(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-135557(P2018-135557A)
(43)【公開日】2018年8月30日
(54)【発明の名称】銅合金焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20180803BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20180803BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20180803BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20180803BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/06
C22C1/04 A
C22C9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-29934(P2017-29934)
(22)【出願日】2017年2月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】平井 良政
(72)【発明者】
【氏名】小川 耕平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知広
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA02
4K018BA03
4K018BC12
4K018CA02
4K018DA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Cu−Ni−Si−S系銅合金を焼結した、高い摺動性能と強度を有した摺動部材の提供。
【解決手段】Niを0.3質量%以上10質量%以下、Siを0.3質量%以上5.0質量%以下、Sを0.2質量%以上5.0質量%以下、Tiを0.6質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる、Tiを上記の範囲で含有させた銅合金を還元雰囲気下又は真空雰囲気下で焼結させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを0.3質量%以上10.0質量%以下、Siを0.3質量%以上5.0質量%以下、Sを0.2質量%以上5.0質量%以下、Tiを0.6質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる銅合金焼結体。
【請求項2】
さらにFeを0.1質量%以上1.3質量%以下、Snを0.1質量%以上1.5質量%以下、又はそれらの両方を含有する請求項1に記載の銅合金焼結体。
【請求項3】
最終的な銅合金焼結体である生成物に対する質量比において、Niを0.3質量%以上10質量%以下、Siを0.3質量%以上5.0質量%以下、Sを0.2質量%以上5.0質量%以下含有し残部がCuと不可避不純物からなる合金粉末と、0.6質量%以上5.0質量%以下となるTi粉末を混合して焼結した銅合金焼結体。
【請求項4】
上記合金粉末がさらに、最終的な上記銅合金焼結体に対する質量比において、Feを0.1質量%以上1.3質量%以下、Snを0.1質量%以上1.5質量%以下、又はそれらの両方を含有する請求項3に記載の銅合金焼結体。
【請求項5】
Cu−Ni−Si−S系銅合金、Cu−Ni−Si−S−Fe系銅合金、Cu−Ni−Si−S−Sn系銅合金又はCu−Ni−Si−S−Fe−Sn系銅合金である銅合金粉末と、Ti粉末とを混合した後、この混合粉末を焼結する、請求項1乃至4のいずれかに記載の銅合金焼結体の製造方法。
【請求項6】
上記の焼結を真空雰囲気下で行う請求項5に記載の銅合金焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、滑り軸受などの摺動材に用いる銅合金焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
銅合金の中には強度や摺動特性を活かして滑り軸受などの各種機械部品に用いられるものがある。例えば特許文献1には、CuとNiとSiとCu−Fe−S系の化合物を含む摺動部材用銅合金が記載されている。このCu−Fe−S系の化合物は固体潤滑剤として作用し、摺動性に寄与する。また、SiやNiの作用により高い強度を発揮する。この銅合金を用いて一般的な鋳造法により摺動部材が製造できる旨が記載されている。
【0003】
また特許文献2には、Cu−Ni−Si−Sの他に、TiやFe,Snを含む添加元素を含有させた切削加工用銅合金鋳塊と、これを切削加工した材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−86450号公報
【特許文献2】特許第5607460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のCu−Ni−Si−S系銅合金は、鋳造では好適に摺動部材を製造できるものの、焼結で製造しようとすると還元雰囲気下であっても製造できないという問題があった。
【0006】
そこでこの発明は、NiとSiとSとを有する銅合金を用いて、粉末焼結により摺動部材を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、Niを0.3質量%以上10.0質量%以下、Siを0.3質量%以上5.0質量%以下、Sを0.2質量%以上5.0質量%以下、Tiを0.6質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる銅合金焼結体によって焼結を可能にし、上記の課題を解決したのである。
【0008】
従来の成分では焼結できなかったが、Tiを上記の範囲で含有することによって焼結が可能になり、高い摺動性能と強度を有する摺動部材を焼結により製造することができるようになった。
【0009】
なお、焼結体を得るにあたり、上記の成分に加えてさらに、Feを0.1質量%以上1.3質量%以下の範囲で含有してもよい。また、Snを0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲で含有してもよい。
【0010】
焼結にあたっては、Ti以外の材料を混合したCu−Ni−Si−S系銅合金、Cu−Ni−Si−S−Fe系銅合金、Cu−Ni−Si−S−Sn系銅合金又はCu−Ni−Si−S−Fe−Sn系銅合金である合金粉末と、Ti粉末とを混合して圧力を掛けて固めた後に焼結する方法が利用できる。また焼結の際には、還元雰囲気下又は真空雰囲気下で行うと焼結が容易になる。
【発明の効果】
【0011】
この発明により、Cu−Ni−Si−S系の高い強度を有する銅合金を焼結体として製造することができる。この焼結体は高い摺動性能と強度を有し、摺動材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、Tiを含む銅合金焼結体である。
【0014】
上記銅合金焼結体を構成する銅合金は、Cuを50質量%以上有する銅合金である必要がある。以下に示す他の元素と、不可避不純物を除いた残部がCuとなる。なお、本発明における質量%は、基本的に最終的な生成物である銅合金焼結体を100質量%とした値である。
【0015】
上記銅合金は、Niを0.3質量%以上含むことが必要である。好ましくは1.0質量%以上である。Niが少なすぎると、材料強度が低下しすぎてしまうためである。一方、Niの含有量は10.0質量%以下である必要がある。好ましくは、7.0質量%以下である。Niが多すぎると焼結しにくくなる可能性が高くなるからである。
【0016】
上記銅合金は、Siを0.3質量%以上含むことが必要である。好ましくは0.5質量%以上である。Siが少なすぎると材料強度が低下しすぎてしまうためである。一方、Siの含有量は5.0質量%以下である必要がある。好ましくは3.0質量%以下である。Siが多すぎると焼結しにくくなる可能性が高くなるからである。
【0017】
上記銅合金は、Sを0.2質量%以上含むことが必要である。好ましくは0.4質量%以上である。SはCuや後述するFeとの間で硫化物を生成し、この硫化物の存在によって切削加工性や固体潤滑性を発揮する。特に摺動材として用いる場合、固体潤滑性によって得られる摺動性能が重要になる。Sが少なすぎるとこれらの性質向上が十分に得られず、利用に問題となる可能性がある。一方、Sの含有量は5.0質量%以下である必要がある。好ましくは3.0質量%以下である。Sが多すぎると摺動性能がかえって低下するおそれがあるからである。
【0018】
上記銅合金は、Tiを0.6質量%以上含むことが必要である。好ましくは1.0質量%以上である。Tiを含むことで上記銅合金はSが含有されていても焼結が可能になるが、少なすぎるとその効果が十分に発揮されないためである。一方、Tiの含有量は5.0質量%以下である必要があり、3.0質量%以下であると好ましい。Tiが多すぎるとかえって焼結しにくくなる場合があるためである。
【0019】
上記銅合金はFeを含有してもよい。その含有量は0.1質量%以上であると好ましく、0.3質量%以上であるとより好ましい。Feが含有されているとSとの間で形成するCu
5FeS
4のようなCu−Fe−S系化合物が摺動性に寄与する。0.1質量%未満ではそのような硫化物による効果が有意な程度に発揮されにくい。一方、Feの含有量は1.3質量%以下であると好ましく、1.0質量%以下であるとより好ましい。Feが多すぎるとかえって摺動性が低下する傾向にあるためである。
【0020】
上記銅合金はSnを含有してもよい。その含有量は0.1質量%以上であると好ましく、0.3質量%以上であるとより好ましい。Snが含有されていると摺動性能が向上する。0.1質量%未満ではその効果が有意な程度に発揮されにくい。一方、Snの含有量は1.5質量%以下であると好ましく、0.5質量%以下であるとより好ましい。Snが多すぎると熱伝導率が低下しすぎて、高温環境下での使用に適さなくなるおそれがあるためである。
【0021】
上記銅合金は上記の元素の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、不可避不純物である元素を含有していてもよい。具体的には、それらの元素は0.2質量%未満であると好ましく、0.1質量%未満であるとより好ましい。また、それらの元素は合計でも0.5質量%未満であると好ましく、0.1質量%未満であるとより好ましく、検出限界未満であるとさらに好ましい。このような不可避不純物としては、例えばOやZn、Al、Pb、Pなどが挙げられる。
【0022】
上記銅合金の含有量の条件を満たす混合した粉末を加熱して焼結体を得る。混合の手順としては、Cu−Ni−Si−S系合金粉末、又はそれらに加えてFe,Sn若しくはこれらの両方を含む合金粉末と、Ti粉末とを混合して、全体として上記の数値範囲になるように調整した混合粉末を得て焼結すると、Tiによる焼結の補助作用が好適に発揮されて焼結させやすく、好ましい。
【0023】
焼結の際には、900℃以上での加熱が好ましく、1000℃以上での加熱がより好ましい。また、焼結の際には、還元雰囲気下又は真空雰囲気下で行うとより好ましい。空気雰囲気下では焼結が阻害されやすいためである。
【0024】
上記の条件以外は、粉末焼結法における一般的な手法を採用することができる。上記混合粉末を十分な圧力を掛けて成形した上で、上記の望ましい環境で加熱して焼結するとよい。
【実施例】
【0025】
以下、この発明を実際に実施した実施例を示す。まず、用いた銅合金の基材について説明する。
【0026】
Cu−Ni−Si合金粉末として、表1のような成分分析結果及び表2のような粒度分布となる合金粉末を用いた。またそれとは別に金属Ti粉末(トーホーテック(株):Tc-450)を用意した。この金属Ti粉末は粒径45μmを超える粒子の比率が5質量%未満であり、粒径45μm以下である粒子の比率が95質量%以上である。これら合金粉末及び金属Ti粉末を混合して実施例及び比較例に用いる混合粉末を調製した。調製する際の配合比は、Ti粉末の配合量が表3に示すようにした。表3の値の残部がCu−Ni−Si合金粉末である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
上記の実施例及び比較例の調製した混合粉末を、内部が円筒形の金型に充填し、35kNの力で軸方向から圧力を掛けて予備成型した。得られた円筒形の試験体を、真空雰囲気下で加熱した。20分かけて常温から各実施例及び比較例として設定した焼結温度まで線形に加熱し、焼結温度で120分間保持して、焼結試験体を得た。得られた円筒形の焼結試験体のサイズはおおよそ内径6mm、外径14mm、高さ20mmであった。なお、比較例3のみは加熱時に割れを生じてしまい、焼結試験体を得られなかった。
【0031】
それぞれの焼結試験体について圧環試験を行った。試験の概要を
図1に示す。中空円筒形である焼結試験体Sを、径方向となるように上方から荷重を与えて破壊し、破壊されたときの最大荷重F(N)から、式(1)により圧環強度K(N/mm
2)を算出した。なお、それぞれの焼結試験体の外径D(mm)、長さL(mm)、壁厚e(mm)は個別に計測した値を用いた。それぞれの実施例、比較例において4個ずつ焼結試験体を破壊し、その平均値を算出した。その結果を
図2に示す。
【0032】
【数1】