【実施例】
【0152】
(実施例1)
抗huTLR3アンタゴニストmAbの同定及び誘導
MorphoSys Human Combinatorial Antibody
Library(HuCAL(登録商標)Goldファージディスプレイライブラリ(M
orphosys AG,Martinsried,Germany)をヒト抗体フラグ
メントの供給源として使用し、C末端にポリヒスチジンタグを有するヒトTLR3(hu
TLR3)(配列番号4)のアミノ酸1〜703を発現させることによって生成した精製
TLR3抗原に対してパニングさせ、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによ
って精製した。アミノ酸1〜703は、予想されるhuTLR3細胞外ドメイン(ECD
)と一致している。huTLR3 ECDと特異的に結合するFabフラグメント(Fa
b)を、多様な抗体フラグメント群を固有のものとして同定、配列決定及び確認できるよ
うに様々な方法でTLR3タンパク質を提示することによって選択した。異なるパンニン
グの手法により、62種類の候補物質(V領域配列が異なる)がhTLR3のECDに結
合する固有の物質として同定された。
【0153】
huTLR3のECD結合物質として同定されたこれら62種類の候補物質を、抗炎症
活性の特定に関するさまざまな細胞アッセイにより中和活性についてスクリーニングした
。予備活性データ(下記実施例2を参照)を用いて、ファミリー16〜19を形成する4
種類の候補物質(Fab16〜19)を、重鎖CDR2(HCDR2)及び軽鎖CDR3
(LCDR3)のCDR成熟の親として62種類の候補物質から選択した。これらの親候
補物質の1つ(候補物質19)でHCDR2にN結合型グリコシル化部位が認められたた
め、この候補物質にSer→Ala(S→A)の突然変異を導入してこの部位を除去した
。4種類の親候補物質のCDR成熟の後、全部で15種類の子孫候補物質(候補物質1〜
15)が同定され、これを下記実施例2で述べるように更なる特性評価に供した。19種
類の候補物質のそれぞれに存在する軽鎖及び重鎖可変領域のリストを上記表3に示した。
本明細書において、各候補物質は、Fabであるか完全長の抗体鎖としてクローニングさ
れた(実施例3)ものであるかに応じてmAb 1〜19又はFab 1〜19と呼ぶも
のとする。発現ベクターの設計のため、すべての候補物質について可変領域の成熟したア
ミノ末端は重鎖ではQVEであり、軽鎖ではDIであった。これらの末端の好ましい配列
は、候補配列と高い相同性を有するそれぞれの生殖細胞遺伝子内の配列である。ファミリ
ー17及び18では、生殖細胞系配列はVHでQVQ、VLでSYである。ファミリー1
9ではこの配列はVHでEVQ、VLでDIである。SY配列はλサブグループ3に固有
であり、アミノ末端残基としてのS又はYは種間で異なることが報告されている。したが
って、有名なλサブグループ1からのQSVコンセンサス末端は、ファミリー17及び1
8のVLのDIEのより好適な置換になるものと考えられる。これらの改変を、ファミリ
ー18から候補物質9、10及び12に、ファミリー19から候補物質14及び15に導
入した。このプロセスでは、これらの抗体のVH及びVL領域のコドンを最適化した。候
補物質9、10及び11の軽鎖可変領域のN末端生殖細胞変異体のアミノ酸配列を配列番
号209〜211に示し、候補物質9、10、12、14及び15の重鎖可変領域のN末
端生殖細胞変異体のアミノ酸配列を配列番号212〜216にそれぞれ示す。これらの候
補物質のN末端変異体を本明細書では、候補物質/mAb/Fab 9QVQ/QSV、
10QVQ/QSV、12QVQ/QSV、14EVQ又は15EVQと呼ぶ。これらの
N末端生殖細胞変異体をmAbとして発現させたところ、それぞれの親候補物質と比較し
た場合にTLR3への結合についても、TLR3の生物活性を阻害する能力においても何
らの影響を示さなかった(データは示されていない)。
【0154】
(実施例2)
インビトロでのTLR3アンタゴニスト活性の判定
上記に述べた15種類のCDR成熟させた候補物質を潜在的なヒトの治療物質として選
択し、広範な結合及び中和活性を調べた。4種類の親FabであるFab16〜19及び
15種類のCDR成熟であるFab1〜15又はこれらの非生殖細胞V領域変異体につい
て、活性のアッセイ及び結果を下記に述べる。
【0155】
NF−κB及びISREシグナル伝達カスケードの阻害
熱で不活化したFBSを補充したDMEM及びGlutaMax培地(Invitro
gen、Carlsbad、CA)中で293T細胞を増殖させ、30ngのpNF−κ
B又はISREホタルルシフェラーゼレポータープラスミド、13.5ngのpcDNA
3.1ベクター、5ngのphRL−TK、及び1.5ngのFL TLR3をコードし
たpCDNA(配列番号2)をトランスフェクトした。phRL−TKプラスミドは、H
SV−1チミジンキナーゼプロモータ(Promega、Madison、WI)によっ
て制御されるウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を含有している。TLR3抗体を30〜
60分インキュベートした後、ポリ(I:C)(GE Healthcare、Pisc
ataway、NJ)を加えた。各プレートを37℃で6時間又は24時間インキュベー
トした後、Dual−Gloルシフェラーゼ試薬を加え、各プレートをFLUOstar
プレートリーダで読み取った。ホタルの相対発光量(RLU)をウミシイタケのRLUで
割ることによって正規化された値(ルシフェラーゼ比)を求めた。TLR3アゴニストポ
リ(I:C)(1μg/mL)による刺激の際、ホタルルシフェラーゼの産生を刺激する
NF−κB又はISREシグナル伝達カスケードは、刺激前に、細胞を抗TLR3抗体(
0.4、2.0及び10μg/mL)とインキュベートすることによって特異的に阻害さ
れた。NF−κBアッセイの結果を
図1に示し、5465をポジティブコントロール(抗
ヒトTLR3Mabを中和する)として、また抗ヒト組織因子mAb(859)をヒトI
gG4アイソタイプコントロールとして、ホタル/ウミシイタケ比の阻害率(%)として
表した。0.4〜10μg/mLのmAb濃度で50%超の阻害率が得られた。c106
8及びTLR3.7は、10μg/mLでTLR3生物活性の約38%及び8%を阻害し
た。同様の結果がISREレポーター遺伝子アッセイで得られた(データは示されていな
い)。
【0156】
BEAS−2B細胞におけるサイトカイン放出
BEAS−2B細胞(SV−40で形質転換した正常なヒト気管支上皮細胞株)を、I
型コラーゲンをコーティングした培養皿に播種し、抗ヒトTLR3抗体の存在下又は非存
在下でインキュベートした後、ポリ(I:C)を加えた。処理の24時間後に上清を回収
し、カスタム多重ビーズアッセイを用いてサイトカイン及びケモカインレベルについてア
ッセイして、IL−6、IL−8、CCL−2/MCP−1、CCL5/RANTES及
びCXCL10/IP−10を検出した。結果を、0.4、2.0及び10μg/mLの
mAbで処理した後の、サイトカイン/ケモカインの個別の阻害率(%)として
図2に示
す。5465はポジティブコントロールであり、859はアイソタイプコントロールであ
る。
【0157】
NHBE細胞におけるサイトカイン放出
サイトカインの放出を、正常なヒト気管支上皮(NHBE)細胞(Lonza,Wal
kersville,MD)においてもアッセイした。NHBE細胞を増殖させ、コラー
ゲンコーティングした培養皿に移して48時間インキュベートした後、培地を除去して0
.2mLの新鮮な培地を補充した。次いで細胞を抗ヒトTLR3mAbの存在下又は非存
在下で60分間インキュベートした後、ポリ(I:C)を加えた。24時間後に上澄み液
を回収し、−20℃で保存するか、又は直ちにIL−6のレベルについてアッセイした。
結果を、投与量0.001〜50μg/mLでのmAb処理後の、IL−6分泌の阻害率
(%)として
図3にグラフで示す。5465はポジティブコントロールであり、859は
アイソタイプコントロールである。大部分のmAbは1μg/mL未満でIL−6の産生
の少なくとも50%を阻害し、5μg/mL未満で阻害率75%を達成した。
【0158】
PBMC細胞におけるサイトカイン放出
サイトカインの放出を、ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)においてもアッセイした。
ヒトドナーから全血をヘパリン回収試験管に回収し、これにFicoll−PaqueP
lus溶液を下側に層を形成するようにゆっくりと加えた。試験管を遠心してFicol
lの直ぐ上に白色の層を形成しているPBMCを回収して播種した。この後、PBMCを
抗ヒトTLR3mAbの存在下又は非存在下でインキュベートした後、25μg/mLの
ポリ(I:C)を加えた。24時間後に上澄み液を回収し、Luminex技術を用いて
、サイトカインレベルを求めた。5465をポジティブコントロールとし、hIgG4を
アイソタイプコントロールとして用い、mAbの単回用量(0.4μg/mL)によるI
FN−γ、IL−12及びIL−6の累積阻害率(%)として、結果を
図4にグラフ化し
て示す。
【0159】
HASM細胞におけるサイトカイン放出
簡潔に言うと、500ng/mLのpoly(I:C)及び10ng/mLのTNF−
αの相乗的組み合わせを加える前に、ヒト気道平滑筋(HASM)細胞を、抗ヒトTLR
3 mAbの存在下又は非存在下でインキュベートした。24時間後、上清を収集し、L
uminex技術を用いてサイトカインのレベルを測定した。結果を、mAbの3つの用
量(0.4、2及び10μg/mL)を用いてケモカインCCL5/RANTESのレベ
ルとして
図5にグラフで示す。5465はポジティブコントロールであり、hIgG4は
アイソタイプコントロールである。
【0160】
ヒト細胞におけるインビトロアッセイからの結果によって、huTLR3に結合するこ
とによりサイトカイン及びケモカインの放出を低減させる本発明の抗体の能力が確認され
た。
【0161】
(実施例3)
完全長の抗体コンストラクト
4種類の親Fab(候補物質番号16〜19)及び15種類の子孫Fab(候補物質番
号1〜15)の重鎖をS229P Fc突然変異を有するヒトIgG4バックグラウンド
上にクローニングした。候補物質9QVQ/QSV、10QVQ/QSV、12QVQ/
QSV、14EVQ又は15EVQを、F235A/L236A及びS229P Fc突
然変異を有するヒトIgG4バックグラウンド上にクローニングした。
【0162】
成熟した完全長の重鎖アミノ酸配列を以下のように配列番号90〜102及び218〜
220に示す。
【0163】
【表11】
【0164】
発現のため、これらの重鎖はMAWVWTLLFLMAAAQSIQA(配列番号10
3)のようなN末端のリーダー配列を含んでもよい。リーダー配列を有する候補物質14
EVQ及び15EVQの重鎖、及び成熟型(リーダー配列を有さない)をコードするヌク
レオチド配列の例を、配列番号104及び105にそれぞれ示す。同様に、発現のために
、本発明の抗体の軽鎖の配列は、MGVPTQVLGLLLLWLTDARC(配列番号
106)のようなN末端のリーダー配列を含むことができる。リーダー配列を有するコド
ン最適化された候補物質15の軽鎖、及び成熟型(リーダー配列を有さない)をコードす
るヌクレオチド配列の例を、配列番号107及び108にそれぞれ示す。
【0165】
(実施例4)
抗TLR3mAbの結合の特性評価
ヒトTLR3細胞外ドメイン(ECD)に対するmAbの結合のEC50値をELIS
Aによって求めた。ヒトTLR3のECDタンパク質をPBSで2μg/mLに希釈し、
100μLの一定分量を96ウェルプレート(Corning Inc.,Acton,
MA)の各ウェルに分配した。4℃で一晩インキュベートした後、PBSに0.05%の
Tween−20(Sigma−Aldrich)を加えた洗浄緩衝液中で3回プレート
を洗った。ウェルを、PBSに2%のI−Block(Applied Biosyst
ems,Foster City,CA)及び0.05%のTween−20を加えたブ
ロッキング溶液200μLでブロックした。室温で2時間ブロッキングした後、プレート
を3回洗浄し、次いで、
【0166】
【表12】
【0167】
抗TLR3mAb候補物質1〜19をブロッキング緩衝液中で段階的に希釈した。この
抗TLR3mAbを室温で2時間インキュベートして3回洗った。この後、ブロッキング
緩衝液で1:4000に希釈したペルオキシダーゼ接合ヒツジ抗ヒトIgG(GE He
althcare,Piscataway,NJ)を加え、室温で1時間インキュベート
した後、洗浄緩衝液中で3回洗った。結合は、TMB−S(Fitzgerald In
dustries International,Inc.,Concord,MA)中
で10〜15分間インキュベートすることによって検出した。反応を、25μLの2NH
2SO
4で停止させ、SPECTRAMax分光光度計(Molecular Devic
es Corp.,Sunnyvale,CA)を使用し、450nmで吸光度を読み取
り650nmでの値を差し引いた。EC50値をGraphPad Prismプリズム
ソフトウエア(GraphPad Software,Inc.,San Diego,
CA)を使用して非線形回帰によって求めた。
【0168】
mAbを2.5μg/mL〜0.6pg/mLまで4倍ずつ希釈した100μLの連続
希釈液とインキュベートすることにより、huTLR3に対する結合についてEC50値
を求めた(表4)。抗ヒト組織因子mAb859及びhuIgG4κをネガティブコント
ロールとして含めた。
【0169】
huTLR3 ECDに対する結合親和性もBiacore分析によって求めた。デー
タ(示されていない)は、mAb1〜19ではhuTLR3 ECDに対するKdが10
-8M未満であることを示した。
【0170】
(実施例5)
競合的エピトープ結合
抗TLR3抗体競合グループ又は「エピトープビン」を決定するためにエピトープ結合
実験を行った。
【0171】
競合的ELISAを行うため、実施例1に述べるようにして作製した5μL(20μg
/mL)の精製ヒトTLR3 ECDタンパク質を、MSD HighBindプレート
(Meso Scale Discovery,Gaithersburg,MD)の各
ウェルに室温で2時間コーティングした。150μLの5% MSDブロッカーA緩衝液
(Meso Scale Discovery)を各ウェルに加えて室温で2時間インキ
ュベートした。プレートを0.1M HEPES緩衝液(pH 7.4)で3回洗った後
、標識した抗TLR3mAbと異なる競合物質との混合液を加えた。標識した抗体(10
nM)を、濃度を増加させた(1nM〜2μM)非標識抗TLR3抗体とインキュベート
し、次いで25μLの量の混合液を、指定されたウェルに加えた。室温で穏やかに振盪し
ながら2時間インキュベートした後、プレートを0.1M HEPES緩衝液(pH 7
.4)で3回洗った。MSDリードバッファーTを蒸留水で希釈して(4倍)ウェル1個
当たり150μLの量で分配し、そしてSECTOR Imager 6000で分析し
た。製造者(Meso Scale Discovery)の使用説明書に従って、MS
D Sulfo−Tag(商標)NHS−エステルで抗体を標識した。
【0172】
以下の抗TLR3抗体、すなわち、(表3aに示される)MorphoSys Hum
an Combinatorial Antibody Libraryより入手したm
Ab 1〜19、(国際公開第06/060513(A2)号に記載される)c1068
、c1811(マウスTLR3タンパク質で免疫性を与えられたラットから作製されるハ
イブリドーマにより産生されるラット抗マウスTLR3mAb)、TLR3.7(eBi
osciences,San Diego,CA,カタログ番号14−9039)、及び
(Imgenex,San Diego,CAより入手したヒトTLR3アミノ酸55〜
70(VLNLTHNQLRRLPAAN)に対して生成される)IMG−315Aを評
価した。mAb 9、10、12、14及び15については、変異体9QVQ/QSV、
10QVQ/QSV、12QVQ/QSV、14EVQ、又は15EVQをこの実験で使
用した。
【0173】
競合アッセイに基づき、抗TLR3抗体を5つの異なるビンに割り当てた。ビンA:m
Ab 1、2、13、14EVQ、15EVQ、16、19、ビンB:mAb 3、4、
5、6、7、8、9QVQ/QSV、10QVQ/QSV、11、12QVQ/QSV、
17、18、ビンC:抗体Imgenex IMG−315A、ビンD:抗体TLR3.
7、c1068、及びビンE:抗体c1811、である。
【0174】
(実施例6)
エピトープマッピング
実施例5で述べた異なるエピトープビンからの代表的な抗体を更なるエピトープマッピ
ングのために選択した。エピトープマッピングは、TLR3セグメントスワッピング実験
、突然変異誘発、H/D交換、及びインシリコタンパク質−タンパク質ドッキングを含む
各種のアプローチを用いて行った(The Epitope Mapping Prot
ocols,Methods in Molecular Biology,Volum
e 6,GlenE.Morris ed.,1996)。
【0175】
TLR3セグメントスワッピング。TLR3ヒト−マウスキメラタンパク質を用いてT
LR3上の全体の抗体結合ドメインの位置を特定した。ヒトTLR3タンパク質の細胞外
ドメインを3つのセグメントに分割した(GenBank Acc.No.NP_003
256のヒトTLR3アミノ酸配列に基づくアミノ酸番号によるaa 1〜209、aa
210〜436、aa 437〜708)。ヒトTLR3のアミノ酸210〜436及び
437〜708を対応するマウスのアミノ酸(マウスTLR3、GenBank Acc
.No.NP_569054、アミノ酸211〜437及び438〜709)と置き換え
ることによってMT5420キメラタンパク質を生成した。ヒトアミノ酸の位置437〜
708をマウスTLR3のアミノ酸(マウスTLR3、GenBank Acc.No.
NP_569054、アミノ酸438〜709)で置き換えることによってMT6251
キメラを生成した。すべてのコンストラクトを、標準的なクローニング手法を用いてpC
EP4ベクター(Life Technologies,Carslbad,CA)で生
成させた。各タンパク質をHEK293細胞内でV5−His6 C末端融合タンパク質
として一過性に発現させ、実施例1で述べたようにして精製した。
【0176】
mAb c1068。mAb c1068は、高親和性のヒトTLR3 ECDに結合
したが、マウスTLR3にはよく結合しなかった。c1068は、MT5420及びMT
6251の両方に結合する能力をなくし、これは、結合部位が、WTヒトTLR3タンパ
ク質のアミノ酸437〜708内に位置することを示していた。
【0177】
mAb12QVQ/QSV。mAb 12QVQ/QSVは両方のキメラに結合したが
、このことはmAb 12QVQ/QSVの結合部位が配列番号2に示される配列を有す
るヒトTLR3タンパク質のアミノ酸1〜209内に位置していることを示している。
【0178】
インシリコタンパク質−タンパク質ドッキング。mAb 15EVQの結晶構造(下記
参照)及び公開ヒトTLR3構造(Bell et al.,J.Endotoxin
Res.12:375〜378,2006)は、ドッキングするための開始モデルとして
使用のために、CHARMm(Brooks et al.,J.Computat.C
hem.4:187〜217,1983)において、エネルギーが最小化された。タンパ
ク質ドッキングは、ZDOCK 2.1(Chen and Weng,Protein
s 51:397〜408,2003)と同様のZDOCKpro 1.0(Accel
rys,San Diego,CA)により6°の角度グリッドで行った。ヒトTLR3
の周知のN結合グリコシル化部位であるAsn残基(Asn52、70、196、252
、265、275、291、398、413、507、及び636)(Sun et a
l.,J.Biol.Chem.281:11144〜11151,2006)は、ZD
OCKアルゴリズムにおけるエネルギー項により、抗体−抗原複合体界面への関与がブロ
ックされた。2000個の最初のポーズを出力してクラスター化し、ドッキングポーズを
リファインしてRDOCKで再スコアリングを行った(Li et al.,Prote
ins 53:693〜707,2003)。最初のZDOCKスコアが最も高かった2
00個のポーズ及びRDOCKの上位200個のポーズを視覚的に調べた。
【0179】
Fab 15EVQの結晶化を20℃で蒸気拡散法によって行った(Benvenut
i及びMangani、Nature Protocols 2:1633〜51、20
07)。最初のスクリーニングは、96ウェルプレートでHydraロボットを使用して
セットアップした。実験は、0.5μLのタンパク質溶液を0.5μLのリザーバ溶液と
混合した液滴で構成した。液滴は90μLのリザーバ溶液に対して平衡化した。50mM
のNaClを含有する20mM Tris緩衝液(pH 7.4)中のFab溶液をAm
icon Ultra−5kDaセルを使用して14.3mg/mLにまで濃縮した。ス
クリーニングは、Wizard I & II(Emerald BioSystems
,Bainbridge Island,WA)及びインハウス結晶化スクリーンによっ
て行った。Fab 12QVQ/QSVを類似の方法で結晶化させた。
【0180】
Osmic(商標)VariMax(商標)共焦光学系、Saturn 944CCD
検出器、及びX−stream(商標)2000低温冷却システムを備えたRigaku
MicroMax(商標)−007HF微小焦点X線発生装置(Rigaku,Woo
dlands,TX)を使用して、X線回折データを収集し、処理した。回折強度を、1
/2°の像当たり120秒の露光時間で270°(結晶回転)にわたって検出した。X線
データをプログラムD
*TREK(Rigaku)により処理した。構造は、Phase
r又はCNXプログラム(Accelrys,San Diego,CA)を使用して分
子置換法によって決定した。すべてのデータをFab 15EVQに対して15〜2.2
Å及びFab 12QVQ/QSVに対して50〜1.9Åの解像度範囲で使用して、原
子配置及び温度因子をREFMACにより精密化した。水分子は、3σのカットオフレベ
ルを使用して、(F
o−F
c)の電子密度ピークに加えられた。すべての結晶学的計算は、
CCP4プログラムパッケージ(Collaborative Computation
al Project、Number 4.1994.CCP4パッケージ:タンパク質
結晶学のためのプログラム。Acta Crystallogr.D50:760〜76
3)で行われた。モデル調整は、プログラムCOOT(Emsley et al.,A
cta Crystallogr.D60:2126〜2132,2004)を使用して
行った。
【0181】
解像されたmAb 15EVQの結晶構造は、抗体結合部位が重鎖の多数の負に帯電し
た残基(D52、D55、E99、D106及びD109)によって特徴付けられること
を示すものであった。したがってmAb 15EQVとTLR3との間の認識には、正に
帯電した残基が関与している可能性が高いと考えられた。行ったタンパク質−タンパク質
ドッキングシミュレーションは、複数の正に帯電した残基を含むTLR3上の2個の大き
なパッチが、抗体に対して優れた相補性を示すことを示唆するものであった。シミュレー
トしたTLR3−抗TLR3抗体複合体の界面内のTLR3上の残基は、R64、K18
2、K416、K467、Y468、R488、R489及びK493であった。
【0182】
突然変異誘発実験。単一及び組み合わせの突然変異をTLR3 ECDの、上記でmA
b12及びmAb 15EVQのエピトープを含有していることが特定された領域内の表
面残基に導入し、突然変異タンパク質を抗体結合について試験した。
【0183】
ヒトTLR3のアミノ酸1〜703(ECD)をコードするヌクレオチド配列(配列番
号4、GenBank受諾番号NP_003256)を標準的なプロトコルを用いてクロ
ーニングした。表5aに示されるオリゴヌクレオチドを用い、製造者のプロトコルに従っ
てStrategene Quickchange IIXLキット(Stratage
ne,San Diego,CA)を使用して、すべての突然変異体を、部位特異的突然
変異誘発によって作製した。突然変異はDNAの配列決定によって確認した。タンパク質
はCMVプロモーターの制御下で、HEK293細胞内でC末端His−タグ融合タンパ
ク質として発現させ、実施例1で述べたようにして精製した。
【0184】
結合アッセイ。ヒトTLR3に対するmAb 12QVQ/QSV及びmAb 15E
VQの結合活性及び生成された変異体をELISAによって評価した。プロセスを促進す
るため、mAb 12QVQ/QSVと共にC末端Hisタグを含有するTLR3 EC
D突然変異体をコトランスフェクトすることで、予想されるmAb 15EVQの結合部
位における突然変異体をHEK細胞内で同時発現させた後、金属アフィニティークロマト
グラフィーにより精製した。回収された試料は、TLR3突然変異体とmAb12との複
合体であった。このアプローチは、mAb 12QVQ/QSV及びmAb 15EVQ
の結合部位が互いに離れており、したがって一方の部位における点変異が他方の部位のエ
ピトープに影響する可能性が低いことから実行可能であった。これらの複合体をELIS
A結合アッセイで使用した。PBSに加えた20μg/mLの野生型TLR3 ECD又
は突然変異タンパク質を各ウェル当たり5μLずつ、MSD HighBindプレート
(Meso Scale Discovery,Gaitherburg,MD)にコー
ティングした。プレートを室温で60分間インキュベートし、ブロッキングした。
【0185】
【表13】
【0186】
MSD Blocker A緩衝剤(Meso Scale Discovery、G
aithersburg、MD)中で4℃にて一晩。翌日、プレートを洗浄し、MSD
Sulfo−タグ標識したmAb 15EVQを500pM〜1pMの濃度で1.5時間
添加した。洗浄後、MSD Read緩衝液Tを使用して標識抗体を検出し、SECTO
R Imager 6000を使用してプレートを読み取った。ヒトTLR3及び変異体
に対するmAb 12QVQ/QSVの結合活性を評価するため、mAb 15EVQと
同時発現させ、検出抗体を標識mAb 12QVQ/QSVとした以外はmAb 15E
VQについて述べたのと同様にして結合ELISAを行った。
【0187】
mAb12QVQ/QSV:mAb 12QVQ/QSVの結合部位は、セグメント交
換実験において決定されたようにヒトTLR3タンパク質のアミノ酸1〜209内に位置
付けられた。以下のTLR3突然変異体について評価を行った。すなわち、D116R、
N196A、N140A、V144A、K145E、K147E、K163E、及びQ1
67A。野生型TLR3及びV144A突然変異体は、mAb 12QVQ/QSVに対
して同等の結合性を示した(
図6A)。抗体はTLR3D116R突然変異体には結合せ
ず、K145E突然変異体に対しては大幅に低い結合親和性を有した。したがって、TL
R3の表面上で近接して配置されている残基D116及びK145は、mAb 12QV
Q/QSVに対する中心的なエピトープ部位と同定された(
図7A)。
【0188】
mAb 12QVQ/QSV結合エピトープのこれら2つの重要な残基は、TLR3の
外部ドメインのN末端セグメントの2本差RNA結合部位の面の近くに位置が特定されて
いる(Pirher,et al.,Nature Struct.& Mol.Bio
l.,15:761〜763,2008)。完全なエピトープは隣接領域に、実施した突
然変異分析によっては明らかにされなかった他の残基を含有すると考えられる。いずれの
特定の理論に束縛されることも望むものではないが、mAb 12QVQ/QSVがその
TLR3エピトープに結合すると、TLR3外部ドメインへの2本鎖RNAの結合に直接
的又は間接的に干渉することにより、受容体の二量化及び下流のシグナル伝達経路の活性
化が妨害されるものと考えられる。
【0189】
mAb 15EVQ:以下のTLR3突然変異体について評価を行った:R64E、K
182E、K416E、Y465A、K467E、R488E、R489E、N517A
、D536A、D536K、Q538A、H539A、H539E、N541A、E57
0R、K619A、K619E、二重突然変異体K467E/Y468A、三重突然変異
体T472S/R473T/N474S、及び三重突然変異体R488E/R489E/
K493E。野生型TLR3、R64E、K182E、K416E突然変異体及び三重突
然変異体T472S/R473T/N474Sは、mAb 15EVQに対して同等の結
合性を示した(
図6B及び表5b)。抗体は、TLR3突然変異体K467E、R489
E、K467E/Y468A及びR488E/R489E/K493Eには結合しなかっ
た(
図6B及び6C)。残りの変異体は中間的な結合性を示し、R488Eが最も高い作
用を示した。これらの突然変異体のすべてがmAb 12QVQ/QSVに結合した。こ
れらの結果は、残基K467及びR489がmAb 15EVQエピトープの重要な決定
因子であることを示すものである。残基R488もエピトープに寄与した。これらの残基
は、TLR3の同じ表面上に近接して配置されていた(
図7A)。この結果はまた、いず
れもK467、R488及びR489と同じ表面上に位置する残基Y465、Y468、
N517、D536、Q538、H539、N541、E570、及びK619がエピト
ープに寄与することを示している。この結果は、mAb 15EVQを用いたH/D交換
実験によって更に支持された。
図7Aは、mAb 12QVQ/QSV及び15EVQ(
黒)に対する結合エピトープ部位と、C1068mAb(灰色)に対する結合エピトープ
部位とがヒトTLR3の構造上で重なっていることを示している。mAb 15EVQに
対するエピトープは、残基Y465、K467、Y468、R488、R489、N51
7、D536、Q538、H539、N541、E570、及びK619の範囲にわたっ
ている。
【0190】
H/D交換実験。H/D交換については、抗体の摂動を分析するために使用される手順
は、既述した手順(Hamuro etal.,J.Biomol.Technique
s 14:171〜182,2003、Horn et al.,Biochemist
ry 45:8488〜8498,2006)と同様の手順に幾つかの変更を加えたもの
であった。組換えTLR3 ECD(C末端Hisタグを付加してSf9細胞で発現させ
て精製したもの)を重水素化水溶液中で所定の時間インキュベートして、交換可能な水素
原子に重水素を取り込ませた。重水素化TLR3 ECDを、固定されたmAb 15E
VQを含有するカラムで捕捉した後、水性緩衝液で洗った。逆交換したTLR3 ECD
タンパク質をカラムから溶出し、重水素含有フラグメントの局在性をプロテアーゼ消化及
び質量分析により調べた。基準コントロールとして、TLR3 ECD試料を、抗体カラ
ムで捕捉した後に重水素化水と接触させてから実験試料と同様にして洗浄及び溶出した点
を除いて同様に処理した。抗体と結合する領域は比較的交換から保護される部位であり、
そのため、基準TLR3 ECD試料と比較して高い割合の重水素を含有するものと推測
された。タンパク質の約80%を特定のペプチドにマッピングすることができた。mAb
15EVQによるTLR3 ECDのH/D交換の摂動のマップを
図7Bに示す。分か
りやすさのために、TLR3の、mAb 15EVQに影響される部分の周囲のセグメン
トのみを示す。TLR3 ECDのアミノ末端及びカルボキシル末端に延びるタンパク質
の残りの部分は大きく影響されなかった。
【0191】
H/D交換実験により、配列番号2のペプチドセグメント
465YNKYLQL
471、
514
SNNNIANINDDML
526、及び
529LEKL
532が、mAb 15EVQとの結合
によってTLR3上の交換が特に変化する領域として同定された。その性質上、H/D交
換は線形マッピング法であり、ペプチド内のどの残基が抗体結合によって最も影響される
かを定義することは通常できない。しかしながら、H/D交換と突然変異の結果が大きく
重なっていることは、
図7Aに示される表面がmAb 15EVQの結合部位であること
の更なる確証を与えるものである。この結合部位は、mAb c1068について過去に
述べられているもの(国際公開第06/060513(A2)号)と同じ直線状アミノ酸
配列領域内にあったが、まったく重ならない表面(
図7A)上に位置付けられることが判
明し、これらの抗体間で交差競合が見られないことと一致する。
【0192】
mAb 15EVQ結合エピトープは、TLR3上のC端末セグメントにおいて、2本
鎖RNA結合部位に空間的に近位であった(Bell et al.,Proc.Nat
l.Acad.Sci.(USA)103:8792〜8797,2006、Ranji
th−Kumar et al.,J Biol Chem,282:7668〜767
8,2007、Liu etal.,Science,320:379〜381,200
8)。いずれの特定の理論に束縛されることも望むものではないが、mAb 15EVQ
がそのTLR3エピトープと結合すると、リガンドである2本鎖RNA分子及び/又は二
量体のもう一方との立体障害を生じ、リガンドの結合及びリガンドによって誘導される受
容体の二量化が妨げられるものと考えられる。
【0193】
【表14】
【0194】
(実施例7)
熱安定性が向上した変異体の作製
結晶構造に基づいた機能改変(Structure-based engineering)を行って高い熱安定性
を有する抗体の変異体を作製すると同時に、生物活性を維持して免疫原性を最小に抑える
ことを試みた。
【0195】
mAb 15EVQを機能改変用に選択した。免疫原性を最小に抑えるため、構造的考
慮に基づいて有益であることが予想される生殖細胞突然変異のみを行った。mAb 15
EVQのVL及びVHの配列(それぞれ配列番号41及び配列番号216)を、BLAS
Tサーチを使用してヒト生殖細胞遺伝子と並べた。同定された最も近い生殖細胞系配列は
、VH及びVLについて、それぞれ、GenBank Acc.No.AAC09093
及びX59318であった。生殖細胞のVH及びVLとmAb 15EVQのVH及びV
L配列との間で以下の違いが特定された。すなわち、(VH)V34I、G35S、F5
0R、A61S、及びQ67H;(VL)G30S、L31S、及びA34N。特定され
た配列の違いをmAb 15EVQの結晶構造上にマッピングし、パッキング及び界面相
互作用を変化させることが予測される残基を機能改変用に選択した。抗体の結晶構造(実
施例6を参照)に基づいて、構造を不安定化させる可能性のある残基を特定した。(1)
VHのコア内のV34の近くに小さな包囲空洞が特定された。この空洞は、Ile等のわ
ずかに大きい側鎖に対応するのに十分大きかった。(2)VH CDR3のE99は、H
結合ネットワークなしに、VH/VL界面に埋め込まれていた。E99の負に帯電したカ
ルボキシレート基は概ね疎水性環境にあり、周囲の残基と主としてファンデルワールス(
vdw)接触状態にあった。荷電基を埋め込むことは、通常はエネルギー的に好ましくな
く、したがって不安定化作用をもたらす。(3)VHのF50は、VH/VLの界面残基
である。その芳香族側鎖は嵩張るため、ペアリングに負の影響を及ぼし得る。Fvの水素
結合及びvdwパッキングネットワークを計算し、Pymolにより視覚的に調べた(w
ww://_pymol_org)。VH及びVLドメイン内の埋め込まれた空洞はCa
ver(Petrek et al.,BMC Bioinformatics,7:3
16,2006)によって計算した。分子のグラフィック図はすべてPymolで作製し
た。Quick Change II XL部位特異的突然変異誘発キット(Strat
agene,San Diego,CA)、Change−IT多重突然変異部位特異的
突然変異誘発キット(USB Corporation,Cleveland,OH)、
又はQuick Change II部位特異的突然変異誘発キット(Stratage
ne,San Diego,CA)を使用し、標準的なクローニング法によって実施例3
で述べたようにして作製したFabフラグメント又はIgG4完全ヒト抗体をコードした
発現ベクターに突然変異を導入した。反応を、それぞれの製造者の推奨に従って行った。
得られたクローンの配列を、確認のために配列決定し、得られた機能改変された変異体を
、改変された重鎖又は軽鎖に従ってmAb 15−1〜15−10と命名した。各変異鎖
(H又はL)は、野生型mAb 15EVQ L又はH鎖で発現して抗体を生成したが、
mAb 15−10の重鎖は、mAb 15−6からであった。mAb 15EVQ及び
その機能改変された変異体のCDR、軽鎖及び重鎖の可変領域、並びに完全長の重鎖及び
軽鎖の配列番号のリストを表6に示す。表7は、各変異体の作製用のプライマーを示す。
【0196】
【表15】
【0197】
TLR3に対するmAb 15−1〜15−9の結合性をELISA免疫アッセイによ
って評価した。ヒトTLR3 ECD(100μLの2μg/mL TLR3 ECD)
を黒色のMaxisorbプレート(eBioscience)に4℃で一晩結合させた
。プレートを洗ってブロッキングし、希釈した抗体をウェル上に各ウェル当たり50μL
で二重に一定分量に分配した。プレートを穏やかに振盪しながら室温で2時間インキュベ
ートした。発光POD基質(Roche Applied Science,Mannh
eim,Germany,Cat.No.11 582 950 001)及びヤギ抗ヒ
トFc:HRP(Jackson ImmunoResearch,West Grov
e,PA,Cat.No.109−035−098)を使用して結合を検出し、プレート
をSpectraMaxプレートリーダ(Molecular Devices,Sun
nyvale,CA)で読み取った。
【0198】
DSC実験を、MicroCalのAuto VP−キャピラリーDSCシステム(M
icroCal,LLC,Northampton,MA)で行って、基準細胞と試料細
胞との間の温度差を継続的に測定して出力単位に較正した。試料は、10℃〜95℃まで
60℃/時の加熱速度で加熱した。前走査時間は15分とし、フィルタリング時間は10
秒間とした。DSC実験で使用した濃度は約0.5mg/mLであった。得られたサーモ
グラムの分析はMicroCal Origin 7ソフトウエア(MicroCal,
LLC)を用いて行った。
【0199】
【表16】
【0200】
作製した変異体の熱安定性(Tm)をDSCによって測定した(表8)。TLR3に対
する抗体の変異体の結合性は親抗体の結合性と同等であった。
【0201】
【表17】
【0202】
(実施例8)
代理抗TLR3抗体の作製
実施例1で作製したヒト化抗体がマウスTLR3に対して充分な特異性もアンタゴニス
ト活性も有さなかったことから、本明細書においてmAb 5429と命名するキメラア
ンタゴニストであるラット/マウス抗マウスTLR3抗体を作製して様々なインビボモデ
ルにおいてTLR3シグナル伝達を阻害する作用について評価を行った。この代理キメラ
mAb 5429及びその親ラット抗マウスTLR3抗体c1811はインビトロ及びイ
ンビボでマウスのTLR3シグナル伝達を阻害し、幾つかのマウスの疾患モデルにおいて
発症機構を改善した。
【0203】
以下に考察するデータは、有害な炎症の誘発及び持続化におけるTLR3の役割を示唆
するものであり、例えば高サイトカイン血症、喘息及び気道炎症、炎症性腸疾患及び関節
リウマチ、ウイルス感染、及びII型糖尿病などの急性及び慢性の炎症状態におけるTL
R3アンタゴニスト及びTLR3抗体アンタゴニストの治療的使用の根拠を与えるもので
ある。
【0204】
代理mAb 5429の作製
通常の方法を用いて作製した、遺伝子組み換え型マウスTLR3の外部ドメイン(配列
番号162のアミノ酸1〜703、GenBank Acc.No.NP_569054
)により、CDラットに免疫性を与えた。マウスTLR3に特異的な抗体力価を示す2匹
のラットのリンパ球を、FO骨髄腫細胞に融合させた。マウスTLR3に反応性のモノク
ローナル抗体のパネルを識別し、マウスルシフェラーゼレポーター及びマウス胎仔線維芽
細胞アッセイにおいてインビトロアンタゴニスト活性に関して試験した。ハイブリドーマ
株C1811Aを更なる研究のために選択した。機能する可変領域遺伝子をハイブリドー
マによって分泌されるmAb c1811から配列決定した。次いで、クローニングされ
た重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子をプラスミド発現ベクターにそれぞれ挿入し、mAb 5
429と表示されるキメララット/BalbCmuIgG1/κmAbを通常の方法によ
って作製するためのコード配列を得た。抗体を実施例3で述べたようにして発現させた。
mAb 5429の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号164及び配列番号
163にそれぞれ示し、重鎖及び軽鎖の完全長の配列を配列番号166及び配列番号16
5にそれぞれ示す。mAb c1811の重鎖及び軽鎖の完全長の配列を配列番号168
及び配列番号167にそれぞれ示す。
【0205】
mAb 5429の特性評価
mAb 5429を、TLR3シグナル伝達に対する中和能力について一連のインビト
ロアッセイにおいて特性評価した。活性のアッセイ及び結果を以下に述べる。
【0206】
マウスルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
マウスTLR3のcDNA(配列番号161、GenBank Acc.No:NM_
126166)をマウス脾臓cDNA(BD Biosciences,Bedford
,MA)からPCRによって増幅し、標準的な方法を用いてpCEP4ベクター(Lif
e Technologies,Carslbad,CA)にクローニングした。200
μLのHEK293T細胞を、完全DMEM中、4×10
4細胞/ウェルの濃度で96ウ
ェル白色透明底プレートに播種し、30ngのpNF−κBホタルルシフェラーゼ(St
ratagene,Carslbad,CA)又は30ngのpISREホタルルシフェ
ラーゼ(BD Biosciences,Bedford,MA)、5ngのphRL−
TKコントロールウミシイタケルシフェラーゼ(Promega Corp.,Madi
son,WI)レポータープラスミド、1.5ngの完全長マウスTLR3をコードする
pCEP4、及び13.5ngの空のpcDNA3.1ベクター(Life Techn
ologies,Carslbad,CA)を使用して、翌日、Lipofectami
ne2000(Invitrogen Corp.,Carslbad,CA)を使用し
てトランスフェクションを行い、全DNA量を50ng/ウェルとした。トランスフェク
ションの24時間後、細胞を37℃で30分〜1時間、抗マウスTLR3抗体と新鮮な無
血清DMEM中でインキュベートした後、0.1又は1μg/μLのポリ(I:C)を加
えた。24時間後にDual−Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Luciferase Ass
ay System)(Promega,Madison,WI)を使用してプレートを収穫した
。相対的な光量単位を、FLUOstarOPTIMA多重検出リーダーを使用し、OP
TIMALソフトウエア(BMG Labtech GmbH,Germany)により
測定した。標準化された値(ルシフェラーゼ比)はホタルの相対光量単位(RLU)をウ
ミシイタケのRLUで割ることによって得た。mAb 5429、並びにその親mAb
c1811及びmAb 15(表3a)は、用量依存的にポリ(I:C)誘発NF−κB
及びISRE活性化を低下させ(
図8A及び8B)、TLR3の活性を中和するこれらの
抗体の能力が実証された。ISREアッセイにおいて測定されたIC50は、mAb 5
249、mAb 15及びmAb c1811についてそれぞれ0.5、22、及び0.
7μg/mLであった。
【0207】
マウス胚性線維芽細胞(MEF)アッセイ
C57BL/6MEF細胞をArtis Optimusより入手した(Opti−M
EF(商標)C57BL/6−0001)。細胞を、200μLのMEF培地(glut
amax、10%熱失活FBS、1×NEAA、及び10μg/mLゲンタマイシンを加
えたDMEM)中、96ウェル平底プレート(BD Falcon)に20,000細胞
/ウェルで播種した。インキュベーションはすべて、37℃/5% CO
2で行った。播
種の24時間後に、mAb 5429又はmAb c1811を各ウェルに加えた。プレ
ートをmAbと1時間インキュベートした後、各ウェルにポリ(I:C)を1μg/mL
で加えた。24時間のインキュベーションの後、上清を回収した。ビーズキット(Inv
itrogen Corp.,Carslbad,CA)を用い、サイトカインレベルを
定量して、CXCL10/IP−10を製造者のプロトコルに従って検出した。結果をG
raphPad Prismソフトウエアを使用してグラフ化した。いずれの抗体もポリ
(I:C)により誘導されたCXCL10/IP−10レベルを用量依存的に低下させ、
これらの抗体が内因性のTLR3を中和してTLR3シグナル伝達を阻害する能力が実証
された(
図9)。
【0208】
フローサイトメトリー−表面染色
各群10匹ずつのC57BL/6及びTLR3ノックアウトマウス(TLR3KO)(
C57BL/6バックグラウンド、雌、8〜12週齢、Ace Animals,Inc
.)に1mLの3%チオグリコレート培地(Sigma)を腹腔内投与し、96時間後に
マウスを安楽死させ、各マウスからの腹膜を10mLの滅菌PBSで洗浄した。チオグリ
コレートにより腹膜に誘導されたマクロファージをPBS中に再懸濁し、細胞の生存率を
TrypanBlue染色によって評価した。細胞を遠心してペレットとし、250μL
のFACS緩衝液(PBS−Ca
2+−Mg
2+、1%熱失活FBS、0.09%アジ化ナト
リウム)に再懸濁し、濡れた氷上に保持した。CD16/32試薬(eBioscien
ce)を10μg/10
6細胞で10分間使用してマクロファージ上のFc受容体をブロ
ッキングした。細胞を100μL/ウェル中、10
6細胞で分配して表面染色を行った。
Alexa−Fluor 647(Molecular Probes)−接合mAb
c1811及びmAb 1679(TLR3特異性を有さないことからアイソタイプコン
トロールとして用いられるラット抗マウスTLR3抗体)を0.25μg/10
6細胞で
加え、氷上、暗所で30分間インキュベートした。細胞を洗浄し、250μLのFACS
緩衝液に再懸濁した。生存率染色として7−AAD(BD Biosciences,B
edford,MA)を5μL/ウェルで30分を超えないように加えた後、FACS
Caliburで試料を取得して死細胞集団を検出した。試料はCell Quest
Proソフトウエアを使用してFACS Caliburによって採取した。FCS E
xpressを使用して収集したデータのヒストグラムを作成することによって分析した
。
【0209】
C57BL/6及びTLR3ノックアウトマウスからのマウスチオグリコレート誘発腹
腔マクロファージへのmAb c1811の結合がフローサイトメトリーにより評価され
て、結合特異性が判定された。このキメラ抗体のマウスFc領域は非特異性結合に寄与す
ることが予想されたため、mAb 5429は、このアッセイには使用されなかった。m
Ab c1811は、TLR3KOマクロファージへの結合を示さず、C57BL/6腹
腔マクロファージの細胞表面への結合が増大したが、これは、TLR3に対するmAbの
特異性を示唆する(表10)。mAb c1811と同じ結合領域を有するmAb 54
29は、mAb c1811と同じ結合特異性を有することが推測される。
【0210】
(実施例9)
TLR3抗体アンタゴニストはTLR3媒介性全身性炎症から防御する。
モデル
ポリ(I:C)により誘導された全身性サイトカイン/ケモカインモデルをTLR3媒
介性全身性炎症のモデルとして用いた。このモデルでは、腹腔内投与したポリ(I:C)
(PIC)により、TLR3によって一部媒介される全身性のサイトカイン及びケモカイ
ン応答を誘導した。
【0211】
雌C57BL/6マウス(8〜10週齢)又は雌TLR3ノックアウトマウス(C57
BL/6バックグラウンド、8〜10週齢、Ace Animals,Inc.)に、m
Ab 5429を0.5mLのPBS中、10、20又は50mg/kgで、mAb c
1811を、0.5mLのPBS中、2、10又は20mg/kgで、又は0.5mLの
PBSを単独(溶媒コントロール)で皮下に投与した。抗体投与の24時間後、マウスに
、0.1mLのPBS内の50μgのポリ(I:C)(Amershamカタログ番号2
6−4732ロット番号IH0156)を腹腔内投与した。ポリ(I:C)チャレンジの
1及び4時間後に後眼窩より血液を採取した。全血より血清を調製してLuminexに
よりサイトカイン及びケモカインの濃度について分析した。
【0212】
結果
腹腔内投与されたポリ(I:C)は、TLR3ノックアウト動物においてケモカイン及
びサイトカイン群の産生が大幅に低減されたことによって示されるように、TLR3によ
って一部介在される全身性のサイトカイン及びケモカイン応答を誘導した(表9A)。T
LR3依存性のポリ(I:C)により誘導されたメディエーターは、ポリ(I:C)ポス
トチャレンジ1時間では、IL−6、KC、CCL2/MCP−1及びTNF−αであり
、ポリ(I:C)ポストチャレンジ4時間では、IL−1α、CCL5/RANTES及
びTNF−αであった。mAb c181及びmAb 5429は両方とも、これらのT
LR3依存性メディエーターのレベルを大幅に低下させ、これらの抗体がインビボでTL
R3シグナル伝達を低減させる能力が実証された(表9B)。表9の値は、6つの動物/
群の平均サイトカイン又はケモカイン濃度(±標準誤差)をpg/mLで示している。こ
れらのデータは、TLR3の拮抗作用が、サイトカインストーム又は致死的ショックなど
の状態における過剰なTLR3介在サイトカイン及びケモカインレベルを低減させるうえ
で有用となり得ることを示唆するものである。
【0213】
【表18】
【0214】
【表19】
【0215】
(実施例10)
TLR3抗体アンタゴニストは気道過敏症を軽減する。
モデル
気道過敏症をポリ(I:C)によって誘発させた。
【0216】
雌C57BL/6マウス(12週齢)又は雌TLR3ノックアウトマウス(C57BL
/6バックグラウンド、12週齢、Ace Animals,Inc.)をイソフルラン
で麻酔し、50μLの滅菌PBS中のポリ(I:C)を数回投与量(10〜100μg)
で鼻腔内投与した。各投与の間に24時間の休止時間を置いてポリ(I:C)(又はPB
S)を3回マウスに投与した。最後のポリ(I:C)(又はPBS)の投与の24時間後
に、全身プレチスモグラフィー(BUXCOシステム)を用いて肺機能及びメタコリンに
対する気道過敏症を測定した。マウスを全身プレチスモグラフチャンバに入れ、少なくと
も5分間順応させた。ベースラインの読み取りの後、増加する量の霧状化したメタコリン
(Sigma,St.Louis,MO)にマウスを暴露した。霧状化メタコリンを2分
間投与した後、5分間のデータ収集時間、その後、10分間の休止時間を置いた後、メタ
コリンの用量を増大させた後続のチャレンジを行った。空気流の抵抗の増加をエンハンス
トポーズ(Penh)として測定し、5分間の記録時間にわたった平均のPenh値とし
て表した(BUXCOシステム)。肺機能の測定の後、マウスを安楽死させ、肺にカニュ
ーレを挿管した。肺に1mLのPBSを注入し、流出液を回収することによって気管支肺
胞洗浄(BAL)を行った。肺組織を切除して凍結した。BAL液を遠心(1200rp
m、10分)し、細胞を含まない上澄み液を回収して、解析を行うまでの間−80℃で保
存した。細胞ペレットを200μLのPBSに再懸濁して全細胞計数及び分画別の細胞計
数を行った。製造者のプロトコル及びMultiplex Immunoassayキッ
ト(Millipore,Billercia,MA)に従って多重アッセイを行った。
【0217】
結果
過去の観察により、ポリ(I:C)の鼻腔内投与はマウスの肺機能にTLR3によって
媒介される障害を誘発し、全身プレチスモグラフィ(Buxco)におけるベースライン
のエンハンストポーズ(PenH)測定値が高くなり、霧状化されたメタコリン(気道過
敏症の指標)に対する応答性が高くなることが示されている(国際公開第06/0605
13(A2)号)。肺機能のこうした障害は、肺への好中球の動員、及び肺における炎症
性サイトカイン/ケモカインのレベルの上昇をともなった。この実験では、肺機能におけ
るポリ(I:C)により誘導された障害におけるmAb 1811及びmAb 5429
の作用を、ポリ(I:C)チャレンジに先立ってそれぞれの抗体を50mg/kgで皮下
投与することによって評価した。
【0218】
TLR3によって媒介される肺機能の障害は、ポリ(I:C)チャレンジに先立って動
物をTLR3抗体アンタゴニストで処置することによって大幅に軽減された。抗TLR3
抗体で処置された動物では、TLR3によって媒介される、ベースラインPenH及びメ
タコリンに対する気道の感受性の増大が防されした(
図11)。更に、抗TLR3抗体で
処置した動物では、TLR3によって媒介される、マウスの肺への好中球の動員及び気道
におけるケモカインの生成が低減した。好中球の数(
図12)及びCXCL10/IP−
10のレベル(
図13)は、回収した気管支肺胞洗浄液(BALF)から測定した。この
実験を少なくとも3回繰り返して同様の結果を得た。
図11、12、及び13に示される
データは、1つの代表的な実験からのものである。各記号は1匹のマウスからのデータポ
イントを表し、横棒線は群の平均を示す。この実験によって、使用したモデルにおいて全
身投与されたTLR3抗体アンタゴニストが肺に達し、TLR3によって媒介される肺機
能の障害、気道内への好中球の浸潤、ケモカインの生成及び気道の炎症を軽減したことが
示された。したがって、TLR3アンタゴニストは、喘息、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞
性肺疾患(COPD)、及び嚢胞性線維症などの、気道過敏症によって特徴付けられる呼
吸器疾患の治療又は予防に有用であり得る。
【0219】
(実施例11)
TLR3抗体アンタゴニストは炎症性腸疾患から防御する。
モデル
DSS大腸炎モデルを炎症性腸疾患のモデルとして用いた。
【0220】
雌C57BL/6マウス(8週齢未満)又は雌TLR3ノックアウトマウス(C57B
L/6バックグラウンド、8週齢未満で体重16.5g〜18g、Ace Animal
s,Inc)にγ線照射した餌を1日目から与えた。DSS(硫酸デキストラン)(MP
Biomedicals,Aurora,OH,カタログ番号:160110、35〜
50kDa、18〜20%硫黄,ロット番号8247J)を、オートクレーブにかけた酸
性化した飲料水中で5%の最終濃度まで希釈した。DSS水を5日間投与し、その後DS
S水をただの水に置き換えた。マウスには実験全体を通じて自由に水を飲ませた。すべて
の水ボトルの重量を毎日測定して水の消費量を記録した。0、2、及び4日目にマウスに
5mg/kg(0.1mL PBSに0.1mgを加えた)のmAb 5429、マウス
抗TNF−α抗体、又はコントロールとしてのPBSを腹腔内投与した。マウスを実験の
全体を通じて毎日監視し、0〜4日目及び7日目に体重を測定した。マウスを実験の2日
目及び7日目に安楽死させた。腹腔を開き、上行結腸を盲腸と接合する位置で切断した。
結腸を採取し、10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。結腸をパラフィンに埋め込み、
薄片にスライスし、H & E染色(Qualtek Molecular Labs,
Santa Barbara,CA)した。下記に述べるように獣医病理学者によって盲
検により結腸の組織病理学的評価を行った(PathoMetrix,San Jose
,CA)。
【0221】
組織病理学的評価
大腸、結腸、及び直腸の2つの切片を評価し、以下の変化についてスコア化した。すな
わち、(i)単一の細胞の壊死、(ii)上皮の潰瘍形成、(iii)上皮の脱落、(i
v)陰窩腫瘍、(v)細胞増殖、(vi)陰窩細胞増殖、(vii)粘膜固有層における
肉芽組織形成、(viii)粘膜下組織における肉芽組織、(ix)粘膜下炎症細胞の浸
潤物、好中球優勢、及び(x)粘膜下浮腫。
【0222】
重篤度の単一の全体的スコアを以下の基準に基づいて与えた。すなわち、
0−所見を認めず。
1−軽度、限局性、又は時折認められる。
2−軽度、多病巣である。
3−中度、頻繁だが限定された領域に認められる。
4−重度、提供された組織の多くの領域又は広範囲に頻繁に認められる。
5−極めて重度、提供された組織の大部分に拡がっている。
【0223】
結果
過去の観察によれば、TLR3ノックアウト動物は、DSSの摂取によって誘発された
炎症性腸疾患のモデルにおいて野生型マウスと比較して大幅に軽減された組織病理学的所
見を示すことが実証されており(国際公開第06/60513(A2)号)、このことは
TLR3シグナル伝達がこのモデルにおける病因に一定の役割を有することを示唆するも
のである。壊死細胞から放出された共生細菌RNAまたは哺乳類RNAがTLR3シグナ
ル伝達を刺激する内因性リガンドとして作用し得ることが報告されており(Kariko
et al.,Immunity 23165〜231175 2005、Karik
o et al.,J.Biol.Chem.279:12542〜12550 200
4)、したがって、腸内での内因性リガンドによるTLR3刺激は、DSS大腸炎モデル
において、炎症を強め持続化させるものである。
【0224】
化合物組織病理学スコア(
図14)によって評価されるように、DSSに曝露した動物
における疾患重篤度は、抗TLR3抗体による処置によって改善された。
図14は、疾患
重篤度スコアについて平均、標準偏差及び95%信頼区間を横棒線として示している。抗
TLR3抗体で処置した野生型のDSS曝露動物では、非処置の野生型動物と比較してス
コアの有意な低下が認められた(p<0.05)。DSSに曝露したTLR3ノックアウ
ト動物は、DSSによって誘発される変化から防御された。抗マウスTNF−αmAbを
投与したDSS曝露動物では、DSSモデルにおいて組織病理学的所見の改善は認められ
なかった。したがって、DSSモデルは、抗TNF−αによる治療に応答しないヒト患者
集団を対象とする治療法の評価において有用であり得、抗TLR3抗体を中和することは
、抗TNF−αによる治療に応答しない炎症性腸疾患の患者にとって利益となる可能性を
有すると考えられる。
【0225】
モデル
T細胞移植モデルを炎症性腸疾患のモデルとして用いた。このモデルでは、免疫応答能
のあるマウスから得た制御性T細胞を含まないナイーブT細胞(腸粘膜の抗原提示細胞を
攻撃する)の集団を移植することによって、SCIDマウスに腸の炎症を誘発した。
【0226】
ナイーブT細胞(CD4+CD45RB
high T細胞)をSCIDレシピエントに腹腔
内注射することによって慢性大腸炎を誘発した。マウスに、PBS(500μL/マウス
、腹腔内投与、溶媒コントロール)、mAb 5429(0.1mg/マウス、腹腔内投
与)、又は抗TNF−α抗体(0.05mg/マウス、腹腔内投与、ポジティブコントロ
ール)のいずれかを、T細胞の移植48時間後から開始して毎週2回、8週間の実験期間
全体を通じて投与した。T細胞の移植から8週間後(又はマウスが初期の体重の15%超
を失った時点)に、動物を安楽死させて結腸を取り出した。結腸を固定し、パラフィンに
埋め込んでH & E染色した。組織病理学的所見(細胞浸潤、陰窩腫瘍、上皮びらん、
杯細胞喪失、及び腸壁の肥厚)を盲検的に定量的に評価した。
【0227】
結果
コントロール動物と比較した場合の組織病理学的スコアの合計の有意な低下(p<0.
05)(
図15A)によって評価されるように、疾患重篤度は、T細胞移植を受けた動物
において抗TLR3抗体による処置に応じて改善された。スコアの合計には、陰窩腫瘍、
潰瘍形成、好中球流入、杯細胞喪失、異常陰窩、粘膜固有層の炎症、及び経壁併発(tran
smural involvement)を評価した。陰窩腫瘍、潰瘍形成、及び好中球流入では有意な低下
が認められた(いずれもp<0.05)(
図15B)。抗TNFα抗体を、最適な利益を
もたらすことが知られている用量でポジティブコントロールとして用いた。
【0228】
DSS及びT細胞移植モデルという2つの広く知られた炎症性腸疾患のモデルを用いた
実験により、全身投与されたTLR3抗体アンタゴニストは腸粘膜に達し、2つの異なる
病因機構によって誘発された消化管の炎症を軽減させることが実証された。したがって、
TLR3アンタゴニストは、抗TNFα不応性の症例及び消化管の他の免疫介在性の病態
を含む炎症性腸疾患の治療に有益であると考えられる。
【0229】
(実施例12)
TLR3抗体アンタゴニストはコラーゲン誘発関節炎から防御する。
モデル
コラーゲン誘発関節炎(CIA)モデルを関節リウマチのモデルとして用いた。
【0230】
雄B10RIIIマウス(6〜8週齢、Jackson Labs)を1群当たり15
匹(関節炎群)及び1群当たり4匹(コントロール群)の群に分けた。関節炎群をイソフ
ルランで麻酔し、II型コラーゲン(Elastin Products)、及び結核菌
(M. tuberculosis)(Difco)を添加したFreundの完全アジュバントを0及
び15日目に投与した。12日目にII型コラーゲン関節炎を発症したマウスを体重によ
り治療群にランダム化し、mAb 5429(25mg/kg)、ネガティブコントロー
ル抗体としてCVAM(マウスに周知の特異性を示さない組換えmAb)(5mg/kg
)、又は抗TNF−α抗体(5mg/kg、ポジティブコントロール)を、12、17、
及び22日目(d12、d17、2d2)に皮下投与(SC)した。更に、マウスのコン
トロール群に溶媒(PBS)又はデキサメタゾン(0.5mg/kg、Dex、基準化合
物)を12〜25日目まで毎日(QD)皮下投与(SC)した。動物を12〜26日まで
毎日観察した。前足及び後足を臨床スコアシステム(下記に示す)によって評価した。実
験26日目に動物を安楽死させ、組織病理学的所見を盲検的に評価した(下記にスコアシ
ステムを述べる)。有効性評価は、動物の体重及び臨床的関節炎スコアに基づいて行った
。すべての動物が実験終了時まで生存した。
【0231】
前足及び後足の臨床的スコア基準
0−正常
1−後足又は前足関節が冒されるか、わずかなびまん性紅斑及び腫脹。
2−後足又は前足関節が冒されるか、軽度のびまん性紅斑及び腫脹。
3−後足又は前足関節が冒されるか、中度のびまん性紅斑及び腫脹。
4−顕著なびまん性紅斑及び腫脹又は4本の指の関節が冒される。
5−足全体に重篤なびまん性紅斑及び重篤な腫脹、指を曲げられない。
【0232】
II型コラーゲン関節炎を有するマウス関節の組織病理学的スコアリング方法
II型コラーゲン関節炎の病変を有するマウスの足又は足関節をスコア化する場合、変
化の重篤度及び冒された個々の関節の数を考慮する。中手骨/中足骨/指又は足根骨/脛
足根骨の多数の関節の可能性のうち、1〜3個のみの足又は足関節の関節が冒されている
場合には、変化の重篤度に応じて下記のパラメータの1、2又は3の最大スコアが任意に
与えられる。2個よりも多い関節が関与している場合には、最も重く冒された/大多数の
関節に下記の基準を適用する。
【0233】
足スコアの臨床データは、1〜15日目についてAUCを使用して分析し、コントロー
ルからの阻害率(%)を計算した。
【0234】
炎症
0−正常
1−冒された関節の滑膜及び関節周囲組織への炎症細胞の最小の浸潤。
2−足の場合には冒された関節に限定された軽度の浸潤。
3−足の場合には冒された関節に限定された中度の浮腫をともなう中度の浸潤。
4−大部分の領域を侵す、顕著な浮腫をともなう顕著な浸潤。
5−重篤な浮腫をともなう重篤なびまん性浸潤。
【0235】
パンヌス
0−正常
1−軟骨及び肋軟骨下骨へのパンヌスの最小の浸潤。
2−冒された関節の硬組織の周辺帯の破壊をともなう中度の浸潤。
3−冒された関節の中度の硬組織破壊をともなう中度の浸潤。
4−大部分の関節で顕著な関節構造の破壊をともなう顕著な浸潤。
5−全体的又はほぼ全体的な関節構造の破壊をともなう重篤な浸潤がすべての関節を冒
す。
【0236】
軟骨の傷害
0−正常
1−冒された関節に明らかな軟骨細胞の損失もコラーゲン破壊も認めない、トルイジン
ブルー染色の最小〜軽度の損失。
2−トルイジンブルー染色が軽度に損傷を受けている。冒された関節に限局性の軽度(
表在性)の軟骨細胞の損失及び/又はコラーゲン破壊が認められる。
3−冒された関節に多病巣性の中度(深部又は中間層)の軟骨細胞の損失及び/又はコ
ラーゲン破壊を認める、トルイジンブルー染色の中度の損失。
4−大部分の関節に多病巣性の顕著な(深部〜深層)軟骨細胞の損失及び/又はコラー
ゲン破壊を認める、トルイジンブルー染色の顕著な喪失。
5−すべての関節に多病巣性の重度(深部〜タイドマーク)の軟骨細胞の損失及び/又
はコラーゲン破壊を認める、トルイジンブルー染色の重度の喪失。
【0237】
骨吸収
0−正常
1−小さい範囲の吸収が認める最小の程度。低倍率では容易に確認できず、冒された関
節に破骨細胞をほとんど認めない。
2−より多くの範囲の吸収を認める軽度。低倍率では容易に確認できず、冒された関節
により多くの破骨細胞を認める。
3−皮質の厚さ全体の欠損をともなわない髄様骨梁(medullary trabecular)及び皮質
骨の明らかな吸収を認める中度。一部の髄様骨梁が損傷し、病変が低倍率で明瞭に確認で
きる。冒された関節により多くの破骨細胞が認められる。
4−残存する皮質表面の断面の歪みをしばしばともなう、皮質骨の厚さ全体の欠損を認
める顕著な程度。髄様骨の顕著な損失、多数の破骨細胞が認められる。大部分の関節が冒
されている。
5−皮質骨の厚さ全体の欠損及びすべての関節の関節構造の破壊を認める重度。
【0238】
結果
デキサメタゾン(Dex)及び抗マウスTNF−α抗体をポジティブコントロールとし
て用い、PBSを溶媒コントロールとして用い、CVAMをネガティブコントロール抗体
として用いた。すべての処置は、実験の12日目の関節疾患が進行する間に開始した。溶
媒で処置した疾患コントロール動物では疾患発症率は実験22日目までに100%となっ
た。溶媒又はCVAM抗体で処置したネガティブコントロール群では臨床スコアは最も高
かった。Dex(d18〜d26についてp<0.05)、5mg/kgの抗TNF−α
抗体(d18〜26についてp<0.05)、又は25mg/kgのmAb 5429(
d18〜d23及びd25〜d26についてp<0.05)で処置した各群では有意に低
い臨床スコアが認められた(
図16)。曲線下面積(AUC)として表した臨床的関節炎
スコアは、25mg/kgのmAb 5429(低下率43%)、5mg/kgの抗TN
F−α抗体(52%)、又はDex(69%)による処置により、溶媒コントロールと比
較して有意に低下した。
図17は、各群についてAUCの平均及び標準偏差を示す。
【0239】
各処置の組織病理学的作用についても評価を行った。足の骨吸収は、25mg/kgの
mAb 5429(低下率47%)による処置によって溶媒コントロールと比較して有意
に低下した。5mg/kgの抗TNF−α抗体で処置したポジティブコントロールマウス
では、足の炎症(33%)、軟骨傷害(38%)、及び合計した足スコア(37%)は有
意に低下した。Dexによる処置によって、足の組織病理学的パラメータのすべてが有意
に低下した(合計スコアにおいて73%の低下率)。
【0240】
これらのデータは、TLR3抗体アンタゴニストが、CIAモデルにおいて臨床的及び
組織病理学的疾患症状を改善することを示すものであり、関節リウマチの治療におけるT
LR3アンタゴニストの使用を示唆するものである。
【0241】
(実施例14)
TLR3抗体アンタゴニストは急性致死性ウイルス感染から防御する。
モデル
インフルエンザAウイルスチャレンジモデルを急性致死性ウイルス感染のモデルとして
使用した。
【0242】
1、4、8及び12日目に雌C57BL/6マウス(12週齢)又は雌TLR3ノック
アウトマウス(C57BL/6バックグラウンド、12週齢、ACE Animals,
Inc.、1群当たり15匹のマウス)に20mg/kgのmAb 5429、又はPB
S単独を皮下投与した。0日目にイソフルランでマウスを麻酔し、インフルエンザA/P
R/8/34ウイルス(ATCC,Rockland,MD,ロット番号218171)
を25μLのPBSに加えたもの(10
5.55 CEID50に相当)を鼻腔内投与した。
動物を体重変化及び生存率について1日2回、14日間の期間にわたって観察した。臨床
的スコアリングシステムを用いて疾患の進行のレベル及びインフルエンザAウイルス治療
に対するわずかな改善を評価した。
【0243】
臨床スコア
0−正常。機敏で反応性があり、目に見える病気の兆候が認められない。
1−毛皮が逆立っている。歩行のわずかな低下が認められるか、又は認められない。
2−毛皮が逆立っている。歩行時に背中が曲がっている。歩行をいやがる。呼吸困難で
ある。
3−毛皮が逆立っている。呼吸困難である。運動失調。震えが生じている。
4−毛皮が逆立っている。そっと突いても歩行不可能。意識不明。触れると冷たく感じ
る。
5−死亡。
【0244】
結果
この実験では、生存率、毎日の臨床スコア、及び体重変化を評価した。mAb 542
9(20mg/kg)を投与したインフルエンザA感染野生型マウス及びmAb 542
9を投与しないインフルエンザA感染TLR3ノックアウトマウスのいずれも、インフル
エンザウイルスを接種したC57BL/6マウスと比較して生存率が統計的に有意に増大
した(それぞれp<0.001及びp<0.01)が、このことは、TLR3の阻害又は
欠損がインフルエンザによって誘発される死を予防し得ることを示すものである(
図18
)。臨床スコアは、20mg/kgのmAb 5429を投与した群、及びTLR3ノッ
クアウト群において有意に低下した(
図19)。マウスの体重をインフルエンザウイルス
投与後14日間にわたって観察した。インフルエンザAウイルスを投与したC57BL/
6マウスでは体重は安定的に減少した。しかしながら、20mg/kgのmAb 542
9を投与したC57BL/6マウス及びTLR3ノックアウトマウスのいずれも、インフ
ルエンザウイルスを接種した野生型C57BL/6マウスに対して有意に大きな体重を示
した(
図20)。これらの結果は、TLR3抗体アンタゴニストが急性致死性インフルエ
ンザウイルス感染モデルにおける臨床症状及び死亡率を低下させることを示すものであり
、TLR3アンタゴニストが急性の感染状態にあるヒトに防御を与えることを示唆するも
のである。
【0245】
(実施例15)
TLR3抗体アンタゴニストは高血糖を改善し、血漿インスリンを低下させる。
モデル
食餌誘発肥満(DIO)モデルを高血糖及びインスリン抵抗性、並びに肥満のモデルと
して用いた。
【0246】
C57BL/6野生型動物(約3週齢、Jackson Labs)及びTLR3ノッ
クアウト動物(C57BL/6バックグラウンド、約3週齢、Ace Animals,
Inc.)を高脂肪の食餌に12〜16週間維持した。TLR3ノックアウト及び野生型
C57BL/6マウスの両方に、通常の固形飼料又は60.9% kcalの脂肪及び2
0.8% kcalの炭水化物からなる高脂肪食餌(Purina TestDietカ
タログ番号58126)のいずれかを与えた。マウスは、水及び食餌を自由摂取させ、1
2時間/12時間の明暗サイクルに維持した。各群の各マウスの体重を毎週測定した。m
Ab 5429を第1週に週2回、その後は週1回全体で7週間腹腔内投与した。空腹時
に後眼窩から採取した血清試料を、示した時点でのインスリンの測定に用いた。7週目に
一晩絶食させた後、1.0mg/g(体重)のグルコースを腹腔内投与することによって
耐糖試験を行った。更に、空腹時のインスリン及びグルコースレベルを測定した。
【0247】
以下の式を用いて、空腹時グルコースレベル及びインスリンレベル(12)に基づきH
OMA−IRを式から求めた。すなわち、HOMA−IR=((空腹時グルコース(mm
ol/L)×空腹時インスリン(mU/L))/22.5(Wallace et al
.,Diabetes Care 27:1487〜1495,2004)。空腹時血中
グルコース(血糖値)(BG)をグルコースオキシダーゼアッセイによって求めた。空腹
時インスリンレベルをインスリンラット/マウスELISAキット(Crystal C
hem,cat.No.90060)を使用して求めた。
【0248】
結果
12〜16週間の高脂肪の食餌の後、野生型DIO動物は高血糖及び高インスリンとな
った。mAb 5429による処置により、野生型DIO動物では耐糖能が改善したがT
LR3ノックアウトDIO動物では改善が見られなかった。グルコースチャレンジの60
、90、120及び180分後に、mAb 5429で処置した動物においてコントロー
ル(PBSのみ)と比較して有意に低い血中グルコースレベルが観察された(
図21A)
。mAb 5429で処置した野生型DIO動物では、mAbを投与しない野生型DIO
マウスと比較してAUCの約21%の低下が観察された。mAb 5429で処置した野
生型DIO動物では空腹時インスリンレベルも低下した(
図22)。TLR3ノックアウ
トDIO動物では、mAb 5429による処置により空腹時インスリンに改善は認めら
れなかった。恒常性モデル評価(HOMA)分析は、mAb 5429で処置した野生型
DIO動物においてインスリン感受性の改善を示したが、TLR3ノックアウトDIO動
物では改善を示さなかった。HOMA−IR価は、野生型DIO、5mg/kgの野生型
DIO mAb 5429、及び20mg/kgの野生型DIO mAb 5429動物
に関して、それぞれ14.0±9.8、8.7±4.9、9.0±3.0であった。TL
R3ノックアウトDIO動物では何らの効果も認められなかった。
【0249】
この実験により、TLR3抗体アンタゴニストがDIOモデルにおいて体重の損失をと
もなわずにインスリン抵抗性を改善し、空腹時グルコースを低下させることが示されたが
、このことは、TLR3アンタゴニストが高血糖症、インスリン抵抗性、及びII型糖尿
病の治療に有用であり得ることを示唆するものである。
【0250】
(実施例16)
TLR3抗体アンタゴニストは細菌及びウイルス誘発炎症反応から防御する。
試薬
細菌性増悪のCOPD患者から単離された分類不能型ヘモフィラスインフルエンザ(N
THi)株35をDr.T.F.Murphy(Buffalo VA Medical
Center、Buffalo、NY)より入手した。ヒトライノウイルス16を、ア
メリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から、TCID(50)=2.8×10
7/m
Lのものを入手した。
【0251】
NTHi刺激アッセイ
NHBE細胞(Lonza,Wakersville,MD)をMicrotest
96ウェル組織培養プレート(BD Biosciences,Bedford,MA)
に1×10
5/ウェルで播いた。寒天プレート上で16〜20時間増殖させたNTHiを
増殖培地に約2×10
8cfu/mLで再懸濁し、100μg/mLのゲンタマイシンで
30分間処理し、約2×10
7/ウェルで、NHBEを含有する96ウェルプレートに加
えた。3時間後に上澄み液を除去し、抗体(0.08〜50μg/mLの最終濃度)を添
加又は非添加の新鮮な増殖培地に交換した。更に24時間インキュベートした後、細胞上
澄み液中のサイトカイン及びケモカインの存在を、Luminex 100IS多重蛍光
分析器及びリーダーシステム(Luminex Corporation,Austin
,TX)内でサイトカイン25重ABビーズキット、ヒト(IL−1β、IL−1RA、
IL−2、IL−2R、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−1
0、IL12p40p70、IL−13、IL−15、IL−17、TNF−α、IFN
−α、IFN−γ、GM−CSF、MIP−1α、MIP−1β、IP−10、MIG、
エオタキシン、RANTES及びMCP−1を含む)によって3重にアッセイした。
【0252】
ライノウイルス刺激アッセイ
NHBE細胞をMicrotest 96ウェル組織培養プレート(BD Biosc
iences,Bedford,MA)に1×10
5細胞/ウェルで播いた。翌日、抗体
(0.08〜50μg/mLの最終濃度)をNHBE又はBEAS−2B細胞に加えて1
時間インキュベートした後、10μL/ウェルのライノウイルスを加えた。更に24時間
インキュベーションした後、細胞上清中のサイトカイン及びケモカインの存在について上
記に述べたようにluminexアッセイによってアッセイを行った。
【0253】
結果
mAb 15EVQが、NTHiにより誘導されたIP−10/CXCL10及びRA
NTES/CCL5の産生を用量依存的に阻害したのに対して、コントロール抗体である
ヒトIgG4(Sigma,St.Louis,MO)はNTHiによる刺激に対して阻
害作用を示さなかった(
図23A)。mAb 15EVQは、ライノウイルスにより誘導
されたCXCL10/IP−10及びCCL5/RANTESの産生も阻害した(
図23
B)。
【0254】
(実施例17)
TLR3抗体アンタゴニストは星状細胞における炎症反応を抑制する。
方法
2人のドナーから得た正常なヒト星状細胞(Lonza,Walkersville,
MD)を24ウェルプレートに75,000細胞/ウェルで播き、一晩付着させた。翌日
、星状細胞を200ng/mLのポリ(I:C)及び/又は10μg/mLのmAb 1
8で24時間処理した。サイトカインをLuminexによって測定した。
【0255】
結果
表10に示すように、ポリ(I:C)により誘導されたIL−6、IL−8、IL−1
2、IFN−α、IFN−γ、CXCL9/MIG、CCL3/MIP−1a、CCL4
、CCL5/RANTES及びCXCL10/IP−10の産生はmAb18によって阻
害された。
【0256】
【表20】
【0257】
(実施例18)
TLR3抗体アンタゴニストは上皮細胞における炎症反応を抑制する。
方法
HUVEC細胞(Lonza,Walkersville,MD)をLonzaの推奨
する血清含有増殖培地中で培養した。細胞を無血清培地(Lonza,Walkersv
ille,MD)に再懸濁し、96ウェルプレートに3×10
5細胞/mLで播き、37
℃、5% CO2で24時間インキュベートした。ポリ(I:C)(GE Health
care,Piscataway,NJ)を増大する濃度(1.5〜100μg/mL)
で加え、37℃で更に24時間インキュベートした。サイトカイン阻害アッセイに関して
は、mAb 15EVQを様々な濃度(0〜50μmL)で細胞に加え、30分間インキ
ュベートし、その後、20μg/mLのポリ(I:C)を24時間加えた。細胞上澄み液
を回収し、ヒトサイトカイン30重キット及びLuminex MAP技術(Invit
rogen Corp.,Carslbad,CA)を用いてサイトカインレベルを測定
した。sICAM−1の発現を測定するため、HUVEC細胞を20μg/mLのポリ(
I:C)及び異なる濃度のmAb 15EVQ(0.8〜50μg/mL)で処理した。
細胞上清をELISA(R&D systems)によりsICAM−1の発現について
分析した。細胞の生存率をCellTiterGloキット(Promega,Madi
son,WI)により測定した。
【0258】
結果
HUVEC細胞は、ポリ(I:C)に応答して次のサイトカインを産生した:IL−1
RA、IL−2、IL−2R、IL−6、IL−7、CXCL8/IL−8、IL−12
(p40/p70)、IL−15、IL−17、TNF−α、IFN−α、IFN−γ、
GM−CSF、CCL3/MIP−1α、CCL4/MIP−1β、CXCL10/IP
−10、CCL5/RANTES、CCL2/MCP−1、VEGF、G−CSF、FG
F−basic、及びHGF(表11)。mAb 15EVQは、ポリ(I:C)により
誘導される全サイトカインのレベルを用量依存的に低下させた(表12)。ポリ(I:C
)により誘導されたTNF−α、CCL2/MCP−1、CCL5/RANTES、及び
CXCL10/IP−10の産生を低下させるmAb 15EVQの能力は、TLR3に
より媒介される活性の阻害が、アテローム性動脈硬化症につながり得る白血球及びT細胞
の浸潤に対する防御を与え得ることを示唆するものである。更に、mAb 15EVQに
よるVEGFの阻害は、各種の癌及び加齢性黄斑変性などの眼疾患における脈管形成を含
む、VEGFによって媒介される病態におけるTLR3の遮断の潜在的な効果を示唆する
ものである。
【0259】
TNF−α及びIFN−γは白血球の動員において機能し、かつ活性化された内皮上の
接着分子の発現を増大させる(Doukas et al.,Am.J.Pathol.
145:137〜47,1994、Pober et al.,Am.J.Pathol
.133:426〜33、1988)。CCL2/MCP−1、CCL5/RANTES
及びCXCL10/IP−10は、単球及びT細胞の動員に関与していることが示されて
おり、アテローム性動脈硬化症の発症に寄与する(Lundgerg et al.,C
lin.Immunol.2009)。内皮細胞によるVEGFの生成は、各種の癌にお
いて脈管形成時の異常な組織増殖又は腫瘍との関連が示されている(Livengood
et al.,Cell.Immunol.249:55〜62,2007)。
【0260】
【表21】
【0261】
可溶性細胞間接着分子1(sICAM−1)はタンパク質切断によって生成し、内皮細
胞活性化のマーカーである。ICAM−1は白血球の遊走及び活性化において重要な役割
を有し、炎症時に内皮細胞及び上皮細胞において発現が上昇して、インテグリン分子LF
A−1及びMac−1を介した白血球への接着を媒介する。ポリ(I:C)は、
内皮細胞を活性化してsICAM−1の発現を上昇させたが、この発現上昇はmAb
15EVQによる処理によって低減した(
図24A)。
【0262】
【表22】
【0263】
このことは、TLR3抗体アンタゴニストが白血球のトラフィッキング、したがって炎
症細胞の流入によって引き起こされる組織障害を阻害し得ることを示すものである。
【0264】
生存率アッセイを行うため、上記で述べたようにHUVECを培養、播種し、ポリ(I
:C)で刺激した。mAb 15EVQはポリ(I:C)により誘導されたHUVEC細
胞の生存率の低下を用量依存的に回復させた(
図24B)。
【0265】
内皮細胞の活性化の下方調節は、過剰な免疫細胞の浸潤を抑制し、炎症状態において増
加するサイトカインによって引き起こされる組織障害を低減させ得る。炎症及び内皮細胞
におけるサイトカイン及び接着分子の過剰発現は、アテローム性動脈硬化症及び高血圧の
発症の主要な寄与因子である。これらのデータは、脈管炎及び内皮機能不全をともなう血
管疾患などの血管の疾患におけるTLR3アンタゴニストの使用の潜在的な有用性を探求
することの根拠を与えるものである。炎症及び過剰発現したサイトカインによって引き起
こされる別の疾患として、免疫抑制患者及びHIV感染患者において一般的に見られ、カ
ポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)によって引き起こされるカポジ肉腫(KS)があ
る。VEGF及びサイトカインの産生はKS細胞の生存に寄与する(Livengood
et al.,Cell Immunol.249:55〜62,2007)。TLR
3アンタゴニストは、KS及び他の腫瘍にともなう血管新生のリスクを低減するうえで有
用であるばかりでなく、細胞生存率の低下を防止し、内皮バリアの完全性を保護すること
によって、臓器不全及び敗血症などの重篤な炎症状態にともなう潜在的に重大な状態であ
る血管漏出を防止するうえでも有用であり得る。TLR3拮抗作用はまた、フラビウイル
ス科(例えば、デング、黄熱病)、フィロウイルス科(エボラ、マールブルグ)、ブニヤ
ウイルス科(例えば、ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルス)、及びアレナ
ウイルス科(例えば、ルヨ、ラッサ、アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ出血熱)によ
って引き起こされるウイルス性出血熱などの内皮細胞の病理に関与するウイルス感染症に
おいて有益であり得る(Sihibamiya et al.,Blood 113:7
14〜722,2009)。
【0266】
(実施例20)
TLR3抗体アンタゴニストのカニクイザル及びマウスTLR3との交叉反応性
実施例2で述べたようにISREレポーター遺伝子アッセイを用いて、カニクイザル又
はマウスTLR3に対する活性を評価した。上述のように、カニクイザル(配列番号21
7)及びマウスのTLR3 cDNA(配列番号161)を全血から増幅し、pCEP4
ベクター(Clontech)にクローニングし、発現させた。mAb 15EVQは、
ヒトTLR3 NF−kBアッセイ及びISREアッセイにおけるそれぞれ0.44μg
/mL及び0.65μg/mLのIC50と比較して、カニクイザルNF−κBアッセイ
及びISREアッセイにおいてそれぞれ4.18μg/mL及び1.74μg/mLのI
C50を有していた。アイソタイプコントロール抗体はこれらのアッセイでは何らの作用
も示さなかった。
【0267】
(実施例21)
TLR3抗体アンタゴニストの治療用投与は、急性の致命的なウイルス感染症を防御す
る
実施例14は、インフルエンザA感染症に対するTLR3抗体アンタゴニストによる予
防的な治療(1、4、8、及び12日目に投与)について述べている。この実施例は、T
LR3抗体アンタゴニストの治療用投与(インフルエンザA感染後臨床症状の発症3日後
)が生存率の向上において効果的であるということを実証している。
【0268】
モデル
動物へのmAb 5249の投与をインフルエンザAの感染後3日後に行ったこと、及
び投与した動物が8週齢であったことを除いて、インフルエンザAウイルスチャレンジモ
デルを、実施例14に述べたように急性の致命的なウイルス感染症のモデルとして使用し
た。抗マウスIgG1アイソタイプコントロールmAbはBioLegendからのもの
であった。インフルエンザAの感染後3、7及び11日に動物に投与した。
【0269】
この実験では、生存率、毎日の臨床スコア、及び体重変化を評価した。mAb 524
9を投与したC57Bl/6マウス及びTLR3ノックアウトマウスは、抗マウスIgG
1アイソタイプコントロールmAb及びインフルエンザウイルスを接種したC57BL/
6マウスと比べて、両方とも統計的に有意な生存率の増加(それぞれp<0.028及び
p<0.001)を示した(
図25)。抗マウスIgG1アイソタイプコントロールmA
b及びインフルエンザAを投与したC57BL/6マウスと比較した場合、mAb 52
49を投与したC57BL/6マウス及びTLR3ノックアウト動物において臨床的なス
コアは低下し(
図26)、体重は増加した(
図27)。これらの結果は、TLR3抗体ア
ンタゴニストが急性致死性インフルエンザウイルス感染モデルにおける臨床症状及び死亡
率を低下させることを示すものであり、TLR3アンタゴニストが急性の感染状態にある
ヒトに防御を与えることを示唆するものである。
【0270】
(実施例22)
X線結晶法によるTLR3抗体アンタゴニストのエピトープ及びパラトープ
ヒトTLR3細胞外ドメインを、mAb 15EVQ、mAb 12QVQ/QSV及
びmAb c1068のFabsと複合体の状態で結晶化させた。
【0271】
方法
タンパク質の発現及び精製
TLR3 ECD(配列番号2のアミノ酸1〜703)の3つのFabの発現及び精製
は上述の通りであった。
【0272】
TLR3 ECDの3つのFabの四次複合体の作製
1TLR3 ECD:1.1Fabのモル比に対応させて、4mgのヒトTLR3 E
CDを2.4mgのそれぞれのFabと混合し、4℃で3.5時間インキュベートした。
複合体をアニオン交換クロマトグラフ法により20mMのTris(pH8.5)、10
%のグリセロール(緩衝液A)で平衡化したMonoQ5/50GLカラム(GE He
althcare,Piscataway,NJ)で精製し、20mMのTris(pH
8.5)、10%のグリセロール、1MのNaCl(緩衝液B)により溶離した。1.
74mL中のほぼ2.48mgの複合体を緩衝液Aにより10mLまで希釈し、カラム上
に1mL/minで充填し、B濃度の0〜40%の直線的な勾配により40カラム容積に
わたって溶離した。5回の連続的な精製操作を行った。ピーク1由来の区分をプールし、
Amicon−15mLのUltra−30000MWCO及びMicrocon 30
000MWCOにより20mMのTris(pH 8.5)/27mMのNaCl/10
%グリセロール中に、14.49mg/mLまで濃縮した(吸光係数:A
280(1mg/
mL)=1.31)。
【0273】
結晶化
Corningプレート3550(Corning Inc.,Acton,MA)を
用いて等容量のタンパク質及びリザーバ溶液を、シッティングドロップ法で分注するOr
yx4自動タンパク質結晶化ロボット(Douglas Instruments)を用
いて、自動化結晶化スクリーニングを行った。初期のスクリーニングは、Hampton
Crystal Screen HT(HR2−130,Hampton Resea
rch,Aliso Viejo,CA)により実施した。幾つかの条件から、小さい結
晶を使用してシードを生成し、次いでこれをMicroseed−Matrix Scr
eening(MMS)で使用した。小さい結晶を与える初期のスクリーニング条件に基
づき、何回かの精密化を行った。MMSに使用するリザーバ条件は、精密化後に小さい結
晶を与えた条件に基づくもので、18〜28%のポリエチレングリコール(PEG)33
50、1MのLiCl、pH 4.5及び2.0〜2.9Mの(NH
4)
2SO
4、5%の
PEG400、pH 4.5、並びに探索したpH及び異なる添加物、であった。成分を
1タンパク質溶液:0.25シード原料:0.75リザーバ溶液の容量比で分注すること
により、Oryx4自動タンパク質結晶化ロボット(Douglas Instrume
nts)を用いて、MMS結晶化スクリーニングを行った。約10Åの分解能で回折する
結晶は、0.1Mの酢酸Na(pH 4.5)、2.9Mの(NH
4)
2SO
4、5%メチ
ル−ペンタン−ジオール(MPD)及び0.1Mの酢酸Na(pH 4.5)、26%の
PEG 3350、1MのLiClから成長させたものであった。
【0274】
結晶の分解能を改善するための試みとして、上記の条件を有するMMSを、Hampt
on Additive Screen HR2−428(Hampton Resea
rch,Aliso Viejo,CA)から選択された成分を容積比:1タンパク質溶
液:0.125シード原料:0.2添加物溶液:0.675リザーバ溶液で用いる、添加
物スクリーニングと組み合わせた。MMSと、0.1Mの酢酸Na(pH 4.5)、2
8%のPEG 3350、1MのLiCl、及び30mMのGly−Gly−Glyを含
有する溶液からの添加物スクリーニングとの組み合わせを適用した後、Fabと複合体形
成し、約5Åの分解能で回折する、TLR3 ECDのX線品質の結晶を得た。
【0275】
TLR3 ECD四次複合体のX線データ収集
X線データを収集するために、結晶(サイズ約1.0×0.5×0.1mm
3)を、合
成母液(0.1Mの酢酸Na(pH 4.5)、28%のPEG 3350、1MのLi
Cl、16%のグリセロール)中に数秒浸漬し、窒素流中100Kで瞬間凍結した。Os
mic(商標)VariMax(商標)共焦光学系、Saturn 944 CCD検出
器、及びX−stream(商標)2000低温冷却システムを備えたRigaku M
icroMax(商標)−007HF微小焦点X線発生装置(Rigaku,Woodl
ands,TX)を使用して、X線回折データを収集し、処理した。回折強度を、1/2
度の像当たり1minの露出時間、5Åの最大分解能で250°(結晶回転)にわたって
検出した。X線データを、プログラムD
*TREK(Pflugrath,Acta C
rystallographica Section D,55:1718〜1725,
1999)により処理した。この結晶は、単位セルパラメータ:a=214.90Å、b
=142.08Å、c=125.04Å、及びβ=103.17の単斜晶系空間群C2に
属する。この非対称ユニットには1分子の複合体を含む。X線データ統計値を表13に示
す。
【0276】
【表23】
【0277】
構造決定
TLR3 ECD−Fab 15EVQ−Fab 12QVQ/QSV−Fab c1
068の結晶構造を、Phaser(Read,Acta Crystallogr.D
.Biol.Crystallogr.57:1373〜1382,2001)を用いて
分子置換により決定した。探索モデルはTLR3 ECD(すべてのグルカンを取り除い
たProtein DataBank(PDB)構造番号1ziw,Choe et a
l.,Science 309:581〜585,2005)であり、3つのFabの高
分解能結晶構造を決定した(これらのFab構造に対する結晶データ及び精密化統計値の
要約としては表13を参照のこと)。Fab 12QVQ/QSVのエルボー角度は、遊
離形態におけるものから著しくはずれていることが判明した。エルボー角度を約5°間隔
で調整することにより、一連のFab 12QVQ/QSVモデルを生成し、その1つが
電子密度とよく一致することが判明した。構造精密化は、PHENIXで実施した(Ad
ams et al.,J.Synchrotron Radiat.11:53〜55
,2004)。TLR3 ECDに対して構造を、Fab及び13個の剛体セグメント(
精密化で使用される定義:30〜60、61〜108、109〜156、157〜206
、207〜257、258〜307、308〜363、364〜415、416〜464
、465〜514、515〜570、571〜618、619〜687)に対する剛体ド
メイン(各V又はCドメイン)として、それぞれのFab剛体に対する1つのB因子及び
TLR3 ECD全体に対する単一のB因子によって精密化した。
【0278】
Fab剛体のそれぞれに対してトランスレーション/ライブレーション/スクリューを
伴う精密化を導入し、配列番号2の残基330において、TLR3 ECDを2つのTL
Sセグメントに分割した。グリカン密度は15個のN−グリコシル化部位の10個に対し
て目視可能であった。次いで、ヒトTLR3細胞外ドメイン(Choe et al.,
Science 309:581〜585,2005,PDB構造番号:1ziw)の結
晶構造からの炭水化物モデルを付加した。TLR3 ECD中の短い見えないセグメント
(配列番号2の残基337〜342)に対する密度が剛体の精密化後に目視可能となり、
それは、TLR3細胞外構造2a0zからの対応するセグメントで充填された(Bell
et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)102:1097
6〜10980,2005,PDB構造番号:2a0z)。TLR3 ECDのC末端は
、2a0zの密度に一致する更なる密度を含んでいた。次いで、このセグメント(配列番
号2の647〜703)を2a0wの(残基647〜687)により置き換えた。このよ
うに、TLR3 ECDモデルは、TLR3構造体1ziwと2a0zとの間のハイブリ
ッドであり、13個の剛体セグメント(アミノ酸範囲:30〜60、61〜108、10
9〜156、157〜206、207〜257、258〜307、308〜363、36
4〜415、416〜464、465〜514、515〜570、571〜618、61
9〜687)として精密化されたものであった。
【0279】
Fab 12QVQ/QSVのLCDR3は、遊離形態と異なる立体配置を見掛け上と
っていた。マルチスタートシミュレーションアニーリングをPHENIXの標準的なパラ
メータにより行った。このLCDR3のモデルを電子密度マップで目視的に検査し、「最
もよく合う」立体配置を元のモデル上に接合した。精密化のプロセスを、計算開始の前に
確保された反射の5%に対してR
freeによりモニターした。最終回では、それぞれの残基
に対して1つのB因子を含めた。モデル検査、並びにFab及びタンパク質−タンパク質
界面における側鎖のエルボー領域の手動による再組立てを、COOT(Emsley e
t al.,Acta Crystallogr.D.Biol.Crystallog
r.60:2126〜32,2004)を用いて行った。最終のR
cryst及びR
freeは、
5.0Åに対する全15,792個の独立の反射について、それぞれ26.8%及び30
.0%であった。精密化統計値を表13及び14に示す。
【0280】
結果
TLR3 ECD−3つのFab四次複合体の分子構造
複合体の全体的な分子構造を
図28に示す。非対称単位中に1つのTLR3 ECD及
びそれぞれのFabの1分子が存在する。TLR3 ECDに対する構造モデルは、hu
TLR3(配列番号2)の30〜687個のすべての残基を含む。3つのFabに対して
は、それぞれの非結合形からのすべての残基を、溶媒イオン及び水分子を除いて含めた。
TLR3 ECD分子は、全体のトポロジー(1ziwに対して0.79Åのrms、6
13Cα’、及び2a0zに対して1.37Å、595Cα’)において以前に報告され
た構造と極めて類似している。このFab構造は、方法に記載のFab 12QVQ/Q
SVのLCDR3、並びにTLR3 ECD/Fab界面におけるエルボー領域及び一部
の側鎖を除いて、それぞれの非結合形とすべて同一である。
【0281】
【表24】
【0282】
エピトープ及びパラトープ
TLR3 ECDと3つのFabとの間の結合に関与する残基を、
図28Bに示す。F
ab 12QVQ/QSVは、TLR3 ECDのN末端近くで結合した。立体配置エピ
トープは、TLR3LRR3〜7からの残基(配列番号2のアミノ酸100〜221)か
ら構成されるものであった。Fab 12QVQ/QSVの結合は、抗原及び抗体上でそ
れぞれほぼ928Å
2及び896Å
2を埋め込んだ。Fab 12QVQ/QSVに対して
は、結晶構造は、次のTLR3(配列番号2)エピトープ残基:S115、D116、K
117、A120、K139、N140、N141、V144、K145、T166、Q
167、V168、S188、E189、D192、A195、及びA219を同定した
。Fab 12QVQ/QSVに対しては、結晶構造は、次のパラトープ残基:軽鎖(配
列番号211):G28、S29、Y30、Y31、E49、D50、Y90、D91及
びD92、重鎖(配列番号214):N32、Q54、R56、S57、K58、Y60
、Y104、P105、F106及びY107を同定した。
【0283】
Fab 15EVQ及びFab c1068は、C末端近くのLRR 15〜23(配
列番号2のアミノ酸406〜635)に懸る、非折りたたみ型エピトープを結合していた
。(
図28)。Fab 15EVQは、抗原及び抗体上でそれぞれ1080Å
2及び10
64Å
2を埋め込み、Fab c1068は、抗原及び抗体上でそれぞれ963Å
2及び9
14Å
2を埋め込んだ。Fab 15EVQに対するエピトープは、配列番号2で示され
るTLR3の残基K416、K418、L440、N441、E442、Y465、N4
66、K467、Y468、R488、R489、A491、K493、N515、N5
16、N517、H539、N541、S571、L595及びK619を覆う。Fab
15EVQに対しては、結晶構造は、次のパラトープ残基:軽鎖(配列番号41):Q
27、Y32、N92、T93、L94及びS95、重鎖(配列番号216):W33、
F50、D52、D55、Y57、N59、P62、E99、Y101、Y104及びD
106を同定した。
【0284】
Fab c1068に対しては、結晶構造は、TLR3(配列番号2)上の次のエピト
ープ残基:E446、T448、Q450、R453、R473、N474、A477、
L478、P480、S498、P499、Q503、P504、R507、D523、
D524、E527、E530、及びK559を同定した。Fab c1068に対して
は、結晶構造は、次のパラトープ残基、軽鎖:H30、N31、Y32、N50、E66
、S67、G68(glyc)、重鎖:T30、T31、Y32、W33、H35、E5
0、N52、N54、N55、R57、N59、V99、M102、I103、及びT1
04を同定した。
【0285】
中和の機構及びTLR3機能との関連
mAb 15EVQ:mAb 15EVQエピトープは、TLR3残基N517、H5
39及びN541を含有し、これらはC末端二本鎖RNA結合部位と重複する(Bell
et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:8792〜
7、2006)。いかなる特定の理論からも束縛されることを望むものではないが、この
ように、mAb 15EVQは、リガンドに対して結合するTLR3に対して競合し、シ
グナル伝達単位の形成に必要とされる、リガンドにより誘起される受容体二量体化を防止
すると考えられる。(Liu et al.,Science 320:379〜81,
2008)。
図29は、mAb 15EVQに対するこの直接の競合機構を図示する。抗
体濃度に依存して、この機構は、ポリ(I:C)の全阻害又は二本鎖RNAにより誘起さ
れるTLR3活性化を生じる。
【0286】
mAb 12QVQ/QSV及びmAb c1068:
図30に示すように、これらの
2つの抗体は二本鎖RNAリガンドとの直接的な衝突を持たない。したがって、これらが
TLR3機能をmAb 15EVQのそれに類似の機構で中和することはありえない。F
abフラグメントもリガンドから離れて配向する(
図30)。構造的に、mAb 12Q
VQ/QSV及びFab c1068は、両方とも機能を損なわずにシグナル伝達単位(
SU)に結合することができる。立体的に、mAb分子の2つのFabフラグメントが、
2つのTLR3分子を1つのSU中で同時に結合し、ひいては二本鎖RNA介在型TLR
3二量体化を防止し得るということはありえない。いかなる特定の理論からも束縛される
ことを望むものではないが、TLR3へのmAb 12QVQ/QSV又はmAb c1
068の結合が、抗体と隣接するシグナル伝達単位との間の立体的な衝突により、シグナ
ル伝達単位のクラスター形成を防止すると考えられる。二本鎖RNAへのTLR3の結合
は、二本鎖RNA:TLR3複合体により定義されるシグナル伝達単位に限定されない(
Liu et al.,Science 320:379〜81,2008)。多数のS
Uのクラスター形成がシグナル伝達の増強を生じ得、又は効率的なTLR3シグナル伝達
がこのクラスター形成を必要とし得る。mAb 12QVQ/QSV及びmAb c10
68の位置決めにより、クラスター形成をブロックさせ、TLR3活性の中和をもたらし
得る。それゆえ、抗体の最大中和効果は、抗体結合によるSUの分離の度合いに依存する
。
図30に図示するように、mAb 12QVQ/QSVは、mAb c1068よりも
大きい分離を引き起こし、このことがmAb 12QVQ/QSVのより大きい効能に転
換する可能性がある。このことは、mAb c1068及びmAb 15EVQが、飽和
濃度においてそれぞれ約50%及び100%のTLR3中和を生じることができ、mAb
12QVQ/QSVが中間の活性を呈するという観察と一致する。このように、複合構
造及びTLR3中和に関する研究は、二本鎖RNA:TLR3シグナル伝達ユニットがク
ラスター化して効率的なシグナル伝達を達成するTLR3シグナル伝達モデルを示唆する
。mAb 12QVQ/QSV及びmAb c1068はまた、リガンド結合又は受容体
の二量化を妨げずにTLR3シグナル伝達をある程度調節することができる抗体の部類を
定義する。
【0287】
(実施例23)
TLR3が欠如すると、脂質のプロファイル及び肝臓脂肪症が改善される。
モデル
TLR3
-/-マウスは、Dr.Richard A.Flavell(Yale Un
iversity)から入手され、以前に記載された(Shulman,J.Clin.
Invest.106:171〜6,2000)。TLR3
-/-及び野生型(WT)のコ
ントロールマウス(C57BL/6)の両方に、普通の餌、又は60.9% kcalの
脂肪及び20.8% kcalの炭水化物からなる高脂肪食(HFD)(Purina
TestDiet #58126)のいずれかを与えた。マウスは、水及び食餌を自由摂
取させ、12時間/12時間の明暗サイクルに維持した。各マウスの体重は毎週測定され
、データは、平均値±SDで示された。RNA単離及び組織学的分析のために、肝臓のサ
ンプルを採った。
【0288】
臨床化学計器(Alfa Wassermann Diagnostic Techn
ologies,West Caldwell,NJ)を使って、総コレステロール(T
C)、HDL、LDL、及びトリグリセリド(TG)の血漿レベルを測定した。NEFA
キット(Wako Chemicals,Richmond,VA)を使って、遊離脂肪
酸(FFA)レベルを測定した。製造者の推奨に従って、サンプルの調製及びアッセイを
行った。
【0289】
TaqMan逆転写試薬キット(Life Technologies、Carlsb
ad、CA)を使って製造者のプロトコルに従い、総肝臓RNAをランダムへキサマーで
逆転写した。TaqManプローブ及びプライマーは、Life Technologi
es、Carlsbad、CAから購入された。脂質及びグルコース代謝並びに炎症に関
与した合計35の遺伝子が、遺伝子発現分析のために試験された。遺伝子発現の相対定量
は、2−DeltaDeltaCt計算を用いて行われた(Arocho et al.
,Diagn.Mol.Pathol.15:56〜61、2006)。
【0290】
組織学のために、肝臓を単離し、湿重量を測定した。肝臓サンプルを10%の中性緩衝
ホルマリン中に固定し、所定のパラフィン切片のために処理し、HE染色した。組織学的
評価により、肝臓脂肪症のレベルを測定した。Mann−Whitney試験を用いて、
統計的分析を行った。
【0291】
結果
HFDを与えられた動物は、26週間のHFD後、高インスリン血症及び高血糖性であ
った(14週間のデータ地点に関して実施例15を参照)。脂質プロファイルは33週間
で検査された。通常食のTLR3
-/-マウスは、WTコントロールと比較して、血漿TG
は著しく下がったが、TC、HDL、LDL、(表15)及びFFAのレベルは、類似し
ていた。33週間のHFDでは、WTコントロール動物の血漿TC、HDL、及びLDL
レベルは上がったが、TLR3
-/-マウスはある程度保護された(表15)。肝臓の重量
(対応する体重に正規化された)は、HFDを与えられたWT動物のものと比較して、H
FDを与えられたTLR3
-/-マウスでは約16%、p<0.05減少した。組織学的分
析は、WT動物と比較したときに、HFDを与えられたTLR3
-/-動物の脂質蓄積も肝
実質において著しく減少したことを示した。
【0292】
脂質及びコレステロール代謝に関与する鍵となる遺伝子、LXRα及びPPARδの肝
臓発現は、WT動物と比較すると、HFDを与えられたTLR3
-/-マウスでは上方調節
され(それぞれ30%、p<0.05及び186%、p<0.001)、これは、TLR
3が欠乏したマウスにおける低脂質レベルと一致していた。LXRα標的遺伝子であるA
BCA1及びSREBP1も、これらの動物において上方調節された(それぞれ71%、
p<0.01及び131%、p<0.001)。TLRシグナル伝達とLXRとの間のク
ロストークが報告されている(Castrillo et al.,Mol.Cell.
4:805〜15、2003)。コレステロール輸送体であるABCA1の上方調節は、
HFDを与えられたTLR3
-/-マウスにおいてコレステロール輸送が改善されたことを
示唆する。
【0293】
【表25】
【0294】
この実施例で報告された研究により、野生型動物と比較すると、肥満症のTLR3が欠
乏した動物の脂質及びコレステロールレベルが改善されたことが立証され、抗TLR3シ
グナル伝達が心臓血管疾患及び代謝性疾患の処置のための有効な治療手段であることが示
される。
【0295】
(実施例24)
TLR3抗体の結合親和性
表面プラズモン共鳴分析
SPR実験は、Biacore 3000光学バイオセンサ(GE Healthca
re Bio−science)を使用して25℃で行われた。全ての試料をフィルタ滅
菌し、脱気されたBiacoreランニング緩衝液(BRB)中で調製した(0.005
%のポリソルベート20を有するダルベッコPBS(pH 7.4))。mAb 15E
QVの3つの異なる調整物をこの実験に使用した。
【0296】
CM5センサチップを50mMのNaOH、100mMのHCl、及び0.1%のドデ
シル硫酸ナトリウム(SDS)で前処理し、前処理と前処理との間に脱イオン水を注入し
た。まず、マウス抗His抗体(カタログ番号MAB050,R&D systems)
のおよそ6000応答単位(RU)を、メーカの説明書を使用して、アミン結合を介して
、センサチップ上に、そのカルボキシルメチル化デキストラン表面へ共有結合的に固定し
た。その後、HisタグヒトTLR3 ECDを捕捉(約126 RU)し、Willa
rd及び共同研究者によって使用されたものと同様の手順[Wiilard and S
iderovski,Anal Biocjhem,147〜149,2006]に従っ
て、同様にpH 7.5でアミン結合した。
【0297】
結合実験は、BRBの3倍希釈液において、0.4nM〜33nM(0.4、1.22
、3.67、11、33nM)の範囲の濃度で、mAb 15EVQの注入により行われ
た。会合相を3分間監視し、解離相を15分間監視した。表面は、50mMのリン酸の2
つの3秒パルス(100μL/minで5μL)によって、各サイクルの終了時に再生さ
れた。ヒトTLR3 ECDの無いフローセルを参照として使用した。
【0298】
Scrubberソフトウエア、バージョン1.1g(BioLogic Softw
are)を使用してデータを処理した。データの二重参照減算(double reference subtr
action)を実施して、シグナル及び機器ノイズに対する緩衝剤の寄与を補正した(Mys
zka,J.Mol.Recognit.12:279〜284,1999)。データの
動力学的分析は、Biaevaluation 4.0.1ソフトウエア(GE Hea
lthcare Bio−sciences)を用いて、データにグローバルにフィッテ
イングする単純なラングミュア1:1結合モデルを使用して実施した。まず、会合速度と
独立して解離速度(k
off)をフィッテイングさせた。その後、オフ速度を定数として使
用し、会合相をフィッテイングさせ会合速度(k
on)を導出した。
【0299】
表16は、mAb 15EVQの3つの個別の調製物の動力学的パラメータ及び親和性
を示す。親和性は、タンパク質調製物間の9pM(9×10
-12M)〜14pM(1.4
×10
-11M)の範囲にわたり、統計的有意差は無かった。親和性は、実験誤差(標準偏
差)内の5pM(5×10
-12M)〜17pM(1.7×10
-11M)の範囲にわたった。
【0300】
【表26】