【解決手段】本発明に係る光学体は、複数の単レンズからなる単レンズ群で構成された非周期構造領域が単独又は複数集合したものであり、前記非周期構造領域では、前記単レンズ群の配置状態が全体として非周期的であり、前記非周期構造領域の大きさと、当該非周期構造領域における前記単レンズの平均開口径と、の比が25倍以上である。
前記非周期構造領域では、前記単レンズ群の配置ピッチもしくは前記単レンズの開口径、又は、前記単レンズの曲率半径もしくは前記単レンズの形状の少なくとも何れか、又は、前記単レンズ群の配置ピッチもしくは前記単レンズの開口径及び前記単レンズの曲率半径もしくは前記単レンズの形状の少なくとも何れか、が変化している、請求項1に記載の光学体。
前記非周期構造領域では、前記単レンズ群の配置ピッチもしくは前記単レンズの開口径、又は、前記単レンズの曲率半径もしくは前記単レンズの形状の少なくとも何れか、又は、前記単レンズ群の配置ピッチもしくは前記単レンズの開口径及び前記単レンズの曲率半径もしくは前記単レンズの形状の少なくとも何れか、の基準からの変化率が、5%以上である、請求項1又は2に記載の光学体。
前記非周期構造領域における前記単レンズの表面形状は、基準曲率半径R[μm]及び基準開口径D[μm]がR≧(D/2)の関係を満足する球面形状、又は、非球面形状である、請求項1〜3の何れか1項に記載の光学体。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(本発明の実施形態に係る光学体の概要)
本発明の実施形態に係る光学体について詳細に説明するに先立ち、本発明の実施形態に係る光学体の概要について、以下で簡単に言及しておく。
【0024】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る光学体は、光の均質拡散機能を備えたマイクロレンズアレイ型の光学体である。かかる光学体は、光拡散機能を有する凸面又は凹面のマイクロレンズが、非周期的に配列展開された構造体を有している。
【0025】
以下で詳述するように、従来の非周期性マイクロレンズアレイ構造の領域内、又は、非周期性の構造領域が周期性をもって広域に配列展開した領域内において、非周期性構造の一定領域の分散性の差異から、非周期性の構造よりも大きなマクロ構造が見出されてしまうことが、本発明者らによって明らかとなった。具体的には、非周期構造体により粒状性の改善や明るいボケ味、及びモアレ抑制などの改善効果がある場合であっても、構造体内の基本構造の分散性によっては、マクロ状の斑模様が視認されることが明らかとなった。
【0026】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る光学体は、基本構造となる非周期性のマイクロレンズアレイのミクロ構造領域内、及び、かかる基本構造が周期性をもって広域に配列展開したマクロ構造領域においても、ミクロ構造とマクロ構造との大きさの比率を25倍以上とすることで、非周期構造よりも大きなマクロ構造が視認されない。
【0027】
また、本発明の実施形態に係る光学体は、以上の効果により、液晶バックライト、各種照明装置(LED、レーザーなど)、プロジェクタなどの投光装置といった、高明度で高諧調な画像表示装置などにおいて、均質な表示体を提供することが可能となる。また、配光角度分布の変形機能をもつことから、光斑を抑制し、所定の配光分布に制御した小型の照明装置や、高精度な光計測装置、計測医療装置などを提供できる。
【0028】
以下では、以上のような特徴を有する本発明の実施形態に係る光学体について、詳細に説明する。
【0029】
(光学体について)
以下では、
図1〜
図22Cを参照しながら、本発明の実施形態に係る光学体について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る光学体を模式的に示した説明図である。
図2A及び
図2Bは、本実施形態に係る光学体を形成する単位セルの配置について説明するための説明図である。
図3は、本実施形態に係る単位セルの一部を模式的に示した説明図である。
図4及び
図5は、本実施形態に係る光学体が有する単レンズについて説明するための説明図である。
図6は、本実施形態に係る光学体が備える単レンズ群の一例を上方から見た電子顕微鏡写真である。
図7A〜
図8Bは、本実施形態に係る光学体が備える単レンズ群の配置方法について説明するための説明図である。
図9は、マクロパターンの視認方法について説明するための説明図である。
図10A及び
図10Bは、マクロパターンの視認結果の一例を示した説明図である。
図11及び
図12は、マクロパターンの視認に関する光学体の開口径と単位セルの大きさとの関係を説明するための説明図である。
図13〜
図21は、マクロパターンの有無の確認結果の一例を示した説明図である。
図22A〜
図22Cは、本実施形態に係る光学体について説明するための説明図である。
【0030】
本実施形態に係る光学体1は、基板上に複数のマイクロレンズ(単レンズ)からなるマイクロレンズ群が配置された、マイクロレンズアレイ型の光学体である。かかる光学体1は、
図1に模式的に示したように、複数の単位セル3から構成されている。また、単位セル3間では、
図1右側の図に模式的に示したように、単位セル3内に設けられた複数のマイクロレンズのレイアウトパターン(配置パターン)が単位セルの配列方向(換言すれば、アレイ配列方向)に連続となっている。
【0031】
ここで、
図1では、光学体1を構成する単位セル3の形状が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、単位セル3の形状は、
図1に示したものに限定されるものではなく、例えば、正三角形状や正六角形状などのように、平面を隙間なく埋めることが可能な形状であれば良い。
【0032】
本実施形態に係る光学体1を構成する単位セル3の個数は、特に限定するものではなく、光学体1が一つの単位セル3から構成されていてもよいし、複数個の単位セル3から構成されていてもよい。
【0033】
ここで、各単位セル3は、以下で詳述するように、非周期的な構造からなる非周期構造領域として捉えることが可能である。かかる単位セル3では、単レンズ群の配置ピッチもしくは単レンズの開口径、又は、単レンズの曲率半径もしくは単レンズの形状の少なくとも何れか、又は、単レンズ群の配置ピッチもしくは単レンズの開口径及び単レンズの曲率半径もしくは単レンズの形状の少なくとも何れか、が変化している。
【0034】
本実施形態に係る光学体1は、
図2Aに模式的に示したように、互いに異なる非周期構造を有する単位セル3が繰り返し配置された光学体であってもよいし、
図2Bに模式的に示したように、互いに同一の非周期構造を有する単位セル3が繰り返し配置された光学体であってもよい。
【0035】
図3は、本実施形態に係る単位セル3の一部の構造を模式的に示した説明図である。
図3に模式的に示したように、本実施形態に係る単位セル3は、透明基板10と、透明基板10の表面に形成されたマイクロレンズ群20と、を有している。
【0036】
<透明基材10について>
透明基材10は、本実施形態に係る光学体1に入射する光の波長帯域において、透明とみなすことが可能な材質からなる基材である。かかる透明基材10は、フィルム状のものであっても良いし、板状のものであっても良い。かかる基材の材質については、特に限定するものではないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(polymenthyl methacrylate:PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリカーボネート(polycarbonate:PC)、環状オレフィン・コポリマー(Cyclo Olefin Copolymer:COC)、環状オレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer:COP)、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose:TAC)等といった公知の樹脂を透明基材10として用いることも可能であるし、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等といった公知の光学ガラスを用いることも可能である。
図3では、透明基材10が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、透明基材10の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば光学体1が実装される表示装置、投影装置、照明装置等の形状に応じて、任意の形状を有していても良い。
【0037】
<単レンズ群20について>
透明基材10の表面には、複数の単レンズ21からなる単レンズ群20が形成されている。本実施形態に係る光学体1において、単レンズ群20は、
図3に模式的に示したように、複数の単レンズ21が互いに隣接するように(換言すれば、単レンズ21間に隙間(平坦部)が存在しないように)形成されることが好ましい。透明基材10上に単レンズ21を隙間なく配置させる(換言すれば、単レンズの充填率が100%となるように配置させる)ことで、入射光のうち拡散板表面で散乱せずにそのまま透過してしまう成分(以下、「0次透過光成分」ともいう。)を抑制することが可能となる。その結果、複数の単レンズ21が互いに隣接するように配置された単レンズ群20では、拡散性能を更に向上させることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、
図3に模式的に示したように、各単レンズ21は、規則的に配置されているのではなく、不規則に(ランダムに)配置されている。ここで、「不規則」とは、光学体1における単レンズ群20の任意の領域において、単レンズ21の配置に関する規則性が実質的に存在しないことを意味する。従って、任意の領域での微小領域において単レンズ21の配置にある種の規則性が存在したとしても、任意の領域全体として単レンズ21の配置に規則性が存在しないものは、「不規則」に含まれるものとする。なお、本実施形態に係る単レンズ群20における単レンズ21の不規則な配置方法については、以下で改めて詳述する。
【0039】
本実施形態において、単レンズ群20を構成する単レンズ21は、
図3に模式的に示したように凸レンズとなっていてもよいし、凹レンズとなっていてもよい。また、本実施形態に係る単レンズ群20では、各単レンズ21の表面形状は、特に限定されるものではなく、球面成分のみを含むものであっても良いし、非球面成分が含まれていてもよい。
【0040】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、上記のような各単レンズ21の配置のみならず、各単レンズ21の開口径及び曲率半径についても、単レンズ群20全体でばらつきを有している。
【0041】
複数の単レンズ21が互いに隣接するように設けられ、単レンズ21が透明基材10上に不規則に形成され、かつ、各単レンズ21の開口径及び曲率半径にばらつき(ランダム性)を持たせることで、それぞれの単レンズ21の外形は、互いに同一の形状とはならず、
図3に模式的に示したように様々な形状を有するようになり、対称性を有しなくなるものが多くなる。
【0042】
このような場合、
図4に模式的に示したように、単レンズAでは曲率半径がr
Aであるのに対し、単レンズBでは曲率半径がr
B(≠r
A)となるという状況も多く生じるようになる。隣接する単レンズの曲率半径が異なる場合、隣接する単レンズ間の境界は直線のみで構成されるのではなく、その少なくとも一部に曲線を含むようになり、
図5に模式的に示したように、単レンズ21の外形(単レンズ21を俯瞰した場合の外形の投影軌跡)は、互いに異なる複数の湾曲及び曲面の境界で構成されるようになる。単レンズ間の境界の少なくとも一部に曲線が含まれることで、単レンズ間の境界での配置の規則性が更に崩れることとなり、回折成分を更に低減することが可能となる。
【0043】
図6は、本実施形態に係る光学体1における単レンズ群20の一部を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により上方から観察した場合のSEM写真である。
図6から明らかなように、単レンズ群20を構成する単レンズ21の外形(俯瞰投影軌跡)は、様々な形状を有しており、単レンズ21の開口径も互いに相違していることがわかる。
【0044】
<単レンズ21の配置方法について>
以下では、以上説明したような単レンズ21の配置方法について、具体的に説明する。
本実施形態に係る光学体1の単位セル3において、上記のような特徴を有する複数の単レンズ21が配置された単レンズ群20は、主に以下の2つの配置方法により実現することが可能である。
【0045】
一つの配置方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を、初めからランダムに配置していく配置方法である。以下、この配置方法を、「ランダム配置方法」ともいう。この配置方法では、基準となる形状を有する単レンズ21をランダムに配置した上で、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)をばらつかせる(摂動させる)。そのため、
図6に示した、実際の単レンズ群20の配置の様子を示したSEM写真から明らかなように、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰した場合であっても、単レンズ21の配置に規則性を見出すことはできない。
【0046】
もう一つの配列方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を規則的に配列させた基準となる状態(以下、「初期配列状態」ともいう。)をひとまず設定した上で、かかる初期配列状態から、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)と、配置位置(より詳細には、単レンズ21の頂点位置)と、をばらつかせる(摂動させる)方式である。以下、この配置方法を、「基準配置方法」ともいう。この配置方法では、規則的な単レンズ21の配列を経たうえで、単レンズ21の形状及び配置にランダム性を持たせるため、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰すると、初期配列状態をある程度推定できるような配置となっている。
【0047】
[ランダム配置方法について]
まず、
図7A及び
図7Bを参照しながら、ランダム配置方法の流れについて、簡単に説明する。
ランダム配置方法では、
図7Aに示したように、レンズ配置位置をxy座標系で考えた場合に、レンズ配置位置のx座標及びy座標を、乱数で決定していく。この際、着目している単レンズ21について、既に配置されている各単レンズ21との距離を計算し、既に配置されている単レンズ21との重なり幅が、予め設定されている許容範囲内であれば、着目している単レンズ21を配置していくようにする。逆に、計算した重なり幅が許容範囲を超える場合には、着目している単レンズ21は配置しないようにする。このようにして、ランダム配置方法における初期配列が決定される。
【0048】
上記のような配置方法における許容範囲が、
図7Bに示した最大重ね合わせ量O
vである。この最大重ね合わせ量O
vは、互いに隣接する単レンズ21との重なり幅の最大値として捉えることが可能である。
【0049】
以上がランダム配置方法の概略であるが、より具体的なランダム配置方法のアルゴリズムは特に限定されるものではなく、例えば、特開2012−181816号公報に開示されているような公知の方法を利用することが可能である。
【0050】
以上のようにして初期配列を決定した後、
図7Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となり、平坦部の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
以上のようなランダム配置方法において、単レンズ群20における、互いに隣接する2つの単レンズ21の重なり幅の最大値をO
v[μm]とし、互いに隣接する2つの単レンズ21の開口径を、それぞれD
1[μm]、D
2[μm]としたときに、以下の式(101)で表される関係が成立することが好ましい。下記式(101)で表される関係が成立しない場合には、ランダム配置を実現するためのパラメータのばらつき度合いが不十分となり、十分なランダム性を実現することが困難となる可能性がある。
【0053】
[基準配置方法について]
続いて、
図8A及び
図8Bを参照しながら、基準配置方法の流れについて、簡単に説明する。
図8Aに示したように、基準配置方法では、まず、基準となる初期配列状態をまず設定する。単レンズ21の規則的な配列状態は、特に限定するものではなく、単レンズ21の頂点位置が正方形状に配置される四角配置や、正六角形の頂点及び正六角形の中心に対応する位置に単レンズ21の頂点位置が配置される六角配置等を適宜利用すればよい。この際、基準配置方法を実施した後の単レンズ群20に、なるべく平坦部を生じさせないようにするために、規則的な配列状態は、六方最密格子等のような最密配列状態にすることが好ましい。
【0054】
かかる基準配置方法では、
図8A左側中段の図に示したように、格子間隔(
図8Bにおける基準格子ピッチG)をパラメータとする。その上で、
図8A左側下段の図に示したように、パラメータである格子間隔を、最密パターンに対応する値から小さくしていく。これにより、
図8A右側上段の図に示したように、各単レンズが重なりあうようになり、平坦部が無くなる。
【0055】
その後、
図8A右側中段の図に示したように、各単レンズ21のレンズ中心(頂点位置)を、格子点からランダムに動かしていく。具体的には、格子点からの最大移動距離をパラメータとし(
図8Bにおける最大摂動量M)、0〜1の乱数と最大移動距離との積を移動距離として、個々に決定していく。また、移動角度についても、乱数を用いて決定していく。これにより、
図8A右側下段の図に示したように、最終的な単レンズ21の配置パターンが決定することとなる。
【0056】
その後、
図8Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となる。
【0057】
以上、
図7A〜
図8Bを参照しながら、本実施形態に係る単レンズ21の配置方法について、具体的に説明した。
【0058】
以上のような単位セル3の配置方法において、単レンズ群の配置ピッチもしくは単レンズの開口径、又は、単レンズの曲率半径もしくは単レンズの形状の少なくとも何れか、又は、単レンズ群の配置ピッチもしくは単レンズの開口径及び単レンズの曲率半径もしくは単レンズの形状の少なくとも何れか、の基準からの変化率(すなわち、上記の各配置方法における摂動量)は、5%以上であることが好ましい。基準からの変化率(すなわち、摂動量)が5%以上となることで、単位セル3を構成する単レンズ群20に確実に非周期性を導入することが可能となる。
【0059】
また、単位セル3における単レンズ21の表面形状は、基準曲率半径R[μm]及び基準開口径D[μm]がR≧(D/2)の関係を満足する球面形状であるか、又は、非球面形状であることが好ましい。単位セル3を構成する単レンズ21の表面形状が、上記のような表面形状を有することで、いわゆるトップハット型の拡散特性をより確実に実現させることが可能となる。
【0060】
なお、トップハット型の拡散特性とは、可視光領域のコリメート光や、コリメート性のある主光線を有して一定の開口を持つテレセントリック光に対して、一定領域における角度成分内でエネルギー分布の均質性が非常に高く、この角度成分の一定領域を超過するとエネルギーが急激に減少し得る光学機能をいう。かかる拡散特性が実現されることで、単レンズ群20に入射した光の拡散光の輝度分布が、所定の拡散角度範囲で略均一となり、所定の拡散角度範囲内で、拡散光の輝度値がピーク値を中心として±10%の範囲内に収まっている状態が実現される。
【0061】
また、上記のような単位セル3において、基準開口径Dは、30μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0062】
<光学体で視認されうるマクロパターンについて>
先だって言及したように、本発明者らは、非周期構造を有する単位セル3を周期的に配置して光学体1を形成した際に、単位セル3内の基本構造の分散性によっては、マクロ状の斑模様が視認されることを確認した。以下、本発明者らが確認した光学体で視認されうるマクロパターンについて、詳細に説明する。
【0063】
本発明者らが着目しているマクロパターンは、
図9に模式的に示したように、非周期構造を有する単位セルを周期的に配置することで形成した光学体に対して、LED光源から出射された照明光をコリメートレンズによりコリメート光とした、ケーラー照明系の光束を照射し、単レンズ群20面の状態を撮像レンズによりCCDやCMOS等の撮像素子上に集光させることで、画像として確認することができる。
【0064】
図10Aは、本発明者らが着目しているマクロパターンが確認されたマクロパターンの視認結果の一例を示したものである。
図10A上段の撮像画像から明らかなように、画像中には、単位セル3の大きさよりも大きな単位での規則性を有する斑模様(すなわち、マクロパターン)が存在しており、
図10A下段に示した断面の輝度プロファイルにおいても、周期的に輝度ピークが存在していることが確認できる。
【0065】
一方、
図10Bは、本発明者らが着目しているマクロパターンが確認されなかったマクロパターンの視認結果の一例を示したものである。
図10B上段の撮像画像において明らかなように、画像中には、規則性を有する斑模様は確認されず、
図10B下段に示した断面の輝度プロファイルにおいても、輝度値は細かに振動しており、
図10Aに示したような周期的な輝度ピークは、存在しないことがわかる。
【0066】
このようなマクロパターンを与える基本構造の分散性について、本発明者らは、
図11に模式的に示したように、単位セル3を構成する単レンズ21の平均開口径D
AVE(単レンズ21の基準開口径Dでもある。)と、単位セル3の配置方向に沿った長さ(すなわち、単位セル3の一辺の長さ)Lと、の関係に着目して、鋭意検討を行った。
【0067】
ここで、実際に単レンズ群20を製造するに際して、いかなる製造方法を用いる場合であっても、これ以上は精細に描画を行うことができないという分解能が存在する。以下では、かかる描画上生じる分解能を、最小ドットサイズと称することとする。最小ドットサイズが製造上の制約等に起因して決まると、単位セル3の一辺の長さLは、最小ドットサイズに、単位セル3を構成する画素数を乗じたものとなる。すなわち、最小ドットサイズが1画素あたりΔ[μm]であり、単位セル3をP画素×P画素の大きさで製造する場合には、単位セル3の一辺の長さL=Δ×Pで表されることとなる。
【0068】
本発明者らは、単位セル3における単レンズ21の開口径の平均値D
AVE(=単レンズ21の基準開口径D)=30μmに固定した上で、最小ドットサイズΔ=0.8μm(これは、現時点で光学体を製造する際に一般的に用いられる製造方法において、最小のドットサイズである。)として、1辺のドット数Pを変えながら、光学体を上記のランダム配置方法に則してそれぞれ製造し、マクロパターンが確認されるかを検証した。なお、光学体の製造に際して、基準曲率半径Rの値は20μmに固定しており、基準開口径D及び基準曲率半径Rの摂動量δは、それぞれ5%とした。マクロパターンの確認は、
図9に模式的に示した方法を利用した。また、一部の光学体については、市販の光線追跡シミュレーション用アプリケーションを利用して、拡散光の状態をシミュレートした。
【0069】
得られた結果を
図12に示し、各光学体のマクロパターンの確認結果については、
図13〜20にそれぞれ示した。
【0070】
なお、
図13は、ドット数P=5000画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を3×3=9枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
図14は、ドット数P=2000画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を2×2=4枚配置した場合の撮像画像と、をあわせて示している。
図15は、ドット数P=1000画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を5×5=25枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
図16は、ドット数P=750画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を6×6=36枚配置した場合の撮像画像と、をあわせて示している。
図17は、ドット数P=400画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を12×12=144枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
図18は、ドット数P=250画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を12×12=144枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
図19は、ドット数P=200画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を25×25=625枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
図20は、ドット数P=125画素の結果であり、図中に、かかる単位セル3の表面形状と、かかる単位セル3を40×40=1600枚配置した場合の撮像画像と、かかる光学体の拡散光状態のシミュレーション結果と、をあわせて示している。
【0071】
図13〜
図20を互いに比較すると明らかなように、1辺の画素数Pの値が小さくなるにつれて、単位セル3内に占める単位レンズ21の大きさは相対的に大きくなっていくことがわかる。また、1辺の画素数Pの値が5000画素〜1000画素の撮像画像では、規則的な模様は発生していないが、1辺の画素数Pの値が750画素以下となると、撮像画像中に、規則的な模様が生じていることがわかる。更には、1辺の画素数Pの値が250画素以下となると、拡散光状態のシミュレーション結果内に、マクロ周期の回折光が生じていることが確認できる。
【0072】
かかる検証結果について、単位セル3の一辺の大きさLと開口径D
AVEとの寸法比を算出すると、
図12中に示したようになる。寸法比20倍に対応するP=750画素の結果では、マクロパターンが確認され、寸法比26.67倍に対応するP=1000画素の結果では、マクロパターンが確認されなかったことから、本発明者らは、寸法比を25倍以上とすることで、マクロパターンの発生を抑制できるとの知見を得るに至った。
【0073】
かかる知見を検証すべく、基準開口径D=250μm、基準曲率半径R=200μm、摂動量δ=±5%、最小ドットサイズΔ=0.8μm、寸法比25倍として、単位セル3を製造し、製造した単位セル3を5×5=25枚配置した場合の撮像画像を確認した。得られた結果を、
図21に示した。
図21に示した25枚配置した場合の撮像画像からも明らかなように、基準開口径Dを変えた場合であっても、寸法比を25倍以上とすることで、マクロパターンの発生を抑制できていることがわかる。
【0074】
かかる結果から、本発明者らは、非周期構造領域である単位セル3の大きさと、単位セル3における単レンズ21の平均開口径D
AVEと、の比が25倍以上である光学体を製造すれば、マクロパターンの発生を抑制可能であるとの知見を確信するに至った。なお、寸法比の上限値は、特に規定するものではなく、大きければ大きいほど良い。
【0075】
<光学体の拡散特性について>
以上説明したような、非周期構造領域である単位セル3の大きさと、単位セル3における単レンズ21の平均開口径D
AVEと、の寸法比が25倍以上となっている光学体1の拡散特性について、
図22A〜
図22Cを参照しながら説明する。
【0076】
本実施形態に係る光学体1は、単位セル3を構成する単レンズ群20の基準開口径D、基準曲率半径R、摂動量δ等を適切に制御したり、非球面形状を導入したりすることによって、所望の拡散特性を実現することができる。より詳細には、本実施形態に係る光学体1は、上記のような適切な調整を行うことで、拡散半角(拡散半値幅)が20度以上となる光学体を製造することも可能であるし、拡散半角(拡散半値幅)が10度以下となる光学体を製造することも可能である。
【0077】
ここで、
図22Aに示したような極めて狭帯域の入射光を、本実施形態に係る光学体1に入射させることで、
図22Bに示したように、20度以上の拡散半角となる拡散特性を実現することも可能であり、
図22Cに示したように、10度以下の拡散半角となる拡散特性を実現することも可能である。なお、
図22Bに示した光学体1は、基準開口径D=30μm、基準曲率半径R=20μm、摂動量δ=5%、寸法比=26.7として製造した単位セル3からなる光学体であり、
図22Cに示した光学体1は、基準開口径D=80μm、基準曲率半径R=200μm、摂動量δ=10%、寸法比=50として製造した単位セル3からなる光学体である。
【0078】
拡散半角(拡散半値幅)が20度以上である光学体は、人間の視認しやすい拡散光の領域に好適に利用することが可能であり、スポット照明やベース照明等に利用される各種の照明装置や、各種の特殊ライティングや、中間スクリーンや最終スクリーン等の各種のスクリーン等に利用することができる。
【0079】
一方、拡散半角(拡散半値幅)が10度以下である光学体は、光学装置における光源光の拡散制御などの領域に好適に利用することが可能であり、LED光源装置の配光制御、レーザ光源装置の配光制御、各種ライトバルブ系への入射配光制御等に利用することができる。
【0080】
以上、
図1〜
図22Cを参照しながら、本実施形態に係る光学体について、詳細に説明した。
【0081】
(光学体の製造方法の一例について)
以下では、
図23を参照しながら、本発明の実施形態に係る光学体1の製造方法の一例について、簡単に説明する。
図13は、本実施形態に係る光学体の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0082】
本実施形態に係る光学体の製造方法では、まず、基盤の洗浄が実施される(ステップS101)。かかる基盤は、例えば、ガラスロールのようなロール状のものであってもよく、ガラスウェハのような平板状のものであってもよい。
【0083】
次に、洗浄後の基盤に対して、レジスト(例えば、金属酸化物を用いたレジストや、有機物を用いたレジスト等)が形成される(ステップS103)。かかるレジストの形成処理は、ロール状の基盤に対しては、塗布処理又はディッピングにより実現され、平板状の基盤に対しては、各種のコーティング処理により実現される。
【0084】
その後、レジストの形成された基盤に対して、露光処理が実施される(ステップS105)。かかる露光処理に際して、先だって説明したように、寸法比が25倍以上となるように、単位セル3を設計することが重要である。かかる露光処理は、グレースケールマスク等を利用した露光(複数のグレースケールマスクの重ね合わせによる多重露光を含む。)、平板又はロール板に対するグレースケール露光、ピコ秒パルスレーザやフェムト秒パルスレーザ等を用いたレーザ露光など、公知の様々な露光方法を適宜適用することが可能である。
【0085】
その後、露光後の基盤をアルカリ現像し(ステップS107)、Niスパッタ等の公知のスパッタ処理(ステップS109)を施すことにより、本実施形態に係る光学体1を製造する際のマスター原盤(例えば、ガラスマスターやメタルマスター等)が完成する(ステップS111)。その後、完成したマスター原盤を用いて、ソフトモールド等といったモールドが作成される(ステップS113)。
【0086】
次に、製造されたモールドを利用して、基板ガラスや基板フィルム等に転写処理を実施し(ステップS115)、必要に応じて保護膜等を成膜する(ステップS117)ことで、本実施形態に係る光学体1が製造される。
【0087】
一方、ガラス基板に対して直接加工を施す場合には、ステップS107におけるアルカリ現像処理に引き続き、CF
4等の公知の化合物を用いたドライエッチング処理を実施し(ステップS119)、その後、必要に応じて保護膜等を成膜する(ステップS121)ことで、本実施形態に係る光学体1が製造される。
【0088】
なお、
図23に示した製造方法の流れは、あくまでも一例であって、本実施形態に係る光学体の製造方法が
図23に示した例に限定されるものではない。
【0089】
(光学体の適用例)
次に、本実施形態に係る光学体1の適用例について、簡単に説明する。
【0090】
以上説明したような光学体1は、光を拡散させるために用いられる拡散板に好適に適用することが可能である。すなわち、上記のような光学体を、所定の光学基材の表面及び裏面の少なくとも何れか一方に設けることで、所望の拡散特性を有する拡散板を実現することが可能である。
【0091】
また、以上説明したような本実施形態に係る光学体1を有する拡散板は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置に対して、適宜実装することが可能である。機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置としては、例えば、各種のディスプレイ等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置を挙げることができる。
【0092】
また、本実施形態に係る光学体1を有する拡散板は、液晶表示装置のバックライトに対して適用することも可能であり、光整形の用途にも用いることが可能である。更に、本実施形態に係る光学体1を有する拡散板は、各種の照明装置に対しても適用することが可能となる。
【0093】
なお、機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置は、上記の例に限定されるものではなく、光の拡散を利用する装置であればその他の公知の装置に対しても、本実施形態に係る光学体1を有する拡散板を適用することが可能である。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。