【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
「ベンゼンの酸化分解」
ベンゼンを含む蒸留水に、上記式(3)で表わされルテニウム錯体と、硝酸アンモニウムセリウム(IV)とを添加して混合液とし、その混合液を、10℃にて24時間攪拌した。
上記の蒸留水に含まれるベンゼンの濃度を0.020mol/L(飽和濃度)とした。
ベンゼンを含む蒸留水におけるルテニウム錯体の濃度を0.14mmol/Lとした。
ベンゼンを含む蒸留水における硝酸アンモニウムセリウム(IV)の濃度を75mmol/Lとした。
混合液のpHは1.2であった。
【0042】
「
1H−NMR測定」
10℃にて24時間攪拌した後の混合液の
1H−NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。また、混合液の
1H−NMRスペクトルを
図1に示す。8.29ppmに、ギ酸のホルミル基水素由来のシグナルが観測された。さらに、比較として、触媒非存在下、硝酸アンモニウムセリウム(IV)とベンゼンの混合液の
1H−NMRスペクトルを
図2に示す。
1H−NMR(water−D
2):δ[ppm]=8.29(1H) (ギ酸のホルミル基水素;
図1)
1H−NMR(water−D
2):δ[ppm]=7.43(6H) (ベンゼン水素;
図2)
これらの結果から、10℃にて24時間攪拌した後の混合液中にギ酸(HCOOH)が含まれることが確認された。
このギ酸がベンゼン由来であることを確かめる実験を行った。
蒸留水中、ベンゼン−D
6を基質とした際に、反応溶液の
2H−NMRスペクトル測定によって、ギ酸−D
1(DCOOH)に由来する
2H−NMRシグナルを確認した。このことから、得られるギ酸分子は、基質であるベンゼン由来であることが示された。
【0043】
「触媒回転数の評価」
実施例1において、ルテニウム錯体の触媒回転数(Turnover Number、TON)を測定した結果、56であった。結果を表1に示す。溶液中のベンゼンの濃度は、内部標準として濃度を規定した4,4−ジメチル−4−シラペンタンスルホン酸ナトリウム塩のメチル基のNMRシグナルの積分値を基準に決定し、触媒回転数を、ベンゼン濃度/触媒濃度として評価を行った。
なお、触媒回転数とは、触媒反応において、触媒が不活性化するまでに、触媒1モル当たり何モルの基質化合物(実施例1ではベンゼン)を何モルの酸化生成物(実施例1ではギ酸)に変換したかを示す指標である。
【0044】
「酸化剤効率の評価」
実施例1において、酸化剤効率を測定した結果、32%であった。結果を表1に示す。
酸化剤効率は、生成物であるギ酸の濃度に3を掛け、酸化剤として用いたセリウム錯体の濃度で割り、100倍して計算した。
なお、酸化剤効率とは、生成物の物質量に、原料から生成物へと変換するのに必要な電子数を掛け、酸化剤の濃度で割り、100倍した値である。
【0045】
[比較例1]
「ベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0046】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
「トルエンの酸化分解」
基質化合物をトルエンとしたこと以外は実施例1と同様にして、トルエンの酸化分解を行った。
【0048】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
「トルエンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例2と同様にして、トルエンの酸化分解を行った。
【0050】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
「エチルベンゼンの酸化分解」
基質化合物をエチルベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、エチルベンゼンの酸化分解を行った。
【0052】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
「エチルベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例3と同様にして、エチルベンゼンの酸化分解を行った。
【0054】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
「塩化ベンジルの酸化分解」
基質化合物を塩化ベンジルとしたこと以外は実施例1と同様にして、塩化ベンジルの酸化分解を行った。
【0056】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例4]
「塩化ベンジルの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例4と同様にして、塩化ベンジルの酸化分解を行った。
【0058】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
「クロロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をクロロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、クロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0060】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
「クロロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例5と同様にして、クロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0062】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
「o−ジクロロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をo−ジクロロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、o−ジクロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0064】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例6]
「o−ジクロロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例6と同様にして、o−ジクロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0066】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例7]
「ニトロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をニトロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、ニトロベンゼンの酸化分解を行った。
【0068】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例7]
「ニトロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例7と同様にして、ニトロベンゼンの酸化分解を行った。
【0070】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例8]
「2−ニトロトルエンの酸化分解」
基質化合物を2−ニトロトルエンとしたこと以外は実施例1と同様にして、2−ニトロトルエンの酸化分解を行った。
【0072】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例8]
「2−ニトロトルエンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例8と同様にして、2−ニトロトルエンの酸化分解を行った。
【0074】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例9]
「ベンゼンの酸化分解」
酸化剤として、2KHSO
5・KHSO
4・K
2SO
4(Oxone(登録商標)、Du Pont社製)を用い、混合液を10℃とし、pHを調整しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0076】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例9]
「ベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例9と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0078】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の結果から、酸化触媒としてルテニウム錯体を用いた実施例1〜実施例9は、酸化触媒としてルテニウム錯体を用いなかった比較例1〜比較例9よりも酸化剤効率が向上していることが確認された。