【実施例】
【0024】
以下、植物の生育方法を具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
生育対象としてシロイヌナズナ(双子葉植物綱;アブラナ科)を選定し、その種子を定法通りに培養土が含まれるポット(Jiffy‐7)に播種した。種、芽および苗の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を有するマイクロ波照射装置を用いた。具体的には、種子の段階、発芽した段階(播種から7日後)、播種から8日後、10日後、12日後、14日後、16日後、18日後及び21日後の各段階に分けて、複数の検体に2.45GHz帯のマイクロ波を23Wの出力で照射開始した。培養土が含まれる1個のポットには5つの種、芽または苗の植物が植えられた形で、このポット4個を、マイクロ波照射装置内に収容した。すなわち、合計20個の種、芽または苗に対して23Wのマイクロ波が照射されたことになる。検体に均一に照射するために検体から24cmの距離を隔てて照射した。照射時間は、いずれも1時間とした。なお、実験では、播種から7日まで1ポットで複数種子を育て、同様の成長速度を選んで、8日目にそれを新しい土壌ポットに5検体植え替えることで、芽のサイズをそろえて実験を行った。参考のため
図6に植え替え直後の土壌ポットの苗を撮影した写真を示す。なお、種子の段階でマイクロ波を照射した検体として、水を与えていない乾燥した種子(乾燥種子)と、乾燥した種子を1日水に浸漬して水を吸収させた種子(吸水種子)の2種類を使用したが、観察に用いた検体は、乾燥種子を除いてはいずれも吸水種子であった。
【0026】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、8日後に子葉が完全に展開したこと、10日後に本葉が出てきたこと、12日後に本葉の一部が展開したこと、14日後に本葉が完全に展開したこと、16日後に六枚葉(第二本葉)が出てきたこと、18日後に六枚葉が展開したこと、21日後にさらに次の葉が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0027】
各検体について、播種から6週間経過後のシロイヌナズナの花序茎の長さを測定し、結果を表1及び
図1のグラフに示す。
図1中、コントロールはマイクロ波をいずれの段階でも照射しなかった検体である。
【0028】
【表1】
【0029】
図1のグラフより、乾燥種子や吸水種子にマイクロ波を照射してもコントロールと比べて花序茎の成長(長さ)に差はないことが分かった。しかし、吸水種子にマイクロ波を照射するとコントロールに比べ1.6倍生育速度が早くなることが分かった。発芽段階及び子葉段階にマイクロ波を照射した場合には、コントロールよりも花序茎が成長している。一方、本葉が出始めた10日目にマイクロ波を照射開始することで花序茎の長さは種子やコントロールに比べて2.5倍ほど成長することが分かった。さらに、14日目の本葉が展開した時期にマイクロ波照射すると、種子やコントロールに比べて3倍以上成長が促進することが分かった。一方、六枚葉が出てくる16日以降にマイクロ波を照射すると、種子やコントロールに比べて2倍以上成長が促進しているが、本葉の出始めや一部展開時期に比べて花序茎の成長が劣ることが分かる。
【0030】
<マイクロ波出力の相違による苗の生育>
苗の成長促進に対する最適なマイクロ波の照射出力を調べるために、予め異なるマイクロ波出力で植物の成長を比較する実験を行った。すなわち、第1本葉が展開した段階で一つの苗に照射するマイクロ波の出力を異なるように照射し、花序茎の長さについて上記実施例と同様にして調べた。具体的には、マイクロ波の出力は基本的に23Wの一定値としつつも、マイクロ波照射装置内に収容する苗またはポット数を変更することで、一つの苗あたりの照射パワーを変更した。結果を、マイクロ波を照射しないコントロールの花序茎の長さとの差として
図7に示す。
図7におけるマイクロ波の各出力に対応するマイクロ波照射装置内に収容して同時に照射した苗(株)の数は下記の通りである。なお、30Wの出力のサンプルについては、マイクロ波出力を23Wから30Wに増大するように制御して照射したが、苗はコントロールと同程度の成長のものや枯れるものがあった。
30W=4ポット(4ポット×5株=20株)
23W=4ポット(4ポット×5株=20株)
9.2W=10ポット(10ポット×5株=50株)
3.7W=25ポット(25ポット×5株=125株)
2.4W=40ポット(40ポット×5株=200株)
1.8W=50ポット(50ポット×5株=250株)
この結果より、マイクロ波の出力が23Wのときに花序茎の成長が最も促進していることが分かる。
【0031】
<マイクロ波照射時間の相違による苗の生育>
マイクロ波照射時間の最適値を決定するために、予め異なる照射時間で第1本葉展開時期にマイクロ波を照射して生育した場合におけるシロイヌナズナの花序茎の長さを播種後30日及び38日にそれぞれ測定した。生育条件は、照射時間を除いて、上記実施例における第1本葉展開時期にマイクロ波を照射して生育した場合と同様である。結果を
図8に示す。
図8の結果より、照射時間は1時間までは照射時間とともに生育が促進されることが分かる。一方、マイクロ波を、1時間を超えて長く照射してもあまり有効ではないことが分かる。それゆえ、照射時間として1時間が最適であった。
【0032】
<種子の乾燥と吸水による苗の生育の相違>
種子にマイクロ波を照射した場合の1日あたりの伸長率のグラフを
図2に示す。
図2より、吸水種子が乾燥種子より成長速度が速いが、コントロールと同程度であった。
図1から実際の成長長さに変化はないことがわかる。よって、種にマイクロ波を照射しても従来報告されているように発芽や根の成長速度は早くなるかもしれないが、花序茎の長さという点では生育の促進はないことが分かった。
【0033】
[実施例2]
生育対象として、シロイヌナズナに代えて、ルッコラを用いて、実施例1と同様にして異なるマイクロ波の照射時期による葉の生育状態の相違を観察した。ルッコラは、次のような条件および設備の下で水耕栽培を行った。ルッコラの育成にはU‐ING社のGreen Farm育成装置を使用した。付属のスポンジに播種し、マイクロ波照射は種または発芽した状態のスポンジを育成装置から取り出し、マイクロ波照射装置内で1時間照射し、すぐに育成装置内に戻した。日照時間は16時間で、育成装置下部タンクには水と若干の付属液体肥料を加えた。複数のルッコラの種子検体に、種および花序茎の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。具体的には、種子の段階、播種から4日後、8日後、10日後、14日後及び16日後の各段階に分けて、各検体に2.45GHz帯のマイクロ波を23Wの出力で照射開始した。すなわち、種又は芽一つ当たり23Wのマイクロ波出力である。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を用い、検体から24cmの距離を隔てて照射した。なお、種子の段階でマイクロ波を照射した検体として、水を与えていない乾燥した種子(乾燥種子)と、乾燥した種子を1日水に浸漬して水を吸収させた種子(吸水種子)の2種類を使用したが、観察に用いた検体は、乾燥種子を除いてはいずれも吸水種子であった。
【0034】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、4日後に発芽(芽)、8日後に子葉が完全に展開したこと、10日後に本葉が出始めてきたこと、14日後に本葉が完全に展開したこと、16日後に六枚葉(第二本葉)が出始めてきたこと、18日後に六枚葉が展開したこと、21日後にさらに次の葉が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0035】
各検体について、播種から25日経過後のルッコラの葉の長さを測定し、結果を
図3のグラフに示す。
図3中、コントロールはマイクロ波をいずれの段階でも照射しなかった検体である。
図3のグラフより、乾燥種子や吸水種子にマイクロ波を照射してもコントロールと比べて葉の成長(長さ)が若干遅くなった。また、発芽段階及び子葉段階にマイクロ波を照射した場合にも、コントロールと比べて葉の成長(長さ)に差はないことが分かった。一方、本葉が出始めた10日目にマイクロ波を照射開始することで葉の長さは種子やコントロールに比べて28%程度成長が促進することが分かった。さらに、14日目の本葉が展開した時期にマイクロ波照射すると、種子やコントロールに比べて31%程度成長が促進することが分かった。一方、六枚葉が出てくる16日以降にマイクロ波を照射しても本葉の出始めや一部展開時期に比べて成長が劣ることが分かる。
【0036】
上記と同様の実験を、マイクロ波の出力を制御して20Wに弱めて行った。マイクロ波照射の効果として葉の長さ8%程短くなったが、照射開始時期と葉の長さの傾向に変化がないことが分かった。
【0037】
[実施例3]
栽培対象としてトマト(双子葉植物綱;ナス科)を選定し、その種子を定法通りに土壌に播種した。複数のトマトの種子検体に、種および苗の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。具体的には、種子の段階、播種直後、播種から9日後、10日後、13日後及び15日後の6段階に分けて、複数の検体に2.45GHz帯のマイクロ波を25W及び50Wの2種類の出力でそれぞれ照射開始した。なお、マイクロ波は4つの種又は芽毎に照射されるようにした。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を用い、検体から24cmの距離を隔てて照射した。なお、種子は、含水種子を使用した。
【0038】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、9日後に子葉が出たこと(完全二枚葉)、10日後に第1本葉が出てきたこと、13日後に第1本葉が完全に展開したこと、15日後に六枚葉(第二本葉)が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0039】
観察したトマトの葉の生育状態として、完全二枚葉(子葉:9日目))、四枚葉(第1本葉:10日目)出始め、四枚葉展開(13日目)、六枚葉出始め(15日)の様子を表す写真を、
図4(A)〜4(D)にそれぞれ示す。また、マイクロ波を種々の時期に照射した場合における播種後47日目の苗の高さを
図5のグラフに示す。
図5には、マイクロ波の出力(25W、50W)毎に示した。
図5のグラフより、種子や子葉の段階でマイクロ波を照射しても、コントロールに比べて成長促進は観測されなかった。一方、本葉出始め及び展開段階においてマイクロ波を照射開始することで、成長が促進していることが分かり、特に、第1本葉の展開段階にマイクロ波を照射すると最も成長が促進することが分かった(25Wのときは、種子に照射した場合の2倍以上、子葉に照射した場合の1.5倍以上の茎成長が見られる)。六枚葉、すなわち第2本葉の段階では成長促進効果が見られないことも分かった。また、マイクロ波の出力は、50Wよりも25Wの方が本葉出始め及び本葉展開の時期にマイクロ波を照射した場合に苗の成長が促進されることが分かった。
【0040】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。実施例で用いたシロイヌナズナは、その生長、生殖などに関する遺伝子が、他の植物と多くが共通しており、シロイヌナズナの遺伝子に関する研究の成果は、他の植物にも幅広く応用されていることから、シロイヌナズナの実施例は他の品種に同様の結果をもたらすことが推測される。他の双子葉植物種として、レタス(双子葉植物綱;キク科、品種:ジェンティリナグリーン)、ジャガイモ(双子葉植物綱;ナス科)などにおいても実施例1〜3と同様に第1本葉の出始めから第2本葉の出る前までの間にマイクロ波の照射を開始することで生育促進効果が期待される。