【解決手段】ソレノイド69の本体部694がミシンフレーム20の外部に固定され、ソレノイド69のプランジャ691の前端部がミシンフレーム20を貫通してミシンフレーム20の内部へ挿入された状態で装備されたミシン10において、本体部694の後端部にオイルカバー72が装備されている。
このオイルカバー72により、ソレノイド69のプランジャ691を伝ってミシンフレーム20内の潤滑油が本体部の後端面から漏出した場合でも、その潤滑油をオイルカバー72内にとどめて、ミシンフレーム20外への潤滑油の漏出を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の実施形態の全体構成]
以下、
図1乃至
図4に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態たるミシン10の後述するベッド部21内の要部構成のみを平面視して図示した構成図である。
上記ミシン10は、縫い針を上下動させる図示しない針上下動機構と、その駆動源となる図示しないミシンモーターと、全回転釜31により縫い糸に挿通された縫い糸に下糸を絡める釜機構30と、縫い針の上下動に合わせて針板上の被縫製物たる布地を送る布送り機構40と、布送り機構40の送り量を調節する送り調節機構60と、上記各構成を支持するミシンフレーム20とを備えている。
【0013】
[ミシンフレーム]
ミシンフレーム20は、ミシン10の全体において下部に位置するベッド部21と、ミシンベッド部21の長手方向の一端部(後述する右側)において上方に立設された立胴部22と、立胴部22の上端部からベッド部21と同方向に延設された図示しないアーム部とを備えている(
図3参照)。
なお、ベッド部21はミシン10を水平面上に設置した状態でその長手方向が水平となる。そして、以下の説明において、ベッド部21の長手方向をY軸方向とし、水平かつY軸方向に直交する方向をX軸方向とし、X軸及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とする。また、Z軸方向における一方の方向で上側を「上」、下側を「下」、X軸方向における一方の方向でミシンに対してオペレータが位置する方向を「前」(又は布送り方向上流側)、その逆側を「後」(又は布送り方向下流側)、Y軸方向における一方の方向でオペレータ側から見て左側を「左」、右側を「右」というものとする。
【0014】
[針上下動機構及びミシンモーター]
針上下動機構は、アーム部の内側に配設され、ミシンモーターに回転駆動されると共にY軸方向に沿って配設された上軸と、縫い針を下端部で保持する針棒と、上軸の回転駆動力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達する周知のクランク機構とを備えている。これらは周知の構成なので図示は省略する。
そして、上軸には、右端部にプーリが固定装備されており、同様に、布送り機構40の上下送り軸43にもプーリ56が固定装備されている。そして、これらのプーリに掛け渡されたタイミングベルト13を介して、ミシンモーターから付与された上軸のトルクを上下送り軸43に伝達している。
【0015】
[釜機構]
釜機構30は、ベッド部21の左端の内部に設けられており、前述した全回転釜31と、その一端部において全回転釜31を保持すると共にベッド部21内でY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された釜軸32と、釜軸32の他端部に設けられた増速歯車33とを備えている。
釜軸32に設けられた増速歯車33は、後述する布送り機構40の上下送り軸43に設けられた主動歯車48に噛合しており、上下送り軸43から釜軸32に二倍速の回転が付与されるようになっている。
【0016】
なお、釜機構は全回転釜に限らず、半回転釜や水平釜を搭載するミシンであっても良い。
また、釜機構に替えてルーパ機構とを備えるミシンであっても良い。
【0017】
[布送り機構]
布送り機構40は、針板の開口部から出没して布地を所定方向に送る送り歯41と、送り歯41を保持する送り台42と、送り台42を上下方向(Z軸方向)に沿って往復させるために回転動作を行う上下送り軸43と、送り台42を送り方向(X軸方向)に沿って往復させるために往復回動を行う水平送り軸46と、上下送り軸43の回転駆動力を偏心カム49により往復回動の駆動力に変換して水平送り軸46に付与する動作変換ロッドとしての偏心ロッド50と、水平送り軸46の往復回動動作を送り台42に伝達する水平送りアーム47と、上下送り軸43の回転駆動力を偏心カム44によって往復上下動に変換して送り台42に伝達する伝達ロッド45とを備えている。
【0018】
上下送り軸43は、ベッド部21内においてY軸方向に沿って回転可能に支持されており、前述した釜軸32よりも布地の送り方向上流側(前側)に配置されている。前述したように、上下送り軸43は、プーリ56により上軸から全回転のトルクが入力される。
【0019】
また、上下送り軸43の左端部は針板の下方まで伸びており、当該左端部には偏心カム44が固定装備されている。そして、この偏心カム44を介して伝達ロッド45の下端部が上下送り軸43に連結されている。かかる伝達ロッド45は、その下端部で円形の偏心カム44を回転可能に保持しており、上端部が送り台42の一端部に回動可能に連結されている。かかる伝達ロッド45は、送り台42との連結端部が上下送り軸43との連結端のほぼ上方に位置しているため、上下送り軸43が回転すると、偏心カム44によりその偏心量の二倍のストロークで上下方向に沿った往復移動の駆動力を送り台42の一端部に付与することになる。
【0020】
さらに、上下送り軸43の右端部近傍にも偏心カム49が固定装備されており、当該偏心カム49を介して偏心ロッド50が連結されている。かかる偏心ロッド50は、その一端部で円形の偏心カム49を回転可能に保持しており、他端部はおおむね水平方向に延出されているため、当該他端部は上下送り軸43が回転すると偏心カム49によりその偏心量の二倍のストロークで水平方向に沿った往復動作を行うこととなる。
一方、上下送り軸43に平行に配設された水平送り軸46には、上下送り軸43側に延出された回動腕51が固定装備されている。そして、偏心ロッド50の他端部と回動腕51の回動端部とは、送り調節機構60の送り調節体62のリンクによって連結されている。これにより、上下送り軸43から水平送り軸46に往復回動動作が付与され、なおかつ、付与される往復回動角度の幅が調節可能となっている。
【0021】
水平送り軸46は、左端部から水平送りアーム47を介して送り台42にX軸方向に沿った往復駆動力を伝達する。
水平送りアーム47は、その基端部が水平送り軸46の左端部に固定連結され、その揺動端部はほぼ上方に向けられた状態で送り台42に連結されている。
送り台42は、針板の下方に配設され、前端部が伝達ロッド45を介して上下送り軸43に連結され、後端部が水平送りアーム47を介して水平送り軸46に連結されている。また、送り台42のX軸方向中間位置の上部には送り歯41が固定装備されている。
【0022】
これにより、送り台42はその一端部から上下方向に往復駆動力が付与され、他端部からは同じ周期で送り方向の往復駆動力が付与される。そして、これらの往復駆動力を合成することでX−Z平面に沿って長円運動を行うこととなる。この送り台42に伴って送り歯41も長円運動を行い、当該長円運動軌跡の上部領域を通過する際に送り歯41の先端部が針板の開口部から上方に突出し、布地を送ることを可能としている。
【0023】
[送り調節機構]
図2は送り調節機構60の斜視図である。送り調節機構60は、
図1及び
図2に示すように、送り調節体62と、送り調節体62に固定連結され、Y軸方向に沿って配設された回動支軸63と、送り量の調節操作を行う送りダイヤル64と、送りダイヤル64により進退移動を行う送り調節部材としての送り調節ネジ65と、送り調節ネジ65の当接により回動して角度変化を生じるカム部材としての送り調節台66と、送り調節台66の回動端部に上端部が連結された連結ロッド67と、回動支軸63に固定連結されると共に連結ロッド67の下端部に連結された第一の固定入力腕68と、送り調節体62を回動させて逆送り状態に切り替えるバックタックソレノイド69と、支軸71aに固定連結されると共にバックタックソレノイド69のプランジャに連結された切り換えレバー71とを備えている。
【0024】
前述した偏心ロッド50の他端部と回動腕51の回動端部とは、リンクを介して連結され、偏心ロッド50と回動腕51とこれらを連結するリンクにより四節リンク機構を構成している。
送り調節体62は、上記四節リンク機構の四節の内の一節である偏心ロッド50の他端部とリンクとの連結点の移動方向を規制する。送り調節体62はその回動支軸63回りに回動することで、偏心ロッド50の他端部とリンクとの連結点の移動方向をY軸回りで変えることができる。そして、当該連結点の移動方向が変わると、水平送り軸46の往復回動の角度範囲が変わり、送り歯41による送りピッチを変えることができる。
また、送り調節体62が送りピッチを0にする軸角度(中立点とする)を挟んで一方の回動方向に回動させると正送りで送りピッチを変えることができ、中立点を挟んで他方の回動方向に回動させると逆送りで送りピッチを変えることができる。
【0025】
連結ロッド67は、上端部が送り調節台66に連結され、下端部は、第一の固定入力腕68の回動端部と連結されている。そして、連結ロッド67は上下動により、回動支軸63を介して送り調節体62を回動させることができる。
送り調節台66は、対向する二つのカム面からなるカム部66bを備え、どちらのカム面が送り調節ネジ65の先端部に当接した場合でもその当接位置に応じてY軸方向に沿った支軸66a回りの向きが決定される。そして、送りダイヤル64の回転操作により送り調節ネジ65がX軸方向に沿って移動すると、カム面との当接位置が変動し、送り調節台66の支軸66a回りの向きが変動する。
そして、送り調節台66の回動端部は、連結ロッド67の上端部に連結されているので、送りダイヤル64の回転操作により連結ロッド67が上下動を行い、送り調節体62の回動支軸回りの角度を調節することができ、これにより、送り歯41の送りピッチを変えることができる。
【0026】
また、送り調節台66の二つのカム面の一方が送り調節ネジ65の先端部に当接する場合には、送り歯の正方向の送りピッチを変えることができ、二つのカム面の他方が送り調節ネジ65の先端部に当接する場合には送り歯の逆方向の送りピッチを変えることができる。
通常は、図示しないバネにより、一方のカム面(正方向の送りピッチを変えるカム面)が送り調節ネジ65の先端部に当接するように維持されており、バックタックソレノイド69の駆動により、他方のカム面が送り調節ネジ65の先端部に当接する状態に切り替えることができる。
【0027】
図3はバックタックソレノイド69の周辺における立胴部22の断面図である。
バックタックソレノイド69は、
図3に示すように、立胴部22の後面外側に装備され、そのプランジャ691が立胴部22の内部に向かって前方に延出されている。
そして、プランジャ691の先端部は、切り換えレバー71に連結され、切り換えレバー71をY軸方向に沿った支軸71a回りに回動させることができる。
【0028】
切り換えレバー71は、支軸71a回りに回動する二本のアーム711,712を備えたベルクランクであり、一方のアーム711は上方向に延出されると共にその回動端部がバックタックソレノイド69のプランジャ691に連結されている。
また、他方のアーム712は後方に延出されると共にその回動端部にY軸方向に沿ったピン713が装備されている。このピン713は、連結ロッド67に形成された切り欠き671に下方から当接している。
このため、
図3に示すように、バックタックソレノイド69のプランジャ691が前方に進出することにより、切り換えレバー71が左方から見て時計方向に回動してピン713が連結ロッド67を押し上げる。これにより、送り調節台66の一方のカム面が送り調節ネジ65の先端部に当接する状態から、他方のカム面が送り調節ネジ65の先端部に当接する状態に切り替えることができる。
つまり、バックタックソレノイド69のプランジャ691を前方に進出させると、被縫製物を正送りから逆送りに切り替えることができる。そして、縫い開始時や縫い終了時に、バックタックソレノイド69のプランジャ691を前方に進出させることにより、バックタック縫いを行うことができる。
【0029】
[バックタックソレノイド]
ここで、バックタックソレノイド69についてより詳細に説明する。
図3に示すように、バックタックソレノイド69は、プランジャ691と、励磁コイル692及びケーシング693からなる本体部694とを備えている。そして、プランジャ691は、その進出側である前端部が立胴部22の後壁面を貫通して内部に挿入されており、本体部694の前端面は立胴部22の後壁面の外側に固定装備されている。
【0030】
バックタックソレノイド69は、プランジャ691がX軸方向に沿った状態で立胴部22に装備されており、当該プランジャ691は、前方への進出動作と進出状態から後方への退避動作とを行うことができる。
また、プランジャ691は、本体部694を前後に貫通しており、プランジャ691の後端部は本体部694の後端面において露出している。
そして、本体部694の後端面には、少なくともプランジャ691の後端部を覆う範囲でオイルカバー72が装備されている。
【0031】
[オイルカバー]
オイルカバー72は、外部への潤滑油の漏れを防ぐ円形の皿状のカバー本体721と、カバー本体721の外周全体から半径方向外側に張り出されたフランジ部722と、カバー本体721の底部に設けられた集油部723と、集油部723の底部からオイルカバー72の外部に潤滑油を排出する排出口724とを備えている。
【0032】
カバー本体721は、丈の短い円筒の一端部を閉塞した形状であり、その内径は、バックタックソレノイド69の本体部694の後端面の外径より幾分小さく設定されている。
フランジ部722は、その外径がバックタックソレノイド69の本体部694の後端面の外径とほぼ等しく、フランジ部722のバックタックソレノイド69の本体部694の後端面との対向面は、当該本体部694の後端面と密着する。なおこれらの間には、潤滑油の漏れを防止するパッキングやシール材を介挿しても良い。
また、フランジ部722には、複数箇所に、オイルカバー72をバックタックソレノイド69に装着するためのネジ通し孔が形成されている。
【0033】
集油部723は、オイルカバー72がバックタックソレノイド69に装着された状態において、カバー本体721の最も低くなる位置から下方に向かって凸となる形状で形成されている。
集油部723の内側は、カバー本体721の内部空間と連通している。
そして、ミシンフレーム20の立胴部22の内部の潤滑油がプランジャ691を通じてバックタックソレノイド69の本体部694の後端面から漏出した潤滑油をカバー本体721で受けて、集油部723の内側に集めることができる。
【0034】
集油部723の底部に設けられた排出口724には、当該排出口724とミシンフレーム20の立胴部22の内部とを繋ぐ潤滑油還流管73の一端部が連結されている。
この潤滑油還流管73の他端部は、立胴部22の後面に形成された潤滑油の取込口221に連結されており、集油部723の内側に集められた潤滑油をミシンフレーム20の立胴部22に戻すことができる。なお、集油部723の排出口724は立胴部22の取込口221よりも高位置に設けられ、潤滑油が自重で円滑に立胴部22に戻すことができるようになっている。
また、潤滑油還流管73は、可撓性を有するチューブやホースでも良いし、可撓性の少ない配管で形成しても良い。
【0035】
[実施形態の効果説明]
以上のように、ミシン10では、バックタックソレノイド69の本体部694の後端部にオイルカバー72が装備されているので、バックタックソレノイド69のプランジャ691を伝って立胴部22内の潤滑油が本体部694の後端面から漏出した場合でも、オイルカバー72内にとどめてミシン10の外部への漏出を効果的に低減することが可能となる。
【0036】
また、上記オイルカバー72は潤滑油の排出口724を備えているので、オイルカバー72内に集められた潤滑油を適切に排出することが可能となる。
特に、オイルカバー72の潤滑油の排出口724とミシンフレーム20の内部とを繋ぐ潤滑油還流管73を備えることにより、バックタックソレノイド69から漏出した潤滑油をミシンフレーム20の内部に戻すことができ、漏出による潤滑油の不足や浪費を低減することが可能となる。
【0037】
また、オイルカバー72を装着するソレノイドを、バックタックを実行するためのソレノイドであるバックタックソレノイド69としている。バックタックソレノイド69は、ミシンアーム部の針棒側と比べて潤滑油の使用量が多い立胴部22側に設けられる場合が多いので、潤滑油の漏出の問題が生じやすく、これを効果的に低減することが可能となる。
【0038】
また、バックタックソレノイド69のプランジャ691に潤滑油が供給された状態となることから、プランジャ691が進退運動する際の摺動性を良好とすることが可能となる。
【0039】
[その他]
上記実施形態では、オイルカバー72を装着するソレノイドとしてバックタックソレノイド69を例示したが、ミシンフレーム20の機外に本体部が装備される他の用途のソレノイドにもオイルカバー72を装着しても良い。
例えば、機外に設置された糸調子ソレノイドにも前述したオイルカバー72を装着しても良い。
【0040】
また、上記実施形態では、バックタックソレノイド69の本体部694の全体がミシンフレーム20の外部に装備された場合を例示したが、本体部694の一部がミシンフレーム20の外部に設置されている場合にもオイルカバー72を装着しても良い。例えば、ソレノイドの本体部のプランジャ進出側の端部はミシンフレーム20の内側に入り込み、本体部のプランジャ退避側の端部のみがミシンフレーム20の外側に露出した状態で設定されている場合にも、オイルカバー72は有効である。
【0041】
また、潤滑油還流管73は、オイルカバー72とミシンフレーム20との間を連結する場合を例示したが、オイルカバー72とミシン10の外部の適正な潤滑油の廃棄場所(潤滑油廃棄タンク等)とを接続しても良い。