望の領域に、場所によって3本のスパッタガンから供給される成分の組成比の異なる薄膜が形成される形態のコンビナトリアルスパッタを行う。
【0031】
スパッタビームマスクアセンブリの写真を図4及び図5に示す。図4図1図2に示すスパッタ装置に装着された状態で下を向いている側からスパッタビームマスクアセンブリを撮影した写真、図5はその逆方向から撮影することで、スパッタビームマスクアセンブリの内部が見えるようにした写真である。なお、本願において、スパッタビームマスクアセンブリの上下について言及する際は、スパッタ装置に対して図1図2に示す向きで装着された状態での上下を意味することに注意されたい。
【0032】
図6図9は夫々図4図5に写真で示されたスパッタビームマスクアセンブリの下側斜視図、上側斜視図、底面図及び上面図である。図10はスパッタ装置に取り付けた状態のスパッタビームマスクアセンブリの断面図であり、その中には基板の断面も示されている。なお、この断面図は3本のスパッタガンからのスパッタビームのうちの2本の中心を含む平面で切断した断面を示す。
【0033】
図4の写真及び図6の斜視図からわかるように、各スパッタガンからのスパッタビームはスパッタビームマスクアセンブリの底面から突出した3本の円筒状部材の端面に設けられた蓋部材に開設されたピンホール、すなわち小さな開口部に規制された状態でスパッタビームマスクアセンブリ内に入射する。このようにして絞られたスパッタビームは、スパッタビームマスクアセンブリを反対側から見た状態を示す写真である図5及び対応する斜視図7からわかるように、円筒状部材端面の開口からスパッタ対象の基板へ向かって伸びる細長いパイプ中を通った後にスパッタ対象の基板へ向けて射出される。このようにしてスパッタビームマスクアセンブリから射出されたところの絞られたスパッタビームは、その一部がその中心軸から垂直方向に広がることで拡散ビームを形成しながらスパッタ対象の基板に照射される。これにより、上で説明したように、スパッタを行っている間にスパッタビームマスクを動的に変化させなくても、これら絞られたビームの中心軸と基板との交点を中心とした同心円状の濃度勾配を形成することができる。
【0034】
本実施例では、上に説明したように、スパッタビームを絞るために単に蓋部材に開設された開口を通すことでビーム径を規制するだけではなく、このような開口から入り込んだビームをある程度の距離だけ、開口とほぼ同じ内径のパイプで形成される狭窄部、すなわちビームガイドを通過させる。これにより、ビームガイドから射出された後の絞られたスパッタビームの広がりを所望の程度に抑制している。開口径及びビームガイドの長さを調節することで、スパッタビームマスクアセンブリを出た後のビームの広がり、すなわち基板上でのビーム強度の分布を最適化することができる。
【0035】
図10の断面図を参照するに、その上部に示された基板の下側表面上で2本の一点鎖線が交差している。これらの一点鎖線は夫々当該断面図下部に断面が示されている2本のパイプに入射する2本の絞られる前のスパッタビームの中心軸である(もう一本の絞られる前のスパッタビームの中心軸も、ここに図示していないが、やはり基板の下側表面上で残り2本の中心軸と交差する)。ここで2本のパイプの中心軸が短い一点鎖線で示されている。パイプの中心線(つまり絞られたスパッタビームの中心線)とそれに入射する絞られる前のスパッタビームの中心線とは互いに平行であるが、これらは中心軸に垂直な方向に僅かにオフセットしていることに注意されたい。これにより、これらのパイプから放出される絞られたスパッタビームの中心は、基板の下側表面上で僅かに離間した位置で基板と交差する。従って、3本のスパッタガンから供給される3種類の成分が、スパッタ対象の基板上で最も高い濃度でスパッタされる位置は互いにずれる。その結果、先に述べたように、これら3つの位置の間及びその近傍領域では、3種類の成分の組成比が位置によって異なる形態でコンビナトリアルスパッタが行なわれた薄膜が形成される。スパッタビームマスクアセンブリに開設されたピンホールの孔径、上記2種類の中心軸間のオフセット距離等を調節することにより、基板表面上での絞られた各スパッタビーム中心位置間の距離を自由に設定できる。従って、コンビナトリアルスパッタで形成された薄膜の特性等を測定する測定装置の位置分解能が許す限り、ここに説明した装置を使用することで、基板上の非常に狭い領域中において組成比を広い範囲で変化させた試料を提供することができる。実際、AFM等を使用すれば、ナノメートルレベルの分解能を実現することができるので、本発明によって基板上の非常に狭い領域状でコンビナトリアルスパッタを行うことは十分に実際的な意義を有していることに注意されたい。
【0036】
本実施例ではさらに、スパッタビームマスクアセンブリに僅かな機構を追加することで、絞られたスパッタビームがスパッタ対象の基板に照射される位置をスパッタビームマスクアセンブリを交換することなしに調節できるようにしている。図4図10に示すスパッタビームマスクアセンブリの写真及び図面からわかるように、スパッタビームマスクアセンブリの下側に設けられた円筒状部材の端面に開設された開口及びその延長部であるパイプは、円筒状部材端面の中心から僅かにオフセットされている。また、円筒部材の端面となっている円盤状部材は、各円筒状部材の側面に設けられている締め付けネジを緩めることにより、円筒状部材の中心軸の周りに前述のパイプとともに回転可能な形態で円筒部材に取り付けられている。円盤状部材の回転中心からオフセットされた位置に開口が設けられているため、円盤状部材を回転させることにより、開口の上記オフセットを変化させて、それにより開口及びそれに続くパイプを通ることによって絞られたスパッタビームがスパッタ対象の基板表面に照射される中心位置を移動させることができる。従って、スパッタ開始前にスパッタビームマスクアセンブリの3本の円筒状の締め付けネジを緩めてこれらの円盤状部材を回転させることによって、所望のコンビナトリアルスパッタが行なわれるように、3本の絞られたビームの照射位置を設定すればよい。設定後は締め付けネジを再度締め付けることで、使用中に照射位置が動いてしまわないようにする。
【0037】
なお、図4図6及び図8からわかるように、3本の円筒状部材端面の円盤状部材には夫々2本の直線が刻印されているが、これは円盤状部材の回転位置をわかりやすくするためのものである。つまり、1本の直線は円盤状部材の回転中心を通る直線のうちの、その回転中心と開口の中心とを通る直線(この直線は刻印せず)に垂直な直線であり、もう一本はこの直線に平行であって、かつ開口の中心を通る直線である。これらの直線の方向、及び開口が2本の直線のうちのどちら側にあるかを見ることで、開口が回転中心に対してどの方向にオフセットしているかが直ちにわかるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開2004−35983号公報
【特許文献2】国際公開2005/108640
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10