【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
なお、以下の実施例において、GHR遺伝子の改変に用いたブタ胎仔線維芽細胞は、以下の通りに調製した。
【0029】
デュロック種を交配し、妊娠35日齢のデュロック種ブタ胎仔を回収した。採取した胎仔の頭部・内蔵部分を除去し、ハサミで細断後、300〜500μmメッシュ上で擦り潰して10%のウシ胎児血清(FCS)添加DMEM(ナカライテスク)又はMEMα(インビトロジェン)に懸濁した。ブタ胎仔細胞懸濁液を遠心処理(1000rpm、10分)し、上清を除去した後、再度10%FCS添加DMEMに適当量になるように懸濁して75cm
2細胞培養用フラスコに播いた。細胞は37℃・5%CO
2下で培養し増殖させ、コンフルエント後に継代して必要量まで増やし、その後凍結保存した。
【0030】
1.成長ホルモン結合領域をホモで欠失したGHRホモKOブタの作出
図1に示した戦略にて、GHR-KOベクターと人工ヌクレアーゼ共導入によるワンステップホモKO細胞株樹立を試みた。2本の染色体上に有るGHR遺伝子の一方は通常のKOベクターとの相同組み換え反応によりKOし、もう一方は人工ヌクレアーゼによる切断によりKOしてホモKO細胞を得るものである。
【0031】
1−1.ホモKO細胞株の樹立
(1) 細胞外レセプター領域を標的とするターゲティングベクターの構築
細胞外レセプター領域を欠失させるターゲティングベクターpGHR-KObを構築するため、ブタGHR遺伝子の周辺ゲノム領域(1.7kbおよび7.1kb断片:
図1)をPCRクローニング法によりクローニングした。ベクターの短腕として使用する1.7kb断片(1.7KS、配列番号7)のPCR増幅には、センスプライマー:CTTAGAATGGACATTATTGTGGAGC(配列番号5)およびアンチセンスプライマー:TTAGGCTTTCCAGAAGAATCTGCCG(配列番号6)を使用した。また、長腕として使用する7.1kb断片(7.1KL、配列番号10)の増幅にはセンスプライマー:CTGTGATATGATGTCATCCAGGACC(配列番号8)およびアンチセンスプライマー:GAAGTCAGGCCATGCACTCATC(配列番号9)を使用した。短腕、長腕いずれも、ブタの体細胞から抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCRにより増幅して得た。
【0032】
pGHR-KObベクターは、GHR遺伝子のエクソン4の一部を含むゲノム領域が選択マーカーであるCAG-bsr(CAGプロモータを持つブラストサイジン耐性遺伝子)に置き換わるようにデザインし構築した。pGHR-KObベクターはCAG-bsrユニットの5’側に短腕1.7KS、そして3’側に長腕7.1KLが位置し、さらに1.7KSの5’側にネガティブ選択用遺伝子マーカーのMC1-TK(MC1プロモータを持つヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子)が位置するかたちに構築した(
図1)。具体的には、プラスミドベクターpZErO-2(Invitrogen)のマルチクローニングサイト中、CAG-bsrユニットの5’側に短腕1.7KS、そして3’側に長腕7.1KLが位置するように構築した。このターゲティングベクターを用いると、相同組換えの結果、エクソン4(130bp)内の29位〜130位(配列番号1においては156位〜266位)の111bpを含むゲノム領域が欠失し、この部分に薬剤耐性遺伝子ユニットが挿入された変異型アレルが生じる(
図1)。
【0033】
(2) 人工ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9n)発現ベクター構築および切断活性確認
GHR遺伝子切断用の人工ヌクレアーゼ発現ベクターは、SBI社のCas9発現ユニットおよびCas9n(D10A)発現ユニットとDNA2社のgRNA発現ユニットを一体化して構築した。人工ヌクレアーゼによる改変領域の選定はZhang Lab, MITのWeb上で調査し決定した。GHR遺伝子切断におけるgRNAの認識配列はTAGTTCAGGTGAACGGCACT-TGG(GHR9688B:ボトムストランド側、配列番号11)およびTGGACAGATGGGGTCCGTCA-CGG(GHR9707T:トップストランド側、配列番号12)を使用した。人工ヌクレアーゼ発現ベクターのゲノム切断活性の確認はGuide-it(商標) Mutation Detection Kit(クロンテック社)を使用し実施した。
【0034】
(3) ブタ胎仔由来線維芽細胞へのターゲティングベクター・人工ヌクレアーゼ発現ベクター共導入および選別培養
ブタ胎子由来線維芽細胞(#T6-16株)を150平方cm培養フラスコ(グライナー社製)中で10%FCS(牛胎児血清)を含むMEMα培地(インビトロジェン社製)中で培養し、コンフルエント状態になった細胞を使用した。
【0035】
ベクターの導入はエレクトロポレーション法により行った。手順は次のとおりである。コンフルエント状態の細胞を、リン酸緩衝塩溶液(PBS)で洗浄後、0.05%トリプシン-EDTA/PBS溶液(インビトロジェン社製)を使用し分散化し、1500回転/分の遠心操作により回収した。7.5x 10
6細胞/750μl PBSに調整後、2.5μgのpGHR-KObベクター(あらかじめ制限酵素SalI(タカラバイオ社製)消化により直線化する)および10μgの人工ヌクレアーゼ発現ベクター(gRNA(GHR9688B-9707T))を添加し、氷中に10分間静置した。氷冷したエレクトロポレーション用キュベット(BIO-RAD社製)に細胞・pGHR-KObベクター・人工ヌクレアーゼ発現ベクター混合液を入れ、ジーンパルサー遺伝子導入装置(BIO-RAD社製)で導入操作を実施した(220V, 950 μF)。荷電後、氷中に10分間静置した。続いて、24 mlの培養用培地(10% FCS添加MEM・培地)に細胞をケン濁し、6穴細胞培養プレート(グライナー社製)(2ml/穴)2枚に播種しインキュベーター(サンヨー社製)(37℃、5%, CO
2/95%空気)内で培養した。
【0036】
48時間培養後、細胞(2穴分)をリン酸緩衝塩溶液(PBS)で洗浄し、0.05%トリプシン−EDTA処理(5分)し培養プレートより細胞を剥がし、10 μg/ml(最終濃度) ブラストサイジンS(BS)(InvivoGen社製)+20 μMガンシクロビル(GCV)(ナカライテスク社)添加培地中にけん濁し、48穴細胞培養プレート(400μl/穴)(グライナー社製)12枚に播き直し選別培養を行った。
【0037】
播き直し後、10日目前後になると増殖した薬剤耐性細胞コロニーが確認できた。顕微鏡下でコロニーの存在する穴(ウェル)を確認し、前述のトリプシン処理により細胞を剥がし48穴細胞培養プレートに二等分して培養を継続した。24〜48時間後、二等分した一方を使用しKO判定のためのPCR解析(後述)を実施した。PCR解析によりKOと判定された細胞株は、細胞増殖に従い、12穴細胞培養プレート(グライナー社製)、25 cm
2培養フラスコ(グライナー社製)、75 cm
2培養フラスコ(グライナー社製)へとスケールアップ継代し、最終的に細胞を回収し凍結保存した。
【0038】
(4) PCR解析によるGHR遺伝子レセプター部位KO細胞株の判定
KO判定に使用する48穴細胞培養プレートの各穴(ウエル)にDNA抽出バッファー(10 mM Tris-HCl(pH 8.5)、50 mM KCl、2 mM MgCl
2、0.45% NP-40、0.45% Tween-20、100 μg/ml(最終濃度)Proteinase K(ナカライテクス社製))を50 μl添加し溶解し、0.2mlマイクロチューブに回収した。その後、55℃で60分間インキュベートし、さらに99℃で10分間インキュベートした。インキュベート終了後、DNAサンプルは4℃で保持し、PCR解析に使用した。
【0039】
PCRは1サンプル当たり、テンプレート(DNA抽出サンプル)5 μl、DNA Polymerase用5×PCR buffer(タカラバイオ社製)5 μl、センスプライマー(10 pmoles/μl)0.25 μl、アンチセンスプライマー(10 pmoles/μl)0.25 μl、dNTP mixture (2 mM each) 2 μl、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase (タカラバイオ社製) 0.5 μl、滅菌蒸留水にて計25 μlになるように調整し実施した。
【0040】
KO判定に用いたプライマーの塩基配列は次の通りである。プライマーP1a:CACACGTTAGCACCGCAACC(配列番号13)、プライマーP2a:CGTAAGTTATGTAACGCGGAACTCC(配列番号14)。また、KO細胞株の詳細なPCR解析には、上記プライマーに加えプライマーP3a:CTTAGAATGGACATTATTGTGGAGC(配列番号5)を使用し実施した。PCRの反応条件は、95℃3分を1回、95℃1分-57℃1分-72℃2分を35回、72℃5分を1回とした。
【0041】
薬剤耐性コロニー102個を解析したところ、19コロニーがKOと判定された(表1)。このKOと判定されたコロニーを詳細にPCR解析およびシークエンス解析した結果、10株がホモKO(欠損あるいは挿入によりフレームシフトが起こり停止コドンが生じる)、2株が変異型GHR(それぞれ10アミノ酸挿入、9アミノ酸欠損により機能不全を呈する可能性あり)、4株がヘテロKO(人工ヌクレアーゼ処理による変異なし)であることが確認できた(表1、表2)。一方残りの3株は他細胞の混入が示唆された。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
1−2.体細胞核移植法によるGH結合領域ホモ欠失ブタの作出
PCR解析によりGHR遺伝子GH結合領域のホモ欠失が確認された細胞株3種(#1-8, #1-23, #1-87)を核ドナーとして使用し、体外成熟卵子への体細胞核移植操作により核移植胚を調製し、受胚豚に移植して産子を得た。具体的な手順を以下に記載する。
【0045】
(1) 卵巣の採取
卵巣の採取にはデュロック種(D)又は大ヨークシャー種(W)の雌ブタを用いた。卵巣の摘出はイソフルラン(アボット)およびソムノペンチル(共立製薬)による全身麻酔下で外科的に行った。採取した卵巣は35℃で保温しておいた抗生物質添加生理食塩水に浸漬させ、試験に供与するまで30℃以上で保温した。卵巣は抗生物質添加生理食塩水で数回洗浄し、卵子の採取に用いた。
【0046】
(2) 未成熟卵子の体外成熟培養
雌豚の卵巣から未成熟卵子を採取し、POE-CM培地(機能性ペプチド研究所)で数回洗浄後、顕微鏡下で検卵し、体外成熟培養に適した卵子を選抜した。選抜した卵子はリプロプレート(機能性ペプチド研究所)に準備したdbcAMP(機能性ペプチド研究所)およびrFSH(Merc, Mol Reprod Dev. 80:549-60. 2013)添加又はdbcAMP、eCG(ピーメックス、エール薬品)およびhCG(プペローゲン、日本全薬工業)添加HP-POM培地(機能性ペプチド研究所)に入れ、インキュベーター(38.5℃、5%CO
2、5%O
2、90%N
2)下で20〜22時間培養した。その後、卵子を無添加のHP-POM培地に移し替え、さらに同条件下で22〜24時間培養した。得られた卵子は0.1%ヒアルロニダーゼ(Sigma)を含むPOE-CM培地で卵丘細胞を裸化し、その後ヒアルロニダーゼを含まないPOE-CMで2〜3回洗浄した。培地で洗浄後、除核操作に供試するまでPZM-3液(Biol Reprod. 66:112-119. 2002)を用いてインキュベーター(38.5℃、5%CO
2、5%O
2、90%N
2)下で保存した。
【0047】
(3) 除核操作
採卵した未受精卵子を5μg/ml濃度のサイトカラシンB(Sigma)を含むPZM-3液に移し、15分以上処理した後、同様のサイトカラシンB添加PZM-3液ドロップ内で除核操作を行った。ピエゾマイクロマニピュレーター(プライムテック株式会社製)に取り付けた除核用ピペット(外径25μm、先端45度、プライムテック株式会社製)により、第一極体ごと細胞質を1/4〜1/3量程吸引除去した。細胞質吸引後、除核卵子をサイトカラシンB不含のPZM-3液に移し、3回洗浄を行った。その後、ドナー核の注入操作までPZM-3液ドロップに移し、インキュベーター内で培養した。
【0048】
(4) ドナー細胞の準備
前述のPCR解析によりGHR遺伝子のGH結合領域がホモで欠失していると判定された雄ブタ胎仔線維芽細胞コロニー(#1-8, #1-23, #1-87)を核移植のドナー細胞として用いた。培養液には10%FCSを添加したDMEM(ナカライテスク)又はMEMα(インビトロジェン)を用い、継代回数は1〜4回の細胞を用いた。ドナー細胞は、コンフルエント状態から培地交換を行わず2〜8日間放置又は核移植日の2〜3日前に培養液を0.05%FCS添加DMEM又はMEMαに交換し、細胞周期をG1/G0期に同調した。ドナー細胞は培養液を除去した後にPBS(−)で洗浄し、0.05%トリプシン-EDTA/PBS溶液(インビトロジェン)を加えて細胞を剥離した。剥離した細胞に10%FCS添加DMEM又はMEMαを加えて懸濁し、その後遠心処理(1000rpm、5分)を行った。遠心処理後、上清を除去し、PZM-3液を適量加えて懸濁し、核移植に用いるまで室温で放置した。体細胞核注入操作時に適量の細胞数を注入操作用チャンバーのドロップに加えて使用した。
【0049】
(5) ドナー体細胞核の注入操作
ドナー体細胞核の注入操作は除核卵子を含む注入用チャンバーのドロップに適量のドナー細胞を添加して操作した。注入操作には体細胞核注入用ピペット(外径10〜12μm、鈍端、プライムテック株式会社)を用いた。体細胞核注入用ピペットをピエゾマイクロマニピュレーターに取り付ける前に、ピペット後端からフロリナートを充填して使用した。体細胞核注入用ピペットで体細胞を吸引し、数回ピペッティングして細胞膜を破壊後、ホールディングピペットで保定した除核済み卵子細胞質内へ注入した。体細胞核を注入した卵子は活性化処理時間までインキュベーター内で培養した。
【0050】
(6) ドナー体細胞核を注入した卵子の活性化処理と体外培養
体細胞核を注入した卵子の活性化には電気活性化装置(NEPAGENE社製)を用いて直流パルス刺激(1.5kV/cm 100μsec×1回)を与えた。チャンバーはステンレスワイヤー電極を用い、電気活性化処理用の溶液には0.05mM CaCl
2、0.1mM MgSO
4、0.02%BSAを含む0.28Mマンニトール溶液を用いた。
【0051】
活性化処理後の卵子は5μg/mlサイトカラシンBを含むPZM-3液で2時間培養し、第2極体の放出抑制処理を行った。その後、PZM-3液2〜3回洗浄し、リプロプレート(機能性ペプチド研究所)に準備したPZM-3培地に移し替え、胚移植に用いるまでインキュベーター内で培養した。体外培養後1〜2日目の核移植胚を胚移植に用いた。
【0052】
(7) 仮腹豚の発情同期化と胚移植
仮腹豚として150日〜195日齢の春期発動前の雌ブタを用いる場合は、eCG(ピーメックス、エール薬品)を1000IU投与し、その72時間後にhCG(プペローゲン、日本全薬工業)を500〜1000IU投与することによって発情の同期化を行なった。また、発情が観察された春期発動後の雌ブタを用いる場合は、発情観察後15〜16日に上記と同様の処置を施し、発情の同期化を行なった。仮腹豚の発情は採卵した雌ブタより1〜2日遅れるように発情同期化処置を行い、hCG投与後1日目に発情が確認された雌ブタのみを仮腹豚として胚移植に供試した。胚移植はイソフルラン(アボット)・ドルミカム(アステラス製薬)・ドミトール(日本全薬工業)麻酔下で外科的に胚移植を行った。胚移植はPPカテーテル(富士平工業)を卵管に挿入して行った。
【0053】
(8) 結果
核移植胚を2頭の受胚豚(Large White種を使用)に移植し、分娩予定日1日前に帝王切開で(Day113)、又は自然分娩(Day122)により産子を得た。2回の試験で20頭の生存産子の作出に成功した。産子のゲノムをPCRで確認したところ、全ての産子でホモKOが確認された(データ省略)。生時体重は、帝王切開で0.21kg〜0.89kg(平均0.47kg)、自然分娩で0.38kg〜0.78kgであり、通常の家畜ブタよりも明らかに生時体重が減少していた。しかしながら、いずれも重篤な低血糖症状を示し、出生後2日以内に全頭死亡した。
【0054】
2.JAK2結合領域の除去によるGHRヘテロ変異ブタの作出
GHRのGH結合領域でのホモKOは致死的であったため、GH結合領域以外でのヘテロ変異導入を検討した。まず、JAK2結合領域を除去したヘテロ変異ブタの作出を試みた。JAK2が結合しなければSTAT5は機能しないため、JAK2結合領域を欠失した変異型GHRがホモ二量体を形成した場合にはGHシグナル伝達が起きない。なお、JAK2結合領域の変異に関してはマウスにおける報告があり、マウスではJAK2結合領域のBox1をホモで欠失させると小型化するが、ヘテロ変異ではほとんど変化がないことが知られている(Johanna L. Barclay et al., Mol Endocrinol, January 2010, 24(1):204-217)。
【0055】
2−1.変異細胞株の樹立
(1) GHR JAK2結合領域を標的とするターゲティングベクターの構築
GHR JAK2結合領域を欠失させるターゲティングベクターpGHR-JAKd-KInを構築するため、ブタGHR遺伝子の周辺ゲノム領域(1.6kbおよび5.9kb断片:
図2)をPCRクローニング法によりクローニングした。
【0056】
ベクターの短腕として使用する1.6kb断片(1.6KS、配列番号17)のPCR増幅には、センスプライマーGHRJ12806(T):GGAAATAAGCTTCATGGCTGG(配列番号15)およびアンチセンスプライマーGHRJ14419(B):CAATCTTTGGAAGAGACCTGCTCC(配列番号16)を使用した。
【0057】
長腕の5.9kb断片(5.9KL、配列番号22)は、JAK2結合領域(Box1およびBox2)を欠失するように2つの断片(4.4kb断片および1.5kb断片)を結合し作製した。4.4kb断片の増幅にはセンスプライマーGHRJ5574(T):CCTTATACCTAAAGCAACTAGAGG(配列番号18)およびアンチセンスプライマーGHRJ9938S-Sal(B):GTCGACTCTTAATCCTTGAAAAGG(配列番号19)を使用し、1.5kb断片の増幅にはセンスプライマーXho-GHRJ10490(T):CTCGAGAAGGATGACGACTCCGGACG(配列番号20)およびアンチセンスプライマーGHRJ12002-Sal(B):GTCGACGATGAGTACATTCCAATACTGTAGG(配列番号21)を使用した。
【0058】
pGHR-JAKd-KInベクターは、PGK-Neoユニット(PGKプロモータを持つネオマイシン耐性遺伝子)の5’側に長腕5.9KL、そして3’側に短腕1.6KSが位置し、さらに1.6KSの3’側にネガティブ選択用遺伝子マーカーのMC1-TK(MC1プロモータを持つヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子)が位置するかたちに構築した。このターゲティングベクターを用いると、相同組換えの結果、エクソン9(70bp)の第8位〜第70位及びエクソン10(972bp:停止コドン位置まで)の第1位〜第192位を含むゲノム領域が欠失し(成熟タンパク質の277〜361番残基の配列が失われる)、エクソン10の下流に隣接するイントロン内に薬剤耐性遺伝子ユニットが挿入された変異型アレルが生じる(
図2)。
【0059】
(2) 人工ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9n)発現ベクター構築および切断活性確認
GHR遺伝子切断用の人工ヌクレアーゼ発現ベクターは、SBI社のCas9発現ユニットおよびCas9n(D10A)発現ユニットとDNA2社のgRNA発現ユニットを一体化して構築した。人工ヌクレアーゼによる改変領域の選定はZhang Lab, MITのWeb上で調査し決定した。GHR遺伝子切断におけるgRNAの認識配列はACACTGCGGCCGAGGTTCTA-AGG(GHR12242B:ボトムストランド側、配列番号23)およびATTTCATATTTACCTAAGAA-AGG(GHR12287T:トップストランド側、配列番号24)を使用した。人工ヌクレアーゼ発現ベクターのゲノム切断活性の確認はGuide-it(商標) Mutation Detection Kit(クロンテック社)を使用し実施した。
【0060】
(3) ブタ胎仔由来線維芽細胞へのターゲティングベクター・人工ヌクレアーゼ発現ベクター共導入および選別培養
GHR JAK2結合領域改変ターゲティングベクターを2.5μg、人工ヌクレアーゼ発現ベクターを10μg使用し、ブタ胎仔由来線維芽細胞(#T6-16株)にpGHR-JAKd-KIn/人工ヌクレアーゼ共導入を行なった。細胞数は8.5x10
6細胞とし、共導入後の選別培養には0.4 mg/ml(最終濃度) ネオマイシン(G418:商品名 Geneticin,インビトロジェン社製)+20 μMガンシクロビル(GCV)(ナカライテスク社)添加培地を用いたほかは、上記1−1.(3)と同様に行なった。ターゲティングベクターはSalIで直線化した。
【0061】
(4) PCR解析によるGHR遺伝子JAK改変細胞株の判定
上記1−1.(4)と同様の方法でJAK2結合領域の改変を判定した(
図3)。PCR解析に用いたプライマーの塩基配列は次の通りである。プライマーP1b(GHRJ14481(B)):AGGAACACATGTTAGCCAACTCC(配列番号25)、プライマーP2b:GGTCCCTCGAAGAGGTTCACTAG(配列番号26)。また、KO細胞株の詳細なPCR解析には、上記プライマーに加えプライマーP3b(GHRJ14419(B)):CAATCTTTGGAAGAGACCTGCTCC(配列番号16)、プライマーP4b(GHR5.9-Xho(B)):CATCGATAGATCTCGACGATGAG(配列番号32)、プライマーP5b(GHRJ9539(T)):TGGTGGCTCTACATGAATTGGC(配列番号33)、及びプライマーP6b(GHRJ10759S-Sal(B)):GTCGACTATTGATGAGTTGAGTCAGTTCC(配列番号34)を使用し実施した。
【0062】
G418/GCV耐性コロニー118個をPCR解析したところ、43コロニーがKI(PGK-neoユニットの挿入あり)と判定された(表3)。このKIと判定されたコロニーのうち8株が良好に増殖し、さらに詳細なPCR解析およびシークエンス解析を行なった結果、4株(#1-6、#1-73、#1-87、#1-95)がJAK2結合領域配列を消失しており(
図3)、タンパク質レベルではJAK2結合部のBox1の大部分とBox 2の全長を含む85残基のアミノ酸が失われている(成熟タンパク質の277M→V、278Lから360Gまで欠失、361A→E; この変異型アミノ酸配列を配列番号27に示す)ことが判明した。4株の細胞増殖性は#1-73>#1-95>#1-87>#1-6であった。細胞増殖性が最も良好な#1-73株では、人工ヌクレアーゼ処理によるゲノムの改変は認められなかった(野生型GHR遺伝子を持つ染色体は無傷)ことから、#1-73株を用いてGHRヘテロ変異ブタを作出した。
【0063】
【表3】
【0064】
2−2.体細胞核移植法によるGHR遺伝子JAK2ヘテロ改変ブタの作出
GHR遺伝子のJAK2結合領域がヘテロで改変されていると判定されたブタ胎仔線維芽細胞#1-73株を核ドナーとし、上記1−2.と同様の手順で体外成熟卵子に核を移植して核移植胚を調製し、仮腹豚(Large White種を使用)に胚移植を行ない、自然分娩によりJAK2結合領域がヘテロで改変された産子を得た。
【0065】
Day122で2016年6月28日に自然分娩した1腹目の産子2頭は、低血糖症状は無く健康状態は良好であった。その後、2016年7月8日に分娩した2腹目の産子4頭も、低血糖症状を示すことなく生存している。1腹目の産子2頭の14日齢までの体重の推移を
図4に、通常のデュロック種ブタ産子と比較した生時及び14日齢の体重データを表4及び
図5に示す。生時体重は通常のデュロック種ブタ産子の60%程度であり、明らかな小型化が確認された。生後2週間の時点でも通常のデュロック種ブタと比べて明らかに小型であり、小型化形質を維持していた。
【0066】
【表4】
【0067】
GHRタンパク質は2分子が結合して機能的な受容体となる。本ヘテロ改変ブタは、GHR遺伝子の一方のアレルは正常であるため、体内では正常型GHR分子と変異型(異常型)GHR分子が共存する状態となり、3種類の受容体が形成される(
図6)。異常型GHRを含む二量体は機能不全となり、成長シグナルの伝達が減少もしくは喪失する。結果として生体内の成長シグナルが完全には失われることなく減弱することになるため、小型化して生存し続ける家畜ブタが得られたものと考えられる。
【0068】
3.STAT5結合領域を除去したGHRヘテロ変異ブタ作出のための細胞株樹立
ヒトにおいては、STAT5結合領域にホモで変異を持った場合に小人症を発症するが、ヘテロで変異を持った場合には有意な形態変化が見られないことが知られている(J Clin Endocrinol Metab. 89(3):1259-1266 (2004))。しかしながら、JAK2結合領域ヘテロ改変の結果から、家畜ブタにおいてはSTAT5結合領域をヘテロで欠失させた場合にも小型化すると考えられる。そこで、STAT5ヘテロ改変家畜ブタを作出すべく、核ドナーとして用いるヘテロ改変細胞株を作製した。
【0069】
(1) STAT5結合領域を標的とするターゲティングベクターの構築
STAT5結合領域を欠失させるターゲティングベクターpGHR-STATd-KInを構築するため、ブタGHR遺伝子の周辺ゲノム領域(5.15kbおよび1.6kb断片:
図7)をPCRクローニング法によりクローニングした。ベクターの短腕として使用する1.6kb断片は、JAK2結合領域を欠失させるベクターと同じ1.6KSを用いた。長腕として使用する5.15kb断片(5.15KL、配列番号29)のPCR増幅には、センスプライマーGHRJ5574(T)(配列番号18)およびアンチセンスプライマーGHRJ10720S-Sal(B):GTCGACTATGGTTTGTTTTCCTCTGCTAGG(配列番号28)を使用した。短腕、長腕いずれも、ブタの体細胞から抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCRにより増幅して得た。
【0070】
pGHR-STATd-KInベクターは、PGK-Neoユニットの5'側に長腕5.15KLおよびポリアデ二レーションシグナル配列(pA)、そして3'側に短腕1.6KSが位置し、さらに1.6KSの3’側にネガティブ選択用遺伝子マーカーのMC1-TKが位置するかたちに構築した。このベクターを用いると、相同組換えの結果、エクソン10の第424位〜第972位を含むゲノム領域が欠失し(成熟タンパク質の439〜620番残基の配列が失われる)、この部分に薬剤耐性遺伝子ユニットが挿入された変異型アレルが生じる(
図7)。
【0071】
(2) 人工ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9n)発現ベクター構築および切断活性確認
GHR遺伝子切断用の人工ヌクレアーゼ発現ベクターは、JAK2結合領域のヘテロ改変で構築したものと同じものを用いた。GHR遺伝子切断におけるgRNAの認識配列は、JAK2結合領域のヘテロ改変と同様にGHR12242B:ボトムストランド側およびGHR12287T:トップストランド側を使用した。人工ヌクレアーゼベクターのゲノム切断活性の確認はGuide-it(商標) Mutation Detection Kit(クロンテック社)を使用し実施した。
【0072】
(3) ブタ胎仔由来線維芽細胞へのターゲティングベクター・人工ヌクレアーゼ発現ベクター共導入および選別培養
上記2−1.(3)と同様の方法で、ターゲティングベクターを2.5μg、人工ヌクレアーゼ発現ベクターを10μg使用し、ブタ胎仔由来線維芽細胞(#T6-16株)にpGHR-STATd-KIn/人工ヌクレアーゼ共導入を行なった。ターゲティングベクターはSalIで直線化した。
【0073】
(4) PCR解析によるGHR遺伝子STAT5改変細胞株の判定
上記1−1.(4)と同様の方法でSTAT5結合領域の改変を判定した。PCRには上記2−1.(4)と同じくプライマーP1b(配列番号25)、プライマーP2b(配列番号26)、プライマーP3b(配列番号16)を使用した。
【0074】
G418/GCV耐性コロニー120個をPCR解析したところ、31コロニーがKI(PGK-neoユニットの挿入あり)と判定された(表5)。さらに詳細な解析の結果、6株でSTAT5結合領域の欠失が確認された(
図7)。6株の細胞増殖性は#1-20, #1-76, #1-88>#1-9, #1-61, #1-64であった。
【0075】
【表5】
【0076】
4.JAK2結合領域及びSTAT5結合領域を除去したGHRヘテロ変異ブタ作出のための細胞株樹立
さらに、JAK2結合領域とSTAT5結合領域の両方を欠失させたGHRヘテロ変異家畜ブタを作出すべく、核ドナーとして用いるヘテロ変異細胞株を作出した。
【0077】
(1) JAK2結合領域及びSTAT5結合領域を標的としたターゲティングベクターの構築
JAK2結合領域及びSTAT5結合領域を欠失させるターゲティングベクターpGHR-JAKSTATd-KInを構築するため、ブタGHR遺伝子の周辺ゲノム領域(4.4kbおよび1.6kb断片:
図8)をPCRクローニング法によりクローニングした。ベクターの短腕として使用する1.6kb断片は、JAK2結合領域を欠失させるベクターと同じ1.6KSを用いた。長腕として使用する4.4kb断片(4.4KL、配列番号31)のPCR増幅には、センスプライマーGHRJ5574(T):配列番号18)およびアンチセンスプライマーGHRJ9937-Sal(B):GTCGACCTTAATCCTTGAAAAGG(配列番号30)を使用した。短腕、長腕いずれも、ブタの体細胞から抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCRにより増幅して得た。
【0078】
pGHR-JAKSTATd-KInベクターは、PGK-Neoユニットの5'側に長腕4.4KLおよびポリアデ二レーションシグナル配列(pA)、そして3'側に短腕1.6KSが位置し、さらに1.6KSの3’側にネガティブ選択用遺伝子マーカーのMC1-TKが位置するかたちに構築した。このベクターを用いると、相同組換えの結果、エクソン9の第8位〜第70位及びエクソン10の全体を含むゲノム領域が欠失し(成熟タンパク質の277〜620番残基の配列が失われる)、この部分に薬剤耐性遺伝子ユニットが挿入された変異型アレルが生じる(
図8)。
【0079】
(2) 人工ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9n)発現ベクター構築および切断活性確認
GHR遺伝子切断用の人工ヌクレアーゼ発現ベクターは、JAK2結合領域のヘテロ改変で構築したものと同じものを用いた。GHR遺伝子切断におけるgRNAの認識配列は、JAK2結合領域のヘテロ改変と同様にGHR12242B:ボトムストランド側およびGHR12287T:トップストランド側を使用した。人工ヌクレアーゼベクターのゲノム切断活性の確認はGuide-it(商標) Mutation Detection Kit(クロンテック社)を使用し実施した。
【0080】
(3) ブタ胎仔由来線維芽細胞へのターゲティングベクター・人工ヌクレアーゼ発現ベクター共導入および選別培養
上記2−1.(3)と同様の方法で、ターゲティングベクターを2.5μg、人工ヌクレアーゼ発現ベクターを10μg使用し、ブタ胎仔由来線維芽細胞(#T6-16株)にpGHR-JAKSTATd-KIn/人工ヌクレアーゼ共導入を行なった。ターゲティングベクターはSalIで直線化した。
【0081】
(4) PCR解析によるGHR遺伝子JAK2-STAT5改変細胞株の判定
上記1−1.(4)と同様の方法でJAK2結合領域およびSTAT5結合領域の改変を判定した。PCRには上記2−1.(4)と同じくプライマーP1b(配列番号25)、プライマーP2b(配列番号26)、プライマーP3b(配列番号16)を使用した。
【0082】
G418/GCV耐性のコロニー76個をPCR解析したところ、8コロニーがKI(PGK-neoユニットの挿入あり)と判定された(表6)。さらに詳細な解析の結果、3株でJAK2結合領域およびSTAT5結合領域の欠失が確認された(#1-21, #1-23および#1-39,
図6右下)。
【0083】
【表6】