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特開2018-128286ダイヤモンドアンビルセル及びこれを用いた高圧物性測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-128286(P2018-128286A)
(43)【公開日】2018年8月16日
(54)【発明の名称】ダイヤモンドアンビルセル及びこれを用いた高圧物性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20180720BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20180720BHJP
   C01B 32/25 20170101ALI20180720BHJP
【FI】
   G01N27/00 Z
   G01N27/04 Z
   C01B32/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-19915(P2017-19915)
(22)【出願日】2017年2月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年8月7日〜11日開催 東京大学物性研究所主催 第17回高圧力下の半導体国際会議と超伝導に関するジョイントワークショップ(HPSP)東京大学 山上会館(東京都文京区本郷7−3−1) 平成28年9月4日〜7日開催 Applied Superconductivity Conferences 主催 2016 Applied Superconductivity Conference Colorado Convention Center(Colorado Convention Center/Bellco Theatre/SMG 700 14th Street Denver,Colorado 80202 USA) 平成28年9月13日〜16日開催 公益社団法人応用物理学会主催 第77回応用物理学会秋季学術講演会 朱鷺メッセ(新潟県新潟市中央区万代島6−1) 平成28年9月13日〜16日開催 一般社団法人 日本物理学会主催 日本物理学会2016年秋季大会(物性)金沢大学 角間キャンパス(石川県金沢市角間町) 平成28年10月26日〜29日開催 日本高圧力学会主催第57回高圧討論会 筑波大学 大学会館(茨城県つくば市天王台1−1−1) 平成28年12月13日〜15日開催 国立研究開発法人産業技術総合研究所主催 29th International Superconductivity Symposium(ISS2016) 東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内3丁目5番1号) 平成28年12月20日〜22日開催 国立研究開発法人物質・材料研究機構主催 International Workshop on Superconductivity and Related Functional Materials 2016 国立研究開発法人物質・材料研究機構 千現地区(茨城県つくば市千現1−2−1)
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 凌
【テーマコード(参考)】
2G060
4G146
【Fターム(参考)】
2G060AA08
2G060AF07
2G060AF08
2G060AG10
4G146AA04
4G146AA17
4G146AB07
4G146AD22
4G146AD23
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC09
4G146BC25
4G146BC27
4G146BC33B
4G146BC38B
4G146BC45
4G146CB07
4G146CB16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微小空間であるダイヤモンドアンビルセル内に被測定試料を取り付けて、電気的物性が容易に測定できるダイヤモンドアンビルセルを提供する。
【解決手段】ダイヤモンドアンビルセルは、ダイヤモンド製圧子10と、被測定試料が置かれる電極パターン32(32a〜32d)が設けられたダイヤモンド基板30とを有し、電極パターン32はホウ素ドープダイヤモンド薄膜によりダイヤモンド基板30に設けられると共に、電極開口部を除く電極パターン32の上に絶縁層が積層された状態であることを特徴とする。これにより、微小空間であるダイヤモンドアンビルセル内に被測定試料を取り付けて、電気的物性が容易に測定できるダイヤモンドアンビルセルを提供することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組のダイヤモンドアンビルの対向平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加するダイヤモンドアンビルセルであって、
一方のダイヤモンドアンビルの、少なくとも前記被測定試料の接触面となる前記平面部に、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンを形成すると共に、
当該電極パターンを覆うように絶縁層を形成することを特徴とするダイヤモンドアンビルセル。
【請求項2】
前記絶縁層は、ホウ素を含有しないダイヤモンド薄膜により電極パターンを覆うように形成されることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項3】
前記電極パターンが前記絶縁層で覆われていない電極パッド開口部と、
前記電極パターンが前記絶縁層で覆われていない試料側電極開口部と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項4】
前記一方のダイヤモンドアンビルが、平板状のダイヤモンド基板からなり、
他方のダイヤモンドアンビルが、ダイヤモンド製圧子からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項5】
前記電極パターンが、前記被測定試料が置かれる試料側電極部と、外部の測定計器と接続するための電極パッド部と、前記試料側電極部と前記電極パッド部を電気的に接続するリード線部からなることを特徴とする請求項4に記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項6】
さらに、前記ダイヤモンド製圧子からなるダイヤモンドアンビルの突端が挿入される開口部が形成されたガスケットを有することを特徴とする請求項4又は5に記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧物性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧状況下での材料物性測定に有益なダイヤモンドアンビルセルに関し、特に電気的な特性を測定するのに適した電極パターンを有するダイヤモンドアンビルを備えたダイヤモンドアンビルセルに関する。
また、本発明は、これを用いた高圧物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドアンビルセルは、二つのダイヤモンド単結晶を一組の対向アンビルとした、一軸加圧装置である(例えば、特許文献1、2参照)。地球上最も硬い物質であるダイヤモンドをアンビルに用いることで、現在約200GPa以上の超高圧を発生させることができる。また、ダイヤモンドアンビルは透明であるため、X線等の分光により、高圧下の物質変化を直接的に観察・測定することができる。さらに、ダイヤモンドアンビルを通してレーザー光を導入することにより、試料によっては約4000℃に加熱することもできるため、高温高圧状況下での材料物性測定に有益である。
【0003】
他方で、ダイヤモンドは、22W/cmKの大きな熱伝導率を持つ世の中で最も硬い物質である。純粋なダイヤモンドは電気的には絶縁体である。しかし、ホウ素をドープするとダイヤモンドはホウ素が電荷アクセプタとしてふるまうp型半導体になる。このようにダイヤモンドは、純粋なものは高い絶縁耐性(10MV/cmより大)を持ち、ホウ素をドープしたものは大きなキャリヤ移動度をもつことから、高周波、高電力デバイスのような電気面での応用が期待される物質である。
【0004】
さらに、多量にホウ素をドープしたダイヤモンドは金属伝導性を示し、電気化学の分野において電極として使用されてきた。また、化学気相成長法により合成した、多量にホウ素をドープしたダイヤモンドが11.4Kで超伝導性を示すことも知られている。そこで、本発明者の一人は、超伝導性を有するホウ素ドープダイヤモンド薄膜を提案している(例えば、特許文献3参照)
【0005】
ところで、高圧下の電気的特性、例えば電気抵抗の測定は、微小空間であるダイヤモンドアンビルセル内に電極を挿入しなければならない。
【0006】
図6は、電気的特性を測定するための従来のダイヤモンドアンビルセルの構成側面図であり、(A)は要部構成図、(B)は被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図である。図において、ダイヤモンドアンビルセルは、ダイヤモンド製圧子10、ガスケット20、ダイヤモンド製支持部40を有している。
【0007】
ダイヤモンド製圧子10は、例えばブリリアントカットされたダイヤモンドからなり、頂部の平らなテーブル面11、上部の側面に設けられたクラウン12、上部と下部の境界であるガードル13、下部の側面に設けられたパビリオン14、平面部を有する先端に形成されたキュレット15で構成される。
【0008】
ガスケット20は、被測定試料(図示せず)をダイヤモンド製圧子10とダイヤモンド製支持部40で挟んだ状態を保持すると共に、キュレット15の先端平面で押圧されたときに圧縮されて、キュレットの先端平面とガスケット20のセンター穴21の壁で形成された密閉空間の高圧状態を保持するものである。
【0009】
ダイヤモンド製支持部40は、ダイヤモンド製圧子10の上下を反転させたもので、両者のキュレットの先端平面で被測定試料を押圧する。電極部材25は、被測定部材の電気的特性を測定するために用いられる。電極部材25には、例えば金箔やプラチナ箔を用いる。中央部分にセンター穴23が形成された絶縁シート22は電極部材25の絶縁を確保する。
【0010】
上記構成の従来のダイヤモンドアンビルセルを用いて被測定試料の電気的特性を測定する場合、ダイヤモンド製圧子10とダイヤモンド製支持部40のキュレットの先端には、電気絶縁部としてアルミナまたは窒化ボロンの絶縁シートを設け、被測定試料をダイヤモンド製支持部40のキュレットの先端に置く。次いで、ガスケット20のセンター穴21に圧力媒体である塩化ナトリウム等を入れる。そして、この状態でダイヤモンド製圧子10を用いて被測定試料を押圧しつつ、被測定試料の電気的特性を、電極部材25を用いて測定する。
【0011】
しかしながら、上記構成の従来のダイヤモンドアンビルセルにおいては、ダイヤモンド製圧子10とダイヤモンド製支持部40との関係では、電極部材25は固定されておらず、被測定試料の位置決めが非常に困難であった。
また、電極部材25として金箔やプラチナ箔が用いられるが、圧力により電極部材25も変形するため、加圧途中で断線したり、被測定試料との接点が破断したりとトラブルが多く、高圧状況下での材料物性測定は非常に難しいという問題があった。
電極部材25の絶縁に窒化ホウ素や酸化アルミニウム等の硬い絶縁体のシートを使用しているが、高圧力下で絶縁層が壊れ、ガスケットと電極が電気的に接触してしまう可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平05−200270号公報
【特許文献2】特開平09−171142号公報
【特許文献3】特開2006−9147号公報(特許第4759315号)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】G. J. Piermarini, S. Block, J. D. Barnett, and R. A. Forman, J. Appl. Phys. 46, 2774-2780 (1975).
【非特許文献2】A. Eiling and J. S. Schilling, J. Phys. F: Metal Phys. 11, 623-639 (1981).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、微小空間であるダイヤモンドアンビルセル内に被測定試料を取り付けて、電気的物性が容易に測定できるダイヤモンドアンビルセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
[1]一組のダイヤモンドアンビルの対向平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加するダイヤモンドアンビルセルであって、一方のダイヤモンドアンビルの、少なくとも前記被測定試料の接触面となる前記平面部に、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンを形成すると共に、当該電極パターンを覆うように絶縁層を形成することを特徴とするダイヤモンドアンビルセル。
[2]前記絶縁層は、ホウ素を含有しないダイヤモンド薄膜により電極パターンを覆うように形成されることを特徴とする[1]に記載のダイヤモンドアンビルセル。
[3]前記電極パターンが前記絶縁層で覆われていない電極パッド開口部と、前記電極パターンが前記絶縁層で覆われていない試料側電極開口部とを有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のダイヤモンドアンビルセル。
[4]前記一方のダイヤモンドアンビルが、平板状のダイヤモンド基板からなり、他方のダイヤモンドアンビルが、ダイヤモンド製圧子からなることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載のダイヤモンドアンビルセル。
[5]前記電極パターンが、前記被測定試料が置かれる試料側電極部と、外部の測定計器と接続するための電極パッド部と、前記試料側電極部と前記電極パッド部を電気的に接続するリード線部からなることを特徴とする[4]に記載のダイヤモンドアンビルセル。
[6]さらに、前記ダイヤモンド製圧子からなるダイヤモンドアンビルの突端が挿入される開口部が形成されたガスケットを有することを特徴とする[4]又は[5]に記載のダイヤモンドアンビルセル。
[7][1]から[6]のいずれかに記載のダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧物性測定装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のダイヤモンドアンビルセルによれば、一対のダイヤモンドアンビルの一方において電気的物性の被測定試料の接触面に、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンが形成されているので、高圧を当該接触面に発生させても、電極パターンの変形がなく、加圧途中での断線やサンプルとの接点の破断を防止でき、高圧状況下での材料物性測定が簡便に行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図で、要部構成側面図を示している。
図2図2は、本発明の別の実施形態を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図で、被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図を示している。
図3図3は、比較例を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図であり、(A)は要部構成側面図、(B)は被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図である。
図4図4は、比較例のダイヤモンドアンビルセルのダイヤモンド基板上に形成された6端子用の電極パターンを示す図で、(A)は電極パターンの全体平面図、(B)は電極先端の拡大平面図である。
図5図5は、鉛の超伝導転移温度とルビー蛍光から見積もった圧力の相関を示す図である。
図6図6は、従来のダイヤモンドアンビルセルの構成図であり、(A)は要部構成側面図、(B)は被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明のダイヤモンドアンビルセルは、一組のダイヤモンドアンビルの対向平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加するダイヤモンドアンビルセルであって、一方のダイヤモンドアンビルの、少なくとも前記被測定試料の接触面となる前記平面部に、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンを形成すると共に、当該電極パターンを覆うように絶縁層を形成することを特徴とするものである。
【0020】
図1は、本発明の実施形態を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図で、要部構成側面図を示している。図において、ダイヤモンドアンビルセルは、ダイヤモンド製圧子10、ガスケット20、ダイヤモンド基板30を有している。
【0021】
ダイヤモンド製圧子10は、例えばブリリアントカットされたダイヤモンドで、頂部の平らなテーブル面11、上部の側面に設けられたクラウン12、上部と下部の境界となるガードル13、下部の側面に設けられたパビリオン14、平面部を有する先端に形成されたキュレット15で構成される。キュレット15の平面部は被測定試料に圧接されるもので、平面部の大きさは被測定試料の形状に応じた測定用の密封空間の大きさに適合するように定める。
【0022】
ガスケット20は、被測定試料60をダイヤモンド製圧子10とダイヤモンド基板30で挟んだ状態を保持すると共に、ダイヤモンド製圧子10のキュレット15の平面部で押圧された時に圧縮されて、キュレット15の平面部とガスケット20のセンター穴21の壁で形成された密封空間の高圧状態を保持するものである。このガスケット20には、ここでは大略矩形の板材が用いられており、例えばプラスチック材料、セラミクス材料や金属材料が用いられる。センター穴21は、ガスケット20の中央部分に設けられるもので、キュレット15の平面部により高圧で押されることで、センター穴21の周縁部が押し潰されて、内部に密封空間を形成する。
【0023】
ダイヤモンド基板30は、単結晶でも多結晶でもよく、平板状となっている。ダイヤモンド基板30の表面30aには、絶縁層31、電極パターン層32、電極パッド開口部33a、33b、33c、33d、試料側電極開口部35が設けられている。
絶縁層31は、電極パターン層32a、32b、32c、32dを覆うように設けられていると共に、電極パッド開口部33a、33b、33c、33dと試料側電極開口部35を覆っていない。絶縁層31は、例えばホウ素を含有しないダイヤモンド薄膜により形成されている。
【0024】
電極パターン層32は、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により形成されているもので、ここで4端子の場合を示している。各電極パターン層32a、32b、32c、32dは、大略正方形の形状をしており、隣接する電極パターン層との間にはダイヤモンド基板表面30aが露出している。4個の電極パターン層32a、32b、32c、32dが集まるダイヤモンド基板表面30aの中心部には、試料側電極開口部35が設けられている。電極パターン層32の膜厚は0.01〜300μmであることが好ましい。膜厚が0.01μm以上であると、膜厚の均一性が確保しやすくなる。膜厚が300μm以下であると、化学気相成長法により格子欠陥の少ないホウ素ドープダイヤモンド薄膜を容易に形成することができる。
電極パッド開口部33a、33b、33c、33dは、電極パターン層32の電極露出部で、ダイヤモンド基板30の表面の四隅近傍に設けられており、絶縁層31で覆われていない。
試料側電極開口部35は、電極パターン層32の電極露出部であり、絶縁層31で覆われていないため、試料特性測定用の配線パターンが露出している。この試料特性測定用の配線パターンは、被測定試料60がダイヤモンド製圧子10で押圧された状態で、被測定試料60の電気的な特性を測定するのに適したものである。
【0025】
被測定試料60は、キュレット15の平面部とセンター穴21の周縁部で形成される密封空間に収容されている。被測定試料60は、ダイヤモンド基板30の試料側電極開口部35で露出した試料特性測定用の配線パターンと接触して、高圧状態での物理的特性が評価される。物理的特性としては、電気抵抗率、導電率やホール係数等がある。
【0026】
次に、電極パターンの具体例を説明する。図2は、本発明の別の実施形態を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図で、被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図を示している。
図2では、電極パターン層32が7端子の場合を示している。各電極パターン層32e、32f、32g、32h、32i、32j、32kは、図示しない電極パッド部と接続されていると共に、電極パッド開口部(図示せず)と試料側電極開口部35付近の領域を除いて、絶縁層31で覆われている。
試料側電極開口部35の直径は約100μm程度で、被測定試料60が置かれる試料側電極部が絶縁層31で覆われることなく露出している。
【0027】
図3は、比較例を示すダイヤモンドアンビルセルの構成図であり、(A)は要部構成側面図、(B)は被測定試料の接触面となる電極パターン付近の拡大分解斜視図である。なお、図3において、前記図1と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。
絶縁テープ22は、ガスケット20とダイヤモンド基板30の間に装着されるもので、ダイヤモンド基板30上に形成された電極パターン32の絶縁を確保する。センター穴23は絶縁テープ22の中央部分に設けられるもので、キュレット15の先端がガスケット20のセンター穴21を押す際の電気的絶縁を確保する。絶縁テープ22の材料としては、窒化ホウ素や酸化アルミニウム等の硬い絶縁体のシートが使用される。なお、絶縁シートに代えて、窒化ホウ素や酸化アルミニウム等の粉末体を用いた絶縁層としてもよい。
【0028】
図4は、比較例のダイヤモンドアンビルセルのダイヤモンド基板上に形成された6端子用の電極パターンを示す図で、(A)は電極パターンの全体平面図、(B)は電極先端の拡大平面図である。
この電極パターンは、例えば外部の測定計器と接続するための電極パッド部34aと、被測定試料と接触する試料側電極部34cと、電極パッド部34aと試料側電極部34cとを接続するリード線部34bを有している。試料側電極部34cは電極先端に対応している。
6端子用の電極パターンでは、電圧用の正極用と負極用としてVa、Va、Vb、Vbが設けられており、電流用の正極用と負極用としてI、Iが設けられている。6端子用の電極パターンでは、電気抵抗やホール係数の測定が可能である。
【0029】
従来例に対する比較例の利点としては、以下の事項がある。
(A) 被測定試料を試料側電極開口部に置くだけで、被測定試料の物理的特性が測定可能となる。
(B) 被測定試料と試料側電極との位置決めが容易である。
(C) 電極パターンの断線/短絡が生じない。
(D) ダイヤモンドアンビルセルが機械的・化学的に安定で劣化しない。
(E) 一方のダイヤモンドアンビルが平板状であり、試料の位置決めや電極の配線、片方のダイヤモンドアンビルとの平行軸および中心軸の校正を行い易く、また一つのダイヤモンドアンビル上に複数の電極パターンを描ける。
【0030】
比較例の問題点としては、以下の事項がある。
(A) ガスケット20(金属)と試料側電極・電極パターンとの間には絶縁層が必要である。
(B) 高圧力下で絶縁層(絶縁テープ22)が壊れ、ガスケット20と試料側電極・電極パターンが電気的に接触してしまう。
(C) 絶縁層(絶縁テープ22)の素材や厚みによって、最高到達圧力や圧力発生効率に悪影響が出る可能性がある。
【0031】
次に、ダイヤモンド基板上に電極パターンを成膜する製造工程について説明する。本発明の電極パターンには、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜が用いられる。このダイヤモンド薄膜は、化学気相成長法により形成された薄膜であり、超伝導性を示す。この薄膜の超伝導転移温度は、Tcオンセット値で11.4Kのものが得られているが、さらに高い温度のものが得られる可能性がある。この薄膜の結晶配向は、典型的には(111)配向であるが、これに限定されず、例えば(100)配向や(110)配向等のものであってもよい。(111)配向のホウ素ドープダイヤモンドは、たとえば(001)配向のものより1オーダー大きな比率でホウ素のドーピングを行うことができ、超伝導性の発現に有利である。また、この薄膜に多結晶ダイヤモンドを用いることも可能である。
【0032】
本発明において、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の形成には、化学気相成長法が使用されるが、その中でもマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法が好ましく使用される。成膜条件は以下のとおりである。
【0033】
原料ガスとしては、少なくとも炭素化合物及びホウ素化合物よりなり、水素を含む混合ガスを用いることができる。炭素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、エタノール等、炭素を含む種々の材料を用いることができる。ホウ素化合物としては、ジボラン(B)、トリメチルホウ素(B(CH)、酸化ホウ素(B)、ホウ酸(メタホウ酸、オルトホウ酸、四ホウ酸等)、固体ホウ素(B)等、ホウ素を含む種々の材料を用いることができる。原料ガスのB/C比は、たとえば100ppmから100000ppm、好ましくは1000ppmから24000ppmのものとすることができるが、これに限定されない。また、水素に対する炭素濃度は、たとえば0.1at.%から10at.%のものとすることができるが、これに限定されない。これらの値は、超伝導の発現、成膜性の観点から考慮される。
【0034】
成膜中の雰囲気圧力、基板温度、成膜時間等も、超伝導の発現、成膜性の観点から考慮される。なお、化学気相合成装置、反応炉の構成、構造については特に限定されることはない。本実施形態において、電極パターンは、例えば電子線リソグラフィー法を用いて所望のパターンに形成することができる。
【0035】
次に、ダイヤモンド基板上に絶縁層パターンを成膜する製造工程について説明する。本発明の絶縁層パターンには、ホウ素を含有しないダイヤモンド薄膜が用いられる。製造工程は、上記のダイヤモンド薄膜の製造工程に準じたものであるが、ホウ素化合物を使用しない点で相違する。
【0036】
前述したように、図6に示すような従来のダイヤモンドアンビルセルにおいては、ダイヤモンド製圧子とダイヤモンド製支持部との関係では、電極部材が固定されておらず、被測定試料の位置決めが非常に困難であった。
また比較例に示すダイヤモンド基板上に電極パターンを成膜したダイヤモンドアンビルを用いたダイヤモンドアンビルセルによれば、電極パターンはホウ素ドープダイヤモンド薄膜であってダイヤモンド基板に固定されているため、被測定試料の位置決めが容易となる。しかし、比較例の絶縁層には上述した問題点があった。
【0037】
これに対して、本発明の実施例によれば、以下の効果があるため、高圧力下での物理的特性の測定を容易に行うことが可能となる。
(A) アンビル自体が壊れるまで絶縁が保証される。
(B) 絶縁層の素材や厚みによって、最高到達圧力や圧力発生効率に悪影響が出る可能性がない。
(C) アンビル自体が機械的・化学的に安定で劣化しない。
【0038】
次に、ダイヤモンド基板表面上にホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンを作製し、次に絶縁層パターンを成膜する例について述べる。
まず、ダイヤモンド基板を、有機溶媒(アセトン)を用いた超音波法により洗浄した。合成は70Torrのチャンバ圧力、750Wのマイクロ波電力、800〜900℃の基板温度の条件下で、メタンとトリメチルボロンの水素中での希釈混合ガスを用いて行った。水素に対するメタン濃度は3%である。マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜を(100)配向ダイヤモンド基板上に形成した。30分の堆積後に厚さおよそ1μmの薄膜が得られた。この薄膜に対して電子線リソグラフィー法により、図2に示すパターンを持つ電極パターンを作製した。
【0039】
電極パターン上から、電子線リソグラフィー法により、図2に示す絶縁層パターンを作製した。その後、基板上にホウ素を含まないダイヤモンドを成膜した。合成は、上記のダイヤモンド薄膜の製造工程に準じたものであるが、ホウ素化合物を使用しない点で相違する方法で行った。電極パターンと絶縁層が形成されたダイヤモンド基板を用いて図1に示す構成のダイヤモンドアンビルセルを作製した。
【0040】
上記で作製したダイヤモンドアンビルセルの電極上に鉛を設置し、ガスケットには圧力媒体とルビーの粉末を充填し、加圧した。鉛の超伝導転移温度Tcとルビーの蛍光スペクトルを測定し、それぞれの測定結果から圧力を見積もった。測定値から圧力への変換は、それぞれ非特許文献1、2に記載の変換式を用いて行った。
【0041】
図5は、鉛の超伝導転移温度とルビー蛍光から見積もった圧力の相関を示す図である。この図から、鉛の超伝導転移温度Tcから見積もった圧力(GPa)とルビー蛍光から見積もった圧力(GPa)はよく一致していることがわかる。
【0042】
なお、上記の実施形態では、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の電極パターンとして四端子、六端子、七端子の電極パターンの場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、二端子電極パターン、八端子電極パターンやこれら以外の数の端子を有する電極パターンでもよい。二端子電極パターンの場合は、電気抵抗の測定や電熱ヒータの密封測定空間への導入に有効である。八端子電極パターンとすると、二個の被測定試料を同時に密封測定空間内で測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のダヤモンドアンビルセルの一方のダイヤモンドアンビルは、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜により電極パターンを電気的物性の被測定試料の接触面に形成してあるので、被測定試料の電気的特性が容易に測定される。そこで、高圧状況下での材料物性測定に有効である。
【符号の説明】
【0044】
10 ダイヤモンド製圧子
20 ガスケット
30 ダイヤモンド基板
30a ダイヤモンド基板表面
31 絶縁層
32、32a、32b、32c、32d、32e、32f、32g、32h、32i、32j、32k 電極パターン層
33a、33b、33c、33d 電極パッド開口部
35 試料側電極開口部
60 被測定物
図1
図2
図3
図4
図5
図6