(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-140943(P2018-140943A)
(43)【公開日】2018年9月13日
(54)【発明の名称】リバスチグミンの光分解を抑制した経皮吸収型貼付製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/27 20060101AFI20180817BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20180817BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180817BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20180817BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20180817BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20180817BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20180817BHJP
【FI】
A61K31/27
A61K9/70 401
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/32
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-34370(P2017-34370)
(22)【出願日】2017年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】390000929
【氏名又は名称】祐徳薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 洋明
(72)【発明者】
【氏名】森田 愛子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD21
4C076DD27
4C076DD29
4C076DD37
4C076DD48
4C076DD60
4C076DD65
4C076EE09G
4C076FF37
4C076FF53
4C076FF65
4C206AA01
4C206HA24
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA52
4C206MA83
4C206NA03
4C206ZA15
4C206ZA16
(57)【要約】
【課題】有効成分としてリバスチグミンを含有する経皮吸収型貼付製剤であって、抗酸化剤を配合せずとも、光暴露によるリバスチグミンの分解を抑制し、リバスチグミンの安定性を向上させた経皮吸収型貼付製剤を提供すること。
【解決手段】支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーからなる経皮吸収型貼付製剤であって、支持体が、波長340〜380nm及び440〜520nmにおける光線透過率が0.2%以下の光遮蔽処理支持体であることを特徴とする経皮吸収型貼付製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーからなる経皮吸収型貼付製剤であって、支持体が、波長340〜380nm及び440〜520nmにおける光線透過率が0.2%以下の光遮蔽処理支持体であることを特徴とする経皮吸収型貼付製剤。
【請求項2】
光遮蔽処理支持体が、着色剤を被覆及び/又は含有するものである請求項1記載の経皮吸収型貼付製剤。
【請求項3】
着色剤が、アルミニウム、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック、銅フタロシアニンブルー、ナフトールレッド、ジメチルキナクリドン、モノアゾイエロー、銅フタロシアニングリーンより選ばれる1種または2種以上である請求項1又は2記載の経皮吸収型貼付製剤。
【請求項4】
リバスチグミン含有粘着層がアクリル系粘着剤を含有するものである請求項1〜3の何れかに記載の経皮吸収型貼付製剤。
【請求項5】
アクリル系粘着剤が、ヒドロキシル基を有するアクリル系粘着剤及び/又は官能基を有さないアクリル系粘着剤である請求項1〜4の何れかに記載の経皮吸収型貼付製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーからなる経皮吸収型貼付製剤に関し、更に詳細には、リバスチグミンの光分解を抑制した経皮吸収型貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リバスチグミン(Rivastigmine)は、可逆的かつ強力なアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であり、アルツハイマー型認知症などに対して優れた治療効果(症状の進行抑制や軽減等を含む)を有する薬物である。これまでに、リバスチグミンを有効成分として含有する製剤が開発されてきており、例えば、日本ではリバスチグミンを含有する経皮吸収型貼付製剤として「イクセロン(登録商標)パッチ」や「リバスタッチ(登録商標)パッチ」等が製造販売されている。
【0003】
リバスチグミンは光に曝露されることで分解することが確認されており、リバスチグミンの分解により、基剤中の含有量が低下することで本来の薬効を発現しないことや、その光分解物がアレルギーを引き起こして好ましくない副作用を発現する等の問題が生じる可能性があった。
【0004】
特許文献1では、基剤中に紫外線吸収剤を配合することによって、薬物の光分解を抑制した貼付製剤が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載されているように、貼付製剤中の薬物の光安定性を保つ手段としては、その基剤中に紫外線吸収剤を配合することが広く知られている。また、本発明者らは、リバスチグミンを有効成分とした経皮吸収型貼付製剤に抗酸化剤を配合することで、光に暴露された際のリバスチグミンの分解を抑制できることを確認している。しかしながら、基剤中に紫外線吸収剤や抗酸化剤を配合した場合、皮膚刺激等が発生し、このような貼付製剤は、患者の治療満足度を低下させる可能性がある。そのため、抗酸化剤等を基剤中に無配合とすることで皮膚刺激等を低減させ、かつ光安定性にも優れたリバスチグミン経皮吸収型貼付製剤が求められていた。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、貼付製剤中の薬物の光安定性を保つ手段としては、支持体に紫外線遮蔽加工を施すことが報告されている。しかしながら、リバスチグミンを有効成分とした経皮吸収型貼付製剤に該支持体を用いた場合、光安定性を保つことは出来ず、上記手段のみではリバスチグミンの分解を抑制できないことを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−8169号公報
【特許文献2】特許第5044078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、有効成分としてリバスチグミンを含有する経皮吸収型貼付製剤であって、抗酸化剤を配合せずとも、光暴露によるリバスチグミンの分解を抑制し、リバスチグミンの安定性を向上させた経皮吸収型貼付製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行っていたところ、特定の波長範囲の光を遮断することにより、リバスチグミンの光による分解を抑制できるとの知見を得、この知見を利用すれば、光暴露によるリバスチグミンの分解を抑制することができる経皮吸収型貼付製剤が得られることを見出した。特に、経皮吸収型貼付製剤の支持体として、波長340〜380nm及び440〜520nmのいずれの波長においても光線透過率が0.2%以下である光遮蔽処理支持体を使用することにより、格段にリバスチグミンの光分解が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーからなる経皮吸収型貼付製剤であって、支持体が、波長340〜380nm及び440〜520nmにおける光線透過率が0.2%以下の光遮蔽処理支持体であることを特徴とする経皮吸収型貼付製剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、抗酸化剤を使用することなく、光によるリバスチグミンの分解を抑制することができるため、光安定性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーから構成され、支持体上にリバスチグミン含有粘着層を設け、さらに、リバスチグミン含有粘着層上に剥離ライナーを設けたものである。さらに、本発明の経皮吸収型貼付製剤の支持体としては、その光線透過率が、波長範囲340〜380nm及び440〜520nmのいずれの波長においても0.2%以下の光遮蔽処理支持体を使用するものである。なお、本発明において、経皮吸収型貼付製剤とは医療用粘着貼付製剤であり、皮膚上に貼付され、有効成分であるリバスチグミンの治療有効量が皮膚を通して血流に到達されるものを意味する。
【0013】
本発明の経皮吸収型貼付製剤におけるリバスチグミン含有粘着層は、有効成分としてリバスチグミン(3−[(1S)−1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル N−エチル−N−メチルカルバメート)を含有する。なお、本発明におけるリバスチグミンとしては、リバスチグミン及びその製薬上許容できる塩(酸付加塩形)から選ばれた1種または2種以上を使用することができ、中でもリバスチグミンのフリー体(遊離塩基形)を用いるのが好ましい。
【0014】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、治療有効量のリバスチグミンを含有する。アルツハイマー型認知症の治療に有効量のリバスチグミンを患者へ長時間持続的に経皮投与させるため、ある一定量のリバスチグミンを含有させることが好ましい。リバスチグミンの含有量は、リバスチグミン含有粘着層に対して1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは12〜30質量%である。リバスチグミンの含有量が、1質量%より少ないと十分治療効果が発揮できない場合があり、また50質量%より多いと、薬物含有層を構成する粘着剤の含有量が相対的に少なくなり、十分な皮膚粘着性が得られず、さらに経済的にも不利となる場合がある。
【0015】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、リバスチグミン含有粘着層中に、粘着成分を含有する。粘着成分としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられ、これらの中でも、アクリル系粘着剤が好ましい。ここで、アクリル系粘着剤とは、(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも一種含有する重合体または共重合体であって、モノマー構成単位中の側鎖に官能基を有さないものや官能基を有するものも含まれる。官能基を有さないアクリル系粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、具体的にはアクリル酸・アクリル酸−2−エチルヘキシル共重合体、アクリル酸−2−エチルへキシル・メタクリル酸−2−エチルへキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体、アクリル酸・アクリル酸オクチル共重合体、アクリル酸・アクリル酸−2−エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体、メタクリル酸・アクリル酸n−ブチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等が挙げられる。具体例としては、市販のDURO−TAK(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(ヘンケルジャパン製)、GELVA(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(モンサント社製)、SKダインマトリダーム(綜研化学社製)、オイドラギット(登録商標)シリーズ(樋口商会)、MASシリーズ(コスメディ製薬製)等が挙げられ、このうち、オイドラギット(登録商標)EPO、DURO−TAK(登録商標)87−9301(アクリル酸共重合体)、87−608A、87−4098(アクリル酸・酢酸ビニル混合物)、MAS683及びMAS811が好適に使用される。
【0016】
また、上記官能基を有するアクリル系粘着剤としては、官能基として、ヒドロキシル基、カルボキシル基等を有するアクリル系粘着剤が挙げられるが、この中でも、熱安定性やリバスチグミンの皮膚への吸収性の点でヒドロキシル基を有するアクリル系粘着剤が好ましい。ヒドロキシル基を有するアクリル系粘着剤は、モノマー構成単位中の側鎖に遊離ヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種を構成モノマーとする重合体または共重合体であり、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを含む共重合体等が例示される。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル及びメタクリル酸4−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。具体的にはアクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸−2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸−2−ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体等が例示される。これらの市販品としては例えば、DURO−TAK(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(ヘンケルジャパン製)のヒドロキシル基含有タイプ(DURO−TAK(登録商標)87−2516、87−2525、87−2979、87−4287、87−2510、87−202A、87−502A、87−503A等が挙げられる。
【0017】
本発明の経皮吸収型貼付製剤におけるアクリル系粘着剤の含有量は、粘着物性の観点から、リバスチグミン含有粘着層に対して40〜99質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。
【0018】
本発明の経皮吸収型貼付製剤のリバスチグミン含有粘着層には、適宜必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り、可塑剤、架橋剤、経皮吸収促進剤などの追加の成分を配合してもよい。また、必要に応じて、リバスチグミンの経皮吸収をコントロールするために、リバスチグミン含有粘着層の皮膚貼付側に放出制御膜等を追加することもできる。
【0019】
上記可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族プロセスオイルなどの石油系オイル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、リノール酸イソプロピルなどの液状脂肪酸エステル類、オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油などの植物系オイル、液状ポリイソブチレン、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンなどの液状ゴム、グリセリン、クロロブタノール、酢酸ビニル樹脂、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、D−ソルビトール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリアセチン、ピロリドン類、フィトステロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80(登録商標)、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
【0020】
また、架橋剤としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物などの無機系架橋剤等が挙げられる。
【0021】
さらに、経皮吸収促進剤としては、従来経皮投与での吸収促進作用が認められている化合物のいずれでも良いが、例えば、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアンカノールアミン、ラウリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、グリセリンオレイン酸モノエステル、イソステアリン酸ヘキシルデシルなどの脂肪酸およびそのエステル類、オレイルアルコール、プロピレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコールなどのアルコールおよびそのエステル類もしくはエーテル類、セスキオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタンなどのソルビタンエステル類またはエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのフェノールエーテル類、ヒマシ油または硬化ヒマシ油、オレオイルサルコシン、ラウリンジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ジメチルラウリルアミンオキサイドなどの非イオン性界面活性剤、ジメチルスルホキサイド、デシルメチルスルホキサイドなどのアルキルメチルスルホキサイド、2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、1−ゲラニルアザシクロヘプタン−2−オンなどのアザシクロアルカン類、メントール、カンフル、リモネンなどのテルペン類、クロタミトン等が挙げられる。
【0022】
本発明の経皮吸収型貼付製剤のリバスチグミン含有粘着層に経皮吸収促進剤を配合する場合の配合量は、リバスチグミン含有粘着層に対して0.1〜45質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは1〜15質量%の範囲である。経皮吸収促進剤の配合量が、0.1質量%未満では、皮膚透過促進効果が認められない場合があり、45質量%を超えると、経皮吸収促進剤に由来する皮膚刺激が発症し易くなると共に、製剤の物性が低下し、べたつき感が発生する場合がある。
【0023】
本発明の経皮吸収型貼付製剤における支持体としては、その光線透過率が、波長範囲340〜380nm及び440〜520nmのいずれの波長においても0.2%以下の光遮蔽処理支持体、好ましくは、波長範囲310〜550nmのいずれの波長においても0.2%以下の光遮蔽処理支持体、より好ましくは波長範囲310〜550nmのいずれの波長においても0.1%以下の光遮蔽処理支持体を使用するものである。このような光遮蔽処理支持体は、例えば、一般的な経皮吸収型貼付製剤の支持体として使用される支持体に、光遮蔽加工等を施すことによって得られる。光線透過率が、波長範囲340〜380nm及び440〜520nmのいずれの波長においても0.2%を超えると、分解生成物が増加し、安全性に懸念が生じる。また、光透過率が波長範囲310nm未満または550nmを超える波長のみにおいて0.2%以下の光遮蔽処理支持体を使用してもリバスチグミンの分解抑制効果を得ることが出来ない。
【0024】
上記支持体の光遮蔽加工の方法としては、例えば、支持体に着色剤を塗布する方法や、支持体中に着色剤を配合する方法等が挙げられ、特に、支持体の光に曝される側(非リバスチグミン含有粘着層側)に着色剤を塗布する方法が好ましい。
【0025】
着色剤を支持体に塗布する方法としては、例えば、印刷等が挙げられ、印刷層の厚みとしては1〜4.8μmが好ましく、1.4〜3.6μmがより好ましい。このように、支持体に着色剤を塗布することにより、支持体に着色剤が被覆される。また、支持体中に着色剤を配合する方法としては、例えば混練等が挙げられ、これらの方法により、支持体中に着色剤を含有する。
【0026】
上記着色剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック、銅フタロシアニンブルー、ナフトールレッド、ジメチルキナクリドン、モノアゾイエロー、銅フタロシアニングリーンより選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明の経皮吸収型貼付製剤における支持体としては、薬物不透過性で伸縮性または非伸縮性の支持体を使用するのが好ましい。支持体を構成する材質や形態としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂から形成されるフィルム、シート、これらの積層体、多孔質体、発泡体や、植物繊維から形成される紙材等が挙げられる。なお、支持体の形態としては、織布や不織布を使用しないことが好ましい。また、支持体の厚みとしては12〜60μmが好ましく、12〜40μmがより好ましい。
【0028】
さらに、本発明の経皮吸収型貼付製剤における光遮蔽処理支持体は、リバスチグミン由来の分解生成物の生成を抑制することを考慮して、水蒸気や酸素などの侵入を遮断できるものが好ましい。光遮蔽処理支持体の酸素透過度は、80cc/m
2・atm・day以下が好ましく、40cc/m
2・atm・day以下がより好ましい。
【0029】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、使用時までリバスチグミン含有粘着層を保護する目的で、リバスチグミン含有粘着層上に剥離ライナーが設けられている。剥離ライナーは、薬物不透過性の剥離ライナーであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の高分子材料で作られたフィルムや、フィルムにアルミニウムを蒸着させたもの、紙の上にシリコーンオイル等を塗布したものなどが挙げられる。なかでも、有効成分や酸素の透過がなく、加工性や低コストなどの点でポリエステルフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが特に好ましい。さらに、剥離ライナーは、複数の材料を貼り合せたラミネートフィルム等を使用しても良い。
【0030】
本発明の経皮吸収型貼付製剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って製造することができる。好ましい公知の製造方法としては、例えば、リバスチグミンおよび粘着成分、さらに必要に応じて経皮吸収促進剤等をトルエン、メタノール、ヘキサン、酢酸エチルまたはその混合溶媒の有機溶媒に溶解させ、この溶解物を剥離ライナーまたは光遮蔽処理支持体上に展延し、溶解物中の溶媒を蒸発させ薬物含有層を形成した後、光遮蔽処理支持体または剥離ライナーを貼り合わせることによって経皮吸収型貼付製剤を得る方法や、有効成分および粘着剤、さらに必要に応じて経皮吸収促進剤等を加熱溶解させ、この溶融物を剥離ライナーまたは光遮蔽処理支持体上に展延し、薬物含有層を形成した後、光遮蔽処理支持体または剥離ライナーを貼り合わせることによって経皮吸収型貼付製剤を得る方法などが挙げられる。
【0031】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、支持体、リバスチグミン含有粘着層および剥離ライナーからなるマトリックス型の貼付製剤である。このようなマトリックスタイプの貼付製剤は、製剤設計が容易であり、またリバスチグミン含有粘着層以外の感圧接着剤層等を有するリザーバー型の貼付製剤のような複雑な構成ではないため、貼付製剤製造時のコストを低減することができる。なお、必要に応じ、有効成分の経皮吸収をコントロールするために、リバスチグミン含有粘着層の皮膚貼付側に放出制御膜等を追加することもできる。
【0032】
斯くして得られる本発明の経皮吸収型貼付製剤は、リバスチグミンの光分解が抑制されたものである。したがって、本発明の経皮吸収型貼付製剤は、リバスチグミンの薬効が維持され、また安全性に優れたものである。なお、本発明の経皮吸収型貼付製剤は、リバスチグミン由来の分解生成物の生成を抑制することを考慮して、リバスチグミン含有粘着層の過酸化物価が低いことが好ましい。具体的な、過酸化物価の数値としては、6meq/kg以下が好ましく、より好ましくは3meq/kg以下、さらに好ましくは1meq/kg以下である。
【0033】
さらに、本発明の経皮吸収型貼付製剤は、使用するまで包装材料中に保存される包装体の形態とすることが好ましい。包装材料は、リバスチグミン由来の分解物の生成を抑制することを考慮して、水蒸気や酸素、紫外線などの侵入を遮断できるものが好ましい。このような材料としては、アクリロニトリルメチルアクリレートコポリマー、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ヒートシールPET、アルミニウム箔等の金属箔;エチレンビニルアルコール共重合体フィルム、金属(アルミニウム等)積層プラスチックフィルム、金属蒸着プラスチックフィルム、セラミックス(酸化ケイ素等)蒸着プラスチックフィルム等の酸素透過性の低いフィルム;ステンレス等の金属;ガラスが挙げられる。これらの中でも、酸素等の透過度が低いことや製造コスト等を考慮して、金属箔、金属積層プラスチックフィルム、金属蒸着プラスチックフィルム等を使用することが好ましい。
【0034】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、包装材料中に密封状態で保存されることが好ましい。密封状態では、リバスチグミン由来の分解物の生成を抑制することを考慮して、低酸素状態とすることが好ましい。具体的には、包装材料内の空気を除去して密封する方法(真空パックのような状態)、包装材料内の空気を不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガス等に置換して密封する方法が挙げられる。
【0035】
さらに、上記低酸素状態とする方法として、酸素吸着能力を有する物質を本発明の経皮吸収型貼付製剤と同封する方法または酸素吸着能力を有する物質を含む包装材料を使用する方法等が挙げられ、該方法を単独で、または上記方法と組み合わせて使用しても良い。このような酸素吸着能力を有する物質としては、鉄粉、亜鉛粉、ハイドロサルファイト等を主剤とする無機系の脱酸素剤や、アスコルビン酸系、多価アルコール系、活性炭系等の有機系の脱酸素剤が挙げられ、例えば、ファーマキープ(三菱ガス化学(株)製)、エージレス(三菱ガス化学(株)製)、StabilOx(Multisorb社製)、ウェルパック((株)タイセイ製)、エバーフレッシュ((株)鳥繁産業製)、オキシーター(上野製薬(株)製)、キービット(ドレンシー(株)製)、ケプロン((株)ケプロン製)、サンソカット(アイリス・ファインプロダクツ(株)製)、サンソレス((株)博洋製)、セキュール(ニッソー樹脂(株)製)、タモツ(大江化学工業(株)製)、バイタロン((株)常盤産業製)、モデュラン(日本化薬フードテクノ(株)製)、ワンダーキープ(パウダーテック(株)製)、鮮度保持剤C(凸版印刷(株)製)などの市販のものを使用しても良い。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0037】
<光遮蔽処理支持体の製造>
光遮蔽処理支持体1:
着色剤(カーボンブラック、ナフトールレッド、モノアゾイエロー、酸化チタン、シリカ)を酢酸エチルとトルエンに溶解し、均一に撹拌してベージュ色の着色溶液を作成した。この着色溶液を、印刷により、PETフィルム(約25μm)の非膏体接触側に塗布し、乾燥させた。印刷面にさらに、もう一度、上記同様の印刷を繰り返して、光遮蔽処理支持体1を得た。
【0038】
光遮蔽処理支持体2〜4:
光遮蔽処理支持体1の着色溶液の色を変更する以外は、光遮蔽処理支持体1と同様の方法により、光遮蔽処理支持体2〜4を得た。なお、白色の着色溶液には、酸化チタンとシリカを使用し、また、黄色の着色溶液には、シリカとモノアゾイエローを使用した。
【0039】
比較支持体1:
光遮蔽処理支持体1の着色溶液の塗布処理を1回に変更する以外は、光遮蔽処理支持体1と同様の方法により比較支持体1を得た。
【0040】
比較支持体2:
着色剤(カーボンブラック、ナフトールレッド、モノアゾイエロー、酸化チタン、シリカ)を酢酸エチルとトルエンに溶解し、均一に撹拌してベージュ色の着色溶液を作成した。この着色溶液をポリエステルに配合して織布を製造し、比較支持体2(410μm)を得た。
【0041】
上記光遮蔽処理支持体1〜4及び比較支持体1〜2を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
試験例1(光透過試験)
光遮蔽処理支持体1〜4及び比較支持体1〜2について光透過試験をした。紫外可視分光光度計(日本分光製)のセル窓部に2cm×2cmに切り取った各光遮蔽処理支持体を張り付け光線透過率(%)を測定した。340〜380nm及び440〜520nmの範囲における光線透過率の最大値(%)及び310〜550nmの範囲における光線透過率の最大値(%)を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
リバスチグミン経皮吸収型貼付製剤:
実施例1
表3の粘着層1の組成に従って、リバスチグミン、アクリル系粘着剤、経皮吸収促進剤、可塑剤を酢酸エチルに加えて攪拌混合し、均一な溶解物を得た。なお、酢酸エチルは、リバスチグミンとアクリル系粘着剤の総量に対して1.5倍量用いた。次に、この溶解物を、ドクターナイフ塗工機を用いて剥離フィルム(シリコーン処理を施したPETフィルム)に展延し、溶媒を留去して、厚さが100μmのリバスチグミン含有粘着層を形成した。このリバスチグミン含有粘着層に、上記した光遮蔽処理支持体1の非光遮蔽処理側を貼り合わせ、所望の大きさに裁断して経皮吸収型貼付製剤を製造した。
【0046】
【表3】
【0047】
実施例2〜8及び比較例1〜4
実施例1と同様の方法により、経皮吸収型貼付製剤を製造した。使用した支持体及び粘着層を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
試験例2(光安定性試験)
実施例1〜8及び比較例1〜4の経皮吸収型貼付製剤を、5cm
2に裁断し、光安定性試験装置内に支持体側から光に曝露されるよう静置した。総照度が120万Lx・hに達するまで保存し、保存前後における分解物生成量を測定した。各経皮吸収型貼付製剤の剥離シートを剥がして、50mLの遠心沈殿管に入れ、テトラヒドロフラン10mLを加え、20分間振とうした。この液に水/メタノール(2:1、v/v)10mLを加え、20分間振とうした。この上澄液を移動相と任意の割合で希釈し、高速液体クロマトグラフィーで定量した。高速液体クロマトグラフィーの操作は、カラムがXbridge shiled C18 RP(3.5 μm 、3.0 mm×10 cm;日本ウォ―ターズ株式会社製)、検出波長が215 nm、移動相が水/りん酸(10000:1、v/v)(移動相A)および液体クロマトグラフィー用アセトニトリル(移動相B)、移動相の送液は移動相Aおよび移動相Bを任意の条件で混合させ濃度勾配制御させて行った。各経皮吸収型貼付製剤のリバスチグミンの分解生成物の量を表5に示す。なお、リバスチグミンの分解生成物とは、リバスチグミン由来の物質(リバスチグミンを含有しない製剤においては発現しない物質)のことであり、この分解生成物の量が少ない程、リバスチグミンの分解が抑制されていることが示される。
【0050】
【表5】
【0051】
表5の結果から明らかな通り、実施例1〜8の経皮吸収型貼付製剤は比較例1〜4の経皮吸収型貼付製剤に比べて、分解生成物の量が少なく、リバスチグミンの光分解を抑制することを確認した。また、実施例1〜8の経皮吸収型貼付製剤より、光線透過率が低い支持体を使用するほど、リバスチグミン分解生成物の生成が抑制されることを確認した。なお、リバスチグミン分解生成物の量が0.5%以上のものは、安全性に懸念が生じることから、その評価を×とし、他方、リバスチグミン分解生成物の量が0.5%未満のものを○とした。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、抗酸化剤等の添加物を使用することなくリバスチグミンの光分解を抑制することができるため、使用時の安全性及びリバスチグミンの安定性に優れたものである。よって、本発明の経皮吸収型貼付製剤は、経時的な品質の低下等を防止できるため、リバスチグミンの薬理効果を有効に、かつ持続的に利用することが可能であり、特に、アルツハイマー型認知症などの治療に有用な製剤である。
【手続補正書】
【提出日】2018年1月26日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明の経皮吸収型貼付製剤は、リバスチグミン含有粘着層中に、粘着成分を含有する。粘着成分としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられ、これらの中でも、アクリル系粘着剤が好ましい。ここで、アクリル系粘着剤とは、(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも一種含有する重合体または共重合体であって、モノマー構成単位中の側鎖に官能基を有さないものや官能基を有するものも含まれる。官能基を有さないアクリル系粘着剤としては、例えば、アクリル酸2−エチルへキシル・メタクリル酸2−エチルへキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等が挙げられる。具体例としては、市販のDURO−TAK(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(ヘンケルジャパン製)、GELVA(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(モンサント社製)、SKダインマトリダーム(綜研化学社製)、オイドラギット(登録商標)シリーズ(樋口商会)、MASシリーズ(コスメディ製薬製)等が挙げられ、このうち、オイドラギット(登録商標)EPO、DURO−TAK(登録商標)87−9301(アクリル酸共重合体)、87−608A、87−4098(アクリル酸・酢酸ビニル混合物)、MAS683及びMAS811が好適に使用される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
また、上記官能基を有するアクリル系粘着剤としては、官能基として、ヒドロキシル基、カルボキシル基等を有するアクリル系粘着剤が挙げられるが、この中でも、熱安定性やリバスチグミンの皮膚への吸収性の点でヒドロキシル基を有するアクリル系粘着剤が好ましい。ヒドロキシル基を有するアクリル系粘着剤は、モノマー構成単位中の側鎖に遊離ヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種を構成モノマーとする重合体または共重合体であり、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを含む共重合体等が例示される。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル及びメタクリル酸4−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。具体的にはアクリル酸2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸2−ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体等が例示される。これらの市販品としては例えば、DURO−TAK(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(ヘンケルジャパン製)のヒドロキシル基含有タイプ(DURO−TAK(登録商標)87−2516、87−2525、87−2979、87−4287、87−2510、87−202A、87−502A、87−503A等が挙げられる。