【解決手段】本発明の一態様の検査装置は、検査対象物の表面温度の時間変化を示すデータを取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記表面温度の時間変化を示すデータに対して位相変換を行い、位相値の周波数変化を示すデータを算出する変換部と、前記変換部により算出された前記位相値が、所定周波数以上の周波数領域で示すピークに基づいて、前記検査対象物の欠陥を判定する判定部と、を備える。
前記判定部は、前記変換部により算出された前記位相値と、予め求められている前記検査対象物の基準位相値との位相差の周波数変化を示すデータにおける前記位相差がピークを示す周波数に基づいて、前記検査対象物の欠陥の深さを判定する、
請求項1に記載の検査装置。
前記取得部は、前記検査対象物の検査対象とする欠陥に対応する前記位相値のピークの周波数の逆数から所定範囲内の時間の間、前記検査対象物の表面温度の時間変化を示すデータを取得する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る検査装置、検査方法、検査プログラム、記憶媒体、および検査システムのいくつかの実施形態について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
(システム構成)
本実施形態の検査システムは、検査対象物の表面を加熱して表面温度の時間変化を示すデータを測定し、この表面温度の時間変化を示すデータに基づいて、検査対象物の内部の空隙などの欠陥を判定する。
図1は、本実施形態における検査システム1を示す構成図である。検査システム1は、例えば、加熱装置10と、温度測定装置12と、検査装置14とを備える。
【0022】
検査対象物Tとしては、加熱装置10から出力される加熱光によって温度変化するものであれば何れの材料で形成されてもよい。検査対象物Tは、例えば、無機材料、有機材料、複合材料(炭素繊維強化プラスチックなど)などを材料として形成されるものであってよい。検査対象物Tは、例えば、橋梁やトンネルなどの大型構造物、飛行機、ロケット、自動車、船舶などの一部であってよい。
【0023】
加熱装置10は、検査対象物Tを加熱する。加熱装置10は、例えば、検査対象物Tを瞬間的に加熱するパルス加熱を行うキセノンフラッシュランプなどである。また、加熱装置10は、赤外線ヒーター、電熱線などを使用した装置であってもよい。
【0024】
温度測定装置12は、加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータおよび温度画像を取得する。温度測定装置12は、例えば、赤外線カメラである。
【0025】
検査装置14は、温度測定装置12によって測定された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータに基づいて、検査対象物Tの内部の欠陥を判定する。検査装置14は、検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータに対して位相変換(フーリエ変換)を行うことにより得られた位相値の周波数変化を示すデータおよび位相画像を用いて欠陥を判定する。検査装置14は、検査対象物Tの内部の欠陥深さを判定してもよい。検査装置14は、例えば、内部に備えられた記憶媒体に記憶されたプログラムに基づき、検査処理を実行するコンピュータ(制御コンピュータ)などである。尚、本実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコンなども含み、プログラムによって検査装置14の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0026】
図2Aは、加熱装置10によってサンプル物体をパルス加熱した後の表面の温度画像(赤外線画像)を示す図である。サンプル物体としては、人工的に生成された欠陥(直径10mm平底穴)を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を使用する。
図2Aでは、温度測定装置12によってパルス加熱を行った後、10秒経過後のサンプル物体の表面を撮像した温度画像を示している。
図2Aの温度画像内に示す数値は、サンプル物体の表面下において欠陥が位置する欠陥深さ(単位mm)を示す。
図2Aの温度画像では、最大で深さ3mmの欠陥を検出することができることが分かる。
【0027】
一方、
図2Bは、
図2Aに示す温度画像に対して位相変換を行うことにより得られた位相画像を示す図である。
図2Bでは、位相変換により得られた位相値の周波数変化を示すデータのうち、周波数0.005Hzにおける位相値を表す位相画像を示している。このような位相画像において、欠陥部と健全部との間で生じる位相差を検出することで欠陥を判定することができる。
図2Aに示す温度画像では、検出可能な欠陥深さが3mm程度であったが、
図2Bに示す位相画像では6mm程度にまで向上していることが分かる。このように、温度画像を位相画像に変換することで、加熱装置10の構造や検査対象物Tの表面状態に起因する不均一な加熱分布による検査結果への影響を低減することができ、高精度な検査が可能となる。
【0028】
位相画像における位相差の周波数変化は欠陥深さに依存して変化する。
図3は、サンプル物体の熱物性について一次元熱解析から算出された各欠陥深さにおける位相値の周波数変化を示す図である。
図3では、欠陥深さが0.5mm、1mm、3mm、5mm、10mm、および20mmである6つのサンプル物体についての位相値の周波数変化を示している。各欠陥深さの条件において、いずれも比較的低周波数領域(低周波位相ピーク周波数f
L)に下に凸の大きな位相値のピークが確認できる。例えば、欠陥深さ0.5mmの条件のサンプル物体では周波数が0.058Hzにおいて下に凸のピークが確認でき、欠陥深さ5mmの条件では周波数が0.0019Hzにおいて下に凸のピークが確認できる。
【0029】
また、
図3では、上記の低周波位相ピーク周波数f
Lにおける大きな位相のピーク以外に、比較的高周波数領域(高周波位相ピーク周波数f
H)に上に凸の小さな位相値のピークが確認できる。例えば、欠陥深さ0.5mmの条件のサンプル物体では周波数が1.9Hzにおいて上に凸のピークが確認でき、欠陥深さ5mmの条件では周波数が0.019Hzにおいて上に凸のピークが確認できる。
【0030】
従来のサーモグラフィ法では、上記の低周波位相ピーク周波数f
Lの大きな位相値のピークにおける値を画像化することで欠陥の検出を行っていた。しかしながら、位相変換において算出される周波数領域は、検査対象物Tのデータの取得時間に依存し、得られる周波数の最低値は取得時間の逆数となる。従って、低周波数領域の位相データを得るためには、長時間のデータ取得が必要となり、これにより検査が長時間化する。例えば、サンプル物体中の欠陥深さ5mmの欠陥の低周波位相ピーク周波数f
Lを得るためには、約530秒間のデータが必要となる。
【0031】
一方、本実施形態の検査装置14は、上記の低周波位相ピーク周波数f
Lにおける大きな位相値のピークではなく、高周波位相ピーク周波数f
Hにおける小さな位相値のピークを検査に利用する。これにより検査時間(検査対象物Tのデータの取得時間)を大幅に低減することができる。例えば、サンプル物体中の欠陥深さ5mmの欠陥の高周波位相ピーク周波数f
Hを得るためには、約53秒間のデータのみを取得すればよい。
【0032】
図4は、厚さ20mmのサンプル物体中に存在する各欠陥深さの欠陥で生じる位相値の周波数変化を、ベースライン(深さ20mm)の位相値との位相差として示す図である。
図4に示すとおり、各欠陥深さの条件において、いずれも比較的低周波数領域(低周波位相ピーク周波数f
L)に下に凸の大きな位相差のピークと、比較的高周波数領域(高周波位相ピーク周波数f
H)に上に凸の小さな位相差のピークとが確認できる。本実施形態の検査装置14は、この高周波位相ピーク周波数f
Hにおける小さな位相差のピークを検査に利用する。
【0033】
(高周波位相ピーク周波数の推定)
図5は、高周波位相ピーク周波数f
Hの解析に用いた3種類のサンプル物体の物性値を示す図である。
図6は、
図5に示す3種類のサンプル物体の各々における高周波位相ピーク周波数f
Hと欠陥深さとの関係を一次元熱解析により求めた結果を示す図である。
図6に示すとおり、いずれのサンプル物体においても、高周波位相ピーク周波数f
Hは、欠陥深さdの増大とともに両対数グラフ上で線形的に減少していることが分かる。また、いずれのサンプル物体においても、その傾きは−2であることが分かる。これらの結果に基づいて、高周波位相ピーク周波数f
H、欠陥深さd、および各サンプル物体の物性値の関係を定式化すると、以下の式(1)が得られる。
【0034】
In(f
H)=In(α)−2In(d)+0.2・・・式(1)
【0035】
上記の式(1)において、αは検査対象物Tの熱拡散率[m
2/s]を表す。この定式化には、例えば、非特許文献1に開示されている次元解析を用いてよい。
図7Aは、式(1)を用いて算出したサンプル物体(CFRP)の高周波位相ピーク周波数f
Hと、欠陥深さとの関係を示す図である。また、
図7Aには、従来のサーモグラフィ法において利用されていた以下の式(2)を用いて算出された低周波位相ピーク周波数f
Lも併せて示している。
【0036】
In(f
L)=0.5In(αh/ρc)−1.5In(d)−1.2・・・式(2)
【0037】
上記の式(2)において、ρは検査対象物Tの密度を表し、cは検査対象物Tの比熱を表し、hは検査対象物Tの表面における熱伝達率を示す。
【0038】
また、
図7Bは、
図7Aの縦軸(周波数f)の逆数、即ち、各周波数fにおける位相値を得るために必要な検査対象物Tのデータの取得時間tと、欠陥深さdとの関係を示す図である。
図7Aおよび
図7Bより、必要なデータの取得時間tは、高周波位相ピーク周波数f
Hを利用することで大幅に低減されることが分かる。例えば、欠陥深さ1mmの条件では、低周波位相ピーク周波数f
L利用時の必要なデータの取得時間tは63秒であるのに対して、高周波位相ピーク周波数f
H利用時の必要なデータの取得時間tは2秒となる。
【0039】
(高周波位相ピーク周波数の実験的な確認)
上記の式(1)の妥当性を確認するために、実験的な検証を行った。
図8は、本検証実験において使用したサンプル物体の外観を示す図である。このサンプル物体は、200×200×5mmのCFRPである。このサンプル物体は、人工的に生成された欠陥として、欠陥深さの異なる3つの平底穴(欠陥深さ0.5mmの欠陥D1、欠陥深さ1mmの欠陥D2、欠陥深さ2mmの欠陥D3)を有している。これらの3つの平底穴は、いずれも20×20mmの大きさを有する。
【0040】
本検証実験では、サンプル物体の表面をキセノンフラッシュランプによって瞬間的に加熱し、その後の表面温度の時間変化を温度測定装置12によって測定した。温度測定装置12としては、赤外線カメラ(FLIR A315)を使用して,サンプリング周波数60Hzで観察した。
【0041】
図9は、サンプル物体の各欠陥深さにおける欠陥部と健全部との間の位相差の変化を示す図である。欠陥部のデータとしては、欠陥部上での任意の4点を平均したデータを使用した。健全部のデータとしては、欠陥部の近傍の4点を平均したデータを使用した。
図9に示すとおり、各欠陥深さにおいて、
図3に示したような比較的高周波数領域での位相値のピークが存在することが分かる。
【0042】
図10は、本検証実験により得られた各サンプル物体の高周波位相ピーク周波数f
Hと、式(1)を用いて算出された推定値との比較結果を示す図である。尚、
図10に示す本検証実験により得られた各サンプル物体の高周波位相ピーク周波数f
Hは、ピーク付近のデータに対する4次近似曲線のピークにおける周波数と定義した。一例として、
図9において、欠陥深さ2mmのデータに対応する近似曲線を破線で示す。
図10において、本検証実験により得られた各サンプル物体の高周波位相ピーク周波数f
Hと式(1)の推定値とが一致していることが分かる。これにより、式(1)の妥当性が確認できる。
【0043】
(検査装置の構成)
図11は、本実施形態における検査装置14の機能ブロック図である。検査装置14は、例えば、取得部20と、変換部22と、判定部24と、表示部26と、記憶部D1とを備える。
【0044】
取得部20は、温度測定装置12から、加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得する。取得部20は、取得した検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを変換部22に出力する。また、取得部20は、取得した検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを記憶部D1に記憶させる。
【0045】
変換部22は、取得部20から入力された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータに対して位相変換(フーリエ変換)を行って位相値の周波数変化を示すデータを算出する。ここで、変換部22は、所定周波数以上の周波数についての位相値の周波数変化を示すデータを算出する。例えば、変換部22は、式(1)を用いて推定された
図7Bに示すデータの取得時間tに基づいて予め決定された取得時間にわたる表面温度の時間変化を示すデータに対して位相変換を行う。変換部22により算出される位相値の周波数変化を示すデータには、検査対象とする欠陥深さの高周波位相ピーク周波数f
Hが含まれる。
【0046】
変換部22が位相変換の対象とする表面温度の時間変化を示すデータの取得時間は、検査装置14に接続されたキーボードなどのユーザインターフェース(図示しない)を介して利用者が入力することにより決定されてよい。変換部22は、算出した位相値の周波数変化を示すデータを判定部24に出力する。また、変換部22は、算出した位相値の周波数変化を示すデータを記憶部D1に記憶させる。変換部22は、例えば、高速フーリエ変換を行ってよい。尚、変換部22は、検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得部20から受け取るのではなく、記憶部D1から読み出して位相変換を行ってもよい。
【0047】
判定部24は、変換部22により算出された位相値が、所定周波数以上の周波数領域で示すピークに基づいて、検査対象物Tの欠陥を判定する。例えば、判定部24は、変換部22から入力された位相値と、予め求められている健全部の位相値(基準位相値)との位相差の周波数変化を示すデータを生成し、この位相差の周波数変化を示すデータにおける位相差がピークを示す高周波位相ピーク周波数f
Hを特定する。判定部24は、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hおよび上記の式(1)に基づいて、検査対象物Tの欠陥を判定する。また、判定部24は、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相画像を生成し、表示部26に表示させる。判定部24は、検査対象物Tの欠陥深さを判定し、判定した欠陥深さを表示部26に表示させてもよい。
【0048】
検査システム1の利用者は、この表示部26に表示された位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥を検査することができる。また、判定部24は、検査装置14に接続されたキーボードなどのユーザインターフェース(図示しない)を介して利用者が入力した周波数における位相画像を生成して表示部26に表示させてもよい。また、判定部24は、生成した高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相画像のデータを記憶部D1に記憶させる。尚、判定部24は、位相値の周波数変化を示すデータを変換部22から受け取るのではなく、記憶部D1から読み出して欠陥の判定を行ってもよい。
【0049】
表示部26は、判定部24の制御下において、所定の周波数における位相画像を表示する。表示部26は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)表示装置などであってよい。尚、表示部26は、検査装置14の外部に設けられてもよい。
【0050】
記憶部D1は、温度測定装置12から入力された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータ、変換部22により算出された位相値の周波数変化を示すデータ、判定部24により生成された位相画像のデータなどを記憶する。記憶部D1は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどで実現される。
【0051】
また、上記の検査装置14の各機能部のうち一部または全部は、プロセッサがプログラム記憶部(図示しない)に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されてよい。プログラムは、検査装置14の作動開始時に予めインストールされていてもよいし、他のコンピュータからダウンロードされてよいし、コンパクトディスクなどの可搬型記憶媒体からインストールされてもよい。また、検査装置14の各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実現されてもよい。
【0052】
(動作フロー)
次に、本実施形態の検査装置14の動作について説明する。
図12は、本実施形態における検査装置14の検査処理を示すフローチャートである。
【0053】
まず、取得部20は、温度測定装置12から、加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得する(ステップS101)。取得部20は、取得した表面温度の時間変化を示すデータを、変換部22に出力する。また、取得部20は、取得した検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを記憶部D1に記憶させる。
【0054】
次に、変換部22は、取得部20から入力された表面温度の時間変化を示すデータ対して位相変換を行って、所定周波数以上の周波数についての位相値の周波数変化を示すデータを算出する(ステップS103)。変換部22は、この位相値の周波数変化を示すデータに、高周波位相ピーク周波数f
Hが含まれるように位相変換を行う。変換部22は、算出した位相値の周波数変化を示すデータを、判定部24に出力する。また、変換部22は、算出した位相値の周波数変化を示すデータを記憶部D1に記憶させる。
【0055】
次に、判定部24は、変換部22から入力された位相値と、予め求められている健全部の位相値(基準位相値)との位相差の周波数変化を示すデータを生成し、この位相差の周波数変化を示すデータにおける位相差がピークを示す高周波位相ピーク周波数f
Hを特定し、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hおよび上記の式(1)に基づいて、検査対象物Tの欠陥を判定する(ステップS105)。
【0056】
次に、判定部24は、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相画像を生成し、表示部26に表示させる(ステップS107)。検査装置14の利用者は、この表示部26に表示された位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥を検査することができる。また、判定部24は、生成した高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相画像のデータを記憶部D1に記憶させる。以上により、本フローチャートの処理を終了する。尚、判定部24は、検査装置14に接続されたキーボードなどのユーザインターフェース(図示しない)を介して利用者が指定した周波数における位相画像を生成してもよい。
【0057】
以上において説明した本実施形態によれば、検査時間を短縮するとともに高精度な検査を行うことが可能な検査装置、検査方法、検査プログラム、記憶媒体、および検査システムを提供することができる。
【0058】
[第2実施形態]
以下、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と比較して、第2の実施形態は、検査における検査対象物Tのデータの取得時間を、検査対象物の検査対象とする欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数の逆数と同程度となるように条件設定を行う点が異なる。このため、構成などについては第1の実施形態で説明した図および関連する記載を援用し、詳細な説明を省略する。
【0059】
図4に示すとおり、上記の第1の実施形態の高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相差は、低周波位相ピーク周波数f
Lにおける位相差と比較して非常に小さい。しかしながら、位相変換によって算出される周波数の最低値が高周波位相ピーク周波数f
Hと同程度となるような条件で検査を行うことで、即ち、検査における検査対象物Tのデータの取得時間を、検査対象となる欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数f
Hの逆数と同程度となるように条件設定を行うことで、位相差を増大させることができる。
【0060】
図13は、サンプル物体(CFRP)の物性値について欠陥深さd=5mm、健全部板厚20mmとし、各条件のデータの取得時間(データポイント数)にて有限要素解析により得られた欠陥部と健全部との間の位相差の周波数変化を示す図である。
図13においては、10Hzのサンプリング周波数で取得し、データポイント数を8192、4096、2048、1024、512とする条件で算出された結果を示す。データポイント数が8192、4096、2048、1024、512であるデータの取得に必要な時間は、それぞれ、819.2秒、409.6秒、204.8秒、102.4秒、51.2秒である。
【0061】
各データポイント数での結果を比較すると、高周波位相ピーク周波数(約0.02Hz)での位相差Δφの値がデータポイント数の低下とともに増加していることが分かる。これにより、より少ないデータポイント数のデータより算出される位相画像を利用することで高周波位相ピーク周波数f
Hを効果的に検出することができることが分かる。適切なデータポイント数の目安としては、位相変換により算出される周波数の最低値(最低周波数)f
minが、検査対象とする欠陥深さの高周波位相ピーク周波数f
Hと同程度となるように取得時間、サンプリング周波数を調整することが望ましい。最低周波数f
minは以下の式(3)より求められる。
【0063】
上記の式(3)において、f
sは検査時のサンプリング周波数を表し、nはデータポイント数を表す。尚、最低周波数f
minは、高周波位相ピーク周波数f
Hよりも小さい値に設定する。
【0064】
(高周波位相ピーク周波数における位相差の実験的な確認)
上記のデータポイント数の変化に伴う高周波位相ピーク周波数における位相差の実験的な検証を行った。本検証実験では、
図8に示すサンプル物体に対して、表面をキセノンフラッシュランプによって瞬間的に加熱し、その後の表面温度変化を温度測定装置12によって測定した。温度測定装置12としては、赤外線カメラ(FLIR A315)を使用して,サンプリング周波数10Hzで観察した。これにより、データの取得時間(データポイント数)の変化に伴う高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相差の変化を確認した。
【0065】
図14は、データポイント数の変化に伴う欠陥部と健全部との間の位相差の周波数変化を示す図である。
図14では、欠陥深さ1mmの欠陥部についての実験結果が示される。
図14に示すとおり、高周波位相ピーク周波数f
H(約0.4Hz)における位相差の値はデータポイント数の低下とともに増加している。この傾向は、
図13に示す解析結果と一致する。高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相差が最も大きくなるのはデータポイント数が256ポイントの条件であり、この条件でのf
minを上記の式(3)により算出すると0.039Hzとなる。この最低周波数f
min値(0.039Hz)は、式(1)より推定される欠陥深さ1mmの欠陥における高周波位相ピーク周波数(0.048Hz)と近い値を示している。
【0066】
図15Aは、データポイント数(4096)により得られた周波数0.4Hz付近における位相画像を示す図であり、
図15Bは、データポイント数(256)により得られた周波数0.4Hz付近における位相画像を示す図である。同程度の周波数でありながら、
図15Aに示す位相画像では欠陥深さ1mmの欠陥が検出できないのに対し、
図15Bに示す位相画像では欠陥深さ1mmの欠陥の検出が可能である。これは、
図14に示す高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相差の増加によるものである。これらの結果より、データポイント数の適切な調整により高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相差を効果的に検出できることが確認できる。
【0067】
(検査装置の構成)
図16は、本実施形態における検査装置15の機能ブロック図である。検査装置15は、第1の実施形態の検査装置14と比較して、取得時間決定部28をさらに備えている。
【0068】
取得時間決定部28は、温度測定装置12から検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得する取得時間を決定する。取得時間決定部28は、検出対象とする欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数f
Hの逆数と同程度の時間を取得時間として決定する。即ち、取得時間決定部28は、検出対象とする欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数f
Hの逆数から所定範囲内の時間を取得時間として決定する。
【0069】
(動作フロー)
次に、本実施形態の検査装置15の動作について説明する。
図17は、本実施形態における検査装置15の検査処理を示すフローチャートである。
【0070】
まず、取得時間決定部28は、温度測定装置12から検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得する取得時間を決定する(ステップS201)。ここで、取得時間決定部28は、検出対象とする欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数f
Hの逆数と同程度の時間を取得時間として決定する。即ち、取得時間決定部28は、検出対象とする欠陥深さにおける高周波位相ピーク周波数f
Hの逆数から所定範囲内の時間を取得時間として決定する。
【0071】
次に、取得部20は、温度測定装置12から、加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの表面温度の時間変化を示すデータを取得する(ステップS203)。ここで、取得部20は、取得時間決定部28により決定された取得時間の間、温度測定装置12から上記のデータを取得する。取得部20は、取得した表面温度の時間変化を示すデータを、変換部22に出力する。
【0072】
次に、変換部22は、取得部20から入力された表面温度の時間変化を示すデータ対して位相変換を行って、所定周波数以上の周波数についての位相値の周波数変化を示すデータを算出する(ステップS205)。変換部22は、算出した位相値の周波数変化を示すデータを、判定部24に出力する。
【0073】
次に、判定部24は、変換部22から入力された位相値と、予め求められている健全部の位相値(基準位相値)との位相差の周波数変化を示すデータを生成し、この位相差の周波数変化を示すデータにおける位相差がピークを示す高周波位相ピーク周波数f
Hを特定し、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hおよび上記の式(1)に基づいて、検査対象物Tの欠陥を判定する(ステップS207)。
【0074】
次に、判定部24は、特定した高周波位相ピーク周波数f
Hにおける位相画像を生成し、表示部26に表示させる(ステップS209)。検査装置14の利用者は、この表示部26に表示された位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥を検査することができる。以上により、本フローチャートの処理を終了する。
【0075】
以上において説明した本実施形態によれば、検査時間を短縮するとともに高精度な検査を行うことが可能な検査装置、検査方法、検査プログラム、記憶媒体、および検査システムを提供することができる。
【0076】
尚、上記の実施形態では、高周波位相ピーク周波数f
Hのみを利用する例を説明したが、検査時に、高周波位相ピーク周波数f
Hと低周波位相ピーク周波数f
Lとの双方を用いるようにしてもよい。例えば、高周波位相ピーク周波数f
Hを用いて、検査対象物Tの一次検査を行い、より詳細な検査を必要とする場合に、低周波位相ピーク周波数f
Lを用いた二次検査を行うようにしてもよい。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求などに基づき種々変更可能である。