【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、動力源のエンジン1と連結しており、エンジン1のクランク軸1aに連結したクラッチ3とクラッチ板3a、クラッチ軸3bとが同じ軸中心かつ直列に並んで、後述するようにこれらを経てエンジン1の動力を受け入れる。
クラッチ3は周知のもので、エンジン1とクラッチ軸3bとの間の動力伝達を断続することができる。
【0011】
はじめに主要な軸の配置を説明する。
クラッチ軸3bと平行にエンジン入力軸(以下、「E入力軸」という)10と出力軸12が、またクラッチ軸3bと同じ軸中心にモーター入力軸(以下、「M入力軸」という)16が、それぞれ配置されている。
そして、クラッチ軸3bとE入力軸10およびM入力軸16との間には、これらと平行に中間軸18および後進軸22がそれぞれ配置されている。
また、出力軸12には出力歯車12aが一体に設けてあり、出力歯車12aは図示しない相手歯車を介して自動車の車輪を駆動する。
【0012】
これらの各軸間には以下のように歯車が配置され、それぞれ連結または連結可能となっている。
はじめにクラッチ軸3bと一体の入力歯車3cは、中間軸18と一体の第1中間歯車18aを介して、E入力軸10と一体の入力被動歯車10aと連結している。
図1では、入力歯車3cと第1中間歯車18aとを便宜上離して描いているが、実際には鎖線で示すように両者は噛み合っている。
したがって、E入力軸10は、入力歯車3cと入力被動歯車10aの歯数比で決まる減速比でクラッチ軸3bと常時連結していて、エンジン1の動力を受け入れることが可能である。
【0013】
つぎに、中間軸18と一体の第2中間歯車18bは、M入力軸16上に回転自在でかつM入力軸16と連結可能なロー被動歯車(以下、「L被動歯車」という)19bと噛み合っている。ここでも、第2中間歯車18bとL被動歯車19bとを便宜上離して描いているが、実際には鎖線で示すように両者は噛み合っている。
M入力軸16と一体のロー−ハイハブ(以下、「L−Hハブ」という)16aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能なロー−ハイスリーブ(以下、「L−Hスリーブ」という)16bが装着され、該L−Hスリーブ16bは
図1に示す位置にあっては中立であるが、
図1中、軸方向左側へ移動することでその内歯(図示せず。以降の各スリーブも同様)がL被動歯車19bのドッグ歯19cと係合して、L被動歯車19bとM入力軸16とを連結する。
これとは逆に、L−Hスリーブ16bが軸方向右側へ移動することでその内歯が入力歯車3cのドッグ歯3dと係合して、M入力軸16とクラッチ軸3bとを直結することができる。
【0014】
したがって、L−Hスリーブ16bを、右側へ移動するとM入力軸16とクラッチ軸3bとは直結し、左側へ移動するとM入力軸16はクラッチ軸3bから減速駆動される。これは、エンジン1から動力を受け入れ可能なE入力軸10と、後述するM/G2から動力を受け入れるM入力軸16とが、2つの変速比にて連結可能であることを意味する。
【0015】
つぎに、第1中間歯車18aは、後進軸22上に回転自在の第1後進歯車22aと噛み合っている。第1後進歯車22aは、後進軸22と一体の第2後進歯車22bと連結可能である。
すなわち、後進軸22と一体の後進ハブ(以下、「Rハブ」という)22dには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な後進スリーブ(以下、「Rスリーブ」という)22eが装着され、該Rスリーブ22eは
図1に示す位置にあっては中立であるが、軸方向右側へ移動することでその内歯が第1後進歯車22aのドッグ歯22cと係合して、第1後進歯車22aと第2後進歯車22bとを連結する。これにより、M入力軸16とE入力軸10とは互いに逆回転する関係になる。
ここでも、第1中間歯車18aと第1後進歯車22aとを便宜上離して描いているが、実際には鎖線で示すように両者は噛み合っている。
【0016】
第2後進歯車22bは、M入力軸16と一体の後進被動歯車16cと噛み合っているとともに、M/G2と常に連結している。
すなわち、後進軸22と平行してM/G2が設けられており、M/G2は、回転子2aとケース(静止部)24に固定された固定子2bからなり、回転子2aと一体のモーター駆動歯車(以下、「M駆動歯車」という)2cが第2後進歯車22bと噛み合っている。
したがって、M入力軸16は、M/G2とも連結している。
なお、M/G2は、モーターとしての駆動とジェネレーターとしての発電の、両方の機能を有する。
【0017】
以上の各歯車の噛み合いにより、前述したように、エンジン1からの動力を受け入れ可能なE入力軸10と、M/G2からの動力を受け入れ可能なM入力軸16とは、2種類の変速比をもって選択的に連結可能であるとともに、互いに逆回転する変速比も有しており、これらは本発明の第3変速機構を構成する。
【0018】
つづいて、E入力軸10およびM入力軸16と、出力軸12との間に配置した、複数の変速比(クラッチ軸3bの回転速度/出力軸12の回転速度)を得る歯車を備えた本発明の第1変速機構FGおよび第2変速機構SGについて説明する。
はじめに偶数段の変速を行う第1変速機構FGは、E入力軸10と出力軸12との間に、E入力軸10上に回転自在で、かつそれぞれE入力軸10と連結可能な2速駆動歯車32a、4速駆動歯車34a、6速駆動歯車36aを有しており、これら2速駆動歯車32a、4速駆動歯車34a、6速駆動歯車36aとそれぞれ噛み合い、出力軸12と一体の2速被動歯車32b、4速被動歯車34b、6速被動歯車36bを有している。
なお、4速駆動歯車34aにはパーキングロック歯車34dが一体になっている。これは一般的な自動変速機と同様に出力軸12を機械的に固定可能とするもので、図示しない相手ロックポールを係合することで、4速被動歯車34bを介して出力軸12を固定する。
【0019】
また、奇数段の変速を行う第2変速機構SGは、M入力軸16と出力軸12の間に、M入力軸16と一体の1速駆動歯車31aと、該1速駆動歯車31aと噛み合い、出力軸12上に回転自在の1速被動歯車31bと、M入力軸16上に回転自在で、かつそれぞれM入力軸16と連結可能な3速駆動歯車33aおよび5速駆動歯車35aと、出力軸12に連結されて、3速駆動歯車33a、5速駆動歯車35aにそれぞれ噛み合った2速被動歯車32b、4速被動歯車34bと、を有している。
【0020】
ここで、出力軸12と、E入力軸10およびM入力軸16との中心間距離を同じ値に設定すると、2速駆動歯車32aは3速駆動歯車33aと、また4速駆動歯車34aは5速駆動歯車35aと、それぞれ歯車諸元を共通にすることができる。
【0021】
E入力軸10、出力軸12、M出力軸16の各軸上にあって回転自在の各歯車は、それぞれの軸と以下のように連結可能である。
すなわち、出力軸12と一体の1速ハブ41aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な1速スリーブ41bが装着され、該1速スリーブ41bは
図1に示す位置にあっては中立であるが、軸方向右側へ移動することでその内歯が1速被動歯車31bのドッグ歯31cと係合して、1速被動歯車31bと出力軸12とを連結する。
【0022】
また、M入力軸16と一体の3−5ハブ43aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な3−5スリーブ43bが装着され、該3−5スリーブ43bは
図1に示す位置にあっては中立であるが、軸方向左側へ移動することでその内歯が3速駆動歯車33aのドッグ歯33cと係合して、3速駆動歯車33aとE入力軸10とを連結し、右側へ移動することでその内歯が5速駆動歯車35aのドッグ歯35cと係合して5速駆動歯車35aとM入力軸16とを連結する。
【0023】
そして、E入力軸10と一体の2−4ハブ42aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な2−4スリーブ42bが装着され、該2−4スリーブ42bは
図1に示す位置にあっては中立であるが、軸方向左側へ移動することでその内歯が2速駆動歯車32aのドッグ歯32cと係合して2速駆動歯車32aとE入力軸10とを連結し、右側へ移動することでその内歯が4速駆動歯車34aのドッグ歯34cと係合して4速駆動歯車34aとE入力軸10とを連結する。
【0024】
さらに、E入力軸10と一体の6速ハブ44aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な6速スリーブ44bが装着され、該6速スリーブ44bは
図1に示す位置にあっては中立であるが、軸方向右側へ移動することでその内歯が6速駆動歯車36aのドッグ歯36cと係合して6速駆動歯車36aとE入力軸10とを連結する。
【0025】
前述のL−Hスリーブ16b、Rスリーブ22eを含めて、これらの1速スリーブ41b、3−5スリーブ43b、2−4スリーブ42b、6速スリーブ44bは、図示を省略したシフトフォークにより、それぞれ軸方向の移動が可能になっている。
また、図示を省略したが、1速スリーブ41b、3−5スリーブ43b、2−4スリーブ42b、6速スリーブ44b、L−Hスリーブ16b、Rスリーブ22eの各スリーブと、それぞれが連結する相手歯車などとの間に、それぞれ同期装置を設けることができる。
【0026】
上記した第1変速機構FGおよび第2変速機構SGは機械的駆動を行うものであって、一般的なマニュアル・トランスミッションと基本的に同様の構成・作用を有していて、これらは周知であるので、以下の説明において作動の詳細な説明を省略する場合がある。
また、図示は省略するが、
図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため必要に応じてバッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
【0027】
つぎに、
図1に示した実施例1の自動車用駆動装置の作用を、
図2に示した作動表を参照しながら説明する。
図2は、後述する各変速段におけるエンジン1、M/G2、クラッチ3、スリーブ16b、22e、41b、42b、43b、44bなどの連結要素との関係を示したもので、説明の便宜上左端に操作番号を、上端に各連結要素を割り振って、マトリックスとして描いてある。
【0028】
図2では、変速段の欄に「1M」、「1E」などと書いている数字は変速段を表し、「1」は1速、「2」は2速という意味であり、「M」はM/G2による駆動または制動(後述する発電)を、「E」はエンジン1による駆動または制動(いわゆるエンジンブレーキ)を表している。また、「1EL」という表示の「L」はL−Hスリーブ16bが左側にあって、M入力軸16がエンジン1から減速駆動される関係であることを示す。エンジン1、クラッチ3、M/G2の「×」印は、エンジン1にあっては回転していて駆動または制動状態であることを、クラッチ3にあっては接続した状態を、それぞれ表し、各スリーブの矢印は
図1におけるそれぞれの移動方向を表している。
さらに、括弧で囲った意味は、エンジンにあっては回転している場合があっても駆動していないことを示し、各スリーブにあってはそれぞれの相手歯車と連結していても動力伝達に関与していないことを示す。
【0029】
また、変速比の具体例を示すため、各変速比を以下のように設定したものとして説明する。
入力歯車3cから入力被動歯車10aへの減速比iD(入力被動歯車10aの歯数/入力歯車10cの歯数)を1.320とし、入力歯車3cから第1中間歯車18a、第2中間歯車18bを経由してL被動歯車19bに至る減速比iLを1.742として、1速駆動歯車31aと1速被動歯車31bの歯数比i1(被動側歯車の歯数/駆動側歯車の歯数。以降同じ)を2.500とし、2速駆動歯車32aおよび3速駆動歯車33aと2速被動歯車32bの歯数比i2を1.212、4速駆動歯車34aおよび5速駆動歯車35aと4速被動歯車34bの歯数比i4を0.696とし、6速駆動歯車36aと6速被動歯車36bの歯数比i6を0.422とする。
なお、iLの値はiDの値の2乗と同程度の値である。
また、以下の説明において「正回転」とはエンジン1と同じ回転方向か、または車両を前進させる方向の回転を意味し、「逆回転」はその逆である。
【0030】
はじめにエンジン1の始動は、
図2には示していないが、車両の停止状態においては以下のように行う。
すなわち、L−Hスリーブ16bを右側へ移動してM入力軸16とクラッチ軸3bを連結するとともに、クラッチ3を接続する。これにより、エンジン1とM/G2とが連結されるので、M/G2に電力を供給して正回転させ、エンジン1への燃料供給と点火操作で始動することができる。
【0031】
また、エンジン1の始動後は、この連結状態のまま引き続いてエンジン1の動力でM/G2に発電させてバッテリーに充電することも可能である。
また、車両が走行している場合のエンジン1の始動は、後述の各変速段の連結関係において、クラッチ3を接続することでエンジン1を回転させて行うことができる。
【0032】
つぎに、
図1に示した自動車用駆動装置は、以下のようにM/G2で駆動するEVモードと、エンジン1で駆動するエンジン駆動モードの、2種類の駆動モードで自動車を走行させるが、場合によりM/G2とエンジン1の両者で駆動することもできる。
ここで重要なのは、走行中において、偶数段の各スリーブ42b、44bおよびL−Hスリーブ16bの係合を切替えるのは奇数段でM/G2による駆動または制動をしている状態のEVモードであり、奇数段の各スリーブ41b、43bの係合を切り替えるのは偶数段でエンジン1による駆動または制動をしている状態のエンジン駆動モードである、ということである。
【0033】
はじめに発進から順次変速しながら走行する作用を説明する。
発進は、一般にエンジン1が停止した状態で行う。1速スリーブ41bを右方へ移動して1速被動歯車31bと出力軸12を連結するとM/G2と出力軸12とは1速で連結され、M/G2に電力を供給することで
図2の操作番号2欄に記載した1Mにて自動車を発進させることができ、EVモードでの走行に移行する。
【0034】
自動車を発進させた後、低負荷の走行であればEVモードのままで走行するが、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んでやや高負荷になった場合は、エンジン1を始動してエンジン駆動モードに切り替える。すなわち、1Mで走行中にL−Hスリーブ16bを右方へ移動してM入力軸16とクラッチ軸3bを連結し、クラッチ3を接続するとエンジン1が正回転して、これを始動することができる。
【0035】
エンジン1が始動した後、M/G2への通電をやめればエンジン1のみの駆動によるエンジン駆動モードで操作番号3に記載の1Eに切り替わる。1Eの変速比(エンジン1の回転速度/出力軸12の回転速度)はi1であり、前述のように2.500である。
むろん、エンジン1とともに引き続いてM/G2に駆動させて走ることもできるし、逆に1Eで走行しながらM/G2に発電させてバッテリーを充電することもできる。これは、以降の各変速段においても共通である。
【0036】
つづいて、1Eの状態でさらに強くアクセルペダルを踏み込んで急加速する場合は、一旦クラッチ3を解放してM/G2に通電して1Mの駆動状態にしたうえで、L−Hスリーブ16bを左方へ移動してM入力軸16とL被動歯車19bを連結する。これによりM入力軸16はクラッチ軸3bから減速駆動されるようになるので、ここで再びクラッチ3を接続して、M/G3への通電をやめてエンジン1の駆動にすると操作番号1に記載の1ELに切り替わる。1ELの変速比は、iL・i1の4.355である。
【0037】
なお、クラッチ3を解放している間は1Mでの駆動に切り替わり、短時間ではあるがエンジン1が空転することになるので、必要以上の回転速度にならないように制御する。また、再びクラッチ3を接続する場合は、クラッチ3の滑りが少なくて済むようにエンジン1の回転速度を制御して接続する。この点は、以降のエンジン1が回転している状態での切替えに共通することである。
【0038】
1ELでの走行で車速が上昇して再び1Eへの切替えを行う場合は、上記の逆の制御を行う。すなわち、クラッチ3を解放して一時的に1Mの駆動にし、L−Hスリーブ16bを右方へ移動してM入力軸16とクラッチ軸3とを連結し、クラッチ3を接続してM/G2への通電をやめてエンジン1に駆動させると1Eに切り替わる。
なお、1ELから偶数段のいずれかに切り替えることも可能であり、その場合は後述する奇数段から偶数段への切替えと同様に行う。
【0039】
つづいて、1Eから操作番号5に記載の2Eへの切替えを、奇数段から偶数段の切替えの代表例として説明する。
1Eで走行中にクラッチ3を解放してエンジン1での駆動をやめるとともに、M/G2による駆動の1Mにして、ただちに2−4スリーブ42bを左方へ移動して2速駆動歯車32aとE入力軸10とを連結し(操作番号4)、再びクラッチ3を接続してエンジン1による駆動に切り替え、M/G2の駆動をやめると2E(操作番号5)に切り替わる。このときの変速比はiD・i2の1.600である。
むろん、1Eと2Eの間に1Mでの駆動を行うので、車輪に作用する駆動トルクは途切れることはない。
以上が奇数段から偶数段への切替えに共通する操作であり、1Eから2Eへの切替えで説明したが、1Eに限らず全ての奇数段から全ての偶数段のいずれへの切替えも同様に行うことができる。
【0040】
つづいて、2Eから3Eへの切替えについて、偶数段から奇数段への切替えの代表例として説明する。
2Eで走行中に、3−5スリーブ43bを左方へ移動(操作番号6)して3速駆動歯車33aとM入力軸16を連結して、ただちにクラッチ3を解放してエンジン1での駆動をやめ、それとともに、M/G2による駆動の3M(操作番号7)にして、ただちにL−Hスリーブ16bを右方へ移動してM入力軸16とクラッチ軸3bを連結し、再びクラッチ3を接続してエンジン1に駆動させるとともにM/G2の駆動をやめると、操作番号8の3Eに切り替わる。このときの変速比はi2の1.212である。
むろん、2Eから3Eへの切替えの間に3Mでの駆動を行うので、車輪に作用する駆動トルクが途切れることはない。
【0041】
以上が偶数段から奇数段への切替えに共通する操作であり、2Eから3Eへの切替えで説明したが、2Eに限らず全ての偶数段から全ての奇数段のいずれへの切替えも同様に行うことができる。
このように、奇数段と偶数段の間の切替えを行うことで、
図2の作動表に示した駆動を順次行うことができる。なお、操作番号9と10は同じ4Eであるが、上記の2Eで説明したように、つぎに切り替える変速段に備えて3−5スリーブ43bの軸方向位置を切り替えるものである。
また、つづく各変速段における変速比は、4EではiD・i4の0.919であり、5Eではi4の0.696であり、6EではiD・i6の0.557である。
【0042】
つぎに、急加速や急減速などで1段飛び越し変速を行う場合について説明する。
はじめに、偶数段間の飛び越し変速の場合は、6Eから4Eへの切替えを例にとって説明すると、以下のように行う。
6Eで走行中は、3−5スリーブ43bは右方にあって5速の連結になっているので、クラッチ3を解放してエンジン1での駆動をやめるとともに、M/G2による駆動の5M(操作番号11)にして、ただちに6速スリーブ44aを中立にして2−4スリーブ42bを右方へ移動して4速駆動歯車34aとE入力軸10とを連結し、再びクラッチ3を接続してエンジン1による駆動に切り替え、M/G2の駆動をやめる。
これは、6E−5M−4Eの順に切り替えるが、同様に4E−3M−2Eと切り替えることもできる。これらの切替えも、中間で5Mまたは3Mの駆動があるので車輪に作用する駆動トルクが途切れることなく行うことができる。
【0043】
それに対して、奇数段間の1段飛び越し変速は、従来例にあっては、前述の奇数段から偶数段への切替えと、偶数段から奇数段への切替えとを繰り返さなければならず、操作が複雑である。
すなわち、5Eから3Eへの切替えでいうと、5E−5M−4E―3M−3Eという手順になり、前述の偶数段間の切替えに較べて操作が複雑で、必然的に切替えに時間を要することになる。
これに対し、本実施例では、L−Hスリーブ16bによるクラッチ軸3aとM入力軸16との間で減速駆動を行うことで、1段飛び越し変速に相当する変速比にして対応することで以下のように操作が簡単になる。
【0044】
すなわち、具体的に5Eから1段飛び越し相当の変速比への切替えは、前述の1Eから1ELへの切替えと同様に、以下のように行う。
5Eで走行中に、クラッチ3を解放してエンジン1での駆動をやめ、それとともに、M/G2による駆動の5M(操作番号11)にして、M/G2で駆動している間にL−Hスリーブ16bを左方へ移動して、クラッチ軸3bがM入力軸16を減速駆動するように切り替えて、再びクラッチ3を接続してエンジン1による駆動を行う。
これは、5E−5M−5EL(操作番号15)と切り替えたもので、前述の5Eから3Eへの切替えに較べて操作が大幅に簡素化されていることが分かる。
このときの変速比はiL・i4の1.212である。
この1.212という変速比は前述の3Eと同じ値である。すなわち、5ELが3Eと同等の変速比になるようにiLの値を設定しておいたからある。
この場合も、5MにてM/G2による駆動を行いながら切り替えるので、車輪に作用する駆動トルクは途切れることがない。
【0045】
これと同様に、3Eから切り替える場合は、3E−3M−3EL(操作番号14)へという切替えを行うと、変速比はiL・i2の2.111になる。
この2.111という変速比は2Eと1Eの中間の値であるが、3Eとの変速比の比はiLであり1段飛び越し相当の変速比と言える値である。
このように、1段飛び越し相当の5EL、3ELに切り替えた後に、走行条件の変化で再び元の変速段に戻ることや、他の偶数段に切り替えることも自由にできるが、いずれも1ELからの切替えで説明したのと同様であり、説明を省略する。
【0046】
以上に示した各変速比は1例であるが、1ELを第1段目として6Eを第7段目とする前進7段の変速比として見ると、自動車用の変速機として好ましい変速比である。さらに、3ELの変速比を加えると計8種類の変速比にて、エンジン駆動モードで走行することができる。
【0047】
以上、エンジン駆動モードでの走行を中心に説明したが、切替えの途中でEVモードの1M、3M、5Mの各変速段が存在した。このような切替えの途中ではエンジン1が回転している場合が多いが、これら1M、3M、5Mの各変速段においてエンジン1を停止するとM/G2のみの駆動によるEVモードになる。また、同様にアクセルペダルを放した場合や、ブレーキペダルを踏み込んだ制動時には、M/G2に発電させてバッテリーに充電する、いわゆるエネルギー回生を行うことができる。これらは周知であるので詳細の説明は省略するが、走行条件に応じてエンジン駆動モードとEVモードを随時、自在に切替えながら燃費が良くなるように制御して走行する。
なお、クラッチ3を解放してL−Hスリーブ16bを左右のどちらかに移動して場合は、偶数段の変速段においてもM/G2による駆動が可能であるが、通常は運転条件の急な変化への対応に優れる1M、3M、5Mの3段で駆動する。
【0048】
つぎに、後進については、
図2の操作番号16と17に記したように、第2変速機構SGを1Eと同じ連結関係にしておいて、EVモードでは1Mと同じ経路でM/G2が逆回転して後進駆動を行う。
また、エンジン駆動モードの場合は、第2変速機構SGは1Eと同じ連結関係ながらRスリーブ22eを右方へ移動して第1後進歯車22aと第2後進歯車22bを連結することで、M入力軸16を逆回転させてエンジン1による駆動が可能になる。
【0049】
以上が実施例1の作用の概要であるが、実施例1では以下のような効果を得ることができる。
低負荷走行は効率的なEVモードで、高負荷走行は動力伝達効率が高いエンジン駆動モードでの、2種類の駆動モードを自在に切替えながら、燃費と環境面に適した走行モードを選択できる上、EVモードで駆動可能な変速段でのエンジン駆動モード走行において、従来例で困難であった1段飛び越し変速に相当する切替えを素早く行うことができるので、急加速や急減速などへの対応性が向上する。
【0050】
また、エンジン駆動モードにおいて、ベースの前進6段の変速に加えて3ELと1ELの計8種類の変速比を得ることができるので、多様な走行条件に対応可能である。
そして、これらの各駆動モードおよび変速ポジションの切替えにおいて、変速中に車輪に作用する駆動力または制動力が途切れることがないので、ドライバーに違和感を与えずに変速を行うことができる。
【0051】
このように、急加速などにおける実用性を高めて、特に燃費に有利な動力伝達効率の高いAMTの良さを生かし、ハイブリッド自動車の普及に貢献することができる。
さらに、M/G2とM入力軸16との連結に後進段用の第2後進歯車22bと後進被動歯車16cを介在させたことで、最小限の構成でM/G2での駆動を可能にしたため、駆動装置の小型化と低コスト化に貢献することができる。
【実施例2】
【0052】
次に、本発明の実施例2の自動車用駆動装置につき説明する。
図3は、本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については、同じ符号を付しそれらの説明を省略する。なお、一部のハブおよびスリーブは名称が実施例1と若干異なるが、基本的に同様の機能を有するものには同じ符号をつけている。
【0053】
実施例2における実施例1との第1の違いは、エンジン1のクランク軸1aとE入力軸10およびM入力軸16が同じ軸中心であり、E入力軸10がクラッチディスク3aと直接連結していることである。
第2の違いは、第1出力軸12と第2出力軸14の2つを有して、第1出力軸12と一体の第1出力歯車12aと第2出力軸14と一体の第2出力歯車14aが、図示しない相手歯車を介して車輪を駆動する。また、第1出力歯車12aと第2出力歯車14aの歯数は、第2出力軸14aの方が第1出力歯車12aの方より多くしてあり、その歯数同士の比は第2速と第4速の変速比間の比になる値にしてある。
また、パーキング歯車14bを第2出力軸14と一体に設けている。
【0054】
第3の違いは、中間軸18が中空になっていて、第2出力軸14aに回転自在に支持されるとともに、6速駆動歯車36aと8速被動歯車38bにM入力軸16を減速駆動する機能の一端を担わせていることである。すなわち、8速被動歯車38bと中間軸18とL駆動歯車19aが一体になっており、L駆動歯車19aはM入力軸16上に回転自在でかつM入力軸16と連結可能なL被動歯車19bと噛み合っている。したがって、L−Hスリーブ16bにより、M入力軸16はE入力軸10のドッグ歯10cと係合して直結する連結状態と、減速駆動される連結状態との間で切り替えることができる。つまり、E入力軸10とM入力軸16とは2種類の変速比にて連結可能であることは実施例1と同様である。
【0055】
第4の違いは、E入力軸10と第1および第2出力軸12、14との間に偶数段の第1変速機構FGが配置してあり、2速、4速、6速、8速の変速比で駆動可能な4段になっており、M入力軸16と第1および第2出力軸12、14との間に奇数段の第2変速機構SGが配置してあり、1速、3速、5速、7速の変速比で駆動可能な4段になっていることである。
すなわち、第1出力軸12側に1−3スリーブ41bと2−6スリーブ42bが、第2出力軸14側に5−7スリーブ46bと4−8スリーブ45bがそれぞれ配置してあり、8速被動歯車38bが6速駆動歯車36aと噛み合って8速の変速比を、M入力軸16と一体の7速駆動歯車37aと7速被動歯車37bが噛み合って7速の変速比を、それぞれ得るようになっている。
【0056】
また、これらの4点以外は以下のようになっている。
後進軸22は第2出力軸14およびM入力軸16と平行に配置され、第1後進歯車22aがL駆動歯車19aと噛み合い、第2後進歯車22bが7速駆動歯車37aと噛み合っている。
図3では、第2後進歯車22bと7速駆動歯車37aとを便宜上離して描いているが、実際には鎖線で示すように両者は噛み合っている。したがって、これらの歯車を介してE入力軸10がM入力軸16を逆転駆動可能であることは実施例1と同様である。そして、これらと前述のE入力軸10とM入力軸16とを2種類の変速比にて連結可能とした部分は、本発明の第3変速機構を構成する。
【0057】
また、M/G2のM駆動歯車2cは後進軸22と一体のM被動歯車2dと噛み合っており、M/G2がM入力軸16を常に駆動可能であることは実施例1と同様である。
つぎに、実施例2の作用であるが、上記したように前進1速から8速の駆動が可能であること以外は実施例1と基本的に同様であるので詳細の説明は省略する。
ただ、L−Hスリーブ16bによりM入力軸16が減速駆動した場合、実施例1と同様に奇数段の各変速段において1段飛び越し変速に相当する変速比を得るが、7速が追加されたため、新たに7ELの変速比が得られるようになっている。
【0058】
詳細な説明は省略するが、7ELは5Eと同等の変速比になるので、上記8段の変速比以外に得られる変速比が、1ELと3ELである点は実施例1と同様である。
したがって、ベースの8段に1EL加えた前進9段とみなすことができるし、3ELも加えて合計10種類の変速比にてエンジン1による駆動ができる。
また、説明は省略したが、M/G2によるEV駆動モードでは、実施例1の3段に対して新たに7Mが加わって計4段の変速比で駆動することができる。
【0059】
つぎに、
図3に示した本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の作用であるが、ここでも、実施例1と異なる点を中心に説明する。
上記したように、変速段数が増加したので、自動車の幅広い走行条件にいっそう柔軟に対応して駆動することができるので、燃費や環境性能をさらに向上させることが期待できる。
【実施例3】
【0060】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図4は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1および実施例2と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については、同じ符号を付しそれらの説明を省略する。ここでも、一部のスリーブおよびハブは名称が実施例1と若干異なるが、基本的に同様の機能を有するものには同じ符号をつけている。
【0061】
実施例3における実施例1との第1の違いは、エンジン1のクランク軸1aとE入力軸10および出力軸12が同じ軸中心であり、E入力軸10がクラッチディスク3aと直接連結していることである。これと関連して、E入力軸10とこれと平行に設けたカウンタ軸26との間に実施例1と同じ符号で2速と4速の歯車やハブ、スリーブ等が配置してある。また、カウンタ軸26と一体の出力駆動歯車26aが出力軸12と一体の出力被動歯車28と噛み合っており、2速と4速のトルクをカウンタ軸26と出力軸12間で伝達する。そして、6速ハブ44aと6速スリーブ44bはE入力軸10と出力軸12を直結可能な構成にしてあり、6速の変速比は1である。
さらに、パーキング歯車12bは出力軸12と一体にした。
【0062】
第2の違いは、L−Hスリーブ16bが係合する相手のL被動歯車19bとH被動歯車30は、L被動歯車19bが2速駆動歯車32aと、H被動歯車30が4速駆動歯車34aと噛み合って、2種類の変速比でE入力軸10とM入力軸16とを連結可能としたことである。
そのため、L−Hスリーブ16bがH被動歯車30と係合した場合の、E入力軸10とM入力軸16の間の変速比が直結の1ではないが、L−Hスリーブ16bがL被動歯車19bと係合した場合と、2種類の変速比を有する点は実施例1と同様である。
ここでも、E入力軸10とカウンタ軸26およびM入力軸16との中心間距離を同じ値にして、2速被動歯車32bとL被動歯車19b、また4速被動歯車34bとH被動歯車30は、それぞれ歯車諸元が共通である。
【0063】
第3の違いは、M入力軸16と出力軸12との間に、1速、3速、5速、7速の第2変速機構SGの構成メンバーを配置していることである。7速は実施例1にはなかったが、M入力軸16と一体の7速駆動歯車37aと、出力軸12上に回転自在でかつ出力軸12と連結可能な7速被動歯車37bが噛み合っている。
すなわち、出力軸12と一体の1−7ハブ41aには、これと回転方向は一体で軸方向に移動可能な1−7スリーブ41bが装着され、該1−7スリーブ41bは
図4に示す位置にあっては中立であるが、軸方向左側へ移動することでその内歯が7速被動歯車37bのドッグ歯37cと係合して7速被動歯車37bと出力軸12と連結し、右側へ移動することで実施例1と同様に1速の連結を行う。
また、3速と5速は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0064】
また、これら3点以外は以下のようになっている。
後進軸22は実施例1と同様にE入力軸10とM入力軸16と平行に配置してあるが、第1後進歯車22aが4速駆動歯車34aと、また第2後進歯車22bが7速駆動歯車37aと噛み合っている点が実施例1と異なる。
図4では第1後進歯車22aと4速駆動歯車34aとを便宜上離して描いているが、実際には鎖線で示すように両者は噛み合っている。これらの歯車を介してE入力軸10がM入力軸16を逆転駆動可能であることは実施例1と同様である。そして、これらと前述の2種類の変速比でE入力軸10とM入力軸16とを連結可能とした部分は、本発明の第3変速機構を構成する。
また、M/G2のM駆動歯車2cは第2後進歯車22bと噛み合っており、さらに7速駆動歯車37aを介してM入力軸16を駆動可能である。
【0065】
つぎに、実施例3の作用であるが、上記したように前進1速から7速の駆動が可能であること以外は実施例1と基本的に同様であるので詳細の説明は省略する。
ただ、実施例2と同様に奇数段に7速が追加されたため、新たに7ELの変速比が得られるようになっている。
詳細な説明は省略するが、7ELは5Eと同等の変速比になるので、上記7段の変速比以外に得られる変速比は、1ELと3ELである点は実施例1と同様である。
したがって、ベースの7段に1EL加えた前進8段とみなすことができるし、3ELも加えて合計9種類の変速比にてエンジン1による駆動ができる。
また、M/G2によるEV駆動モードでは、実施例1の3段に対して新たに7Mが加わって計4段の変速比で駆動することができる点は実施例2と同様である。
【0066】
つぎに、
図4に示した本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置では、実施例2と同様に、変速段数が増加したので、自動車の幅広い走行条件により柔軟に対応して駆動することができるので、燃費や環境性能をいっそう向上させることが期待できる。
また、エンジン1のクランク軸1と出力軸12の軸中心が同じであるので、車両前部にエンジン1を配置して後輪を駆動する、いわゆるFR車などに適した構成である。
【0067】
以上の説明で分かるように、上記各実施例の自動車用駆動装置は、M/G2が駆動可能な奇数段の変速段においてエンジン1での駆動が可能であるとともに、それら奇数段間での1段飛び越し変速に相当する切替えを素早くできるのがメリットである。
もちろん、それらの全ての変速段の切替えにおいて車輪に作用する駆動力または制動力が途切れることなくできるので、燃費や環境維持に最適な駆動モードを選択して走行することができる。
そのため、特に燃費や環境対応に有利な動力伝達効率の高いAMTの良さを生かした、ハイブリッド自動車の普及に貢献することができる。
【0068】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、変速歯車の一部を遊星歯車に置換することや、歯車を追加してさらなる多段化を行うなどの態様で実施することができる。