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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-111845(P2018-111845A)
(43)【公開日】2018年7月19日
(54)【発明の名称】ワイヤ送給装置および溶射装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/131 20160101AFI20180622BHJP
   B23K 9/133 20060101ALN20180622BHJP
【FI】
   C23C4/131
   B23K9/133 502Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-1800(P2017-1800)
(22)【出願日】2017年1月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 佳晃
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
(72)【発明者】
【氏名】辻井 元
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031DA03
4K031EA08
(57)【要約】
【課題】ワイヤ送給速度の変化等に対する応答性を改善するのに適したワイヤ送給装置を提供すること。
【解決手段】本発明のワイヤ送給装置200は、ワイヤ供給源110から繰り出されるワイヤWを湾曲した状態で保持するバッファ機構220と、バッファ機構220を経たワイヤWを送るためのプル側送給機構250と、を備え、バッファ機構220は、所定の回動軸O1回りに回動可能であるアーム222と、アーム222の長手方向一端部に設けられ、ワイヤWの湾曲状態の変化に追従しつつ当該ワイヤWを保持するワイヤ保持部と、アーム222の長手方向他端部に支持された錘225と、アーム222の回動動作にともない錘225を上下方向に直線移動させる上下移動機構と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ供給源から繰り出されるワイヤを湾曲した状態で保持するバッファ機構と、
上記バッファ機構を経た上記ワイヤを送るための第1送給機構と、を備えたワイヤ送給装置であって、
上記バッファ機構は、所定の回動軸回りに回動可能であるアームと、上記アームの長手方向一端部に設けられ、上記ワイヤの湾曲状態の変化に追従しつつ当該ワイヤを保持するワイヤ保持部と、上記アームの長手方向他端部に支持された錘と、上記アームの回動動作にともない上記錘を上下方向に直線移動させる上下移動機構と、を備える、ワイヤ送給装置。
【請求項2】
上記上下移動機構は、上記錘を上下にスライド移動させるガイドレールを含む、請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項3】
上記上下移動機構は、上記アームおよび上記錘に両端が連結され、可撓性を有する吊り下げ部材と、上記吊り下げ部材が掛け回される円状外周面を各々が有し、互いに平行な軸線回りに回転可能な複数の回転部材と、を含む、請求項1または2に記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
上記ワイヤ保持部は、上記ワイヤを相互間に通すように配置され、互いに平行な軸線回りに回転可能な第1回転体および第2回転体を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のワイヤ送給装置。
【請求項5】
上記ワイヤ供給源から繰り出される上記ワイヤを上記バッファ機構側へ送るための第2送給機構をさらに備える、請求項1ないし4のいずれかに記載のワイヤ送給装置。
【請求項6】
対をなして配置される、請求項1ないし5のいずれかに記載のワイヤ送給装置と、当該一対のワイヤ送給装置を介して送られた一対のワイヤをアーク点に送出する一対のチップを有する溶射ノズルと、を備えた溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ送給装置およびこれを備えた溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射装置においては、溶射ノズルに設けた2つのチップから互いに交差する方向に連続的に送出した2本のワイヤ間に所定の電圧を加える。これによって発生するアーク放電によりワイヤを溶解させて溶滴を生成し、この溶滴をエア流によって微細化しつつ対象面に向けて吹きつける。こうして対象面に付着した溶滴が溶射皮膜を形成する。溶射装置においては、たとえば、ワイヤは、ワイヤ供給源としてのワイヤパックから繰り出された後、所定のカーブを描くように湾曲させられ、溶射ノズルに導入される。溶射ノズルの先端では、2つのチップにより、2本のワイヤが互いに近づくように案内される。
【0003】
ワイヤパックから繰り出されるワイヤは、送給ローラ(送給機構)によって所定の送給速度で溶射ノズルに送り出される。送給ローラ(送給機構)によるワイヤ送給速度は、溶射条件等によって変動する。このワイヤ送給速度の変動を吸収するために、バッファ機構が設けられる場合がある(たとえば特許文献1を参照)。
【0004】
バッファ機構は、たとえば湾曲状態のワイヤを保持しており、ワイヤ送給速度の変動を吸収する。具体的には、バッファ機構は、たとえば回動可能なアームの端部において湾曲状態のワイヤを保持している。上記アームは、バネや錘を用いた復元力によって、所定速度で送給されるワイヤを保持しつつ所定姿勢を維持する。特許文献1においては、同文献図5図6等においてバネを用いたバッファ機構が示されている。ワイヤの送給速度が変動すると、アームにより保持されたワイヤの湾曲状態(曲率)が変化し、それに追従してアームも回動する。その後、ワイヤの送給速度が安定すれば、アームが元の所定姿勢に復帰する。
【0005】
錘を用いたバッファ機構においては、たとえばアームにおいてワイヤを保持する端部とは反対側の端部に錘が固定され、アームの中間部において回動軸回りの回動可能とされる。錘はカウンターウエイトとして機能し、アームが回動すると錘は円運動をする。ここで、アームの回動により当該アームの姿勢が変化すると、錘の重力による角加速度の方向が変化する。たとえば、アームが水平姿勢から起立するにつれて、錘の重力による角加速度が減少し、アームの復帰動作が遅くなる。したがって、アームの応答性が悪く、安定的にワイヤ送給を行うのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−94643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、ワイヤ送給速度の変化等に対する応答性を改善するのに適したワイヤ送給装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
本発明の第1の側面よって提供されるワイヤ送給装置は、ワイヤ供給源から繰り出されるワイヤを湾曲した状態で保持するバッファ機構と、上記バッファ機構を経た上記ワイヤを送るための第1送給機構と、を備えたワイヤ送給装置であって、上記バッファ機構は、所定の回動軸回りに回動可能であるアームと、上記アームの長手方向一端部に設けられ、上記ワイヤの湾曲状態の変化に追従しつつ当該ワイヤを保持するワイヤ保持部と、上記アームの長手方向他端部に支持された錘と、上記アームの回動動作にともない上記錘を上下方向に直線移動させる上下移動機構と、を備えることを特徴としている。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記上下移動機構は、上記錘を上下にスライド移動させるガイドレールを含む。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記上下移動機構は、上記アームおよび上記錘に両端が連結され、可撓性を有する吊り下げ部材と、上記吊り下げ部材が掛け回される円状外周面を各々が有し、互いに平行な軸線回りに回転可能な複数の回転部材と、を含む。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記ワイヤ保持部は、上記ワイヤを相互間に通すように配置され、互いに平行な軸線回りに回転可能な第1回転体および第2回転体を含む。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記ワイヤ供給源から繰り出される上記ワイヤを上記バッファ機構側へ送るための第2送給機構をさらに備える。
【0014】
本発明の第2の側面よって提供される溶射装置は、対をなして配置される、本発明の第1の側面に係るワイヤ送給装置と、当該一対のワイヤ送給装置を介して送られた一対のワイヤをアーク点に送出する一対のチップを有する溶射ノズルと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バッファ機構は、湾曲状態のワイヤを長手方向一端部で保持するアームと、当該アームの長手方向他端部に支持された錘と、を備える。また、アームの回動動作にともない、錘は、上下移動機構の作用により上下方向に直線移動させられる。このような構成によれば、アームには、当該アームに支持された錘によって常に等しい重力加速度が得られる。したがって、たとえばアームの回動にともなって錘が円運動する場合と異なり、アームが所定の姿勢に復帰する動作が速く、アームの応答性に優れる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るワイヤ送給装置を備えた溶射装置の一例を示す概略正面図である。
図2図1に示す溶射装置の概略側面図である。
図3】作用を説明するための図2と同様の図である。
図4】作用を説明するための図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1図2は、本発明に係るワイヤ送給装置を備えた溶射装置の一例を示す全体概略図である。溶射装置100は、一対のワイヤ供給源110,110と、これらワイヤ供給源110,110からそれぞれ繰り出されるワイヤW,Wと、溶射ノズル300と、ワイヤ供給源110,110から繰り出されるワイヤW,Wを各別に溶射ノズル300まで送給するための一対のワイヤ送給装置200,200と、を備える。
【0020】
本実施形態においては、ワイヤ供給源110,110は、螺旋状に巻回されたワイヤW,Wを内部に収容した容器の形態をとっており、いわゆるワイヤパックと呼称されるものである。なお、ワイヤ供給源としては、たとえばワイヤパックに代えて、ワイヤが巻かれたワイヤリールであってもよい。
【0021】
図1に表れているように、一対のワイヤ送給装置200,200は、左右略対称に配置されている。図1においてこれらワイヤ送給装置200,200は、左右略対称であることに応じた相違点があるものの、当該相違点を除いて実質的に同一の構成である。以下においては、図1の右側に位置するワイヤ送給装置200について主に説明し、左側に位置するワイヤ送給装置200については適宜説明を省略する。
【0022】
図1図2に示すように、ワイヤ送給装置200は、プッシュ側送給機構210(第2送給機構)と、バッファ機構220と、プル側送給機構250(第1送給機構)と、を有する。
【0023】
プッシュ側送給機構210は、ワイヤ供給源110から繰り出されるワイヤWをバッファ機構220側に送るためのものである。プッシュ側送給機構210は、たとえば駆動ローラ211と、従動ローラ212と、駆動ローラ211を回転駆動させるモータ213と、を有する。上記駆動ローラ211および従動ローラ212の間にワイヤWが挟まれており、上記駆動ローラ211の回転駆動によりワイヤWがバッファ機構220側へ送り込まれる。従動ローラ212は、たとえば駆動ローラ211側に所定の付勢力で付勢されている。これにより、駆動ローラ211が回転駆動すると、駆動ローラ211および従動ローラ212間に挟まれたワイヤWは適切に送り出される。本実施形態においては、後述のバッファ機構220におけるアーム222の姿勢との関係でプッシュ側送給機構210によるワイヤWの送給速度V2が所定速度となるようにモータ213の駆動が制御される。なお、ワイヤ供給源110とプッシュ側送給機構210との間には、ワイヤWの癖を取り除くためのストレートナー(図示略)が設けられている。
【0024】
バッファ機構220は、ワイヤWの送給経路においてプッシュ側送給機構210およびプル側送給機構250の間に配置され、ワイヤWを湾曲した状態で保持するものである。バッファ機構220は、上下方向に延びる支柱221と、アーム222と、ワイヤ保持ローラ223と、ワイヤ保持ピン224と、錘225と、上下移動機構230と、を備える。
【0025】
アーム222は、支柱221の上端寄りの部位において、水平方向に延びる回動軸O1回りに回動可能に支持されている。本実施形態において、たとえば支柱221におけるアーム222の取付け部近傍には、アーム222の傾斜角度αを検出するための角度センサ(図示略)が設けられている。詳細は後述するが、上記角度センサにより検出したアーム222の傾斜角度αに基づいて、プッシュ側送給機構210によるワイヤWの送給速度V2を制御する。
【0026】
ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224は、アーム222の長手方向一端部に設けられている。ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224は、互いに平行な軸線回りに回転可能とされている。本実施形態においては、ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224の各々の軸線は、アームの回動軸O1と平行である。これらワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224の相互間に、湾曲状態のワイヤWが通されている。アーム222の回動により当該アーム222の姿勢が変更しても、ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224の間にワイヤWが通された状態を維持しており、ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224は、ワイヤWを保持している。ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224は、本発明で言うワイヤ保持部を構成する。
【0027】
上下移動機構230は、アーム222の回動動作にともない錘225を上下方向に直線移動させるものであり、吊り下げ部材231と、ガイドレール232と、複数の回転部材233,234とを含んで構成される。
【0028】
吊り下げ部材231は、可撓性を有しており、たとえば所定の引張強度を有する金属製ワイヤによって構成される。
【0029】
複数の回転部材233,234は、各々が円状外周面を有しており、ブラケット235を介して支柱221に支持されている。回転部材233,234は、各々が水平方向に延びて互いに平行な軸線回りに回転可能とされている。吊り下げ部材231は、一端がアーム222の長手方向他端部(上記のワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224が設けられた端部とは反対側の端部)に連結され、回転部材233,234に掛け回されるとともに、他端が錘225に連結されている。吊り下げ部材231のうち回転部材234から錘225に至る部分は、上下方向(垂直方向)に沿って延びている。これにより、アーム222が回動すると、回転部材233,234に掛け回された吊り下げ部材231によって連結された錘225は、上下方向に直線移動させられる。
【0030】
本実施形態において、錘225は、取付けプレート225Aおよび錘本体225Bを有する。取付けプレート225Aの上部には、上記の吊り下げ部材231が連結されている。錘本体225Bは、取付けプレート225Aに対して着脱可能に取り付けられている。
【0031】
ガイドレール232は、上下方向に延びており、錘225に隣接するように配置されている。ガイドレール232において錘225と対向する側面には、たとえばアリ溝(図示略)が形成されており、取付けプレート225Aの側面には上記アリ溝に嵌入する突起(図示略)が設けられている。このような構成により、錘225は、ガイドレール232に沿って上下にスライド移動することが可能となっている。
【0032】
プル側送給機構250(第1送給機構)は、プッシュ側送給機構210よりもワイヤWの送給方向前方に配置され、バッファ機構220を経たワイヤWを溶射ノズル300側へ送るためのものである。プル側送給機構250は、たとえば駆動ローラ251と、従動ローラ252と、駆動ローラ251を回転駆動させるモータ253と、を有する。上記駆動ローラ251および従動ローラ252の間にワイヤWが挟まれており、駆動ローラ251の回転駆動によりワイヤWが溶射ノズル300(筒状ガイド部320)へ送り出される。従動ローラ252は、たとえば駆動ローラ251側に所定の付勢力で付勢されている。これにより、駆動ローラ251が回転駆動すると、駆動ローラ251および従動ローラ252間に挟まれたワイヤWは適切に送り出される。
【0033】
本実施形態において、モータ253は、当該モータ253の回転速度が所定の設定値となるように定速度制御される。これにより、プル側送給機構250によるワイヤWの送給速度V1が所定値となるように制御される。
【0034】
図1図2に示すように、溶射ノズル300は、筒状の胴体部310と、一対の筒状ガイド部320,320と、胴体部310の下部に配置された一対のチップ330,330と、を有する。
【0035】
筒状ガイド部320,320は、ワイヤW,Wをチップ330,330に導くものであり、胴体部310の上壁部311を貫通させて当該胴体部310の内部空間に導入され、平行をなしてこの胴体部310の下部に至っている。筒状ガイド部320,320は、たとえば、各々、導管とこの導管に内挿された樹脂製のライナ(図示略)とを備えて構成されており、このライナの内部にワイヤW,Wが挿通させられる。なお、図1に示すように、本実施形態において、図中左側のバッファ機構220を通過したワイヤWは、図中右側の筒状ガイド部320に挿通させられ、図中右側のバッファ機構220を通過したワイヤWは、図中左側の筒状ガイド部320に挿通させられる。このように、一対のワイヤW,Wは、正面視においてバッファ機構220と溶射ノズル300との間で1回交差している。
【0036】
胴体部310の底壁部312には、チップ330,330が互いに絶縁状態とされつつ保持されている。筒状ガイド部320,320の下端部は、チップ330,330にそれぞれ接続されている。
【0037】
チップ330,330は、各ワイヤWの外径よりわずかに大の内径を有するガイド孔331,331を有している。このチップ330,330は、導体金属によって形成されるとともに、図示しない給電経路に導通しており、各ガイド孔331,331の内面がワイヤに接触することにより、ワイヤW,W間に電圧を付与することができる。
【0038】
図1によく表れているように、チップ330,330は、溶射ノズル300の正面視において、軸線L1,L1(ガイド孔331,331の軸線)が下方に向かうにつれて互いに近づく方向を向いている。より詳しくは、チップ330,330は、その軸線L1,L1が図1の紙面と平行な平面内を下方に向かうにつれて互いに近づき、所定の1点(以下、アーク点APという。)で交差するようにそれらの向きが設定されている。
【0039】
図2によく表れているように、溶射ノズル300の下部にはまた、エアノズル部340が設けられている。エアノズル部340は、胴体部310の内部空間と連通して下方に延出しており、チップ330,330の背面側に位置する。溶射ノズル300の胴体部310の内部空間には、上壁部311に設けた導入ポート350を介して外部からエアが導入され、このエアは、エアノズル部340に設けたノズル孔341から噴射させられる。
【0040】
エアノズル部340のノズル孔341は、チップ330,330の背後側から、アーク点APに向けてエアを噴射するようにその方向が設定されている。なお、アーク点APに向けてエアを噴射するための構成は、上述した構成に限られず、エア供給源に繋がり、アーク点APを向くノズルが設けられておればよい。
【0041】
次に、溶射装置100を用いて行う溶射作業、およびワイヤ送給装置200、溶射装置100の作用について説明する。
【0042】
溶射装置100により溶射作業を行う際には、ワイヤ送給装置200,200によってバッファ機構220,220を介して一対のワイヤW,Wが溶射ノズル300に送給される。溶射ノズル300に送給されたワイヤW,Wは、筒状ガイド部320,320内を挿通し、チップ330,330の先端から所定の送給速度で送出されつつ相互間に所定電圧が付与される。こうして送出される一対のワイヤW,Wは、アーク点APにおいて接触するが、このとき上記した電圧によってアーク放電が起こり、これによって生じる高熱によって溶滴が連続的に生成される。溶滴は、エアノズル部340のノズル孔341が噴射するエア流によって微細化され、溶射対象物に向けて吹き付けられる。
【0043】
本実施形態において、溶射装置100を用いて行う溶射作業時には、溶射条件等に応じて、プル側送給機構250によるワイヤWの送給速度V1が所望の速度となるように、モータ253の駆動が制御される。一方、プッシュ側送給機構210によるワイヤWの送給速度V2は、アーム222の傾斜角度αに基づいて当該傾斜角度αが所定範囲となるように制御される。
【0044】
プル側送給機構250によるワイヤWの送給速度V1が一定となるように制御される場合、たとえば図2に示すようにアーム222の傾斜角度αが所定角度となるように、プッシュ側送給機構210によるワイヤWの送給速度V2が制御される。ここで、アーム222の一端部(ワイヤ保持ローラ223およびワイヤ保持ピン224)においてワイヤWを保持するが、アーム222の他端部に支持された錘225とバランスしており、錘225はカウンターウエイトとして機能する。
【0045】
次に、図2に示した状態から、溶射条件等に応じてプル側送給機構250およびプッシュ側送給機構210の間におけるワイヤWの送給経路の長さが長くなると、図2に示した状態から図3に示すようにワイヤWの湾曲状態が変化するとともにアーム222が図中時計回り方向へ回動し、アーム222の傾斜角度αが増加する。このアーム222の回動にともない、吊り下げ部材231を介して連結された錘225は、垂直方向下方へ移動する。また、アーム222の回動は上記角度センサにより検出され、プッシュ側送給機構210による送給速度V2が低下させられる。そうすると、ワイヤWを介してアーム222側にかかる負荷が減少ないし無くなり、アーム222が図2に示した元の姿勢に復帰するように回動する。なお、図3においては、図2に示した状態のワイヤWおよびバッファ機構220を仮想線で表す。
【0046】
一方、図2に示した状態から、溶射条件等に応じてプル側送給機構250およびプッシュ側送給機構210の間におけるワイヤWの送給経路の長さが短くなると、図2に示した状態から図4に示すようにワイヤWの湾曲状態が変化するとともにアーム222が図中反時計回り方向へ回動し、アーム222の傾斜角度αが減少する。このアーム222の回動にともない、吊り下げ部材231を介して連結された錘225は、垂直方向上方へ移動する。また、アーム222の回動は上記角度センサにより検出され、プッシュ側送給機構210による送給速度V2が増大させられる。そうすると、ワイヤWを介してアーム222側にかかる負荷が減少ないし無くなり、アーム222が図2に示した元の姿勢に復帰するように回動する。なお、図4においては、図2に示した状態のワイヤWおよびバッファ機構220を仮想線で表す。
【0047】
本実施形態によれば、バッファ機構220は、湾曲状態のワイヤWを長手方向一端部で保持するアーム222と、アーム222の長手方向他端部に支持された錘225と、を備える。また、アーム222の回動動作にともない、錘225は上下方向に直線移動させられる。このような構成によれば、アーム222には、当該アーム222に支持された錘225によって常に等しい重力加速度が作用する。したがって、たとえばアームの回動にともなって錘が円運動する場合と異なり、アーム222が所定の姿勢に復帰する動作が速く、アーム222の応答性に優れる。
【0048】
本実施形態において、錘225は、複数の回転部材233,234に掛け回された可撓性を有する吊り下げ部材231を介して、アーム222に支持されている。このような構成によれば、錘225の配置について自由度が高まり、アーム222との位置関係において錘225を適正に配置すること可能である。
【0049】
錘225は、ガイドレール232に沿って上下にスライド移動可能とされている。このような構成によれば、アーム222の回動動作にともない、錘225を確実に上下移動させることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0051】
上記実施形態においては、図1に示したように、一対のワイヤ送給装置200,200(プッシュ側送給機構210,210、バッファ機構220,220、プル側送給機構250,250)が左右略対称に配置される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない、ワイヤ送給装置200,200を構成する各要素の配置は適宜変更が可能である。
【0052】
上記実施形態においては、錘225を上下方向に直線移動させるための上下移動機構として、ガイドレール232と、吊り下げ部材231を掛け回す複数の回転部材233,234との両方を具備する場合について説明したが、ガイドレール、または複数の回転部材のいずれか一方を具備する構成としてもよい。また、回転部材についてはその数量は2つに限定されず、錘を上下方向に直線移動させるための構成(上下移動機構)として、上記実施形態とは異なる他の構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
100 溶射装置
110 ワイヤ供給源
200 ワイヤ送給装置
210 プッシュ側送給機構(第2送給機構)
211 駆動ローラ
212 従動ローラ
213 モータ
220 バッファ機構
221 支柱
222 アーム
223 ワイヤ保持ローラ(第1回転体)
224 ワイヤ保持ピン(第2回転体)
225 錘
225A 取付けプレート
225B 錘本体
230 上下移動機構
231 吊り下げ部材
232 ガイドレール
233,234 回転部材
235 ブラケット
250 プル側送給機構(第1送給機構)
251 駆動ローラ
252 従動ローラ
253 モータ
300 溶射ノズル
310 胴体部
311 上壁部
312 底壁部
320 筒状ガイド部
330 チップ
331 ガイド孔
340 エアノズル部
341 ノズル孔
350 導入ポート
AP アーク点
O1 回動軸
W ワイヤ
図1
図2
図3
図4