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  • 特開2018132359-ロータリエンコーダ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-132359(P2018-132359A)
(43)【公開日】2018年8月23日
(54)【発明の名称】ロータリエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20180727BHJP
【FI】
   G01D5/244 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-24885(P2017-24885)
(22)【出願日】2017年2月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 豊
(72)【発明者】
【氏名】上甲 均
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA11
2F077AA20
2F077AA21
2F077CC08
2F077NN02
2F077NN04
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP12
2F077PP14
2F077QQ05
2F077TT66
2F077UU25
(57)【要約】
【課題】回転体の回転位置を高精度に検出する。
【解決手段】ロータリエンコーダ10は、回転体に設けられた磁石20,30と、固定体に設けられた磁気センサ部40,50,60と、磁気センサ部40,50,60からの出力信号に基づいて、回転体の回転位置を算出する制御部70とを有している。制御部70は、出力信号のうち回転体の回転速度の増加に伴って非線形に減少する信号成分の基準回転速度時のパラメータを、現在の回転速度と基準回転速度との比率と、回転体の回転速度の変化率に対するパラメータの変化率とに基づいて、現在の回転速度における値に換算し、換算された値に基づいて減少する信号成分を補償することで出力信号を補正し、補正された出力信号を用いて回転体の回転位置を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体に対する回転体の回転位置を検出するロータリエンコーダであって、
前記固定体および前記回転体の一方に設けられた磁石と、
前記固定体および前記回転体の他方に設けられ、前記磁石からの磁界変化を検出する磁気センサ部であって、前記磁石の着磁面に対向して配置され、前記回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号を出力する第1の感磁素子と、前記磁石の着磁面に対向して配置され、前記回転体の回転に伴って前記A相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号を出力する第2の感磁素子とを有する磁気センサ部と、
前記A相信号および前記B相信号に基づいて前記回転体の回転位置を算出する制御部と、を有し、
前記制御部が、
前記A相信号および前記B相信号のそれぞれに含まれる信号成分のうち前記回転体の回転速度の増加に伴って非線形に減少する信号成分であって基準回転速度時の前記信号成分に関する複数のパラメータと、前記基準回転速度に対する前記回転体の回転速度の比率と前記複数のパラメータの変化率との関係を示すデータと、を記憶する記憶部と、
前記回転体の現在の回転速度を算出する回転速度算出部と、を有し、
前記制御部は、前記回転角度算出部によって算出された前記現在の回転速度の前記基準回転速度に対する比率と、前記複数のパラメータの変化率とに基づいて、前記記憶部に記憶されている前記複数のパラメータのうち少なくとも1つのパラメータを前記現在の回転速度における値に換算し、該換算された値に基づいて前記減少する信号成分を補償することで、前記A相信号および前記B相信号を補正する補正処理を実行し、該補正された前記A相信号および前記B相信号を用いて前記回転体の回転位置を算出する、ロータリエンコーダ。
【請求項2】
前記減少する信号成分が、前記A相信号および前記B相信号のそれぞれの高調波成分であり、前記複数のパラメータが、前記高調波成分の振幅および位相を含む、請求項1に記載のロータリエンコーダ。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数のパラメータのうち前記振幅のみを前記現在の回転速度に換算し、該換算された振幅と、前記記憶部に記憶されている前記位相とに基づいて、前記減少する信号成分を補償する、請求項2に記載のロータリエンコーダ。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数のパラメータのうち前記振幅および位相の両方を前記現在の回転速度における値に換算し、該換算された振幅および位相に基づいて、前記減少する信号成分を補償する、請求項2に記載のロータリエンコーダ。
【請求項5】
前記振幅および位相は、前記基準回転速度として一定の回転速度で回転体を回転させ、前記A相信号および前記B相信号にそれぞれ所定の信号成分を重畳させて前記回転体の回転速度を算出したときに、該算出された回転速度のリップルが最小になるときの前記所定の信号成分の振幅および位相である、請求項2から4のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項6】
前記基準回転速度が、前記回転体に連結されたモータの瞬時最大回転速度である、請求項5に記載のロータリエンコーダ。
【請求項7】
前記振幅および位相の算出は、前記基準回転速度よりも低速で前記回転体を回転させたときに較正された前記ロータリエンコーダによって行われる、請求項5または6に記載のロータリエンコーダ。
【請求項8】
前記高調波成分が、11次および13次の高調波成分である、請求項2から7のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項9】
前記各感磁素子は、3次、5次、および7次の高調波成分がキャンセルされた前記A相信号および前記B相信号を出力するように構成されている、請求項8に記載のロータリエンコーダ。
【請求項10】
前記磁気センサ部と前記制御部との間にローパスフィルタが設けられている、請求項1から9のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項11】
前記制御部が、外部からの要求信号を受信したときに前記回転体の回転位置を算出し、
前記回転速度算出部が、前記外部からの要求信号の受信間隔を計測し、該計測された受信間隔における前記回転体の回転変位量から、前記回転体の現在の回転速度を算出する、請求項1から10のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項12】
前記制御部が、外部からの要求信号を受信したときに前記回転体の回転位置を算出し、
前記回転速度算出部が、外部との間で予め設定された前記要求信号の受信間隔における前記回転体の回転変位量から、前記回転体の現在の回転速度を算出する、請求項1から11のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項13】
複数の前記磁石と、複数の前記磁気センサ部と、を有し、
前記複数の磁石が、前記回転体の周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された第1の磁石と、前記回転体の周方向にN極とS極とが交互に複数配置された第2の磁石とを含み、
前記複数の磁気センサ部が、前記第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部と、前記第2の磁石に対応する磁気センサ部とを含み、
前記制御部は、前記複数の磁気センサ部からの複数の前記A相信号および複数の前記B相信号に基づいて前記回転体の回転位置を算出し、その際に前記第2の磁石に対応する磁気センサ部に対して前記補正処理を実行する、請求項1から12のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【請求項14】
前記各感磁素子が、磁気抵抗効果素子を有する、請求項1から13のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリエンコーダに関し、特に磁気式のロータリエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
固定体に対する回転体の回転位置を検出する装置として、磁気抵抗効果(MR)素子やホール素子などの感磁素子を利用した磁気式のロータリエンコーダが知られている。このようなロータリエンコーダでは、回転体(磁石)の回転に伴う磁界変化により、配線や回路等に誘導電圧が発生し、その信号成分が感磁素子からの出力信号に重畳されることで検出精度が悪化するという問題があることが知られている。
【0003】
特許文献1には、上記誘導電圧が回転体の回転速度に比例して出力信号に重畳されることを利用して、誘導電圧による誤差を補正する方法が記載されている。この方法では、特定の回転速度において誘導電圧を打ち消すための補正量が予め記憶されており、この補正量から、特定の回転速度と使用時の回転速度との比率に基づいて、使用時の回転速度において誘導電圧を打ち消すための補正値が換算されている。これにより、回転速度に比例して増加する補正値を使用時の回転速度から換算して算出することができ、回転体の回転位置を精度良く検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−99164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された補正方法だけでは、回転体の回転に伴って出力信号に重畳される誤差成分を取り除くことができず、高い検出精度を維持するには十分ではない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、回転体の回転位置を高精度に検出するロータリエンコーダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明のロータリエンコーダは、固定体に対する回転体の回転位置を検出するロータリエンコーダであって、固定体および回転体の一方に設けられた磁石と、固定体および回転体の他方に設けられ、磁石からの磁界変化を検出する磁気センサ部であって、磁石の着磁面に対向して配置され、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号を出力する第1の感磁素子と、磁石の着磁面に対向して配置され、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号を出力する第2の感磁素子と、を有する磁気センサ部と、A相信号およびB相信号に基づいて回転体の回転位置を算出する制御部と、を有し、制御部が、A相信号およびB相信号のそれぞれに含まれる信号成分のうち回転体の回転速度の増加に伴って非線形に減少する信号成分であって基準回転速度時の信号成分に関する複数のパラメータと、基準回転速度に対する回転体の回転速度の比率と複数のパラメータの変化率との関係を示すデータと、を記憶する記憶部と、回転体の現在の回転速度を算出する回転速度算出部と、を有し、制御部は、回転角度算出部によって算出された現在の回転速度の基準回転速度に対する比率と、複数のパラメータの変化率とに基づいて、記憶部に記憶されている複数のパラメータのうち少なくとも1つのパラメータを現在の回転速度における値に換算し、換算された値に基づいて減少する信号成分を補償することで、A相信号およびB相信号を補正する補正処理を実行し、補正されたA相信号およびB相信号を用いて回転体の回転位置を算出する。
【0008】
このようなロータリエンコーダによれば、回転速度に応じて減少する信号成分に関するパラメータの換算値を用いて出力信号を補正することで、回転速度によらないほぼ一定の出力信号を得ることができ、高い検出精度を維持することができる。
【0009】
本発明の一態様では、上記減少する信号成分が、A相信号およびB相信号のそれぞれの高調波成分であり、上記複数のパラメータが、その高調波成分の振幅および位相を含み、制御部は、上記複数のパラメータのうち振幅のみを現在の回転速度に換算し、換算された振幅と、記憶部に記憶されている位相とに基づいて、減少する信号成分を補償するか、あるいは、複数のパラメータのうち振幅および位相の両方を現在の回転速度における値に換算し、換算された振幅および位相に基づいて、減少する信号成分を補償することが好ましい。
【0010】
この場合、上記振幅および位相は、基準回転速度として一定の回転速度で回転体を回転させ、A相信号およびB相信号にそれぞれ所定の信号成分を重畳させて回転体の回転速度を算出したときに、算出された回転速度のリップルが最小になるときの所定の信号成分の振幅および位相であることが好ましい。このような方法により、周波数分析などの解析処理を行うことなく、減少する信号成分を簡単に求めることができる。また、上記基準回転速度は、回転体に連結されたモータの瞬時最大回転速度であることが好ましく、これにより、パラメータとして、補償すべき減少する信号成分の変化が最大になるときの振幅および位相を設定することができ、高い分解能で出力信号の補正を行うことができる。また、上記振幅および位相の算出は、基準回転速度よりも低速で回転体を回転させたときに較正されたロータリエンコーダによって行われることで、算出処理を簡単にすることができる。また、上記高調波成分が、11次および13次の高調波成分であり、その場合、各感磁素子は、3次、5次、および7次の高調波成分がキャンセルされたA相信号およびB相信号を出力するように構成されていることが好ましい。これにより、上述した補正処理は、11次および13次の高調波成分にのみ適用し、3次、5次、および7次の高調波成分には適用する必要がないため、演算処理を簡単にすることができる。
【0011】
また、本発明の一態様では、磁気センサ部と制御部との間にローパスフィルタが設けられている。これにより、上述のパラメータの変化率を容易に求めることができる。
【0012】
また、制御部が、外部からの要求信号を受信したときに回転体の回転位置を算出することが好ましい。この場合、回転速度算出部が、外部からの要求信号の受信間隔を計測し、計測された受信間隔における回転体の回転変位量から、回転体の現在の回転速度を算出するようになっていてよい。これにより、制御部が実際に回転位置の算出を行う周期を計測しているため、正確な回転速度を算出することができ、出力信号の補正精度を向上させることができる。あるいは、回転速度算出部が、外部との間で予め設定された要求信号の受信間隔における回転体の回転変位量から、回転体の現在の回転速度を算出するようになっていてもよい。これにより、回転速度の算出に関する演算処理を簡単にすることができる。
【0013】
また、本発明のロータリエンコーダは、複数の磁石と、複数の磁気センサ部と、を有していてよく、複数の磁石が、回転体の周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された第1の磁石と、回転体の周方向にN極とS極とが交互に複数配置された第2の磁石とを含んでいてよく、複数の磁気センサ部が、第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部と、第2の磁石に対応する磁気センサ部とを含んでいてもよい。この場合、制御部は、複数の磁気センサ部からの複数のA相信号および複数のB相信号に基づいて回転体の回転位置を算出し、その際に第2の磁石に対応する磁気センサ部に対して上記補正処理を実行することが好ましい。このような構成によれば、回転速度によらずに回転体の回転位置の検出精度を向上させることができる。
【0014】
また、各感磁素子が、磁気抵抗効果素子を有していることが好ましい。これにより、1つの素子からA相信号およびB相信号を簡単に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転体の回転位置を高精度に検出するロータリエンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るロータリエンコーダの構成を示す概略図である。
図2】本実施形態のロータリエンコーダにおける回転体の絶対角度位置の検出原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明のロータリエンコーダは、固定体に対する回転体の回転位置を検出するものである。本明細書では、本発明について、回転体に磁石が設けられ、固定体に磁気センサ部(感磁素子)が設けられているロータリエンコーダを例に挙げて説明するが、ロータリエンコーダの構成はこれに限定されるものではなく、その逆であってもよい。すなわち、本発明は、回転体に感磁素子が設けられ、固定体に磁石が設けられたロータリエンコーダにも適用可能である。
図1は、本発明の一実施形態に係るロータリエンコーダの構成を示す概略図である。図1(a)は、本実施形態のロータリエンコーダの概略斜視図であり、図1(b)は、本実施形態のロータリエンコーダのブロック図である。
【0018】
本実施形態のロータリエンコーダ10は、図1(a)および図1(b)に示すように、第1の磁石20と、第2の磁石30と、第1の磁気センサ部40と、第2の磁気センサ部50と、第3の磁気センサ部60と、制御部70とを有している。第1の磁石20と第2の磁石30は、回転軸Lを中心として回転する回転体(図示せず)に設けられ、回転体と共に回転可能である。第1の磁気センサ部40と第2の磁気センサ部50と第3の磁気センサ部60は、固定体(図示せず)に設けられている。例えば、回転体は、モータの出力軸に連結され、固定体は、モータのフレームに固定されている。第1から第3の磁気センサ部40,50,60は、それぞれ増幅回路(図示せず)やローパスフィルタ(LPF)80a,80b,80cを介して制御部70に接続されている。
【0019】
第1の磁石20は、回転体の回転軸L上に配置され、その中心が回転軸Lに一致する円盤状の永久磁石(例えばボンド磁石)からなり、周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された着磁面21を有している。一方、第2の磁石30は、第1の磁石20の半径方向外側を囲うように配置され、その中心が回転軸Lに一致する円筒状の永久磁石(例えばボンド磁石)からなり、周方向にN極とS極とが交互に複数配置された環状の着磁面31を有している。第2の磁石30の着磁面31には、回転体の半径方向に並列して配置された複数(図示した実施形態では2つ)のトラック32a,32bが形成されている。各トラック32a,32bには、それぞれN極とS極からなる合計n個(nは2以上の整数、例えばN=64)の磁極対が周方向に沿って形成されている。半径方向に隣接する2つのトラック32a,32bは、周方向にずれて配置され、本実施形態では、周方向に1極分ずれて配置されている。
【0020】
第1の磁気センサ部40と第2の磁気センサ部50とは、第1の磁石20からの磁界変化を検出するものであり、それぞれ第1の磁石20の着磁面21に対向して配置されている。第3の磁気センサ部60は、第2の磁石30からの磁界変化を検出するものであり、第2の磁石30の着磁面31に対向して配置されている。
【0021】
第1の磁気センサ部40は、それぞれが2つの磁気抵抗効果(MR)素子からなる4つの磁気抵抗パターン41〜44から構成された2つのセンサ(感磁素子)を備えている。具体的には、第1の磁気センサ部40は、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号(sin)を出力するA相センサと、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号(cos)を出力するB相センサとを備えている。A相センサは、正弦波状の+a相信号(sin+)を出力する磁気抵抗パターン43と、+a相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−a相信号(sin−)を出力する磁気抵抗パターン41とを有している。各磁気抵抗パターン43,41は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン43,41が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。B相センサは、正弦波状の+b相信号(cos+)を出力する磁気抵抗パターン44と、+b相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−b相信号(cos−)を出力する磁気抵抗パターン42とを有している。各磁気抵抗パターン44,42は、直列に接続された2つのMR素子からなり、A相センサと同様に、これら2つの磁気抵抗パターン44,42が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。
【0022】
第2の磁気センサ部50は、第1のホール素子51と、回転軸Lを中心として第1のホール素子51に対して90°離れた位置に配置された第2のホール素子52とを有している。
【0023】
第3の磁気センサ部60は、それぞれが2つのMR素子からなる4つの磁気抵抗パターン61〜64から構成された2つのセンサ(感磁素子)を備えている。具体的には、第3の磁気センサ部60は、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号(sin)を出力するA相センサと、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号(cos)を出力するB相センサとを備えている。A相センサは、正弦波状の+a相信号(sin+)を出力する磁気抵抗パターン64と、+a相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−a相信号(sin−)を出力する磁気抵抗パターン62とを有している。各磁気抵抗パターン64,62は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン64,62が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。B相センサは、正弦波状の+b相信号(cos+)を出力する磁気抵抗パターン63と、+b相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−b相信号(cos−)を出力する磁気抵抗パターン61とを有している。各磁気抵抗パターン63,61は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン63,61が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。
【0024】
制御部70は、中央演算処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)などを備えたマイクロコンピュータから構成され、第1から第3の磁気センサ部40,50,60から出力される出力信号に基づいて、回転体の回転位置(絶対角度位置)を算出するものである。
【0025】
ここで、図2を参照して、本実施形態における回転体の絶対角度位置の検出原理について説明する。図2(a)は、特定の基準位置からの回転体の機械角の変化に対して、第1の磁石の磁極および強度、第1の磁気センサ部からの出力信号、第1のホール素子からの出力信号、および第2のホール素子からの出力信号を示している。図2(b)は、その出力信号と電気角θとの関係を示している。ここで、機械角とは、幾何学的または機械的に定められる角度を指し、電気角とは、感磁素子からの出力信号の位相から定められる角度を指す。なお、図2(a)では、第1および第2のホール素子からの出力信号は、コンパレータを介して得られるHまたはLの二値信号で示されている。
【0026】
回転体が1回転すると、第1の磁石20も1回転(機械角で360°回転)する。そのため、第1の磁気センサ部40からは、図2(a)に示すように、それぞれ2周期分、すなわち電気角(出力信号の位相によって定まる角度)で720°分のA相信号(sin)およびB相信号(cos)が出力される。これらA相信号およびB相信号から、電気角θは、図2(b)に示すように、θ=tan−1(sin/cos)という関係式を用いて算出される。ただし、回転体が機械角で360°回転する間、電気角では720°回転するため、電気角θが算出されただけでは、回転体の絶対角度位置を求めることができない。そこで、回転軸Lを中心として互いに90°離れた位置に配置された2つのホール素子51,52が利用される。すなわち、2つのホール素子51,52から出力される出力信号から、第1の磁石20が発生する磁界の極性が判別され、そこから、図2(a)の一点鎖線で示すように、機械角による回転位置が平面座標系のどの象限に位置しているのかが判別される。こうして、回転体の絶対角度位置を算出することができる。
【0027】
一方で、第3の磁気センサ部60からは、回転体が第2の磁石30の周方向における1対の磁極分だけ回転する度に、図2(a)に示したものと同様に、それぞれ2周期分(すなわち電気角で720°分)のA相信号(sin)およびB相信号(cos)が出力される。したがって、第3の磁気センサ部60から出力されるA相信号およびB相信号からも、上述した第1の磁気センサ部40と同様の原理で、第2の磁石30の1対の磁極に相当する角度内での回転体の絶対角度位置が算出される。第3の磁気センサ部60による絶対角度位置の検出分解能は第1の磁気センサ部40によるそれよりも高いため、これらを組み合わせることで、高い分解能で回転体の絶対角度位置を算出することができる。
【0028】
本実施形態のロータリエンコーダ10では、図1(b)に示すように、各磁気センサ部40,50,60と制御部70のADC71との間にアナログのローパスフィルタ(LPF)80a,80b,80cが設けられている。各磁気センサ部40,50,60からの出力信号には高調波成分が含まれるが、このLPF8a,80b,80cによって、特に第3の磁気センサ部60からのA相信号およびB相信号のそれぞれの高調波成分が回転体の回転速度に応じて減少することが、本発明者らによって確認されている。具体的には、第3の磁気センサ部60のA相信号の11次および13次の高調波成分とB相信号の11次および13次の高調波成分とは、LPF80cのゲイン周波数特性に対応するように、回転速度の増加に伴って振幅が非線形に減少することが確認されている。このとき得られるA相信号およびB相信号から算出されるリサージュ波形(図2(b)の破線参照)は、11次および13次の高調波成分が含まれるときの12角形から理想的な円形に近づくため、それらの高調波成分は減衰されることが好ましいとも考えられる。しかしながら、本実施形態では、設計誤差や組み付け誤差などを除去するためのロータリエンコーダ10の較正が、製造直後に回転体を非常に低速(例えば60rpm)で回転させて行われる。そのため、較正に用いられるA相信号およびB相信号にはそれぞれ11次および13次の高調波成分がほとんど含まれている。したがって、回転体の回転速度の増加に伴って11次および13次の高調波成分が減衰すると、そのとき得られる出力波形は較正時のものから変形してしまい、結果的に検出誤差が増加することになる。
【0029】
そこで、本実施形態では、回転体の回転速度によらず安定した検出精度を維持するために、制御部70が、回転速度の増加に伴って非線形に減少する信号成分を補償することで第3の磁気センサ部60からの出力信号を補正する機能を有している。具体的には、制御部70は、基準回転速度時の第3の磁気センサ部60からのA相信号およびB相信号のそれぞれの高調波成分に関するパラメータと、回転速度の変化率(基準回転速度と回転体の回転速度との比率)とパラメータの変化率との関係を示すデータとを記憶している。そして、基準回転速度に対する現在の回転速度の比率と、上記データとに基づいて、記憶されているパラメータを現在の回転速度における値に換算し、換算された値に基づいてA相信号およびB相信号を補正する。こうして、回転速度の増加に伴って非線形に減少する高調波成分を補償することで、回転速度によらないほぼ一定の出力信号を得ることができ、高い検出精度を維持することができる。
【0030】
以下では、再び図1(b)を参照しながら、主にこの補正処理に関する機能に着目して、制御部70の機能的な構成について説明する。
【0031】
制御部70は、A/D変換部(ADC)71と、角度算出部72と、補正処理部73とを有し、補正処理部73は、記憶部74と、通信周期計測部75と、回転速度算出部76とを有している。
【0032】
ADC71は、第1から第3の磁気センサ部40,50,60から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して角度算出部72および補正処理部73へ出力する。角度算出部72は、ADC71でデジタル変換された第1から第3の磁気センサ部40,50,60からの出力信号に基づいて、上述した回転体の回転位置を算出する。このとき、角度算出部72は、補正処理部73から、第3の磁気センサ部60のA相信号およびB相信号のそれぞれにおいて減少する信号成分を補償するための補正情報を取得する。そして、角度算出部72は、取得した補正情報に基づいて上記出力信号を補正し、上述の算出方法により、補正された出力信号を用いて回転体の回転位置を算出する。
【0033】
補正処理部73は、記憶部74から、基準回転速度時のA相信号およびB相信号のそれぞれの高調波成分に関するパラメータと、回転速度の変化率(基準回転速度と回転体の回転速度との比率)と上記パラメータの変化率との関係を示すデータと取得する。そして、補正処理部73は、そのデータと、回転速度算出部76によって算出された現在の回転速度の基準回転速度に対する比率とに基づいて、上記パラメータを現在の回転速度における値に換算する。
【0034】
記憶部74は、上述の高調波成分に関するパラメータ、具体的には、基準回転速度時における、A相信号の11次および13次の高調波成分のそれぞれの振幅および位相と、B相信号の11次および13次の高調波成分のそれぞれの振幅および位相とを記憶する。ここで、高調波成分の振幅は、上述の通り、回転速度に伴って非線形に変化するが、位相も、例えばLPF80a〜80cの位相周波数特性に対応して、回転速度に伴って非線形に変化する。そこで、記憶部74は、回転体の回転速度とそれぞれの振幅との関係、具体的には、回転速度の変化率(基準回転速度と回転体の回転速度との比率)とそれぞれの振幅の変化率との関係を示すデータ(テーブルなど)を記憶する。また、記憶部74は、回転体の回転速度の変化率(基準回転速度と回転体の回転速度との比率)とそれぞれの位相の変化率との関係を示すデータ(テーブルなど)も記憶する。したがって、補正処理を行う場合、記憶部74に記憶されている基準回転速度時の振幅および位相は、同様に記憶部74に記憶されているそれぞれの変化率のデータに基づいて、補正処理部73で現在の回転速度での振幅および位相に換算された後、角度算出部72へと送られる。そして、角度算出部72では、補正処理部73で換算された振幅および位相から、減衰した信号成分を補償する補正信号が生成され、これを足し合わせることで出力信号が補正される。高調波成分の振幅および位相の変化率に関するデータは、例えば、LPF80a〜80cのゲイン周波数特性および位相周波数特性に基づいてそれぞれ求めることができる。なお、演算処理を簡単にするために、高調波成分の位相については、回転速度によらず一定であるとして(すなわち変化率をゼロとして)補正処理を行うようになっていてもよい。
【0035】
通信周期計測部75は、ロータリエンコーダ10の外部にある上位の制御装置(図示せず)と制御部70との通信周期を計測する。例えば、制御部70は、上位の制御装置からの要求信号を受信したときに回転体の回転速度を算出するようになっているが、通信周期計測部75は、制御部70が要求信号を受信した時刻を計測し、その時刻から要求信号の受信間隔を計測する。
【0036】
回転速度算出部76は、こうして通信周期計測部75が計測した受信間隔と、角度算出部72から取得した回転体の回転位置の情報とに基づいて、所定の時間間隔における回転体の回転変位量を算出し、そこから回転体の現在の回転速度を算出する。したがって、回転速度算出部76は、制御部70が実際に回転位置の算出を行う周期を計測しているため、実際の通信周期が変動した場合にも正確な回転速度を算出することができ、その結果、補正処理部73による補正精度を向上させることができる。なお、制御部70が上位の制御装置から要求信号を受信する周期(受信間隔)は予め設定されているため、演算処理を簡単にするために、特許文献1に記載されているように、固定された設定値を用いて回転速度を算出するようになっていてもよい。
【0037】
記憶部76に記憶されるパラメータの設定は、ロータリエンコーダ10が工場から出荷される前に、低速(例えば60rpm)で較正済みのロータリエンコーダ10を用いて、以下のように行われる。まず、回転体に連結されたモータを一定の回転速度で回転させ、A相信号およびB相信号を出力させる。ここで、回転速度が一定であるため、出力信号が理想的なものでなく誤差を含んでいると、そこから算出される回転体の回転速度にはリップルは現れるが、誤差のない理想的な出力信号であればリップルが現れることはない。そこで、回転速度に伴って減少する信号成分を含むA相信号およびB相信号にそれぞれ所定の信号成分を重畳させ、それらから回転体の回転速度を算出する。そして、減少した信号成分を補償するように重畳させた信号成分の振幅および位相を最適な値に調整して、算出される回転速度のリップルを最小にする。このときのそれぞれの振幅および位相がパラメータとして設定される。このような方法により、周波数分析などの解析処理を行うことなく、減少する信号成分を簡単に求めることができる。なお、パラメータを設定する際のモータの回転速度は、瞬時最大回転速度(例えば6000rpm)であることが好ましい。これにより、補正パラメータとして、補償すべき減少する信号成分が最大になるときの振幅および位相を設定することができ、高い分解能で出力信号の補正を行うことができる。
【0038】
感磁素子には温度特性があるため、出力信号が温度変化する場合、同様に高調波成分の振幅も温度変化する。そこで、温度検出手段を用いて、第3の磁気センサ部60の温度変化を監視し、その監視結果に基づいて高調波成分の補正処理を行うようになっていてもよい。あるいは、温度検出手段と加熱手段を用いて、第3の磁気センサ部60の温度を一定に調節するようになっていてもよい。
【0039】
なお、本実施形態では、上述した11次および13次以外の奇数次の高調波成分、例えば、3次、5次、および7次の高調波成分については、配線パターンを調整するなどの公知の方法により、キャンセルされるようになっている。すなわち、第3の磁気センサ部60のA相センサおよびB相センサは、3次、5次、および7次の高調波成分がキャンセルされたA相信号およびB相信号をそれぞれ出力するように構成されている。これにより、上述した補正処理は、11次および13次の高調波成分にのみ適用し、3次、5次、および7次の高調波成分には適用する必要がないため、演算処理を簡単にすることができる。
【符号の説明】
【0040】
10 ロータリエンコーダ
20 第1の磁石
21 着磁面
30 第2の磁石
31 着磁面
32a,32b トラック
40 第1の磁気センサ部
41〜44 磁気抵抗パターン
50 第2の磁気センサ部
51 第1のホール素子
52 第2のホール素子
60 第3の磁気センサ部
61〜64 磁気抵抗パターン
70 制御部
71 A/D変換部(ADC)
72 角度算出部
73 補正処理部
74 記憶部
75 通信周期計測部
76 回転速度算出部
80a〜80c ローパスフィルタ(LPF)
図1
図2