【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、(再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発))「同種歯根膜幹細胞シートの安全性・有効性評価指標の確立と歯周組織の再建」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
【解決手段】本発明は、シート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器であって、本体下部底部及び本体下部側部により、前記シート状生体組織及び保存液を収容する収容空間が形成された本体下部と、前記本体下部側部の上部に載置されて前記収容空間を封止し、少なくとも1つのエアホールを有する本体上部と、前記エアホールを封止し、ガス透過性の封止部材と、を含み、ここで、前記本体下部底部の少なくとも一部に下部凸部を備え、ここで、前記本体上部の本体上部内面の少なくとも一部に上部凸部を備え、前記本体下部と前記本体上部とが組み合わせられた場合、前記下部凸部と前記上部凸部との間隙が、前記シート状生体組織を前記収容空間内の所定の空間に保持することができる、容器を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のシート状生体組織を輸送する容器は、その使用に際して、培養組織の代謝を妨げて生物学的活性を損なうこと、物理的な振動によりシート状生体組織が破損すること、運搬中の振動によって保存液が液漏れすること、航空輸送中に低い気圧にさらされることによって、保存液が発泡すること等の課題を有していた。例えば、特許文献4及び5に開示される容器は、培養組織を支持部材で挟んで保持する方式なので、細胞の代謝を妨げ、長時間の保存輸送に培養組織が耐えられない。特許文献6に開示される容器は、必ずしも、支持部材で包む構成にしていないが、やはり、トレイとリッド間の狭い空間に培養組織を封止するため、代謝が妨げられ、長時間の保存輸送に培養組織が耐えられないという問題点がある。特に、培養組織が代謝に伴って発生する二酸化炭素などのガスを除去できず、また、代謝に必要な酸素などのガスを供給できないために、代謝が妨げられる。
本発明は、このような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するものである。すなわち、本発明は、例えば、以下の構成・特徴を有するものである。
【0008】
[1] シート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器であって、
本体下部底部及び本体下部側部により、前記シート状生体組織及び保存液を収容する収容空間が形成された本体下部と、
前記本体下部側部の上部に載置されて前記収容空間を封止し、少なくとも1つのエアホールを有する本体上部と、
前記エアホールを封止する、ガス透過性の封止部材と、
を含み、
ここで、前記本体下部底部の少なくとも一部に下部凸部を備え、
ここで、前記本体上部の本体上部内面の少なくとも一部に上部凸部を備え、
前記本体下部と前記本体上部とが組み合わせられた場合、前記下部凸部と前記上部凸部との間隙が、前記シート状生体組織を前記収容空間内の所定の空間に保持することができる、容器。
[2] 前記下部凸部が、少なくとも1つの下部溝を備える、[1]に記載の容器。
[3] 前記上部凸部が、少なくとも1つの上部溝を備える、[1]又は[2]に記載の容器。
[4] 前記本体上部内面が、前記エアホールに向かうスロープを有する、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の容器。
[5] 前記封止部材が、液体非透過性のシーリングフィルムである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の容器。
[6] 前記シート状生体組織が、さらに支持体を含む、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の容器。
[7] 前記支持体が、前記シート状生体組織の周辺領域のみを支持する形状である、[6]に記載の容器。
[8] 前記本体上部及び/又は前記本体下部が、鍔部を備える、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の容器。
【0009】
[9] シート状生体組織の保存及び/又は輸送する方法であって、
(1)[1]〜[8]のいずれか1項に記載の容器を構成する本体下部の下部凸部に、シート状生体組織を載置し、
(2)前記本体下部に本体上部を適用し、
(3)前記エアホールから保存液を充填して気体を排除し、
(4)前記エアホールを封止部材で塞ぎ、
(5)前記シート状生体組織を載置した前記容器を保存及び/又は輸送すること、
を含む、方法。
[10]
前記シート状生体組織が、支持体を含む、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の容器及びその容器を用いた方法によれば、シート状生体組織の保管及び輸送に際して、振動によるシート状生体組織の破損や容器からの液漏れを防止することが可能となる。また、当該シート状生体組織の品質を保ちつつ保存及び/又は輸送することが可能となり、その結果、手術等の現場で迅速・簡便かつ確実に使用可能なシート状生体組織を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明の構成は、以下の実施形態の具体的な構成に限定されない。
【0013】
(シート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器の構成例)
図1A(平面図)及び
図1B(正面図)は、本発明の一実施形態におけるシート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器(単に、「容器1」ともいう)の構成例を示す図である。容器1は、後述のシート状生体組織5(
図4A〜C参照)を収容するための本体下部2と、本体下部2を覆い、本体下部2の収容空間S(
図2A及びBを参照)を封止するための蓋体としての本体上部3と、本体上部3に設けられたエアホール35を封止するための封止部材6とを含む。本体下部2及び本体上部3の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属などが挙げられる。
【0014】
本発明の容器及びそれを用いた方法により保存及び/又は輸送する「シート状生体組織」は、極めて薄い組織であり、支持体に付着していない状態では収縮してしまい、取り扱いが難しい。また、シート状生体組織を保存液中を浮遊させている状態においては、自身が有する接着成分が原因で凝集してしまうという課題がある。そのため、シート状生体組織を移動させる場合は、「支持体」に付着した状態で取扱う。なお、「シート状生体組織」の種類によっては、非常に厚くてある程度の剛性を持ったものもあるため、「支持体」を必要とせずに取り扱い可能なものも存在するが、以下の実施態様では「支持体」に付着させた「シート状生体組織」を収容する例について説明する。
【0015】
(本体下部の構成例)
図2A〜Dは、本発明の一実施形態における容器1を構成する本体下部2の構成例を示す。本実施態様において、本体下部2は、本体下部底部21と、本体下部底部21に設けられた中空円筒型状の本体下部側部22を備える。本体下部底部21及び本体下部側部22により、シート状生体組織5及び保存液7(
図4D参照)を収容する収容空間Sが形成される。本体下部底部21の少なくとも一部には、シート状生体組織5の周辺領域の一部を載置して(
図4A〜C参照)、シート状生体組織5を本体下部底部21から離間するための下部凸部23を備える。
【0016】
本実施態様において、下部凸部23は、本体下部底部21の円周に沿い、かつ、側部内壁面22aと接して配置されている。隣接した下部凸部23同士の間には下部溝23bが設けられている。下部溝23bが設けられていることにより、ピンセット等の治具を差し込むことができる。これにより、使用時にシート状生体組織5を本体下部2から容易に取り出すことができる。
【0017】
下部凸部23は、本実施態様のように、一定間隔の下部溝23bを設けて複数備えられても良く、下部溝23bを設けずに中空円筒型(ドーナッツ形状)としても良い(図示せず)。下部溝23bは、下部チャンバ28と上部チャンバ38を交通させることによって、下部チャンバ28内の保存液中に拡散した代謝ガスを上部チャンバ38に逃がし、また、上部チャンバ38内
の酸素を下部チャンバ28に導く作用があり、1つ以上設けることが好ましい。また、下部溝23bを備えることにより、使用時にピンセット等の治具によりシート状生体組織5を取り出しやすくなるという効果も有する。
【0018】
一実施形態において、複数の下部凸部23が設けられている場合、下部凸部23は後述の上部凸部33の直下に配置されてもよく、上部溝33bの直下に配置されてもよい(例えば、
図4C及びDの断面図を参照)。他の実施態様において、本体下部2の下部凸部23は、下部溝23bを備えない中空円筒型であってもよい(図示しない)。
【0019】
下部凸部23において、シート状生体組織5を載置する面(「載置面23a」という)は、同一平面上にあることが好ましい。これにより、下部凸部23に載置したシート状生体組織5を平らに保つことができる。また、下部凸部23の垂直方向の高さは、シート状生体組織5の厚さ及び/又は上部凸部33(
図3A及びB参照)の形状、大きさ、若しくは配置との関係で決定される。下部凸部23の形状及び載置面23aの形状は、シート状生体組織5を本体下部底部21から離間し、平らに保つ形状であれば限定されない。下部凸部23の形状の例としては、円柱形状、円錐台形状、角柱形状等が挙げられる。また、下部凸部23の形状は、中空円筒形状、中空角柱形状であってもよい。載置面23aが大きいほど、シート状生体組織5を安定的に平面に保つ効果は高くなる。
【0020】
本体下部底部21における下部凸部23の配置は、容器1の形状及び所望のシート状生体組織5の形状との関係によっても決定される。例えば、本実施態様のような略円形のシート状生体組織5を収容する場合、シート状生体組織5の周辺領域、例えば、シート状生体組織5の円周周辺を支持する位置に配置される。例えば、シート状生体組織5が多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)である場合、各角及び各辺を支持する位置に配置される(
図5A及びB参照)。これにより、シート状生体組織5を本体下部底部21から離間することができ、輸送時に生じる振動によってシート状生体組織5が損傷することを減少させることができる。
【0021】
本発明の一実施形態において、本体下部側部22の側部外壁面22bは、Oリング26を備えても良い。Oリング26は、側部外壁面22bに設けられたOリング溝22cに取り付けられる。Oリング26があることにより、本体上部3を本体下部2へ嵌着した場合、側部外壁面22bと本体上部側部内壁面32a(
図3B参照)との間から流体及び/又は気体が流出入することを防止することができる。Oリング26は、本体下部2と本体上部3との間の空間を封止する部材であれば限定されない。Oリング26の材料として、例えば、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、ポリテトラフロオロエチレン、金属等を用いることができる。同一の効果が得られるOリングであれば、上記に限定されない。
【0022】
本発明の別の実施態様において、容器1は、Oリング26に替えて、例えば、側部外壁面22bに雄ねじ構造を備え、かつ、本体上部側部内壁面32aに雌ねじ構造を備えてもよい(図示しない)。本体上部3を本体下部2に螺着することにより、側部外壁面22bと本体上部側部内壁面32aとの間から流体及び/又は気体が流出入することを防止できる。
【0023】
本発明の実施態様において、本体下部2は本体下部底部21の外縁に本体下部鍔部27を備えている。本体下部鍔部27は、本体下部底部21の面積よりも大きく、本体下部2を水平に保つことに役立つ。本体下部鍔部27は必須ではないが、容器1が比較的小さい場合、例えば、市販される35mm培養皿の直径よりも小さい場合に、本体下部鍔部27を有することにより容器1が転倒することを予防できる。本体下部鍔部27の大きさ、形状は目的に応じて適宜変形してもよく、本実施態様に限定されない。
【0024】
(本体上部の構成例)
図3A〜Cは、本発明の一実施形態における容器1を構成する本体上部3の構成例を示す。
図3Aは、本体上部3を本体下部2側から見た底面図である。
図3Bは、本体上部3の斜視図である。
図3Cは本体上部3を側面から見た側面図であり、図面の下側が本体下部2に適用される側である。本体上部3は、シート状生体組織5が付着した支持体4が振動などで大きく動かないよう、可動範囲を制限する作用を持つ。また、本体上部3が備えるエアスロープ37とエアホール35を使って気体を抜く操作を行えるようにする。
【0025】
本実施形態において、本体上部3は、エアホール35を有する本体上部天井部31と、本体上部天井部31に設けられた本体上部側部32を備える。本体上部3は、本体下部2の本体下部側部22の上部に載置され、封止部材6(
図1A及びB、
図4D参照)と組み合わせることで収容空間Sを封止する。収容空間Sは、支持体4に支持されたシート状生体組織5によって、上部チャンバ38と下部チャンバ28とに分割される(
図4D参照)。エアホール35からは、収容空間Sへ保存液7を充填することができる。また、エアホール35から保存液7を充填することにより、収容空間Sに残存する気体を排除することができる。エアホール35は、着脱可能な封止部材6によって封鎖される。封止部材6として、栓型、キャップ型、フィルム型などの封止部材6を用いることができるが、ガス透過性の機能を有することが好ましい。栓型の封止部材6としては、例えば、天然ゴム栓、ニトリルゴム栓、シリコーンゴム栓、フッ素ゴム栓、ブチルゴム栓、ウレタン栓、シリコーン樹脂製栓(例えば、シリコセン(登録商標)、バイオシリコ(登録商標))などを用いることができる。栓型の封止部材6として好ましくは、ガス透過性を有するウレタン栓又はシリコーン樹脂栓である。ガス透過性を有する封止部材6を用いることにより、呼吸が必要な材料(例えば、細胞、生体組織)を含むシート状生体組織5であっても、呼吸に必要なガス交換を維持することができる。キャップ型の封止部材6の例としては、例えば、シリコーン樹脂製のキャップ、ポリプロピレン製のキャップが挙げられる。フィルム型の封止部材6としては、ガス透過性及び液体非透過性のシーリングフィルム、例えばポリプロピレンフィルム、レーヨンフィルム、ポリウレタンフィルム等を用いることが可能である。市販されるフィルム型の封止部材6の例としては、Plate Seal AeraSeal(商標)(EXCEL Scientific社、CA、米国)、ブリーズイージー(トーホー社、東京、日本)、Breathable Film(コーニング社、NY、米国)などが挙げられる。材質は上記例に限らないが、エアホール35から流体が漏れることを防止でき、かつ、ガス透過性であって、細菌、ウイルスなどを通さないものであれば限定されない。収容空間Sが封止部材6によって封止された場合であっても、本体上部3に設けられたエアホール35及びガス透過性の封止部材6を介し、収容されたシート状生体組織の生存に必要な酸素が容器1の外から継続的に保存液に供給される。また、容器1に収容されたシート状生体組織の代謝により生じた代謝ガスも、エアホール35及びガス透過性の封止部材6を介して容器1の外に排出される。
【0026】
また、開封する際には、容器1の本体上部3にエアホール35が設けられ、かつ、封止部材6が備えられていることにより、本体上部3を本体下部2から取り外す前に封止部材6を取り外すことができる。これにより、エアホール35から収容空間Sに空気が流入し、容器1の内外の気圧差が無くなる。その結果、シート状生体組織が保存液の激しい流れによって破損することなく、容易かつ安全に本体上部3を取り外すことが可能となる。
【0027】
本体上部3に備えるエアホール35は1つであってもよく、2つ以上備えていても良い。エアホール35を複数備える場合、封止部材6は、全てのエアホール35を封止できる個数備える必要がある。封止部材6が、例えばフィルム型である場合、1枚のフィルム型の封止部材6で全てのエアホール35を封止してもよい。
【0028】
本体上部内面31aには、シート状生体組織5が本体上部内面31aに接触することを防止する上部凸部33を備えている。一実施態様において、上部凸部33の形状は、側面の一部が複数欠損した部分(
図3A及びBの「上部溝33b」として示される)を有する中空円筒型である。上部溝33bは、下部チャンバ28と上部チャンバ38を交通させることによって、下部チャンバ28内の保存液中に溶けて拡散した代謝ガスを上部チャンバ38に拡散させることで逃がし、また、上部チャンバ38内の保存液に溶けている酸素を下部チャンバ28に拡散させる作用をもつ。他の実施態様では、上部溝33bを備えない中空円筒型の上部凸部33であってもよい(図示しない)。
【0029】
上部凸部33の配置は、容器1の形状及び所望のシート状生体組織5の形状に依存して決定される。例えば、本実施態様のように略円形のシート状生体組織5を収容する場合、上部凸部33は、シート状生体組織5の周辺領域、例えば、シート状生体組織5の円周の内側上に配置されるように設けられる。
【0030】
本体上部3を脱着する場合にシート状生体組織5が本体上部内面31aに張り付くこと及び輸送時の振動による損傷を防止するために、上部凸部33の先端面(上部凸部下面33a)の表面積は小さい方が好ましい。特に好ましくは、上部凸部33は、載置面23aより小さい面積の上部凸部下面33aを備える。上部凸部下面33aは、同一平面にあることが好ましい。上部凸部33の形状及び上部凸部下面33aの形状は、シート状生体組織5が本体上部内面31aに張り付くこと及び輸送時の振動による損傷を防止できる形状であれば限定されない。例えば、上部凸部33の形状は、円柱形状、円錐台形状、角柱形状等が挙げられる。
【0031】
一実施態様において、本体上部内面31aは、エアホール35に向かって勾配を有することが好ましい(
図4C及びDの「エアスロープ37」)。これにより、容器1に保存液7を満たす際に、容器1の内部(収容空間S)に含まれる気体(気泡)がエアホール35に向かって誘導されやすくなる。容器1の内部に含まれる気体が減少することにより、気泡がシート状生体組織5を損傷する機会を減らす。エアスロープ37は、円錐形であってもよく、角錐形であってもよい。他の実施形態において、エアホール35は、さらに、エアホール35と連通する中空円筒形又は中空角柱形などの開口部を有してもよい(図示しない)。
【0032】
一実施形態において、本体上部3は本体上部鍔部36を有していてもよい。本体上部鍔部36は本体上部3の本体下部2への着脱を容易にする。本体上部鍔部36は、本体上部3の着脱を容易にする形状であれば、限定されない。
【0033】
一実施形態において、本体上部3は、本体上部3を本体下部2の適切な位置に固定するためのキー34を有している。本実施形態においては、キー34は、上部凸部33と一体となって形成されている。キー34は、本体下部2のキー溝24に嵌まり、本体上部3を適切な位置に固定する。また、キー34がキー溝24に嵌まることにより、本体上部3が本体下部2に対して回転することを防止する。キー34とキー溝24は、本体上部3が回転しない形状であればよく、その形状及び配置は限定されない。
【0034】
(シート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器の使用時の構成例)
図4A〜Dは、本発明の容器1の使用時の構成例を示す。本体下部2の下部凸部23にシート状生体組織5を載置し、本体下部2に本体上部3を適用する(
図4A及びB参照)。その後、本体上部3のエアホール35から保存液7を充填する。この時、エアスロープを有することにより、気泡9がエアホール35へ移動し、容器1から排除される(
図4C参照)。その後、エアホール35を封止部材6で塞ぐ(
図4D参照)。これにより、シート状生体組織5を載置した容器1を保存及び/又は輸送することが可能となる。
【0035】
一実施形態においては、支持体4に密着させたシート状生体組織5を使用する。例えば、収容するシート状生体組織5が、細胞を培養して得られたシート状の細胞群(「細胞シート」という)である場合、培養基材から剥離した細胞シートは収縮してしまい、容器1への使用には適さない。従って、本実施形態においては、細胞シートは支持体4とともに使用することが好ましい。本実施態様において使用される支持体4は、保存液と細胞が代謝によって発生するガス及び細胞が代謝に要するガス通すものが好ましい(例えば、メッシュ構造を有する)。円形の支持体の内側領域を同心円状に欠損させた形状であってもよい。欠損部によって細胞シートが保存液に直接ふれることで代謝を妨げない効果がある。この場合、細胞シートと密着させた時に、細胞シートの辺縁部分が支持され、細胞シート内側部分は支持されない。これにより、細胞シートは収縮することなく、シート形状を維持することができる。患部に適用する場合は、支持体4部分を挟持し、支持体4が存在しない細胞シートの内側部分を貼付して使用することができる。支持体4の形状は、シート状生体組織5の形状によって決定されるため、特に限定されない。他の実施形態においては、支持体4は、その内側領域を欠損させていないものであってもよい。
【0036】
支持体4に密着させた細胞シートを本実施態様の容器1に適用する場合、支持体4により支持された細胞シートの辺縁部分が下部凸部23に載せられる(
図4B参照)。これにより、シート状生体組織5を本体下部底部21から離間することができる。
【0037】
本発明において、本体下部2に本体上部3を嵌め合わせた場合、容器1は、載置面23aと上部凸部下面33aとが形成する間隙hを備える(
図4D参照)。間隙hを有することにより、シート状生体組織5は、間隙hの空間を浮遊することとなり、所定の空間に保持される。すなわち、本体下部2と本体上部3とが組み合わせられた場合、下部凸部23と上部凸部33との間隙hが、シート状生体組織5を収容空間S内の所定の空間に保持することができる。従って、容器1を輸送する際に生じる振動が直接シート状生体組織5に伝わらず、損傷が防止される。間隙hは、収容するシート状生体組織5の厚さ又はシート状生体組織を密着させた支持体4の厚さ(総称して、「シート状生体組織の厚さ」という)に依存して決定される。
図4Dに示されるように、シート状生体組織の厚さは、シート状生体組織5を支持体4に巻き付けた状態の厚さも含まれるものであり、当該シート状生体組織の最も厚い部分の厚さをいう。間隙hは、シート状生体組織の厚さ+0.1mm〜5.0mmが好ましく、シート状生体組織の厚さ+0.2mm〜3.0mmがより好ましく、シート状生体組織の厚さ+0.3mm〜2.5mmであることがより好ましい。間隙hの距離が所望の距離を有するように、下部凸部23及び上部凸部33の垂直方向の高さを決定することができる。
【0038】
(容器の構成例(改変例1))
図5Aは、本発明の一実施形態における容器の改変例(本体下部102)を示す。本体下部102は、シート状生体組織5が長方形である場合に使用できる。本実施態様において、本体下部102は、長方形の本体下部底部121と、本体下部底部121に設けられた中空直方体形の本体下部側部122を備える。本体下部底部121の少なくとも一部には、シート状生体組織5の周辺領域の一部を載置して、シート状生体組織5を本体下部底部121から離間させるための下部凸部123を備える。
【0039】
本実施態様において、下部凸部123は、本体下部底部121、かつ、本体下部側部122の内壁面と接して配置されている。隣接した下部凸部123同士の間には下部溝123bが設けられている。下部溝123bが設けられていることにより、ピンセット等の治具を差し込むことができる。これにより、使用時にシート状生体組織5を本体下部102から容易に取り出すことができる。
【0040】
下部凸部123は、本実施態様のように、一定間隔の下部溝123bを有して複数備えられても良く、下部溝123bを有さずに中空円柱形として設けられても良い(図示せず)。上述のように、使用時にシート状生体組織5を取り出しやすいように、少なくとも1つの下部溝123bを備えていることが好ましい。下部溝123bの形状は、使用時に治具等によりシート状生体組織5を取り出すことができれば、形状、大きさは特に限定されない。
【0041】
本実施態様の本体下部102に適用される本体上部は、前述の本体上部3の思想を逸脱することなく、本体下部102に適用可能な形状のものを採用することができる(図示せず)。
【0042】
(容器の構成例(改変例2))
図5Bは、本発明の一実施形態における容器の改変例(容器201)を示す。本体下部202は、六角形の本体下部底部221と、本体下部底部221に設けられた中空六角柱の本体下部側部222を備える。本体下部底部221の少なくとも一部には、シート状生体組織5の周辺領域の一部を載置して、シート状生体組織5を本体下部底部221から離間させるための下部凸部223を備える。本実施形態において、下部凸部223は、六角形の本体下部底部221の各辺の一部と平行になるように設けられている。
【0043】
本実施態様において、下部凸部223は、本体下部底部221、かつ、本体下部側部222の内壁面と接して配置されている。隣接した下部凸部223同士の間には下部溝223bが設けられている。
【0044】
下部凸部223は、本実施態様のように、一定間隔の下部溝123bを有して複数備えられても良く、下部溝223bを有さずに中空六角柱として設けられても良い(図示せず)。上述のように、使用時にシート状生体組織5を取り出しやすいように、少なくとも1つの下部溝223bを備えていることが好ましい。
【0045】
本実施態様の本体下部202に適用される本体上部203は、エアホール235と、上部凸部233とを備えている。本実施形態において、上部凸部233は、本体下部側部22と嵌め合わされるように、本体下部側部の内壁面より小さい中空六角柱構造を有している。上部凸部233の一部には、六角柱の側面が一部欠損した上部溝233b構造を有している。本体下部202に本体上部203を嵌め合わせた時、上部凸部233と下部凸部223が空間的に互い違いになる。この構造により、シート状生体組織5(図示せず)を収容した場合に下部チャンバ(図示せず)と上部チャンバ(図示せず)を効率よく交通させることが可能となり、下部チャンバ内の保存液中に溶けて拡散した代謝ガスを上部チャンバ38に拡散させることで逃がし、また、上部チャンバ内の保存液に溶けている酸素を下部チャンバに拡散させる作用をもつ。
【0046】
(容器の構成例(改変例3))
図6は、本発明の一実施形態における容器の改変例(容器301)を示す。容器301は本体下部302と本体上部303を備えており、基本的な構造は上述の通りである。本体下部302は、さらに、脚部304を複数備えている。脚部304は、本体下部302が載置された場合に平行に保たれるように、3つ以上備えられていることが好ましい。本実施形態において、本体上部303の本体上部上面331bには、脚部304を挿入可能な脚挿入部305を備える。脚部304を脚挿入部305に挿入することにより、容器301を積み上げることができる。これにより、少ない空間でより多くのシート状生体組織を運搬可能になる。脚部304の長さ及び脚挿入部305の深さは、本体上部天井部331の厚さを超えない程度であれば限定されない。
【0047】
本実施形態において、本体上部303の本体上部上面331bには、封止部材6(図示せず)を貼付するための封止部材貼付部306を備えている。封止部材貼付部306は、本体上部上面331bの平面より窪んでいるため、封止部材6を貼付した場合に封止部材6の厚みによる凹凸が形成されることが防止され、運搬中に剥がれることが防止される。封止部材貼付部306の一部には、貼付した封止部材6を剥がしやすいように封止部材剥がし部306aを備えている。
【0048】
本実施形態において、本体上部303の本体上部上面331bには、ラベルを貼付するためのラベル貼付部307を備えている。ラベル貼付部307は、本体上部上面331bの平面より窪んでいるため、ラベル(図示せず)を貼付した場合にラベルの厚みによる凹凸が形成されることが防止され、運搬中に剥がれることが防止される。ラベル貼付部307には、例えば、容器301内に封入されたシート状生体組織を識別する情報を含んでいる。ラベルは、バーコード、マトリックス型二次元コード、RFIDタグなど、公知のものを使用することができる。容器301にラベルが貼付されることにより、大量の容器301を運搬する場合であっても取り間違いを防止することが可能となる。
【0049】
(シート状生体組織)
本明細書において、「シート状生体組織」とは、生体から採取した生体組織や細胞を含む薄膜状の組織をいう。シート状生体組織は、生体から採取したシート状生体組織(例えば皮膚組織、上皮組織、粘膜組織、筋膜、硬膜、骨膜など)や、生体から採取した組織をシート状に加工した生体組織であってもよい。本発明の容器1は、特に、生体から採取した脆弱なシート状組織又は脆弱な細胞シートの保存及び/又は輸送に優れた効果を発揮する。
【0050】
本明細書において、「細胞シート」とは、複数の任意の細胞を含む細胞群を細胞培養基材上で培養し、細胞培養基材上から剥離することで得られる1層又は複数層のシート状の細胞群をいう。細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法や、任意の培養基材上で細胞培養し、物理的にピンセット等により剥離して得る方法等が挙げられる。細胞シートを得るための刺激応答性培養基材としては、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した温度応答性培養基材が知られている。温度応答性培養基材上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞をシート状に剥離して回収することができる。
【0051】
細胞シートを得るために用いられる温度応答性培養基材は、細胞が培養可能な温度域でその表面の水和力を変化させる基材であることが好ましい。その温度域は、一般に細胞を培養する温度、例えば33℃〜40℃であることが好ましい。細胞シートを得るために用いられる培養基材に被覆される温度応答性高分子は、ホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。
【0052】
刺激応答性高分子、特に温度応答性高分子としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を用いた場合を例(温度応答性培養皿)に説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集して白濁する。逆に31℃未満の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆されて固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、培養基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に固定されているため、培養基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃未満の温度では、培養基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に被覆されているため、培養基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着し、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できない表面となる。そのため、該基材を31℃未満に冷却すると、細胞が基材表面から剥離する。細胞が培養面一面にコンフルエントになるまで培養されていれば、該基材を31℃未満に冷却することによって細胞シートを回収できる。温度応答性培養基材は、同一の効果を有するものであれば限定されるものではないが、例えば、セルシード社(東京、日本)が市販するUpCell(登録商標)などが挙げられる。
【0053】
本発明で保存及び/又は輸送する細胞シートは、複数枚の細胞シートを積層した細胞シート(積層化細胞シート)を用いても良い。積層化細胞シートを作製する方法としては、ピペット等によって培養液中に浮かんでいる細胞シートを培養液ごと吸い取り、別の培養皿の細胞シート上に放出して液流によって積層する方法や、細胞移動治具を用いて積層する方法等が挙げられる。その他、公知の方法によって積層化細胞シートが得られる。
【0054】
一実施形態において、シート状生体組織を密着させる支持体4としては、例えば、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン、セルロース及びその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、フィブリンゲル、金属等を用いることができる。支持体4は、膜状、不織布状、織布状、又はメッシュ状で使用される。本発明の実施形態では、支持体4はシート状生体組織の性質を変えることなく、その損傷を防止するものであれば、上記に限定されない。
【0055】
シート状生体組織5を支持体4に密着させる方法としては、特に限定されるものではないが、支持体4からはみ出した部分のシート状生体組織5を折り曲げてひっかける方法(例えば、
図4C及びDを参照)、生体適合性の接着成分(例えば、フィブリンゲル)を用いて支持体4に接着させる方法、シート状生体組織が分泌する細胞外マトリクスによって支持体4に接着させる方法などが挙げられる。
【0056】
(シート状生体組織の保存及び/又は輸送用容器の使用方法)
本発明の容器1は、シート状生体組織の保存及び/又は輸送する方法に用いられる。一実施形態において、当該方法は、
(1)容器を構成する本体下部2の下部凸部23に、シート状生体組織5を載置し、
(2)本体下部2に本体上部3を適用し、
(3)本体上部3のエアホール35から保存液7を充填して、エアスロープ37に沿って気体を上昇させて、気体を排除し、
(4)エアホール35を封止部材6で塞ぎ、
(5)シート状生体組織5を載置した容器1を、を保存及び/又は輸送すること、
を含む方法である。
【0057】
一実施形態において、該方法は、さらに、
(6)シート状生体組織5を載置した1以上の容器1を、エアタイトな二次容器に収納し、保存及び/又は輸送すること、を含む。エアタイトな二次容器とは、当該二次容器の内外で空気の流出入しない容器を指す。当該に二次容器には、数百mL程度の空気及び/又は酸素が含まれる。本発明の容器に収容されたシート状生体組織は、この空気を使用して代謝することが可能となる。当該二次容器には、本発明の容器と共にCO
2吸収剤を収容してもよい。また、当該二次容器には、本発明の容器の輸送時の衝撃を吸収するための緩衝材も同梱される。
【0058】
一実施形態において、該方法は、さらに、
(7)1以上の該二次容器を、エアタイトでかつ断熱性をもつ三次容器に収納して、4℃〜40℃程度の一定温度に保つこと、
を含む。エアタイトな三次容器とは、当該三次容器の内外で空気の流出入しない容器を指す。当該三次容器内は、約1気圧に保たれる。また、当該三次容器内は、任意の温度、例えば、4℃〜40℃程度の一定温度に保つことができる。これにより、本発明の容器に収容されたシート状生体組織を、輸送時の気圧変化、温度変化及び/又は衝撃から保護しつつ、使用する場所に輸送することが可能となる。すなわち、本発明によって、シート状生体組織を、その活性を維持したままで、様々な運送手段によって使用する場所に輸送可能となる。例えば、航空機、船舶、車両など、いずれの手段によっても運搬可能となる。
【0059】
本発明に用いられる保存液7は、保存及び輸送の目的とするシート状生体組織5の治療効果を損なわない液体であればよく、適宜変更される。例えば、シート状生体組織5が、細胞シート又は生体組織であれば、当該細胞シート又は生体組織の維持に適した培地、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などを用いることができる。
【0060】
本発明の方法により、シート状生体組織5の物理的な振動による破損、流体の漏れを防止しながら保管や輸送が可能となる。また、本発明により、従来は使用直前に限られた場所(例えば手術室)で調製する必要があったシート状生体組織5の処理を、予め清浄度を保った場所で実施し、得られたシート状生体組織5を輸送可能になった。
【0061】
なお、上述の実施形態は本発明の実施の一例ではあるが、その範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0062】
上記の実施態様では、シート状生体組織を付着させた支持体を収容する容器及びその方法の例について説明してきたが、支持体に付着させない状態で収縮しないシート状生体組織も、本発明の容器及び/又はそれを用いた方法によって保存及び/又は輸送可能であるため、本発明の範囲から限定されない。