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特開2018-145159腸管保護剤及び腸管保護方法、医薬品、飲食品並びにタイトジャンクション関連因子発現促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-145159(P2018-145159A)
(43)【公開日】2018年9月20日
(54)【発明の名称】腸管保護剤及び腸管保護方法、医薬品、飲食品並びにタイトジャンクション関連因子発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20180824BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180824BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180824BHJP
   A61K 31/729 20060101ALI20180824BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20180824BHJP
【FI】
   A61K31/702
   A61P1/04
   A61P43/00 111
   A61P43/00 105
   A61K31/729
   A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-44560(P2017-44560)
(22)【出願日】2017年3月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年9月9日に日本農芸化学会中部支部支部長堀尾文彦が発行した「日本農芸化学会中部支部第177回例会 講演要旨集」の第21頁において発表 平成28年9月24日に開催された公益社団法人日本農芸化学会中部支部第177回例会においてポスター発表
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 幸司
(72)【発明者】
【氏名】白井 郁也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 武彦
(72)【発明者】
【氏名】三谷 塁一
(72)【発明者】
【氏名】片山 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 宗一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE06
4B018MD31
4B018MD33
4B018ME11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086EA20
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA09
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB21
4C086ZC19
(57)【要約】
【課題】新規の腸管保護剤及び腸管保護方法、医薬品、飲食品並びにタイトジャンクション関連因子発現促進剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る腸管保護剤は、アガロオリゴ糖を含有することを特徴とする。また、本発明に係る腸管保護方法は、前記アガロオリゴ糖を含有する腸管保護剤を使用することを特徴とする。また、本発明に係るタイトジャンクション関連因子発現促進剤は、アガロオリゴ糖を含有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガロオリゴ糖を含有することを特徴とする腸管保護剤。
【請求項2】
請求項1に記載の腸管保護剤を使用することを特徴とする腸管保護方法。
【請求項3】
請求項1に記載の腸管保護剤を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項4】
請求項1に記載の腸管保護剤を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項5】
アガロオリゴ糖を含有することを特徴とするタイトジャンクション関連因子発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管保護剤及び腸管保護方法、医薬品、飲食品並びにタイトジャンクション関連因子発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管は、外来因子を消化し栄養素として体内に吸収する機能を持つ一方で、腸管腔内の腸内細菌由来のエンドトキシンを始めとする有害物質が受動拡散により体内へ移行することがないよう防御する機能を有する。このような防御機構は、タイトジャンクションと呼ばれる細胞間接着構造が隣接する腸管上皮細胞同士を密着させ、シールすることで物質の透過を制御することにより成立している。
【0003】
タイトジャンクションは、皮膚や消化管等の上皮細胞周囲にベルト状に存在し、腸管上皮細胞においては、側底膜の刷子縁膜近傍に局在している。タイトジャンクションは、巨大なタンパク質複合体であり、オクルディンやクローディンなどの膜貫通型タンパク質、Zonula Occludensなどの細胞内裏打ちタンパク質から構成されることが知られている。
【0004】
しかしながら、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)の服用や炎症性腸疾患、飲酒、メタボリックシンドローム、ストレス等の様々な疾患や生活習慣によってタイトジャンクションの機能に異常が生じることで、腸管腔内の有害物質が血中移行する腸管壁浸漏の状態に陥ることが示唆されている(非特許文献2〜5)。
【0005】
非特許文献1には、タイトジャンクションを構成するタンパク質、及びこれらの発現を制御するサイトカインの発現を調節することにより、腸管壁浸漏の状態を改善できる可能性について記載されている。また、グルタミン(非特許文献6)やプロバイオティクス(非特許文献7)、多糖類(特許文献1)が腸管保護作用を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−193895号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cell Mol Life Sci.70(4):631−59(2013)
【非特許文献2】Alcohol. 44(5)447−56(2010)
【非特許文献3】PLoS One.9(5):e96864.(2014)
【非特許文献4】診断と治療、102(7):1085−9(2014)
【非特許文献5】Gut. 2014 63(8):1293−9.(2014)
【非特許文献6】Crit Care Med. 33(5):1125−35.(2005)
【非特許文献7】Scand J Gastroenterol. 43(7):842−8.(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アミノ酸の一種であるグルタミンは独特の味とにおいがあるため医薬用組成物及び飲食品に適当量添加できないこと、乳酸菌をはじめとするプロバイオティクスは機能を発現できる菌数を確保することが困難なため適当量添加できないこと、多糖類は粘度増加やゲル化を起こすため適当量添加できないこと等の問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、新規の腸管保護剤及び腸管保護方法、医薬品、飲食品並びにタイトジャンクション関連因子発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アガロオリゴ糖に従来知られていた上記の作用とは全く異なる作用があることを見出した。すなわち、アガロオリゴ糖にタイトジャンクションの形成促進作用があり、腸管壁浸漏を予防又は改善できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る腸管保護剤は、アガロオリゴ糖を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、新規の腸管保護剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験例1におけるタイトジャンクション構成タンパク質のmRNA発現量を示すグラフである。
図2】実験例2におけるタイトジャンクション構成タンパク質のウエスタンブロットを示す図である。
図3】実験例2におけるタイトジャンクション構成タンパク質の発現量を示すグラフである。
図4】実験例3におけるタイトジャンクション構成タンパク質の発現における局在化を示す図である。
図5】実験例4におけるタイトジャンクション構成タンパク質のルシファーイエロー透過速度を示すグラフである。
図6】実験例5におけるタイトジャンクション構成タンパク質のルシファーイエロー透過速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.腸管保護剤
アガロオリゴ糖は、アガロビオース(二糖)の繰り返し単位からなるオリゴ糖であり、重合度は二糖単位の偶数を示す。アガロビオースは、1,3位で結合したβ−D−ガラクトピラノース及び1,4位で結合した3,6アンヒドロ−α−L−ガラクトピラノースからなる二糖である。アガロオリゴ糖として、例えばアガロビオース(二糖)、アガロテトラオース(四糖)、アガロヘキサオース(六糖)、アガロオクタオース(八糖)、アガロデカオース(十糖)等が挙げられる。中でもアガロビオース、アガロテトラオースが好ましく、アガロテトラオースが特に好ましい。本発明に係る腸管保護剤は、これらのアガロオリゴ糖のうち1種を単独で含有していてもよいし、2種以上を任意の割合で含有していてもよい。
【0015】
アガロオリゴ糖は、例えば、寒天を構成する多糖であるアガロースを加水分解することにより得られる。具体的には、寒天、又は寒天の原料であるテングサ、オゴノリなどの紅藻類を熱水抽出して得た溶液を使用して、酸や酵素を添加して加水分解することにより製造することができる。
【0016】
寒天は、アガロースとアガロペクチンから構成され、重量平均分子量は一般的なもので20万〜40万である。アガロペクチンは、寒天中のアガロース以外のイオン性の多糖類の総称であり、アガロースと同じ結合様式をしているが、部分的に硫酸エステル、メトキシル基、ピルビン酸基、カルボキシル基を多く含んでいる。
【0017】
アガロースを加水分解する酸として、例えば特許第4796697号に記載された固体酸、硫酸や塩酸などの鉱酸、酢酸やクエン酸などの有機酸等を用いることができ、これらの酸によりアガロースのα−1,3結合を切断し、アガロオリゴ糖を得ることができる。
【0018】
また、酵素によりアガロースを加水分解する方法として、例えばα−アガラーゼを用いてα−1,3結合を切断する方法や、β−アガラーゼを用いてβ−1,4結合を切断する方法がある。なお、β−アガラーゼによりアガロースのβ−1,4結合を切断する場合には、寒天分子主鎖の切断場所の違いから、ネオアガロオリゴ糖が生成する。ここで、本願において「アガロオリゴ糖」とは、アガロオリゴ糖及びネオアガロオリゴ糖を意味する。
【0019】
本発明の腸管保護剤は、アガロオリゴ糖以外の任意の成分を含有することができる。任意の成分としては、例えば医薬品や飲食品に用いられる様々な物質とすることができる。
【0020】
本発明の腸管保護剤は、ヒトに対するアガロオリゴ糖の摂取量として、体重1kg当たり0.2〜100mgであることが好ましく、1〜40mgであることがより好ましく、2〜10mgであることが特に好ましい。アガロオリゴ糖の摂取量が、上記体重1kg当たり0.2mg未満となると、十分な腸管保護効果が認められず、100mgより多い場合は味が悪くなる、着色する等の医薬品や飲食品としての品質が保てないため好ましくない。
【0021】
アガロオリゴ糖を含有する腸管保護剤によって腸管を保護することができる理由は、以下の通りである。
【0022】
腸管壁浸漏状態とは、様々な刺激が原因となって腸管と血管との透過性が異常に亢進し、通常は腸管内に留まり便等によって排泄されるような有害物質が腸管から血中移行してしまう状態を意味する。このような腸管における異常な透過性亢進が生じるのは、腸管上皮細胞間のタイトジャンクションの機能に異常が生じているためであると考えられる。
【0023】
タイトジャンクションの構成に関連する因子(タイトジャンクション関連因子)としては、公知又は未知のタイトジャンクション構成タンパク質、及びこれらタイトジャンクション構成タンパク質の遺伝子等が挙げられる。タイトジャンクション構成タンパク質として、例えばクローディン(claudin)ファミリー、zonula occludens(ZO)ファミリー、オクルディン(occludin)が知られている。クローディンファミリーとしては、少なくとも27種類のメンバーが知られている。
【0024】
本発明において、アガロオリゴ糖は、上記のタイトジャンクション関連因子の発現量を促進する作用があることが分かった。特に、クローディンファミリーのうちクローディン−4及びクローディン−7、並びにZOファミリーのうちZO−1の発現、及びこれらの関連遺伝子の発現量を促進する作用を有する。
【0025】
タイトジャンクション関連因子の発現量促進の評価は、例えば、ヒト腸管上皮細胞(Caco−2細胞)などの細胞系を用い、適宜アガロオリゴ糖を添加し、当該細胞からタイトジャンクション構成タンパク質をコードするmRNAやタイトジャンクション構成タンパク質を抽出して、これらの発現量をリアルタイムPCR、ノーザンブロッティング、ELISA、ウェスタンブロッティング等を用いて測定することにより行うことができる。
【0026】
また、本発明において、アガロオリゴ糖は、腸管粘膜上皮細胞間のタイトジャンクション構成タンパク質の発現において、当該タイトジャンクション構成タンパク質を細胞膜に局在化させる作用があることが分かった。アガロオリゴ糖を作用させることにより、タイトジャンクション構成タンパク質が細胞質と比較して細胞膜に多く形成されるため、腸管内における有害物質の血中移行を抑制することができる。
【0027】
アガロオリゴ糖によるタイトジャンクション構成タンパク質発現における局在化についての評価は、例えば、ヒト腸管上皮細胞(Caco−2細胞)などの細胞に適宜アガロオリゴ糖を添加して培養し、適宜染色して、例えば蛍光顕微鏡などの顕微鏡を用いて培養後の細胞を観察することにより行うことができる。
【0028】
また、アガロオリゴ糖摂取による腸管保護効果の評価は、例えばヒト腸管上皮細胞(Caco−2細胞)などの細胞を培養し、適宜アガロオリゴ糖を添加して、ルシファーイエローなどの物質の透過速度を測定する方法などによって行うことができる。
【0029】
本発明の腸管保護剤は、公知の製剤学的方法により製剤化して医薬品として用いることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、ペースト剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤などとして、経口的又は非経口的に使用することができる。本発明の腸管保護剤は、内服用固形剤や内服用液剤などの経口用製剤として提供することが好ましい。
【0030】
これら製剤化においては、薬理学上もしくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤と適宜組み合わせることができる。
【0031】
本発明の腸管保護剤は、飲食品として摂取することもできる。飲食品として、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは食品添加物等とすることができる。飲食品の具体例としては、ドリンク類、スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ゼリー状飲料、機能性飲料等の液状食品;食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリンなどの油分を含む製品;飯類、麺類、パン類等の炭水化物含有食品;ハム、ソーセージ等の畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛等の水産加工食品;漬物等の野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルト等の半固形状食品;みそ、発酵飲料等の発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓等の各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープ等のレトルト製品;インスタントスープ、インスタントみそ汁等のインスタント食品や電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状又はゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。このような飲食品は、当該技術分野に公知の製造技術により製造することができる。
【0032】
本発明に係る腸管保護方法は、上記の腸管保護剤を使用することによって腸管を保護する方法である。腸管保護剤の使用方法としては、例えば上記のような医薬品として経口摂取、経皮摂取する方法、飲食品として摂取する方法などが挙げられる。
【0033】
以上のように、本発明の腸管保護剤及び腸管保護方法、並びに腸管保護剤を含有する医薬品、飲食品は、腸管透過性亢進に密接に関連した疾患である腸管壁浸漏、クローン病、過敏性腸症候群(IBS)、花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、下痢、便秘、肝機能低下、疲労等の予防又は改善に利用可能である。
【0034】
2.タイトジャンクション関連因子発現促進剤
また、本発明は、アガロオリゴ糖を含有するタイトジャンクション関連因子発現促進剤である。アガロオリゴ糖として、上述の腸管保護剤と同様のものを使用することができる。なお、タイトジャンクション関連因子とは、公知又は未知のタイトジャンクション構成タンパク質、及びこれらのタイトジャンクション構成タンパク質の遺伝子等である。
【0035】
上述のように、アガロオリゴ糖は、タイトジャンクション関連因子の発現量を促進し、また、タイトジャンクション構成タンパク質の発現において細胞膜への局在化を促進する作用を有するため、本発明に係るタイトジャンクション関連因子発現促進剤は、腸管上皮細胞のみならず、胃や肝臓、尿管、血管、皮膚等の種々の細胞におけるタイトジャンクション関連因子の発現促進にも有用である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0037】
製造例1、実験例1〜5において使用した装置等は以下の通りである。
高速液体クロマトグラフィー・・・Prominence(登録商標) HPLCシステム(株式会社島津製作所製)
経上皮電気抵抗測定装置・・・Millicell(登録商標) ERS−2(Merck Millipore社製)
リアルタイムPCR・・・Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System II(タカラバイオ株式会社製)
蛍光顕微鏡・・・EVOS(登録商標) FL(ThermoFisher社製)
EMEM培地・・・和光化学株式会社製
【0038】
[製造例1:アガロオリゴ糖の製造]
伊那寒天(登録商標)タイプS−7(伊那食品工業株式会社製)を、特許第4796697号に記載された固体酸を用いる方法で加水分解し、アガロオリゴ糖を調製した。アガロオリゴ糖の構成は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は、カラム(東ソー株式会社製、TSKgel(登録商標) α−2500)を直列2本連結、溶媒HO、流速0.3ml/分、温度60℃の条件で溶出、検出はRI(示差屈折)とした。
【0039】
製造例1において得られたアガロオリゴ糖の構成比は以下の通りであった。
アガロビオース(二糖) 26.2重量%
アガロテトラオース(四糖) 27.7重量%
アガロヘキサオース(六糖) 23.1重量%
アガロオクタオース(八糖) 18.9重量%
アガロデカオース(十糖) 4.1重量%
【0040】
[実験例1:アガロオリゴ糖摂取によるタイトジャンクション構成タンパク質の遺伝子発現量の増加]
(実施例1)
ヒト腸管上皮細胞を用いて、アガロオリゴ糖がタイトジャンクション構成タンパク質遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。具体的には、コンフルエント状態に達したヒトCaco−2細胞を、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で37℃、5%COの条件下で培養し、分化誘導を行った。3週間の培養後、経上皮電気抵抗(TEER)値を測定したところ、800Ω・cm以上であり、タイトジャンクションが適切に形成されていることを確認した。そこへ、製造例1で得られたアガロオリゴ糖を終濃度2mg/mlになるように添加して、37℃、5%COの条件下で2時間培養した。培養後の細胞を、細胞溶解液(RNAiso Plus(タカラバイオ株式会社製))、イソプロパノール及びエタノールを用いて全RNAを単離した。次いで逆転写酵素を用いてcDNAを調製し、それを鋳型にタイトジャンクション構成タンパク質(Claudin−4、Claudin−7、ZO−1及びOccludin)のmRNA発現量をそれぞれリアルタイムPCRで測定した。コントロールはGADPHとした。
【0041】
(比較例1)
アガロオリゴ糖を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてCaco−2細胞を培養し、タイトジャンクション構成タンパク質のmRNA発現量を測定した。比較例1におけるタイトジャンクション構成タンパク質のmRNA発現量をそれぞれ1として、実施例1におけるタイトジャンクション構成タンパク質のmRNA発現量を図1に示した。
【0042】
図1に示すように、アガロオリゴ糖を作用させることにより、タイトジャンクション構成タンパク質のmRNA発現量を増加できることが分かった。
【0043】
[実験例2:アガロオリゴ糖摂取によるタイトジャンクション構成タンパク質発現量の増加]
(実施例2)
ヒト腸管上皮細胞を用いて、アガロオリゴ糖がタイトジャンクション構成タンパク質の発現に及ぼす影響を調べた。具体的には、コンフルエント状態に達したヒトCaco−2細胞を、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で37℃、5%COの条件下で培養し、分化誘導を行った。3週間の培養後、経上皮電気抵抗(TEER)値を測定したところ、800Ω・cm以上であり、タイトジャンクションが適切に形成されていることを確認した。そこへ、製造例1で得られたアガロオリゴ糖を終濃度2mg/mlになるように添加して、37℃、5%COの条件下で2時間培養した。培養後の細胞を、細胞溶解液とアルコールを用いて全タンパク質を単離した。次いで、β−アクチンをコントロールとしてClaudin−4の発現量をウエスタンブロットで測定した。
【0044】
(実施例3)
アガロオリゴ糖の終濃度が10mg/mlとなるように添加したこと以外は実施例2と同様にしてCaco−2細胞を培養し、Claudin−4の発現量を測定した。
【0045】
(比較例2)
アガロオリゴ糖を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にしてCaco−2細胞を培養し、Claudin−4の発現量を測定した。実施例2及び3、比較例2におけるウエスタンブロットを図2に示す。また、比較例2におけるClaudin−4発現量を1として、実施例2及び3におけるClaudin−4発現量を図3に示した。
【0046】
図2及び3に示すように、アガロオリゴ糖を作用させることにより、Claudin−4の発現量を増加できることが分かった。
【0047】
[実験例3:アガロオリゴ糖摂取によるタイトジャンクション構成タンパク質の発現における局在化]
(実施例4)
ヒト腸管上皮細胞を用いて、アガロオリゴ糖がタイトジャンクション構成タンパク質の発現に及ぼす影響を調べた。具体的には、コンフルエント状態に達したヒトCaco−2細胞を、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で37℃、5%COの条件下で培養し、分化誘導を行った。3週間の培養後、経上皮電気抵抗(TEER)値を測定したところ、800Ω・cm以上であり、タイトジャンクションが適切に形成されていることを確認した。そこへ、製造例1で得られたアガロオリゴ糖を終濃度2mg/mlになるように添加して37℃、5%COの条件下で2時間培養した。培養後の細胞を、蛍光標識抗体であるマウス由来モノクローナル抗体anti−Claudin−4(A−12)(Santa Cruz Biotechnology社製)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡写真を図4に示す。
【0048】
(実施例5)
アガロオリゴ糖の終濃度が10mg/mlとなるように添加したこと以外は実施例4と同様にしてCaco−2細胞を培養し、蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡写真を図4に示す。
【0049】
(比較例3)
アガロオリゴ糖を添加しなかったこと以外は実施例4と同様にしてCaco−2細胞を培養し、蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡写真を図4に示す。
【0050】
図4に示すように、アガロオリゴ糖を作用させることによりClaudin−4の発現において、細胞膜に局在化させていることが分かった。
【0051】
[実験例4:アガロオリゴ糖摂取による腸管保護効果]
(実施例6)
ヒト腸管上皮細胞を用いて、アガロオリゴ糖による腸管保護効果を調べた。具体的には、コンフルエント状態に達したヒトCaco−2細胞を二層式のトランズウェルに播種後、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で37℃、5%COの条件下で培養し、分化誘導を行った。3週間の培養後、経上皮電気抵抗(TEER)値を測定したところ、800Ω・cm以上であり、タイトジャンクションが適切に形成されていることを確認した。そこへ、製造例1で得られたアガロオリゴ糖、及びルシファーイエローをそれぞれ終濃度が2mg/ml、0.4μg/mlになるように添加して、37℃、5%COの条件下で2時間培養した。アガロオリゴ糖は終濃度2mMになるよう添加した。下層のルシファーイエローの蛍光強度を測定し、ルシファーイエロー透過速度(μg/min/cm)を算出した。結果を図5に示す。
【0052】
(比較例4)
アガロオリゴ糖を添加しなかったこと以外は実施例6と同様にしてCaco−2細胞を培養し、ルシファーイエロー透過速度を算出した。結果を図5に示す。
【0053】
(実施例7)
タイトジャンクションの働きを弱めることを目的として、1%DMSOを添加下したこと以外は実施例6と同様にしてCaco−2細胞を培養し、ルシファーイエロー透過速度を算出した。結果を図5に示す。
【0054】
(比較例5)
アガロオリゴ糖を添加しなかったこと以外は実施例7と同様にしてCaco−2細胞を培養し、ルシファーイエロー透過速度を算出した。結果を図5に示す。
【0055】
図5に示すように、実施例6及び比較例4のようにタイトジャンクションの働きを弱めていない正常な状態では、アガロオリゴ糖は何ら有害にならないが、実施例7及び比較例4のようにタイトジャンクションの働きを弱めた状態では、アガロオリゴ糖を作用させることにより、ルシファーイエローの流入を効果的に抑制することが分かった。以上のことから、アガロオリゴ糖を作用させることにより、腸管保護機能を増強できることが分かった。
【0056】
[実験例5:アガロオリゴ糖摂取による腸管保護効果(構成糖の比較)]
(実施例8)
ヒト腸管上皮細胞を用いて、アガロオリゴ糖の各構成糖による腸管保護効果を調べた。具体的には、コンフルエント状態に達したヒトCaco−2細胞を二層式のトランズウェルに播種後、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地中で37℃、5%COの条件下で培養し、分化誘導を行った。3週間の培養後、経上皮電気抵抗(TEER)値を測定したところ、800Ω・cm以上であり、タイトジャンクションが適切に形成されていることを確認した。タイトジャンクションの働きを弱めることを目的として、1%DMSOを添加した。そこへ、製造例1において得られたアガロオリゴ糖の水溶液をカラム(東ソー株式会社製、TOYOPEARL(登録商標) HW−40S)を用いて単離したアガロビオース(二糖)、及びルシファーイエローを、終濃度がそれぞれ2mM、0.4μg/mlとなるように添加して、37℃、5%COの条件下で2時間培養した。下層のルシファーイエローの蛍光強度を測定し、ルシファーイエロー透過速度(μM/min/cm)を算出した。結果を図6に示す。
【0057】
(実施例9)
アガロビオースの代わりに、製造例1において得られたアガロオリゴ糖の水溶液をカラム(東ソー株式会社製、TOYOPEARL(登録商標) HW−40S)を用いて単離したアガロテトラオースを使用したこと以外は実施例8と同様にして細胞を培養し、ルシファーイエロー透過速度を算出した。結果を図6に示す。
【0058】
図6に示すように、実施例7〜9のようにタイトジャンクションの働きを弱めた状態では、アガロオリゴ糖、又はその構成糖であるアガロビオース、アガロテトラオースを作用させることにより、ルシファーイエローの流入を効果的に抑制することが分かった。以上のことから、アガロオリゴ糖、又はその構成糖であるアガロビオース、アガロテトラオースを摂取することにより腸管保護機能を増強できることが分かった。特に、アガロテトラオースを摂取することにより、優れた腸管保護効果が得られることが分かった。
【0059】
[実験例6:医薬品の作製]
(実施例10)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的とした錠剤(1錠0.3g、直径8mm、打圧300kg)を作製した。なお、以下の実施例10〜20において、アガロオリゴ糖として製造例1で得られたものを使用した。
アガロオリゴ糖 50.0重量%
乳糖 30.0重量%
結晶セルロース 19.5重量%
ステアリン酸マグネシウム 0.5重量%
【0060】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有する錠剤を作製できた。
【0061】
(実施例11)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的とした散剤(1包1g)を作製した。
アガロオリゴ糖 50.0重量%
乳糖 40.0重量%
コーンスターチ 9.7重量%
ステアリン酸マグネシウム 0.3重量%
【0062】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有する散剤を作製できた。
【0063】
(実施例12)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的としたゼリー剤(1包25g)を作製した。
アガロオリゴ糖 8.0重量%
還元麦芽糖水あめ 10.0重量%
ゲル化剤(伊那寒天(登録商標)UP−37) 0.3重量%
香料 0.5重量%
酸味料 1.5重量%
水 79.7重量%
【0064】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するゼリー剤を作製できた。さらに、当該ゼリー剤を100℃の湯に溶解し10℃に冷却することで、腸管保護効果を有するゼリーを作製できた。
【0065】
[実験例7:飲食品の作製]
(実施例13)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的とした清涼飲料を作製した。
アガロオリゴ糖 0.5g
濃縮果汁 3.0g
砂糖 16.0g
アスコルビン酸 適量
クエン酸 0.6g
クエン酸ナトリウム 0.4g
香料 適量
水 残余
計 200g
【0066】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有する清涼飲料を作製できた。
【0067】
(実施例14)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的とした粉末茶を作製した。
アガロオリゴ糖 0.2g
茶顆粒 0.6g
粉飴 1.2g
計 2g
【0068】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有する粉末茶を作製できた。
【0069】
(実施例15)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的とした茶飲料を作製した。
アガロオリゴ糖 0.2g
茶顆粒 0.6g
粉飴 1.2g
水 残余
計 200g
【0070】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有する茶飲料を作製できた。
【0071】
(実施例16)
以下の配合で腸管保護を目的としたゼリーを作製した。具体的には、100℃の湯に材料を溶解した後、10℃に冷却することによりゼリーを作製した。
アガロオリゴ糖 1.0g
濃縮果汁 1.5g
砂糖 12.0g
ゲル化剤(伊那寒天(登録商標)UP−37) 0.2g
クエン酸 0.3g
クエン酸ナトリウム 0.2g
香料 適量
水 残余
計 100g
【0072】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するゼリーを作製できた。
【0073】
(実施例17)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的としたグミを作製した。アガロオリゴ糖は酸味料添加後に添加した。
アガロオリゴ糖 5g
砂糖 40g
水あめ 40g
ゼラチン 10g
水 15g
濃縮グレープフルーツ果汁 5g
香料 適量
酸味料 適量
計 115g
【0074】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するグミを作製できた。
【0075】
(実施例18)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的としたコーンスープの素を作製した。
アガロオリゴ糖 1g
コーンパウダー 50g
脱脂粉乳 14g
糖類 14g
食塩 3g
調味料 5g
デンプン 8g
粉末油脂 4g
乳化剤 1g
計 100g
【0076】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するコーンスープの素を作製できた。さらに、当該コーンスープの素を100℃の湯に溶解することで、腸管保護効果を有するコーンスープを作製できた。
【0077】
(実施例19)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的としたクッキーを作製した。アガロオリゴ糖は加水時に混合した。
アガロオリゴ糖 0.01g
薄力粉 60g
バター 30g
砂糖 15g
水 適量
計 110g
【0078】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するクッキーを作製できた。
【0079】
(実施例20)
以下の配合で、常法に従い、腸管保護を目的としたうどんを作製した。アガロオリゴ糖は加水時に混合した。
アガロオリゴ糖 2g
中力粉 100g
食塩 5g
水 残余
計 150g
【0080】
以上のように、アガロオリゴ糖を含有し、腸管保護効果を有するうどんを作製できた。




図1
図2
図3
図4
図5
図6