(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-131737(P2018-131737A)
(43)【公開日】2018年8月23日
(54)【発明の名称】地盤試料のサンプリングシステムおよびこれを用いたサンプリング方法
(51)【国際特許分類】
E21B 25/00 20060101AFI20180727BHJP
【FI】
E21B25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-24009(P2017-24009)
(22)【出願日】2017年2月13日
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】谷川 正志
(57)【要約】
【課題】熟練を要することなく高品質のサンプリングコアを得ることが可能になる地盤試料のサンプリングシステムおよびこれを用いたサンプリング方法を提供する。
【解決手段】ボーリング装置によって回転されるロッド5の下端に設けたビット7に先端荷重を付加して地盤を掘削させる加圧手段3、ロッドの下部に設けられて地盤試料を採取するサンプラー6と、先端荷重を計測するための計測手段15、16と、これらの計測値に基づいて先端荷重を制御する制御手段20とを備え、制御手段20は、先端荷重の上限値および下限値が設定されているとともに、計測手段15、16から得られたビット7の先端荷重が上限値または下限値を超えた際に、加圧手段3を制御して上記先端荷重を上下限値内に調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリング装置のスピンドルを回転させる回転手段と、当該スピンドルに連結されたロッドの下端に設けたビットに先端荷重を付加して地盤を掘削させる加圧手段と、上記ロッドの下部に設けられて掘削された上記地盤の円柱状のコアを充填させて地盤試料として採取するサンプラーとを備えた地盤試料のサンプリングシステムにおいて、
上記先端荷重を計測するための計測手段と、この計測手段からの計測値に基づいて上記先端荷重を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、上記先端荷重の上限値および下限値が設定されているとともに、上記計測手段の上記計測値から得られた上記ビットの先端荷重が上記上限値または下限値を超えた際に、上記加圧手段を制御して上記ビットの先端荷重を上記上下限値内に調整することを特徴とする地盤試料のサンプリングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤試料のサンプリングシステムを用いた地盤試料のサンプリング方法であって、
上記制御手段によって、上記計測手段の上記計測値から得られた上記ビットの先端荷重が、予め設定された上限値および下限値の範囲内になるように上記加圧手段を制御しつつ、上記ロッドの下部に設けたサンプラー内に掘削された上記地盤の試料となる円柱状のコアを充填させて採取することを特徴とする地盤試料のサンプリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟練を要することなく高品質のサンプリングコアを得ることが可能になる地盤試料のサンプリングシステムおよびこれを用いたサンプリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、地盤の地質や岩盤の状態を解明するために、地盤を掘削して地盤試料となるコアを採取するボーリング調査が広く行われている。
このボーリング調査は、下記特許文献1にも開示されているように、ボーリング装置のスピンドルにロッドを連結し、このロッドの下端に取り付けたビットによって地盤を掘削しつつ掘削孔内に送水することにより、当該ロッドの下部に設けたサンプラー内に円柱状のコアを充填させて採取するものである。
【0003】
図5は、このようにして採取されたサンプリングコアを示すもので、地上から掘削最深部までを単位長さ(図では1m)に分割して順次並列的に陳列したものである。
このようなサンプリングコアを採取するに際しては、試料の乱れや欠損等が少なく、地層の状態がきれいに参照できる高品質のサンプリングコアを得ることが望ましい。
【0004】
ところが、上記サンプリング方法においては、通常地盤を掘削する前には、深度による地層の相違が未知であるために、掘削時に岩盤、礫質、粘土質等の地質の変化によって掘削抵抗が変動し、この結果、試料の品質が悪化して地盤の適正な評価ができなくなるという問題点がある。
【0005】
この問題点を解消するために、これまでは熟練した作業者が、個別のゲージ計の変化等を参考にしながら、経験や勘に頼って掘削時における上記掘削抵抗の変動に対する調整を行っていたが、作業者の技量によっては、安定的して高品質のサンプリングコアを得ることが難しいという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明者等は、先に下記特許文献2において、1つのモニタで、リアルタイムに送水圧および送水流量、掘削速度、ロッドの回転数および従来からボーリング装置に付随した計測機器類によっては把握できなかったビットの先端荷重を確認することができ、よってビットの先端荷重が急激に高くなる等の現象が生じた際に、容易に掘削状況を把握して送水や掘削速度等を即座に調整することができる地盤試料のサンプリングにおけるモニタリングシステムおよびこれを用いたサンプリング方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−154039号公報
【特許文献2】特開2016−132874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このようなモニタリングシステムを用いて高品質のサンプリングコアを採取すべくボーリングを行う際に、オペレータは概ね下記の2つの基本操作のいずれかによって油圧を調整している。この際に、オペレータは、スピンドルの油圧を手動制御することにより行っている。
【0009】
上記基本操作の一方は、掘進速度の安定を優先してビットの先端荷重を変化させようとするものである。
ところが、この方法においては、硬質な岩盤で掘進速度を保持しようとすると先端荷重が上昇するために、当該岩盤に続いて軟質な地質層があった場合に、ビットが上記岩盤から軟質地質層に移行する際に、急激に上記先端荷重が解放されて掘進速度が急上昇してサンプリングコアに欠陥を生じるおそれがある。
【0010】
また、上記基本操作の他方は、ビットの先端荷重の安定を優先して掘進速度を変化させようとするものである。
この方法は、ビットの先端荷重による岩盤の乱れを最小限に抑え、僅かに速度を変えながら掘進を進めるものであるが、経験に基づいて、掘進速度が低下した場合は、僅かに先端荷重を上昇させる等の操作が必要になり、同様に熟練を要するという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熟練を要することなく高品質のサンプリングコアを得ることが可能になる地盤試料のサンプリングシステムおよびこれを用いたサンプリング方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ボーリング装置のスピンドルを回転させる回転手段と、当該スピンドルに連結されたロッドの下端に設けたビットに先端荷重を付加して地盤を掘削させる加圧手段と、上記ロッドの下部に設けられて掘削された上記地盤の円柱状のコアを充填させて地盤試料として採取するサンプラーとを備えた地盤試料のサンプリングシステムにおいて、上記先端荷重を計測するための計測手段と、この計測手段からの計測値に基づいて上記先端荷重を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、上記先端荷重の上限値および下限値が設定されているとともに、上記計測手段の上記計測値から得られた上記ビットの先端荷重が上記上限値または下限値を超えた際に、上記加圧手段を制御して上記ビットの先端荷重を上記上下限値内に調整することを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地盤試料のサンプリングシステムを用いた地盤試料のサンプリング方法であって、上記制御手段によって、上記計測手段の上記計測値から得られた上記ビットの先端荷重が、予め設定された上限値および下限値の範囲内になるように上記加圧手段を制御しつつ、上記ロッドの下部に設けたサンプラー内に掘削された上記地盤の試料となる円柱状のコアを充填させて採取することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1またはこれを用いた請求項2に記載の発明によれば、ビットの先端荷重に上限値および下限値を設定し、制御手段によって自動的に上記先端荷重がこれら上下限値内になるように加圧手段を制御しているために、上記上限値と下限値の幅を小さく設定することにより、先端荷重を安定化させて従来の先端荷重の安定を優先する方法を模した掘進を実現させることができる。
【0015】
また、これら上限値と下限値の幅を大きく設定することにより、先端荷重に伴う掘進速度を安定化させて従来の掘進速度の安定を優先する方法を模した掘進を実現させることができる。
【0016】
この際に、例えば硬質な岩盤においても、上記上限値を超えてビットの先端荷重が上昇することが無いために、上記岩盤に続いて軟質な地質層に移行した場合にも、ビットの掘進速度が急激に上昇することを抑制することができる。この結果、熟練を要することなく高品質のサンプリングコアを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るサンプリングシステムの一実施形態を示す全体の概略構成図である。
【
図2】
図1の加圧手段、計測手段および制御手段の概略構成図である。
【
図3】本発明に係るサンプリング方法の一実施形態を説明するためのフロー図である。
【
図4】
図3のフロー図を用いたサンプリング方法における掘進速度と先端荷重の経時変化モデル図である。
【
図5】地盤試料のサンプリング方法によって採取されたサンプリングコアを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図4は、本発明に係る地盤試料のサンプリングシステムの一実施形態を示すものである。
図1および
図2において、符号1はボーリング装置を示すもので、このボーリング装置1には、エンジンによって回転駆動されるスピンドル2が回転自在かつ油圧ピストン(加圧手段)3によって昇降自在に設けられている。
【0019】
このスピンドル2は、下端部に設けられたチャック4によって複数本のロッド5が連結されており、最下部のロッドの下端部にサンプラーを内包したコアチューブ6が取り付けられている。そして、コアチューブ6の下端部に、地盤を掘削するためのビット7が固定されている。
【0020】
また、ボーリング装置1に近接して、泥水タンク8内に貯留されている泥水を掘削孔H内に送水するためのポンプ9が設けられ、このポンプ9の吐出側に接続された送水管10の先端部が、ロッド5内の中空部を介して掘削孔Hの下部に送水するように、ロッド5の上端部に接続されている。
【0021】
そして、送水管10には、ロッド5内に送られる泥水の圧力および流量を測定する水圧計11および流量計12が介装されている。また、ボーリング装置1には、スピンドル2の変位量を計測する変位計13、ロッド5の回転数を計測する回転計14、油圧ピストン3の油圧制御自動バルブ22を開いてスピンドル2に下方への付加荷重を与えた際の荷重を検出する下方荷重計(計測手段)15と上方への付加荷重(バランス荷重)を掛けた際の荷重を検出する上方荷重計(計測手段)16が設置されている。
【0022】
そして、これらの計測機器類で計測された値に基づいて、コアのサンプリングにおける状態を把握するためのデータロガーを備えた制御装置(制御手段)20と、この制御装置20からの出力信号を表示するモニタ21とが設けられている。
【0023】
この制御装置20には、泥水の水圧計11および流量計12、スピンドル2の変位計13、ロッド5の回転計14、油圧ピストン3の下方荷重計15および上方荷重計16からの出力信号線が接続されている。
【0024】
そして、制御装置20は、これら泥水の水圧計11および流量計12、スピンドル2の変位計13、ロッド5の回転計14、油圧ピストン3の下方荷重計15および上方荷重計16等から、モニタ21に、送水の送水圧および送水流量、スピンドル2の変位量から算出したビット7の地盤中への掘削速度、ロッド5の回転数、およびビット7における先端荷重をリアルタイムにモニタ21にて並列的に表示させるようになっている。
【0025】
さらに、制御装置20には、予め入力手段からスピンドル2からビット7までの総重量、具体的にはスピンドル2の重量、ロッド5の単位重量×本数、コアチューブ6の重量およびビット7の重量が入力されるとともに、掘削孔H内の地下水Wと供給した泥水による水位が入力されている。さらに、この制御装置20には、ビット7の先端荷重の上限値および下限値と、掘進速度が設定されている。
【0026】
そして、制御装置20は、上記スピンドル2からビット7までの総重量に、下方荷重計15で検出されたロッド5への付加荷重が付加されてロッド5に対する下方への総荷重を算出するとともに、掘削孔H内の水位から、当該水中のロッド5、コアチューブ6およびビット7に作用する浮力を算出し、上記総重量から上方荷重計16で検出されたバランス荷重および上記浮力を差し引くことにより、ビット7における先端荷重を算出するとともに、得られた先端荷重が上記上限値または下限値を超えた際に、油圧制御自動バルブ22を制御して上記先端荷重が上記上下限値内に調整するようになっている。
【0027】
次に、上記構成からなるサンプリングシステムを用いた本発明に係る地盤試料のサンプリング方法の一実施形態について説明する。
先ず、スピンドル2を最上部まで上昇させて、チャック4を締めることによりロッド5を一体化し、掘削中断のボタンを押すことにより、掘削が開始され、表示が掘削中に切り替わる。そして、この掘削時に、泥水の水圧計11、流量計12およびロッド5の回転計14からの検出信号により、それぞれ上記モニタ21に泥水圧、泥水流量および回転数がリアルタイムに表示される。
【0028】
また、スピンドル2の変位計13からの検出信号からビット7の地盤中への掘削速度が算出されてリアルタイムに表示される。さらに、上述したように下方荷重計15および上方荷重計16で検出されたロッド5への付加荷重に基づいてビット7における先端荷重が算出されてモニタ21にリアルタイムに表示される。
【0029】
そして、制御装置20は、
図3に示すように、ビット7における先端荷重が上記上下限値内にある場合には、設定した掘進速度によって掘進を行わせる。
これに対して、例えば岩盤等を掘削することにより先端荷重が上昇して上限値を超えた場合には、油圧制御自動バルブ22によって油圧ピストン3への供給圧力を調整することにより、上記先端荷重を上限値内に制御する。これにより、掘進速度は降下する。
【0030】
一方、例えば粘土質等の掘削抵抗が小さい層を掘削することにより、先端荷重が下降して下限値を超過した場合には、油圧制御自動バルブ22によって油圧ピストン3への供給圧力を調整することにより、上記先端荷重が下限値以上になるように制御する。これにより、掘進速度は上昇する。
【0031】
以上説明したように、上記構成からなるサンプリングシステムおよびこれを用いた地盤試料のサンプリング方法によれば、制御装置20にビット7の先端荷重に上限値および下限値を設定し、油圧制御自動バルブ22によって自動的に上記先端荷重がこれら上下限値内になるように油圧ピストン3への供給圧力を制御しているために、
図4(a)に示すように、上限値と下限値の幅を大きく設定することにより、先端荷重に伴う掘進速度を安定化させて従来の掘進速度の安定を優先する方法を模した掘進を実現させることができる。
【0032】
また、
図4(b)に示すように、上限値と下限値の幅を小さく設定することにより、先端荷重を安定化させて従来の先端荷重の安定を優先する方法を模した掘進を実現させることができる。この結果、熟練を要することなく高品質のサンプリングコアを得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0033】
1 ボーリング装置
2 スピンドル
3 油圧ピストン(加圧手段)
5 ロッド
6 コアチューブ(サンプラー)
7 ビット
10送水管10
15 下方荷重計(計測手段)
16 上方荷重計(計測手段)
20 制御装置(制御手段)
21 モニタ
22 油圧制御自動バルブ
H 掘削孔