【課題】カーボンナノチューブの分散性が良好であるとともに、カーボンナノチューブの添加量が少量であっても導電性に優れており、かつ、機械的強度等の熱可塑性樹脂本来の物性が維持された導電性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブとを含有する導電性樹脂組成物の製造方法である。熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、水及び親水性有機溶剤の少なくともいずれかの溶剤、及びpH調整剤を混合して混合物を得る工程(A)と、混合物を混練しながら溶剤を除去する工程(B)と、を有し、熱可塑性樹脂の極限粘度(IVa(dL/g))と、導電性樹脂組成物の極限粘度(IVb(dL/g))が、IVa>IVbの関係を満たし、カーボンナノチューブが、塩基性カーボンナノチューブ及び酸性カーボンナノチューブのいずれかである。
前記界面活性剤の量が、前記カーボンナノチューブと前記界面活性剤との合計100質量部に対して、0質量部を超えて40質量部以下である請求項6に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2で提案された熱可塑性樹脂組成物等は、高い導電性を得るために導電性材料の添加量を多くする必要があった。しかしながら、導電性材料の添加量を多くすると、機械的特性等の樹脂本来の物性や成形加工性が損なわれることがあった。しかも、導電性材料の添加量が多いと、得られる樹脂成形物の表面における導電性材料の存在確率が高くなる。このため、摩擦によって成形物の表面から脱落した導電性材料が環境を汚染したり、電子機器に機械的な損傷や電気的な悪影響を及ぼしたりする場合もあった。
【0008】
また、特許文献3で提案された方法によっても粗カーボンナノチューブから不純物を完全に除去することは困難であるとともに、用いる洗浄剤が残存する可能性もあった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、カーボンナノチューブの分散性が良好であるとともに、カーボンナノチューブの添加量が少量であっても導電性に優れており、かつ、機械的強度等の熱可塑性樹脂本来の物性が維持された導電性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
[1]熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブとを含有する導電性樹脂組成物の製造方法であって、粒径0.01〜3mmの熱可塑性樹脂、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜30質量部のカーボンナノチューブ、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して150〜800質量部の水及び親水性有機溶剤の少なくともいずれかの溶剤、及び前記カーボンナノチューブ100質量部に対して0.15〜27.5質量部のpH調整剤を混合して混合物を得る工程(A)と、前記混合物を混練しながら前記溶剤を除去する工程(B)と、を有し、前記熱可塑性樹脂の極限粘度(IVa(dL/g))と、前記導電性樹脂組成物の極限粘度(IVb(dL/g))が、IVa>IVbの関係を満たし、前記カーボンナノチューブが、塩基性カーボンナノチューブ及び酸性カーボンナノチューブのいずれかであり、前記カーボンナノチューブが前記塩基性カーボンナノチューブである場合には、前記pH調整剤が中性化合物及び酸性化合物の少なくともいずれかであり、前記カーボンナノチューブが前記酸性カーボンナノチューブである場合には、前記pH調整剤が前記中性化合物及び塩基性化合物の少なくともいずれかである導電性樹脂組成物の製造方法。
[2]前記塩基性カーボンナノチューブの水性分散液の25℃におけるpHが7.1〜14.5であり、前記酸性カーボンナノチューブの水性分散液の25℃におけるpHが2.5〜6.9である前記[1]に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[3]前記酸性化合物が、リン酸、有機酸、及び酸性緩衝剤からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記塩基性化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び塩基性緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記中性化合物が、中性緩衝剤である前記[1]又は[2]に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[4]前記酸性化合物が酸性緩衝剤であるとともに、25℃におけるpHが2.5〜6.5の酸性緩衝液の状態で使用し、前記塩基性化合物が塩基性緩衝剤であるとともに、25℃におけるpHが7.5〜14.5の塩基性緩衝液の状態で使用し、前記中性緩衝剤は、25℃におけるpHが6.5を超えて7.5未満の中性緩衝液の状態で使用する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[5]前記親水性有機溶剤が、アルコール系溶剤又はグリコール系溶剤である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[6]前記工程(A)において、界面活性剤をさらに混合して前記混合物を得る前記[1]〜[5]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[7]前記界面活性剤の量が、前記カーボンナノチューブと前記界面活性剤との合計100質量部に対して、0質量部を超えて40質量部以下である前記[6]に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性が良好であるとともに、カーボンナノチューブの添加量が少量であっても導電性に優れており、かつ、機械的強度等の熱可塑性樹脂本来の物性が維持された導電性樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<導電性樹脂組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、カーボンナノチューブに含まれる不純物のpHに注目し、不純物のpHが熱可塑性樹脂に及ぼす影響について検討した。その結果、カーボンナノチューブとともに、酸性化合物、中性化合物、及び塩基性化合物等のpH調整剤を熱可塑性樹脂に添加することにより、機械的強度等の熱可塑性樹脂本来の物性を維持しつつ、カーボンナノチューブの分散性を向上した熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の製造方法により製造される導電性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブとを含有する。導電性樹脂組成物は、カーボンナノチューブが塩基性カーボンナノチューブ及び酸性カーボンナノチューブのいずれかであるとともに、pH調整剤をさらに含有する。そして、カーボンナノチューブが塩基性カーボンナノチューブである場合には、pH調整剤が中性化合物及び酸性化合物の少なくともいずれかである。一方、カーボンナノチューブが酸性カーボンナノチューブである場合には、pH調整剤が中性化合物及び塩基性化合物の少なくともいずれかである。以下、導電性樹脂組成物の詳細について説明する。
【0014】
(カーボンナノチューブ)
導電性樹脂組成物に含まれるカーボンナノチューブは、塩基性カーボンナノチューブ及び酸性カーボンナノチューブのいずれかである。本明細書における「塩基性カーボンナノチューブ」とは、その水分散液の25℃におけるpHが、通常、7.1〜14.5であるものをいう。また、「酸性カーボンナノチューブ」とは、その水分散液の25℃におけるpHが、通常、2.5〜6.9であるものをいう。
【0015】
耐酸・耐アルカリ性が良好な汎用の熱可塑性樹脂にpH6.9〜7.1のカーボンナノチューブを配合しても、極限粘度(IV値)はあまり低下しない。しかし、耐酸・耐アルカリ性が良好ではないポリアミド(ナイロン)系樹脂やポリアセタール系樹脂にpH6.9〜7.1のカーボンナノチューブを配合すると、カーボンナノチューブのpHが0.1違うだけでこれらの樹脂の分子量が低下することが分かった。但し、緩衝液を用いることで、樹脂の分子量の低下を抑制することができる。したがって、樹脂の分子量への影響を示す指標として、樹脂の極限粘度(IV値)を用いることができる。
【0016】
カーボンナノチューブの種類は特に限定されないが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを用いることができる。なかでも、電気的特性、機械的特性、及び熱可塑性樹脂との親和性などの観点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。多層カーボンナノチューブの層数は20〜50層であることが好ましい。多層カーボンナノチューブ層の層数が上記の範囲内であると、導電性樹脂組成物の導電性及び機械的特性をより向上させることができる。
【0017】
カーボンナノチューブの直径は3〜500nmであることが好ましく、10〜200nmであることがさらに好ましい。また、カーボンナノチューブの長さは0.1〜50μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがさらに好ましい。
【0018】
導電性樹脂組成物に含まれるカーボンナノチューブに占める、20〜50層の多層カーボンナノチューブの割合(本数基準)が50%以上であることが好ましい。20〜50層の多層カーボンナノチューブの割合は、例えば、導電性樹脂組成物の超薄切片を透過型電子顕微鏡(倍率:20万倍)で観察し、視野内に存在する繊維状のナノチューブの本数を数えることによって算出することができる。
【0019】
カーボンナノチューブの特徴である円筒状のグラファイト構造は、高分解能透過型電子顕微鏡で確認することができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡で直線状にはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れていても構わない。グラファイト層が乱れたものは、カーボンナノファイバーと定義される場合もあるが、このようなグラファイト層が乱れたものも、本発明におけるカーボンナノチューブの概念に包含される。
【0020】
カーボンナノチューブは、例えば、レーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法、気相法、燃焼法などの方法によって製造される。導電性樹脂組成物に用いるカーボンナノチューブは、いずれの方法で製造されたものであってもよい。例えば、ゼオライトを触媒の担体とし、アセチレンを原料とする熱CVD法によって製造する方法は、多少の熱分解による不定形炭素被覆はあるものの、特に精製することなく、高純度で良くグラファイト化された多層カーボンナノチューブが得られる点で好ましい(Chemical Physics Letters,303(1999),p117−124)。
【0021】
また、カップリング剤で予備処理したカーボンナノチューブを用いることもできる。カップリング剤としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などを挙げることができる。
【0022】
化学気相成長法によって製造したカーボンナノチューブには、触媒金属、アモルファスカーボン、グラファイトナノ粒子等の不純物が含まれている。このため、高純度のカーボンナノチューブを得るには、これらの不純物を除去するための各種精製が行われる。精製方法としては、フッ化水素酸、塩酸、硝酸等を接触させる方法が従来から提案されている。しかし、従来の精製方法ではカーボンナノチューブが凝集体を形成してしまうことが問題となっていた。そのような問題を解消すべく、精製工程をさらに追加することが提案されていた。具体的には、高温空気中での酸化処理又は酸処理などを組み合わせた工程;固体触媒を溶解するpH9以上のアルカリ性水溶液やpH5以下の酸性水溶液で処理する工程などである。しかしながら、いずれの場合であっても精製工程が増加するとともに、カーボンナノチューブ自体への品質の影響が懸念される。また、以上の精製工程では、不純物を完全に取り除くことが困難であった。
【0023】
これに対して、本発明の製造方法により製造される導電性樹脂組成物は、カーボンナノチューブの特性(pH)に応じて、酸性化合物や塩基性化合物等のpH調整剤を用いることで、熱可塑性樹脂の分子量の低下を抑制しつつ、カーボンナノチューブの分散性を向上させて導電性を高めている。
【0024】
(pH調整剤)
導電性樹脂組成物は、pH調整剤を含有する。pH調整剤は、中性化合物、塩基性化合物、又は酸性化合物である。中性化合物としては、そのpHが中性領域に維持されうる中性緩衝剤などを用いることができる。このような中性緩衝剤は、水に溶解させた緩衝液(中性緩衝液)の状態で用いることができる。中性緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などを挙げることができる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム(水和物も含む)、アンモニアなどを用いることができる。これらの塩基性化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カルシウム・2水和物などの低融点の塩基性化合物を用いることもできる。なかでも、溶解度、発泡性、及び臭気等の作業性等を考慮すると、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。
【0025】
酸性化合物の種類としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、シュウ酸、ピロリドンカルボン酸等の有機酸を用いることができる。これらの酸性化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、残存する金属系触媒の量が多いカーボンナノチューブを用いるような場合には、酸性化合物として塩酸を用いることが好ましい。一方、ポリアミド(ナイロン)系樹脂やポリアセタール系樹脂などの酸に弱い熱可塑性樹脂を用いる場合には、これらの樹脂への影響が小さいリン酸を酸性化合物として用いることが好ましい。
【0026】
また、酸性化合物としては、弱酸とその共役塩基との組み合わせである酸性緩衝剤などの緩衝剤を用いることができる。一方、塩基性化合物としては、弱塩基とのその共役酸との組み合わせである塩基性緩衝剤などの緩衝剤を用いることができる。このような緩衝剤は、水に溶解させた緩衝液(酸性緩衝液、塩基性緩衝液)の状態で用いることができる。
【0027】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、トリアセチル化セルロースやジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等を用いることができる。
【0028】
ポリアミド系樹脂の具体例としては、ポリアミド6(PA6、ε−カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等を挙げることができる。
【0029】
熱可塑性樹脂としては、導電性樹脂組成物の補強効果を十分に得ることができるという利点、及び安価であるという利点から、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等の汎用樹脂を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。オレフィン系樹脂の中でも、補強効果及びコストの面で、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン等のポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂等が好ましい。
【0030】
汎用性の高いオレフィン系樹脂のなかでも、安価で加工性に優れているとともに、耐熱性及び耐薬品性等の特性を有し、各種工業部品や家電製品などに幅広く使用されていることから、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステルが好ましい。
【0031】
ポリプロピレンの具体例としては、ホモポリプロピレン、ランダムプロピレン共重合体、ブロックプロピレン共重合体、エチレンプロピレン共重合体、メタロセン触媒を用いて得たポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、グリシジル(メタ)アクリレート変性ポリプロピレンや2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート変性ポリプロピレン等の変性ポリプロピレン樹脂、オレフィン系エラストマー等を挙げることができる。
【0032】
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、メタロセン触媒を用いて得たポリエチレン、グリシジル(メタ)アクリレート変性ポリエチレンや2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート変性ポリエチレン等の変性ポリエチレン樹脂、環状ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン等を挙げることができる。
【0033】
ポリエステルの具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリカプロラクトン等の開環重付加系脂肪族ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合体、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリエチレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリヘキサメチレンオキサレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等の重縮合反応系脂肪族ポリエステル等を挙げることができる。これらのなかでも、リサイクル性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0034】
ポリエステルの極限粘度(IV値)は、得られる導電性樹脂組成物の耐衝撃性を考慮すると、0.5dL/g以上であることが好ましい。さらに、得られる導電性樹脂組成物の成形性を考慮すると、ポリエステルの極限粘度(IV値)は0.9dL/g以下であることが好ましく、0.8dL/g以下であることがさらに好ましい。以上より、ポリエステルの極限粘度(IV値)は、0.5〜0.9dL/gであることが好ましく、0.5〜0.8dL/gであることがさらに好ましい。
【0035】
導電性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、可塑剤、高分子分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、核剤、フィラー、顔料、難燃剤等の各種添加剤を含有させることができる。なかでも、高分子分散剤を用いると、カーボンナノチューブの分散性をさらに高めることができるために好ましい。高分子分散剤としては、メタクリレート系モノマーやメタクリル酸系モノマーで構成された、リビングラジカル重合法によって合成されるブロック共重合体が好ましい。
【0036】
導電性樹脂組成物を公知の成形方法によって成形すれば、所望の形状を有する成形品を得ることができる。成形方法としては、射出成形方法、押出成形方法、プレス成形方法などを挙げることができる。また、発泡成形、2色成形、インサート成形、アウトサート成形、インモールド成形など公知の複合成形技術を適用することもできる。成形品としては、例えば、射出成形品、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、丸棒や異形押出品などの押出成形品、繊維、フィラメントなどを挙げることができる。また、導電性樹脂組成物を懸濁液として、接着剤、ペースト、塗料、コーティング剤として用いることもできる。
【0037】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法は、各成分を混合して混合物を得る工程(A)(以下、「混合分散工程」とも記す)と、得られた混合物を混練しながら溶剤を除去する工程(B)(以下、「混練・溶剤除去工程」とも記す)とを有する。以下、その詳細について説明する。
【0038】
(工程(A)(混合分散工程))
混合分散工程では、粒径0.01〜3mmの熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜30質量部のカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ100質量部に対して150〜800質量部の水及び親水性有機溶剤の少なくともいずれかの溶剤、及びカーボンナノチューブ100質量部に対して0.15〜27.5質量部のpH調整剤を混合して混合物を得る。
【0039】
各成分を混合する順序等については特に限定されないが、例えば、以下に示す(a)〜(c)の混合方法とすることが好ましい。
(a)カーボンナノチューブ及び熱可塑性樹脂を混合した後、溶剤及びpH調整剤を加えてさらに混合する。
(b)カーボンナノチューブ、pH調整剤、及び溶剤を混合した後、熱可塑性樹脂を加えてさらに混合する。
(c)カーボンナノチューブ、pH調整剤、溶剤、及び熱可塑性樹脂を一括して混合する。
上記の(a)〜(c)の混合方法のなかでも、混合容易性及び高分散性の観点からは(a)の混合方法が好ましい。
【0040】
混合分散工程では、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の分散機を使用することが好ましい。なお、2種以上の分散機を併用してもよい。なかでも、熱可塑性樹脂中へのカーボンナノチューブの分散性やカーボンナノチューブの損傷を抑制する観点から、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。さらに、カーボンナノチューブに損傷を与えることがない範囲で、必要に応じて、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等を使用してさらに分散させてもよい。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、その粒径が0.01〜3mmである、粉末状又はペレット状のものを用いる。上記の粒径の熱可塑性樹脂を用いることで、カーボンナノチューブが熱可塑性樹脂によって容易にほぐされるとともに、混練加工が容易となる。カーボンナノチューブの量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜30質量部とする。カーボンナノチューブの量が熱可塑性樹脂100質量部に対して1質量部以上であると、導電性の良好な導電性樹脂組成物を得ることができる。一方、カーボンナノチューブの量が熱可塑性樹脂100質量部に対して30質量部以下であると、熱可塑性樹脂本来の物性が維持された導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
溶剤としては、次の混練・溶剤除去工程において蒸発しやすく、得られる導電性樹脂組成物中に残りにくい沸点を有するものを用いることが好ましい。溶剤としては、作業環境への影響、コスト、及びハンドリング性等を考慮して、水及び親水性有機溶剤の少なくともいずれかを用いる。親水性有機溶剤としては、アルコール系溶剤やグリコール系溶剤を用いることができ、なかでもエタノールが好ましい。また、水とアルコールを併用してもよい。溶剤の量は、カーボンナノチューブを分散可能な量以上であり、かつ、混練によって除去可能な量以下であればよい。具体的には、カーボンナノチューブ100質量部に対して、150〜800質量部の溶剤を用いる。
【0043】
カーボンナノチューブが塩基性カーボンナノチューブである場合には、中性化合物及び酸性化合物の少なくともいずれかをpH調整剤として用いる。一方、カーボンナノチューブが酸性カーボンナノチューブである場合には、中性化合物及び塩基性化合物の少なくともいずれかをpH調整剤として用いる。そして、pH調整剤の量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して0.15〜27.5質量部とする。
【0044】
pH調整剤は、水等の溶媒に溶解させた溶液の状態で用いることができる。また、酸性化合物として酸性緩衝剤を用いる場合には、25℃におけるpHが2.5〜6.5の酸性緩衝液の状態で使用することが好ましい。一方、塩基性化合物として塩基性緩衝剤を用いる場合には、25℃におけるpHが7.5〜14.5の塩基性緩衝液の状態で使用することが好ましい。さらに、中性化合物として中性緩衝剤を用いる場合には、25℃におけるpHが6.5を超えて7.5未満の中性緩衝液の状態で使用することが好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液(pH5.5〜8.2)、酢酸緩衝液(pH3.4〜5.8)、クエン酸緩衝液(pH2.5〜8)、その他の酸性緩衝液(pH2〜6.9)、その他の塩基性緩衝液(pH7.1〜14.5)、脱イオン水などを用いることができる。熱可塑性樹脂への影響等を考慮すると、リン酸緩衝液やクエン酸緩衝液が好ましい。
【0045】
混合分散工程においては、界面活性剤をさらに混合して混合物を得ることが好ましい。界面活性剤を加えることにより、界面活性剤を含有する溶剤が絡まったカーボンナノチューブの凝集体に浸透しやすくなり、カーボンナノチューブをほぐす効果を向上させることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのイオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、硫酸エステル型、リン酸エステル型、スルホン酸型等の界面活性剤を挙げることができる。カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型等の界面活性剤を挙げることができる。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アミドベタイン型、アミンオキサイド型等の界面活性剤を挙げることができる。また、非イオン性界面活性剤としては、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤を挙げることができる。
【0046】
界面活性剤の量は、得られる導電性樹脂組成物の物性を低下させない範囲であればよい。具体的には、界面活性剤の量は、カーボンナノチューブと界面活性剤との合計100質量部に対して、0質量部を超えて40質量部以下とすることが好ましい。
【0047】
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法によれば、熱可塑性樹脂本来の機械的強度等の物性を損なうことなく、カーボンナノチューブが良好な状態に分散し、導電性に優れた導電性樹脂組成物を製造することができる。そして、熱可塑性樹脂の機械的強度等の低下は、原料である熱可塑性樹脂の極限粘度(IVa)と、得られる導電性樹脂組成物の極限粘度(IVb)とを比較することで把握することができる。本発明の導電性樹脂組成物の製造方法においては、熱可塑性樹脂の極限粘度(IVa(dL/g))と、導電性樹脂組成物の極限粘度(IVb(dL/g))が、IVa>IVbの関係を満たす。このため、本発明によれば、熱可塑性樹脂本来の機械的強度等の物性が維持された導電性樹脂組成物を製造することができる。
【0048】
(工程(B)(混練・溶剤除去工程))
混練・溶剤除去工程では、混合分散工程で得た混合物を混練しながら混合物中の溶剤を除去する。その後、必要に応じて造粒すること等により、ペレット状やフレーク状の導電性樹脂組成物を得ることができる。なお、カーボンナノチューブの含有量が多い高濃度品(マスターバッチ)に原料樹脂を所定割合で混合した後、押出機やロールなどの混練機を使用して造粒してもよい。
【0049】
混合物の混練には、例えば、押出機、ニーダーミキサー、バンバリーミキサー等を使用することができる。処理温度及び圧力は、熱可塑性樹脂及び溶剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。但し、溶剤を除去するためには高温で処理することが好ましく、具体的には100〜370℃で処理することが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0051】
<カーボンナノチューブの水分散液のpH測定>
USA規格対応の標準液でpH測定器を校正した後、イオン交換水60gにカーボンナノチューブ4gを添加し、超音波洗浄機にて2分間処理して水分散液を調製した。そして、調製した水分散液の25℃におけるpHを測定した。なお、pHの測定装置としては、商品名「LAQUA act」(堀場製作所社製)を使用した。カーボンナノチューブの水分散液のpHを測定することにより、使用するpH調整剤の種類及び量を設定することができる。
【0052】
なお、以下に示す実施例及び比較例で用いたカーボンナノチューブの水分散液のpHの測定結果は以下の通りである。
・商品名「AMC」(宇部興産社製)の水分散液のpH:10.5
【0053】
<導電性樹脂組成物の製造>
(実施例1)
カーボンナノチューブ(商品名「AMC」、宇部興産社製)4部、粒子径0.05〜1.1mmのポリエチレンテレフタレート(商品名「ユニペットBK2180」、日本ユニペット社製)の粉末96部をミキサーに入れ、25℃で3分間撹拌混合した。リン酸(国産化学製)を水で希釈して調製した0.28%リン酸水溶液6部を添加し、25℃で2分間撹拌混合して混合物を得た。二軸押出機(商品名「TEX30」、日本製鋼所社製)を使用し、得られた混合物を処理温度280℃で溶融混練しながら、溶剤(水)を二軸押出機のベントから蒸発除去してペレット状の導電性樹脂組成物を得た。
【0054】
(実施例2)
リン酸水溶液とともに、界面活性剤(商品名「ホスタピュアSAS93」、クラリアント社製)0.1部を添加したこと以外は、前述の実施例1と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0055】
(実施例3〜6)
表1に示す濃度のリン酸水溶液を用いたこと以外は、前述の実施例2と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0056】
(実施例7)
リン酸二水素ナトリウム(国産化学社製)とリン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業社製)を用いて、0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0(25℃))を調製した。リン酸水溶液に代えて、調製したリン酸緩衝液を用いたこと以外は、前述の実施例2と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0057】
(実施例8〜13)
表1に示すpH、濃度及び量のリン酸緩衝液を用いたこと以外は、前述の実施例7と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0058】
(比較例1)
リン酸水溶液に代えて、水6部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0059】
(比較例2)
水を用いなかったこと以外は、前述の比較例1と同様にして導電性樹脂組成物を得た。
【0060】
(参考例A)
実施例で用いたポリエチレンテレフタレートを、参考例Aとした。
【0061】
実施例1〜13、比較例1及び2、参考例Aの組成をまとめたものを表1に示す。
【0062】
【0063】
<評価>
(表面抵抗率)
ベルトダイを装着した押出機(商品名「NV−20」、マース精機社製)を使用し、得られた導電性樹脂組成物を成形して、厚さ約0.1mm、幅50mmの評価用シートを製造した。そして、低抵抗率計(商品名「ロレスタGP」、三菱化学社製)及び高抵抗率計(商品名「ハイレスタUP」、三菱化学社製)を使用し、製造した評価用シートの表面抵抗率(Ω/□)を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
(極限粘度(IV値))
JIS K7390:2003に準拠し、以下に示す方法により樹脂組成物(樹脂)の極限粘度(IV値)を測定した。溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比))に樹脂組成物を入れ、120℃で10分加熱して樹脂を溶解させた。室温まで冷却して、樹脂濃度0.2g/dLの試料溶液を得た。毛細管粘度計を使用して試料溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用いて極限粘度(IV値:dL/g)を算出した。なお、Huggins定数を0.33とした。結果を表2に示す。
【0065】
(分散状態)
導電性樹脂組成物をシートプレスして約20μmのシートを得た。そして、光学顕微鏡により得られたシートにおけるカーボンナノチューブの分散状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがってカーボンナノチューブの分散状態を評価した。結果を表2に示す。
[分散状態の評価基準]:
「比較例2」を「E」とし、分散状態が良好な順に「A」、「B」、「C」、「D」、「E」の5段階で相対的に評価した。
【0066】
(衝撃強度)
押出機を使用して導電性樹脂組成物を成形し、ペレット状物を得た。ASTM D256に従い、射出成型機にてダンベルを成形後、ノッチ付を行い衝撃試験機にて衝撃強度を測定した。そして、以下に示す評価基準にしたがって衝撃強度を評価した。結果を表2に示す。
[衝撃強度の評価基準]:
「参考例A」を「S」及び「比較例1」を「E」とし、衝撃強度が良好な順に「S」、「A」、「B」、「C」、「D」、「E」の6段階で相対的に評価した。
【0067】