【解決手段】レンズアレイ5の各レンズレット12の像を重ね合せて結像するコンデンサレンズ6と、前記レンズアレイ5の光入射側、又は前記コンデンサレンズ6の光射出側のいずれか一方に、入射光を偏光状態が異なる二つの直線偏光に分離して透過する、複屈折を利用した偏光素子7と、を備えたものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明によるレーザ照明装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。このレーザ照明装置1は、均一な照度分布を得ようとするもので、レーザ光源2と、ビームエキスパンダ3と、λ/2板4と、レンズアレイ5と、コンデンサレンズ6と、偏光素子7と、を備えて構成されている。
【0015】
レーザ光源2は、例えば355nmの波長のレーザビームを射出するシングルモードのYAGレーザであり、レーザビームは直線偏光である。エキシマレーザであってもよいが、ここでは、コスト的に安価なYAGレーザを採用している。なお、レーザビームの波長は、355nmに限られず、用途に応じて適宜選択される。
【0016】
上記レーザ光源2の光進行方向下流側には、ビームエキスパンダ3が設けられている。このビームエキスパンダ3は、レーザビームの径を拡大するものであり、例えば第1の集光レンズ8と該第1の集光レンズ8の後焦点に前焦点を合致させて備えた第2の集光レンズ9とで構成されている。汎用のビームエキスパンダを使用してもよい。
【0017】
上記ビームエキスパンダ3の光進行方向下流側には、λ/2板4が設けられている。このλ/2板4は、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折素子であり、位相差π(180度)を生じさせるもので、光軸を中心に回動可能となっている。これにより、λ/2板4の光学軸を入射光の偏光方向から傾けることにより、射出光の偏光方向を入射光の偏光方向に対し2倍傾いて射出させることができ、直線偏光の偏光方向を自由に変えることができる。
【0018】
上記λ/2板4の光進行方向下流側には、レンズアレイ5が設けられている。このレンズアレイ5は、レーザ光源2から放射されたレーザビームの断面内輝度分布を均一化するためのもので、具体的には、光軸に垂直な面内に複数のレンズレット12(入力側が凸の平凸レンズ)をマトリクス状に配置し、光源からの光束を分割してレンズレット12の数だけ2次光源を生じさせるようにしたフライアイレンズである。このフライアイレンズの構成は、1枚のフライアイレンズ構成であっても、2枚のフライアイレンズを対向配置した構成であってもよい。
【0019】
上記レンズアレイ5の光進行方向下流側には、コンデンサレンズ6が設けられている。このコンデンサレンズ6は、レンズアレイ5の各レンズレット12の像を重ね合せて結像するもので、レンズアレイ5の各レンズレット12の光軸を照射面10(コンデンサレンズ6の焦点面)の位置に集めるようになっている。
【0020】
上記コンデンサレンズ6の光進行方向下流側には、偏光素子7が設けられている。この偏光素子7は、
図2に示すように、直線偏光の入射光(平面波)を偏光状態が異なる二つの直線偏光に分離して透過するもので、例えば方解石で作った2個のプリズムを偏光軸(fast軸とslow軸)が互いに直交するように組んで貼合せたローションプリズムや、偏光解消板、又はサバール板等、複屈折を利用した公知の偏光素子が適用できる。
【0021】
次に、このように構成されたレーザ照明装置1の動作について説明する。
レーザ光源2から射出した直線偏光のレーザビームは、ビームエキスパンダ3によりビーム径が拡大されてλ/2板4に入射する。
【0022】
λ/2板4において、直線偏光の入射光は、その偏光方向が変えられる。例えば、入射光の偏光方向がλ/2板4の光学軸に対して所定の角度だけ傾いている場合には、射出光の偏光方向は入射光の偏光方向に対して上記角度の2倍の角度だけ傾くことになる。そして、上記射出光は、後段のレンズアレイ5に入射し、該レンズアレイ5により夫々分割される。これにより、レンズアレイ5の各レンズレット12の焦点位置には、レンズレット12の数に等しい複数の2次光源が生じる。
【0023】
上記レンズアレイ5の各レンズレット12を射出したレーザビームは、各レンズレット12の焦点に集光した後、発散しながらコンデンサレンズ6に入射し、コンデンサレンズ6により平行光にされる。そして、コンデンサレンズ6により集められて照射面10(コンデンサレンズ6の焦点面)上で各平行光の波面が重ね合わされる。
【0024】
ここで、理想条件における照射面10での光の振幅分布を計算する。照射面10へ入射する各平行光の入射角をNA(sinθ)で考える。レンズレット12の間隔をd、コンデンサレンズ6の焦点距離をfcとすると、照射面10への各レンズレット12からの平面波の入射角はNAで表すとn×d/fcとなる。ここで、nは整数であり、レンズレット12の順番を示す。
【0025】
また、光学系には収差がなく理想的なものであるとし、コンデンサレンズ6の焦点面の光軸上で各波面の位相が一致するものとすると、コンデンサレンズ6の焦点面での振幅分布Aは、次のように計算できる。
【数1】
ここで、Δμ=d/fcとした。
【0026】
ここでは、説明を簡単にするために、式(1)は一次元で考え、xをコンデンサレンズ6の焦点面の座標とした。また、ここでは、シングルモードレーザを仮定しているが、さらに、レンズアレイ5に入射するレーザビームはビーム内で振幅が一定であり、波面も平面であると仮定した。式(1)は等比数列であるので、周知の等比数列の和の計算から、
【数2】
と計算できる。
【0027】
式(1)又は式(2)から、具体的に計算したコンデンサレンズの焦点面(照射面10)上の光の振幅分布は、
図3である。
図3から、レンズアレイ5の作る干渉縞は単純な正弦波ではなく、急峻なピークをもったものである。尚、
図3は8×8個のフライアイレンズの場合の計算結果を示している。
【0028】
以上は、光路中に偏光素子7を備えない従来のレーザ照明装置の場合である。
本発明によるレーザ照明装置1の第1の実施形態においては、コンデンサレンズ6の光進行方向下流側に偏光素子7が配置されている。したがって、コンデンサレンズ6を射出した平行光(平面波)は、
図2に示すように、偏光素子7に入射し、該偏光素子7で偏光状態が互いに異なる二つの直線偏光に分離されて射出する。この場合、分離された二つの直線偏光の光軸は、互いに反対回りに傾いたものであり、射出する各直線偏光の波面は、夫々対応する光軸に対して直交するものであるから、両直線偏光の波面は、互いに反対回りに傾いた状態にある。したがって、両直線偏光の波面には、光束内で位相差が生じている。
【0029】
偏光素子7により分離された偏光状態が異なる二つの直線偏光は、コンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)で重ね合わされる。この場合、上述したように、偏光素子7を射出する各直線偏光の波面は、互いに反対回りに傾いた状態にあり、光束内で位相差が生じているため、照射面10には、各直線偏光が干渉して干渉縞が形成される。この場合、偏光状態が異なる直線偏光同士は干渉しないため、照射面10上には、同一の直線偏光同士による干渉縞の二重像が現れることになる。したがって、
図3に示す従来技術による単一の干渉縞と違って、干渉縞が二重像となることにより照射面10全体のコントラストが低減され、均一な照明を実現することができる。
【0030】
さらに、λ/2板4を光軸を中心に回動させて入射する直線偏光の偏光方向を変えることにより、干渉縞の二重像のコントラストをバランスさせ、照射面10全体の干渉縞のコントラストが最小となるように調整することができる。
【0031】
また、偏光素子7を光軸を中心に回動させることにより、干渉縞の分離方向(二重像の出現方向)を自由に変えることができる。この場合、同時に、λ/2板4を回動させて、干渉縞の二重像のコントラストの低減効果が最大となるように調整するのがよい。
【0032】
図4は本発明によるレーザ照明装置1の第2の実施形態を示す概略構成図である。
上記第1の実施形態との相違点は、偏光素子7をλ/2板4とレンズアレイ5との間に配置した点である。
【0033】
この第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に照射面10上に干渉縞の二重像が生じるものの、各干渉縞が平均化されて干渉縞のコントラストを低減することができる。
【0034】
詳細には、偏光素子7で分離された偏光状態が異なる二つの直線偏光は、
図2に示すように、波面が互いに反対回りに傾いている。したがって、ここでは、波面が傾斜した直線偏光がレンズアレイ5に入射した場合を考える。レンズアレイ5の入射側の面の座標を(μ,ν)、コンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)の座標を(x,y)とする。先ずは、簡単のために、一次元で考える。
【0035】
レンズアレイ5に入射する傾斜した直線偏光の位相差φ(μ)は、
【数3】
と表すことができる。
【0036】
次に、レンズアレイ5の光軸上の一個のレンズレット12とコンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)に入射する波面には、以下の位相差φ′(x)が付く。
【数4】
ここで、βはコンデンサレンズ6とレンズレット12の焦点距離の比であり、角倍率である。
【0037】
レンズレット12に角度θで入射した光は、光軸上からfθ(fはレンズレット12の焦点距離)の位置に焦点を結ぶ。コンデンサレンズ6の焦点距離fc、コンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)への入射角度をθ′とすると、fθ=fcθ′であるので、θとθ′の比はレンズレット12の焦点距離fとコンデンサレンズ6の焦点距離fcとの比になることが分かる。
【0038】
ここでは、光軸上のレンズレット12について考えたが、光軸から離れたレンズレット12についても同様である。コンデンサレンズ6は、一般的に正弦条件を満足しているので、θ′をsinθ′(NA)で考えるとレンズレット12への入射NAと照射面10へ入射する光のNA′の変化ΔNA′の比は1/βとなる。
【0039】
次に、光軸から一つ離れたレンズレット12について考える。このレンズレット12の光軸上の位相は、レンズレット12の配置ピッチdだけ離れているので、レンズレット12の光軸を中心とした座標μ1を使用すると、
【数5】
となる。
【0040】
また、上記レンズレット12に入射した光のコンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)での位相は、
【数6】
となる。
【0041】
これにより、光軸からn番目のレンズレット12を通った光のコンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)での位相は、
【数7】
となる。
【0042】
これを整理すると、
【数8】
と表される。
【0043】
そして、全てのレンズレット12からの波面をコンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)で重ね合せると、
【数9】
となる。
【0044】
ここで、和の外の位相の係数は、絶対値を取ると消えるので無視して考えてよい。したがって、式(1)と式(9)を比較すると、式(9)は式(1)に対してxの座標をα×d/(k×Δμ)だけシフトしたものと考えることができる。言い換えれば、干渉縞の模様がα×d/(k×Δμ)だけシフトしたものであると言える。これにより、コンデンサレンズ6の焦点面(照射面10)には、偏光方向が互いに直交する直線偏光による干渉縞がx方向に互いにα×d/(k×Δμ)だけずれて形成されることになる。
【0045】
また、偏光素子7を光軸を中心に回動させることにより、偏光状態が異なる二つの直線偏光が夫々つくる干渉縞を任意の方向にて、互いに反対方向にシフトさせることができる。さらに、λ/2板4を光軸を中心に回動させることにより、偏光状態が異なる二つの直線偏光が夫々つくる干渉縞のコントラストをバランスさせて平均化し、照射面10全体の干渉縞のコントラストを低減することができる。また、干渉縞の模様も変化させることができる。
【0046】
なお、偏光素子7としては、偏光解消板を使用するのが望ましい。偏光解消板は、一般に広く販売されており、低コストで入手が容易である。また、偏光解消板を透過した光は、コンデンサレンズ6の焦点面近傍では様々な位相差の光の集まりとなり、疑似的に偏光の効果を消することができる点で、偏光解消板の使用は有利である。
【0047】
汎用の偏光解消板の使用上の問題点は、偏光解消板を透過した光の位相差が固定的であるため、干渉縞の間隔に適した所望の位相差のものを入手し難いことである。この点に関しては、本発明のレーザ照明装置によれば、偏光解消板を光軸を中心に回動させることにより、位相差の調整をすることができる。
【0048】
偏光方向が直交する二つの直線偏光の干渉縞のシフト量が、互いに干渉縞の間隔の1/2であるときに最大の効果が得られるものと考えられる。この場合、本発明によるレーザ照明装置1においては、λ/2板4及び偏光素子7を回動させて干渉縞のシフト方向を調整することができる。干渉縞は、
図3に示すように、二次元の格子状にできるため、45°方向の干渉縞の間隔は√2倍になる。したがって、干渉縞のシフト量が丁度、干渉縞の間隔と同じになって、
図5(a)に示すように二つの干渉縞(第1の干渉縞及び第2の干渉縞)が重なった場合に、λ/2板4及び偏光素子7を45°だけ回動させて、
図5(b)に示すように二つの直線偏光の干渉縞を45°方向にて互いに反対方向にシフトさせれば、照射面10全体の干渉縞のコントラストを低減させることができる。
【0049】
また、干渉縞のコントラストの低減には、複数のレーザ(例えば、パルスレーザ)を使用して偏光状態が異なる複数のレーザビームを照射してもよい。各レーザビームは、夫々独立して干渉縞を作るため、この場合も、
図5(a)に示すように、各レーザビームによる干渉縞が偶然に重なってコントラストを低減できないこともあり得る。しかし、本発明によるレーザ照明装置1の、特に上記第2の実施形態によれば、λ/2板4及び偏光素子7の回動角を調整して各レーザビームによる干渉縞を分離することにより、コントラストを低減することができる。例えば、λ/2板4及び偏光素子7を45°回動させて、
図5(b)に示すように、二つの干渉縞(第1の干渉縞及び第2の干渉縞)を45°方向にて互いに反対方向にシフトさせれば、照射面10全体の干渉縞のコントラストを低減することができる。
【0050】
このように本発明によるレーザ照明装置1によれば、高いコヒーレンスのレーザ光源2と、フライアイインテグレータやロッドインテグレータを備えて構成した照明装置におけるコントラストの高い干渉縞も、汎用品として容易に入手できる偏光解消板等の偏光素子7と、容易に入手可能なλ/2板4との組み合わせにより干渉縞のコントラストを低減することができる。したがって、比較的低コストで均一なレーザ照明装置を実現することができる。
【0051】
なお、装置の製造段階において、偏光素子7を光軸を中心に回動させ、偏光状態が異なる二つの直線偏光の干渉縞の位相差を変化させて干渉縞のコントラストが低減調整されるものである場合には、完成した装置の偏光素子7は固定されていてもよい。
【0052】
また、装置の製造段階において、偏光状態の異なる二つの直線偏光による照射面10上の干渉縞のコントラストがバランスするように、偏光素子7に入射する直線偏光の傾き角度が調整される場合には、λ/2板4は無くてもよい。
【0053】
図6は本発明によるラインビームレーザ照射装置の構成を示す近軸光線図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。このラインビームレーザ照射装置は、ライン状のビームスポットを生成して照射面10に照射するもので、レーザ照明装置1と、フィールドレンズ13と、第1のシリンドリカルレンズ14と、球面レンズ15と、第2のシリンドリカルレンズ16と、拡散板17と、第3のシリンドリカルレンズ18と、を光進行方向上流側からこの順に備えて構成されている。なお、
図5においては、光の進行方向をZ軸方向とし、ライン状ビームスポットの長軸方向をX軸(第1の軸)方向とし、ライン状ビームスポットの短軸(幅)方向をY軸(第2の軸)方向としている。
【0054】
上記レーザ照明装置1は、均一な照度分布を得ようとするもので、本発明によるレーザ照明装置1が適用されている。したがって、ここでは、レーザ照明装置1の説明は省略する。なお、上記レーザ照明装置1による照射面10は、レンズアレイ5の各レンズレット12の像が重ね合わされて結像する第1の中間像の形成位置に相当する。
【0055】
上記第1の中間像の形成位置には、フィールドレンズ13が設けられている。このフィールドレンズ13は、第1の中間像の位置から射出する光束の広がりを抑えるためのものであり、球面レンズ15であっても、シリンドリカルレンズであってもよい。本実施形態においては、X軸方向に円柱軸を有し、出力側が凸のシリンドリカルレンズの場合について説明する。
【0056】
上記フィールドレンズ13の光進行方向下流側には、第1のシリンドリカルレンズ14が設けられている。この第1のシリンドリカルレンズ14は、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、第1の中間像にてX軸方向に対応する部分を被照射物の照射面10に結像するものであり、円柱軸をY軸方向に合致させ、入力側が凸となるようにして配置されている。したがって、
図7(a)に示すように、上記第1の中間像のX軸方向と上記照射面10とは、第1のシリンドリカルレンズ14と球面レンズ15に関して共役となる。
【0057】
上記球面レンズ15の光進行方向下流側には、第2のシリンドリカルレンズ16が設けられている。この第2のシリンドリカルレンズ16は、
図7(b)に示すように、上記第1の中間像にてY軸方向に対応する部分を第2の中間像として結像するものであり、円柱軸をX軸方向に合致させ、入力側が凸となるようにして配置されている。したがって、
図6(b)に示すように、上記第1の中間像のY軸方向と上記第2の中間像のY軸方向とは、球面レンズ15と第2のシリンドリカルレンズ16に関して共役となる。
【0058】
上記第2のシリンドリカルレンズ16の光進行方向下流側にて、上記第2の中間像の生成位置には、拡散板17が設けられている。この拡散板17は、ライン状のビームスポットの長軸方向の照度ムラ(例えば干渉縞等)を低減しつつ、ビームスポットの短軸(幅)方向の広がりを抑制するためのものであり、X軸方向に長軸を有する短冊状に形成され、例えば表面に微細な凹凸を設けたすりガラスや、ホログラフィー等である。
【0059】
上記拡散板17の光進行方向下流側には、第3のシリンドリカルレンズ18が設けられている。この第3のシリンドリカルレンズ18は、
図7(b)に示すように、上記第2の中間像にてY軸方向に対応する部分を被照射物の照射面10に結像するものであり、円柱軸がX軸方向となるように配置されている。したがって、
図6(b)に示すように、上記第2の中間像のY軸方向と上記照射面10上の像のY軸方向とは、第3のシリンドリカルレンズ18に関して共役となる。それ故、第2の中間像(拡散板17)の位置は、上記照射面10との共役面となる。
【0060】
なお、高アスペクト比を有し、収差の小さなシリンドリカルレンズを単体で形成することは困難である。そこで、本実施形態においては、第3のシリンドリカルレンズ18は、出力側が凸の2つの単位シリンドリカルレンズと、入力側が凸の4つの単位シリンドリカルレンズを光進行方向上流側からこの順に配置して組み合わせることによりパワーを分けて、収差を補正したシリンドリカルレンズ群の構成としたものである。これにより、既成のシリンドリカルレンズを使用することができ、装置の製造コストを低減することができる。
【0061】
ここで、拡散板17について、詳細に説明する。
一般に、拡散板17のY軸(短軸)方向の幅が小さくなると、拡散板17の製造が困難になる。また、拡散板17のY軸(短軸)方向の幅が小さくなるとそれに合せて、第2のシリンドリカルレンズ16による第2の中間像のY軸方向への絞り込み量を大きくする必要がある。その結果、拡散板17を通過するレーザビームのエネルギー密度が高くなり、拡散板17に熱的な悪影響を及ぼす恐れがある。例えば、ホログラフィーで拡散板17を作る場合には、ホログラフィーに適合したガラス基板の種類に制約があるため、使用するガラス基板の耐熱性の問題が生じる恐れがある。また、基板表面に例えば反射防止膜等のコーティングができなくなる等の問題が生じる恐れもある。そこで、これらの問題を回避するためには、経験的に第2の中間像のY軸方向の幅は、3mm以上となるように設計するのがよいことが分かっている。したがって、拡散板17のY軸方向の幅は、3mm〜4mm程度に設定するのが望ましい。
【0062】
一方、本実施形態においては、ライン状ビームスポットの短軸方向の幅は、300μm程度に設定している。また、前述したように、拡散板17の位置における第2の中間像のY軸方向と被照射物の照射面10上の像のY軸方向とは、第3のシリンドリカルレンズ18に関して共役である。したがって、第3のシリンドリカルレンズ18のY軸方向の縮小倍率は、1/10程度に設定するのが望ましい。
【0063】
次に、拡散板17の拡散角について説明する。
上述したように第3のシリンドリカルレンズ18の縮小倍率が1/10であるので、第3のシリンドリカルレンズ18の照射面10側(像側)NAと拡散板17側(物体側)NAを考えると、両者の関係は、第3のシリンドリカルレンズ18の結像倍率により決まる。したがって、照射面10側(像側)NAは、拡散板17側(物体側)NAの10倍となる。
【0064】
一般に、NAが大きくなると収差補正が困難になることが知られている。また、レーザアニールやレーザリフトオフのようなライン状ビームスポットをスキャンさせて使用する装置の場合は、ライン状ビームスポットの短軸(幅)方向の断面プロファイルは、トップハットのプロファイルが望ましい。この場合、第3のシリンドリカルレンズ18の収差は、ライン状ビームスポットの上記幅以下に抑える必要がある。
【0065】
しかしながら、シリンドリカルレンズの場合、正負のレンズを組み合わせて収差を補正することは、コスト面から困難である。第3のシリンドリカルレンズ18の収差補正が不十分であると、拡散角の大きい拡散板17を使用した場合には、ライン状ビームスポットの幅が広がってしまうという問題が生じる。そこで、本実施形態においては、拡散板17の拡散角の全角を2γとすると、γは、
0.5°<γ<1°
の条件を満足するように設定されている。
【0066】
例えば、拡散板17の拡散角の半角γを1°とすると、照射面10に照射するレーザビームの最大入射角度は、10°となる。これをNAで表すと0.17となる。このNAは、経験知から、既成のシリンドリカルレンズを組み合わせて収差補正することが可能な限界値に近いものである。したがって、本実施形態においては、拡散板17の拡散角の半角γの上限は、1°ということになる。
【0067】
一方、拡散板17の拡散角を小さくすると、ライン状ビームスポットの長軸(X軸)方向の照度分布の均一性を確保することが困難となる。さらに、拡散角の半角γが0.5°以下であるような拡散板17を作るのは、現状難しい。したがって、拡散角の半角γの下限は、0.5°ということになる。
【0068】
以上の理由から、本実施形態においては、拡散板17の拡散角は、半角γが上記条件を満足するように設定した。
【0069】
次に、このように構成されたラインビームレーザ照射装置の動作について説明する。
レーザ照明装置1を射出した偏光状態が異なる二つの直線偏光は、第1の中間像の位置に集められ、該位置には、各偏光による干渉縞が平均化されて均一な輝度分布の第1の中間像が得られる。
【0070】
上記第1の中間像は、Y軸方向に円柱軸を有する第1のシリンドリカルレンズ14により、X軸方向の部分が被照射物の照射面10に拡大結像される。この場合、第1のシリンドリカルレンズ14の光進行方向下流側に配置された第2及び第3のシリンドリカルレンズ18は、共に、X軸方向に円柱軸を有するものであるから、X軸方向にはレンズ機能を有さず、X軸方向の結像には寄与しない。
【0071】
一方、上記第1の中間像は、第2のシリンドリカルレンズ16により、Y軸方向の部分が拡散板17の位置に縮小結像され、X軸方向に長軸を有し、Y軸方向の幅が3mm程度のライン状の第2の中間像が生成される。
【0072】
拡散板17を通過した横断面が線状のレーザビームは、拡散板17により干渉縞がさらに平均化されて断面内輝度分布が均一な光線となって第3のシリンドリカルレンズ18に入射する。なお、第1のシリンドリカルレンズ14は、前述したようにY軸方向に円柱軸を有するものであるから、Y軸方向にはレンズ機能を有さず、Y軸方向の結像には寄与しない。
【0073】
上記第2の中間像は、第3のシリンドリカルレンズ18により、Y軸方向の部分が被照射物の照射面10上に縮小結像され、X軸方向に長軸を有し、Y軸方向の幅が300μm程度のライン状ビームスポットが生成される。
【0074】
本発明によれば、拡散板17が第2の中間像の生成位置、即ち、第3のシリンドリカルレンズ18に関して照射面10とのY軸方向における共役面の位置に配置されているので、
図8に示すように、ライン状ビームスポットの幅方向の断面プロファイルは、トップハットのプロファイルとなる。
【0075】
一方、拡散板17の配置位置が上記共役面の位置からずれると、
図9に示すように、ライン状ビームスポットの幅方向の断面プロファイルは、不均一となる。さらに、幅も広がるため好ましくない。
【0076】
このように、本発明によれば、第3のシリンドリカルレンズ18が、その円柱軸に直交する軸方向における照射面10との共役面を有し、該共役面の位置に拡散板17を備えたことにより、ライン状ビームスポットの長軸方向及び短軸方向の何れの照度分布も均一にすることができる。したがって、レーザアニールやレーザリフトオフに好適なラインビームレーザ照射装置を実現することができる。
【0077】
また、レーザ照明装置1の偏光素子7を光軸を中心に回動させることにより、ライン状ビームスポット内の干渉縞の発生方向をライン状ビームスポットの長軸方向から短軸方向にずらすことができ、干渉縞をライン状ビームスポット外に逃すことができる。したがって、これによっても、均一な照度分布のライン状ビームスポットを生成することができる。この場合、当然ながら、偏光素子7の回動に伴ってλ/2板4も光軸を中心に回動される。
【0078】
なお、上記実施形態においては、拡散板17を備えた場合について説明したが、本発明はこれに限られず、上記レーザ照明装置1により許容範囲の均一な照明が実現できる場合には、拡散板17は無くてもよい。