特開2018-143142(P2018-143142A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-143142アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド、前記ポリペプチドをコードする遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド、前記発現プラスミドで形質転換された形質転換体及び前記酵素の製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-143142(P2018-143142A)
(43)【公開日】2018年9月20日
(54)【発明の名称】アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド、前記ポリペプチドをコードする遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド、前記発現プラスミドで形質転換された形質転換体及び前記酵素の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180824BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20180824BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180824BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180824BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180824BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180824BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N9/48
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N1/15
   C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-39917(P2017-39917)
(22)【出願日】2017年3月2日
(71)【出願人】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(72)【発明者】
【氏名】韮澤 悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 砂織
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF11E
4B050FF12E
4B050FF13E
4B050LL01
4B065AA15Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA31
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有する酵素を提供し、さらに原核微生物により大量生産の可能な遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド及び前記発現プラスミドで形質転換された形質転換体を提供する。
【解決手段】原核微生物由来の糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有する酵素のアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列、前記遺伝子を含有する発現プラスミド及び前記発現プラスミドで形質転換された形質転換体が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1記載のアミノ酸配列を有するアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド又は、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位を有するアミノ酸配列であって、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
配列番号6、8及び10から17記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのうち、すくなくとも1種類のポリペプチドのC末端アミノ酸残基を1残基切断する活性を有することを特徴とする、請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項4】
配列番号2記載のアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子又は、配列番号2記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の遺伝子を含有する発現プラスミド。
【請求項6】
請求項5記載の発現プラスミドにより形質転換された形質転換体。
【請求項7】
前記形質転換体の宿主が大腸菌である、請求項6記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項6又は請求項7記載の形質転換体を培地に培養し、培養物からアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドを採取することを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物由来のヒトアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド、前記ポリペプチドをコードする遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド、前記発現プラスミドで形質転換された形質転換体及び原核微生物による前記ヒトアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドの大量生産に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシン変換酵素2は、ヒトを含む哺乳類の血圧調整機構であるレニン−アンジオテンシン系において重要な酵素の一つである。図3にレニン−アンジオテンシン系の血圧調整機構を示す。
【0003】
レニンは、主に腎臓の傍糸球体細胞で生合成され、様々な刺激で血中に放出され、肝臓で合成された基質タンパクであるアンジオテンシノーゲンに作用してアンジオテンシンIを遊離する。
アンジオテンシンIは、主に肺循環中において、アンジオテンシン変換酵素やキマーゼによりアンジオテンシンIIに変換される。生じたアンジオテンシンIIは、AT1受容体に作用し、血管収縮、細胞増殖、肥大などを引き起こす。また、アンジオテンシンIIは、AT2受容体にも作用し、血管拡張、増殖抑制などを引き起こす。
一方、アンジオテンシン変換酵素2は、アンジオテンシンIまたはアンジオテンシンIIに作用して、それぞれアンジオテンシン(1−9)またはアンジオテンシン(1−7)を遊離する。また、アンジオテンシン(1−9)はACEの働きでアンジオテンシン(1−7)に変換される。
なお、図3において、枠線内の二段表記の上段はホルモンの名称、下段はそのアミノ酸配列、二重枠線内は反応を触媒する酵素の名称を示す。ACEはアンジオテンシン変換酵素、ACE2はアンジオテンシン変換酵素2の略である。
アンジオテンシン(1−7)はMas受容体に作用し、血管拡張、増殖抑制等の作用を引き起こす。これらの作用は血圧降下を惹起するのみではなく、急性呼吸促迫症候群(ARDS)発症時における炎症を抑制する効果ももたらす。例えば、呼吸不全(非特許文献1)や心不全のモデルマウス(非特許文献2及び非特許文献3)にアンジオテンシン変換酵素2を投与すると症状が改善することが報告されている。
【0004】
アンジオテンシン変換酵素2は、多様な糖鎖を持つ糖タンパク質であり、疎水性細胞膜貫通領域を持つ膜タンパク質であることから、大量生産は難しく、遺伝子組換え技術を利用して大量に生産できるものが求められていた。遺伝子組換え技術を用いたアンジオテンシン変換酵素2に関する研究として、昆虫由来のアンジオテンシン変換酵素2が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−519264
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Imai et. al., Nature 436, 112-116, 2005
【非特許文献2】Zhong et al., Circulation 122, 717-728, 2010
【非特許文献3】Sato et al., J. Clin. Invest. 123, 5203-5211, 2013
【非特許文献4】Takahashi et al., Biomedical Research, Vol. 36, No. 3, p. 219-224, 2015
【非特許文献5】Vickers et al., J. Biol. Chem. 277, 14838-14843, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたアンジオテンシン変換酵素2は、糖タンパク質であり、そのため、宿主として真核細胞微生物又は哺乳動物細胞を用いる必要がある。
【0008】
本発明の目的は、糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有する酵素を提供し、原核微生物による大量生産の可能な遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド及び前記発現プラスミドにより形質転換された形質転換体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド又は、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位を有するアミノ酸配列であって、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドを提供する。
【0010】
本発明は、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド又は、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位を有するアミノ酸配列であって、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を提供する。
【0011】
本発明は、配列番号2記載のアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子又は、配列番号2記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を提供する。
【0012】
また本発明は、前記アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含有する発現プラスミド及び前記発現プラスミドにより形質転換された形質転換体を提供する。
【0013】
さらに本発明は、前記形質転換体を培地に培養し、培養物からアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドを採取することを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドの製造法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドが提供され、又、原核微生物による前記ペプチドを大量に生産することが可能な遺伝子、前記遺伝子を含有する発現プラスミド及び前記発現プラスミドにより形質転換された形質転換体が提供される。
【0015】
本発明の糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチは、血圧降下剤や急性呼吸促迫症候群(ARDS)発症時における炎症抑制剤などの医薬として利用することが可能である。また、アンジオテンシン変換酵素2の阻害作用や亢進作用を判定する試薬としても利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明により精製した組換え原核微生物由来アンジオテンシン変換酵素2のSDS-ポリアクリルアミド電気泳動を示す図である。
図2】本発明に係る原核微生物由来アンジオテンシン変換酵素2によるアンジオテンシンIIの分解を表す図である。
図3】レニン−アンジオテンシン系による血圧調節機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の糖鎖のない可溶性アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチド(以下、本ポリペプチドという)は、糖鎖修飾が起こらない原核微生物由来のタンパク質で、しかも可溶性タンパク質である。本ポリペプチドは、Paenibacillus sp. B38株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにARIF-B38(FERM P-20321)として寄託されている)からゲノムDNAを単離して、アミノ酸配列を配列番号1、遺伝子配列を配列番号2として、特定したものである。
【0018】
本ポリペプチドは、ヒトアンジオテンシン変換酵素2と同様の基質特異性と酵素活性を示しており、血圧降下剤や急性呼吸促迫症候群(ARDS)発症時における炎症抑制剤などの医薬として利用することが可能である。
なお、ヒトアンジオテンシン変換酵素2のアミノ酸配列は、他の哺乳類のアンジオテンシン変換酵素2のアミノ酸配列と非常に類似しており、例えば、ゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)とは99%の類似性があり(以下、カッコ内の数字は類似の割合を示す)、チンパンジー(Pan troglodytes、99%)、オラウータン(Pongo abelii、98%)、ヤギ(Capra hircus、82%)、ブタ(Sus scrofa、81%)、イヌ(Canis lupus familiaris、84%)、ヒツジ(Ovis aries、82%)、アライグマ(Procyon lotor、84%)、ヤク(Bos mutus、81%)、シャチ(Orcinus orca、81%)、ハンドウイルカ(Tursiops truncatus、81%)、ゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus、84%)、ウシ(Bos taurus、81%)、ウサギ(Oryctolagus cuniculus、85%)、ウマ(Equus caballus、87%)、アルパカ(Vicugna pacos、83%)、ネコ(Felis catus、85%)、マウス(Mus musculus、82%)、ラット(Rattus norvegicus、82%)と80%以上の高い類似性を示している。したがって、人以外の哺乳動物においても、血圧降下剤や急性呼吸促迫症候群発症時における炎症抑制剤などの動物医薬として利用することが考えられる。
【0019】
また、本ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1に限定されるわけではなく、アンジオテンシン変換酵素2活性を有する範囲で、1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位となっていても良い。
【0020】
ただし、本ポリペプチドの活性中心アミノ酸残基は、His-Glu-Xaa-Xaa-HisあるいはHis-Gluといった特有なアミノ酸配列中に存在するため、このような配列の箇所のアミノ酸残基の変更は好ましくない。具体的には、His(269位)−Glu(270位)−Xaa−Xaa−His(273位)及びHis(298位)−Glu(299位)のアミノ酸残基を変更することは好ましくない。
【0021】
本ポリペプチドをコードする遺伝子は、配列番号1記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は配列番号1記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位を有するアミノ酸配列であって、アンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子である。
具体的な例として、配列番号2の遺伝子配列がある。しかし、本ポリペプチドをコードする遺伝子は、配列番号2の遺伝子配列に限定されるものではなく、配列番号2記載の塩基配列に相補的な塩基配列と、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子配列であれば良い。
また、配列番号2の遺伝子検索によって得られる配列番号2に該当する遺伝子配列または、合成遺伝子配列であっても良い。
遺伝子検索によって得られる遺伝子配列には、例えば、Paenibacillus durus (ATCC 35681)、Paenibacillus polymyxa (ATCC 15970)、Bacillus coagulans DSM1株(ATCC 7050)などの原核微生物の配列番号2に該当する遺伝子配列を挙げることができる。
【0022】
本ポリペプチドは、配列番号2記載のアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子又は、配列番号2記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするアンジオテンシン変換酵素2活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を発現用プラスミドに組み込んで発現プラスミドとしたのち、前記発現プラスミドで原核微生物を形質転換し、得られた形質転換体を培地中で培養することにより製造することができる。
【0023】
本ポリペプチドは、原核微生物由来であるため、糖鎖形成を必要とせず、発現用プラスミド及び宿主を原核微生物の形質転換に適したものを用いれば良く、又は、酵母、麹菌、昆虫細胞、動物細胞、植物細胞などの異種タンパク質発現系を用いても生産することができる。
【0024】
発現用プラスミドは、特に限定されるものではなく、形質転換する宿主を原核微生物とし、原核微生物の発現用プラスミドとして用いられるものであれば良い。宿主を大腸菌とする場合には、例えば、大腸菌発現プラスミドpET−32aを使用することができる。
大腸菌とpET−32aとの組合せ以外に、例えば以下のものを用いることができる。
宿主として大腸菌を用いる場合:発現プラスミドとしてpETシリーズ、pUCシリーズ、M13mpシリーズ、pCAMBIAシリーズ、pKK223、pACYC184、pBR322、pMALシリーズ、pGEXシリーズ、pColdシリーズなど。
宿主として枯草菌(Bacillus subtilis)を用いる場合:発現プラスミドとしてpHTシリーズ、pALシリーズ、pBE-Sなど。
宿主としてブレビバチルス菌(Brevibacillus)を用いる場合:発現プラスミドとしてpBICシリーズ、pNCシリーズ、pNIシリーズ、pNY326、pNCMO2など。
【実施例】
【0025】
(1)原核微生物由来アンジオテンシン変換酵素2(以下、アンジオテンシン変換酵素2をACE2と略記する)のスクリーニング
Paenibacillus sp. B38株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにARIF-B38(FERM P-20321)として寄託されている)からゲノムDNAを単離した。つぎに、得られたゲノムDNAの塩基配列をシークエンサーにより解析した。ACE2はカルボキシペプチダーゼ活性を有していることから、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)を用いて、解析したゲノムDNA塩基配列の中からカルボキシペプチダーゼをコードすると推定される領域(推定領域)を検索した。推定領域の塩基配列から設計したプライマー(塩基配列3及び4)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により推定領域のDNAを増幅した。増幅したDNAの塩基配列を配列番号5に示す。
増幅したDNAを大腸菌用発現プラスミドpET−32aのマルチクローニングサイトに挿入し、推定領域の発現プラスミドを構築した。得られた発現プラスミドにより大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、これをLB培地中で培養することにより、推定領域にコードされたタンパク質を発現させた。
ACE2活性の測定は非特許文献4に従って行った。すなわち、消光性蛍光基質2−メチルアミノベンゾイル(Nma)−ヒスチジン(His)−プロリン(Pro)−[Nε−(2, 4−ジニトロフェニル)−リシル][Lys(Dnp)]を用いて、これを分解する活性を有するタンパク質を、大腸菌により発現したタンパク質からスクリーニングした。その結果、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質を発見した。また、このタンパク質をコードする塩基を配列番号2に示す。
【0026】
(2)原核微生物由来ACE2の精製
大腸菌用発現プラスミドpET−32aのマルチクローニングサイトに配列番号2に示した原核微生物由来ACE2をコードするDNA全長を組み込み、発現プラスミドを構築した。得られた発現プラスミドにより大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、これをLB培地中で培養することにより、原核微生物由来ACE2を発現させた。超音波破砕機により大腸菌を破砕し、遠心分離により菌体破砕液上清を取得した。陰イオン交換クロマトグラフィー、並びにゲルろ過クロマトグラフィーにより、単一酵素を取得した(図1)。図1中、符号1は分子量マーカー、符号2は精製タンパク質を電気泳動したレーンである。
精製タンパク質の分子量は約57kDaであり、アミノ酸配列から計算した分子量57,597と一致した。また、培養液1L(リットル)あたり約100mgの原核微生物由来ACE2が得られた。
【0027】
(3)原核微生物由来ACE2の酵素活性
精製酵素の基質Nma-His-Pro-Lys(Dnp)に対する動力学定数を非特許文献4に基づき測定した。表1にその結果を示す。なお、動力学定数は、実験を3回繰り返して行って得られた平均値である。本実施例で使用したヒトACE2はコスモ・バイオ株式会社から購入した。
動力学定数は、ヒトACE2と近似な値を示した。
なお、ヒトACE2の動力学定数値は、非特許文献4から引用した値である。
【0028】
【表1】
【0029】
(4)原核微生物由来ACE2による各種ペプチドの加水分解実験
原核微生物由来ACE2によるアンジオテンシンIIの加水分解実験を行ったところ、ヒトACE2と同様にアンジオテンシンIIからアンジオテンシン(1−7)を生成した。結果を図2に示す。
【0030】
図2において、(A)は、アンジオテンシンIIのみ、(B)は、アンジオテンシン(1−7)のみ、(C)は、アンジオテンシンIIにヒトACE2を添加し、37℃で2時間インキュベーションしたもの、(D)は、アンジオテンシンIIに原核微生物由来ACE2を添加し、37℃で2時間インキュベーションしたものである。
HPLCの測定条件は、溶媒AからBへのリニアグラジエント(溶媒A:0.1%トリフルオロ酢酸、溶媒B:50%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)、分析時間20分、検出波長:210nm、カラム:TSKgel Super-ODS(10cm)とした。
また、各種ペプチドの加水分解実験の結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
↓(下向き矢印):切断部位、○:切断される、×:切断されない。
なお、ヒトACE2のデータは、非特許文献5から引用した値である。
表2中、Neurotensin 1-8のアミノ酸配列に記載されたpEは、ピログルタミン酸残基を表し、配列表17では、pEを除くアミノ酸配列のみを記載している。
表2に示すように、原核微生物由来ACE2、すなわち、本発明のポリペプチドは、ヒトACE2と同じ酵素活性を示すことがわかる。
【0032】
(4)ヒトACE2阻害剤による原核微生物由来ACE2の阻害実験
原核微生物由来ACE2も既知のヒトACE2阻害剤であるニコチアナミンによる阻害を受けた(IC50: 原核微生物由来ACE2 74nM, ヒトACE2 84nM)。
【0033】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1:分子量マーカーの電気泳動レーン
2:精製タンパク質の電気泳動レーン
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]