(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-143923(P2018-143923A)
(43)【公開日】2018年9月20日
(54)【発明の名称】PCB除去方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/02 20060101AFI20180824BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20180824BHJP
【FI】
B08B3/02 F
B08B3/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-39156(P2017-39156)
(22)【出願日】2017年3月2日
(71)【出願人】
【識別番号】504352696
【氏名又は名称】公益財団法人産業廃棄物処理事業振興財団
(71)【出願人】
【識別番号】304054149
【氏名又は名称】中間貯蔵・環境安全事業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131657
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 律次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊二
(72)【発明者】
【氏名】深野 廣和
(72)【発明者】
【氏名】沖 宏樹
【テーマコード(参考)】
3B201
【Fターム(参考)】
3B201AA31
3B201AB53
3B201BB22
3B201BB36
3B201BB43
3B201BB62
3B201BB95
3B201CB01
3B201CC21
3B201CD11
3B201CD22
(57)【要約】
【課題】 PCB汚染物からPCBを効果的かつ安全に除去するためのPCB除去方法を提供すること。
【解決手段】 密閉構造物内においてPCBを除去するPCB除去方法であって、密閉構造物の内面又は密閉構造物内に載置されたPCB汚染物に、PCBを溶解可能な溶剤を、溶剤が霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから噴出させる溶剤噴出工程で主に構成される。ノズルへの溶剤の供給は、空気駆動ポンプを用いて行い、密閉構造物内に不活性ガスを充填する雰囲気調整工程を溶剤噴出工程の前に設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉構造物内においてPCBを除去するPCB除去方法であって、
前記密閉構造物の内面又は前記密閉構造物内に載置されたPCB汚染物に、前記PCBを溶解可能な溶剤を、前記溶剤が霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから噴出させる溶剤噴出工程を有することを特徴とするPCB除去方法。
【請求項2】
前記ノズルへの前記溶剤の供給は、空気駆動ポンプを用いて行うことを特徴とする請求項1記載のPCB除去方法。
【請求項3】
前記溶剤噴出工程の前に、前記密閉構造物内に不活性ガスを充填する雰囲気調整工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載のPCB除去方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは窒素であることを特徴とする請求項3記載のPCB除去方法。
【請求項5】
前記溶剤噴出工程の前に、前記密閉構造物を基準電位点に接続するアース工程を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のPCB除去方法。
【請求項6】
前記ノズルは、全方位に回転するノズルであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のPCB除去方法。
【請求項7】
前記ノズルの回転は、前記溶剤の噴出力を利用して行うことを特徴とする請求項6記載のPCB除去方法。
【請求項8】
前記溶剤は循環させて再利用することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のPCB除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBに汚染された機器や貯槽等(以下、PCB汚染物という)からPCBを除去するためのPCB除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、電気絶縁性が良好であり、水には不溶であるが有機溶媒・油にはよく溶解するため、電気機器のトランス、コンデンサの絶縁油、接着剤、ワックス、潤滑油等に使用されてきた。しかし、PCBは、発癌性や皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常等、生体に対する毒性が高く、脂肪組織に蓄積しやすい性質があることから、現在は製造が禁止されている。また、PCBの製造が認められていた時期に生産され、使用されていた電気機器等の廃棄物は、そのままの状態で廃棄することはできず、PCBの除去作業が必要となっている。
【0003】
従来、PCB汚染物からPCBを除去する方法としては、当該汚染物を洗浄槽に入れて洗浄用の溶剤に浸漬する方法や、溶剤を気化して当該気化溶剤の雰囲気に当該汚染物を晒す方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、当該汚染物が容器状であって、その内部にPCBが付着している場合には、まず、容器の底部に滞留したPCBを洗浄用の溶剤を用いて除去し、その後、界面活性剤を添加した水溶液をスプレー噴射して当該容器の内面に付着したPCBを除去する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−145069
【特許文献2】特開2016−140778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、洗浄用の溶剤にPCB汚染物を浸漬させる方法は、大量の溶剤を必要とする。また、気化溶剤の雰囲気にPCB汚染物を晒す方法は、当該汚染物が減圧に耐えうる強度を有さない構造である場合には使用できない。
【0007】
また、界面活性剤を添加した水溶液をスプレー噴射する方法は、洗浄に長時間を要するうえ、洗浄力が不十分であるという問題があった。また、使用した水溶液の処理が容易でないという問題もあった。一方で、洗浄力を上げるために溶剤をスプレー噴射することは、ノズル出口付近で生じた静電気が溶剤に引火する可能性があるため、安全な方法とは言えない。
【0008】
そこで、本発明は、PCB汚染物からPCBを効果的かつ安全に除去するためのPCB除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のPCB除去方法は、密閉構造物内においてPCBを除去するPCB除去方法であって、前記密閉構造物の内面又は前記密閉構造物内に載置されたPCB汚染物に、前記PCBを溶解可能な溶剤を、前記溶剤が霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから噴出させる溶剤噴出工程を有することを特徴とする。
【0010】
この場合、前記ノズルへの前記溶剤の供給は、空気駆動ポンプを用いて行うことが好ましい。
【0011】
また、前記溶剤噴出工程の前に、前記密閉構造物内に不活性ガスを充填する雰囲気調整工程を有する方が好ましい。この場合、前記不活性ガスには窒素を用いれば良い。
【0012】
また、前記溶剤噴出工程の前に、前記密閉構造物を基準電位点に接続するアース工程を有する方が好ましい。
【0013】
また、前記ノズルは、全方位に回転するノズルである方が好ましい。なお、前記ノズルの回転は、前記水溶液の噴出力を利用して行っても良い。
【0014】
また、前記溶剤は循環させて再利用しても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明のPCB除去方法は、霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから溶剤を噴出させるため、ノズル出口付近での静電気発生を抑制して溶剤への引火や爆発を防ぎつつ、効果的にPCBを除去することができる。また、空気駆動ポンプを用いた溶剤の供給や、不活性ガスを充填した雰囲気下における溶剤の噴出により、引火や爆発のリスクをさらに軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明における洗浄運転のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のPCB除去方法は、密閉構造物内においてPCBを除去するPCB除去方法であって、前記密閉構造物の内面又は前記密閉構造物内に載置されたPCB汚染物に、前記PCBを溶解可能な溶剤を、前記溶剤が霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから噴出させる溶剤噴出工程で主に構成される。
【0018】
ここで、PCBとは、一般式C
12H
(10−n)Cl
n(1≦n≦10)で表されるポリ塩化ビフェニルのことであり、ビフェニルの水素原子が塩素原子で置換された化合物の総称である。
【0019】
また、PCB汚染物とは、PCBが付着しているものを指し、具体的には、トランス等のPCBを使用している機器、当該機器の保管容器や保管設備、PCBを貯蔵していた貯槽等を含むものである。
【0020】
また、密閉構造物とは、前述した貯槽、保管容器、保管設備のほか、PCBの除去時にPCB汚染物を被覆するために用いる容器や設備(例えば、ビニールハウス等)の構造物であって蓋や扉、シール部材等で密閉可能なものを指す。
【0021】
PCBを溶解可能な溶剤としては、炭化水素系溶剤やハロゲン系溶剤等を用いることができる。例えば、炭素数が8〜15のアルカン、アルケン、シクロアルカン又はアルケン系溶剤(特に、炭素数が11〜13のアルカンやアルケン系溶剤)や、炭素数が1〜12のハロゲン系溶剤を用いれば良い。具体的には、NS220やNS230(共にJX日鉱日石エネルギー株式会社製)等を用いることができる。なお、本明細書中で、溶剤とは、容器内のPCBを溶解した後の溶剤も含まれる。
【0022】
本発明において「霧状」とは、無数の微小な液体粒子が空気中に浮遊して煙のように見える状態をいう。したがって、「霧状とならない」とは、前述した「霧状」での液体粒子よりも粒径が大きい状態をいい、例えば、ノズルから噴出された溶剤が一本又は複数の筋状に見える状態をいう。
【0023】
吐出圧力とは、ノズルに溶剤の流体が流入する直近部分の流体の静圧を指す。本発明では、溶剤が霧状とならずにノズルから噴出されるよう、所定の吐出圧力とする。当該所定の吐出圧力は、ノズルの形状や断面積、流量、溶剤の粘性等の条件に合わせて適宜決定すれば良い。ここで、吐出圧力の調整は、空気駆動や電気駆動の各種ポンプを介した任意の方法により行うことができるが、後述の理由により、空気駆動ポンプを介して行うほうが好ましい。なお、溶剤が霧状とならずに噴出される状態を維持するために、吐出圧力は常に圧力計で監視できるようにすることが好ましい。
【0024】
ノズルへの溶剤の供給は、例えば、溶剤が貯留されている溶剤供給槽を流路およびポンプを介してノズルとつないで行えば良い。この場合、ポンプとしては空気駆動ポンプを用いるのが好ましい。これにより、電気駆動ポンプの利用時に想定される火花の発生と、それに伴う溶剤への引火を防ぐことができる。また、空気駆動ポンプは、圧縮空気の圧力を変更するだけで溶剤の吐出圧や吐出量を調節できるため、電気駆動ポンプよりも、確実な調整を容易に行える。したがって、空気駆動ポンプは、霧状とならない所定の吐出圧力でノズルから溶剤を噴出させるのに適している。なお、空気駆動ポンプは、圧縮空気を動力源としたポンプであれば特に限定されないが、例えば、ピストン式ポンプやダイヤフラム式ポンプを用いれば良い。
【0025】
ノズルからの溶剤の噴出は、密閉構造物内の天井面及び側面に付着したPCBや、密閉構造物内に載置された電気機器等のPCB汚染物に付着したPCB、密閉構造物内の気体中のPCB等を衝突効果で叩き落とすことができるように行う。ここで、ノズルは、全方位に回転可能なものを用いると良い。これにより、溶剤が密閉構造物内の全方位に均一に噴出されるため、効率良く、ムラのない洗浄が可能となる。なお、ノズルの回転は、電動でも良いし、溶剤の噴出力を利用して回転させるものでも良い。また、噴射の高さを適宜調節できるように、ノズルは上下にスライド可能なものを用いても良い。
【0026】
密閉構造物の底部に溜まった溶剤の排出は、任意の方法で行うことができるが、例えば、ギヤポンプ等のポンプを用いて廃液回収槽に回収すれば良い。なお、回収された溶剤はそのまま廃棄しても良いが、密閉構造物に戻して循環させることも可能である。この場合、図示しないが、回収された溶剤からPCBを除去する除去手段を設けても良い。例えば、特開2012−229359号、特開2012−229360号、特願2012-500601号、特願2012−105307号、および特願2012−152416号等に記載された、シクロデキストリンと有機二塩基酸類とを逐次結合させたシクロデキストリンポリマーを含有する選択固着剤は、PCB類を含むハロゲン化芳香族化合物を選択的に吸着することができるため、除去手段として好適に用いることができる。特にシクロデキストリンと有機二塩基酸類とを逐次結合させ、末端のエステル基をアルコール類、アリールアルコール類、またはフェノール類でキャップしたタイプの選択固着剤を用いることが好ましい。かかる選択固着剤を例えばカラムに充填し、ここに回収した溶剤を接触させると、溶剤からPCBを選択的に固着させることができる。回収した油を該選択固着剤に接触させる際には、0〜0.4MPa程度の圧力、−5℃〜30℃の温度条件下で処理することが好ましい。したがって除去手段は適当な加圧手段および/または加熱手段を更に有していても良い。
【0027】
また、本発明のPCB除去方法は、溶剤噴出工程の前に、密閉構造物内に不活性ガスを充填する雰囲気調整工程を有することが好ましい。これにより、密閉構造物内が無酸素又は低酸素状態となるため、ノズル出口付近で静電気が発生した場合であっても、溶剤への引火を防ぐことができる。
【0028】
この場合、充填する不活性ガスは、化学反応性の低いガスであればどのようなものであっても良いが、ヘリウムやアルゴン等の希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素含有率の低いガス等を用いることができる。なお、窒素は、安価に入手できるため、好適に用いることができる。
【0029】
また、本発明のPCB除去方法は、溶剤噴出工程の前に、密閉構造物を基準電位点に接続するアース工程を有することが好ましい。これにより、ノズル出口付近で静電気が発生した場合であっても、当該静電気をその場に留め置かずに基準電位点に逃がすため、溶剤への引火を防ぐことができる。本発明においては、帯電する可能性のあるものは基準電位点に接続しておくことが好ましい。また、コンプレッサー等の電気機器は、密閉構造物の外に配置すると良い。
【0030】
[実施例1]
本発明のPCB除去方法により、PCBを貯蔵していた貯槽を洗浄する試験を行った。洗浄運転フローを
図1に示す。
【0031】
洗浄処理の対象となる貯槽1の内部には、溶剤を噴出するためのノズル2が設置され、空気駆動ポンプ3および流路21を介して、溶剤供給槽20からノズル2への溶剤の供給がなされるようになっている。ノズル2としては、供給する溶剤の噴出力によりノズルヘッドが360度回転するものを用いた(スプレーイングシステムジャパン株式会社製)。また、空気駆動ポンプ3としては、エアピストン式ポンプPST−20SUS(アクアシステム株式会社製)を用いた。また、当該ポンプの駆動空気を供給するコンプレッサー4としては、CFUE37−75(ANEST IWATA社製)を用いた。また、流路21には圧力計5が設置され、ノズル吐出圧力を常時監視できるようになっている。
【0032】
また、貯槽1の内部には、窒素ボンベ6から貯槽1に窒素を流入させるための流路61が接続され、貯槽1に窒素を充填できるようになっている。さらに、貯槽1の底部には、溶剤を回収するための流路71が設置され、ギヤポンプ8を介して、貯槽1の底部に溜まった溶剤が廃液回収槽7に回収されるようになっている。ギヤポンプ7としては、GP型歯車ポンプ(荏原製作所製)を用いた。
【0033】
なお、洗浄運転前に、貯槽1および各機器はアース接続し(図示せず)、貯槽1に窒素を充填して貯槽1の内部を無酸素状態とした。
【0034】
溶剤としては、炭化水素系溶剤であるNSクリーン220P(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を用いた。
【0035】
一回の運転での溶剤噴出量を約200kg(専用ドラム缶1缶分)とし、これを7回繰り返すバッチ運転を行った試験の結果を表1に示す。
【0037】
本試験では、溶剤への引火を防ぎつつ、PCB濃度を230mg/kgから19mg/kgにまで低減させることができた。これにより、本発明のPCB除去方法は、安全かつ効率的にPCBを除去できることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
1 貯槽
2 ノズル
3 空気駆動ポンプ
4 コンプレッサー
5 圧力計
6 窒素ボンベ
7 廃液回収槽
8 ギヤポンプ
20 溶剤供給槽
21 流路
61 流路
71 流路