【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.軸筒内に、筆記具用インキ組成物を充填したインキ収容筒と、当該インキ収容筒の前方部にボールペンチップと、を具備したボールペンレフィルを収容してなり、
少なくとも前記ボールペンチップが前記軸筒の前端開口部から突出した状態で前記軸筒内に設けた加圧機構を作動させ、前記筆記具用インキ組成物の後端に圧力を加える加圧式ボールペンであって、
前記ボールペンチップが、当該ボールペンチップの前端開口部から一端部を突出させ回転可能に配設された筆記用ボール体と、当該筆記用ボール体を前記ボールペンチップの前端開口部から抜けないよう保持するカシメ部と、前記筆記用ボール体が筆記時に当接し当該筆記用ボール体を支持する底壁とを備え、
前記ボールペンチップの外側に、前記カシメ部を覆うように配設した保護カバーを有しており、
前記カシメ部よりも前方に前記保護カバーの先端外縁が位置し、且つ前記筆記用ボール体の外周部と前記保護カバーの前端外周部とを結ぶ接線より前記カシメ部が後方に位置し、筆記時にカシメ部が筆記面に当接しないよう構成したことを特徴とする加圧式ボールペン。
2.前記保護カバーが、当該保護カバーの内面を前記カシメ部に当接した状態で前記ボールペンチップに固定されることを特徴とした前記1項に記載の加圧式ボールペン。
3.前記ボールペンレフィルを後方に押圧することにより前記加圧機構が作動し、前記筆記具用インキ組成物の後端に圧力を加えることを特徴とした前記1項または2項に記載の加圧式ボールペン。
4.前記加圧機構が、前記ボールペンレフィルの後方に内外を連通する空気孔を有するシリンダーと、前記シリンダーの後方に当該シリンダーに対し前後動可能に配設したピストンと、前記シリンダーの内方に前記ボールペンレフィルの後部内孔と前記ピストンとの間を連通する加圧室と、前記シリンダーと前記ピストンとの間に圧縮状態で配置された第一の弾発部材と、を備えたことを特徴とする前記1項ないし3項のいずれか1項に記載の加圧式ボールペン。
5.前記筆記具用インキ組成物の後端に加える圧力は、大気圧を1000hPaとした場合、1000hPaより高く、1500hPa以下としたことを特徴とする前記1項ないし4項のいずれか1項に記載の加圧式筆記具。」である。
尚、本発明で、「前方」とは、ボールペンレフィルのボールペンチップ側を指し、「後方」とは、その反対側を指す。また、「内方」とは、軸筒の外周部から軸心に向かう方向を指し、「外方」とは、その反対方向を指す。
【0007】
本発明によれば、軸筒内に設けた加圧機構を作動することで筆記具用インキ組成物の後端に圧力が加えられる。このため、筆記時に筆記具用インキ組成物の流出量が増えることで、筆跡濃度の向上、筆記時のかすれの防止、ボールペンチップの先端を上向きにして筆記しても空気の巻き込みを防止すること等の効果を奏する。
また、ボールペンチップの外周を保護カバーで覆い、カシメ部よりも前方に保護カバーの先端外縁が位置し、且つ筆記用ボール体の外周部と保護カバーの前端外周部とを結ぶ接線より前記カシメ部が後方に位置することで、筆記時にボールペンチップ先端のカシメ部が筆記面に当接しないよう構成してある。更に、微少な凹凸を有する筆記面であっても、カシメ部が筆記面に当接することはなく、確実にカシメ部を保護することができるため、カシメ部への負荷が軽減され、カシメ部が破損または変形することで発生するインキ流出量の異常な増加や筆記用ボール体の抜け落ち、筆記用ボール体の回転に異常が出ることによる筆記感の低下を防ぐことができる。また、ボールペンチップの長手方向において、保護カバーによりカシメ部が外部に露出することがなくなるため、筆記時、非筆記時を問わずカシメ部の損傷を抑制することができる。
【0008】
また、保護カバーは、筆記時に筆記面と当接しても筆記感が低下しないよう、その表面粗さ(平均表面粗さRa)を6.3μm以下にすることが好ましく、1.6μm以下にすることがより好ましい。
更に、保護カバーの先端部は筆記面と当接した際に滑り易いように前方(外方)に向かって突出した曲面状に形成し、筆記面と点接触するように形成することが好ましい。
また、前記保護カバーは筆記面に当接した状態で筆記を続けても磨耗し難いように、硬い樹脂や金属材料で形成することが好ましい。
【0009】
尚、保護カバーを構成する材料は、樹脂であればPP、ポリカーボネート、アクリル、ポリアセタール、ABS、PC等から選択することができ、更に潤滑性が向上するよう潤滑成分を材料に含有させてもよい。
また、保護カバーを金属で形成する場合は、切削性から黄銅やアルミが好適に使用でき、潤滑性及び耐久性を向上させるため、表面に潤滑性のある表面処理を施してもよい。潤滑性の表面処理としては、例えば無電解ニッケルメッキ、スズ−コバルトメッキ等のメッキ処理、またはアルマイト等による酸化皮膜処理などから選択することができる。
【0010】
また、本発明の加圧式ボールペンにおいて、加圧機構を作動させる加圧方式は特に限定されることはなく、筆記時の筆圧によりボールペンレフィルが後方へ移動することで加圧機構を作動させ、筆記時のみ筆記具用インキ組成物の後端に圧力を加える筆圧加圧式を採用してもよく、ノック体を押圧(ノックする)またはキャップを軸筒後端部に嵌合することで加圧機構を作動させ、常時、筆記具用インキ組成物の後端に圧力を加えるノックまたはキャップ加圧式を採用してもよい。
【0011】
更に、加圧式ボールペンにおいては、非加圧式のボールペンと比較して、筆記時にボールペンレフィル内の筆記具用インキ組成物に加圧力が掛かっているため、筆記用ボール体の抜け防止用に形成してある前記カシメ部にも筆記時に負荷が掛かった状態となる。このため、保護カバーの内面がボールペンチップのカシメ部に当接するように構成することで、筆記時に筆記用ボール体が後方から押圧された際のカシメ部への負荷を低減し、カシメ部がインキの圧力や筆記用ボール体を前方に押圧するバネにより破損または変形することを防止し、インキ流出量の異常な増加や筆記用ボール体の抜け落ち、筆記用ボール体の回転に異常が出ることによる筆記感の低下を防止することができる。
【0012】
また、前述したように、本発明の加圧式ボールペンにおける加圧機構は特に限定されないが、筆圧が掛かったときにボールペンレフィルが後退することで加圧する構成(筆圧加圧式)にすることで、筆記時以外(保管時や携帯時など)は筆記具用インキ組成物の後端に加圧力が加わらないため、ボールペンチップ先端からのインキ漏れを防止できる。
【0013】
更に、前記加圧機構は、前記ボールペンレフィルの後部内孔にシリンダーの前部、シリンダーの後端開口部内にピストンの前部をそれぞれ装着することが好ましく、この場合、シリンダー及びピストンの装着方向が一致して装着し易くなる効果を奏する。
また、シリンダーは後部に対して前部を縮径して形成することが好ましく、シリンダーの縮径した前部をボールペンレフィルの後部内孔に装着することで、軸筒に収納可能であればインキ収容筒をシリンダーの外径に影響されること無く太く形成できるようになるため、インキ収容筒の容量を増やすことができる。
尚、ボールペンレフィル内が無制限に加圧されるとボールペンチップの先端からのインキ流出量が多くなりすぎることから、シリンダーに対してピストンの前後への移動距離はストッパーを設けて制限することが好ましい。
【0014】
また、前記筆記具用インキ組成物の後端に加える圧力は、大気圧を1000hPaとした場合、1000hPaより高く、1500hPa以下とすることで、安定したインキ消費量を得られやすく、且つ加圧した状態でのボールペンチップ先端部からのインキ漏れを抑制することができ好ましい。また、筆記具用インキ組成物の後端に加える圧力は、インキ漏れを抑制する効果が更に高まるため、1200hPa以下とすることがより好ましい。
尚、前記筆記具用インキ組成物の後端に加える圧力は、加圧前と加圧後の圧縮空間の体積変化量を測定して計算によって測定することができる。この時、20℃、大気圧を1000hPaとして計算を行う。
【0015】
また、本発明に用いる筆記具用インキ組成物は、油性インキ、水性インキ、剪断減粘性インキなど、特に限定されるもののではないが、筆記状態であっても筆記面から筆記先端が離脱した際(筆圧がかかっていない状態)では非加圧となるため、粘度の比較的低いインキに好適に用いることができ、加圧によるインキ流出量の増加、筆跡濃度の向上を得ることができるため、マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキや非浸透面に筆記する筆記具に用いてもよい。また、金属製のカシメ部が当接することで、筆記面に傷をつける虞があるが、潤滑性の高い材料、好ましくは樹脂製の保護カバーとすることで、こうした傷の発生を抑制する効果を奏する。
【0016】
尚、非浸透面上への筆記は筆記面が極端に平滑であることが多く、筆端部のボール回転に向けた駆動力が生じ難い。そのため、筆記時に筆記具用インキ組成物の後端に加えられた加圧力によって、ボール受け座周辺に潤滑性良好なインキが充たされ回転抵抗を低減すること、更には、平滑な筆記面上に粘度を有したインキが移行することで回転環境が形成できる。
【0017】
また、前記ボールペンレフィルの単位面積当たりのインキ消費量値を0.7〜1.5mg/cm
2とすることで、前記した筆跡濃度を得られやすい。更に、インキ消費量値が0.7〜1.2mg/cm
2とすることが好ましい。尚、良好な筆跡を得るには、筆跡幅は、ボール径よりも小さくすることが重要であり、加圧状態での筆跡幅としては、ボール径の65%〜95%が好ましく、より好ましくは、70%〜90%である。
【0018】
尚、筆跡幅は、前記筆記によって得られた筆跡をISO13660に準じて、筆跡幅(mm)は、反射率の60%以下の領域の平均値を測定したもので、本願発明における筆跡幅は、パーソナル画質評価装置(QEA(Quality Engineering Associates)社製、PIAS−II)によって求めることができる。尚、本発明においては、15箇所測定し、その平均値によって求めることができる。
【0019】
また、ボールペンチップとしては、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部に筆記用ボール体を抱持してなるもの、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部に筆記用ボール体を抱持してなるもの、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持する筆記用ボール体をコイルスプリングにより前方に付勢させたもの等を適用できる。
【0020】
また、前記筆記用ボール体は、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等からなる汎用のものが適用でき、直径0.1mm〜2.0mm、好ましくは0.2mm〜1.2mmの範囲のものが好適に用いられる。特に、ボール径が0.5mm以下の小径のものでは、筆記距離に対するボールの回転数が多く、非浸透面に筆記し難くなることから、本発明がより好適に作用するので、ボール径が0.5mm以下のボールペンレフィルに使用することが最も効果的である。
【0021】
前記ボールペンチップの内部形状も特に限定されるものではないが、チップ本体に、ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本、例えば2〜6本のインキ流通溝とを有しており、前記ボール抱持室の底壁に、略円弧面状のボール座を設け、前記ボール座にφ0.5mm以下の筆記用ボール体を載置させ、当該筆記用ボール体の一端部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなり、前記チップ前端部の内壁に、略円弧面状のシール面を形成するとともに、ボールの縦方向のクリアランスが15〜40μmとすることで、安定した筆跡と、ボール座の磨耗を抑制することができるので好ましい。
【0022】
これは、前記ボール抱持室の底壁に、略円弧面状のボール座を設けることで、筆記用ボール体とチップ本体の接触面積が増加するため、座の磨耗が抑制するためと考えられる。但し、ボール座を形成することで、ボール抱持室のボールを除く空間(体積)が減少するため、インキ消費量は減少する傾向となるが、本発明の加圧式筆記具においては、加圧力によってインキを多く吐出することが可能となる。特に、前記ボール座にボール径0.5mm以下のボールを載置させたボールペンにおいては、ボール座の磨耗が顕著であるため、本発明の効果は顕著であり、ボールの縦方向のクリアランスが15〜40μm、好ましくは、20〜30μmとすることで、安定した筆跡と、チップ先端からのインキ漏れを抑制することができる。
【0023】
前記筆記具用インキ組成物を収容するインキ収容筒は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属材料が用いられ、インキの低蒸発性、生産性の面でポリプロピレンが好適に用いられる。また、加圧状態を維持するため、EVOHなどのガスバリア性の材料を、単層や多層、他の材料に積層するなど適宜用いることができる。
【0024】
更に、筆記具用インキ組成物の後端部にはインキ追従体(液栓)を配することもできる。前記インキ追従体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ追従体としては、ポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油、精製鉱油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等を添加することもできる。また、固体のインキ追従体としては樹脂成形物が挙げられる。前記液状及び固体のインキ追従体は併用することも可能である。
【0025】
また、筆記具用インキ組成物は、染料または顔料のどちらを含有してもよいが、顔料を含有することが好ましい。顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、アルミニウム顔料、パール顔料、可逆熱変色性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、熱変色性顔料、補色顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。
【0026】
更に、必要に応じて、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0027】
更にまた、紙面への定着性や粘性を付与、非浸透面上での筆跡定着性を向上させために水溶性樹脂や樹脂エマルジョンを添加することが好ましい。前記水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。前記樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。前記水溶性樹脂や樹脂エマルジョンは一種又は二種以上を併用することができ、インキ組成中1〜30重量%の範囲で用いられる。
【0028】
その他、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、ノニオン系の界面活性剤を使用してもよい。
【0029】
更に、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α−トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、α−リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等を添加して化学的に気泡を除去することもできる。
【0030】
また、N−ビニル−2−ピロリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピペリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式等、常時、ペン先が露出する形態での機能を高めることもできる。
【0031】
更に、潤滑剤を使用することができ、例えば、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、β−アラニン型界面活性剤、N−アシルアミノ酸、N−アシルメチルタウリン、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α−リポ酸、N−アシル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。