(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-145700(P2018-145700A)
(43)【公開日】2018年9月20日
(54)【発明の名称】杭基礎の構築装置及び方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/46 20060101AFI20180824BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20180824BHJP
【FI】
E02D5/46
E02D3/12 102
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-42390(P2017-42390)
(22)【出願日】2017年3月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000128599
【氏名又は名称】株式会社オートセット
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 敏明
【テーマコード(参考)】
2D040
2D041
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB05
2D040BB01
2D040BD05
2D040CA01
2D040CB03
2D040DB06
2D040EA04
2D040EA16
2D040EA21
2D040EB00
2D040EB01
2D041AA01
2D041BA31
2D041CA01
2D041CB05
2D041DA12
2D041EA04
(57)【要約】
【課題】 基礎杭を構築するときに発生する凝固材の混じった残土を極力減少させる。
【解決手段】 回転するビット軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼(2)とを備える杭基礎の構築装置である。前記ビット軸の下端部の掘削翼(2)の上方に、揺動可能な可動翼(3)と、この可動翼(3)の揺動範囲を制限するストッパーとを設ける。好ましくは、可動翼(3)の長さを掘削孔の半径に近い長さまでとする。さらに、少なくとも1つの掘削孔拡張板(6)を併用することが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するビット軸(7)の下端部に、凝固材注入口(22)と掘削翼(2)とを備える杭基礎の構築装置であって、
前記ビット軸(7)の下端部の掘削翼(2)の上方に、揺動可能な可動翼(3)と、この可動翼(3)の揺動範囲を制限するストッパー(4)とを設けたことを特徴とする杭基礎の構築装置。
【請求項2】
前記可動翼(3)が掘削孔(9)の半径に近い長さまで伸びている請求項1記載の構築装置。
【請求項3】
少なくとも1つの揺動可能な掘削孔拡張板(6)を併用する請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
杭基礎の構築方法であって、
ビット軸(7)の回転によって、下端部に位置する掘削翼(2)を回転させて前記ビット軸(7)を地中に侵入させる工程と、
凝固材注入口(22)から凝固材を注入する工程と、
前記掘削翼(2)の上方において、揺動可能な可動翼(3)により前記凝固材または凝固材混じりの土を下方へ押圧する工程と、
前記可動翼(3)の揺動範囲をストッパー(4)で制限する工程と
を有することを特徴とする
杭基礎の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎を構築する装置とその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の杭基礎構築方法は、下記特許文献1,2に述べられているように、概略次のようなものである(
図4、
図5参照)。
【0003】
オーガー掘削機bに取り付けたリーダーcに沿って上下動するオーガー軸aの回転により螺旋翼やオーガー軸aを地中に侵入させる。その際同時に、オーガー軸aを回転させて、凝固材注入口dから凝固材(例:セメントミルク)を地盤内に圧入する。予定の深さまで達すると、オーガーaを回転させたまま所定の速度で土と凝固材を混合撹拌させながら上方向に地中から引抜き杭基礎を構築する。オーガー軸aの回転方向は地中への侵入時は右回転(正転)であり、引抜き時は左回転(逆転)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−138937号公報。
【特許文献2】特開平11−131469号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の杭基礎の構築方法にあっては、次のような問題点が知られている。
【0006】
杭基礎は、オーガー軸aの先端注入口dから凝固材を加圧して吐出し、土と攪拌して地中に形成される。その際に土を撹拌することによる土体積の増加、注入した凝固材の体積分の増加によって凝固材が混ざった土が地上に多量に吹き出してしまう現象を避けられなかった。
【0007】
こうして地上に吹き出した凝固材の混じった残土は地表面に山のように盛り上がる。この残土の山は地盤改良に使われずに無駄になるだけでなく、産業廃棄物となり、その搬出や廃棄のために新たな費用を発生させるという不経済なものであった。
【0008】
本発明は、この凝固材の混じった残土を極力減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる杭基礎の構築装置は、回転する掘削軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼とを備える杭基礎の構築装置であって、前記掘削軸の下端部の掘削翼の上方に、揺動可能な可動翼と、この可動翼の揺動範囲を制限するストッパーを設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0010】
好ましくは、可動翼の長さを掘削孔の半径に近い長さまでとする(請求項2)。
【0011】
好ましくは、このストッパーには可動翼の揺動範囲を調整する調整装置を設けて、発生残土の減少量を調整する(請求項3)。
【0012】
好ましくは、この構築装置には少なくとも1つの揺動可能な掘削孔拡張板を併用する(請求項4)。
【0013】
また、本発明の杭基礎の構築方法は、掘削軸の回転によって、下端部に位置する掘削翼を回転させて掘削軸を地中に侵入させる工程と、凝固材注入口から凝固材を注入する工程と、前記掘削翼の上方において、揺動可能な可動翼により前記凝固材を下方へ押圧する工程と、前記可動翼の揺動範囲をストッパーで制限する工程とを有することを特徴とする(請求項5)。
【発明の効果】
【0014】
本発明請求項1の杭基礎の構築装置と請求項5の構築方法によれば、次のような効果が得られる。
【0015】
凝固材及び凝固材が混ざった改良土は可動翼により下方へ押圧圧縮されて地表へ溢れないから、凝固材を100%活用できる。その結果、産業廃棄物が発生せず、土の体積に対する凝固材の比率が高くなり、また改良土自体が圧密されるため強固な杭基礎を構築することができる。
【0016】
凝固材が地表へ溢れず地表に凝固材混じりの残土の山が形成されることがないから、その搬出の手間が不要であり、廃棄物を廃棄する費用も発生せず、経済的な施工が可能である。
【0017】
凝固材が地表へ上昇してこないから、地表面が泥水で汚れることがなく、整然とした、良好な環境の現場を維持することができる。
【0018】
請求項2の方法によれば、可動翼による下方へ押圧圧縮力を最大限に利用することができる。
【0019】
請求項3の方法によれば、ストッパーには可動翼の揺動範囲を調整する調整装置により、発生残土の減少量を調整することができる。その結果、土質などの地盤条件に応じて可動翼の揺動範囲を調整することができる。
【0020】
請求項4の方法によれば、揺動可能な掘削孔拡張板を併用することにより、掘削孔が拡張され、凝固剤が地表へ吹き出すのをより効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明実施例による杭基礎構築装置の正面図である。
【
図3】本実施例の杭基礎の構築状態の説明図である。
【
図5】
図4の装置における構築状態の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照にしながら本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1、
図2に示すように、回転軸となる掘削軸1が掘削機(
図4のb)のリーダー(
図4のc)に平行に取り付けられている。掘削軸1はモーター(
図4のe)により回転する。掘削軸1の下端にはビット21を備えた掘削翼2が取付けられている。ビット軸7の下端中央付近に凝固材注入口22(
図4のdと同じである)が開口している。
【0024】
杭基礎を地中に構築するときには、モーターの回転によって掘削軸1を回転させ、注入口22から凝固材を注入しながら下端に配置された掘削翼2によって地盤を掘削し、掘削装置全体を地中に侵入させる。
【0025】
掘削翼2の少し上方に軸芯31が掘削翼2に平行に設けられており、この軸芯31を中心として可動翼3が取り付けられている。可動翼3は、自重又はビット21の回転により受ける土圧により、軸芯31を中心として蝶番のように揺動可能である。この可動翼3は軸芯31から片側のみ掘削翼2のやや上方に向かってほぼ掘削孔の半径に近い長さまで伸びている。
【0026】
可動翼3の上下に一定間隔を置いてストッパー4が爪のように数本(
図2では4本)伸びている。可動翼3の上下方向の揺動範囲はこのストッパー4により制約される。ストッパー4には調節ネジ41が取り付けられていて、揺動範囲を調節することができる。
【0027】
この可動翼3は、自然状態では自重により垂れ下がり、下側ストッパー42または調整ネジ41と接触し、それ以上、下方向には移動しない。しかし、
図3に示すように、オーガー軸aを逆回転させると、今度は上側のストッパー43または調整ネジ41に接触してそれ以上、上方向には移動しない。この位置で可動翼3は凝固材混じりの土10を絶えず下方向に押圧するようになる。
【0028】
可動翼3の表面が凝固材の混じった改良土10を下向きに押しつける訳であるから、押しつけ面(可動翼3の表面)に出来るだけ大きな抵抗を持たせる方が押しつけ効果が大きくなる。その一方で、押しつけ面の抵抗が大きくなるほど、地中への侵入時の掘削能力が低下する。本発明では可動翼3を揺動式にすることで地中への侵入時は抵抗が小さくなり、改良土押しつけ時は大きな抵抗を持たせることができる。
【0029】
可動翼3の上方には複数の攪拌翼5(52,53)、共回りを防止する撹拌翼51が設けられている。攪拌翼5及び撹拌翼51は、塊となった掘削土を砕くためのものであって、複数本の棒状鋼が外周方向に張り出しており、棒状の翼によって切り崩すようにして塊を崩し土と凝固材を混合撹拌する。
【0030】
さらに、撹拌翼5の上方には揺動可能な掘削孔拡張板6が設けられている。この掘削孔拡張板6は外周方向に一部が張り出し、中程に軸心62をそなえ、ストッパー63によりその揺動域が制限されている。この掘削孔拡張板6は撹拌翼5(52,53)及び掘削翼2より若干長いため掘削されていない孔壁の外周の土を外に押しつけ孔壁を広げる役割を果たす。また揺動することで孔壁外周面に垂直に接しないため孔壁外周部の土をそぎ落とさずに押しつけることができる。
【0031】
次に上記の装置を用いて杭基礎を形成する方法について説明する。
【0032】
掘削軸1をモーターで回転して、掘削軸1の回転で下端の掘削翼2を回転させて、それに取付けられているビット21によって地盤を掘削して、地中に侵入させる。
【0033】
掘削翼2による掘削と同時に、掘削軸1の先端から凝固材を、掘削孔9の中に注入する。実施例では、凝固材としてセメントミルクを使用している。
【0034】
掘削された土は、複数の攪拌翼5(52,53)及び掘削翼51でかき混ぜられる。
【0035】
さらに、揺動可能な掘削孔拡張板6によって、掘削されない原土が外周方向へ押しのけられるので、より大きな径の掘削孔9が形成される。
【0036】
掘削翼2を逆転させると、可動翼3は土の抵抗で起き上がり上側ストッパー43に突き当たり、それ以上、上方向に移動できないので、凝固材混じりの土10は絶えず下方向に押圧され、圧縮される。
【0037】
さらに掘削孔拡張板6を併用した結果、原土砂を外側へ押しやった分、セメントミルクと攪拌された土が、大きな圧力をかける必要なく、掘削孔9の中に充填されることとなる。
【0038】
上記可動翼3及び掘削孔拡張板6、とりわけ前者を使用した結果、従来のように凝固材と掘削土が混ざった土砂10が地表面にあふれ出したり、凝固材の混合した残土10の山が盛り上がったりするというようなことが生じにくくなった。
【0039】
予定の掘削が終了したら、掘削軸1を掘削孔9から引き抜く。引き抜くときには、通常、掘削とは反対方向に回転しながら引き抜く。
【符号の説明】
【0040】
1 掘削軸
2 掘削翼
21 ビット
22 凝固材注入口
3 可動翼
31 軸芯
4 ストッパー
41 調節ネジ
42 下側ストッパー
43 ストッパー
43 上側ストッパー
5(52,53) 攪拌翼
51 共回り防止攪拌翼
6 揺動可能な掘削孔拡張板
7 ビット軸
9 掘削孔
10 凝固材(セメントミルク)混じりの土
a オーガー軸
b オーガー掘削機
c リーダー
d 凝固材注入口
e モーター