【課題】消耗電極交流パルスアーク溶接において、トーチ高さ又は電圧設定値が変化しても、アーク長を適正値に維持し、かつ、電極マイナス極性電流比率を所望値に維持すること。
【解決手段】電極マイナス極性ピーク期間Tpn中は電極マイナス極性ピーク電流Ipnを通電し、電極プラス極性ピーク期間Tp中は電極プラス極性ピーク電流Ipを通電し、電極プラス極性ベース期間Tb中は電極プラス極性ベース電流Ibを通電し、電極マイナス極性ベース期間Tbn中は電極マイナス極性ベース電流Ibnを通電し、これらの溶接電流Iwの通電を1周期として繰り返して溶接する交流パルスアーク溶接の出力制御方法において、溶接電圧Vwを制御する電圧フィードバック制御と、電極マイナス極性電流比率を制御する比率フィードバック制御とを併用する。
溶接ワイヤを送給し、電極マイナス極性ピーク期間中は電極マイナス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ピーク期間中は電極プラス極性ピーク電流を通電し、続けて電極プラス極性ベース期間中は電極プラス極性ベース電流を通電し、続けて電極マイナス極性ベース期間中は電極マイナス極性ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1周期として繰り返して溶接する交流パルスアーク溶接の出力制御方法において、
溶接電圧を制御する電圧フィードバック制御と、電極マイナス極性電流比率を制御する比率フィードバック制御とを併用する溶接電源の出力制御を行う、
ことを特徴とする交流パルスアーク溶接の出力制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る交流パルスアーク溶接の出力制御方法を示す電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0016】
同図において、時刻t1〜t2の期間が電極マイナス極性ベース期間Tbnとなり、時刻t2〜t3の期間が電極マイナス極性ピーク期間Tpnとなり、時刻t3〜t4の期間が電極プラス極性ピーク期間Tpとなり、時刻t4〜t5の期間が電極プラス極性ベース期間Tbとなり、時刻t5〜t6の期間が再び電極マイナス極性ベース期間Tbnとなる。
【0017】
時刻t2〜t3の電極マイナス極性ピーク期間Tpnは、立ち上り期間と、ピーク期間と、立ち下り期間とから形成される。同図(A)に示すように、電極マイナス極性ピーク電流Ipnは、立ち上り期間中は、電極マイナス極性ベース電流Ibnからピーク値まで直線状に増加する。ピーク期間中は、ピーク値を維持する。立ち下り期間中は、ピーク値から電流変化率の絶対値が連続的に大きくなるように予め定めた極性切換電流値(50A程度)まで曲線状に減少する。時刻t3において、電極マイナス極性ピーク電流Ipnが極性切換電流値の状態で、電極マイナス極性ENから電極プラス極性EPへと極性が切り換えられる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは電流波形と相似したパルス波形となる。極性切換時には、アーク切れを防止するために、数百Vの高電圧が溶接電圧Vwに短時間だけ重畳される。
【0018】
ピーク期間が電極マイナス極性ピーク期間Tpnに占める時間比率が20%未満になるように設定される。このようにすることによって、溶滴に作用するアーク圧力及び溶融池から噴出する金属蒸気による反発力を緩和することができる。この結果、電極マイナス極性ピーク期間Tpnにおける溶滴の成長を安定化することができ、常に所望サイズの溶滴を形成することができる。ピーク期間の時間比率が20%超となると、反発力が強くなり、溶滴の成長が不安定化する。ピーク期間の時間比率は10%未満であることがさらに望ましい。このようにすると、さらに反発力が弱くなり、溶滴の成長がさらに安定化する。
【0019】
さらに、立ち下り期間は立ち上り期間よりも2倍以上長い期間に設定されることが望ましい。このようにすると、溶滴への入熱の降下速度が緩やかになり、溶滴の成長がより安定化する。さらに、立ち下り期間は立ち上り期間よりも3倍以上長い期間に設定されることがより望ましい。このようにすると、溶滴への入熱の降下速度がより一層緩やかになり、溶滴の成長が一段と安定化する。
【0020】
時刻t3〜t4の電極プラス極性ピーク期間Tpは、立ち上り期間と、ピーク期間と、立ち下り期間とから形成される。同図(A)に示すように、電極プラス極性ピーク電流Ipは、立ち上り期間中は、上記の極性切換電流値から予め定めたピーク値まで電流変化率の絶対値が連続的に小さくなるように増加する。ピーク期間中は、ピーク値を維持する。立ち下り期間中は、ピーク値から電極プラス極性ベース電流Ibまで電流変化率の絶対値が連続的に小さくなるように減少する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは電流波形と相似したパルス波形となる。
【0021】
ピーク期間が電極プラス極性ピーク期間Tpに占める時間比率が20%未満になるように設定される。このようにすることによって、溶滴に作用するアーク圧力を緩和することができる。この結果、母材が薄板であるときの溶け落ちを防止することができるので、高品質な薄板溶接が可能となる。特に、母材の材質がステンレス鋼であるときは、この作用効果が顕著となる。したがって、ステンレス鋼溶接を行うときは、この波形にすることが望ましい。
【0022】
ピーク期間の時間比率が20%超となると、アーク圧力が強くなり、溶け落ちが発生するおそれが高くなる。ピーク期間の時間比率は10%未満であることがさらに望ましい。このようにすると、さらにアーク圧力が弱くなり、溶け落ちの発生確立が低くなる。
【0023】
立ち上り期間中の電極プラス極性ピーク電流Ipは、電流値が大きいほど変化率の絶対値が小さくなるように変化する。このために、アーク圧力の変化がより緩和される。さらに、立ち下り期間中の電極プラス極性ピーク電流Ipは、電流値が大きいときは変化率の絶対値が大きくなる。このために、アークの指向性が強くなり、磁気吹き等によるアーク不安定を抑制することができる。かつ、電流値が小さくなると変化率の絶対値は小さくなる。このために、アンダーシュートによるアーク切れを抑制することができる。
【0024】
時刻t4〜t5の電極プラス極性ベース期間Tb中は、予め定めた電極プラス極性ベース電流Ibが通電する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。
【0025】
時刻t5において、電極プラス極性EPから電極マイナス極性ENへと切り換えられる。この切換時にもアーク切れを防止するために短時間だけ高電圧が印加される。時刻t5〜t6の電極マイナス極性ベース期間Tbn中は、予め定めた電極マイナス極性ベース電流Ibnが通電する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。
【0026】
時刻t2〜t6を1周期として繰り返して溶接が行われる。溶接電圧Vwの絶対値の平均値(平滑値)はアーク長に比例する。したがって、溶接電圧Vwの絶対値の平均値を検出し、この検出値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように周期を変調する電圧フィードバック制御を行うことによって、アーク長を適正値に維持することができる。周期を変調する代わりに、周期を一定値として電極プラス極性ピーク期間Tpの時間長さ(パルス幅)を変調するようにしても良い。電圧フィードバック制御は、例えば以下のようにして行う。
1)溶接電圧Vwの絶対値を検出する。
2)検出値をローパスフィルタに通すことによって溶接電圧平滑地Vavを算出する。ローパスフィルタのカットオフ周波数は1〜5Hz程度である。
3)溶接電圧平滑地Vavと予め定めた電圧設定値Vrとの電圧誤差増幅値Ev=G・(Vav−Vr)を算出する。ここで、Gは予め定めた増幅率である。
4)第n回目の周期の開始時点(時刻t2の電極マイナス極性ピーク期間Tpnの開始時点)において、周期Tf(n)=Tf(n-1)+Evによって第n回目の周期の時間長さを算出する。ここで、Tf(n)は第n回目の周期の時間長さであり、Tf(n-1)は第n−1回目の周期の時間長さである。
【0027】
次に、電極マイナス極性電流比率Rnが予め定めた電極マイナス極性電流比率設定値Rnrと等しくなるように制御する比率フィードバック制御について説明する。比率フィードバック制御は、例えば以下のように行う。
【0028】
[例1] 電極プラス極性ベース期間Tb及び電極マイナス極性ベース期間Tbnを変調して比率フィードバック制御を行う場合
Ta=Tb+Tbn及びa=Tbn/TaとしてTa及びaを定義すると、以下が成立する。
Tb=(1−a)・Ta及びTbn=a・Taとなる。
1)第n回目の周期の開始時点(時刻t2の電極マイナス極性ピーク期間Tpnの開始時点)において、上述した電圧フィードバック制御によって第n回目の周期tf(n)の時間長さが算出される。
2)Ta=Tf(n)−Tpn−Tpを算出する。Tpn及びTpは所定値である。
3)時刻t2〜t3の電極マイナス極性ピーク期間Tpn中は、Sn=∫|Iw|・dtの積分を行う。
4)時刻t3〜t4の電極プラス極性ピーク期間Tp中は、Sp=∫Iw・dtの積分を行う。
5)時刻t4の電極プラス極性ベース期間Tbの開始時点において、以下の演算を行う。Ib及びIbnは所定値(絶対値)である。
Rn=(Sn+Ibn・a・Ta)/(Sn+Sp+Ib・(1−a)・Ta+Ibn・a・Ta)
上式において、RnをRnrに置換して、aによって整理すると、下式となる。Rnrは設定値である。
a=(Rnr・Sn+Rnrnr・Sp+Rnr・Ib・Ta−Sn)/(Ta・(Ibn+Rnr・Ib+Rnr・Ibn)) …(1)式
6)Tb=(1−a)・Ta及びTbn=a・Taを算出する。
【0029】
このように、電圧フィードバック制御によって周期を決定し、比率フィードバック制御によって電極プラス極性ベース期間Tb及び電極マイナス極性ベース期間Tbnを決定する。この結果、トーチ高さが変化した場合、電圧設定値Vrが変化した場合等でも、アーク長を適正値に維持し、かつ。電極マイナス極性電流比率Rnを所望値に制御することができる。
【0030】
[例2]電極マイナス極性ベース電流Ibnを変調して比率フィードバック制御を行う場合
1)第n回目の周期の開始時点(時刻t2の電極マイナス極性ピーク期間Tpnの開始時点)において、上述した電圧フィードバック制御によって第n回目の周期tf(n)の時間長さが算出される。
2)Tbn=Tf−Tpn−Tp−Tbを算出する。Tpn、Tp及びTbは所定値である。
3)時刻t2〜t3の電極マイナス極性ピーク期間Tpn中は、Sn=∫|Iw|・dtの積分を行う。
4)時刻t3〜t4の電極プラス極性ピーク期間Tp中は、Sp=∫Iw・dtの積分を行う。
5)時刻t4の電極プラス極性ベース期間Tbの開始時点において、以下の演算を行う。Ibは所定値である。
Rn=(Sn+Ibn・Tbn)/(Sn+Sp+Ib・Tb+Ibn・Tbn)
上式において、RnをRnrに置換して、Ibnによって整理すると、下式となる。Rnrは設定値である。
Ibn=(Rnr・Sn+rnr・Sp+Rnr・Ib・Tb−Sn)/(Tbn−Rnr・Tbn) …(2)式
【0031】
このように、電圧フィードバック制御によって周期を決定し、比率フィードバック制御によって電極マイナス極性ベース電流Ibnを決定する。この結果、トーチ高さが変化した場合、電圧設定値Vrが変化した場合等でも、アーク長を適正値に維持し、かつ。電極マイナス極性電流比率Rnを所望値に制御することができる。
【0032】
図2は、
図1で上述した本発明の実施の形態1に係る交流パルスアーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した電圧フィードバック制御によって周期が制御され、上述した比率フィードバック制御によって電極プラス極性ベース期間Tb及び電極マイナス極性ベース期間Tbnが制御される場合である。同図において、上述した極性切換時の高電圧印加回路については省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0033】
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によりインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。2次整流器D2a〜D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。
【0034】
電極プラス極性トランジスタPTRは後述する電極プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極プラス極性EPになる。電極マイナス極性トランジスタNTRは後述する電極マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、このときは溶接電源の出力は電極マイナス極性ENになる。
【0035】
リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑する。
【0036】
溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0037】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0038】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwの絶対値を検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0039】
電圧平滑回路VAVは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この信号をローパスフィルタに通すことによって溶接電圧平滑信号Vavを出力する。
【0040】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0041】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧平滑信号Vavと上記の電圧設定信号Vrとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Ev=G・(Vav−Vr)を出力する。ここで、Gは予め定めた増幅率である。
【0042】
電圧フィードバック制御回路VFは、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び後述するタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1に変化した時点(電極マイナス極性ピーク期間Tpnの開始時点)において、周期信号Tf=Tf(n-1)+Evを算出して出力する。ここで、Tfは第n回目の周期の時間長さであり、Tf(n-1)は第n−1回目の周期の時間長さである。
【0043】
電極マイナス極性ピーク期間設定回路TPNRは、予め定めた電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrを出力する。
【0044】
電極プラス極性ピーク期間設定回路TPRは、予め定めた電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprを出力する。
【0045】
電極マイナス極性ピーク電流設定回路IPNRは、
図1で上述した波形を形成するための電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrを出力する。
【0046】
電極プラス極性ピーク電流設定回路IPRは、
図1で上述した波形を形成するための電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを出力する。
【0047】
電極プラス極性ベース電流設定回路IBRは、予め定めた電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0048】
電極マイナス極性ベース電流設定回路IBNRは、予め定めた電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを出力する。
【0049】
電極マイナス極性ピーク電流積分回路SNは、上記の電流検出回路Id及び後述するタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1の期間(電極マイナス極性ピーク期間Tpn)中は、Sn=∫Id|・dtの積分を行い、電極マイナス極性ピーク電流積分信号Snを出力する。
【0050】
電極プラス極性ピーク電流積分回路SPは、上記の電流検出回路Id及び後述するタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=2の期間(電極プラス極性ピーク期間Tp)中は、Sp=∫Id|・dtの積分を行い、電極プラス極性ピーク電流積分信号Spを出力する。
【0051】
電極マイナス極性電流比率設定回路RNRは、予め定めた電極マイナス極性電流比率設定信号Rnrを出力する。
【0052】
比率フィードバック制御回路RFは、上記の周期信号Tf、上記の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr、上記の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibr、上記の電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnr、上記の電極マイナス極性ピーク電流積分信号Sn、上記の電極プラス極性ピーク電流積分信号Sp及び上記の電極マイナス極性電流比率設定信号Rnrを入力として、上述した(1)式に基づいて電極マイナス極性ベース期間設定信号Tbnr及び電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを算出する。
【0053】
タイマ回路TMは、上記の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr、上記の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbr及び上記の電極マイナス極性ベース期間設定信号Tbnrを入力として、電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnrによって定まる期間中はその値が1となり、続いて電極プラス極性ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中はその値が2となり、続いて電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrによって定まる期間中はその値が3となり、続いて電極マイナス極性ベース期間設定信号Tbnrによって定まる期間中はその値が4となり、これらの処理を繰り返してタイマ信号Tmを出力する。
【0054】
切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnr、上記の電極プラス極性ピーク電流設定信号Ipr、上記の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibr及び上記の電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを入力として、タイマ信号Tm=1のとき電極マイナス極性ピーク電流設定信号Ipnrを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=2のとき電極プラス極性ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=3のとき電極プラス極性ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力し、タイマ信号Tm=4のとき電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを電流設定信号Irとして出力する。
【0055】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0056】
駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1又は4のとき電極マイナス極性駆動信号Ndを出力し、タイマ信号Tm=2又は3のとき電極プラス極性駆動信号Pdを出力する。これによって、電極マイナス極性ベース期間及び電極マイナス極性ピーク期間は電極マイナス極性となり、電極プラス極性ピーク期間及び電極プラス極性ベース期間は電極プラス極性となる。
【0057】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、その値に対応した送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記のワイヤ送給モータWMに出力する。
【0058】
図3は、
図1で上述した本発明の実施の形態1に係る交流パルスアーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源の
図2とは異なるブロック図である。同図は、上述した電圧フィードバック制御によって周期が制御される点は
図2と同一である。同図においては、上述した比率フィードバック制御によって電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrが制御される点が
図2とは異なっている。同図において、
図2と同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図2の電極マイナス極性ベース電流設定回路IBNRを削除し、
図2に電極プラス極性ベース期間設定回路TBRを追加し、
図2に電極マイナス極性ベース期間設定回路TBNRを追加し、
図2の比率フィードバック制御回路RFを第2比率フィードバック制御回路RF2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0059】
電極プラス極性ベース期間設定回路TBRは、予め定めた電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを出力する。
【0060】
電極マイナス極性ベース期間設定回路TBNRは、上記のタイマ信号Tm、上記の周期信号Tf、上記の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr及び上記の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbrを入力として、タイマ信号Tm=1に変化した時点において、電極マイナス極性ベース期間設定信号Tbnr=Tf−Tpnr−Tpr−Tbrを算出する。
【0061】
第2比率フィードバック制御回路RF2は、上記の電極マイナス極性ピーク期間設定信号Tpnr、上記の電極プラス極性ピーク期間設定信号Tpr、上記の電極プラス極性ベース期間設定信号Tbr、上記の電極マイナス極性ベース期間設定信号Tbnr、上記の電極プラス極性ベース電流設定信号Ibr、上記の電極マイナス極性ピーク電流積分信号Sn、上記の電極プラス極性ピーク電流積分信号Sp及び上記の電極マイナス極性電流比率設定信号Rnrを入力として、上述した(2)式に基づいて電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを算出する。
【0062】
上述した実施の形態1によれば、溶接電圧を制御する電圧フィードバック制御と、電極マイナス極性電流比率を制御する比率フィードバック制御とを併用する溶接電源の出力制御を行う。電圧フィードバック制御によって溶接電圧を制御してアーク長を適正値に維持する。比率フィードバック制御によって電極マイナス極性電流比率を所望値に制御する。このために、トーチ高さが変化した場合又は電圧設定値Vrが変化した場合でも、アーク長を適正値に維持し、かつ。電極マイナス極性電流比率を所望値に制御することができる。
【0063】
実施の形態1において、電圧フィードバック制御は周期を変化させて前記溶接電圧を制御する。ようにしても良い
【0064】
実施の形態1において、比率フィードバック制御は溶接電流の波形パラメータの少なくとも1つを変化させて前記電極マイナス極性電流比率を制御する。この波形パラメータは電極プラス極性ベース期間及び電極マイナス極性ベース期間であっても良い。また、波形パラメータは電極マイナス極性ベース電流であっても良い。
【0065】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、溶接電流の検出信号から電極マイナス極性電流比率を算出し、比率フィードバック制御は、算出された電極マイナス極性電流比率が予め定めた電極マイナス極性電流比率設定信号と等しくなるように電極マイナス極性ベース電流を制御するものである。
【0066】
本発明の実施の形態2に係る交流パルスアーク溶接の出力制御方法を示す電流・電圧波形図は、上述した
図1と同一であるので、説明は繰り返さない。但し、比率フィードバック制御の方法が異なっている。実施の形態1では、毎周期ごとに(1)式又は(2)式に基づいて電極マイナス極性電流比率Rnが電極マイナス極性電流比率設定信号Rnrと等しくなるように波形パラメータを決定している。これに対して、実施の形態2では、以下のようにして比率フィードバック制御を行う。
1)溶接中に、単位時間又は所定周期(以下、所定期間という)ごとに、実際の溶接電流Iwの検出信号Idから電極マイナス極性電流比率を算出する。
2)所定期間ごとに、予め定めた電極マイナス極性電流比率設定信号Rnr(+)と電極マイナス極性電流比率算出信号Rnd(−)との比率誤差増幅値Ehを算出する。
3)所定期間ごとに、電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrの値を比率誤差増幅値Ehだけ修正する(比率誤差増幅値Ehを積分して修正する)。
【0067】
実施の形態1においては、電圧フィードバック制御及び比率フィードバック制御の制御周期はパルス周期ごとであり、10ms程度である。これに対して、実施の形態2においては、電圧フィードバック制御の制御周期はパルス周期ごとであるが、比率フィードバック制御の制御周期は100〜1000ms程度に設定する。実施の形態2においてこのように10倍以上長く設定するのは、電圧フィードバック制御と比率フィードバック制御との併用によるフィードバック制御系の不安定を回避するためである。
【0068】
図4は、本発明の実施の形態2に係る交流パルスアーク溶接の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図3と対応しており、
図3と同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図3に電極マイナス極性電流比率算出回路RNDを追加し、
図3の第2比率フィードバック制御回路RF2を第3比率フィードバック制御回路RF3に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0069】
電極マイナス極性電流比率算出回路RNDは、上記の電流検出信号Id及び上記のタイマ信号Tmを入力として、所定期間ごとに電流検出信号Idの積分地Sav並びにタイマ信号Tmが1及び4(EN期間)のときの電流検出信号Idの積分地Senを算出し、Sen/Savの除算によって電極マイナス極性電流比率算出信号Rndを算出する。
【0070】
第3比率フィードバック制御回路RF3は、上記の電極マイナス極性電流比率設定信号Rnr及び上記の電極マイナス極性電流比率算出信号Rndを入力として、これらの比率誤差増幅値Ehを算出して積分し、電極マイナス極性ベース電流設定信号Ibnrを出力する。
【0071】
上述した実施の形態2によれば、溶接電流の検出信号から電極マイナス極性電流比率を算出し、比率フィードバック制御は、算出された電極マイナス極性電流比率が予め定めた電極マイナス極性電流比率設定信号と等しくなるように電極マイナス極性ベース電流を制御する。これにより、実施の形態2は、実施の形態1と同様の降下を奏する。さらに、実施の形態2では、実際の溶接電流の検出信号から電極マイナス極性電流比率を算出しているので、正確に電極マイナス極性電流比率を制御することができる。さらに、実施の形態2では、電圧フィードバック制御の制御周期と比率フィードバック制御の制御周期とを異なる値に設定することができるので、両フィードバック制御を併用しても制御系を安定化させることができる。