特開2018-124210(P2018-124210A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 杏林製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2018124210-被検対象物の分析方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-124210(P2018-124210A)
(43)【公開日】2018年8月9日
(54)【発明の名称】被検対象物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20180713BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20180713BHJP
【FI】
   G01N30/88 C
   G01N30/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-17831(P2017-17831)
(22)【出願日】2017年2月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江口徹
(72)【発明者】
【氏名】船田恵子
(72)【発明者】
【氏名】池田圭孝
(57)【要約】

【課題】
本発明は、両性化合物を、イオンペア試薬を使用することなく逆相液体クロマトグラフィーで分離することを課題としている。
【解決手段】
分子量250以上の両性化合物を逆相液体クロマトグラフィーにより精製する方法であって、該逆相液体クロマトグラフィーは、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムを用いて行い、イオンペア試薬を用いないことを特徴とする方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量250以上の両性化合物を逆相液体クロマトグラフィーにより精製する方法であって、該逆相液体クロマトグラフィーは、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムを用いて行い、イオンペア試薬を用いないことを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカラムが、コアシェルカラムを用いている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載のカラムがフェニルヘキシルカラムまたはペンタフルオロフェニルプロピルカラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
移動相として、揮発性の酸性物質を添加した水系溶媒を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸性物質としてトリフルオロ酢酸を用いる、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両性化合物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両性化合物は分子内に酸性官能基と塩基性官能基の両方を有しているため、その極性は高く、逆相液体クロマトグラフィーにより分離しようとすると、カラムに保持されず分離が難しい。
【0003】
高極性成分の分析方法として、移動相にイオンペア試薬(アルキルスルホン酸塩、有機アンモニウム塩等)を添加することで、分離対象化合物とイオンペアを形成させ、カラムへの保持力を上げる方法が知られている(非特許文献1)
しかし、イオンペア試薬は質量分析においては夾雑物であり、さらに質量分析装置内に残存するため、その後の計測にも夾雑物として現れる。このため、イオンペア試薬を用いる従来法では、LC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析装置)を行うことが困難であった。
【0004】
イオンペア試薬を用いない方法として、エチレン架橋型親水性相互作用クロマトグラフィー用カラムを用いる方法(特許文献1)、セルロースやアミロース等の多糖が担体の表面に結合した分離剤を用いる方法(特許文献2)、多官能固定相及び弱アルカリ性の移動相を用いる方法(特許文献3)が知られている。
また、カラムへの保持時間を長くするために、移動相の流速を下げる方法が知られているが、一般に移動相の流速を下げるとピークが広がり、感度低下及び分離能低下等が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−95165
【特許文献2】国際公開第2012/033194号
【特許文献3】特開2009−222421
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Annal.Chem.2006,78,6573−6582.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、移動相にイオンペア試薬を添加することなく、両性化合物を逆相液体クロマトグラフィーで分離することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、分子量250以上の両性化合物に関しては、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、分離分析が可能であることを見出した。フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムと、分子量250以上の両性化合物は親和性が高く、従来両性化合物の分離分析には必要とされたイオンペア試薬を用いずとも、移動相の流速を下げずとも、分離分析が可能な程度の保持時間を達成できる。
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕分子量250以上の両性化合物を逆相液体クロマトグラフィーにより精製する方法であって、該逆相液体クロマトグラフィーは、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムを用いて行い、イオンペア試薬を用いないことを特徴とする、上記方法。
〔2〕〔1〕に記載のカラムが、コアシェルカラムを用いている、〔1〕記載の方法。
〔3〕〔1〕に記載のカラムがフェニルヘキシルカラムまたはペンタフルオロフェニルプロピルカラムである、〔1〕に記載の方法。
〔4〕移動相として、揮発性の酸性物質を添加した水系溶媒を用いる、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕酸性物質としてトリフルオロ酢酸を用いる〔4〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオンペア試薬の添加を必要とせずに分子量250以上の両性化合物の分離分析が可能である。イオンペア試薬は質量分析において夾雑物となるが、本件発明における分析法では、イオンペア試薬が不要であり、分離試料をそのまま質量分析に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】シンメトリー係数(S)を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳細に説明する。
本発明において、両性化合物とは、分子内に酸性官能基と塩基性官能基の両方を有している。酸性官能基とは、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基など、官能基に含まれる水素がイオン交換する性質を有する官能基を意味する。塩基性官能基とは、アミノ基、4級アンモニウム塩、アミド基等の、分子中において水素イオンを受け取る性質を有する官能基を意味する。
【0012】
両性化合物の例として、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、トスフロキサシン、シプロフロキサシン、シタフロキサシン、プルリフロキサシン、パズフロキサシン、若しくは7−[(3S,4S)−3−{(シクロプロピルアミノ)メチル}−4−フルオロピロリジン−1−イル]−6−フルオロ−1−(2−フルオロエチル)−8−メトキシ−4−オキソ−1,4−ジヒドロキノリン−3−カルボン酸等のキノロン化合物、アズトレオナム、セファレキシン、フェキソフェナジン、ドロキシドパ、またはメサラジン等が挙げられるが、好ましくはキノロン化合物が挙げられる。
また、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムに対する親和性が高いという点で、分子量250以上の両性化合物が好ましい。分子量250以上の両性化合物として、アズトレオナム、セファレキシン、フェキソフェナジンまたはオフロキサシン等のキノロン化合物が挙げられる。より好ましい分子量として、250以上600以下が挙げられ、さらに好ましくは300以上550以下、特に好ましくは330以上500以下が挙げられる。
【0013】
さらに、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムに対する親和性が高いという点で、分子内にカルボン酸基及びアミノ基を有する分子量250以上の両性化合物が好ましい。
【0014】
本発明において、コアシェルカラムとは、非多孔質のシリカ等の無孔性核の表面に、多孔性膜が結合している粒子を充填したカラムを意味する。コアシェルカラムは、核部分には試料分子が拡散しないため、粒子内拡散距離が短くなる。コアシェルカラムは、全多孔性カラムと比べ、高い理論段数を実現し検出感度が高いという点で、好ましい。
本発明において、フェニルアルキルカラムとは、フェニル基が、炭素数1〜6のアルキル基を介して、シリカゲルに化学結合した充填剤を用いたカラムである。フェニルアルキルカラムとして、フェニルエチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたフェニルエチルカラム、フェニルプロピル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたフェニルプロピルカラム、フェニルブチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたフェニルブチルカラム、フェニルペンチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたフェニルペンチルカラム、フェニルヘキシル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたフェニルヘキシルカラム等が挙げられるが、フェニルヘキシルカラムが好ましい。
【0015】
フェニルヘキシルカラムとして、例えば、Kinetex ミニボアカラム(Phenyl−Hexyl)、Kinetex ミッドボアカラム(Phenyl−Hexyl)、Kinetex 分析カラム(Phenyl−Hexyl)、Ascentis Express Phenyl−Hexyl カラム、ACQUITY UPLC CSH Phenyl−Hexyl Column、XSelect CSH Phenyl−Hexyl Column等が挙げられる。
フェニルヘキシルカラムの中でも、Kinetex ミニボアカラム(Phenyl−Hexyl)、Kinetex ミッドボアカラム(Phenyl−Hexyl)、Kinetex 分析カラム(Phenyl−Hexyl)、Ascentis Express Phenyl−Hexyl カラム等のコアシェルカラムが好ましい。特に好ましくはAscentis Express Phenyl−Hexyl カラムが挙げられる。
【0016】
本発明において、ペンタフルオロフェニルアルキルカラムとは、ペンタフルオロフェニル基が、炭素数1〜6のアルキル基を介して、シリカゲルに化学結合した充填剤を用いたカラムである。例えば、ペンタフルオロフェニルエチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたペンタフルオロフェニルエチルカラム、ペンタフルオロフェニルプロピル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたペンタフルオロフェニルプロピルカラム、ペンタフルオロフェニルブチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたペンタフルオロフェニルブチルカラム、ペンタフルオロフェニルペンチル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたペンタフルオロフェニルペンチルカラム、ペンタフルオロフェニルヘキシル基がシリカゲルに化学結合した充填剤を用いたペンタフルオロフェニルヘキシルカラム等が挙げられるが、ペンタフルオロフェニルプロピルカラムが好ましい。
【0017】
ペンタフルオロフェニルプロピルカラムとして、例えば、Kinetex ミニボアカラム(PFP)、Kinetex ミッドボアカラム(PFP)、Kinetex 分析カラム(PFP)、Ascentis Express F5 カラム、COSMOSIL 5PFP Packed Column、ACQUITY UPLC CSH Fluoro Phenyl Column、ACQUITY UPLC HSS Fluoro Phenyl Column、XSelect CSH Fluoro Phenyl Column、XSelect HSS Fluoro Phenyl Column、YMC−Triart PFP、TCI Stella PFP等が挙げられる。
ペンタフルオロフェニルプロピルカラムの中でも、Kinetex ミニボアカラム(PFP)、Kinetex ミッドボアカラム(PFP)、Kinetex 分析カラム(PFP)、Ascentis Express F5 カラム等のコアシェルカラムが好ましい。特に好ましくはAscentis Express F5 カラムが挙げられる。
【0018】
なお、「Kinetex」はフェノメネクス社の登録商標、「COSMOSIL」はナカライテクス株式会社の登録商標、「Ascentis」は、シグマアルドリッチ社の商品名である。
【0019】
炭素数1〜6のアルキル基とは、直鎖または分岐鎖状の炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、ヘキシル基などを挙げることができる。
【0020】
本発明の移動相は、水系溶媒と有機溶媒を用いることができる。
水系溶媒には、酸性物質を添加すること好ましい。酸性物質を加えることにより、両性化合物中の塩基性官能基が水素イオンを受け取り、分子全体としてはプラスに荷電する。プラスに荷電した状態の両性化合物は、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムに対する親和性がよく、カラム保持時間が長くなる。移動相に添加する酸性物質として、トリフルオロ酢酸、ギ酸、リン酸等が挙げられる。本発明においては、イオンペア試薬を用いないため、LC−MSが可能である。LC−MSを行うことを考えると、トリフルオロ酢酸、ギ酸または酢酸等の、常温で液体が気体となる、揮発性の酸性物質が好ましい。より好ましくはトリフルオロ酢酸が挙げられる。
【0021】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール若しくはプロパノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、またはアセトニトリルを用いることができるが、これらに限定されない。好ましくは、アセトニトリルまたはメタノールが挙げられる。
水系溶媒と有機溶媒の混合割合については、下記式(1)で表される値(C)が、1%以上100%以下、より好ましくは30%以上100%以下、さらに好ましくは50%以上100%以下、さらにより好ましくは、65%以上95%以下、さらに好ましくは65%以上92%以下が挙げられる。
【0022】
【数1】
本発明においては、イオンペア試薬を用いないため、LC−MSが可能である。LC−MSとは液体クロマトグラフィーと質量分析装置を連結したシステムである。測定対象試料を、液体クロマトグラフィー(LC)を用いて分離を行い、次に、得られたLC溶出液を質量分析装置(MS)に導入し、イオン化させたのち、そのイオンを検出する。LC溶液中に含まれていた、化合物由来のイオン(親イオン)が生成するので、当該イオンのm/z比を検出することで、化合物の存在の有無が確認できる。この際、適切なスキャン法を選択することができる。
【0023】
質量分析装置(MS)としては、四重極質量分析計、イオントラップ質量分析装置、飛行時間型質量分析器、磁場型質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器(FT−ICR)が挙げられるが、本発明に使用する装置としては、特に種類は問わない。また、イオン化法についても、エレクトロスプレーイオン化法(Electrospray Ionization、ESI)や大気圧イオン化法(Atmospheric Pressure Chemical Ionization、APCI)等があるが、種類は問わない。
【0024】
本発明に記載の精製方法は、使用する移動相の流速を、従来のイオンペア試薬を添加した分析方法と、同等の流速またはより早い流速を採用することができる。
同等の流速とは、従来の分析方法で使用していた流速±0.2mL/minであり、より好ましくは±0.1mL/min、さらに好ましくは±0.05mL/minの流速である。
【0025】
本発明に記載の精製方法について、移動相の流速として好ましくは、0.5mL/min以上、より好ましくは、0.5mL/min以上3.0mL/min以下、さらに好ましくは、0.6mL/min以上1.5mL/min以下、より好ましくはより好ましくは、0.7mL/min以上1.0mL/min以下が挙げられる。
本発明に記載の精製方法は、従来のイオンペア試薬を添加した分析方法の流速と同等または早い流速を使用できるため、目的物である両性化合物ピークの、テーリングおよびリーディングを抑制できる。
【0026】
ピークのテーリングとは、ピークの前半部分の傾きよりも後半部分の傾きがなだらかになる現象であり、テーリングしているピークはシンメトリー係数(S)が1以上を示す。また、ピークのリーディングとは、ピークの前半部分の傾きが、後半部分の傾きよりもなだらかになる現象であり、シンメトリー係数(S)が1以下を示す。精製効果という点では、テーリングやリーディングのない対称なピークが好ましい。
【0027】
シンメトリー係数とは、ピークの対称性の度合いを示す係数であり、下記式(2)で表される値(S)である。シンメトリー係数は、1に近いほどピーク形状が正規分布に近いことを意味し、好ましくは、0.7以上1.3以下、より好ましくは0.8以上1.2以下、さらに好ましくは0.9以上1.1以下が挙げられる。
【0028】
【数2】
(式(2)中、W0.05hは、ピークのベースラインからピーク高さの1/20の高さにおけるピーク幅を意味し、fは、W0.05hのピーク幅におけるピーク開始点から、当該ピーク開始点を含む水平線と、ピーク頂点から横軸へ下ろした垂線との交点までの距離を意味する)。シンメトリー係数を説明するための概念図を図1に示す。
本発明に記載の精製方法について、被検対象物である両性化合物の保持時間は、10分以上であることが好ましい。より好ましい保持時間として15分以上、さらに好ましくは20分以上50分以下、より好ましくは20分以上40分以下が挙げられる。
【0029】
(一般的分析方法)
1.分子量250以上の両性化合物を、水、アルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、またはアセトニトリルからなる群から選ばれる1または2以上の溶媒で溶解し、試料溶液を調整する。
2.移動相を選択する。移動相は水系溶媒と有機溶媒の混合用液を用いる。水系溶媒としては、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸等の酸性物質を含有していてもよい水を用いることができる。有機溶媒としては、アルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、またはアセトニトリルから選ばれる群から1または2以上選ばれる有機溶媒を用いることができる。
3.フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムに試料溶液をチャージし、移動相を流し、両性化合物の保持時間を測定する。
【0030】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)
アズトレオナム(分子量:435.43)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用メタノール混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。アズトレオナムの保持時間は28.1分(シンメトリー係数:0.9)であった。




HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:254nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフェニルカラム(商品名Ascentis Express Phenyl-Hexyl、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用メタノール
送液:移動相A:移動相B=90:10
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例2)
セファレキシン(分子量:347.39)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用メタノール混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。セファレキシンは強く保持され、35分間以上の保持を有した。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:254nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフェニルカラム(商品名Ascentis Express Phenyl-Hexyl、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用メタノール
送液:移動相A:移動相B=80:20
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例3)
フェキソフェナジン(分子量:538.12)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。フェキソフェナジンの保持時間は25.9分(シンメトリー係数:1.0)であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:220nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフェニルカラム(商品名Ascentis Express Phenyl-Hexyl、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=70:30
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例4)
アズトレオナム(分子量:435.43)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用メタノール混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。アズトレオナムの保持時間は23.7分(シンメトリー係数:0.9)であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:254nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用メタノール
送液:移動相A:移動相B=90:10
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例5)
オフロキサシン(分子量:361.37)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。オフロキサシンの保持時間は21.2分(シンメトリー係数:1.6)であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:294nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=85:15
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例6)
セファレキシンを5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用メタノール混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。セファレキシンの保持時間は24.6分(シンメトリー係数:1.0)であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:254nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用メタノール
送液:移動相A:移動相B=80:20
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例7)
フェキソフェナジン(分子量:538.12)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。フェキソフェナジンの保持時間は21.9分(シンメトリー係数:1.0)であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:220nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=70:30
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(実施例8)
オフロキサシン(分子量:361.37)を5μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件でLC−MS/MS測定してオフロキサシンの分子量+1のMSを確認した。装置はWaters AQUITY UPLC H−Class/TQDを使用した。
HPLC条件
注入量:10μL
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=85:15
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
【0031】
質量分析条件
イオン化法はエレクトロスプレーイオン化を使用し、正イオンモードで測定した。キャピラリー電圧は3.50kV、source温度は150℃、desolvationガス温度は450℃に設定した。
実施例1〜8の結果、分子量250以上の両性化合物を、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムを用いて逆相液体クロマトグラフィー精製を行うと20分以上もの保持時間を示すことが分かる。イオンペア試薬を用いずとも、フェニルヘキシルカラムまたはペンタフルオロフェニルプロピルカラムに十分に保持し、分離分析が可能である。
【0032】
両性化合物は酸性官能基と塩基性官能基を有しているという構造的性質から、その分離分析には困難が伴う。一般に、分子内に酸性官能基を有している化合物を分離する場合は、移動相を酸性に調整し、分子内に塩基性官能基を有している化合物を分離する場合は、移動相を塩基性に調整する。これにより分子内の酸性官能基または塩基性官能基はイオン化せず分子型(非解離型)となる。分子形の化合物は、極性が低く、カラムに保持し易い。
しかし、両性化合物を分離する場合は、移動相を酸性にすると、両性化合物中の酸性官能基はイオン化しないが、塩基性官能基が水素イオンを受け取りイオン化し、分子全体としてはプラスに荷電した解離型となる。また、移動相を塩基性にした場合、逆の現象がおき、マイナスに荷電した解離型となる。解離型の化合物は、高極性でありカラムに保持されにくい。
【0033】
従来法では、移動相にイオンペア試薬を添加し、解離型の化合物とイオン対を形成させることで、カラムへの保持力をあげてクロマトグラフィー分離分析を行っていた。しかし、イオンペア試薬は質量分析においては夾雑物であり、さらに質量分析装置内に残存するため、その後の計測にも夾雑物として現れる。このため、イオンペア試薬を用いる従来法では、LC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析装置)を行うことが困難であった。
本件発明は、分子量250以上の両性化合物と、フェニルアルキルカラムまたはペンタフルオロフェニルアルキルカラムの高い親和性を発見し、イオンペア試薬を用いなくとも、両性化合物の分離分析が可能な点を見出した点が特徴である。イオンペア試薬を用いていないため、LC−MSが可能となり、薬剤の薬効評価や、分解物の同定などの目的で、本法は非常に有用である。
【0034】
また、実施例1、4のアズトレオナムでは、シンメトリー係数0.9のピークが、実施例3、7のフェキソフェナジン、実施例6のセファレキシンではシンメトリー係数1.0のピークが得られている。本件発明の方法によると、移動相の流速を下げることなく保持時間を確保できるため、ピークのテーリング、リーディングが抑制でき、対称なピークが得られることも特徴である。
(比較例1)
オフロキサシン(分子量:361.37)を1μg/mLとなるように水/HPLC用アセトニトリル混液(6:1)で溶解して標準溶液とし、以下の条件で測定した。オフロキサシンの保持時間は20.4分であった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:294nm
カラム:内径4.6mm×長さ25cm,粒径5μmのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(商品名Inertsil ODS-3)
移動相:過塩素酸ナトリウム7.0g及び酢酸アンモニウム4.0gを水1300mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.2に調整し、アセトニトリル240mLを加えた液
流速:0.85mL/min
カラム温度:45℃
(比較例2)
オフロキサシン(分子量:361.37)を1μg/mLとなるように水/HPLC用アセトニトリル混液(6:1)で溶解して標準溶液とし、以下の条件で測定した。オフロキサシンの保持時間は9.7分であり、カラムへの保持は弱くなった。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:294nm
カラム:内径4.6mm×長さ25cm,粒径5μmのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(商品名Inertsil ODS-3)
移動相:酢酸アンモニウム4.0gを水1300mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.2に調整し、アセトニトリル240mLを加えた液
流速:0.85mL/min
カラム温度:45℃
比較例1及び2は、ODSカラムを用いた分析である。移動相にイオンペア試薬を用いた場合、20.4分の保持時間を示すが(比較例1)、イオンペア試薬を用いないとカラムにうまく保持されず、9.7分と保持時間が半分になってしまう。ODSカラムを用いた場合は、イオンペア試薬が必要であることが分かる。
(比較例3)
ドロキシドパ(分子量:213.19)を50μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。ドロキシドパの保持時間は2.3分であり、カラムには十分に保持されなかった。分子量が小さい化合物は、本条件においても保持されにくいと推測される。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:220nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=95:5
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
(比較例4)
メサラジン(分子量:153.14)を50μg/mLとなるように0.5%トリフルオロ酢酸水溶液/HPLC用アセトニトリル混液(7:3)で溶解して試料溶液とし、以下の条件で測定した。メサラジンの保持時間は3.7分であり、カラムには十分に保持されなかった。分子量が小さい化合物は、本条件においても保持されにくいと推測される。
HPLC条件
注入量:10μL
測定波長:235nm
カラム:内径4.6mm×長さ15cm,粒径2.7μmのフルオロフェニルカラム(商品名Ascentis Express F5、シグマアルドリッチ社)
移動相A:0.5%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:HPLC用アセトニトリル
送液:移動相A:移動相B=95:5
流速:0.80mL/min
カラム温度:35℃
比較例3及び4は、分子量が250以下の両性化合物(ドロキシドパまたはメサラジン)の分析結果である。フルオロフェニルカラムとの親和性が弱く、保持時間が短いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本実施形態によれば、イオンペア試薬の添加を必要とせずに、分子量250以上の両性化合物の分離分析が可能であり、産業上有用である。
図1