【解決手段】被測定者の被測定者の体動及び心拍を検出する。その検出で得た被測定者の体動の第1の期間毎の検出データの標準偏差値が、所定の閾値以上であるとき、覚醒又はステージ1のノンレム睡眠と判定し、所定の閾値以上でないとき、レム睡眠又はステージ2以下のノンレム睡眠と判定する。さらに、その判定処理で、レム睡眠又はステージ2以下のノンレム睡眠と判定した場合に、被測定者の第2の期間毎の心拍の中央値の増加率と、被測定者の体動の第3の期間毎の周波数解析結果に基づいて、レム睡眠と、ステージ2以下のノンレム睡眠とを区別する処理を行う。
さらに、前記睡眠段階判定部は、前記第1の判定処理で、覚醒又はステージ1のノンレム睡眠と判定した場合に、体動の標準偏差値が、前記第1の期間を超えて連続して所定の閾値以上であるとき、最後の所定区間をステージ1のノンレム睡眠とし、残りの区間を覚醒と判定し、前記第1の期間を超えていないとき、全ての区間を覚醒と判定する
請求項1又は2に記載の睡眠段階判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)について、添付図面を参照して説明する。
[1.睡眠段階判定装置の構成]
図1は、本例の睡眠段階判定装置10の構成を示すブロック図である。
図2は、本例の睡眠段階判定装置10を使って睡眠段階の判定を行う状態の例を示す図である。
本例の睡眠段階判定装置10は、被測定者の体動をマットレスセンサ2で圧力データとして取得する。マットレスセンサ2は、例えば
図2に示すように、被測定者Aが睡眠を行うベッド1のマットレスの上に敷いて、被測定者Aの睡眠中の上半身の体動を圧力の変化として検出する。被測定者Aの下側になるマットレスの上にマットレスセンサ2を配置するのは一例であり、例えばマットレスの中にマットレスセンサ2を内蔵させてもよい。
図2では、ベッド1の脇に睡眠段階判定装置10を設置し、マットレスセンサ2と睡眠段階判定装置10をケーブルで接続した例を示すが、例えばマットレスセンサ2が取得した圧力データを、無線伝送で別の部屋の睡眠段階判定装置10に伝送するようにしてもよい。
【0014】
睡眠段階判定装置10は、
図1に示すように、生体データ取得部11と、生体データ処理部12と、睡眠段階判定部13と、出力部14とを備える。
生体データ取得部11は、マットレスセンサ2が出力する圧力データを取得する。生体データ取得部11が取得した圧力データは、生体データ処理部12に供給される。生体データ処理部12は、供給される圧力データの解析処理を行う。具体的には、圧力データをサンプリングしてデジタルデータ化し、そのデジタルデータ化された圧力データの高速フーリエ変換処理(以下、「FFT処理」と称する)により、各周波数の成分を取得する。そして、取得したそれぞれの周波数成分の状態から、心拍と呼吸の状態を判別する。すなわち、圧力データをFFT処理で得た周波数成分の内で、心拍及び呼吸に相当する周波数成分から、心拍数と呼吸数を判別する。
さらに、生体データ処理部12は、FFT処理で得た周波数成分を使って、睡眠段階の解析に必要なデータ処理を行う。
【0015】
そして、生体データ処理部12で解析した結果が睡眠段階判定部13に供給される。睡眠段階判定部13は、生体データ処理部12で解析した結果に基づいて、被測定者Aの睡眠状態を判定する。睡眠段階判定部13は、レム睡眠の睡眠状態と、レム睡眠以外の睡眠状態の判定を行う。さらに、睡眠段階判定部13は、レム睡眠以外の睡眠状態として、覚醒とノンレム睡眠(ステージ1〜4)の5段階の判定を行う。なお、以下の説明では、レム睡眠の睡眠状態と、レム睡眠以外の睡眠状態との判定を行う処理を中心に説明し、レム睡眠以外の睡眠状態を5段階(覚醒及びノンレム睡眠のステージ1〜4)に判定する処理の説明は省略する。なお、ノンレム睡眠の睡眠段階は、睡眠の深さと対応付けて考えられており、ステージ1から4の順に睡眠が深くなることを示す。例えば、ステージ2はステージ1よりも睡眠が深く、「ステージ2以下」と記載した場合には、ステージ2〜4を示す。
【0016】
出力部14は、睡眠段階判定部13が判定した睡眠段階を出力する。出力部14は、例えば表示装置により構成され、睡眠段階を表示する。あるいは、出力部14を記録装置として構成して、一晩の睡眠状態を記録するようにしてもよい。
【0017】
[2.睡眠段階判定装置のハードウェア構成例]
図3は、睡眠段階判定装置10をコンピュータ装置で構成した場合のハードウェア構成例を示す。
コンピュータ装置Cは、バスC8に接続されたCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)C1、ROM(Read Only Memory)C2、及びRAM(Random Access Memory)C3を備える。さらに、コンピュータ装置Cは、不揮発性ストレージC4、ネットワークインターフェイスC5、入力装置C6、及び表示装置C7を備える。
【0018】
CPU C1は、睡眠段階判定装置10の生体データ処理部12や睡眠段階判定部13が備える各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM C2から読み出して実行する。圧力データを周波数解析するFFT処理についても、該当する処理を実行するプログラムをROM C2から読み出して、CPU C1が実行する。RAM C3には、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。
【0019】
不揮発性ストレージC4としては、例えば、HDD(Hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリ等が用いられる。この不揮発性ストレージC4には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、コンピュータ装置Cを睡眠段階判定装置10として機能させるためのプログラムが記録されている。また、睡眠段階判定部13が判定した睡眠段階についてのデータが、不揮発性ストレージC4に記録される。
【0020】
ネットワークインターフェイスC5には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、端子が接続されたLAN(Local Area Network)、専用線等を介して各種のデータを送受信することが可能である。例えば、コンピュータ装置Cは、マットレスセンサ2が出力する圧力データを、ネットワークインターフェイスC5を介して取得する。入力装置C6は、例えばキーボード等の機器で構成され、この入力装置C6により、睡眠段階判定装置10で睡眠段階を判定する期間の設定や、睡眠段階の表示形態の指示等が行われる。表示装置C7は、睡眠段階判定装置10で判定された睡眠段階を表示する。
なお、睡眠段階判定装置10をコンピュータ装置から構成するのは一例であり、例えばFFT処理などのデータ処理を、専用のハードウェアを用意して行うようにしてもよい。
【0021】
[3.睡眠段階判定処理の全体の流れ]
図4は、本例の睡眠段階判定装置10の睡眠段階判定部13が行う睡眠段階判定処理手順の全体の流れを示すフローチャートである。なお、既に説明したように、睡眠段階としては、覚醒、レム睡眠、及び4つのノンレム睡眠(ステージ1〜4)の6段階が存在するが、ここでは、ステージ4のノンレム睡眠をステージ3のノンレム睡眠に含めるようにして、覚醒、レム睡眠、及び3つのノンレム睡眠(ステージ1〜3)の5段階の判定を行う。
【0022】
まず、睡眠段階判定装置10の睡眠段階判定部13は、生体データ処理部12にデータの入力があると(ステップS1)、そのデータの検出処理で得たセンサ値の標準偏差を用いて、覚醒又はステージ1のノンレム睡眠の状態(ステップS2)と、レム睡眠又はステージ2,3のノンレム睡眠(ステップS3)とを判別する処理を行う。
そして、睡眠段階判定部13は、ステップS2の覚醒又はステージ1のノンレム睡眠の状態と判別したデータを使って、覚醒の状態(ステップS4)と、ステージ1のノンレム睡眠の状態(ステップS5)とを判別する処理を行う。
【0023】
また、睡眠段階判定部13は、ステップS2のレム睡眠又はステージ2,3のノンレム睡眠の状態と判別したデータを使って、レム睡眠の状態(ステップS6)と、ステージ2,3のノンレム睡眠の状態(ステップS7)とを判別する処理を行う。さらに、睡眠段階判定部13は、ステップS7のステージ2,3のノンレム睡眠の状態と判別したデータを使って、ステージ2のノンレム睡眠の状態(ステップS8)と、ステージ3のノンレム睡眠の状態(ステップS9)とを判別する処理を行う。
以下、この
図4に示すそれぞれの判別処理の詳細について説明する。
【0024】
[4.レム睡眠及びステージ2,3のノンレム睡眠と他の睡眠との判別処理]
次に、
図4のフローチャートに示した、覚醒又はステージ1のノンレム睡眠の状態(ステップS2)と、レム睡眠又はステージ2,3のノンレム睡眠(ステップS3)とを判別する処理の詳細について説明する。
図5は、この覚醒又はステージ1のノンレム睡眠の状態と、レム睡眠又はステージ2,3のノンレム睡眠とを判別する処理の例を示すフローチャートである。
まず、生体データ処理部12は、圧力データをFFT処理で得た周波数成分の内で、16Hzの信号成分から1秒間の平均を求め、その1秒間の平均値から、30秒間の標準偏差の値を計算する(ステップS101)。なお、本例では30秒間を1エポック区間と称する。
【0025】
そして、睡眠段階判定部13は、ステップS101で生体データ処理部12により得られた1エポック区間(30秒間)の標準偏差の値が、予め設定された閾値X以上か否かを判断する(ステップS102)。この判断で、30秒間の標準偏差の値が閾値X以上と判断したとき(ステップS102のYES)、睡眠段階判定部13は、該当する1エポック区間について、覚醒又はステージ1のノンレム睡眠と判断する(ステップS103)。
また、ステップS102の判断で、1エポック区間の標準偏差の値が閾値X以上でない場合には(ステップS102のNO)、睡眠段階判定部13は、該当する1エポック区間について、レム睡眠又はステージ2,3のノンレム睡眠と判断する(ステップS104)。
【0026】
図6は、閾値Xの設定例を示す図である。
図6の横軸は、生体データ取得部11が取得したセンサ値の16Hzの信号成分を示し、縦軸は、それぞれのセンサ値の出現頻度を示す。ここでは正規化したセンサ値(正規化値)を使用しているが、正規化を行うのは一例である。横軸のセンサ値が大きい状態は、寝返りなどの粗体動を検出した状態であり、センサ値が小さい状態は、筋の単収縮を検出した状態に相当する。
【0027】
図6に示す3つの特性WAKE,REM,NREM1は、それぞれ睡眠状態が覚醒,レム睡眠,ステージ1のノンレム睡眠を示す。すなわち、特性WAKEは、睡眠状態が覚醒のときの16Hzの信号成分のセンサ値の分布特性を示す。また、特性REMは、睡眠状態がレム睡眠のときの16Hzの信号成分のセンサ値の分布特性を示す。さらに、特性NREM1は、睡眠状態がステージ1のノンレム睡眠のときの16Hzの信号成分のセンサ値の分布特性を示す。
【0028】
この
図6の3つの特性WAKE,REM,NREM1を比較すると分かるように、覚醒のときの特性WAKEと、睡眠状態がステージ1のノンレム睡眠のときの特性NREM1については、比較的大きな体動が多い状態であり、閾値Xよりもセンサ値が大きい状態の出現頻度が高い。一方、レム睡眠のときの特性REMは、閾値Xよりもセンサ値が小さい状態の出現頻度が高い。また、
図6には示されていないが、ステージ2やステージ3のノンレム睡眠のときの特性についても、比較的体動が小さい状態であり、閾値Xよりもセンサ値が小さい状態になる。
【0029】
図7は、ある被測定者についての、生体データ処理部12が取得したセンサ値の1エポック区間(30秒間)ごとの16Hzの信号成分のセンサ値と、それぞれの区間での睡眠段階とを示す。
図7の横軸の数値は、時刻(時間:分:秒)を示し、ここでは睡眠開始から睡眠終了までの一晩の状態を示す。
【0030】
図7Aに示す睡眠段階は、被測定者の頭部に電極を装着して、従来から知られた手法であるPSGで判定したものである。ここでは、判定結果として、覚醒(WAKE)、レム睡眠(REM)、ステージ1のノンレム睡眠(NREM1)、ステージ2のノンレム睡眠(NREM2)の4段階で示す。なお、
図7Aでは、ステージ2のノンレム睡眠(NREM2)は省略するが、
図7に示す被測定者の場合、ステージ3のノンレム睡眠はほとんど検出されていない。
【0031】
図7Bの縦軸に示す数値(0から1000を超える値)は、1エポック区間(30秒間)のセンサ値の16Hzの成分の標準偏差値を示す。
図7Bに示す特性は、センサ値の1エポック区間ごとの標準偏差値を示している。
【0032】
ここで、睡眠段階判定部13は、
図7Bに示す値200の近傍に閾値Xを設定する。この閾値Xの値は、あくまでも一例である。
標準偏差値が閾値X以上である場合には、睡眠段階判定部13は、覚醒(WAKE)又はステージ2のノンレム睡眠(NREM1)と判定する。また、標準偏差値が閾値X未満である場合には、睡眠段階判定部13は、レム睡眠(REM)又はステージ2,3のノンレム睡眠(NREM2,NREM3)と判定する。
【0033】
図7に示す例では、睡眠開始後に最初に閾値Xを超えたタイミングt1では、PSGの手法で覚醒(WAKE)と判定される。次に閾値Xを超えたタイミングt2では、PSGの手法でステージ1のノンレム睡眠(NREM1)と判定される。以下、タイミングt3では、PSGの手法で覚醒(WAKE)と判定され、タイミングt4では、PSGの手法でステージ1のノンレム睡眠(NREM1)と判定され、タイミングt5では、PSGの手法で覚醒(WAKE)と判定される。
このように、センサ値の1エポック区間の16Hzの信号成分のセンサ値が閾値X以上となる殆どの区間は、PSGの手法で覚醒(WAKE)又はステージ1のノンレム睡眠(NREM1)と判定され、本例による判定で得た睡眠段階が、従来から知られた電極を使ったPSGの手法で得た睡眠段階とほぼ一致していることが分かる。
【0034】
[5.覚醒とステージ1のノンレム睡眠との判別処理]
図8は、睡眠段階判定部13が、覚醒とステージ1のノンレム睡眠とを判別する処理を示すフローチャートである。この
図8のフローチャートに示す処理は、
図4のフローチャートにおいて、ステップS4の睡眠段階と、ステップS5の睡眠段階とを判別する処理に相当する。
先に説明したように、睡眠段階判定部13は、1エポック区間(30秒間)のセンサ値の16Hzの成分の標準偏差値が閾値X以上の区間が、覚醒とステージ1のノンレム睡眠のいずれかであると判別する。このような状態を判別したとき、睡眠段階判定部13は、その標準偏差値が閾値X以上の区間が、1エポック区間を越える区間連続するか否かを判断する(ステップS105)。
【0035】
ステップS105の判断で、標準偏差値が閾値X以上の区間が、1エポック区間を越える区間連続すると判断した場合(ステップS105のYES)には、睡眠段階判定部13は、連続した区間の内の最後の1エポック区間をステージ1のノンレム睡眠(NREM1)と判断し、最後の1エポック区間を除いた残りの区間を覚醒(WAKE)と判定する(ステップS106)。
また、ステップS105での判断で、睡眠段階判定部13は、標準偏差値が閾値X以上の区間が、1エポック区間だけであると判断した場合(ステップS105のNO)、睡眠段階判定部13は、該当する1エポック区間を覚醒(WAKE)と判定する(ステップS107)。
【0036】
図9は、標準偏差値が閾値X以上の区間が、1エポック区間を越えた場合の睡眠段階の設定例を示す。
図9の横軸は時刻(時間:分:秒)を示す。ここでは、2時26分02秒に閾値X以上となり、その閾値X以上の状態が2時27分14秒まで続いた場合を示す。このとき、睡眠段階判定部13は、最後の1エポック区間(30秒間)である2時26分44秒から2時27分14秒までを、ステージ1のノンレム睡眠(NREM1)と判定し、それよりも前の残りの閾値X以上の区間(2時26分02秒から2時26分44秒まで)を、覚醒(WAKE)と判定する。
このように判定することで、睡眠段階判定部13は、覚醒の睡眠段階とステージ1のノンレム睡眠の睡眠段階とを適切に区別する。
【0037】
[6.レム睡眠の判定処理]
次に、本例の睡眠段階判定装置10が行うレム睡眠の判定処理について説明する。
このレム睡眠の判定処理は、
図4のフローチャートにおいて、ステップS3の段階から、ステップS6の睡眠段階を判別する処理に相当する。また、ステップS3の段階において、以下に説明する判定処理でレム睡眠でないと判定した場合、睡眠段階判定部13は、ステップS7のステージ2又は3のノンレム睡眠段階と判別することになる。
【0038】
本例の睡眠段階判定装置10は、2種類の手法によりレム睡眠の判定処理(第1のレム睡眠期間判定処理及び第2のレム睡眠期間判定処理)を行い、その2種類の手法によるレム睡眠の判定結果を総合的に判断して、最終的にレム睡眠の期間の判定結果を得る。ここでは、2種類の手法を手法1及び手法2と称する。
2種類の手法の詳細は後述するが、手法1は、心拍数変動に着目したレム睡眠判定手法であり、手法2は、全周波数成分を用いた機械学習によるレム睡眠判定手法である。睡眠段階判定装置10は、これらの2つの手法を使ったハイブリッド構造でレム睡眠判定を行うものである。
【0039】
まず、手法1によるレム睡眠の判定処理について説明する。
この手法1では、レム睡眠時に心拍数が揺らぐという生理学的な観点を利用して、レム睡眠を推定する。
【0040】
図10は、手法1によるレム睡眠の判定処理を示すフローチャートである。
まず、生体データ処理部12は、FFT処理で周波数解析したデータから、心拍の値を取得する。生体データ処理部12は、検出された心拍について、一定時間(ここでは5分間)毎の中央値HRを算出する(ステップS111)。
そして、生体データ処理部12は、検出した心拍の中央値HRの5分毎の変動量ΔHRを算出し、その5分毎の変動量ΔHRを閾値TH1と比較する(ステップS112)。
ここでは、推定する時刻から直前5分間の心拍の中央値をΔHR
curr、5分前から10分前までの心拍の中央値をΔHR
prevとしたとき、次の[数1]式により、変動量ΔHRを得る。
【0042】
ステップS112では、このようにして得た5分毎の変動量ΔHRと閾値TH1とを比較する。このステップS112の比較では、閾値TH1を0.04とし、ΔHR>0.04の条件を満たすか否かを判断する。
ステップS112で、ΔHR>0.04の条件を満たさない場合には(ステップS112のNO)、生体データ処理部12は、該当する条件を満たすまで待機する。
そして、ΔHR>0.04の条件を満たすと判断したとき(ステップS112のYES)、生体データ処理部12は、レム睡眠期間(手法1によるレム睡眠期間)の開始と判断する(ステップS113)。その後、生体データ処理部12は、変動量ΔHRの減少率が減少したか否かを判断する(ステップS114)。なお、「減少率が減少」するとは、例えば、ΔHRの値が0.07から0.06に変わることをいう。ここで、変動量ΔHRの減少率が減少しないとき(ステップS114のNO)、生体データ処理部12は、変動量ΔHRの減少率が減少するまで待機する。また、変動量ΔHRの減少率が減少したとき(ステップS114のYES)、生体データ処理部12は、レム睡眠期間(手法1によるレム睡眠期間)の終了を判断し(ステップS115)、ステップS112の変動量ΔHRと閾値TH1との比較に戻る。
このように、手法1では、心拍数の変動量に基づいてレム睡眠の期間を判断することができる。
【0043】
次に、手法2によるレム睡眠の判定処理について説明する。
この手法2は、アンサンブル学習による機械学習手法であるランダムフォレスト(Random Forests)を用いて、レム睡眠とレム睡眠以外とを判定する手法である。この手法2では、一定期間(ここでは30秒間)のマットレスセンサ2が取得した圧力データに対してFFT処理を施すことで周波数解析を行って、レム睡眠を判定するものである。
【0044】
図11は、手法2によるレム睡眠の判定処理を示すフローチャートである。
まず、生体データ処理部12は、生体データ取得部11が取得した生体データを一定期間(1エポック区間:30秒間)ごとに分割し、一定期間ごとの生体データに対してFFT処理で周波数解析を行うことで周波数表現された生体データ生成する(ステップS121)。そして、FFT処理された生体データの全周波数成分について正規化を行い、全周波数成分の総和が1になるようにする。なお、ここで正規化を行うのは一例であり、正規化を行わないデータを扱うようにしてもよい。
そして、生体データ処理部12は、その一定期間毎の圧力データを使って、ランダムフォレストの機械学習手法による2値判定を行う(ステップS122)。ランダムフォレストの機械学習による2値判定の詳細については後述する。
【0045】
その後、生体データ処理部12は、ステップS122による2値判定で、レム睡眠の条件を満たすか否かを判断する(ステップS123)。この判断でレム睡眠の条件を満たさない場合には(ステップS123のNO)、ステップS121の処理に戻り、生体データ処理部12は、次の一定期間の処理に移る。
そして、この判断でレム睡眠の条件を満たした場合には(ステップS123のYES)、生体データ処理部12は、該当する一定期間(30秒間)をレム睡眠期間(手法2によるレム睡眠期間)に設定し(ステップS124)、その後ステップS121の処理に戻り、次の一定期間の処理に移る。
【0046】
図12は、ランダムフォレストの機械学習による2値判定状態を説明する図である。
まず、
図12の上側に示すように、生体データ処理部12は、30秒間の圧力データD1を取得する。圧力データD1のグラフの縦軸はセンサ値であり、横軸は時間(30秒間)を示す。
この圧力データD1について、生体データ処理部12がFFT処理を施すことで、周波数成分毎の強度値を示したFFTデータD2を得る。FFTデータD2のグラフの縦軸は強度値であり、横軸は周波数(0.016Hz〜5.0Hz)を示す。ここでは、FFTデータD2として、5Hz以下の周波数成分のみの300次元ベクトルのデータとする。
【0047】
生体データ処理部12は、この300次元ベクトルのデータから、ランダムフォレストと称される機械学習のアルゴリズムを使って、予測モデルである決定木を複数生成する。すなわち、
図12に示すように、複数の決定木T
1,T
2,・・・,T
N(Nは任意の整数)を生成する。それぞれの決定木は、各周波数成分の状態がどのようであるかに基づいて分岐して、各睡眠段階(ここではレム睡眠段階)の判定を得るものである。例えば、
図12の左下に示すように、決定木T
1のある段階Saでは、周波数成分0.3Hzの正規化値が0.25より小さいか否かを判断し、その判断で、正規化値が0.25より小さいとき未確定と判定し、0.25以上のとき、レム睡眠と判定する。そして、その未確定の場合(0.3Hzの成分の正規化値が0.25より小さいとき)に、次の段階Sbで、周波数成分1.5Hzの正規化値が0.05より大きいか否かを判断し、その判断で、正規化値が0.05より大きいとき、ノンレム睡眠と判定し、正規化値が0.05以下のとき、レム睡眠と判定する。
【0048】
このようにして、決定木T
1に基づいてFFTデータD2を解析することで、レム睡眠か否かの判定q
1を得る。また、決定木T
1とは別の条件の決定木T
2に基づいてFFTデータD2を解析することで、レム睡眠か否かの判定q
2を得る。このようにして、それぞれ異なる条件の決定木T
1,T
2,・・・,T
N毎に、レム睡眠か否かの判定q
1,q
2,・・・,q
Nを得る。
そして、生体データ処理部12は、複数の決定木T
1,T
2,・・・,T
N毎に得たレム睡眠か否かの判定q
1,q
2,・・・,q
Nの多数決で、現在の30秒間の期間がレム睡眠か否かを判定する。
【0049】
図13は、手法1でレム睡眠と判定した区間と、手法2でレム睡眠と判定した区間とを使って、レム睡眠期間を確定する処理例を示すフローチャートである。このレム睡眠期間を確定する処理は、睡眠段階判定部13が判定する。
まず、睡眠段階判定部13は、手法1でレム睡眠と判定した区間があるか否かを判断する(ステップS131)。この判断で、手法1によりレム睡眠と判定した区間がない場合には(ステップS131のNO)、睡眠段階判定部13は、探索した期間内にレム睡眠の期間がないと判断して、レム睡眠期間を探索する処理を終了する。
そして、手法1によりレム睡眠と判定した区間がある場合には(ステップS131のYES)、睡眠段階判定部13は、手法1によりレム睡眠と判定した区間と、手法2によりレム睡眠と判定した区間とが重なる区間があるか否かを判断する(ステップS132)。
【0050】
さらに、ステップS132の判断で、手法1によりレム睡眠と判定した区間と、手法2によりレム睡眠と判定した区間とが重なる区間がある場合には(ステップS132のYES)、手法1によりレム睡眠と判定した区間を含み、一定期間以内(ここでは2分以内)に手法2でレム睡眠と判定した区間が存在する全ての期間を、レム睡眠期間と確定する(ステップS133)。また、ステップS132の判断で、手法1によりレム睡眠と判定した区間と、手法2によりレム睡眠と判定した区間とが重なっていない場合には(ステップS132のNO)、手法1によりレム睡眠と判定した区間を、レム睡眠期間と確定する(ステップS134)。
【0051】
図14は、
図13のフローチャートに示した手法1での判定結果と手法2での判定結果から、レム睡眠の期間を確定する処理状態の例を示す説明図である。
図14Aの例は、ある期間に、手法1による判定でレム睡眠と判定した区間があり、その区間と重なる期間に、手法2による判定でレム睡眠と判定した区間がない場合を示す。この
図14Aに示す状態の場合には、睡眠段階判定部13は、手法1でレム睡眠と判定した区間を、レム睡眠区間と確定する。この
図14Aの確定処理は、
図13のフローチャートのステップS134でレム睡眠と確定する処理に相当する。
【0052】
図14Bの例は、ある期間に、手法1による判定でレム睡眠と判定した区間があり、その区間と重なる期間に、手法2による判定でレム睡眠と判定した区間がある場合を示す。この場合には、睡眠段階判定部13は、手法1による判定でレム睡眠と判定した区間を全てレム睡眠期間と確定すると共に、手法2による判定でレム睡眠と判定した区間についても、レム睡眠期間と確定する。なお、ここでの手法2による判定でレム睡眠と判定した区間は、手法2によって、2分以内にレム睡眠と判定した区間がある期間を、連続したレム睡眠期間とする。この
図14Bの確定処理は、
図13のフローチャートのステップS133でレム睡眠と確定する処理に相当する。
【0053】
図14Cの例は、ある期間に、手法2による判定でレム睡眠と判定した区間があり、手法1では該当する区間をレム睡眠と判定しない場合を示す。この場合には、睡眠段階判定部13は、該当する区間をレム睡眠とは確定しない。
【0054】
図15は、被測定者の睡眠状態を判定した例を示す。
図15の特性BW及び特性HRの横軸は時間を示し、この
図15では数時間の睡眠中の特性BW及び特性HRを示す。
図15の上側に示す特性BWは、被測定者の睡眠状態(睡眠段階)を、脳波計により測定した例(つまり本例の睡眠段階判定装置10とは別の装置により測定した例)を示す。この特性BWのグラフの縦軸において、Aと示す位置は覚醒を示し、1,2,3,4の数字で示す位置はノンレム睡眠のステージ1〜4を示す。
図15に示す特性BWでは、レム睡眠の期間の判定を行っていないが、ノンレム睡眠のステージ1と覚醒との間に、レム睡眠が存在することになる。
【0055】
ここで、
図15の特性BWに重ねて示す区間R1,R2,R3,R4,R5は、本例の睡眠段階判定装置10が手法1と手法2の双方の判定結果から確定したレム睡眠期間である。
【0056】
図15の下側に示す特性HRは、心拍数の変化を示す。この心拍数を示す特性HRは、
図2に示すマットレスセンサ2が検出した圧力データに基づいて、睡眠段階判定装置10が取得したものである。この心拍数の変動を示す特性HRの内で、前後の心拍数よりも一時的に高くなるピークの位置ra1,ra2,ra3,ra4,ra5(
図15で破線の円で示す部分のほぼ中央部)は、手法1でレム睡眠と判定した区間に相当する。
手法1でレム睡眠と判定した区間ra1,ra2,ra3,ra4,ra5は、特性HRの心拍数がピークとなる位置であり、比較的短時間の区間である。
【0057】
また、
図15に示す複数の区間rbは、それぞれが手法2でレム睡眠と判定した区間である。
図15では、レム睡眠期間R4及びR5の付近のみ、手法2でレム睡眠と判定した区間rbを示し、その他の区間は図示を省略する。
本例の場合、手法2でレム睡眠と判定する1つの区間rbは30秒間であり、その30秒間の区間rbが2分以内に存在したとき、手法2で判定したレム睡眠が連続していると見なして、1つのレム睡眠期間(例えば期間R4やR5)が確定する。但し、本例の場合には、その30秒間の区間rbが2分以内に存在した期間が、手法1でレム睡眠と判定した区間ra1〜ra5と重なっていない箇所については、レム睡眠でないと判定する。
【0058】
このようにして、心拍に基づいてレム睡眠を判定する手法1と、マットレスセンサ2が検出した圧力データの周波数分布の機械学習に基づいてレム睡眠を判定する手法2とを組み合わせて、レム睡眠の期間を判定することで、非常に精度の高いレム睡眠の判定ができるようになる。
具体的には、心拍に基づいてレム睡眠を判定する手法1では、
図15の区間ra1〜ra5で分かるように、比較的短時間の区間をレム睡眠と判定しており、実際のレム睡眠の長さとは一致していない可能性が高い。
一方、検出データの周波数分布の機械学習からレム睡眠を判定する手法2では、例えば
図15の区間R4と区間R5の間の、最終的にレム睡眠と確定しない期間であっても、レム睡眠と判定される区間rbが存在し、レム睡眠と判定する精度がそれ程高くない可能性があった。
【0059】
ここで、本例の場合には、この手法1と手法2を組み合わせて、少なくとも手法1でレム睡眠と判定された区間があり、かつ手法2でレム睡眠と判定される区間rbが一定期間(2分間)以内に存在した場合に、レム期間R1〜R5と確定するようにしたことで、非常に精度の高いレム睡眠期間の判定が行えるようになる。
しかも本例の場合には、手法1の判定を行うための心拍データと、手法2の判定を行うための体動の周波数分布のデータのいずれについても、マットレスセンサ2が取得した被測定者の体動に基づいた圧力データであり、脳波を測定する場合と異なり、被測定者に負担をかけずに、的確なレム睡眠の判定ができるようになる。
【0060】
[7.ノンレム睡眠(ステージ2,3)の判定処理]
次に、本例の睡眠段階判定装置10が行う、ステージ2のノンレム睡眠と、ステージ3のノンレム睡眠の判定処理を説明する。
図16は、ステージ2のノンレム睡眠と、ステージ3のノンレム睡眠とを判別する処理の例を示すフローチャートである。
このステージ2,3のノンレム睡眠の判定処理は、
図4のフローチャートにおいて、ステップS7の睡眠段階を判別する処理に相当する。なお、ステップS7の睡眠段階と判別する状態は、ステップS3の状態から、ステップS6のレム睡眠と判別しなかった区間の睡眠状態である。
【0061】
まず、ステップS7の睡眠段階の区間であると判断した睡眠段階判定部13は、そのステップS7の睡眠段階の区間(ステージ2又は3のノンレム睡眠の区間)の後の区間が、レムであるか否かを判断する(ステップS141)。ここで、ステップS7の睡眠段階の区間と判別した区間に続いた区間がレム睡眠段階と判別したとき(ステップS141のYES)、睡眠段階判定部13は、レム睡眠に変化する直前の1エポック区間(30秒間)を、ステージ3のノンレム睡眠と判定し、それより前の残りのステップS7の睡眠段階の区間を、ステージ2のノンレム睡眠と判定する(ステップS142)。そして、ステップS141で、ステップS7の睡眠段階の区間であると判断した場合に、後の区間がレム睡眠になることを判定しない場合には(ステップS141のNO)、睡眠段階判定部13は、ステップS141の判断を繰り返し行う。
【0062】
図17は、
図16のフローチャートの判別処理状態の例を示す。
図16の横軸は時間を示し、時間の変化に応じて、ステージ2のノンレム睡眠(NREM2)と、ステージ3のノンレム睡眠(NREM3)とを判別する例を示す。
図17に示すように、あるタイミングでレム睡眠(REM)状態と判別したとき、睡眠段階判定部13は、それ以前の区間がステージ2又は3のノンレム睡眠の区間であるとき、レム睡眠に変化する直前の1エポック区間(30秒間)を、ステージ3のノンレム睡眠(NREM3)と判別する。さらに、睡眠段階判定部13は、ステージ2又は3のノンレム睡眠の区間の残りの区間を、ステージ2のノンレム睡眠(NREM2)と判別する。
【0063】
以上説明したように、本例の睡眠段階判定装置10によると、
図4のフローチャートに示した流れで睡眠段階判定処理手順を実行することで、それぞれの睡眠段階を精度良く判別することができる。すなわち、本例の睡眠段階判定装置10によると、
図2に示すように被測定者が睡眠を行うベッド1の下に敷いたマットレスセンサ2から得たセンサ値の解析のみで、被測定者の頭部に電極を装着して行う測定手法と同等の高精度の睡眠段階の判別ができるようになる。したがって、被測定者の体に電極を装着するなどの負担を強いることなく、精度の良い測定ができ、日常的に睡眠している状態と全く同じ状態で、被測定者の睡眠状態を測定できるようになる。
【0064】
なお、上述した実施の形態例では、レム睡眠判定時の手法1の判定を行うための心拍データと、レム睡眠判定時の手法2の判定を行うための体動の周波数分布のデータの双方を、同じセンサ(マットレスセンサ2)の出力データから得るようにしたが、例えば心拍データについては、別のセンサから取得するようにして、手法2の判定を行うための体動の周波数分布のデータのみを、マットレスセンサ2から得るようにしてもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態例で説明した、1エポック区間の長さ(30秒間)、レム睡眠判定時の手法1の判定を行うための心拍の判断期間(ステップS111での5分間)、レム睡眠判定時の手法2の判定を行うための周波数分布の集計期間(ステップS121での30秒間)などの長さは、好適な一例を示したものであり、これらの値に限定されるものではない。さらに、上述した実施の形態例で説明した閾値の値や、16Hzなどの周波数成分の値についても、上述した値は一例であり、その他の値を設定してもよい。
【0066】
また、上述した実施の形態例では、覚醒、ステージ1のノンレム睡眠、レム睡眠、ステージ2,3のノンレム睡眠の5段階の判定を行う場合について説明したが、ステージ4のノンレム睡眠を含めた6段階の判定を行うようにしてもよい。この場合には、ステージ3のノンレム睡眠と判定した区間について、さらにステージ3のノンレム睡眠と、ステージ4のノンレム睡眠とを区別する処理を行うようにすればよい。