【課題】透明導電膜が形成された透明板を有するカバーによって表示部が覆われた中継信号機や線路表示器等の大型の鉄道用表示器において、電源設備の増強を行うことなく、着雪による表示部の視認性低下を防ぐ。
【解決手段】鉄道用表示器1の表示部2aは、所定間隔を空けて二次元的に広がるように配列された複数のランプ22a〜22gによって構成され、透明導電膜35a〜35cは、透明板34における、複数のランプ22a〜22gのうち直線状に並ぶ第1ランプ群22b,22dの前方部位と、第1ランプ群22b,22dと隣り合いつつ当該第1ランプ群22b,22dと平行に並ぶ第2ランプ群22f、22a,22gの前方部位とに、各ランプ群のランプ22b,22dが並ぶ方向に延びる帯状となるよう設けられている。
前記透明導電膜の温度が所定の上限温度を超えた場合に、当該透明導電膜への通電を遮断するサーモスタットを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の鉄道用表示器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の表示器用カバーは、透明板の内側面全体に透明発熱体が形成されていた。特許文献1に記載されているのは、閉塞信号機のような比較的小型の信号機に用いるものであったが、中継信号機、線路表示器、入換信号機等の大型の表示器に用いようとすると、表示器用カバーおよび形成する透明導電膜が大型化してしまう。透明導電膜を所定温度となるまで発熱させるための電力は透明導電膜の面積に比例するので、表示器用カバーの大型化は、消費電力の増大につながってしまう。このため、設置の際に電源設備の増強を必要とする等、設置に手間がかかってしまう。
【0005】
大型化した表示器用カバーの消費電力を低減する方法としては、透明導電膜への通電量を下げる、或いは、表示にあまり影響を与えない透明板の周縁部に透明導電膜を形成しないようにする(透明導電膜を一回り小さくする)、といったものが考えられる。しかし、通電量を下げた場合、発熱量が低下するので、付着した雪を十分に融かすことができないおそれがある。一方、透明板の周縁部に透明導電膜を形成しない方法では、表示器の種類(ランプ等の配置)によっては、透明導電膜をどうしても周縁部まで形成しなければならず、その結果、透明導電膜の削減面積が小さくなってしまい、消費電力を電源設備の補強が不要となる程度にまで低減できない場合があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、透明導電膜が形成された透明板を有するカバーによって表示部が覆われた中継信号機や線路表示器等の大型の鉄道用表示器において、電源設備の増強を行うことなく、着雪による表示部の視認性低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前面に表示部を有する表示器本体と、前記表示部を覆う透明板および前記透明板の表面に設けられ外部電源からの電力の供給を受けて発熱する透明導電膜を有するカバーと、を備えた鉄道用表示器であって、前記表示部は、所定間隔を空けて二次元的に広がるように配列された複数のランプによって構成され、前記透明導電膜は、前記透明板における、前記複数のランプのうち直線状に並ぶ第1ランプ群の前方部位と、前記第1ランプ群と隣り合いつつ当該第1ランプ群と平行に並ぶ第2ランプ群の前方部位とに、各ランプ群の前記ランプが並ぶ方向に延びる帯状となるよう設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、透明板における、背後に透明導電膜が形成されない部位が、透明板の周縁部だけでなく、中央部(ランプ同士の間の前方)にも形成されるので、透明板全体に透明導電膜を形成したカバーと比べて消費電力が低くなることは勿論、透明板の周縁部に透明導電膜を形成しないカバーと比べても、消費電力を低減することができる。一方、透明板におけるランプの前方には透明導電膜が形成されており、付着した雪が融かされるので、ランプによる表示の視認性は確保される。このため、電源設備を増強することなく、着雪による表示部の視認性低下を防ぐことができる。
【0009】
なお、上記発明において、隣り合う前記透明導電膜の間の間隙の幅は、前記透明導電膜の短手方向の長さの3分の1程度となっているものとしてもよい。
このようにすれば、透明導電膜からの熱が背後に透明導電膜が形成されていない部位にも十分に届き、背後に透明導電膜が形成された部位に付着した雪だけでなく、それらの部位の間にある、背後に透明導電膜が形成されていない部位に付着した雪も融かされる。このため、表示部の視認性をより一層確保することができる。
【0010】
また、上記発明において、前記透明導電膜の各辺は、鉛直線に対し傾斜しているものとしてもよい。
このようにすれば、透明板に付着した雪の層は、略帯状に開口するよう融かされることになるが、透明導電膜の各辺が傾斜しているので、付着した雪の層にできた略帯状の開口の各辺も傾斜することになる。このため、水はその場にとどまることなく開口のへりに沿って流れ落ちていくので、水が透明板の表面で凍結してしまうのを防ぐことができる。
【0011】
また、上記発明において、複数の前記透明導電膜は、何れも長手方向の長さが等しくなっており、それぞれの両端部に一対の金属電極が形成されているものとしてもよい。
このようにすれば、各透明導電膜における電極同士の距離が等しくなるので、各金属電極に同じ電圧を印加すると、各透明導電膜が等しく発熱するので、透明板における、一部の透明導電膜の前方部位のみ雪が融けずに残ってしまう、或いは、過剰に熱せられて電力が無駄になってしまう、といった事態になるのを防ぐことができる。
【0012】
また、上記発明において、前記透明導電膜の温度が所定の上限温度を超えた場合に、当該透明導電膜への通電を遮断するサーモスタットを備えるものとしてもよい。
このようにすれば、透明板が不必要に加熱されるのを防ぐことができ、消費電力をより一層抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電源設備の増強を行うことなく、着雪による表示部の視認性低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る鉄道用表示器1の構成について説明する。
図1は鉄道用表示器1の正面図、
図2は
図1の側面図である。なお、
図1,2には、鉄道用表示器1として中継信号機を例示したが、本発明は、線路表示器等、線路脇に設けられる表示器全般に適用可能である。
本実施形態の鉄道用表示器1は、
図1,2に示したように、表示器本体2、表示器本体2の前面に設けられたカバー3等で構成されている。この鉄道用表示器1は、線路脇に立設された図示しない支柱等に、前面が線路の延長方向(列車の向かってくる方向)を向くように固定される。
【0016】
表示器本体2は、箱型の筐体21、筐体21の前面に設けられた複数のランプ22a〜22g等で構成されている。また、表示器本体2は、図示しないケーブルによって図示しない外部の制御装置と電気的に接続されている。
【0017】
複数のランプ22a〜22gは、筐体21の前面に所定間隔を空けて2次元的に分布するように配置されている。本実施形態の場合、
図1に示したように、第1ランプ22aが筐体21の前面中央部に、第2,第3ランプ22b,22cが第1ランプの上下に、第4,第5ランプ22d,22eが第1ランプ22aの左右に、第6,第7ランプ22f,22gが第1ランプ22aの右上および左下にそれぞれ設けられている。
各ランプ22a〜22gの上には、
図2に示したように、庇23が前方に延びるように設けられているが、無くてもよい。
【0018】
前述したように、複数のランプ22a〜22gは、2次元的に分布するよう配置されているので、直線状に並ぶランプ22a〜22gを一括りにしたランプ群を複数設定することができる。このようなランプ群が、互いに平行に複数並ぶよう設定することを考えたとき、本実施形態の場合、第2ランプ22bおよび第4ランプ22dを第1ランプ群、第6ランプ22f、第1ランプ22aおよび第7ランプ22gを第2ランプ群、第5ランプ22eおよび第3ランプ22cを第3ランプ群とするパターンが考えられる。ランプ群をこのように設定すると、ランプ群を構成する各ランプ22a〜22gは、鉛直線に対し傾斜して並ぶことになる。
【0019】
カバー3は、箱状のケース31、ケース31の前面に設けられたクリアヒート部32等で構成されている。また、カバー3は、ケーブル33(
図2参照)によって図示しない外部の電源と接続されている。
【0020】
ケース31は、全てのランプ22a〜22gを覆うことができる形状となっている。本実施形態の場合、
図1に示したように、正面視の形状が、表示器本体2の前面の直径とほぼ等しい長さの辺を有する正方形をしている。また、前後方向の厚みが、庇23を収納できるよう庇23の前後方向の長さよりも長くなっている。また、前面が、一の対角線の延長方向に傾斜している。また、ケース31は、前面がケース31の正面視形状よりも一回り小さい形状に開口しており、背面が表示器本体2の前面の輪郭よりも一回り小さい形状に開口している。
【0021】
このケース31は、表示器本体2の前面に、正面視ひし形となるように固定されている。こうすることで、ケース31の上面に雪が付着しにくくなる。また、表示器本体2に固定されたケース31の前面は、下方に向かうに従い後方へ向かうように傾斜(前傾)している。なお、前面の傾斜角度については後述する。このケース31が表示器本体2に固定されると、表示器本体2前面の周縁部を除く部分がケース31背面の開口から視認可能となる。以下、表示器本体2前面の、ケース31背面の開口から視認可能となる部分を表示部2aと称する。
【0022】
クリアヒート部32は、ケース31の前面に嵌め込まれた透明板34、透明板34の内側面に形成された複数の透明導電膜35a〜35c、透明導電膜の両端部に形成された金属電極36a,36b、サーモスタット37等で構成されている。クリアヒート部32の面積は、従来の閉塞信号機に設けられるクリアヒート部に比べ約2.8倍の大きさとなっている。
【0023】
透明板34は、例えばアクリルやポリカーボネート、PET(polyethylene terephthalate)等の透明な樹脂でケース31の前面と略等しい形状に形成されている。透明板34の厚さは、風等で破損しない程度の強度を得られさえすれば任意である。
また、透明板34は、前面が前傾したケース31に嵌め込まれているため、上方に向かうに従って表示器本体2から離れるように傾斜している。傾斜角度について検討するための実験では、透明板34の前傾角度を5°以上にすると、透明板34を鉛直にした場合に比べて雪が融けてできた水が滞りにくく、比較的良好な結果が得られた。一方、透明板34の前傾角度を5°未満にすると、着雪した雪や、雪が融けてできた水が比較的残存しやすいことが分かった。つまり、ケース31の前面および透明板34の前傾角度は5°以上とするのが好ましい。
【0024】
透明導電膜35a〜35cは、ITO(錫ドープ酸化インジウム)やFTO(フッ素ドープ酸化錫)等の導電性を有する透明材料からなる。各透明導電膜35a〜35cは、透明板34の内側面に複数形成されている。本実施形態の場合、各透明導電膜35a〜35cは、透明板34の一辺の長さと同程度の長さを有する帯状となっている。また、各透明導電膜35a〜35cの幅は、ランプ22a〜22gの径と同程度になっている。こうすることで、良好な融雪性能を発揮するので、表示部2aの視認性を損なうことなく省エネが期待できる。また、第1透明導電膜35aが第1ランプ群22b,22dの前方を通るように、第2透明導電膜35bが第2ランプ群22f,22a,22gの前方を通るように、第3透明導電膜35cが第3ランプ群22e,22cの前方を通るようにそれぞれ配置されている。
【0025】
前述したように、各ランプ群を構成する複数のランプは、斜めに、かつ互いに平行となるように並んでいるので、各透明導電膜35a〜35cも、ランプの並びに沿って斜めに延びるように、かつ互いに平行となるように配置されることになる。このように設けられた隣り合う透明導電膜同士の間には、細長く延びる間隙gが生じる。そして、この間隙gは、正面から見たときに、表示部2aの前を通っている。間隙gの幅dは、透明導電膜35a〜35cの3分の1程度とするのが好ましい。なお、間隙gの幅dをこのようにした場合、電力密度を300W/m
2未満に下げると着雪が発生する確率が高まることが分かってきたので、間隙gの幅dをこのようにする場合には、併せて電力密度を300W/m
2以上とするのが好ましい。なお、各透明導電膜35a〜35cの各短辺は、一直線上に並ぶように揃えられている。
【0026】
金属電極36a,36bは、各透明導電膜35a〜35cの長手方向両端部に、各透明導電膜35a〜35cに跨って延びる直線状となるように、かつ、互いに平行に延びるように形成されている。各金属電極36a,36bには、ケーブル33の一端が接続されている。
なお、
図1には、各透明導電膜35a〜35cの金属電極36a,36bが一体化したものを例示したが、各透明導電膜35a〜35cに個別に金属電極36a,36bを設けるようにしてもよい。
【0027】
サーモスタット37は、外部の電源と金属電極36a,36bとの間に介在しており、透明導電膜35a〜35cの温度が所定の下限温度(例えば30°程度)以下となった時に導通を開始し、所定の上限温度(例えば40°程度)以上となった時に遮断するように構成されている。
【0028】
このように構成された本実施形態の鉄道用表示器1は、透明導電膜35a〜35cの温度が所定の下限温度以下であった場合に、透明導電膜35a〜35cに通電を開始する。すると、透明導電膜35a〜35cが発熱し始める。この時、透明板34の前面に雪が付着していれば、その雪が熱によって融かされていく。
前述したように、金属電極36a,36bは各透明導電膜35a〜35cに跨って設けられており、各透明導電膜35a〜35cの形状(長手・短手方向の長さ)は等しいので、各透明導電膜35a〜35cにはそれぞれ等しい電圧が印加され、各透明導電膜35a〜35cは等しく発熱する。従って、透明導電膜35a〜35c前方の各部位が均一に温められる。
【0029】
また、前述したように、本実施形態の鉄道用表示器1は、隣り合う透明導電膜の間の間隙gの幅(透明導電膜同士の距離)dが、透明導電膜35a〜35cの3分の1程度となっている。間隙gの幅を狭くし過ぎると、表示部2aの前方全体に透明導電膜を形成しているのと大差なくなり、消費電力を十分に低減することができない。一方、間隙gの幅を広くし過ぎると、透明板34の間隙g前方の部位に付着した雪が融かされず、暖められた部位を跨がって橋のように繋がってしまう現象が生じてしまう。しかし、本実施形態のようにすることで、間隙gの前方部位にも、透明導電膜35a〜35cからの熱が十分に届くようになるので、背後に透明導電膜35a〜35cが形成された部位に付着した雪だけでなく、間隙gの前方部位に付着した雪も融かされる。その結果、透明板34の前面全体に付着した雪の層には、雪が一部融けることによって、各透明導電膜35a〜35cおよび間隙gを合わせた矩形状の開口が形成される。この開口からは、表示部2aがほぼ全体的に視認可能となる。
【0030】
このように、本実施形態の鉄道用表示器1は、透明板34における、背後に透明導電膜35a〜35cが形成されない部位が、透明板34の周縁部(
図1の透明板34における右下および左上の部位)だけでなく、中央部(ランプ22a〜22gの間の前方)にも形成されるので、透明板34全体に透明導電膜を形成したカバーと比べて消費電力が低くなることは勿論、透明板の周縁部に透明導電膜を形成していないカバーと比べても、消費電力を低減することができる。
【0031】
一方、透明板34におけるランプ22a〜22gの前方には透明導電膜35a〜35cが形成されており、付着した雪が融かされるので、少なくともランプ22a〜22gによる表示の視認性は確保される。特に、本実施形態の場合は、ランプ22a〜22gだけでなく、ランプとランプの間も視認可能となるので、表示部2a全体がほぼ視認可能となる。
すなわち、本実施形態の鉄道用表示器1は、従来よりも少ない透明導電膜の形成面積で、表示部2aの前方全体に透明導電膜を形成したのと同程度の視認性を確保することができる。言い換えれば、電源設備を増強することなく、着雪による表示部2aの視認性低下を防ぐことができる。
また、閉塞信号機のような小型の信号機に適用すれば、従来と同程度の視認性を確保しつつ、従来よりも消費電力を低減することもできる。
【0032】
また、雪の層が融けてできた水は、透明板34の表面を流れ落ちていく。前述したように、各透明導電膜35a〜35cは、各辺が傾斜しているので、雪の層が融けてできた矩形状の開口の各辺も傾斜する。このため、雪が融けてできた水はその場にとどまることなく開口のへりに沿って流れ落ちていく。このため、水が透明板34の表面で凍結してしまうのを防ぐことができる。
また、各透明導電膜35a〜35cの傾斜により、透明導電膜35a,35bの下方に間隙gが存在することになる、このため間隙gの前方部位において雪が融けずに残っても、その上の透明導電膜35a,35bの前方部位において雪が融けてできた水が、下方(間隙gの前方部位)へ流れ落ちていくので、水によって残った雪を流し効率よく除去することができる。
【0033】
また、透明導電膜35a〜35cの温度が所定の上限温度を超えた場合、サーモスタット37が透明導電膜35a〜35cへの通電を遮断するので、透明板34が不必要に加熱されるのが防止される。このため、カバー3の消費電力をより一層抑えることができる。
【0034】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記実施形態では、帯状の透明導電膜を、直線状に一列に並ぶ複数のランプの並びに沿って延びるように設けたが、ランプ22a〜22g毎に、或いは、2次元的に分布する複数のランプの分布に沿って、矩形状に広がる透明導電膜を設けるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、帯状の透明導電膜を斜めに配置することにより、各辺が傾斜するようにしていたが、透明導電膜を鉛直方向或いは水平方向に延びるように配置してもよい。その場合には、下端の辺のみ傾斜させるとよい。
また、上記実施形態では、厚みのある箱状のケース31を用いたが、表示器本体2の表示部2aに庇23が無い等、表示部2aが平坦な場合には、箱型のケース31を用いず、厚みのない枠体にクリアヒート部32を設けるようにしてもよい。