【解決手段】繊維構造体1は、基部2と、基部2上に相互に略平行に形成された複数の凸条部6とを有する。各凸条部6は、それぞれ頂部3及び頂部3の下方に位置する2つの側壁部4,5から構成されるとともに、その一方の各側壁部4は互いに略平行に設けられ、且つ他方の各側壁部5も互いに略平行に設けられる。そして、一方の側壁部4は糸Aから構成され、他方の側壁部5は糸Aとは組成の異なる糸Bから構成される。糸Aと糸Bとは、組成上の相違から染色性が異なっており、互いに異なる色に染め分けできるため、自由な選色,配色が可能であり、そのカラーバリエーションを増やすことができる。また、看者の見る方向等によって色模様が変化するという色彩効果が発揮される。
前記各凸条部における頂部の一部と、該凸条部に隣接する他の凸条部における頂部の一部との間に前記連結糸が架け渡されて、メッシュ部が形成されていることを特徴とする請求項4又は5記載の繊維構造体。
前記各凸条部における頂部の一部と、該凸条部に隣接する他の凸条部における頂部の一部との間を連結するように編成された、少なくとも1つの切れ目を有する編み領域が形成されていることを特徴とする請求項4又は5記載の繊維構造体。
前記基部における、前記各凸条部と該凸条部に隣接する他の凸条部との間に、少なくとも1列の編み列が形成されていることを特徴とする請求項4乃至7記載のいずれかの繊維構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特許文献1に開示される編地の場合、生地全体が玉虫色となる態様に限られ、また、その色彩的な効果は単調なものに過ぎないため、デザイン上の審美的な観点からすると、視覚的な色彩変化の多様性に欠けるという欠点がある。
【0009】
また、特許文献2に開示される織編地の場合、異なる色の先染め糸を用いるものであるため、選色に際して制限を受けるという欠点がある。更に、この織編地に模様を付与するには、異なる色の糸に切り替えるという煩雑な作業が必要であるため、簡単な模様の場合には対応可能かもしれないが、複雑な模様や多色を要する模様を表現する場合、或いは、カラーバリエーションの多い少量の商品を展開する場合には、その対応は極めて非効率であり、これを実現するのは甚だ困難である。このように、特許文献2に開示される織編地においても、視覚的な色彩変化の多様性を実現することは著しく困難である。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、視覚的な色彩変化の多様性を備えるとともに、自由な選色が可能で、多様な模様を表現することができる繊維構造体の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、基部と、該基部上に相互に略平行に形成された複数の凸条部とを有する繊維構造体であって、
前記各凸条部は、それぞれ頂部及び該頂部の下方に位置する2つの側壁部から構成されるとともに、その一方の各側壁部は互いに略平行に設けられ、且つ他方の各側壁部も互いに略平行に設けられ、
更に、前記一方の側壁部は糸Aから構成されるとともに、前記他方の側壁部は、前記糸Aとは組成の異なる糸Bから構成された繊維構造体に係る。
【0012】
この繊維構造体では、後染めによって前記側壁部を染色する態様が好ましく採用される。上述のように、本発明に係る繊維構造体では、一方の側壁部を構成する糸Aと、他方の側壁部を構成する糸Bとは異なる組成を有している。したがって、糸Aと糸Bとは、その組成上の相違から染色性が異なっており、このため、糸Aと糸Bとは、互いに異なる色となるように染め分けることができる。染め分ける態様は、糸Aのみ染色する場合、糸Bのみ染色する場合、糸Aと糸Bとを異なる色、模様に染色する場合が含まれる。
【0013】
本発明に係る繊維構造体に適用される繊維は、何ら制限を受けるものではなく、当該繊維構造体には、各種の植物性及び動物性の天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)や、各種の化学繊維(例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ビニロン、アクリル、ポリエステル、カチオン可染ポリエステル)を適用することができる。また、これらを用いた糸としては、繊維に応じて採用される紡績糸やフィラメント糸を用いることができるが、糸としての形態に何ら制限はない。これら天然繊維や化学繊維は、それぞれ、構成する化学構造が異なるため、後述するように種々の染料に対して染まり方が異なる。したがって糸Aに対し、糸Aとは化学構造が異なる素材からなる糸Bを用いる態様は、糸A、Bの化学構造が異なることで染まり方が異なり得るため、好ましい態様の1つである。これらをそれぞれ糸A及び/又は糸Bの一部として用い、糸全体として後述するような態様で組成を変えて、染まり方を異ならせる態様であってもよい。
【0014】
但し、本発明においては、前記糸A及び糸Bは、その組成が異なることによって、異なる染色性を発現するものであることが肝要である。組成が異なる態様としては、
a)糸A及び糸Bの一方が、単一の繊維から構成される糸、複数の繊維を混合した混合繊維から構成される糸、又は長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸のいずれかの糸で、他方がこれとは異なる糸である態様、
b)糸A及び糸Bがそれぞれ単一の繊維から構成され、その繊維の種類が異なる態様、
c)糸A及び糸Bがそれぞれ混合繊維から構成され、糸Aと糸Bとでは混合される繊維の種類が同一ではない態様、
d)糸A及び糸Bがそれぞれ同一の複数繊維を混合した混合繊維から構成され、糸Aと糸Bとで混合される繊維の混合比率が異なる態様、
e)糸A及び糸Bがそれぞれ長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸からなり、糸Aと糸Bとでは用いられる繊維の種類が同一ではない態様、
f)糸A及び糸Bがそれぞれ長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸からなり、糸Aと糸Bとで用いられる繊維の種類は同一であるが、その繋ぎ合わせる間隔が異なる態様などを例示することができるが、これに限られるものではない。
【0015】
また、前記基部及び頂部を構成する糸についても何ら制限は無く、それぞれ糸A及び糸Bとは異なる組成の糸を用いても良いし、それぞれ糸A又は糸Bの一方と同じ糸を用いても良い。
【0016】
そして、本発明に係る繊維構造体では、上述したように、後染めにより、糸A及び糸Bの内の少なくとも一方を染色して、糸Aと糸Bとを異なる色にすることで、対をなす前記2つの側壁部をそれぞれ異なる色又は色模様とすることができる。尚、糸A及び糸Bの内の少なくとも一方が後染め可能であればよく、他の糸は、先染め糸であっても良い。
【0017】
斯くして、本発明に係る繊維構造体によれば、凸条部を構成する2つの側壁部を異なる色(色模様を含む)で表現することができるので、観察者の見る方向によって、視認される色模様が変化するという色彩効果が発揮される。例えば、当該繊維構造体を適宜平面上に載置した状態にして、凸条部の条線と直交し、且つ一方の側壁部が視認可能な斜め上方から当該繊維構造体を見た場合、当該凸条部の頂部及び一方の側壁部は視認されるものの、他方の側壁部は視認されず、これとは逆の斜め上方から当該繊維構造体を見た場合、凸条部の頂部及び他方の側壁部は視認されるものの、前記一方の側壁部は視認できない状態にある。また、観察者が見る角度によって、頂部と側壁部との見える面積の比率が変化した状態になる。
【0018】
このように、本発明に係る繊維構造体では、観察者の見る方向及び角度によって、視認される色模様が変化するという色彩効果が発揮される。そして、この色模様の変化は、見る角度を繊維構造体に近い角度から徐々に上方側に移すことで、頂部の色の中から次第に異なる色(側壁部の色)が浮き上がるような、独特な視覚効果を伴ったものとして発現される。したがって、これを衣服等に使用した場合には、当該衣服等に非常に優れた美観や躍動感を与えることができる。
【0019】
また、この繊維構造体は、後染めによる染め分けが可能であることから、原着糸や先染め糸を使用した場合には得られない自由な選色,配色が可能で、このように様々な配色を選択することによって、そのカラーバリエーションを増やすことができ、また、複雑な模様も容易に付与することができるとともに、得られる色彩効果に多様性を持たせることができるという、極めて高い実用性を備えている。
【0020】
そして、本発明に係る繊維構造体では、前記糸A及び糸Bの内の少なくとも一方が、単色に染色されていれば良いが、2色以上に染色されているのがより好ましい。2色以上に染色することで、より多様な色彩的効果が発現される。尚、2色以上に染色する態様としては、a)糸A及び/又は糸Bに染色性の異なる繊維を混合した混合繊維を用い、各繊維を異なる色に染色する態様、b)糸A及び/又は糸Bに単一の繊維又は混合繊維を用い、スクリーン捺染やインクジェット捺染によって、2色以上に染色する態様、c)糸A及び/又は糸Bとして、長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸を用い、各繊維を異なる色に染色する態様が含まれる。また、本発明において、前記糸A及び糸Bは、互いに異なる色又は異なる模様に染色されていても良い。このようにすることによっても、多様な色彩的効果が発現される。尚、スクリーン捺染及びインクジェット捺染などのプリントは、繊維構造体の裏面(即ち、凸条部とは反対側の面)側から行うのが好ましい。このようにすれば、頂部への染料付着を抑制し、側壁部を構成する糸A及び/又は糸Bをターゲットとした染色を行うことが可能であるため、頂部を構成する糸については汚染を考慮する必要が無く、用途に応じて自由な糸種を選定することができる。
【0021】
本発明に係る繊維構造体は、これを編地とすることができ、この場合、
前記凸条部の頂部は、編み立て方向に沿って延びた編み列から構成され、
前記凸条部の2つの側壁部は、それぞれ、編み立て方向に沿って延び、前記基部側が該基部に編み込まれるとともに、前記頂部側が該頂部に係止されて、該基部と頂部とを連結するように編成された編み列から構成されるのが好ましい。
【0022】
この繊維構造体によれば、側壁部が基部に編み込まれ、且つ頂部に係止された構成を備えているので、編地でありながら、前記凸条部の形態的安定性が高く、外力が作用してもその形状が変形し難いものとなっている。このため、染色工程において外力が作用しても、凸条部の形状を維持することができ、目的とする十分な色彩効果が発現される繊維構造体を得ることができる。また、その使用態様によって色彩効果が影響を受けるということはなく、如何なる使用態様においても、十分な前記色彩効果が発現される。
【0023】
尚、この繊維構造体において、前記頂部は、連結糸によって連結された少なくとも2列の鎖編み列から構成されるとともに、前記2つの側壁部は、それぞれ鎖編み列から構成され、前記側壁部の鎖編み列は、頂部側に形成されたループが前記頂部の鎖編み列中に挿入された状態で係止されているのが好ましい。
【0024】
また、この繊維構造体では、前記各凸条部における頂部の一部と、この凸条部に隣接する他の凸条部における頂部の一部との間に前記連結糸が架け渡されて、メッシュ部が形成されていても良い。このようにすれば、凸条部同士が相互に隣接する他の凸条部とメッシュ部によって連結された状態となるため、凸条部の形態安定性をより高めることができる。更に、メッシュ部が形成されていることにより、当該メッシュ部の開口部分を通して凸条部が視認されるようになるため、メッシュ部がない場合と比較して、複雑な模様を表現することができる。
【0025】
更に、この繊維構造体は、前記各凸条部における頂部の一部と、この凸条部に隣接する他の凸条部における頂部の一部との間を連結するように編成された、少なくとも1つの切れ目(開口部)を有する編み領域が形成されていても良い。この場合においても、上記と同様に、編み領域によって凸条部同士が連結された状態となり、当該凸条部の形態安定性が高まり、このため、安定した色彩効果が発揮される。また、切れ目を通して凸条部が視認されるようになるため、編み領域が形成されていない場合に比べ、表面に現れる模様を複雑なものにすることができる。
【0026】
また、前記基部における、前記各凸条部とこの凸条部に隣接する他の凸条部との間に、少なくとも1列の編み列が形成されていても良い。この場合、各凸条部がこれに隣接する凸条部から分離され、各凸条部間の間隔が広くなるため、側壁部を視認することができる観察者の位置の範囲が変わり、各凸条部間の間隔が狭い場合とは異なる色彩効果を発揮させることができる。尚、各凸条部間の間隔を広くし過ぎると、観察者が側壁部を視認することができる位置の範囲が狭くなり過ぎて、色彩効果が十分に発揮されなくなる、或いは、基部の視認される部分が多くなり過ぎて、美観が損なわれる虞がある。したがって、各凸条部間の間隔が、1.5mm〜4mm程度(編針3本〜5本分程度)となるように、形成する編み列の数を調整することが好ましい。
【0027】
尚、前記基部は、メッシュ状に形成しても良いし、編糸として透明糸を用いるようにしても良い。前記基部をメッシュ状に形成することによって、繊維構造体の軽量化を図ることができ、衣服等に使用した際の通気性も確保することができる。また、基部の編糸として透明糸を用いることによって、基部を目立たなくして凸条部の色彩を際立たせ、凸条部を構成する2つの側壁部に異なる色を配置することによって奏される色彩効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明に係る繊維構造体は、凸条部を構成する2つの側壁部の内、一方の側壁部を構成する糸Aと、他方の側壁部を構成する糸Bとが異なる組成を有しているので、糸Aと糸Bとを後染めによって染め分けることができ、このように染め分けることで、凸条部を構成する2つの側壁部を異なる色で表現することができる。これにより、観察者の見る方向によって、視認される色模様が変化するという色彩効果が発揮される。
【0029】
そして、この色模様の変化は、見る角度を繊維構造体に近い角度から徐々に上方側に移すことで、頂部の色の中から次第に異なる色(側壁部の色)が浮き上がるような、独特な視覚効果を伴ったものとして発現されるため、これを衣服等に使用した場合には、当該衣服等に非常に優れた美観や躍動感を与えることができる。
【0030】
また、この繊維構造体は、染色による染め分けが可能であることから、原着糸や先染め糸を使用した場合には得られない自由な選色,配色が可能で、このように様々な配色を選択することによって、そのカラーバリエーションを増やすことができ、また、複雑な模様も容易に付与することができるとともに、得られる色彩効果に多様性を持たせることができるという、極めて高い実用性を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0033】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る繊維構造体である経編地1の組織の詳細を示した図であり、
図2は、
図1における矢視a−a断面図である。同
図1及び
図2に示すように、当該経編地1は、基部2と、この基部2上に相互に略平行に形成された複数の凸条部6とから構成される。また、凸条部6は、編み立て方向に沿って形成された頂部3及び当該頂部3の下方に位置する2つの側壁部4,5からなり、一方の各側壁部4は互いに略平行に設けられ、他方の各側壁部5も互いに略平行に設けられている。
【0034】
前記頂部3は連結糸3cによって連結された2本の鎖編み列3a,3bからなり、側壁部4,5は、後述するループ4a
1,5a
1が前記2本の鎖編み列3a,3bにそれぞれ係止された鎖編み列4a,5aからなる。また、前記基部2は、前記側壁部4,5の鎖編み列4a,5aが結接された鎖編み列2a,2bと、これら鎖編み列2a,2b同士を連結する連結糸2cからなり、各凸条部6間に形成された連結部2dとから構成されている。尚、
図1において、頂部3を構成する鎖編み列3a,3b及び側壁部4,5を構成する鎖編み列4a,5aは実線、頂部3の連結糸3cは破線、基部2の連結糸2cは点線で示し、基部2の鎖編み列2a,2bは図示を省略した。
【0035】
また、本例の経編地1では、側壁部4を構成する鎖編み列4aに糸Aを用い、側壁部5の鎖編み列5aに糸Bを用いるとともに、頂部3を構成する2本の鎖編み列3a,3b及び連結糸3cにはそれぞれ糸C
1、C
2、C
3を用い、更に、前記基部2を構成する鎖編み列2aには鎖編み列4aと同じ糸A、鎖編み列2bには鎖編み列5aと同じ糸B、前記連結糸2cには糸D
1をそれぞれ用いている。
【0036】
そして、この経編地1は、複数の編針を有し、対向して配置された2列の針床及び当該針床に所定の糸を供給する供給機構を備えた公知のダブルラッシェル編み機を用いて編成することができる。
【0037】
具体的には、一方側の針床(表側の針床)において、供給機構によって供給される糸C
1、C
2により2つの鎖編み列3a,3bを編成しつつ、ウェール方向に隣接するこれら2つの鎖編み列3a,3bを糸C
3からなる連結糸3cにより連結して頂部3を形成する。
【0038】
一方、他方側の針床(裏側の針床)において、供給機構によって供給される糸A及び糸Bにより、側壁部4,5を構成する2つの鎖編み列4a,5aをそれぞれ編成するとともに、供給機構によって供給される糸A,Bにより、基部2を構成する鎖編み列2a,2bを編成しつつ、各鎖編み列2a,2bと、これらの近傍にある他の鎖編み列2a,2bとをウェール方向に沿って糸D
1からなる複数の連結糸2cにより連結する。
【0039】
ここで、本例の編地は、側壁部4,5の鎖編み列4a,5aを編成する際に、頂部3の鎖編み列と対向する側(表側の針床と対向する側)にループ4a
1,5a
1を形成し、頂部3の鎖編み列3a,3bの編目に当該ループ4a
1,5a
1を挿入するようにして、側壁部4,5の鎖編み列4a,5aを頂部3の鎖編み列3a,3bに係止する一方、側壁部4,5の鎖編み列4a,5aを、基部2の鎖編み列2a,2bに編み込むようにして、基部2の鎖編み列2a,2bと側壁部4,5の鎖編み列4a,5aとをそれぞれ結接するようにしている。
【0040】
斯くして、基部2と頂部3とが側壁部4,5によって連結され、頂部3及び側壁部4,5からなる凸条部6が基部2上に形成された一枚の立体的な経編地1が編成される。
【0041】
このように編成された経編地1は、編成段階で基部2と凸条部6とを形成するようにしているため、凸条部6の形状にバラツキが生じ難く、各凸条部6の形状がほぼ均一なものとなる。また、凸条部6は、それぞれ鎖編み列で構成された頂部3と側壁部4,5とからなり、側壁部4,5を構成する鎖編み列4a,5aは、頂部3の鎖編み列3a,3bに係止されるとともに、基部2の鎖編み列2a,2bに編み込まれているため、各凸条部6の形態安定性が従来よりも高いものとなっている。
【0042】
尚、前記基部2から頂部3までの高さhは、前記ダブルラッシェル編み機における対向して配置された2列の針床間の距離や編糸の伸縮度合いに依存するものであるが、高さhを高くするほど凸条部6の形状は崩れ易くなるため、当該高さhが1mm〜4mm程度となるように、針床間の距離を変える、或いは、編成時のテンション等を調整することが好ましい。
【0043】
本例の前記糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1に適用される繊維は、何ら制限を受けるものではないが、その一例を挙げれば、各種の植物性及び動物性の天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)や、各種の化学繊維(例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ビニロン、アクリル、ポリエステル、カチオン可染ポリエステルなど)を適用することができ、糸としての形態についても、適用される繊維に応じて紡績糸やフィラメント糸を適用することができるが、これに限定されるものではない。
【0044】
尚、天然繊維である綿、絹及び羊毛については、詳しく説明するまでもないが、化学繊維について若干の説明を加えると、上記レーヨンは、セルロース系再生繊維のうち、天然の木材パルプを原料とするビスコース繊維であり、広義には、キュプラやリヨセルを含めたセルロース系再生繊維の全てが含まれる。また、アセテートは、ジアセテートとトリアセテートを含み、セルロースの水酸基を酢酸化して得られる酢酸セルロースからなる人造繊維であり、一般的には、酢化度45.0%以上の酢酸セルロースからなる繊維をいうが、JISでは、セルロースの水酸基のうち74%以上92%未満が酢酸化されているものをアセテート繊維と定義している。
【0045】
また、前記ナイロンは、アミド結合−CONH−を主鎖にもつ脂肪族合成ポリアミドの一般名であり、前記ビニロンは、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分とする合成繊維の一般名であり、また、前記アクリルは、アクリロニトリルを主成分とする合成繊維をいう。
【0046】
また、前記ポリエステルは、一般的に、多価アルコールと多価カルボン酸の重縮合によって得られる、主鎖にエステル結合−CO−O−をもつ高分子化合物をいう。また、カチオン可染ポリエステル系繊維は、スルホン酸基、燐酸基などのアニオン性基を有するポリエステル系繊維をいい、例えば、極性基を有するジカルボン酸やグリコール類を共重合しているポリエステル繊維が例示され、特にポリエチレンテレフタレート、ボリブチレンテレフタレートまたはポリプロピレンテレフタレートなどにテレフタル酸以外の酸成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全酸分の1〜10モル%共重合させたものが好ましく例示される。
【0047】
また、本例では、前記糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1の内、少なくとも糸A及び糸Bはその組成が互いに異なったものとなっている。この他の糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1は、糸A又は糸Bと同じ組成であっても、異なる組成であっても良い。
【0048】
ここで、糸A及び糸Bについて組成が異なる態様としては、以下の態様を例示することができる。
a)糸A及び糸Bの一方が、単一の繊維から構成される糸、複数の繊維を混合した混合繊維から構成される糸、又は長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸のいずれかの糸で、他方がこれとは異なる糸である態様、
b)糸A及び糸Bがそれぞれ単一の繊維から構成され、その繊維の種類が異なる態様、
c)糸A及び糸Bがそれぞれ混合繊維から構成され、糸Aと糸Bとでは混合される繊維の種類が同一ではない態様、
d)糸A及び糸Bがそれぞれ同一の複数繊維を混合した混合繊維から構成され、糸Aと糸Bとで混合される繊維の混合比率が異なる態様、
e)糸A及び糸Bがそれぞれ長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸からなり、糸Aと糸Bとでは用いられる繊維の種類が同一ではない態様、
f)糸A及び糸Bがそれぞれ長手方向に異なる繊維を所定間隔で繋ぎ合わせた糸からなり、糸Aと糸Bとで用いられる繊維の種類は同一であるが、その繋ぎ合わせる間隔が異なる態様など。
但し、これに限られるものではない。
尚、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1が、糸A又は糸Bと異なる組成である態様も、上記の例に倣うものとする。
【0049】
そして、本例の経編地1は後染めによって染色される。染色に用いられる染料は、前記糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1に用いられる繊維に応じた染料が適用される。繊維と染料との関係を
図4に示す。同
図4に示すように、各繊維は、染料に応じた染色性を示し、一例を挙げ得れば、綿は、直接染料、建染染料、硫化染料、反応染料及びナフトール染料によってよく染まるが、酸性染料、分散染料及びカチオン染料では染まらない。逆に、アクリルは、酸性染料及びカチオン染料によってよく染まるが、直接染料、硫化染料、反応染料及びナフトール染料では染まらない。したがって、糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1に用いられる繊維を適宜選定し、選定した繊維に応じた染料を用いてそれぞれ糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1を染色することで、糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1をそれぞれ任意の色に染め分けることができ、また、任意の色模様を付与することができる。例えば、糸Aに無色のカチオン可染ポリエステルを用い、糸Bに無色の6ナイロンを用い、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1に黒色のポリエチレンテレフタレートを用いて編成した経編地1を、緑色を発色する酸性染料、及び赤色を発色するカチオン染料を用いて、同浴で浸漬染色すると、
図4から分かるように、カチオン染料によって糸Aのみが赤色に染色されるとともに、酸性染料によって糸Bのみが緑色に染色され、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1については黒色のままとなる。尚、当然のことながら、プリントにより、カチオン染料を用いて糸Aを、酸性染料を用いて糸Bを、それぞれ染め分けるようにしても良い。
【0050】
尚、前記直接染料は、溶液中で解離して染料イオンが陰イオン(アニオン)性になる染料のなかで、比較的分子量が大きく、綿やセルロース系繊維に対して親和性のある染料をいう。また、酸性染料は、溶液中で解離して染料イオンが陰イオン(アニオン)性になる染料のなかで、分子量が比較的小さく、セルロース系繊維に対しては親和性が少ないが、羊毛、ナイロンなどのポリアミド系繊維に親和性があり、酸性浴で染色する染料をいう。
【0051】
前記分散染料は、染料分子中に、スルホン酸基やカルボン酸基などの水溶性基をもたない非イオン性の染料で、水中に分散した系からアセテートやポリエステル繊維などの疎水性合成繊維の染色に用いられる染料であり、前記カチオン染料は、溶液中で解離して染料イオンが陽イオン(カチオン)性になる染料であり、アクリル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維等の染色に用いられる染料である。
【0052】
また、前記建染染料はバット染料ともいい、染料自身は水に不溶性で、繊維に対して親和性をもたないが、染色時にアルカリ性還元浴で還元して得られる水溶性ロイコ化合物が、繊維に親和性をもつ性質を利用して繊維に吸着させ、酸化により繊維上で元の水不溶性染料に戻して染色を完了する染料である。また、前記硫化染料は、染料分子内に硫黄原子を含む水不溶性染料で、染色時に還元剤(硫化ナトリウム)によって還元され、ロイコ染料の形で繊維に吸着させた後、酸化により水不溶性染料に戻して染色を完了する染料である。
【0053】
前記反応染料は、染料分子中に、繊維中の官能基(水酸基、アミノ基など)と化学結合を形成可能な反応性基をもつアニオン性水溶性染料で、染色工程で繊維中の官能基と化学反応して共有結合により染着する染料である。また、前記ナフトール染料は、繊維上で不溶性のアゾ染料を形成して染色を完了する染料であり、アゾイック染料、或いは氷染染料とも称される。
【0054】
そして、本例では、前記糸A、糸B、糸C
1、C
2、C
3及び糸D
1について、これに用いられる繊維の種類を含めた前記組成を適宜設定するとともに、この組成に応じた染料を用いて、浸漬染色やプリント(スクリーン捺染やインクジェット捺染など)などによって、各糸をそれぞれ染色することにより、前記基部2、頂部3及び側壁部4,5を任意の色に染め分け、或いは、それぞれに任意の色模様を付与する。
【0055】
例えば、基部2、頂部3及び側壁部4,5をそれぞれ異なる色に染め分けることができ、また、一部を同色、他を異なる色にすることができる。また、基部2、頂部3及び側壁部4,5にそれぞれ異なる2色以上の色模様を付与することができ、一部を同じ色模様、他を異なる色模様にすることができる。尚、プリントは経編地1の裏面(即ち、凸条部6とは反対側の面)側から行うのが好ましい。このようにすれば、頂部3への染料付着を抑制し、側壁部4,5を構成する糸A,Bを選択的にターゲットとした染色を行うことが可能であるため、頂部3を構成する糸については汚染を考慮する必要が無く、用途に応じて自由な糸種を選定することができる。
【0056】
次に、この染色された経編地1が奏する色彩効果について、
図3を参照しつつ、以下説明する。
【0057】
この経編地1は、編み立て方向と交差する方向から当該経編地1を見るときの観察者の位置に応じて、視認される色彩が変化する。具体的に言うと、観察者が
図3の紙面に向かって左手側の領域R1内から経編地1を見た場合には、頂部3及び側壁部4が視認される一方、側壁部5は死角に位置するため、当該側壁部5は視認されない。したがって、観察者には、頂部3及び側壁部4に付されたそれぞれの色、或いは色模様が視認される。
【0058】
逆に、観察者が
図3の紙面に向かって右手側の領域R2内から経編地1を見た場合、頂部3及び側壁部5が視認され、一方、側壁部4は死角に位置するため、当該側壁部4は視認されない。したがって、観察者には、頂部3及び側壁部5に付されたそれぞれの色、或いは色模様が視認される。尚、本例において、領域R1及び領域R2の角度は、およそ40°〜60°である。
【0059】
図3中の領域R3及び領域R4は、それぞれ領域R1及び領域R2に付随する領域であり、これら領域R3及び領域R4は、例えば、観察者の位置が領域R1内から領域R2内へと変わる、即ち、観察者が頂部3及び側壁部4を視認している状態から、頂部3及び側壁部5を視認する状態へと移り変わる間を補完して、美妙な色彩効果を奏するのに有効な働きをする領域である。尚、この経編地1を上面から見ると、頂部3及び基部2が視認される。
【0060】
このように、本例の経編地1は、観察者が当該経編地1を見る際の位置に応じて、言い換えれば、観察者の見る方向及び角度に応じて、観察者が視認する部位が変化する。したがって、前記基部2、頂部3及び側壁部4,5を任意の色に染め分け、或いは、それぞれに任意の色模様を付与することで、視認される色や色模様が変化するという色彩効果を発現させることができる。そして、この色模様の変化は、見る角度を繊維構造体に近い角度から徐々に上方側に移すことで、頂部3の色の中から次第に異なる色(側壁部4,5の色)が浮き上がるような、独特な視覚効果を伴ったものとして発現される。
【0061】
斯くして、このような経編地1を衣服や鞄、靴などに使用すると、着用者の動きに応じて、経編地1の表面に対する観察者の相対的な位置が変化して、上記色彩効果が発揮されるため、当該衣服等に非常に優れた美観や躍動感を持たせることができる。
【0062】
また、この経編地1は、染色による染め分けが可能であることから、原着糸や先染め糸を使用した場合には得られない自由な選色,配色が可能で、このように様々な配色を選択することによって、そのカラーバリエーションを増やすことができ、また、複雑な模様も容易に付与することができるとともに、得られる色彩効果に多様性を持たせることができるという、極めて高い実用性を備えている。
【0063】
尚、基部2、頂部3及び側壁部4,5については、それぞれの色及び/又は色模様が異なった態様が最も多様な色彩効果を発揮するが、好ましい色彩効果を得るには、少なくとも、側壁部4,5の色及び/又は色模様が互いに異なった態様が好ましい。したがって、基部2及び頂部3については、無色(即ち、透明)であっても良い。特に、基部2を透明にし、頂部3及び側壁部4,5を有色にすると、当該基部2を目立たなくすることができ、逆に、頂部3及び側壁部4,5についてはこれを際立たせることができるため、当該頂部3及び側壁部4,5によって奏される色彩効果を高めることができる。
【0064】
また、この経編地1は、その凸条部6が外力に対して容易には変形しない高い形態安定性を備えているため、染色工程において外力が作用しても、凸条部の形状を維持することができ、また、その形状のバラツキも非常に少ないため、目的とする色彩効果を十分に発揮することができる。また、当該経編地1は、その使用態様によって上述した色彩効果が影響を受けるということはなく、例えば、これを衣服に用いるなど、様々な使用態様においても、十分な前記色彩効果が発現される。
【0065】
[第2実施形態]
次に、
図5及び
図6を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係る経編地11について説明する。尚、
図5においては、基部2の鎖編み列2a,2bの図示を省略し、
図6においては、
図5では図示していない凸条部も図示し、計3つの凸条部を図示するようにした。また、以下の説明において、経編地1と同一の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図5及び
図6に示すように、当該経編地11は、前記基部2の連結部2dに当該基部2を構成する鎖編み列2eが連結糸2cとは別の編糸によって編成され、当該鎖編み列2eを含む鎖編み列2a,2b,2eと、これらの近傍に位置する他の鎖編み列2a,2b,2eとがウェール方向において複数の連結糸2cにより連結され編成されている。
【0067】
尚、この鎖編み列2eには糸D
2が用いられる。この糸D
2についても、基部2を構成する他の糸D
1と同様に、上述した繊維を用いることができ、糸の形態としては、繊維に応じて紡績糸やフィラメント糸の形態をとることができる。また、染色についても、糸D
1と同様の態様をとることができる。糸D
2を糸D
1と同様に透明にすれば、頂部3及び側壁部4,5を際立たせることができるため、当該頂部3及び側壁部4,5によって奏される色彩効果を高めることができる。
【0068】
この経編地11においては、基部2の連結部2dに鎖編み列2eが更に編成されていることにより、経編地1と比較して各凸条部6間の間隔が広がっている。そのため、
図7に示すように、頂部3及び側壁部4が視認される領域R1’並びに頂部3及び側壁部5が視認される領域R2’は、経編地1における領域R1及び領域R2よりも狭くなる一方、領域R3’及び領域R4’は、領域R3及び領域R4よりも広くなっている。
【0069】
このように、当該経編地11は、領域R3’及び領域R4’が広がっていることにより、より一層鮮明な色彩変化を発揮する。
【0070】
尚、連結部2dに編成する鎖編み列2eの数は、必ずしも1列に限られず、2列以上であっても良いが、凸条部6間の間隔が空きすぎると、領域R1’及び領域R2’が狭くなり過ぎて色彩効果が十分に発揮されなくなる、或いは、基部2の露出が多くなり過ぎて美感が損なわれる虞がある。したがって、凸条部6の高さhも考慮して、領域R1’及び領域R2’の範囲が適切な値(好ましくはおよそ20°以上)となり、領域R3’及び領域R4’の範囲が適切な値(好ましくは40°以上)となり、各凸条部6間の間隔lが1.5mm〜4mm程度(編針3本〜5本分程度)となるように、鎖編み列2eの数を決めることが好ましい。
【0071】
[第3実施形態]
次に、
図8を参照しつつ、本発明の第3実施形態に係る経編地21について、以下説明する。尚、上記と同様に、経編地1と同一の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、
図8においても、基部2の鎖編み列2a,2bの図示を省略した。
【0072】
図8に示すように、第3実施形態に係る経編地21は、第2実施形態の経編地11と同様に、前記基部2の連結部2dに鎖編み列2eを編成するとともに、当該鎖編み列2eを含む鎖編み列2a,2b,2eの一部と、これらの近傍に位置する他の鎖編み列2a,2b,2eの一部とが、基部2の連結部2dが所謂メッシュ状となるように、ウェール方向において複数の連結糸2cにより連結され編成されている。尚、鎖編み列2eは、
図8において実線で示した。
【0073】
尚、経編地11と同様に、この鎖編み列2eには糸D
2が用いられ、この糸D
2についても、基部2を構成する他の糸D
1と同様に、上述した繊維を用いることができ、糸の形態としては、繊維に応じて紡績糸やフィラメント糸の形態をとることができる。また、染色についても、糸D
1と同様の態様をとることができる。糸D
2を糸D
1と同様に透明にすれば、頂部3及び側壁部4,5を際立たせることができるため、当該頂部3及び側壁部4,5によって奏される色彩効果を高めることができる。
【0074】
この経編地21は、経編地1と同様に、当該経編地21を見る際の観察者の位置に応じて色彩が変化する色彩効果を奏し、また、基部2の連結部2dをメッシュ状にすることで、経編地21自体の軽量化を図ることができ、衣服等に使用した際の通気性を確保することもできる。
【0075】
[第4実施形態]
ついで、第4実施形態に係る経編地31について、
図9を参照しつつ、以下説明する。尚、以下の説明においても上記と同様に、経編地1と同一の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0076】
図9に示すように、この経編地31は、上記経編地1,11,21と異なり、基部2の連結部2dにループからなる編み列2fを連結糸2cによって形成しつつ、連結糸2cを側壁部4,5の各鎖編み列4a,5aに結接し、基部2の連結部2dがメッシュ状となるように編成されている。
【0077】
この経編地31についても、前記経編地21と同様に、観察者が当該経編地31を見る際の位置に応じて色彩が変化する色彩効果を発揮し、また、連結部2dをメッシュ状としたことによって、編地自体の軽量化が図れ、衣服等に使用した場合の通気性も確保することができる。
【0078】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る経編地41について、
図10を参照しつつ、以下説明する。尚、上記と同様に、経編地1と同一の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、
図10においては、基部2全体の図示を省略した。
【0079】
この経編地41は、
図10に示すように、各凸条部6の頂部3の一部と、これと隣接する他の凸条部6の頂部3の一部との間を、複数の連結糸7によって連結し、頂部3とほぼ同じ高さの平面内にメッシュ状の組織を形成するように編成されている。
図10において、連結糸7は点線で示されている。尚、この連結糸7には、糸C
4が用いられる。この糸C
4についても、頂部3を構成する他の糸C
1,C
2,C
3と同様に、上述した繊維を用いることができ、糸の形態としては、繊維に応じて紡績糸やフィラメント糸の形態をとることができる。また、染色についても、糸C
1,C
2,C
3と同様の態様をとることができる。
【0080】
この経編地41においては、頂部3とほぼ同じ高さの平面内にメッシュ状の組織が形成されていることにより、観察者によって、メッシュの開口部分を通して凸条部6が視認されるようになるため、メッシュ状の組織がない場合と比較して、複雑な模様を表現することができる。また、凸条部6が他の凸条部6と連結された状態となっているため、凸条部6の形状安定性をより高めることができる。
【0081】
尚、この経編地41において、頂部3同士を連結する複数の連結糸7によって、幅広の編み領域を編成し、頂部3とほぼ同じ高さの平面内に、切れ目(小さな開口部)を有する編み組織を形成するようにしても良い。
図11に、このようにして編成した経編地51を表面から見た図を示した。
図11中、符号52が幅広の編み領域であり、符号53が切れ目である。
【0082】
同
図11に示すように、この経編地51においては、複数の連結糸7によって編成された幅広の編み領域52が観察者に視認されるとともに、凸条部6の頂部3及び側壁部4,5が前記切れ目53を通して視認されるため、当該経編地51は、その美観が、幅広の編み領域52が編成されていないものとは異なったものとなり、複雑な模様が表面に現れたものとなる。また、経編地51は、連結糸7(糸C
4)、頂部3の鎖編み列3a,3bの糸C
1,C
2及び各側壁部4,5の鎖編み列4a,5aの糸A,糸Bの色及び又は色模様を適宜調整することで、その外観が変化する。したがって、当該経編地51を衣服や靴に使用することで、これらの外観に容易に多様性を持たせることができる。
【0083】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は本発明に係る繊維構造体を織物として具現化したものである。以下、本例の織地を
図12及び
図13に基づいて説明する。
【0084】
本例の織地100は、上地101及び下地102から構成され、上地101は経糸111及び緯糸112からなり、下地102は経糸121及び緯糸122からなる。そして、この織地100は、上地101と下地102とが分離した二重袋組織部と、上地101と下地102とが一体化された一重組織部とが交互に配置された構造を有する。ここで、「一重組織部」とは、単独生地、又は生地の接合により生地が一枚になった状態をいい、「二重組織袋部」とは、上地101と下地102とが接合されておらず、互いに独立して生地間に袋状の隙間が形成された状態をいう。
【0085】
織地100の両端部は一重組織部であり、上地101の経糸111と緯糸112とで構成され、両端部の内側に位置する一重組織部は、上地101と下地102とを構成するそれぞれの経糸111/経糸121と、緯糸112/緯122とを互いに交錯させており、その際、上地101又は下地102の一部の経糸、若しくは緯糸を連結糸として用いて部分的に連結させている。
【0086】
また、上地101の経糸111,緯糸112、及び下地102の経糸121には、上述した天然繊維及び化学繊維の内、非熱収縮性の繊維が適宜選択的に用いられ、一方、下地102の緯糸122には熱収縮性繊維が用いられ、糸の形態は、適用される繊維に応じた形態が採用される。尚、熱収縮性繊維としては、ポリエステル繊維,アクリル系繊維や塩化ビニル系繊維などの熱可塑性樹脂製繊維が例示され、120〜130度の低温度熱処理によって収縮し、その熱水収縮率は20〜60%であること好ましい。熱水収縮率はJIS L1013 かせ収縮率(A法、処理温度98±2℃)に準じて測定された値である。緯糸122の熱水収縮率が20%以下では、凸条部113が十分に隆起せず、また、熱水収縮率が60%以上であると凸条部113を隆起させるに好ましいが、収縮しすぎとなる。
【0087】
上記構成の織地100を加熱処理することによって、下地102の緯糸122が熱収縮し、二重袋組織部及び一重組織部が幅方向に収縮して、二重袋組織部の上地101が隆起し、織地100の長さ方向に沿った複数の凸条部113が幅方向に互いに平行となるように形成される。尚、凸条部113の高さ及び幅方向の間隔は、適度な色彩効果が発現される寸法に設定される。
【0088】
この凸条部113は、
図13に示すように、頂部106及びこの頂部106の下方に位置する2つの側壁部107,108から構成され、一方の各側壁部107は互いに略平行に設けられ、且つ他方の各側壁部108も互いに略平行に設けられる。尚、下地102、並びに凸条部113,113間の上地101は基部105を構成する。そして、側壁部107を構成する経糸111に、上述した第1の実施形態における糸Aを用い、側壁部108を構成する経糸111に糸Bを用いている。但し、頂部106及び基部105を構成する経糸111及び緯糸112、並びに下地102の経糸121は、非熱収縮性の糸であれば、糸A又は糸Bと同じ組成であっても、異なる組成であっても良い。
【0089】
尚、凸条部113は、その形状が長く維持されるように、経方向糸111及び緯方向糸112の拘束力の高い平組織で、できるだけ経方向糸111及び緯方向糸112を細繊度で高密度に製織して、硬い織物にすることが好ましい。
【0090】
本例の織地100は、経糸に上地101用と下地102用を準備した後、二重袋組織部、一重組織部を形成するよう経糸開口させて緯挿入を繰り返すことによって製織される。その際、両端部は、上地101用または下地102用の経糸のどちらかを用い、一重組織部においては一部の上地101用の経糸と下地102用の経糸を入れ替えて開口させるようにして一重組織部として一体化させる。但し、製織方法や使用する織機は、特に限定されるものではなく、適宜選定すればよい。
【0091】
次に、製織された織地100を加熱処理し、下地102の緯糸122(熱収縮性繊維糸)を収縮させて、二重織袋組織部の上地101を隆起させ、凸条部113を形成する。
【0092】
ついで、第1の実施形態と同様にして、織地100を構成する糸(経糸111,121及び緯糸112,122)の組成に応じた染料を用いて、浸漬染色やプリント(スクリーン捺染やインクジェット捺染など)などによって、各糸をそれぞれ染色することにより、少なくとも側壁部107,108を任意の色に染め分け、若しくは、それぞれに任意の色模様を付与する。
【0093】
或いは、基部105、頂部106及び側壁部107,108をそれぞれ異なる色に染め分けても良いし、一部を同色、他を異なる色にしても良いし、それぞれ異なる2色以上の色模様を付与することもでき、一部を同じ色模様、他を異なる色模様にすることもできる。
【0094】
本例の織地100によれば、第1実施形態に係る経編地1と同様に、観察者の見る方向及び角度に応じて、視認される色や色模様が変化するという色彩効果が発揮される。そして、この色模様の変化は、見る角度を繊維構造体に近い角度から徐々に上方側に移すことで、頂部106の色の中から次第に異なる色(側壁部107,108の色)が浮き上がるような、独特な視覚効果を伴ったものとして発現される。
【0095】
斯くして、このような織地100を衣服や鞄、靴などに使用すると、着用者の動きに応じて、織地100の表面に対する観察者の相対的な位置が変化して、上記色彩効果が発揮されるため、当該衣服等に非常に優れた美観や躍動感を持たせることができる。
【0096】
また、この織地100は、染色による染め分けが可能であることから、原着糸や先染め糸を使用した場合には得られない自由な選色,配色が可能で、このように様々な配色を選択することによって、そのカラーバリエーションを増やすことができ、また、複雑な模様も容易に付与することができるとともに、得られる色彩効果に多様性を持たせることができるという、極めて高い実用性を備えている。
【0097】
尚、基部105、頂部106及び側壁部107,108については、それぞれの色及び/又は色模様が異なった態様が最も多様な色彩効果を発揮するが、好ましい色彩効果を得るには、少なくとも、側壁部107,108の色及び/又は色模様が互いに異なった態様が好ましい。したがって、基部105及び頂部106については、無色(即ち、透明)であっても良い。特に、基部105を透明にし、頂部106及び側壁部107,108を有色にすると、当該基部105を目立たなくすることができ、逆に、頂部106及び側壁部107,108についてはこれを際立たせることができるため、当該頂部106及び側壁部107,108によって奏される色彩効果を高めることができる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明が採り得る態様は何らこれらに限定されるものではない。
【0099】
例えば、上例では、本発明に係る繊維構造体を経編地として具現化したが、これに限られるものではなく、緯編地であっても良い。但し、この場合も、基部と、この基部上に相互に略平行に形成された複数の凸条部とを有する必要があり、各凸条部は、それぞれ頂部及び該頂部の下方に位置する2つの側壁部から構成されるとともに、その一方の各側壁部は互いに略平行に設けられ、且つ他方の各側壁部も互いに略平行に設けられ、更に、一方の側壁部は糸Aから構成されるとともに、前記他方の側壁部は、前記糸Aとは組成の異なる糸Bから構成されていることが肝要である。
【0100】
また、上記各実施形態においては、2本の鎖編み列3a,3bを連結糸3cによって連結して頂部3を編成するようにしているが、頂部3を構成する鎖編み列の数は、これに限られるものではなく、頂部3は、3列以上の鎖編み列を連結糸によって連結して編成しても良い。