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特開2018-121598マイクロ波照射による植物の苗の生産方法及びそれにより得られた苗
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-121598(P2018-121598A)
(43)【公開日】2018年8月9日
(54)【発明の名称】マイクロ波照射による植物の苗の生産方法及びそれにより得られた苗
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20180713BHJP
【FI】
   A01G7/00 604Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-18206(P2017-18206)
(22)【出願日】2017年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】堀越 智
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰彦
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB11
2B022AB15
2B022DA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物の成長を効率よく促進するためのマイクロ波照射による新規な植物苗の生産方法を提供する。
【解決手段】植物の苗の生産方法は、植物の成長過程において第1本葉が出てから第2本葉が出る前までの間のいずれかの時期にマイクロ波照射を開始することを特徴とする。マイクロ波の照射時間は1時間以内、マイクロ波の出力は1〜20個の苗当たり2〜25Wにし得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の成長過程において、第1本葉が出てから第2本葉が出る前までの間にマイクロ波の照射を開始することを特徴とするマイクロ波照射による植物の苗の生産方法。
【請求項2】
前記マイクロ波の照射時間が、60分以下である請求項1に記載の植物の苗の生産方法。
【請求項3】
前記第1本葉が展開した後に前記マイクロ波を照射する請求項1または2に記載の植物の苗の生産方法。
【請求項4】
前記植物が双子葉植物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物の苗の生産方法。
【請求項5】
前記双子葉植物が、シロイヌナズナ、ルッコラ及びトマトからなる群から選ばれる一種である請求項4に記載の植物の苗の生産方法。
【請求項6】
マイクロ波の出力が1〜20個の苗当たり2〜25Wである請求項1〜5のいずれか一項に記載の植物の苗の生産方法。
【請求項7】
請求項1に記載の植物の苗の生産方法によって生産された苗を、当該植物の苗が、少なくとも生殖成長期を迎えるまで成長させることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項8】
植物の成長過程において、第1本葉が出てから第2本葉が出る前までの間にマイクロ波の照射を開始してマイクロ波を照射することにより得られた植物の苗。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の成長過程において特定の時期にマイクロ波を照射することによって植物の成長を著しく促進する植物の生育方法、特にマイクロ波照射による植物の苗の生産方法及びそれにより得られた苗に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を植物に照射することによって植物の生育を促進させる技術が知られている。例えば、非特許文献1では、ホウレンソウの種子にマイクロ波を照射しながら発芽させ、発芽後もマイクロ波の照射を継続すると、根の著しい発達が確認されたと報告されている。また、非特許文献2では、ホウレンソウの種子を播種しマイクロ波を照射し続けた場合に、照射しないものと比較して、7日間と21日間の主根長と、35日間の生体重及び乾体重並びに子葉以外の葉面積において、成長が促進したことが報告されている。
【0003】
特許文献1は、カイワレ大根に電子レンジからマイクロ波を照射したときに植物の成長が促進されることが確認されているが、その照射条件などは具体的に記載されていない。特許文献2では、マイクロ波照射により植物の光合成を促進させることが可能であることが開示されており、その実施例ではオオワカメを入れた炭酸水試料に電子レンジ内でマイクロ波を照射することにより溶存酸素が増加したことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】齋藤英也外,“2.45GHzマイクロ波が植物の生長へ与える影響について”,社団法人 電子情報通信学会,電子情報通信学会技術研究報告,SPS2006−16(2007−2)pp.7−14
【非特許文献2】山本亮介,“マイクロ波の長期暴露による植物成長(ホウレンソウ)への影響”,信学技報、社団法人 電子情報通信学会,2012.03,pp.71−75
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−045757
【特許文献2】WO2015/093509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献及び特許文献では、マイクロ波を種子などに照射することにより植物の成長が促進することが開示されている。しかし、それらの従来技術ではマイクロ波の照射条件は十分に吟味されていない。また、マイクロ波を種の段階から照射し続けることは電力的にも非効率であり、商業ベースでの実用化には適さない。このため、マイクロ波照射を使って植物の成長をより高い電力効率で且つより一層成長を促進する植物育成技術が要望されている。
【0007】
本発明は、植物の成長を効率よく促進するためのマイクロ波照射による新規な植物生育方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る植物の苗の生産方法は、植物の成長過程において第1本葉が出てから第2本葉が出る前までの間にマイクロ波照射を開始することを特徴とするマイクロ波の照射による植物の苗の生産方法である。本発明の生産方法において、前記マイクロ波の照射時間が、60分以下であることが好ましく、またマイクロ波の出力が苗1本〜20本から当たり1〜25Wであることが好ましい。照射時期として、前記第1本葉が展開した後に前記マイクロ波を照射するのが好ましい。本発明が適用される植物として双子葉植物、特に、シロイヌナズナ、ルッコラ及びトマトからなる群から選ばれる一種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物の成長過程において第1本葉が出てから第2本葉が出る前のいずれかのタイミングでマイクロ波を照射開始することにより、苗の成長または開花を含む植物の生育を著しく促進することができ、且つその苗を更に、例えば生殖成長期を迎えるまで或いはそれ以上生育した場合においてもその成長を著しく促進することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1において、マイクロ波照射時期の異なるシロイヌナズナ検体について、播種から6週間経過後の花序茎の長さを示すグラフである。
図2】実施例1において、乾燥種子及び吸水種子にマイクロ波を照射した場合の1日あたりの花序茎の伸長率のグラフを図2に示す。
図3】実施例2において、マイクロ波照射時期の異なるルッコラ検体について、播種から25日経過後の葉の長さを示すグラフである。
図4図4(A)〜4(D)は、実施例3におけるトマトの完全二枚葉(子葉)、四枚葉(第1本葉)出始め、四枚葉展開、及び六枚葉出始めの様子を表す写真である。
図5】実施例3において、マイクロ波照射時期の異なるトマト検体について、播種から47日経過後の茎の長さを示すグラフであり、マイクロ波照射パワー25Wと50Wの結果を併記したグラフである。
図6】実施例1において、培養土が含まれる1つのポットに5つの芽が植え替えた直後の苗の様子を示す写真である。
図7】実施例1において、異なる出力のマイクロ波を第1本葉展開時期に照射した場合における花序茎の長さをコントロールの花序茎の長さとの差で表したグラフである。
図8】実施例1において、異なる照射時間でマイクロ波を第1本葉展開時期に照射した場合における花序茎の長さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る植物の苗の生産方法の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態では、栽培対象の種子、又は鱗茎、球茎、塊茎、根茎、若しくは塊根などの球根が発芽して第1本葉が出てから第1本葉が展開し、第2本葉の出る前までの間のいずれかの時期(以下、本書では適宜、「特定照射開始時期」という)にマイクロ波の照射を開始する。「第1本葉が出てから」とは、第1本葉が展開した時のみならず、第1本葉が出始め(発生し)た時も含む概念である。従って、図4(B)に示すように第1本葉がわずかでも見えた時に初めてマイクロ波を照射することも本発明の範囲に含まれる。一方、「第2本葉が出る前」とは、第1本葉が展開した後、第2本葉の発生が観測される前の段階を言う。従って、特定照射開始時期とは第1本葉の発生が観測された時点から第2本葉の発生が観測される直前までのいずれかの時点を意味する。また、本書において、本葉とは発芽後、子葉の後に出てくる葉を意味し、第1本葉とは子葉の次に出てくる本葉を、第2本葉とは第1本葉の次に出てくる本葉をそれぞれ意味する。トマトのような双子葉植物の場合は、まず双葉(二枚の子葉)が胚軸から展開し、その後、子葉の付け根部分の生長点からの茎(主茎部)の伸長に伴い、頂芽から第1本葉、第2本葉が順次展開する。いんげん豆やダイズのように子葉と本葉の間に初葉(初生葉)が出てくる植物の場合は、初葉(初生葉)を第1本葉とみなし、初葉(初生葉)が出たときから第2本葉(初葉の次の本葉のさらに次の本葉)が出る前に照射する。
【0013】
本発明の植物の苗の生産の方法において、特定照射開始時期にマイクロ波の照射を開始して後述する所定時間だけ照射することで、その他の時期、例えば、播種時期、子葉形成時期、第二本葉形成時期にマイクロ波の照射を開始した場合に比べて植物の生育が著しく促進されることが分かった。
【0014】
本発明のマイクロ波を使った植物の苗の生産は、単子葉植物や双子葉植物を含む種々の植物に適用可能であるが、双子葉植物に好適である。特に、シロイヌナズナ、ルッコラまたはトマトのような双子葉植物に好適である。なお、単子葉植物の場合には、マイクロ波の特定照射開始時期は、第1本葉が子葉鞘から形成され始めた時から第2本葉が形成され始める前のいずれかの時期である。単子葉植物では、一般に、地中に播種された種子が発芽してから最初に地表に出てくるのは第1本葉であり、このような場合には、第1本葉が地表に出てきた後にマイクロ波を照射すればよい。
【0015】
また、栽培対象を球根から栽培する場合には、土壌に植え付けした球根が発芽した後、上記特定照射開始時期にマイクロ波を照射すればよい。球根が発芽してから土壌に植え付けしてもよく、いずれにしてもマイクロ波の照射開始は、第1本葉の出始めから第1本葉が展開し、第2本葉の出始める前までの間のいずれかの時期、すなわち、特定照射開始時期となる。例えば、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモなどのイモ類は、いわゆる「種イモ」を植え付けて栽培するが、種イモを植え付ける際には、多くの場合、芽出し(催芽)をして新芽が形成されてから植え付けが行われる。種イモを植え付けて栽培する場合には、定法通りに芽出しをしてから植え付けを行えばよく、マイクロ波の照射タイミングは、植え付け時期に関わらず、特定照射開始時期である。なお、ジャガイモは塊茎を種イモとして栽培され、サツマイモは塊根を種イモとして栽培され、サトイモは球茎を種イモとして栽培される等の違いがあるが、特定照射開始時期はいずれも上述の通りである。
【0016】
第1本葉が形成された植物にマイクロ波を照射するには、例えば、育苗ポットを用いて栽培する場合には、マイクロ波が照射される処理室を備える装置の処理室に、植物を育苗ポットごと投入してマイクロ波を照射するようにしてもよく、種イモを植え付けてイモ類を栽培する場合には、第1本葉が形成された種イモを当該装置に投入してマイクロ波を照射するようにしてもよい。
【0017】
また、地植えで栽培する場合には、マイクロ波発振器に取り付けられたホーンアンテナ等の所定のマイクロ波の照射を行える装置から照射対象たる植物に向けてマイクロ波を照射するようにしてもよい。このとき、マイクロ波を照射する作業は人手に依ってもよいが、広い耕作地で栽培する場合には、無線操縦のドローンやヘリコプターなどの飛行体を利用すれば、人手に依らずに効率良く作業を行うことも可能である。
【0018】
マイクロ波を照射するにあたっては、照射対象がマイクロ波によって加温されない程度(巨視的なレベルで照射対象の温度上昇が認められない程度)に、その出力や照射時間を適宜調整するのが好ましい。例えば、マイクロ波の出力は2W以上且つ30W未満とすることができ、好ましくは2W〜25Wである。マイクロ波の出力が30Wを超えると、後の生育過程で開花する前に枯れてしまうおそれがある。なお、一本の苗に対するマイクロ波の好適な出力は植物種により異なることが後述の実施例より分かっている。それゆえ、上記マイクロ波の出力は、苗1本〜20本当たりの出力である。
【0019】
マイクロ波の照射時間は、好ましくは120分以下、より好ましくは90分以下、特に好ましくは60分以下で且つ10分以上としてマイクロ波を照射するのが好ましい。植物苗の成長は、上記特定照射開始時期にてマイクロ波を照射すると照射時間に依存する傾向はあるが(図8参照)、照射時間が120分を超えて照射し続けても、電力消費が大きい割に顕著な効果は認められないことが分かっている。
【0020】
マイクロ波は、一般には、周波数300MHz〜30GHz(波長1m〜1cm)の電磁波をいうが、国際的に使用が認められている2.45GHz帯のマイクロ波を使用するのが好ましい。マイクロ波照射源として、マグネトロンや半導体発振器を用いることができる。マグネトロンを用いる場合には、マイクロ波出力や周波数が一定に出るものを使うのが好ましい。また、マグネトロンは、低出力、例えば、30W以下で発振できないものが多いため、それ以下の出力に調整するには、複数個の植物を同時に被照射体とすることで一照射体当たりの照射電力を低減することができる。あるいは、照射雰囲気中にマイクロ波を吸収する物質を設置することでマイクロ波を減衰させて出力を調整してもよい。一方、半導体発振器は出力安定性、周波数安定性に優れ、出力制御が可能である点で好ましいマイクロ波照射源となる。
【0021】
植物の生長は、通常、発芽後に、葉や茎などの栄養器官だけを分化、形成する栄養成長期を経て、生殖器官を分化、形成して茎頂に花芽を形成し、開花、結実に向かう生殖成長期へと移行する。このことは、栄養成長期では、より多くの葉を展開して光合成を行い、これによって、種子を形成するのに十分な養分が蓄えられるようにするために、遺伝子の働きによって花芽が形成されるのが抑制されており、成長とともに、その抑制が弱まって、生殖成長期に切り替わるためであり、また、花芽の形成を促進する遺伝子の活性化も生殖成長期への切り替えに寄与するとされている。
【0022】
本実施形態によれば、マイクロ波の照射を特定照射開始時期から開始することで、栄養成長期から生殖成長期に切り替わる時期を早めることができる。これは、発芽した新芽又は苗にマイクロ波を照射することで、栄養成長期において、花芽が形成されるのを抑制しようとする遺伝子の働きが弱められた結果であり、若しくは、花芽が形成されるのを促進しようとする遺伝子の働きが活性化された結果であり、又は、その両方の結果であると考えられる。したがって、栄養成長期から生殖成長期に切り替わる時期を早めて、早期に開花、結実させ、これによって収穫時期を早めることが望まれる植物、例えば、生花・切り花用の鑑賞植物や、球根又は果実を食用とする植物などの栽培に、特に好適である。
【0023】
本発明を実施する場合の栽培方法や栽培環境は、本発明の実施により得られた苗をその後の生育する方法も含めて、公知或いは周知の環境をそのまま流用することが可能である。例えば、水耕栽培、土耕栽培、溶液土耕栽培は、特に限定されない。植物工場などの屋内の環境でも宇宙船などの無重力空間でも構わない。
【実施例】
【0024】
以下、植物の生育方法を具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
生育対象としてシロイヌナズナ(双子葉植物綱;アブラナ科)を選定し、その種子を定法通りに培養土が含まれるポット(Jiffy‐7)に播種した。種、芽および苗の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を有するマイクロ波照射装置を用いた。具体的には、種子の段階、発芽した段階(播種から7日後)、播種から8日後、10日後、12日後、14日後、16日後、18日後及び21日後の各段階に分けて、複数の検体に2.45GHz帯のマイクロ波を23Wの出力で照射開始した。培養土が含まれる1個のポットには5つの種、芽または苗の植物が植えられた形で、このポット4個を、マイクロ波照射装置内に収容した。すなわち、合計20個の種、芽または苗に対して23Wのマイクロ波が照射されたことになる。検体に均一に照射するために検体から24cmの距離を隔てて照射した。照射時間は、いずれも1時間とした。なお、実験では、播種から7日まで1ポットで複数種子を育て、同様の成長速度を選んで、8日目にそれを新しい土壌ポットに5検体植え替えることで、芽のサイズをそろえて実験を行った。参考のため図6に植え替え直後の土壌ポットの苗を撮影した写真を示す。なお、種子の段階でマイクロ波を照射した検体として、水を与えていない乾燥した種子(乾燥種子)と、乾燥した種子を1日水に浸漬して水を吸収させた種子(吸水種子)の2種類を使用したが、観察に用いた検体は、乾燥種子を除いてはいずれも吸水種子であった。
【0026】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、8日後に子葉が完全に展開したこと、10日後に本葉が出てきたこと、12日後に本葉の一部が展開したこと、14日後に本葉が完全に展開したこと、16日後に六枚葉(第二本葉)が出てきたこと、18日後に六枚葉が展開したこと、21日後にさらに次の葉が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0027】
各検体について、播種から6週間経過後のシロイヌナズナの花序茎の長さを測定し、結果を表1及び図1のグラフに示す。図1中、コントロールはマイクロ波をいずれの段階でも照射しなかった検体である。
【0028】
【表1】
【0029】
図1のグラフより、乾燥種子や吸水種子にマイクロ波を照射してもコントロールと比べて花序茎の成長(長さ)に差はないことが分かった。しかし、吸水種子にマイクロ波を照射するとコントロールに比べ1.6倍生育速度が早くなることが分かった。発芽段階及び子葉段階にマイクロ波を照射した場合には、コントロールよりも花序茎が成長している。一方、本葉が出始めた10日目にマイクロ波を照射開始することで花序茎の長さは種子やコントロールに比べて2.5倍ほど成長することが分かった。さらに、14日目の本葉が展開した時期にマイクロ波照射すると、種子やコントロールに比べて3倍以上成長が促進することが分かった。一方、六枚葉が出てくる16日以降にマイクロ波を照射すると、種子やコントロールに比べて2倍以上成長が促進しているが、本葉の出始めや一部展開時期に比べて花序茎の成長が劣ることが分かる。
【0030】
<マイクロ波出力の相違による苗の生育>
苗の成長促進に対する最適なマイクロ波の照射出力を調べるために、予め異なるマイクロ波出力で植物の成長を比較する実験を行った。すなわち、第1本葉が展開した段階で一つの苗に照射するマイクロ波の出力を異なるように照射し、花序茎の長さについて上記実施例と同様にして調べた。具体的には、マイクロ波の出力は基本的に23Wの一定値としつつも、マイクロ波照射装置内に収容する苗またはポット数を変更することで、一つの苗あたりの照射パワーを変更した。結果を、マイクロ波を照射しないコントロールの花序茎の長さとの差として図7に示す。図7におけるマイクロ波の各出力に対応するマイクロ波照射装置内に収容して同時に照射した苗(株)の数は下記の通りである。なお、30Wの出力のサンプルについては、マイクロ波出力を23Wから30Wに増大するように制御して照射したが、苗はコントロールと同程度の成長のものや枯れるものがあった。
30W=4ポット(4ポット×5株=20株)
23W=4ポット(4ポット×5株=20株)
9.2W=10ポット(10ポット×5株=50株)
3.7W=25ポット(25ポット×5株=125株)
2.4W=40ポット(40ポット×5株=200株)
1.8W=50ポット(50ポット×5株=250株)
この結果より、マイクロ波の出力が23Wのときに花序茎の成長が最も促進していることが分かる。
【0031】
<マイクロ波照射時間の相違による苗の生育>
マイクロ波照射時間の最適値を決定するために、予め異なる照射時間で第1本葉展開時期にマイクロ波を照射して生育した場合におけるシロイヌナズナの花序茎の長さを播種後30日及び38日にそれぞれ測定した。生育条件は、照射時間を除いて、上記実施例における第1本葉展開時期にマイクロ波を照射して生育した場合と同様である。結果を図8に示す。図8の結果より、照射時間は1時間までは照射時間とともに生育が促進されることが分かる。一方、マイクロ波を、1時間を超えて長く照射してもあまり有効ではないことが分かる。それゆえ、照射時間として1時間が最適であった。
【0032】
<種子の乾燥と吸水による苗の生育の相違>
種子にマイクロ波を照射した場合の1日あたりの伸長率のグラフを図2に示す。図2より、吸水種子が乾燥種子より成長速度が速いが、コントロールと同程度であった。図1から実際の成長長さに変化はないことがわかる。よって、種にマイクロ波を照射しても従来報告されているように発芽や根の成長速度は早くなるかもしれないが、花序茎の長さという点では生育の促進はないことが分かった。
【0033】
[実施例2]
生育対象として、シロイヌナズナに代えて、ルッコラを用いて、実施例1と同様にして異なるマイクロ波の照射時期による葉の生育状態の相違を観察した。ルッコラは、次のような条件および設備の下で水耕栽培を行った。ルッコラの育成にはU‐ING社のGreen Farm育成装置を使用した。付属のスポンジに播種し、マイクロ波照射は種または発芽した状態のスポンジを育成装置から取り出し、マイクロ波照射装置内で1時間照射し、すぐに育成装置内に戻した。日照時間は16時間で、育成装置下部タンクには水と若干の付属液体肥料を加えた。複数のルッコラの種子検体に、種および花序茎の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。具体的には、種子の段階、播種から4日後、8日後、10日後、14日後及び16日後の各段階に分けて、各検体に2.45GHz帯のマイクロ波を23Wの出力で照射開始した。すなわち、種又は芽一つ当たり23Wのマイクロ波出力である。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を用い、検体から24cmの距離を隔てて照射した。なお、種子の段階でマイクロ波を照射した検体として、水を与えていない乾燥した種子(乾燥種子)と、乾燥した種子を1日水に浸漬して水を吸収させた種子(吸水種子)の2種類を使用したが、観察に用いた検体は、乾燥種子を除いてはいずれも吸水種子であった。
【0034】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、4日後に発芽(芽)、8日後に子葉が完全に展開したこと、10日後に本葉が出始めてきたこと、14日後に本葉が完全に展開したこと、16日後に六枚葉(第二本葉)が出始めてきたこと、18日後に六枚葉が展開したこと、21日後にさらに次の葉が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0035】
各検体について、播種から25日経過後のルッコラの葉の長さを測定し、結果を図3のグラフに示す。図3中、コントロールはマイクロ波をいずれの段階でも照射しなかった検体である。図3のグラフより、乾燥種子や吸水種子にマイクロ波を照射してもコントロールと比べて葉の成長(長さ)が若干遅くなった。また、発芽段階及び子葉段階にマイクロ波を照射した場合にも、コントロールと比べて葉の成長(長さ)に差はないことが分かった。一方、本葉が出始めた10日目にマイクロ波を照射開始することで葉の長さは種子やコントロールに比べて28%程度成長が促進することが分かった。さらに、14日目の本葉が展開した時期にマイクロ波照射すると、種子やコントロールに比べて31%程度成長が促進することが分かった。一方、六枚葉が出てくる16日以降にマイクロ波を照射しても本葉の出始めや一部展開時期に比べて成長が劣ることが分かる。
【0036】
上記と同様の実験を、マイクロ波の出力を制御して20Wに弱めて行った。マイクロ波照射の効果として葉の長さ8%程短くなったが、照射開始時期と葉の長さの傾向に変化がないことが分かった。
【0037】
[実施例3]
栽培対象としてトマト(双子葉植物綱;ナス科)を選定し、その種子を定法通りに土壌に播種した。複数のトマトの種子検体に、種および苗の異なる時期に、マイクロ波照射を開始した。具体的には、種子の段階、播種直後、播種から9日後、10日後、13日後及び15日後の6段階に分けて、複数の検体に2.45GHz帯のマイクロ波を25W及び50Wの2種類の出力でそれぞれ照射開始した。なお、マイクロ波は4つの種又は芽毎に照射されるようにした。マイクロ波照射源としてマグネトロン発振器を用い、検体から24cmの距離を隔てて照射した。なお、種子は、含水種子を使用した。
【0038】
播種からの経過時間毎の葉の生育状態としては、9日後に子葉が出たこと(完全二枚葉)、10日後に第1本葉が出てきたこと、13日後に第1本葉が完全に展開したこと、15日後に六枚葉(第二本葉)が出てきたことがそれぞれ観察された。
【0039】
観察したトマトの葉の生育状態として、完全二枚葉(子葉:9日目))、四枚葉(第1本葉:10日目)出始め、四枚葉展開(13日目)、六枚葉出始め(15日)の様子を表す写真を、図4(A)〜4(D)にそれぞれ示す。また、マイクロ波を種々の時期に照射した場合における播種後47日目の苗の高さを図5のグラフに示す。図5には、マイクロ波の出力(25W、50W)毎に示した。図5のグラフより、種子や子葉の段階でマイクロ波を照射しても、コントロールに比べて成長促進は観測されなかった。一方、本葉出始め及び展開段階においてマイクロ波を照射開始することで、成長が促進していることが分かり、特に、第1本葉の展開段階にマイクロ波を照射すると最も成長が促進することが分かった(25Wのときは、種子に照射した場合の2倍以上、子葉に照射した場合の1.5倍以上の茎成長が見られる)。六枚葉、すなわち第2本葉の段階では成長促進効果が見られないことも分かった。また、マイクロ波の出力は、50Wよりも25Wの方が本葉出始め及び本葉展開の時期にマイクロ波を照射した場合に苗の成長が促進されることが分かった。
【0040】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。実施例で用いたシロイヌナズナは、その生長、生殖などに関する遺伝子が、他の植物と多くが共通しており、シロイヌナズナの遺伝子に関する研究の成果は、他の植物にも幅広く応用されていることから、シロイヌナズナの実施例は他の品種に同様の結果をもたらすことが推測される。他の双子葉植物種として、レタス(双子葉植物綱;キク科、品種:ジェンティリナグリーン)、ジャガイモ(双子葉植物綱;ナス科)などにおいても実施例1〜3と同様に第1本葉の出始めから第2本葉の出る前までの間にマイクロ波の照射を開始することで生育促進効果が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、植物の苗の成長促進のためにマイクロ波の照射を第1本葉が出てから第2本葉の出る前のいずれかの時期に開始することとしたので、低電力で且つ著しく植物の成長を促すことができる方法を確立することができた。それゆえ、本発明の方法を用いることで、植物の成長及び収穫の効率を向上でき、植物工場や露地栽培などの農業の分野に貢献することができる。
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