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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-138082(P2018-138082A)
(43)【公開日】2018年9月6日
(54)【発明の名称】有害芳香族化合物の分解方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/38 20070101AFI20180810BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20180810BHJP
   C07B 37/06 20060101ALN20180810BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20180810BHJP
   A62D 101/20 20070101ALN20180810BHJP
【FI】
   A62D3/38ZAB
   B01J31/22 M
   C07B37/06
   C07F15/00 A
   A62D101:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-33224(P2017-33224)
(22)【出願日】2017年2月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「N−ヘテロ環状カルベンを配位子とする酸化活性種の創製と反応場の構築」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】下山 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】石塚 智也
(72)【発明者】
【氏名】小谷 弘明
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE15A
4G169BE15B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE41A
4G169BE41B
4G169BE46A
4G169CA04
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA02
4H006AA05
4H050AA01
4H050AB40
(57)【要約】
【課題】芳香族化合物を分解するために多くのエネルギーを必要とすることがなく、エネルギー源として再利用可能なギ酸等の水溶性のカルボン酸を生成することができる有害芳香族化合物の分解方法を提供する。
【解決手段】有害芳香族化合物を含む水に、ルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを添加して混合液とし、該混合液を、10℃〜30℃にて攪拌し、前記有害芳香族化合物を酸化分解する有害芳香族化合物の分解方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害芳香族化合物を含む水に、ルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを添加して混合液とし、該混合液を、10℃〜30℃にて攪拌し、前記有害芳香族化合物を酸化分解することを特徴とする有害芳香族化合物の分解方法。
【請求項2】
前記有害芳香族化合物は、ベンゼン、ナフタレンおよびアントラセンからなる群から選択される少なくとも1種、あるいはそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【請求項3】
前記ルテニウム錯体は、下記の一般式(1)または下記の一般式(2)で表わされることを特徴とする請求項1または2に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【化1】
(但し、X=ClまたはOHである。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【化2】
(但し、X=ClまたはOHを表わす。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【請求項4】
前記酸化剤は、硝酸アンモニウムセリウム(IV)、硫酸セリウム(IV)四水和物、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物および過ヨウ素酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【請求項5】
前記混合液のpHは2以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害芳香族化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、クロロベンゼン、ナフタレン等の芳香族化合物は、環境にとって有害な芳香族化合物(以下、「有害芳香族化合物」と言う。)である。このような有害芳香族化合物は、発癌性を有する等、人体にとっても有害であるため、人間の生活圏に存在してはならない物質である。そこで、有害芳香族化合物を分解することにより、無害な物質に変換する(無害化する)必要がある。
【0003】
有害芳香族化合物を分解する方法としては、例えば、以下のような方法が知られている。ベンゼン等の芳香族化合物をベンゼン分解菌と共生メタン生成菌等の微生物によって分解する方法(例えば、非特許文献1参照。)、ベンゼン等の芳香族化合物をバナジウム酸化物(V)で酸化的分解する方法(例えば、非特許文献2参照。)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Furumai and co−workers,Chemosphere 2012,86,p822−828.
【非特許文献2】J.Po´zniczek and co−workers,J.Catal.1988,113,p334−340.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、芳香族化合物を微生物によって分解する方法は、温度やpH等の条件を最適な範囲に設定する必要がある上に、分解に要する時間が長いため、効率が悪いという課題があった。さらに、芳香族化合物に分解によって得られる物質は、主にメタンや二酸化炭素等の温室効果ガスであるため、再利用し難いという課題があった。
また、芳香族化合物を酸化的分解する方法は、芳香族化合物を高温で加熱(燃焼)する必要がある上に、芳香族化合物が二酸化炭素にまで分解されてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、芳香族化合物を分解するために多くのエネルギーを必要とすることがなく、エネルギー源として再利用可能なギ酸等の水溶性のカルボン酸を生成することができる有害芳香族化合物の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]有害芳香族化合物を含む水に、ルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを添加して混合液とし、該混合液を、10℃〜30℃にて攪拌し、前記有害芳香族化合物を酸化分解することを特徴とする有害芳香族化合物の分解方法。
【0008】
[2]前記有害芳香族化合物は、ベンゼン、ナフタレンおよびアントラセンからなる群から選択される少なくとも1種、あるいはそれらの誘導体であることを特徴とする[1]に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【0009】
[3]前記ルテニウム錯体は、下記の一般式(1)または下記の一般式(2)で表わされることを特徴とする[1]または[2]に記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【化1】
(但し、X=ClまたはOHである。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【化2】
(但し、X=ClまたはOHを表わす。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【0010】
[4]前記酸化剤は、硝酸アンモニウムセリウム(IV)、硫酸セリウム(IV)四水和物、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物および過ヨウ素酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【0011】
[5]前記混合液のpHは2以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の有害芳香族化合物の分解方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族化合物を分解するために多くのエネルギーを必要とすることがなく、水溶液中にて温和な条件下で、エネルギー源として再利用可能なギ酸等の水溶性のカルボン酸を生成することができる有害芳香族化合物の分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において10℃にて24時間攪拌した後の混合液のH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】触媒非存在下、硝酸アンモニウムセリウム(IV)とベンゼンを10℃にて24時間攪拌した後の混合液のH−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有害芳香族化合物の分解方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[有害芳香族化合物の分解方法]
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法は、有害芳香族化合物を含む水に、ルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを添加して混合液とし、該混合液を、10℃〜30℃にて攪拌し、前記有害芳香族化合物を酸化分解する方法である。
【0016】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法によって分解可能な有害芳香族化合物は、特に限定されないが、ベンゼン、ナフタレンおよびアントラセンからなる群から選択される少なくとも1種、あるいはそれらの誘導体であることが好ましい。
ベンゼンの誘導体としては、トルエン、エチルベンゼン、塩化ベンジル、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、2−ニトロトルエン等が挙げられる。
ナフタレンの誘導体としては、1−クロロナフタレン、1,8−ジクロロナフタレン、テトラクロロナフタレン等が挙げられる。
アントラセンの誘導体としては、1−クロロアントラセン、9,10−ジクロロアントラセン等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の有害芳香族化合物を含む水が、有害芳香族化合物を2種以上含んでいてもよい。本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、水に含まれる2種以上の有害芳香族化合物を同時に分解することができる。水に含まれる2種以上の有害芳香族化合物を同時に分解するためには、例えば、ルテニウム錯体や酸化剤の添加量を調整したり、水を攪拌する時間、すなわち、有害芳香族化合物と、ルテニウム錯体および酸化剤とを接触させる時間を調整したりする。
【0018】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の水における有害芳香族化合物の濃度は、特に限定されないが、有害芳香族化合物と、ルテニウム錯体および酸化剤とが接触する効率を向上させるためには、可能な限り高い濃度が望ましい。
【0019】
また、上記の水が、有害芳香族化合物以外の物質(以下、「不純物」と言う。)を含む場合、その不純物が固形分であれば、ろ過等の操作により予め分離、除去することが好ましい。このように不純物を除去することにより、有害芳香族化合物と、ルテニウム錯体および酸化剤とが接触する効率を向上することができる。
【0020】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法において、ルテニウム錯体は、酸化触媒として機能する。このようなルテニウム錯体としては、下記の一般式(1)または下記の一般式(2)で表わされるものであることが好ましい。
【0021】
【化3】
(但し、X=ClまたはOHである。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【0022】
【化4】
(但し、X=ClまたはOHを表わす。X=Clのとき、n=1、X=OHのとき、n=2である。Rは、炭素原子数1〜2のアルキル基、炭素原子数1〜2のアルコキシ基、炭素原子数2〜3のアルケニル基を表わす。)
【0023】
上記の一般式(1)で表わされるルテニウム錯体としては、具体的に、下記式(3)、(4)、(5)で表わされるものが挙げられる。上記の一般式(2)で表わされるルテニウム錯体としては、具体的に、下記式(6)、(7)、(8)で表わされるものが挙げられる。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
【化10】
【0030】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、水溶液に含まれる有害芳香族化合物を酸化分解するために、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤が用いられる。
水中における酸化還元電位が1.6V未満の酸化剤を用いた場合、上記のルテニウム錯体を用いても、10℃〜30℃の温度範囲にて、有害芳香族化合物を酸化分解することができない。
【0031】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の混合液におけるルテニウム錯体の濃度は、特に限定されないが、有害芳香族化合物と、ルテニウム錯体とが接触する効率を向上するために、例えば、0.00001mol/L〜0.0002mol/Lであることが好ましく、0.00005mol/L〜0.0001mol/Lであることがより好ましい。
【0032】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、酸化剤としては、水中における酸化還元電位が1.6V以上であるものであれば特に限定されない。
酸化剤は、硝酸アンモニウムセリウム(IV)((NH[CeIV(NO])、硫酸セリウム(IV)四水和物(Ce(SO・4HO)、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物(Ce(NH(SO・2HO)および過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、酸化剤としては、2KHSO・KHSO・KSO(Oxone(登録商標)、Du Pont社製)Na等を用いることもできる。
【0033】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の混合液における酸化剤の濃度は、特に限定されないが、有害芳香族化合物と、酸化剤とが接触する効率を向上するために、例えば、0.075mol/L〜0.2mol/Lであることが好ましく、0.075mol/L〜0.15mol/Lであることがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の混合液におけるルテニウム錯体と酸化剤の添加量の比(モル比)は、1:270〜1:2160であることが好ましく、1:540〜1:1080であることがより好ましい。
混合液におけるルテニウム錯体と酸化剤の添加量の比が上記の範囲内であれば、有害芳香族化合物と、ルテニウム錯体および酸化剤とが接触する効率が向上し、有害芳香族化合物の酸化分解反応が効率的に進行する。
【0035】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、有害芳香族化合物を含む水溶液と、ルテニウム錯体と、酸化剤とを含む混合液の温度は10℃〜30℃である。
混合液の温度が10℃未満では、有害芳香族化合物の酸化分解反応が十分に進行しない。一方、混合液の温度が30℃を超えると、ルテニウム錯体の分解に起因するギ酸の生成量の減少や、ギ酸の熱的分解反応が生じる。
【0036】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、混合液のpHは2以下であることが好ましい。混合液のpHが2を超えると、ルテニウム錯体が酸化触媒として機能しなくなる。
なお、本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、上記の酸化剤を用いることにより、硫酸や硝酸等を用いることなく、混合液のpHを2以下に調整することができる。その他の酸化剤は、別途、硫酸等を用いてpHを2以下に調整する必要がある。
【0037】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、混合液を攪拌する手段は特に限定されないが、例えば、攪拌翼、磁気回転子等が用いられる。
混合液を攪拌する速さ、すなわち、攪拌翼や磁気回転子の回転速度は特に限定されない。
【0038】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、混合液を攪拌する時間(酸化分解反応の時間)は、特に限定されないが、有害芳香族化合物の種類等に応じて適宜調整される。混合液を攪拌する時間は、例えば、12時間〜24時間である。
【0039】
本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法によれば、有害芳香族化合物を含む水に、ルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを添加して混合液とし、その混合液を、10℃〜30℃にて攪拌することにより、ベンゼン等の有害芳香族化合物を酸化分解することができる。この有害芳香族化合物を酸化分解により、エネルギー源として再利用可能なギ酸等の水溶性のカルボン酸を生成することができる。例えば、ギ酸は、公知のギ酸−水素変換触媒を用いることにより、燃料電池の燃料となる水素に変換することができる。
また、本実施形態の有害芳香族化合物の分解方法では、10℃〜30℃で有害芳香族化合物の酸化分解反応を進行させることができるため、酸化分解反応のために、上記の混合液を加熱する等のために多くのエネルギーを必要としない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
「ベンゼンの酸化分解」
ベンゼンを含む蒸留水に、上記式(3)で表わされルテニウム錯体と、硝酸アンモニウムセリウム(IV)とを添加して混合液とし、その混合液を、10℃にて24時間攪拌した。
上記の蒸留水に含まれるベンゼンの濃度を0.020mol/L(飽和濃度)とした。
ベンゼンを含む蒸留水におけるルテニウム錯体の濃度を0.14mmol/Lとした。
ベンゼンを含む蒸留水における硝酸アンモニウムセリウム(IV)の濃度を75mmol/Lとした。
混合液のpHは1.2であった。
【0042】
H−NMR測定」
10℃にて24時間攪拌した後の混合液のH−NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。また、混合液のH−NMRスペクトルを図1に示す。8.29ppmに、ギ酸のホルミル基水素由来のシグナルが観測された。さらに、比較として、触媒非存在下、硝酸アンモニウムセリウム(IV)とベンゼンの混合液のH−NMRスペクトルを図2に示す。
H−NMR(water−D):δ[ppm]=8.29(1H) (ギ酸のホルミル基水素;図1
H−NMR(water−D):δ[ppm]=7.43(6H) (ベンゼン水素;図2
これらの結果から、10℃にて24時間攪拌した後の混合液中にギ酸(HCOOH)が含まれることが確認された。
このギ酸がベンゼン由来であることを確かめる実験を行った。
蒸留水中、ベンゼン−Dを基質とした際に、反応溶液のH−NMRスペクトル測定によって、ギ酸−D(DCOOH)に由来するH−NMRシグナルを確認した。このことから、得られるギ酸分子は、基質であるベンゼン由来であることが示された。
【0043】
「触媒回転数の評価」
実施例1において、ルテニウム錯体の触媒回転数(Turnover Number、TON)を測定した結果、56であった。結果を表1に示す。溶液中のベンゼンの濃度は、内部標準として濃度を規定した4,4−ジメチル−4−シラペンタンスルホン酸ナトリウム塩のメチル基のNMRシグナルの積分値を基準に決定し、触媒回転数を、ベンゼン濃度/触媒濃度として評価を行った。
なお、触媒回転数とは、触媒反応において、触媒が不活性化するまでに、触媒1モル当たり何モルの基質化合物(実施例1ではベンゼン)を何モルの酸化生成物(実施例1ではギ酸)に変換したかを示す指標である。
【0044】
「酸化剤効率の評価」
実施例1において、酸化剤効率を測定した結果、32%であった。結果を表1に示す。
酸化剤効率は、生成物であるギ酸の濃度に3を掛け、酸化剤として用いたセリウム錯体の濃度で割り、100倍して計算した。
なお、酸化剤効率とは、生成物の物質量に、原料から生成物へと変換するのに必要な電子数を掛け、酸化剤の濃度で割り、100倍した値である。
【0045】
[比較例1]
「ベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0046】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
「トルエンの酸化分解」
基質化合物をトルエンとしたこと以外は実施例1と同様にして、トルエンの酸化分解を行った。
【0048】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
「トルエンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例2と同様にして、トルエンの酸化分解を行った。
【0050】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
「エチルベンゼンの酸化分解」
基質化合物をエチルベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、エチルベンゼンの酸化分解を行った。
【0052】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
「エチルベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例3と同様にして、エチルベンゼンの酸化分解を行った。
【0054】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
「塩化ベンジルの酸化分解」
基質化合物を塩化ベンジルとしたこと以外は実施例1と同様にして、塩化ベンジルの酸化分解を行った。
【0056】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例4]
「塩化ベンジルの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例4と同様にして、塩化ベンジルの酸化分解を行った。
【0058】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
「クロロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をクロロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、クロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0060】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
「クロロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例5と同様にして、クロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0062】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
「o−ジクロロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をo−ジクロロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、o−ジクロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0064】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例6]
「o−ジクロロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例6と同様にして、o−ジクロロベンゼンの酸化分解を行った。
【0066】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例7]
「ニトロベンゼンの酸化分解」
基質化合物をニトロベンゼンとしたこと以外は実施例1と同様にして、ニトロベンゼンの酸化分解を行った。
【0068】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例7]
「ニトロベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例7と同様にして、ニトロベンゼンの酸化分解を行った。
【0070】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例8]
「2−ニトロトルエンの酸化分解」
基質化合物を2−ニトロトルエンとしたこと以外は実施例1と同様にして、2−ニトロトルエンの酸化分解を行った。
【0072】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例8]
「2−ニトロトルエンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例8と同様にして、2−ニトロトルエンの酸化分解を行った。
【0074】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例9]
「ベンゼンの酸化分解」
酸化剤として、2KHSO・KHSO・KSO(Oxone(登録商標)、Du Pont社製)を用い、混合液を10℃とし、pHを調整しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0076】
「評価」
実施例1と同様にして、触媒回転数および酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例9]
「ベンゼンの酸化分解」
ルテニウム錯体を用いなかったこと以外は実施例9と同様にして、ベンゼンの酸化分解を行った。
【0078】
「評価」
実施例1と同様にして、酸化剤効率を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の結果から、酸化触媒としてルテニウム錯体を用いた実施例1〜実施例9は、酸化触媒としてルテニウム錯体を用いなかった比較例1〜比較例9よりも酸化剤効率が向上していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の有害芳香族化合物の分解方法は、海水中にルテニウム錯体と、水中における酸化還元電位が1.6V以上である酸化剤とを散布して、海水を攪拌することにより、海水中に含まれるベンゼン等の有害芳香族化合物を酸化分解することができる。また、本発明の有害芳香族化合物の分解方法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やダイオキシン等の環境汚染物質と、ルテニウム錯体および前記の酸化剤を含む反応溶液とを混合することにより、環境汚染物質を分解することができる。また、本発明の有害芳香族化合物の分解方法によって得られたギ酸は、公知のギ酸−水素変換触媒を用いることにより、燃料電池の燃料となる水素に変換することができる。
図1
図2