【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るフラックス、及び、フラックスを含むはんだ材料について説明する。
本実施形態のフラックスは水酸基価が110mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を含むフラックスである。
【0014】
本実施形態においてテルペンフェノール樹脂とは、テルペンモノマーとフェノール類とを共重合して得られたものをいう。あるいは、テルペンモノマーと、テルペンモノマー以外のモノマーと、フェノール類とを共重合して得られたものをいう。さらに、得られたテルペンフェノール樹脂に他の成分を添加したもの、例えば、水素添加したもの等も含む。
【0015】
テルペンモノマーとしては、イソプレンなどの炭素数5のヘミテルペン類、炭素数10のモノテルペン類、炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン類、炭素数25のセスタテルペン類、炭素数30のトリテルペン類、炭素数40のテトラテルペン類等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0016】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
テルペンフェノール樹脂の水酸基価は、110mgKOH/g以上、好ましくは、250mgKOH/g以下、より好ましくは、150mgKOH/g以上250mgKOH/g以下、さらにより好ましくは180mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。
テルペンフェノール樹脂の水酸基価が上記範囲であることで、はんだ濡れ性を維持しつつ、金属表面の変色を十分に抑制しうる。
【0018】
尚、本実施形態のテルペンフェノール樹脂の水酸基価は、JIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の7.2 電位差滴定法に従って測定される水酸基価を指す。
【0019】
テルペンフェノール樹脂の具体例としては、YSポリスター(テルペンフェノール樹脂:ヤスハラケミカル社製)、タマノル(テルペンフェノール樹脂:荒川化学工業社製)、テルタック80(テルペンフェノール樹脂:日本テルペン化学社製)、SylvaresTP(テルペンフェノール樹脂:エア・ブラウン社製)等が市販品として容易に入手できるものとして挙げられる。
【0020】
テルペンフェノール樹脂のフラックスにおける含有量(固形分換算)は特に限定されるものではないが、例えば、5質量%以上90質量%以下、好ましくは15質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上30質量%以下であること等が挙げられる。
テルペンフェノール樹脂のフラックスにおける含有量が前記範囲である場合には、はんだ付け性を維持しつつより変色抑制効果が高いフラックスが得られる。
【0021】
本実施形態のフラックスは、軟化点が20℃以上180℃以下であるテルペンフェノール樹脂を含んでいてもよい。
本実施形態のフラックスは、水酸基価が上述のような範囲であって、且つ、軟化点が上記範囲であるような一のテルペンフェノール樹脂を含んでいてもよく、あるいは、水酸基価が上記範囲であるようなテルペンフェノール樹脂に加えて、軟化点が上記範囲であるようなテルペンフェノール樹脂をさらに含んでいてもよい。すなわち、テルペンフェノール樹脂として、一種類を含んでいても、複数種類を含んでいてもよい。
テルペンフェノール樹脂の軟化点は、例えば、20℃以上180℃以下、好ましくは20℃以上150℃以下、より好ましくは20℃以上130℃以下である。
かかる軟化点であるテルペンフェノール樹脂をさらに含むことで、より高い変色抑制効果及びはんだ付け性効果が得られる。
【0022】
尚、本実施形態のテルペンフェノール樹脂の軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト」6.4 軟化点試験方法に従って測定される軟化点を指す。
【0023】
本実施形態のフラックスは、テルペンフェノール樹脂の他に、公知のフラックスの成分、例えば、有機酸、テルペンフェノール樹脂以外の樹脂成分、有機酸以外の活性剤成分、溶剤成分、酸化防止成分、チキソトロピック成分等を含んでいてもよい。
尚、これらの各成分は必要に応じてフラックスに配合されることができ、いずれの成分が含まれていても含まれていなくてもよい。
【0024】
本実施形態のフラックスは、有機酸を含んでいてもよい。
有機酸は、フラックスの活性剤成分等として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ステアリン酸、安息香酸、ドデカン二酸、コハク酸、マレイン酸、イソシアヌル酸等が挙げられる。
前記有機酸は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0025】
前記有機酸のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、固形物換算で0.1質量%以上80質量%以下、好ましくは1.0質量%以上70質量%以下等が挙げられる。
【0026】
有機酸以外の活性剤成分としては、アミンハロゲン塩、ハロゲン化合物等を用いることができる。
アミンハロゲン塩のアミンとしては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジフェニルグアニジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。対するハロゲン化合物としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。ハロゲン化合物としては、2,3−ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブロモ-3-ヨード-2-ブテン-1,4-ジオール、TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。
前記活性剤は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0027】
前記活性剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、有機酸以外の活性剤成分については、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下等が挙げられる。
【0028】
本実施形態のフラックスは、テルペンフェノール樹脂以外の樹脂成分をロジン成分として含んでいてもよい。
テルペンフェノール樹脂以外の樹脂成分としては、合成樹脂、天然樹脂など、フラックスの樹脂成分として用いられる公知の樹脂成分であれば特に限定されるものではない。例えば、重合ロジン、水添ロジン、天然ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジン等が挙げられる。
前記樹脂は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
この場合、前記樹脂成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、テルペンフェノール樹脂と合わせて(固形物換算で)1.0質量%以上80質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下等が挙げられる。
【0029】
さらに、全樹脂成分中のテルペンフェノール樹脂の含有量は50質量%以上100質量%以下、好ましくは70質量%以上90質量%以下であってもよい。
フラックス中にテルペンフェノール樹脂とさらにその他のロジンとが含まれることで、有機酸やその他の活性剤成分を含む場合にこれらの各成分の相溶性を向上させることができる。
【0030】
溶剤成分としては、フラックスの溶剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(2エチルヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)などのグリコールエーテル類;n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族系化合物;酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、オクタンジオールなどのアルコール類等が挙げられる。
前記溶剤は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0031】
前記溶剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、20質量%以上98質量%以下、好ましくは40質量%以上96質量%以下等が挙げられる。
【0032】
酸化防止剤成分としては、フラックスの酸化防止剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。
前記酸化防止剤のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0033】
チキソトロピック成分としては、フラックスのチキソトロピック成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類、ワックス等が挙げられる。
前記チキソトロピック成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0034】
本実施形態のフラックスには、さらに、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態のフラックスは、ポストフラックス等の液状フラックスとして用いることができるが、その他、ソルダーペースト、やに入りはんだのようなはんだ材料用のフラックスとしても用いられる。
【0036】
本実施形態のはんだ材料は、前記各フラックスとはんだ合金とを含む。
前記はんだ合金は、鉛フリー合金であってもよい。
前記はんだ合金としては、特に限定されるものではなく、鉛フリー(無鉛)のはんだ合金、有鉛のはんだ合金のいずれでもよいが、環境への影響の観点から鉛フリーのはんだ合金が好ましい。
具体的には、鉛フリーのはんだ合金としては、スズ、銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン等を含む合金等が挙げられ、より具体的には、Sn/Ag、Sn/Ag/Cu、Sn/Cu、Sn/Ag/Bi、Sn/Bi、Sn/Ag/Cu/Bi、Sn/Sb、Sn/Zn/Bi、Sn/Zn、Sn/Zn/Al、Sn/Ag/Bi/In、Sn/Ag/Cu/Bi/In/Sb、In/Ag等の合金が挙げられる。特に、Sn/Ag/Cuが好ましい。
【0037】
前記はんだ合金のはんだ材料における含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、80質量%以上99質量%以下、好ましくは85質量%以上98質量%以下等が挙げられる。
【0038】
本実施形態のはんだ材料が、内部にフラックスが充填された線状のはんだ合金を有するやに入りはんだである場合には、例えば、はんだ合金が95質量%以上99質量%以下、好ましくは96重量%以上98重量%となるように構成されていることが好ましい。
本実施形態のはんだ材料がはんだ合金と上記本実施形態のフラックスとを混合することで得られるソルダーペーストである場合には、例えば、前記はんだ合金80質量%以上95質量%以下、前記フラックス5質量%以上20質量%以下で混合されていることが好ましい。
【0039】
本実施形態のフラックスは、特定の水酸基価を有するテルペンフェノール樹脂を含むものであり、はんだ材料に配合された場合には、はんだ濡れ性を維持しつつ、金属表面の変色を十分に抑制しうる。特に、銅あるいは銅合金に対しての変色抑制効果にすぐれている。
【0040】
本実施形態のフラックスは、特に、銅あるいは銅合金に対しての変色抑制効果にすぐれている。
電子部品や基板の接合部には銅あるいは銅合金(銅を含む金属)が使用されている場合があるが、かかる接合部に含まれる銅はフラックス中の有機酸と反応して緑の有機酸銅塩を生じることがある。かかる変色は緑青等の腐食と見間違われることがある。
特に、濡れ性を向上させるべく、フラックス中に有機酸を配合した場合には、変色が生じやすくなる。よって、本実施形態のフラックスは、はんだ濡れ性と変色抑制効果とを共に達成しうる。
【0041】
本実施形態にかかるフラックス及びはんだ材料は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0043】
(フラックスの作製)
以下に示すような材料を表1に記載の配合で各実施例、比較例に用いるフラックスを作製した。
作製方法は各材料を適当な容器に投入して、室温にて全材料が均一に溶解するまで混合することで各のフラックスを得た。
【0044】
<材用と配合>
ロジン成分
・ロジン1:水素添加ロジン
・ロジン2:超淡色ロジンエステル
・ロジン3:超淡色液状ロジン誘導体
テルペンフェノール樹脂
・テルペンフェノール樹脂1〜5
ポリパラビニルフェノール
・マルカリンカー(丸善石油化学株式会社製)
有機酸
・市販の有機酸系活性剤
添加剤
・2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール
溶剤成分
・IPA
【0045】
(水酸基価/軟化点)
前記テルペンフェノール樹脂1〜5の水酸基価及び軟化点(メーカー表示値)を表2に示す。
水酸基価はJIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の7.2 電位差滴定法に従って測定した。
軟化点はJIS K 2207「石油アスファルト」6.4 軟化点試験方法に従って測定した。
各測定値は表2に示す範囲の内側の数値であった。
【0046】
(腐食試験)
前記実施例及び比較例のはんだ材料を用いて、IPC規格(試験規格:TM-650 2.6.15)における40℃、93%RH環境下240時間の試験を行い、目視で試験前後のはんだ上の色の変化を確認した。結果を表1に示す。
【0047】
(ゼロクロス時間及び濡れ張力の測定)
各実施例及び比較例のはんだ材料について、メニスコグラフ法を用い(試験装置:RHESCA SAT-5100、REHSCA社製)ゼロクロス時間及び濡れ張力を測定した。
尚、測定条件は、以下のとおりであった。
はんだ溶融温度:250℃
浸漬速度:25mm/sec
浸漬深さ:2mm
保持時間:10sec
使用するはんだ組成:Sn3.0Ag0.5Cu
試験基板は以下のように作成した。
リン脱酸銅板(10mm×30mm×厚み0.3mm)をIPAで5分間超音波洗浄した後、IPAをふき取り、さらに、1.75%HCl水溶液で洗浄後、純水で4回、IPAで1回すすぎ、IPAをふき取り、乾燥させたものを試験基板とした。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示すように、実施例のはんだ材料は、いずれも腐食試験において変色は見られなかった。一方、比較例のはんだ材料はいずれも変色がみられた。
また、濡れ性をしめすゼロクロス時間及び濡れ張力は実施例及び比較例に差はなかった。
以上の結果より、実施例のはんだ材料は、はんだ濡れ性は比較例のはんだ材料と同等であるが、変色は抑制されていたことが明らかである。