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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-111938(P2018-111938A)
(43)【公開日】2018年7月19日
(54)【発明の名称】天井ボードおよび天井構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/00 20060101AFI20180622BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20180622BHJP
【FI】
   E04B9/00 A
   E04B9/18 B
   E04B9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-1482(P2017-1482)
(22)【出願日】2017年1月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 健司
(72)【発明者】
【氏名】村田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正之
(57)【要約】
【課題】軽量でかつ吸音性に優れた天井部材および天井構造を提供する。
【解決手段】硬質イソシアヌレートフォーム等の樹脂発泡体により形成された平板状の天井基材12と、天井基材12の一方面に対向するシート状部材16と、シート状部材16を天井基材12から離間した位置に支持する空気層形成部24とを備え、この空気層形成部24により記天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vを有する天井部材10を形成して、この天井部材を天井下地材に支持するようにする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の天井面を構成する天井部材であって、
樹脂発泡体により形成された平板状の天井基材と、
前記天井基材の一方面に対向するシート状部材と、
前記シート状部材を前記天井基材から離間した位置に支持する空気層形成部とを備え、
前記天井基材と前記シート状部材との間に空気層を形成した
ことを特徴とする天井部材。
【請求項2】
前記天井基材とシート状部材との間に、前記空気層形成部としてのスペーサが配置されて、当該スペーサにより前記天井基材と前記シート状部材とを離間させて空気層を形成すると共に、当該スペーサに対してシート状部材を固定するよう構成された請求項1記載の天井部材。
【請求項3】
建築物の天井構造であって、
上部構造体に垂設された吊りボルトと、
前記吊ボルトの下端部に取り付けられた天井下地材と、
前記天井下地材に支持された天井部材とを備え
前記天井部材は、樹脂発泡体により形成された平板状の天井基材における室内側の面に対してシート状部材が離間した位置で対向するよう設けられて、前記天井基材と前記シート状部材との間に空気層が形成されている
ことを特徴とする天井構造。
【請求項4】
前記天井下地材は、前記吊りボルトに支持された野縁受けに対して前記天井部材を保持する保持部材が支持され、
前記保持部材は、前記野縁受けに支持されると共に前記天井部材の上面側の外周縁部に対向する支持板を有する上側保持部と、当該上側保持部に対して下側から連結可能に構成されると共に前記天井部材の下面側の外周縁部に対向する支持板を有する下側保持部とを備え、前記下側保持部の支持板により前記天井部材を支持するよう構成した請求項3記載の天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物の吊り天井に用いられる天井部材および天井構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルや、体育館、プール等の大規模空間を有する施設を始めとする多くの建築物は、上階の床スラブ等の上部構造体から垂下させた吊りボルトの下端部に、野縁受けと野縁とを井桁状に枠組みした天井下地材を設けて、当該野縁に対して所定の難燃性を満たした天井部材をビス固定した吊り天井が広く採用されている。
【0003】
ところで、吊り天井は、地震等が発生した際には振り子のように激しく揺れることから、天井下地材や天井部材等の天井構造物の各部材に不規則に力が作用して変形したり、地震等の規模によっては天井構造物の結合部分が外れてしまい、天井構造物が落下することにも繋がる。このため、平成25年国土交通省告示第771号において、脱落によって重大な危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める天井(特定天井)について、天井構造物の落下による被害を軽減するための技術基準を満たすことが求められる。例えば、特許文献1のように天井裏空間にブレースを配置することにより、地震時における天井面の揺れを軽減して吊り天井の耐震性を向上させることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−224445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特定天井においては、新たな技術基準を満たす一定の仕様に適合するものである必要があり、吊りボルトの配置間隔を従来構造より密にしたり、多数の斜め部材を設置する等により揺れを抑えることが必要とされ、このような技術基準の天井構造を採用することにより、施工コストが増大したり、配線や空調ダクト等の天井裏設備の設置スペースが圧迫されることが問題となる。また、特定天井に該当する既存の天井構造に対して、新たな技術基準を満たす仕様に改修することは容易ではないことも多い。
【0006】
また、吊り天井の天井部材には、室内音の反響を抑制、防止するために、無機質繊維の岩綿(ロックウール)を主原料として板状に成型した岩綿吸音板を、室内面側に重ねて吸音性を高めた吸音性石膏ボードが広く採用されている。しかしながら、このような吸音性石膏ボードは、石膏ボードに岩綿吸音板を重ねる構造上、単位面積あたりの重量が嵩むことにより特定天井に該当することは避けられず、上記技術基準を満たすことが求められる難点がある。
【0007】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する前記課題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、軽量でかつ吸音性および断熱性に優れた天井部材および天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明は、
建築物の天井面を構成する天井部材であって、
樹脂発泡体により形成された平板状の天井基材と、
前記天井基材の一方面に対向するシート状部材と、
前記シート状部材を前記天井基材から離間した位置に支持する空気層形成部とを備え、
前記天井基材と前記シート状部材との間に空気層を形成したことを要旨とする。
このように、樹脂発泡体により形成された天井基材とシート状部材との間に空気層を形成することにより、天井部材の軽量化を実現しつつ吸音性や断熱性を高めることができる。また、天井部材に空気層が存在することで、地震等において天井部材が落下した場合でも衝撃吸収性に優れ、落下に伴う被害を最小限に抑制できる。
【0009】
請求項2に係る発明は、
前記天井基材とシート状部材との間に、前記空気層形成部としてのスペーサが配置されて、当該スペーサにより前記天井基材と前記シート状部材とを離間させて空気層を形成すると共に、当該スペーサに対してシート状部材を固定するよう構成されたことを要旨とする。
このように、スペーサを介して空気層を形成することで、一定幅の空気層を天井部材に確実に形成することが可能となる。
【0010】
請求項3に係る発明は、
建築物の天井構造であって、
上部構造体に垂設された吊りボルトと、
前記吊ボルトの下端部に取り付けられた天井下地材と、
前記天井下地材に支持された天井部材とを備え
前記天井部材は、樹脂発泡体により形成された平板状の天井基材における室内側の面に対してシート状部材が離間した位置で対向するよう設けられて、前記天井基材と前記シート状部材との間に空気層が形成されていることを要旨とする。
このように、樹脂発泡体により形成された天井基材とシート状部材との間に空気層を形成することにより、天井部材の軽量化を実現しつつ吸音性や断熱性を高めることができる。また、天井部材に空気層が存在することで、地震等において天井部材が落下した場合でも衝撃吸収性に優れ、落下に伴う被害を最小限に抑制できる。
【0011】
請求項4に係る発明は、
前記天井下地材は、前記吊りボルトに支持された野縁受けに対して前記天井部材を保持する保持部材が支持され、
前記保持部材は、前記野縁受けに支持されると共に前記天井部材の上面側の外周縁部に対向する支持板を有する上側保持部と、当該上側保持部に対して下側から連結可能に構成されると共に前記天井部材の下面側の外周縁部に対向する支持板を有する下側保持部とを備え、前記下側保持部の支持板により前記天井部材を支持するよう構成したことを要旨とする。
このように、樹脂発泡体により形成された天井基材を用いて天井部材を軽量化することで、野縁受けに支持される上部保持部に対して下側から連結される下部保持部により天井部材の荷重を支持する構成とした場合でも、天井部材を安定して支持することができる。また、天井部材を室内側から上部保持部に当てて位置決めした状態で、室内側から下部保持部を上部保持部に連結できるから、施工効率を高められる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軽量で、かつ吸音性および断熱性に優れた天井部材および天井構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る天井部材を備えた天井構造を天井裏側から見た状態で示す概略図である。
図2図1のA−A線位置で破断した天井構造の断面図である。
図3】実施例の天井部材を保持部材で保持する状態を断面で示す説明図である。
図4】天井部材を室内側を向く面から見た状態を示す正面図である。
図5】天井基材に対するシート状部材の取付過程を断面で示す説明図であって、(a)はシート状部材における重合面部および天井基材に形成した貫通孔に固定部材を嵌挿する過程を示し、(b)は固定部材とスペーサとを連結する過程を示し、(c)は空気層形成部によりシート状部材が仮止めされた状態を示し、(d)は接合手段によりシート状部材を天井基材に固定する過程を示す。
図6】残響室法吸音率を示すグラフ図であって、(a)は天井部材におけるシート状部材の天井面部側から音波を入射させ場合に係る本発明例1を示すグラフ図であり、(b)は天井基材のみの状態で音波を入射させ場合に係る比較例1を示すグラフ図であり、(c)は石膏ボードに岩綿吸音板を重ねた天井部材において岩綿吸音板側から音波を入射させた場合に係る比較例2を示すグラフ図である。
図7】残響室法吸音率を示すグラフ図であって、(a)は天井部材における天井基材の露出面側から音波を入射させ場合に係る本発明例2を示すグラフ図であり、(b)は石膏ボードに岩綿吸音板を重ねた天井部材において石膏ボード側から音波を入射させた場合に係る比較例3を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る天井部材10および天井構造につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、本発明に係る天井部材10および天井構造は、例えばオフィスビルや、体育館、プール、商業施設の建物に好適に適用し得るが、これらに限られるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る天井構造50は、図示しない上部構造体に垂設された吊りボルト52と、当該吊りボルト52の下端部に取り付けられた天井下地材56,60と、当該天井下地材56,60に固定される天井部材10とを備えている。ここで、上部構造体としては、上階の床或いは屋根を形成するスラブ、梁、鋼製の根太等が挙げられるが、これに限られるものではなく、吊り天井構造において吊りボルト52を支持する従来公知の構造体である。なお、上部構造体は水平状であっても傾斜状であってもよい。
【0016】
前記吊りボルト52は、所定の間隔で複数配置されており、各吊りボルト52の下端側に取り付けられた支持部材54を介して天井下地材56,60が支持されている。実施例の天井下地材56,60は、互いに水平方向に平行になるよう吊りボルト52に支持された複数の野縁受け56と、当該野縁受け56に支持されると共に天井部材10を保持する複数の保持部材60とにより構成されている。ここで、保持部材60は、野縁受け56と交差する方向に延在すると共に水平方向に平行になるよう複数設けられている。すなわち、天井下地材56,60は、野縁受け56および保持部材60とを格子状に組み合わせて構成されている。
【0017】
野縁受け56は、断面コ字状に形成された溝形鋼により構成されており、当該野縁受け56をなす溝形鋼のウェブが起立して一対のフランジが上下に位置する状態で吊りボルト52に支持されている。なお、野縁受け56は、断面コ字状の溝形鋼である必要はなく、断面C字状のリップ付き溝形鋼や断面ロ字状の角形鋼、その他従来公知の野縁受け56の構成を採用することが可能である。
【0018】
前記支持部材54は、野縁受け56を構成する溝形鋼のウェブを当接支持する第1垂直板部と、当該第1支持片の下端から水平に延出して溝形鋼の下側のフランジを当接支持する底板部と、底板部の延出端から起立して溝形鋼を挟んで第1垂直板部に対向する第2垂直板部とを備え、野縁受け56の両側面および下面を支持するよう構成されている。なお、支持部材54の構成は、これに限られるものではなく、野縁受け56を支持する従来公知の構成を採用可能である。
【0019】
前記保持部材60は、図2および図3に示すように、天井部材10の下面側(室内側となる面)を支持する下側保持部62と、当該下側保持部62が連結される上側保持部70とを備えており、当該上側保持部70が前記野縁受け56に支持されることで、天井部材10が天井面を形成するようなっている。ここで、前記下側保持部62は、所定幅に形成された下部支持板64と、当該下部支持板64の幅方向の中間位置に形成されて上方へ突出する連結板部66と、当該連結板部66の上端部に形成された鉤状部68とを備えた断面逆T字状に形成された部材である。すなわち、隣接して配置される天井部材10の下面を、下部支持板64の連結板部66を挟む両側で支持し得るよう構成されている。
【0020】
前記上側保持部70は、天井部材10の上面に対向する上部支持板72と、当該上部支持板72の上面に形成されて野縁受け56が連結される上部連結部74と、上部支持板72の下面に形成され下側保持部62が連結される下部連結部76とを有している。上部連結部74は、上部支持板72の幅方向の中間位置を挟んで離間する位置で対向するように上方に延出する一対の上側延出片74aと、各上側延出片74aの上端から他方の上側延出片74aに向けて延出する鍔状部74bとを備えており、当該上側延出片74aおよび鍔状部74bが上側保持部70(保持部材60)の長手方向に連続的に延在するようになっている。すなわち、上部連結部74は、上方に開口する断面C字状のリップ溝形形状を呈するよう形成されており、野縁受け56において保持部材60との交差位置に取り付けられた接続部材58を上部連結部74の溝部に差し込むことで、野縁受け56に保持部材60(上側保持部70)が接続するようになっている。
【0021】
下部連結部76は、上部支持板72の幅方向の中間位置を挟んで離間する位置で対向するように下方に延出する一対の下側延出片76aと、各下側延出片76aの下端端から他方の下側延出片76aに向けて延出する係止部76bとを備えており、当該下側延出片76aおよび係止部76bが下側保持部62(保持部材60)の長手方向に連続的に延在するようになっている。なお、一対の下側延出片76aは、前記下側保持部62の連結板部66を下側から差し込み可能なスリット状の溝を形成するように構成されている。そして、一対の下側延出片76a間に下側から差し込んだ連結板部66の鉤状部68が係止部76bに係合することで、上側保持部70と下側保持部62とが連結されるようになっている。ここで、上側保持部70と下側保持部62とを連結した状態で、上下の支持板64,72の間隔を天井部材10の厚みと一致させて、上側保持部70の支持板72により天井部材10の上面を当接支持するよう構成することができる。この場合は、天井部材10が上下から挟持されることで安定性が高まる利点がある。
【0022】
天井部材10は、図2図4に示すように、所定厚に形成された平板状の天井基材12と、当該天井基材12における室内側を向く平板面(以下、第1平板面12aという)に対向するシート状部材16と、当該シート状部材16を天井基材12から所定間隔離間した位置に支持する空気層形成部24とを備えており、当該天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vが形成された略矩形パネル状の部材である。
【0023】
天井基材12としては、軽量で、断熱性に優れた樹脂発泡体から構成され、天井部材10の軽量化を図っている。例えば、天井基材12として、硬質ポリウレタンフォームや硬質イソシアヌレートフォーム、硬質ポリスチレンフォーム等の各種樹脂発泡体を好適に採用することができるが、これに限られるものではない。また、天井基材12を構成する樹脂発泡体は、20〜50kg/mの密度のものを採用することが好ましい。すなわち、樹脂発泡体の密度が20kg/mに満たない場合は、樹脂発泡体の骨格形成部分が少なく脆くなり、天井部材10として必要な剛性を維持できない。また、樹脂発泡体の密度が50kg/mを超える場合は、樹脂発泡体の重量が嵩んで軽量化が困難となり、特定天井に該当する可能性が高くなり、前述した技術基準を満たすことが求められることにも繋がる。また、天井基材12には、建材として建築基準法第2条第9号でいう「不燃材料」に適合し、または、建築基準法施行令第108条の2の要件(第1号、第2号、第3号)を満たす時間に応じて規定される「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」の3つの材料を採用することが好ましい。具体的には、ISO5660に準拠したコーンカロリーメーター試験を行うことにより、(1) 加熱開始後20分の総発熱量が8MJ/m以下であること、(2) 加熱開始後20分の間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと、(3) 加熱開始後20分の間の最高発熱速度が10秒を超えて継続して200kW/mを超えることがないこと、のすべての要件を満たす不燃材料として区分される材料を採用することが好ましい。
【0024】
また、天井基材12の厚みは、軽量化を図りつつ天井部材10としての剛性を確保し得る厚みに形成すれば特に限定されるものではないが、5〜15mmの厚みとすることが好適である。すなわち、天井基材12の厚みが5mmに満たない場合は、天井部材10としての剛性を確保することが困難となり、また天井基材12の厚みが15mmを超える場合は、天井部材10の重量が嵩んで軽量化が困難になり、特定天井に該当する可能性が高くなり、前述した技術基準を満たすことが求められることにも繋がる。実施例では、天井基材12の厚みを10mmに形成してある。
【0025】
また、天井基材12を構成する樹脂発泡体のセル構造は、発泡体中の気泡(空孔)が相互に連通した連続気泡構造よりも、気泡が相互に独立した独立気泡構造とすることが好ましい。すなわち、独立気泡構造の樹脂発泡体により天井基材12を形成することで、断熱性を高めることができる。また、実施例の天井基材12は、室内側を向く面および天井裏側を向く面の夫々に被覆層部(図示省略)が形成されており、当該天井基材12の強度・剛性を高めている。なお、被覆層部は、アルミ等の金属薄材を樹脂発泡体と一体成形することにより形成してもよく、成形した樹脂発泡体に金属薄材を接着剤等の固着手段により固着するようにしてもよい。本発明では、樹脂発泡体としての硬質イソシアヌレートフォームの室内側を向く面および天井裏側を向く面の全面がアルミ箔で覆われて不燃材料に適合した天井基材12を採用している。
【0026】
前記シート状部材16は、少なくとも天井基材12の第1平板面12aを被覆可能に構成されている。具体的に、シート状部材16としては、ガラス繊維をマット状に加工したガラスマットや、ポリエチレン等の樹脂により形成された樹脂シートやエチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等のゴム素材により形成されたゴムシート、織布や不織布等を採用することが可能である。シート状部材16として織布や不織布を採用することにより、通気性を有し高周波域での吸音性に優れた天井部材10とすることができる。また、シート状部材16は、空気振動に伴って可撓可能な柔軟性を備えた薄厚のシート状に形成されている。なお、シート状部材16の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2〜5mmの厚みとすることが好適である。また、天井基材12の第1平板面12aを1枚のシート状部材16により被覆するようにしてもよく、複数のシート状部材16により被覆するようにしてもよい。また、シート状部材16には、建材として上記の難燃性基準を満たした「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」を採用することが好ましく、本実施例ではシート状部材16として、不燃材料に適合した1mm厚のガラスマットを採用してある。このように、天井部材10の表面素材を不燃材料、例えばガラスマット等を用いることにより、建築材料の内装材として適したものとなる。
【0027】
そして、実施例のシート状部材16は、図2図5に示すように、天井基材12の第1平板面12aを覆って天井面を形成する天井面部18と、当該天井面部18の外周部から天井基材12の第2平板面12b(当該天井基材12における天井裏側を向く平板面)に向けて立ち上がるよう設けられて天井基材12の外周を囲繞する外周面部20と、当該外周面部20の端部から天井基材12の第2平板面12bに重なるよう延在する重合面部22とを備えており、天井面部18が天井基材12の第1平板面12aに対して所定間隔離間して対向する状態で接合手段36により天井基材12に固着されている。すなわち、実施例の天井部材10は、天井基材12と天井部材10の天井面部18との間に一定幅の空気層Vを形成した状態で、天井基材12の第1平板面12a側をシート状部材16により包み込むよう構成されている。ここで、天井基材12と天井面部18との間隔は、特に限定されるものではないが5〜15mm程度とすることが好ましい。当該間隔が5mmに満たない場合には吸音性や断熱性が低下する可能性があり、15mmを超える場合には吸音性や断熱性の低下に対する懸念はないもの天井部材10が厚くなり、天井部材10の設置場所が限られる可能性がある。実施例では、天井基材12と天井面部18との間隔を8mmとするようにしてある。なお、天井部材10の厚み(天井基材12の第2平板面12bから天井面部18までの距離)は、特に限定されるものではないが、実施例では20mmに形成してある。
【0028】
実施例の空気層形成部24は、図2図5に示すように、天井基材12の第1平板面12a側に配置されるスペーサ26と、当該スペーサ26を天井基材12に取り付ける固定部材28とから構成されている。ここで、実施例のスペーサ26は、貫通孔26aを有する円筒状の部材であって、当該スペーサ26の内周面側に、段差状の係止部26bが形成されている。前記固定部材28は、貫通孔26aを有すると共に天井基材12に貫通形成された固定孔13a,13bに嵌合する嵌合部30と、当該嵌合部30の一方端(天井基材12の第2平板面12b側の端部)から径方向外側に延出するフランジ部32と、当該嵌合部30の他方端(天井基材12の第1平板面12a側の端部)から貫通孔26aの貫通方向に延出する延出片34とを備えている。この延出片34は、嵌合部30の端部において貫通孔26aの径方向に離間する位置に夫々形成されて、各延出片34の延出端部において嵌合部30の外側を向く面に、スペーサ26に形成された係止部26bと係合する係止爪34aが形成されている。また、天井基材12の固定孔13a,13bに嵌合部30を嵌合すると共に、フランジ部32を天井基材12の第2平板面12bに当接させた状態で、一対の延出片34が天井基材12の第1平板面12a側に突き出るよう構成されている。そして、当該一対の延出片34をスペーサ26の貫通孔26aに挿入することで、スペーサ26の内部において各係止爪34aが係止部26bに係合して、天井基材12の第1平板面12a側にスペーサ26が固定されるようになっている。ここで、天井基材12には、各辺に沿う方向に離間した行列状に複数の固定孔13a,13bが形成されている。以下の説明では、天井基材12の各辺に隣接する固定孔を隣接固定孔13aと指称し、当該隣接固定孔13aの形成位置より天井基材12の中央側に位置する固定孔を中間固定孔13bと指称して区別する場合がある。なお、固定孔13a,13bの形成位置および形成数は、天井基材12の大きさに合わせて適宜に設定することができる。
【0029】
また、前記シート状部材16は、前記第2平板面12bにおいて天井基材12の長辺および短辺に隣接する隣接固定孔13aと重なるように前記重合面部22が位置する構成されている。そして、シート状部材16の天井面部18および重合面部22において前記隣接固定孔13aと対応する位置に貫通孔18a,22aが夫々形成されており、当該天井面部18および重合面部22と、前記空気層形成部24(スペーサ26)に形成した各貫通孔18a,22a,26aとの夫々を介して前記接合手段36によりシート状部材16が天井基材12に固定されている。実施例では、接合手段36としてリベットを用いているが、接合手段36として接着剤を採用することもでき、またビス等の2部材を接合する手段として知られた従来公知の手段を採用することができる。
【0030】
次に、前述した天井部材10の製造方法に関して説明する。先ず、樹脂発泡体から構成された天井基材12に対して工具により固定孔(隣接固定孔13aおよび中間固定孔13b)を形成する。そして、中間固定孔13bに対して天井基材12の第2平板面12b側から固定部材28の嵌合部30を嵌挿し、第1平板面12a側に突き出た固定部材28の延出片34をスペーサ26の貫通孔26aに挿入することにより、天井基材12における中間固定孔13bの各形成位置にスペーサ26を取り付ける。次いで、シート状部材16における重合面部22の貫通孔22aに挿通した固定部材28の嵌合部30を、天井基材12の隣接固定孔13aに対して天井基材12の第2平板面12b側から嵌挿し、第1平板面12a側に突き出た固定部材28の延出片34をスペーサ26の貫通孔26aに挿入することにより、天井基材12における隣接固定孔13aの各形成位置にスペーサ26を取り付ける。これにより、シート状部材16の重合面部22が固定部材28と天井基材12との間に挟まれることで、天井基材12に対してシート状部材16を仮止めすることができる。
【0031】
この状態で、シート状部材16の天井面部18を接合手段36によりスペーサ26に固定することにより、当該シート状部材16(天井面部18)と天井基材12(第1平板面12a)との間に空気層Vが形成された状態で、シート状部材16が天井基材12に安定して支持される。具体的に、天井面部18および重合面部22と、前記空気層形成部24に形成した貫通孔18a,22a,26aとの夫々を介して接合手段36によりシート状部材16が天井基材12に固定されている。この際に、例えば接合手段36としてブラインドリベットを用いる場合には、シート状部材16の天井面部18側からブラインドリベットのリベット本体を、天井面部18の貫通孔17aおよび空気層形成部24(固定部材28およびスペーサ26)に形成した貫通孔26a,28aに差し込んで、リベッター等の工具を利用してブラインドリベットの心棒を引き抜くことにより、シート状部材16を天井基材12に固定することができる。このように接合手段36としてブラインドリベットを用いることで、シート状部材16の固定作業を天井基材12の一方面側から行うことができ、効率良く行うことができる。
【0032】
そして、本発明の天井部材10では、基材として樹脂発泡体により形成された天井基材12を用い、当該天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vを形成することにより、従来から広く採用されている石膏ボードを用いた天井部材よりも格段に軽量化し得る。例えば、前述したように、天井基材12として、20〜50kg/mの密度で、5〜15mmの厚みのものを採用することにより、例えば天井部材10の厚みを20mm程度とした場合の単位面積あたりの重量を1Kg/mに抑制することができる。すなわち、本発明に係る天井部材10を用いることで、新たな技術基準を満たすことが求められる「特定天井」に該当しない天井構造とすることが容易に実現でき、天井裏設備の設置スペースを十分に確保することができる。
【0033】
また、JIS A 1409に定める「残響室法吸音率の測定方法」に基づいて測定した吸音率を、本発明に係る天井部材10のシート状部材16側から音波を入射させた場合を本発明例1として図6(a)に示し、本発明例1と同じ樹脂発泡体により形成された天井基材12に音波を入射させた場合を比較例1として図6(b)に示し、石膏ボードに岩綿吸音板を重ねた従来公知の天井部材10において岩綿吸音板側から音波を入射させた場合を比較例2として図6(c)に示す。なお、本発明例1は、前述のように、室内側を向く面および天井裏側を向く面の全面をアルミ箔で覆った10mm厚の硬質イソシアヌレートフォームからなる天井基材12に対して、8mmの間隔を空けて1mm厚のガラスマットからなるシート状部材16(天井面部18)が対向するよう構成されている。比較例1に係る天井基材12の厚みは、本発明例の天井部材10と同じ10mmである。また、比較例2に係る天井部材10は、9.5mm石膏ボードと12.5mmの岩綿吸音板を重ねた汎用の構造体である。ここで、本発明例1の単位面積当たりの重量は0.98kg/mであり軽量で、かつ断熱性としての熱抵抗値は0.63m・K/Wであった。比較例1の単位面積当たりの重量は0.99kg/mであり、断熱性としての熱抵抗値は0.50m・K/Wであった。比較例2の単位面積当たりの重量は12kg/mと重く、断熱性としての熱抵抗値は0.31m・K/Wと低いものであった。
【0034】
また図から明らかなように、樹脂発泡体により形成された天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vを形成することにより吸音性を向上することが可能であることが分かる。比較例1に係る天井基材12においては、低周波数帯(特に400Hzをピークとする500Hz付近の範囲の周波数帯)の吸音性は向上するものの250Hz付近未満、或いは1000Hz付近の範囲の範囲を超える周波数帯においては吸音性が低下している。これに対し、本発明に係る天井部材10は、特に、人が耳で感じられる低周波数帯(特に500〜1000Hzの範囲の周波数帯)の吸音性を高めることができると共に、1000Hzを超える比較的高周波数帯においても比較的高い吸音性を保持ししており、従来汎用の比較例2に係る天井部材10と遜色ない吸音性を実現し得る。このように、樹脂発泡体により形成された天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vを形成することにより、天井部材10の軽量化を実現しつつ吸音性や断熱性を高めることができる。なお、吸音性が向上する明確な原理は明らかではないものの、室内側で発生した音波が天井部材10に入射した際に、シート状部材16が振動する膜振動により低周波域の吸音効果を高め、かつ通気性を有する材料を採用したことにより1000Hzを超える比較的高周波数帯においても比較的高い吸音性を保持したものと考えられる。
【0035】
また、図7には、本発明に係る天井部材10の天井基材12が露出する面側から音波を入射させた場合を本発明例2として図7(a)に示し、石膏ボードに岩綿吸音板を重ねた従来公知の天井部材10において石膏ボード側から音波を入射させた場合を比較例3として図7(b)に示す。なお、比較例3の天井部材10は、比較例2と同じ構成のものである。このように、樹脂発泡体により形成された天井基材12とシート状部材16との間に空気層Vを形成することにより、800Hzを超える周波数帯の吸音性高めることができる。これにより、本発明の天井部材10を備えることにより、天井裏設備の設置空間で発生した音を効果的に吸音して室内側に漏れないようにすることができる。すなわち、本発明に係る天井部材10では、室内側および天井裏側で発生した音の夫々を単体で効果的に吸音することができる。
【0036】
また、本発明に係る天井部材10は、空気層Vが存在することで、地震等において天井部材10が落下した場合でも衝撃吸収性に優れ、落下に伴う被害を最小限に抑制できる。そして、スペーサ26を介して空気層Vを形成することで、一定幅の空気層Vを天井部材10に確実に形成することが可能となる。このため、天井部材10の吸音性や断熱性のばらつきを抑制することができる。
【0037】
また、天井基材12の中間固定孔13bに取り付けられたスペーサ26は、シート状部材16に接合されることなく空気層V内に配置されている。このため、シート状部材16の膜振動を阻害することなく効果的な吸音を実現できると共に、天井部材10を天井下地材56,60に取り付ける際には、作業者が天井部材10を支持する支持点として利用することができ、シート状部材16の座屈や陥凹等の変形を効果的に防止することができる。
【0038】
そして、本発明のように樹脂発泡体により形成された天井基材12を用いて天井部材10を軽量化することで、野縁受け56に支持される上部保持部に対して下側から連結される下部保持部により天井部材10の荷重を支持する天井構造とした場合でも、下部保持部が上部保持部から脱落することなく天井部材10を安定して支持することができる。また、天井部材10を室内側から上部保持部に当てて位置決めした状態で、室内側から下部保持部を上部保持部に連結できるから、施工効率を高められる。
【0039】
(変更例)
本発明に係る天井ボードおよび天井構造は、実施例に例示した形態に限らず種々の変更が可能である。以下に、変更例の一例を示す。
(1) 実施例のシート状部材16は、天井面部18、外周面部20および重合面部22により空気層Vをシート状部材16で囲うよう構成したが、少なくとも天井面部18を備える構成であればよい。すなわち、空気層Vは、天井基材12の第1平板面12aに沿う方向に開口した構成であってもよい。
(2) 実施例の空気層形成部24は、スペーサ26を天井基材12に嵌挿される固定部材28により固定するようにしたが、スペーサ26を接着剤その他の手段により天井基材12に固定するようにしてもよい。
(3) また空気層形成部24をシート状部材16と別部材とする構成に限らず、シート状部材16により形成してもよい。例えば、実施例のように、シート状部材16として厚み1mm程度のガラスマットを採用する場合は、当該ガラスマット折り曲げて形成した外周面部20および重合面部22を空気層形成部24することができる。すなわち、ガラスマットのように伸縮性に乏しい部材をシート状部材16とする場合は、重合面部22を天井基材12に固定することにより天井面部18を天井基材12から離間した一定位置に保持することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 天井部材,12 天井基材,16 シート状部材,24 空気層形成部
26 スペーサ,28 固定部材,50 上部構造体 52,吊りボルト
56 野縁受け(天井下地材),60 保持部材(天井下地材)
62 下側支持板,64 下側支持板,70 上側保持部,72 上側支持板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7