(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-111572(P2018-111572A)
(43)【公開日】2018年7月19日
(54)【発明の名称】油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/18 20060101AFI20180622BHJP
B66C 13/16 20060101ALI20180622BHJP
【FI】
B66C13/18
B66C13/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-3170(P2017-3170)
(22)【出願日】2017年1月12日
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】三苫 秀人
(72)【発明者】
【氏名】上田 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 恭志
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA01
3F204FC02
3F204GA01
(57)【要約】
【課題】油圧式グラブバケットを備えたクレーンの作動油の温度上昇に関する問題を、天井クレーン側に配設した電動機駆動装置を制御する電動機制御装置の回転数制御を行うことによって解消するとともに、併せて、イニシャル、ランニング、メンテナンス等の各種コストの上昇を抑えることができるようにした油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法を提供すること。
【解決手段】グラブバケット2側に配設したポンプ22を駆動する電動機21を駆動している、天井クレーン1側に配設した電動機駆動装置11の電圧値と電流値から求められる電力量演算値に基づいて電動機制御装置12により電動機21の回転数制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法において、グラブバケットの開閉動作を行う油圧シリンダを駆動するポンプの吐出流量を調整するために、グラブバケット側に配設したポンプを駆動する電動機を駆動している、天井クレーン側に配設した電動機駆動装置の電圧値と電流値から求められる電力量演算値に基づいて電動機制御装置により電動機の回転数制御を行うことで、油圧回路に流れる作動油の発熱量を抑制することを特徴とする油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法。
【請求項2】
前記電力量演算値が、最大電力量となる前に電動機駆動装置の周波数指令値を下げることを特徴とする油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法に関し、特に、作動油の温度上昇を抑制するための油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ごみ、石炭、砂利、鉱石等のばら物を掴み上げ、放出する作業を行うために、ばら物を掴むようにしたグラブバケットを、ワイヤロープによって吊り下げるようにしたクレーンが汎用されている。
【0003】
ところで、この種のクレーンに吊り下げるようにしたグラブバケットの開閉操作を行うために、グラブバケットに油圧ユニットを搭載するようにしたものが汎用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この油圧ユニットは、グラブバケットの開閉操作を行う油圧シリンダを伸縮動作させるように、具体的には、電動機によってポンプを駆動し、このポンプから吐出される作動油を電磁方向制御弁を介して油圧シリンダに選択的に供給して、油圧シリンダを伸縮動作させ、これによって、グラブバケットの爪の開閉操作を行うように構成されている。
【0005】
ところで、上記従来のグラブバケットに搭載して使用される油圧ユニットは、作動油の流量を適正に調整することができないため、作動油の温度上昇が生じやすいという問題があった。
すなわち、ポンプに固定容量ポンプを商用電源で駆動する場合、余剰の作動油をリリーフバルブを介して油タンクに逃がすようにしているが、ポンプの吐出流量は一定となるため、ポンプのリークによる発熱に加えて、リリーフバルブにおいても発熱し、グラブバケット内の油圧回路に流れる作動油の温度が上昇する。
【0006】
グラブバケットからの放熱量より油圧回路に流れる作動油の発熱量が多い場合、作動油の温度が上昇し、この発熱量が多い程、長時間の連続使用ができず、一旦上昇限界に至ると作動油の温度が低下するまでクレーンの稼働を停止させる必要があった。
【0007】
油圧シリンダに供給される作動油の圧力を保持しながら、油圧回路に流れる作動油の発熱量を抑制するためには、作動油の圧力が必要圧力以上になったときに油量を抑制する必要がある。
【0008】
この油量を調整する手段として、可変容量ポンプを用いて、作動油の圧力を検出することで、必要圧力以上になったときに油量を直接調整する方法があるが、可変容量ポンプは固定容量ポンプに比べ、ポンプの構造が複雑で高価であり、また、高頻度の使用で消耗が激しく、耐久性の点で問題があり、メンテナンスを頻繁に行う必要があった。
【0009】
このほか、固定容量ポンプとインバータを組み合せて固定容量ポンプの回転数を可変にする方法もあるが、インバータをグラブバケット内に組み込むことは、耐久性の点で問題があり、メンテナンスを頻繁に行う必要があった。また、この問題点に対処するために、インバータをグラブバケットから分離して設置した場合、作動油の圧力を検出する圧力検出器の電気信号をグラブバケットへの給電ケーブルを介して別途設置した制御装置まで引き込む必要があり、給電ケーブルの芯数増と信号線の延長によるノイズ対策も必要となり、品質面でも課題が多い。
【0010】
さらに、本件出願人は、先に、正逆転駆動可能な電動機と、この電動機によって回転駆動される可逆可変容量油圧モータとを備え、この可逆可変容量油圧モータから吐出される作動油が作動油路を介してバケットの開閉操作を行う油圧シリンダに供給されるようにすることで、作動油の流量を適正に保ち、作動油の温度上昇を抑制することができるグラブバケット搭載用油圧ユニットを提案している(特許文献2参照。)。
しかしながら、このグラブバケット搭載用油圧ユニットは、正逆転駆動可能な電動機及び可逆可変容量油圧モータを用いる特殊仕様のものであり、上記可変容量ポンプを用いる場合の問題点に加え、既存のグラブバケットに適用することができず、汎用性を欠くものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−194184号公報
【特許文献2】特開2015−113847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの作動油の温度上昇に関する問題点に鑑み、当該問題を、天井クレーン側に配設した電動機駆動装置を制御する電動機制御装置の回転数制御を行うことによって解消するとともに、併せて、イニシャル、ランニング、メンテナンス等の各種コストの上昇を抑えることができるようにした油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法は、油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法において、グラブバケットの開閉動作を行う油圧シリンダを駆動するポンプの吐出流量を調整するために、グラブバケット側に配設したポンプを駆動する電動機を駆動している、天井クレーン側に配設した電動機駆動装置の電圧値と電流値から求められる電力量演算値に基づいて電動機制御装置により電動機の回転数制御を行うことで、油圧回路に流れる作動油の発熱量を抑制することを特徴とする。
【0014】
この場合において、前記電力量演算値が、最大電力量となる前に電動機駆動装置の周波数指令値を下げるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法によれば、油圧式グラブバケットを備えたクレーンの作動油の温度上昇に関する問題を、天井クレーン側に配設した電動機駆動装置の電圧値と電流値から求められる電力量演算値に基づいて電動機制御装置により電動機の回転数制御を行うことによって解消するとともに、併せて、イニシャル、ランニング、メンテナンス等の各種コストの上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法を実施する油圧式グラブバケットを備えた天井クレーンの一実施例を示し、(a1)は開状態の油圧式グラブバケットの動作状態図、(a2)は閉状態の油圧式グラブバケットの動作状態図、(b)は油圧式グラブバケットの動作回路(油圧回路、駆動・制御用電気回路)の説明図である。
【
図2】本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法の一実施例を示すフローチャートである。
【
図3】同フローチャートに対応するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法を実施する油圧式グラブバケットを備えた天井クレーンの一実施例を示す。
この油圧式グラブバケットを備えた天井クレーン1は、従来の油圧式グラブバケットを備えた天井クレーンと同様、グラブバケット2の開閉操作を行う油圧シリンダ23を伸縮動作させるように、具体的には、電動機21によってポンプ22を駆動し、このポンプ22から吐出される作動油を電磁方向制御弁24を介して油圧シリンダ23のヘッド側又はロッド側に選択的に供給して、油圧シリンダ23を伸縮動作させ、これによって、グラブバケット2の爪20の開閉操作を行うように構成されている。
【0019】
ところで、一般的に油圧回路では、粘性のある作動油が油圧回路内を流れることで物を駆動する。
一方、油圧機器や管路内には作動油が流れることによる摩擦が生じ、損失エネルギとしてその大半は熱に変わることが知られており、発熱量は次式で示すことができる。
H=α×Q×ΔP
ここで、H:発熱量、Q:流量、ΔP:圧力損失(ΔP=βQ
2)である。
=α×Q×βQ
2
=γ×Q
3
ここで、α、β、γは油の粘性や管路形状で決まる係数である。
すなわち、流量(Q)を少なくすれば、発熱量(H)も少なくなる。
【0020】
一方、グラブバケットを動かすために必要な作動油の圧力は上限を定めており、余剰の作動油をリリーフバルブ25を介して油タンク26に逃がすようにしているが、このような油圧機器内部のリーク量が増加することで結果的に油圧回路内を流れる作動油の流量が増すことになり、作動油の発熱量は増加する。また、ポンプ22を必要以上に回転させることは、ポンプ22内部のリーク量を増加させて発熱するだけでなく、ポンプ22を駆動する電動機21の負荷が増加する。ここでも不要に熱が発生し、グラブバケット内部の作動油の温度上昇にも繋がる。
このことから、作動油の温度上昇の抑制には作動油の流量を適正に調整することが必要となることがわかる。
【0021】
ところで、ポンプが吐出する流量Qは、下記式で示すことができる。
Q=N×q
ここで、N:ポンプの回転数、q:ポンプの容量である。
ポンプの容量(q)が一定の場合は、回転数(N)を最適に調整すれば、必要流量(Q)を確保することができる。このことから、下記式で示す電力(W)と吐出圧力(P)の関係により、必要な吐出圧力(P)を確保できる電力(W)を監視し、ポンプの回転数(N)、すなわち、電動機の回転数を必要最少にすることで、作動油の温度上昇を抑制することが可能となる。
W=N×q×P
ここで、W:電力、P:吐出圧力である。
【0022】
このような見地に基づき、グラブバケット2の開閉動作を行う油圧シリンダ23を駆動するポンプ22の吐出流量を調整するために、グラブバケット2側に配設したポンプ22を駆動する電動機21を駆動している、天井クレーン1側に配設した電動機駆動装置11の電圧値と電流値から求められる電力量演算値に基づいて電動機制御装置12により電動機21の回転数制御を行うことで、油圧回路に流れる作動油の発熱量を抑制するようにしている(以下、「サイクルロジック制御」という。)。
ここで、電動機駆動装置11及び電動機制御装置12による電動機21の回転数制御は、インバータ等の一般的な周波数制御装置により行うことによって、電動機駆動装置11の周波数指令値を可変にすることで、電動機21の回転数を可変にし、ポンプ22の回転数を可変になるようにしている。
【0023】
より具体的には、
図2及び
図3に示すように、グラブバケット2の爪20によるごみWの掴み保持によって、電動機駆動装置11の電圧値と電流値から求められる電力量演算値が、最大電力量となる前に、具体的には、電力量演算値が、最大電力量の70〜90%、好ましくは、75〜85%、より好ましくは、80%程度のときに、電動機駆動装置11の周波数指令値を下げる(例えば、50Hzから10Hzに下げる。)ことにより、電動機21の回転数を下げて、ポンプ22の回転数を下げるようにする。
ここで、グラブバケット2の爪20の追い閉じの開始は、電力量演算値が低下するため、電動機駆動装置11の周波数指令値を上げることにより、電動機21の回転数を上げて、ポンプ22の回転数を上げるようにする。
【0024】
図4に、この油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法の特性試験(サイクルロジック制御を行わない基準値(比較例)との対比試験)結果を示す。
図4に示すように、サイクルロジック制御を行うことによって、油圧ユニット内の温度上昇が小さく、かつ、電力消費量を削減(29%減)できること確認した。
【0025】
このように、この油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法によれば、天井クレーン1側に電動機駆動装置11及び電動機制御装置12を、グラブバケット2側に電動機21及びポンプ22(固定容量ポンプ)を分離、配置したシンプルな機構で、経済性と信頼性を両立させると同時に、省エネルギと作動油の温度上昇の抑制を実現させることできる。
【0026】
以上、本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の油圧式グラブバケットを備えたクレーンの制御方法は、作動油の温度上昇に関する問題を解消するとともに、併せて、イニシャル、ランニング、メンテナンス等の各種コストの上昇を抑えることができることから、油圧式グラブバケットを備えた天井クレーンの用途に好適に用いることができ、また、新設、既設のいずれの油圧式グラブバケットを備えた天井クレーンの用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 天井クレーン
11 電動機駆動装置
12 電動機制御装置
2 グラブバケット
20 爪
21 電動機
22 ポンプ
23 油圧シリンダ
24 電磁方向制御弁
25 リリーフバルブ
26 油タンク