特開2018-149346(P2018-149346A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-149346(P2018-149346A)
(43)【公開日】2018年9月27日
(54)【発明の名称】ポリマー複合体およびその作製
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20180831BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/28 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/02 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20180831BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20180831BHJP
   A61K 6/033 20060101ALI20180831BHJP
   A61K 6/083 20060101ALI20180831BHJP
   A61K 6/087 20060101ALI20180831BHJP
   A61K 6/097 20060101ALI20180831BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20180831BHJP
【FI】
   A61L27/12
   A61L27/16
   A61L27/18
   A61L27/28
   A61L27/10
   A61L27/02
   A61L27/20
   A61L27/22
   A61L27/24
   A61L27/26
   A61L27/40
   A61L24/02
   A61L24/04 200
   A61L24/06
   A61L24/08
   A61L24/10
   A61L24/00 300
   A61K6/033
   A61K6/083 500
   A61K6/087
   A61K6/097
   A61F2/28
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-98101(P2018-98101)
(22)【出願日】2018年5月22日
(62)【分割の表示】特願2016-175395(P2016-175395)の分割
【原出願日】2011年7月14日
(31)【優先権主張番号】61/399,580
(32)【優先日】2010年7月14日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】501305844
【氏名又は名称】ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】リ・ハオ
(72)【発明者】
【氏名】チンソン・ユ
(72)【発明者】
【氏名】チェン・リアン
(72)【発明者】
【氏名】モン・チェン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB03
4C081AB04
4C081AB06
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA081
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA181
4C081CA231
4C081CD021
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD151
4C081CF011
4C081CF061
4C081CF111
4C081CF121
4C081CF131
4C081DA01
4C081DC03
4C081DC12
4C089AA06
4C089BA05
4C089BA13
4C089BA16
4C089BC09
4C089BC13
4C089BD01
4C089BE03
4C089BE07
4C089BE08
4C089BE09
4C089BE14
4C089BE15
4C089BE17
4C089CA04
4C097BB01
4C097DD01
4C097DD07
4C097DD12
4C097EE03
4C097EE13
4C097EE17
4C097EE19
4C097MM04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ポリマーマトリックスおよび補強充填剤を含む増強された機械的特性を有するポリマー複合体の提供。
【解決手段】ポリマーマトリックスならびにリン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤を含むポリマー複合体であって、前記補強充填剤が約10から約50,000まで及ぶアスペクト比を有する、ポリマー複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスならびにリン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤を含むポリマー複合体であって、前記補強充填剤が約10から約50,000まで及ぶアスペクト比を有する、ポリマー複合体。
【請求項2】
前記補強充填剤が、ヒドロキシアパタイト、無水リン酸水素カルシウム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスが、ビスフェノールAグリシジルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートとの混合物を含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(L−ラクチド)を含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項5】
前記補強充填剤が、充填剤表面上の部分で正味電荷を有する結果としての補強充填剤で修飾される、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項6】
前記補強充填剤が、前記ポリマー複合体の約1〜約80重量%の範囲で存在する、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項7】
前記補強充填剤が、前記ポリマー複合体の約20〜約40重量%で存在する、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項8】
前記補強充填剤が、前記ポリマー複合体の約2重量%〜約15%で存在する、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項9】
前記補強充填剤が、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物、およびシランからなる群から選択される試薬で修飾された表面を有し、結果としての充填剤表面が表面上の部分で正味電荷を有する、請求項5記載のポリマー複合体。
【請求項10】
前記補強充填剤表面部分が:−NH(CR-)-COOH部分(式中、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択され、nは1〜20の整数である);−CONR部分(式中、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−NHCOR部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される)、−NHR-部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−COOR10部分(式中、R10は、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−SiR部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−SiR部分(式中、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);および−SiR部分(式中、R、R、およびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される)からなる群から選択される、請求項5記載のポリマー複合体。
【請求項11】
前記結果としての組成物が、約2%〜約100%の前記ポリマーマトリックス単独よりも二軸曲げ強度が増加している、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項12】
前記ポリマー複合体が、リン酸カルシウムストロンチウムガラス、バリウムガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、セラミック、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、医療グレードのセラミック、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる充填剤をさらに含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項13】
約10重量%〜約30重量%の量のトリエチレングリコールジメタクリレート;約10重量%〜約30重量%の量のビスフェノールAグリシジルメタクリレート;約40重量%〜約80重量%の量のシリカ;および約2重量%〜15wt%の量の、リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤を含むポリマー複合体であって、前記補強充填剤が約100〜1000のアスペクト比を有する、ポリマー複合体。
【請求項14】
約20重量%〜約30重量%の量のトリエチレングリコールジメタクリレート;約20重量%〜約30重量%の量のビスフェノールAグリシジルメタクリレート;約40重量%〜約60重量%の量のシリカ;ならびに約2重量%〜10重量%の量の、リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤を含むポリマー複合体であって、前記補強充填剤が約100〜1000のアスペクト比を有し、前記補強充填剤が、−NH(CR-)-COOH部分(式中、RおよびR基は独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択され、nは1〜20の整数である);−CONR部分(式中、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−NHCOR部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される)、−NHR-部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−COOR10部分(式中、R10は、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−SiR部分(式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);−SiR部分(式中、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される);および−SiR部分(式中、R、R、およびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される)からなる群から選択される部分を含む、ポリマー複合体。
【請求項15】
ポリマー複合体を作製するための方法であって、ポリマーマトリックスと、リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤とを混合することを含み、前記補強充填剤が約10〜約50,000のアスペクト比を有する、方法。
【請求項16】
リン酸カルシウム、ストロンチウムガラス、バリウムガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、セラミック、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、医療グレードのセラミック、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる充填剤を添加することをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
触媒または重合開始剤を添加することをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
超音波処理、溶融混合、ミリング、およびそれらの組み合わせから選択される機械的修飾のステップをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
ホットプレス、射出成形、機械加工、およびそれらの組み合わせをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマー複合体を硬化させることをさらに含み、硬化が、化学的硬化添加剤、UV放射、電子線、熱への暴露、周囲条件への暴露、およびそれらの組み合わせによって提供される、請求項15記載の方法。
【請求項21】
ポリマー複合体を作製するための方法であって:
a)リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレートからなる群から選択される、約10〜50,000のアスペクト比を有する補強充填剤を、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物、およびシランからなる群から選択される試薬で修飾するステップ;および
b)ポリマーマトリックスと前記補強充填剤とを混合するステップ
を含む、方法。
【請求項22】
リン酸カルシウム、ストロンチウムガラス、バリウムガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、セラミック、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、医療グレードのセラミック、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる充填剤を添加することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
触媒または重合開始剤を添加することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
超音波処理、溶融混合、ミリング、およびそれらの組み合わせから選択される機械的修飾のステップをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマー複合体を硬化させることをさらに含み、硬化が、化学的硬化添加剤、UV放射、電子線、熱への暴露、周囲条件への暴露、およびそれらの組み合わせによって提供される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
高アスペクト比補強充填剤を用いてポリマー複合体を形成する方法であって:
(a)ポリマーマトリックスをリン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤であって、約10〜約50,000のアスペクト比を有する補強充填剤と混合して、ポリマー複合体を形成し;
(b)前記ポリマー複合体を骨固定装置または骨置換に成形し、そして
(c)それを必要とする対象にポリマー組成物を提供する
ことを含む、方法。
【請求項27】
前記補強充填剤が、ヒドロキシアパタイトである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(L−ラクチド)から構成される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記充填剤が、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物、およびシランからなる群から選択される試薬で修飾される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
高アスペクト比補強充填剤を用いてポリマー複合体を形成する方法であって:
(a)ポリマーマトリックスを、リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤であって、約10〜約50,000のアスペクト比を有する補強充填剤と混合して、ポリマー複合体を形成し;そして、
(b)前記ポリマー複合体を骨セメントとして適用する
ことを含む、方法。
【請求項31】
前記補強充填剤が、ヒドロキシアパタイトである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(メチルメタクリレート)、ビスフェノールAグリシジルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、およびそれらの混合物から構成される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記充填剤が、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物、およびシランからなる群から選択される試薬で修飾される、請求項30記載の方法。
【請求項34】
高アスペクト比補強充填剤を用いてポリマー複合体を形成する方法であって:
(a)ポリマーマトリックスを、リン酸カルシウムナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤であって、約10〜約50,000のアスペクト比を有する補強充填剤と混合して、ポリマー複合体を形成し;そして、
(b)前記ポリマー複合体を歯に適用する
ことを含む、方法。
【請求項35】
前記補強充填剤が、ヒドロキシアパタイト、無水リン酸水素カルシウム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記ポリマーマトリックスが、ビスフェノールAグリシジルメタクリレートおよびトリエチレングリコールジメタクリレートの混合物から構成される、請求項34記載の方法。
【請求項37】
前記補強充填剤が、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物およびシランからなる群から選択される試薬で修飾される、請求項34記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
補助金の記載
この研究の一部は、国立衛生研究所からの(1R21DE018821−01A2)および国立科学財団からの(CMMI−0846744)によって支援を受けた。
【0002】
本発明は概して、ポリマーマトリックスならびにナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせから選択される補強充填剤、ならびに修飾補強充填剤を含むポリマー複合体に関する。本明細書内で記載されるポリマー複合体の機械的特性、生物学的特性、および/または耐久性は、現行のポリマー複合体よりも著しく強化され、様々な適用で用いられるために好適である。
【背景技術】
【0003】
ポリマー複合体は、歯科修復および整形外科的インプラントなどの種々の分野で用いられてきた。歯、骨、および殻などの天然の生物学的構造は、ナノスケールまたはサブミクロンスケールの硬質の無機構成要素(ミネラル)および軟質の有機物(タンパク質)の複合体である。しかし、金属は入手可能性やそれらの機械的特性のために、医学市場で有力なインプラント材料である。しかし、整形外科用金属インプラントは、重大な懸念を生む。金属インプラントは、多くの場合、除去される必要があり、除去されないものでも、過剰な瘢痕組織の形成、感染、骨の弱体化、および免疫感受性などの悪影響を引き起こす可能性がある。合成セラミック、ポリマー、おおびそれらの複合体は、さらに良好な生物学的特性を提供し得るが、それらの適用は不適切な機械的特性によって妨げられてきた。たとえば、ヒドロキシアパタイト−コラーゲン(HA/Col)複合体の圧縮および/または引張強度は、典型的には皮質骨および金属よりもはるかに低い。
【0004】
歯科用途において、アマルガムは13年の有効期間中央値を提供する。樹脂ベースの複合体は、不適切な機械的特性および歯牙素材への不十分な結合のために、典型的には5〜7年の有効期間中央値を有する。それでも、アマルガムに対する美的および安全性懸念のために、ポリマーが好まれる。
【0005】
合成ポリマー複合体の特性を改善するために、充填剤がこれらの材料に添加されてきた。例えば、たとえば、いくつかのポリマー複合体はナノホイスカーで補強されてきた。いくつかの歯科用複合体はシリカまたはシリケートナノ粒子を充填剤として使用し、いくつかの整形外科的インサイツ(in-situ)およびエクスサイツ(ex-situ)複合体は短ナノファイバーおよびナノホイスカーのいずれかの形態のヒドロキシアパタイトで補強されてきた。しかし、ナノ粒子、短ナノファイバー、またはナノホイスカーによって補強された複合体の機械的特性は、強度および靱性などの機械的特性で限定された改善を示し、種々の適用の要件を満たすには十分でない可能性がある。
【0006】
したがって、生物医学的応用のために十分な、増強された機械的特性を有する新規かつ改善された合成複合体を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリマーマトリックスおよび補強充填剤を含む改善された合成ポリマー複合体に関する。前記補強充填剤は、高アスペクト比を有する限り、種々の材料のものであり得る。充填剤は、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせ、ならびに修飾補強充填剤から選択される。前記補強充填剤は、カルシウムイオン(Ca2+)およびホスフェートイオン(複数可)、例えばオルトホスフェート(PO3−)、メタホスフェート(PO)、またはピロホスフェート(P4−)を含むミネラルであるリン酸カルシウムであり得る。ポリマーマトリックスを含むポリマーは、生物医学的および歯科用ポリマーの分野で公知かつ入手可能なものであり得るか、または合成することができる。ポリマーは、種々の材料のものであり得、例としては、ポリ(L−ラクチド)、ポリエーテルエーテルケトン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、およびトリエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。
【0008】
ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、またはサブミクロンプレート補強充填剤は、高アスペクト比によって特徴づけられる。前記補強充填剤の直径または厚さは、好ましくは約10ナノメートル〜約1マイクロメートルである。前記補強充填剤のアスペクト比は、約10〜約10,000の範囲である。
【0009】
本明細書中で記載されるさらに別の態様において、ポリマー複合体を作製するための方法を記載する。前記方法は、ポリマーマトリックスおよび補強充填剤を混合することを含む。前記方法は、修飾ステップ(複数可)をさらに含み得る。修飾は、化学的または機械的のいずれかであり得、ポリマー、ポリマーマトリックス、補強充填剤、またはポリマー複合体に提供することができる。さらに、ポリマー複合体を用いる方法も記載される。前記ポリマー複合体は、整形外科的および歯科的適用で用いることができる。
【0010】
本明細書内で記載されるポリマー複合体は、先行技術の複合体よりも改善された機械的特性を示す。本明細書内で記載されるポリマー複合体は、先行技術の複合体よりも改善された機械的特性を示し、これらの特性としては、強度、剛性、靱性、ならびに生物学的特性が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態は、材料の強度および靱性を改善するための重要な補強メカニズムである繊維架橋、伸長、および繊維プルアウトを示す。
【0011】
カラー図に対する言及
本出願書類は少なくとも1枚のカラー写真を含む。本特許出願および公開の写しとカラー写真は、申請し、必要な料金を支払うことによって、当局により提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1(a)】図1(a)は、ナノメートルまたはサブミクロンメートルスケールの直径または太さを有する複合体の概略図である。図1(a)はポリマー中のランダムな充填剤を示す。
図1(b)】図1(b)は、ナノメートルまたはサブミクロンメートルスケールの直径または太さを有する複合体の概略図である。図1(b)は一方向に配向した充填剤を示す。
図2(a)】図2(a)は、ゼラチンなしで作製されたHAナノプレートおよびナノファイバーのSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。
図2(b)】図2(b)は、0.4g/Lのゼラチン濃度で作製されたHAナノプレートおよびナノファイバーのSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。
図2(c)】図2(c)は、0.4g/Lのゼラチン濃度で作製されたHAナノプレートおよびナノファイバーのSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。
図2(d)】図2(d)は、2g/Lのゼラチン濃度で作製されたHAナノプレートおよびナノファイバーのSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。
図3(a)】図3(a)は、100℃にて1g/Lのゼラチン(244ブルーム)濃度で作製されたHAナノファイバーのSEM画像である。
図3(b)】図3(b)は、100℃にて1g/Lのゼラチン(244ブルーム)濃度で作製されたHAナノファイバーのSEM画像である。
図4図4は、ポリ(L−ラクチド)(PLA)、2重量%HAナノファイバーを含有するPLA複合体、および2重量%HAナノファイバーを含有し音波処理を施したPLA複合体の曲げ強度を比較するグラフである。
図5(a)】図5(a)は、MTTアッセイによってMC3T3−E1細胞系を用いたウェルの底でのヒドロキシアパタイトナノ粒子(HANP)、ヒドロキシアパタイトナノファイバー(HANF)、およびTi−6Al−4V(Ti、対照)間の生体適合性を比較するグラフである。HAナノファイバーは最良の生体適合性を有する。
図5(b)】図5(b)は、MTTアッセイによるL929細胞系を用いたウェルの底でのHAナノ粒子(HANP)、HAナノファイバー(HANF)、HAナノファイバーおよびシリカマイクロ粒子を含有する歯科用複合体(DHS)ならびにシリカマイクロ粒子を含有する歯科用複合体(DS)間の生体適合性を比較するグラフである。
図6(a)】図6(a)は、受け取ったままの状態のHAナノファイバーのTEM(透過電子顕微鏡法)画像である。
図6(b)】図6(b)グリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーのTEM(透過電子顕微鏡法)画像である。
図7図7は、受け取ったままの状態のHAナノファイバー(HANF)およびグリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーのFT−IRスペクトルを含む。
図8図8は、種々の質量分率の受け取ったままの状態のHAナノファイバーおよびグリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーならびに0.7マイクロメートルサイズのシリカで充填されたBis−GMA/TEGDMA(1:1重量比)歯科用複合体間の二軸曲げ強度を比較するグラフである。全無機充填剤質量分率は60%である。
図9(a)】図9(a)は、受け取ったままの状態のHAナノファイバー(HANF)およびシラン化されたHAナノファイバーのFT−IRスペクトルである。
図9(b)】図9(b)は、受け取ったままの状態のHAナノファイバー(HANF)およびシラン化されたHAナノファイバーのFT−IRスペクトルである。
図10図10は、種々の質量分率の受け取ったままの状態のグリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーおよびシラン化されたHAナノファイバーならびに0.7マイクロメートルサイズのシリカで充填されたBis−GMA/TEGDMA(1:1重量比)歯科用複合体間の二軸曲げ強度を比較するグラフである。全無機充填剤量は60%である。
図11図11は、5%シラン化されたHAナノファイバーおよび55%シリカ粒子を含有する歯科用複合体の破断面のSEM画像である。
図12図12は、蒸留水中に浸漬後の、60重量%のシリカおよび2重量%のシラン化されたHA補強充填剤、ならびに58重量%のシリカおよび5重量%のシラン化されたHA補強充填剤を含有する歯科用複合体間の吸水率(μL/mm)を比較する。
図13図13は、受け取ったままの状態のHA補強充填剤およびアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤のFT−IRスペクトルを含む。
図14図14は、受け取ったままの状態のHA補強充填剤およびアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤の熱重量分析を示すグラフである。
図15図15は、種々の質量分率の受け取ったままの状態のHA補強充填剤およびアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤ならびに0.7マイクロメートルサイズのシリカで充填されたBis−GMA/TEGDMA(2:1重量比)歯科用複合体間の二軸曲げ強度を比較するグラフである。全無機充填剤質量分率は60%である。3M ESPE Company製のFiltek Z250(Z250)を対照として使用する。
図16図16は、補強充填剤の官能性部分についての滴定結果を示す。これは、12−アミノドデカン酸、ドデカン酸、およびドデカン二酸での表面修飾後の、HA補強充填剤1グラムあたりの表面官能性部分の数を示す。
図17図17は、9時間後のDCPAナノファイバーのX線回折スペクトルを示すグラフである。
図18図18は、DCPAおよびHA補強充填剤のSEM画像である。
図19図19は、2重量%のDCPA補強充填剤を含有するBisGMA/TEGDMAまたはBisEMA/UDMAベースの歯科用複合体ならびに2重量%のDCPA補強充填剤+2重量%のHA補強充填剤を含有する歯科用複合体の二軸曲げ強度を示すグラフである。
図20(a)】図20(a)は、異なる質量分率の、もとのHA補強充填剤、グリオキシル酸で修飾されたHA補強充填剤、および3−MPSシラン化されたHA補強充填剤で充填された、射出成形されたPLAベースの複合体の曲げ強度を示す。純粋なPLA(ブレンドおよび非ブレンド)を対照として使用する。
図20(b)】図20(b)は、異なる質量分率の、もとのHA補強充填剤、グリオキシル酸で修飾されたHA補強充填剤、および3−MPSシラン化されたHA補強充填剤で充填された、射出成形されたPLAベースの弾性係数を示す。純粋なPLA(ブレンドおよび非ブレンド)を対照として使用する。
図21(a)】図21(a)は、異なる質量分率の、もとのHA補強充填剤、グリオキシル酸修飾されたHA補強充填剤、および3−MPSシラン化されたHA補強充填剤で充填された、射出成形されたPLAベースの複合体の引張強度を示す。純粋なPLA(ブレンド)を対照として使用する。
図21(b)】図21(b)は、異なる質量分率の、もとのHA補強充填剤、グリオキシル酸修飾されたHA補強充填剤、および3−MPSシラン化されたHA補強充填剤で充填された、射出成形されたPLAベースの複合体の弾性係数を示す。純粋なPLA(ブレンド)を対照として使用する。
図22(a)】図22(a)は、射出成形された純粋なPLAおよび異なる量のもとのHA補強充填剤を含有するPLA複合体の典型的な引張応力・歪み曲線を示す。
図22(b)】図22(b)は、射出成形された純粋なPLAおよび異なる量のグリオキシル酸で修飾されたHA補強充填剤を含有するPLA複合体の典型的な引張応力・歪み曲線を示す。
図22(c)】図22(c)射出成形された純粋なPLAおよび異なる量の3−MPSシラン化されたHA補強充填剤を含有するPLA複合体の典型的な引張応力・歪み曲線を示す。
図23図23は、射出成形された純粋なPLAならびに異なる量のもとのHA補強充填剤、グリオキシル酸で修飾されたHA補強充填剤および3−MPSで修飾されたHA補強充填剤を含有するPLA複合体の平均最大引張応力、伸長を示すグラフである。最大歪み(伸長)が高いほど、靱性が高く、衝撃および破局的故障に対する耐性が高いことも示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリマーマトリックスならびにナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレートおよびそれらの組み合わせ、ならびに修飾充填剤から選択されるある量の補強充填剤を含む合成ポリマー複合体を提供する。高アスペクト比のナノサイズまたはサブミクロンサイズの繊維/プレートは、さらに高いロード伝達特性、さらに高い機械的強度、さらに高い靱性、および致命的故障に対する耐性を提供することによって、短繊維およびホイスカーよりも優れた利点を提供する。さらに、これらの特性は、修飾によって増強することができる。前記ポリマー複合体の作製法および使用法も記載される。加えて、当該方法は、ナノ粒子を含有するポリマーマトリックスおよびポリマー複合体よりも改善された生体適合性を示す。
【0014】
I.ポリマー複合体
ポリマー複合体は、本明細書中で用いられる場合、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレートおよびそれらの組み合わせから選択される補強充填剤をポリマーマトリックスに添加して得られる生成物を指す。ポリマー複合体はさらに、さらなる成分がポリマーマトリックスまたは補強充填剤に組み入れられた場合の生成物を意味する。ポリマー複合体とは、硬化または乾燥した生成物ならびに湿潤混合物を指す場合がある。
【0015】
a.ポリマーマトリックス
ポリマーマトリックスは、1以上のポリマー、ならびに、種々のポリマーの重合に組み入れられるさらなる試薬、例えば開始剤、触媒、溶媒などを含み得る。ポリマーは、個々のモノマー(複数可)の高分子である。前記ポリマーマトリックスは、1つのポリマーまたは複数のポリマーを含み得る。
【0016】
前記マトリックス中に組み込まれるポリマーは、合成することができるか、または種々の商業的に入手可能なポリマーから選択することができる。ポリマーには、整形外科的ポリマーまたは歯科用ポリマーが含まれ得る。例示的整形外科的ポリマーの非限定的例としては、ポリ(グリコリド)PGA、ポリ(L−ラクチド)(PLA)、ポリ(DL−ラクチド)(DLPLA)、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)(PGA−TMC)、ポリ(e−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(アミノ酸)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、アルギネート、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリウレタン(PUR)、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)、ポリ(1,4−ブチレンスクシネート)(PBSu)、およびポリ(α−ヒドロキシ酸)が挙げられる。例示的歯科用ポリマーの非限定的例としては、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、エトキシル化ビスフェノール−A−ジメタクリレート(Bis−EMA)、1,6−ビス−[2−メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]−2,4,4−トリメチルヘキサン(UDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ウレタンテトラメチアクリレート(tetramethyacrylate)、シロキサン、4−エポキシシクロヘキシルメチル−(3,4−エポキシ)シクロヘキサン(ERL4221)、シルセスキオキサン(SSQ)などが挙げられる。
【0017】
ポリマーはモノマーから合成することもできる。単一のモノマーまたはモノマーの混合物を、所望のポリマーについて選択することができる。モノマーとしては、グリコリド、L−ラクチド、DL−ラクチド、ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、e−カプロラクトン、アミノ酸、無水物、オルトエステル、エーテルエーテルケトン、エチレン、メチルメタクリレート、ヒドロキシアルカノエート、ウレタン、ホスファゼン、プロピレンフマレート1,4−ブチレンスクシネート、α−ヒドロキシ酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
ポリマーマトリックスは1つのポリマーまたは複数のポリマーを含み得る。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックスは1つのポリマーのみを有し、一方、他の態様は、特定の適用について最も有利な特性を得るために、2以上のポリマーの混合物を必要とする可能性がある。2以上のポリマーがある実施形態において、ポリマーは制限なく任意の比で組み合わせることができる可能性が高い。いくつかの実施形態において、ポリマーはポリマーマトリックス中、ほぼ等しい量で存在する可能性があり、他の実施形態では、各ポリマーの量はマトリックスの約1から約99%まで変化し得る。例えば、2つのポリマーを含むポリマーマトリックスにおいて、各ポリマーの量は約50%であり得るか、または1つのポリマーが複合体の約75%、または約90%であり得る。2より多いポリマーを含むポリマーマトリックスにおいて、ポリマーは、ほぼ等しい比で、または1以上のポリマーが過剰で提供され得る。
【0019】
b.補強充填剤
好適な補強充填剤は、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせならびに修飾充填剤から選択され、そして合成することができるか、または商業的に入手可能である場合は購入することができる。前記補強充填剤は、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、またはサブミクロンプレートと特徴付けることができる。前記補強充填剤は、平均して、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、またはサブミクロンプレートを特徴付けるサイズおよび直径のものである。ナノファイバーおよびサブミクロンファイバー充填剤は、一般的に、繊維の形状であり、直径および長さによって特徴付けることができる。繊維の横断面は、円、長円、三角形、長方形、正方形、五角形、六角形などであり得、長い方の直径/辺が短い方の直径/辺と同程度のサイズを有している。ナノファイバーは100nm未満の直径を有する。サブミクロンファイバーは100nmを超え、1ミクロン未満の直径を有する。ナノプレートおよびサブミクロンプレートは、長方形(正方形でない)、長円(円でない)などの形状で、長い方の直径/辺(幅)が短い方の直径/辺(厚さ)よりはるかに長い横断面によって特徴づけられる。プレートは、最長の辺、長い方の横断面の幅、およびプレートの最短寸法としてのプレートの厚さによって特徴づけることができる。サブミクロンプレートは、100nmを超え、1ミクロン未満の厚さを有する。ナノプレートは100nm未満の厚さを有する。さらに好ましくは、充填剤の直径および厚さは約10nm〜約1マイクロメートルである。繊維およびプレートの長さは変化する可能性があり、そして変化するであろう。いくつかの実施形態では、長さは、厚さまたは直径の約100〜約900倍である。他の実施形態では、長さは直径の50,000倍である。
【0020】
前記補強充填剤はまた、高アスペクト比によっても特徴づけられる。所定の対象の最短寸法を超える最長寸法を特徴づける。高アスペクト比とは、本明細書中で用いられる場合、約10を超えるアスペクト比である。繊維について、アスペクト比は長さを直径で割ったものであり、プレートについては、アスペクト比は長さをプレート厚さで割ったものである。当然のことながら、各ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、またはサブミクロンプレートは特定のアスペクト比内である必要はなく、むしろ前記補強充填剤は、補強充填剤の成分が平均して高アスペクト比を有する場合に、高アスペクト比によって特徴づけることができる。前記補強充填剤は約10を超える平均アスペクト比を有する。他の実施形態では、前記補強充填剤は約1000〜約50,000の範囲である。他の実施形態では、平均アスペクト比は、約100〜約500、または約400〜約900、または約800〜約10,000の範囲である。当業者には理解されるように、束状構造の充填剤は、全束状構造の直径または太さが最短寸法として用いられるならば、より低いアスペクト比を有する。
【0021】
前記補強充填剤は、単鎖、束状構造、またはストランドと束状構造との混合物のものであり得る。いくつかの実施形態において、補強充填剤は束状であり、束状構造の太さは、平均して約5マイクロメートル未満であるか平均して、または平均して約4マイクロメートル未満、または平均して約3マイクロメートル未満、または平均して約2マイクロメートル未満である。他の実施形態では、補強充填剤は実質的に単鎖である。補強充填剤は任意の配向であり得る。補強充填剤は、ポリマーマトリックス中でランダムに分散される可能性があるか、または実質的に一方向に配向する可能性がある。ある配向は、強度、剛性、靱性、ダンピング、耐摩耗性、および他の特性を改善する可能性がある。
【0022】
前記補強充填剤は種々のリン酸カルシウムを含む。リン酸カルシウムは歯および骨中の一次ミネラル相であり、ポリマー複合体の生体適合性を改善するために用いることができる。さらに、リン酸カルシウムは、それらのカルシウムイオンを生成する能力のために齲歯(または虫歯)を防止することが示されている。リン酸カルシウムは、本明細書中で用いられる場合、カルシウムイオン(Ca2+)を1以上のリン酸含有イオンとともに含む。ホスフェートイオンには、オルトホスフェート(PO3−)、メタホスフェート(PO)、およびピロホスフェート(P4−)を含む分子を含有するホスフェートが含まれる。リン酸カルシウムは、1以上のさらなるアニオンをさらに含む可能性がある。非限定的例としては、水酸化物イオン(OH)、カーボネートイオン(CO2−)、フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)スルフェートイオン(SO2−)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。リン酸カルシウムは、非限定的例として、水素イオン(H)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、マグネシウムイオン(Mg2+)、銀イオン(Ag)、およびそれらの組み合わせを含む1以上の価値のも含有する可能性がある。リン酸カルシウムは、アニオン(X)、好ましくは、(OH)、(CO2−)、(F)、(Cl)、またはそれらの混合物によってさらに安定化させることができる。ヒドロキシアパタイト(HA)は式Ca(POXの化合物であり、式中、Xは実質的に(OH)である。好適な補強充填剤の他の例としては、アモルファス、αおよびβ相を含むリン酸三カルシウムCa(PO;リン酸四カルシウムCa(POO;リン酸一カルシウムCa(HPO;リン酸一カルシウム一水和物Ca(HPO・HO;無水リン酸水素カルシウムCaHPO、DCPA、モネタイト;炭酸ヒドロキシアパタイト、Ca10(PO(CO(OH)2−2X(式中、xは0〜1の範囲である)、CHA;リン酸二カルシウム二水和物CaHPO・2HO、ブルシャイト;リン酸八カルシウムCa(HPO)(PO(OH);カルシウム欠損ヒドロキシアパタイトCa(HPO)(PO-)OH、CDHA;などが挙げられる。
【0023】
本発明のいくつかの態様において、前記補強充填剤は、充填剤の表面上にゼラチン様コーティングをさらに含む。ゼラチンコートは補強充填剤の合成の起こり得る結果である。前記コーティングはアミン部分とカルボン酸部分との両方を含有することが見出されている。これらの部分は、pHに応じて、荷電している可能性があるか、または非荷電である可能性がある。
【0024】
前記ポリマー複合体、ポリマーマトリックス、または補強充填剤の修飾は、結果として得られたポリマー複合体のある特性を増強する可能性がある。ある修飾は改善された分散を提供し得るか、または複合体の強度を増大させる、増強された繊維架橋または繊維プルアウトなどのメカニズムを促進し得る。さらに、修飾は、結果として得られたポリマー複合体の収縮を低減することができるか、ポリマー複合体の吸水を減少させる可能性があるか、またはポリマー複合体の熱安定性を改善する可能性がある。修飾は化学的または機械的であり得る。
【0025】
化学的修飾の結果、異なる部分が前記補強充填剤の表面に結合する。前記ポリマー複合体によって、前記補強充填剤の表面上の異なる化学的修飾が可能であり得る。例えば、エポキシ、コラーゲン、キトサン、およびゼラチンがポリマーマトリックスとして用いられる場合にアミン表面部分が望ましい可能性がある。カルボン酸およびヒドロキシル部分は、コラーゲン、キトサン、ゼラチンがポリマーマトリックスとして用いられる場合にポリマー複合体に有用であり得る。前記充填剤表面上のアルキル基は、非極性ポリマー中の分散を改善するのに役立つ可能性がある。
【0026】
補強充填剤はカルボン酸によって修飾することができる。結果として得られた表面部分は、−NH(CRCOOHを含み、式中、RおよびRは独立して、水素、ヒドロカルビル、または置換されたヒドロカルビルから選択され、nは1〜20の整数である。下記の反応スキーム1では、グリコール酸がカルボン酸試薬であり、前記結果として得られた補強充填剤は、−NH(CRCOOH部分の表面を含み、式中、R-およびRは水素であり、nは1である。他の実施形態では、前記結果として得られる補強充填剤は、−NHCOR部分の表面を含み得、式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、および置換されたヒドロカルビルから選択される。前記修飾されたポリマーのカルボン酸部分は、pHに応じて、イオンとしてまたは中性基として存在し得る。
【化1】
【0027】
前記補強充填剤はアミン試薬によっても修飾することができる。アミン試薬は前記充填剤上の種々の基と反応することができる。いくつかの実施形態において、前記アミン試薬は前記補強充填剤の表面上のカルボン酸部分と反応する。反応スキーム2で示されるように、前記結果として得られるカルボン酸上の置換は−CONR部分であり得、ここで、RおよびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、または置換されたヒドロカルビル基から選択される。アミンガスとの反応の結果、前記補強充填剤の表面上に、荷電種を含む種々のアミン官能基が得られる可能性がある。
【化2】
【0028】
前記補強充填剤は、シラン表面修飾も含み得る。シランは、前記補強充填剤の表面上のヒドロキシル部分と反応し得る。ヒドロキシル部分は、前記補強充填剤の表面上のゼラチン様組成物由来であり得るか、またはリン酸カルシウムのヒドロキシル部分由来であり得る。シランは、前記充填剤上の酸素原子と共有結合する。1つのシラン分子は、シランのSi原子の置換に応じて、前記補強充填剤上の1〜3個のヒドロキシル部分と結合することができる。Si原子が脱離基で置換されている場合、前記脱離基は、前記補強充填剤上のヒドロキシル基に対する結合によって置換することができる。いくつかの実施形態において、シランは、SiR(LG)の式を有し、式中、Rは、水素、ヒドロカルビル、または置換されたヒドロカルビルから独立して選択され、LGは、ヒドロキシ、アルコキシ、またはハロゲンから選択される脱離基であり、結果として得られたシラン修飾補強充填剤は、反応スキーム3に示されるように充填剤のヒドロキシル基に対する3個までの結合を有し得る。
【化3】
【0029】
別の実施形態において、シランは、1個のヒドロキシルまたは2個のヒドロキシル基と結合して、下記の表面修飾を形成することができる。
【化4】
【0030】
前記表面のさらなる修飾は、アルキル化であり得る。アルキル化は、前記補強充填剤の種々の部分に対して提供され得る。アミン部分のアルキル化の結果、アルキルアミン部分−NHR(式中、Rはヒドロカルビルまたは置換されたヒドロカルビルである)が得られる。カルボン酸のアルキル化の結果、表面修飾としてアルキルエステル−COOR10(式中、R10はヒドロカルビルまたは置換されたヒドロカルビルである)が得られる可能性がある。さらなる修飾には過酸化が含まれ、この場合、過酸化物は前記補強充填剤の表面上に組み入れられる可能性がある。
【0031】
前記補強充填剤上の修飾のレベルは、適用に応じて変化し得る。いくつかの実施形態において、前記修飾試薬が充填剤の外層を形成する程度まで前記補強充填剤を修飾することができる。他の実施形態では、前記修飾は、さらに分散している可能性があり、ある部分では最外層としてゼラチン様コーティングまたは補強充填剤表面が残る。官能基の滴定は図16に示され、種々の試薬で修飾した後のポリマー複合体上の表面官能基の数を示す。
【0032】
高アスペクト比補強充填剤は高レベルの生体適合性を示す。生体適合性は、生物学的用途についての材料の適合性の尺度であり、医療および歯科分野での応用に重要である。生体適合性材料は、非毒性であり、生物系中に置かれた場合に、免疫応答をほとんどまたは全く引き起こさず、そして周囲の組織において高レベルの細胞死を引き起こさない。本明細書中で記載されるポリマー複合体の生体適合性をMTT分析によって試験し、この分析で、他の充填剤と比較して、高レベルの生体適合性が示された。
【0033】
c.組成物
前記ポリマー複合体は、前記ポリマーマトリックスおよび前記補強充填剤を含む。前記補強充填剤は、1種または補強充填剤の混合物であり得る。前記補強充填剤は、前記ポリマー複合体の種々の重量パーセンテージ(ローディング率とも呼ばれる)で存在し得る。前記ローディング率は、異なるポリマーマトリックスで広範囲に変化し得る。ポリマー複合体の剛性は、一般的に、ローディング率とともに増加するが、さらなるローディングが、前記ポリマー複合体の機械的特性の低下を引き起こす点も存在する。いくつかの実施形態において、量は、前記ポリマー複合体の約0.5から80重量%まで及ぶ。別の実施形態において、補強充填剤の量は、前記ポリマー複合体の約1から50重量%まで及ぶ可能性がある。さらに別の実施形態では、充填剤の量は、約20重量%から約60重量%まで及び、本発明のさらに別の態様では、充填剤の量は約3重量%から約15重量%まで及ぶ。
【0034】
前記複合体はさらなる充填剤も含み得る。さらなる充填剤は、さらなる機械的特性をポリマー複合体に提供する可能性がある。さらなる充填剤は、当該技術分野で公知の任意の許容できる充填剤であり得る。前記さらなる充填剤はまた、ポリマー相、例えばリン酸カルシウム、ストロンチウムガラス、バリウムガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、セラミック、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、医療グレードのセラミック、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、および他の医用ポリマーであり得る。前記さらなる充填剤は、例えば、粒子、ロッド、または繊維などの種々の形状のものであり得る。前記さらなる充填剤は、ナノメートル、サブマイクロメートルおよびマイクロメートルスケールの種々のサイズのものであり得る。
【0035】
前記さらなる充填剤は、ナノメートル、サブマイクロメートルおよびマイクロメートルスケールの種々のサイズのものであり得る。前記複合体中に存在するさらなる充填剤の量は、適用に応じて広範囲に変化し得る。いくつかの実施形態において、前記さらなる充填剤の量はポリマー複合体の0〜80重量%の範囲であり得る。別の実施形態において、前記さらなる充填剤はポリマー複合体の約50から約70重量%まで及ぶ可能性がある。好ましい実施形態において、さらなる充填剤の量は、前記ポリマー複合体の約60重量%であり得る。
【0036】
前記ポリマー複合体または個々の成分は、パートIIで記載される種々の方法によってさらに機械的に修飾することができる。機械的修飾は、前記ポリマー複合体の種々の成分のさらに良好な分散を提供することができる。特に、機械的修飾は、走査電子顕微鏡法および透過電子顕微鏡法の両方で見られるように、前記ポリマーマトリックス全体にわたって前記補強充填剤の良好な分散を提供することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、混合されたポリマー複合体は、高粘稠性液体であり得る。前記ポリマー複合体は、硬化または成形のプロセスによって、固体に変わる。硬化または成形されたポリマー複合体は、本明細書中に記載される生体適合性、強度および吸水率の有利な特性を有する。
【0038】
記載された前記ポリマー複合体は、高レベルの二軸曲げ強度、曲げ強度、引張強度、伸長等をさらに示す可能性がある。強度は、応力下での変形に抵抗する材料の能力の尺度である。前記ポリマー複合体は、充填剤を含まない同じポリマーよりも有利な機械的特性を提供する。1つの実施形態では、高アスペクト比リン酸カルシウム充填剤を添加することによって、ポリマーの二軸強度が約2%改善〜約100%改善の量で改善される。
【0039】
II.ポリマー複合体の作製方法
本発明のさらなる態様は、前記ポリマー複合体を作製する方法を提供する。前記方法は、ナノファイバー、ナノプレート、サブミクロンファイバー、サブミクロンプレート、およびそれらの組み合わせから選択される高アスペクト比補強充填剤をポリマーマトリックス中で混合することを含む。前記方法は種々の修飾をさらに含み得る。
【0040】
a.ポリマーマトリックス
前記ポリマーマトリックスは、商業的に入手可能なポリマー、ポリマーの混合物のいずれかとして提供することができるか、または合成することができる。
【0041】
ポリマーの合成は、当該技術分野で公知の任意の方法によって実施することができる。許容できるモノマーには、パートI(a)で列挙するモノマーが含まれるが、これらに限定されるものではない。ポリマー合成は、溶媒および/または許容できる触媒もしくは開始剤の使用を必要とする可能性がある。重合溶媒としては、アセトン、アルコール、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジオキサン、酢酸エチル、ヘキサン、メチルエチルケトン、水およびそれらの混合物をはじめとする重合反応のために許容できる任意の溶媒が挙げられる。好適な重合開始剤の非限定的例としては、ケトン、過酸化物、アミノおよびビニル系開始剤または触媒が挙げられる。開始剤または触媒の具体例としては、カンファーキノン(CQ)、フェニルプロパンジオン、ルシリン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(E4)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、過酸化ベンゾイルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。触媒および開始剤は、重合をもたらすのに十分な任意の比で添加することができる。典型的には、開始剤または触媒は、前記ポリマーの重量に対して1〜10重量%で反応に提供される。
【0042】
前記マトリックスは、2以上のポリマーの混合物も含み得る。ポリマーは、手動混合、粉砕、超音波処理などによるなど、任意の方法によって混合することができる。溶媒を用いて、前記ポリマーの粘度を一時的に低下させることにより、混合を容易にすることができる。好ましくは、前記溶媒は前記ポリマーから蒸発し、前記ポリマーマトリックスに実質的な量で含まれない。
【0043】
機械的修飾は、パートII(c)で後述するように、前記ポリマーまたはポリマーマトリックスに提供され得る。
【0044】
b.補強充填剤
補強充填剤は購入することができるか、または合成することができる。前記非修飾リン酸カルシウム補強充填剤の合成は、当該技術分野で公知の任意の方法によって達成することができる。例として、ヒドロキシアパタイト補強充填剤は、ゼラチンおよび尿素の存在下で硝酸カルシウムをリン酸塩と組み合わせ、約60℃〜約100℃の温度で1〜5日間加熱することによって合成される。好ましい実施形態では、硝酸カルシウム(Ca(NO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ゼラチン、および尿素を水中に溶解させ、硝酸カルシウム(Ca(NO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ゼラチン、および尿素の濃度は、それぞれ、0.02モル/L(モル/リットル)、0.02モル/L、0.2g/L(グラム/リットル)、および0.04モル/Lである。前記溶液を混合し、次いで95℃まで加熱し、95℃で72時間保持してもよい。試薬の濃度は、充填剤の形成に影響を及ぼす可能性がある。
【0045】
前記補強充填剤を化学的に修飾することもできる。化学的修飾は、湿式化学法によって、ならびにプラズマ処理によって達成することができる。湿式化学を用いて前記補強充填剤を修飾する場合、前記修飾試薬を前記補強充填剤の希釈溶液に添加する。溶媒を前記補強充填剤の重量に対して約100〜約1000重量%で提供することができる。前記補強充填剤を一般的に、前記修飾試薬の添加前に溶媒中に分散させる。
【0046】
前記反応に添加される修飾試薬の量は、実施される修飾の種類、修飾を実施する方法、および修飾される補強充填剤に依存する。提供される修飾剤の量は、補強充填剤の量に対して約5重量%から約300重量%まで及ぶ可能性がある。修飾反応に必要な時間の量も広範囲にわたって変化する可能性がある。前記修飾反応は、10分〜2日の期間にわたって起こる可能性がある。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記化学的修飾は、プラズマ処理によって促進される。プラズマ処理は、多くの方法で実施することができ、本発明の範囲内であり得る。典型的なプラズマ処理は、前記補強充填剤を真空下のガラスリアクター中に入れることによって実施することができる。前記リアクターは、フローガスの流れならびに高エネルギープラズマ源を提供する。プラズマは、気体状反応物質と前記補強充填剤との間の反応を促進して、ガスの反応を介して表面上の修飾を達成する。種々の揮発性試薬を用いて、所望の官能性を付与することができる。プラズマ処理に関して、ガス状試薬を不活性ガスとともに提供して、前記ガス状試薬ガスの濃度を低下させることができる。
【0048】
前記湿式化学法およびプラズマ化学法両方の修飾試薬は、アミン、アルキル基、カルボン酸、過酸化物、およびシランから選択される。例示的アミン試薬はアンモニアおよびアルキルアミンである。例示的カルボン酸試薬は、アクリル酸、クエン酸、12−アミノドデカン酸、ドデカン酸、ドデカン二酸グリコール酸、グリオキシル酸、乳酸、メタクリル酸などである。例示的シラン試薬としては、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(3−MPS)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、トリメトキシシリルプロピルアミン、3−アミノプロピルトリエトキシルシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリ(メトキシエトキシ−エトキシ)シラン、およびジアミン官能性シラン、例えばN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。さらなる例示的試薬としては、メタン、二酸化炭素、O、ならびに炭素原子数が1から20まで及ぶ不飽和および飽和炭化水素が挙げられる。ガス状または揮発性試薬は、プラズマ化学に好適であるが、一方、液体試薬は湿式化学に好適である。
【0049】
化学的修飾は、前記反応を促進するために種々のさらなる試薬の添加も必要とする可能性がある。例えば、修飾は、反応を促進するためのさらなる試薬、例えば、触媒、スカベンジャー、または酸もしくは塩基で実施することができる。例えば、アクリル酸修飾は、補強充填剤の約1〜10重量%で存在する触媒によって促進されることが知られている。反応の例示的触媒は、ナトリウムシアノボロヒドリドである。
【0050】
機械的修飾は、パートII(c)で後述するように前記補強充填剤に対して提供することができる。
【0051】
c.混合
前記方法は、前記補強充填剤を前記ポリマーマトリックス中で混合して、前記ポリマー複合体を得ることを含む。混合は、液体ポリマーまたは乾燥ポリマーのいずれかに対して提供することができる。混合は、手動および自動化法によることをはじめとする任意の許容できる手段によって提供することができる。混合は、本明細書中で記載される機械的修飾方法によってさらに容易にすることができる。
【0052】
前記混合ステップは溶媒をさらに含み得る。前記溶媒は、前記材料の粘度を一時的に低下させることによって、増強された混合を提供することができる。前記溶媒は、アセトン、アルコール、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジオキサン、酢酸エチル、ヘキサン、メチルエチルケトン、水、およびそれらの混合物をはじめとする多くの許容できる溶媒から選択することができる。好ましくは、前記溶媒は組成物から蒸発して、最終的な複合体中に実質的な量で組み入れられない。使用される溶媒の量は、所望の粘度に応じて、前記ポリマー複合体の約1重量%からポリマー複合体の約50重量%まで変化する可能性がある。
【0053】
d.さらなるステップ
前記プロセスは、機械的修飾および/または硬化を含むさらなるステップ(複数可)をさらに含み得る。
【0054】
機械的修飾は、混合をさらに増強して、所望の分散または束状構造のサイズを達成することができる。機械的修飾を、前記補強充填剤、ポリマーマトリックス、またはポリマー複合体に対して提供することができる。機械的修飾法の例は、超音波処理、溶融混合、ミリングなどである。
【0055】
超音波処理は、試料を撹拌するために音波を適用することを含む。超音波処理は、前記補強充填剤のポリマーマトリックス中での分散を増大させることができ、前記補強充填剤における束形成のレベルを低下させることもできる。超音波処理は、市販の超音波処理器により、超音波ホーンの使用、または利用可能な任意の手段によって実施することができる。補強充填剤、ポリマーマトリックス、または混合物を超音波処理に供する時間は、所望の束状構造の分散レベルまたはサイズに依存する。超音波処理時間が長いほど、より高い分散およびより小さな束状構造が得られる。1つの実施形態では、超音波処理は、20分から2日まで及ぶ長さの時間で提供される。別の実施形態では、超音波処理は、1時間から10時間まで及ぶ長さの時間で提供される。好ましい実施形態において、超音波処理は6時間提供される。
【0056】
溶融混合を用いて、分散を促進することもできる。溶融混合は、マトリックスの乾燥ポリマーと乾燥補強充填剤とを混合することによって達成することができる。溶融混合はまた、コンパウンダーまたはミクロコンパウンダーを用いて達成することもできる。回転速度および滞留時間は、最適条件に変えることができ、本発明の範囲内であり得る。
【0057】
前記方法はまた、ミリングステップも含み得、これは、補強充填剤およびポリマーマトリックスを混合し、かつ前記ポリマーマトリックス中の前記補強充填剤の分散を増大させる。種々の市販のミラーが利用可能であり、ミリングはまた前記ポリマーマトリックスおよび充填剤を混合しつつ、力を与えることによって、手動で達成することもできる。ミリングは、種々の造粒サイズで、種々の速度にて提供することができ、本発明の範囲内であり得る。
【0058】
前記方法は硬化ステップをさらに含み得る。前記ポリマー複合体は、限定されないが、化学的硬化添加剤の添加、UV放射、光、電子線、熱、または周囲条件への暴露によるなど、当該技術分野で公知の任意の方法によって硬化させることができる。
【0059】
前記方法は、ホットプレスを含み得る。このプロセスでは、前記ポリマー複合体を高温まで上昇させ、次いで高圧で保持して、複合体を形成する。前記方法は、射出成形および/または機械加工をさらに含み得る。このプロセスでは、前記ポリマー複合体は、射出成形機を用いて成形される。前記複合体を適用に応じて、異なる形状に成形することができる。
【0060】
前記複合体は、旋盤機械を用いるなどさらに機械処理して、種々の適用のために特定の形状を有するようにすることができる。
【0061】
III.ポリマー複合体の使用法
さらなる実施形態において、本明細書中で記載されるポリマー複合体を歯科的応用および生物医学的応用で使用することができる。
【0062】
ポリマー複合体は、歯科用修復材として用いることができる。歯の修復は、構造的に損傷した歯に対して補強を提供するために必要であり得る。損傷が齲蝕によって引き起こされる場合、歯の齲蝕部分をまず除去するが、これがさらなる構造的損傷を引き起こす可能性がある。前記ポリマー複合体を次いで用いて、齲蝕または損傷による除去または欠落部分を充填する。前記ポリマー複合体は、齲蝕領域をさらなる齲蝕から密封する、および/または歯の構造を補強するという両方の効果を有する。
【0063】
本明細書中で記載されるポリマー複合体は、同様の方法で、他の歯牙充填に適用することができる。ポリマー複合体は湿潤(軟質)状態で修復される歯の表面に提供される。前記ポリマー複合体は、鉗子などの通常の歯科用機器を用いて適用することができる。前記ポリマー複合体は、湿潤ポリマー複合体を除去もしくは成形することによって湿潤状態で、またはポリマーが硬化した後のいずれかで、研磨および成形によって、特定の目的に適合するように成形することができる。
【0064】
本明細書中で記載されるポリマー複合体は、複合体ベースのクラウンおよびベニヤなどの他の歯科用成分を作製するために適用することができ、そして適用される。
【0065】
ポリマー複合体は、整形外科的応用で用いることもできる。ポリマー複合体の整形外科的使用は、骨構造の脆弱性を改善することを目的とする。ある適用では、前記ポリマー複合体を、治癒を導くかまたは骨の構造に対する補強を提供する骨ねじ、プレート、ピン、およびロッドなどの内部骨固定装置に成形することができる。固定装置は、ホットプレスおよび射出成形によって形成される。固定装置に成形された前記ポリマー複合体を、適用に応じて、観血または非観血手術のいずれかによって骨の構造中に配置することができる。
【0066】
本発明のいくつかの態様において、前記固定装置は、永久的であることが意図され、本発明の他の態様では、前記ポリマー複合体固定装置は時間とともに分解する。
【0067】
整形外科的適用の別の例として、前記ポリマー複合体を、骨に、湿潤または部分硬化(軟質)形式で、例えば骨セメントの形態で適用することができる。湿潤または軟質複合体材料を骨支持のために、そして内部固定装置の補強のために、用いることができる。
【0068】
定義
本明細書中で用いられる場合、アルキルは、環状もしくは直鎖であり得るヒドロカルビルまたは置換されたヒドロカルビルを意味する。特に明記しない限り、これらの部分は、好ましくは1〜20個の炭素原子を含む。
【0069】
本明細書中で用いられる場合、リン酸カルシウムは、カルシウムイオン(Ca2+)を1以上のホスフェート含有イオンとともに含む。ホスフェートイオンは、オルトホスフェート(PO3−)、メタホスフェート(PO)、およびピロホスフェート(P4−)を含むホスフェート含有分子を含む。リン酸カルシウムはさらに1以上のさらなるアニオンを含み得る。非限定的例としては、水酸化物イオン(OH)、カーボネートイオン(CO2−)、フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)スルフェートイオン(SO2−)、およびそれらの組み合わせが挙げられる。リン酸カルシウムは、非限定的例として、水素イオン(H)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、マグネシウムイオン(Mg2+)、銀イオン(Ag)、およびそれらの組み合わせをはじめとする1以上のカチオンも含有し得る。リン酸カルシウムは、アニオン(X)、好ましくは、(OH)、(CO2−)、(F)、(Cl)、またはそれらの混合物によってさらに安定化することができる。
【0070】
本明細書中で用いられる場合、ヒドロカルビルは、炭素および水素の元素のみからなる有機化合物またはイオンを意味する。これらの部分としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアリール部分が挙げられる。それらは環状または直鎖であり得る。特に明記しない限り、これらの部分は、好ましくは1〜20個の炭素原子を含む。
【0071】
本明細書中で用いられる場合、置換されたヒドロカルビルは、少なくとも1個の炭素および水素以外の他の原子で置換されたヒドロカルビル部分を意味する。これらの原子は、窒素、酸素、ケイ素、イオウ、リン、ホウ素、またはハロゲンであり得る。それらは環状または直鎖であり得る。特に明記しない限り、これらの部分は、好ましくは1〜20個の炭素原子を含む。
【0072】
本明細書中で用いられる場合、ナノファイバーは、100nm未満の直径を有する繊維を意味する。
【0073】
本明細書中で用いられる場合、ナノ粒子は、粒子の3次元がすべて100nmより小さなプレートを意味する。
【0074】
本明細書中で用いられる場合、ナノプレートは、プレートの厚さが100nm未満であるプレートを意味する。
【0075】
ナノホイスカーは、本明細書中で用いられる場合、100nmより小さな直径を有し、また小アスペクト比、典型的なには5より小さなアスペクト比によって特徴づけられるホイスカーを意味する。
【0076】
本明細書中で用いられる場合、サブミクロンファイバーは、100nmを超えるが、1μm未満である直径を有する繊維を意味する。
【0077】
本明細書中で用いられる場合、サブミクロンプレートは、プレートの厚さが100nmを超えるが、1μm未満であるプレートを意味する。
【0078】
本明細書中で用いられる場合、シリカは、酸化シリカSiOx(式中、Xは任意の整数である)から実質的に構成される材料である。
【0079】
実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。実施例で開示される技術は、本発明の実施で十分に機能することが本発明者らによって見出された技術であることは、当業者には理解される。しかし、当業者は、本発明の開示を考慮すると、開示される具体的な実施形態に多くの変更を加えることができ、本発明の範囲および精神から逸脱することなく同等または類似した結果が依然として得られることを理解するはずであり、したがって、記載される全てのものは例示的であり、限定的な意味ではないと解釈されるべきである。
【0080】
実施例1 ヒドロキシアパタイト(HA)ナノファイバー合成
Ca(NO、リン酸二水素ナトリウムNaHPO、ゼラチン、および尿素を水中に溶解させることによって、HA補強充填剤を作製した。硝酸カルシウム(Ca(NO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ゼラチン、および尿素の濃度は、それぞれ、0.02モル/L(モル/リットル)、0.02モル/L、0.2g/L(g/リットル)、および0.04モル/Lである。混合溶液を次いで室温から80〜100℃まで加熱し、80〜100℃で72時間保持した。結果として得られた充填剤を次いでろ過し、脱イオン水で洗浄し、そして室温で乾燥した。合成のパラメータを最適化して、高アスペクト比を有する補強充填剤を得た。図2(a)〜(d)は、異なるゼラチン(75ブルーム)濃度で作製された試料のSEM画像である。反応温度は3つの実験全てについて80℃であった;ゼラチン濃度は0〜2g/Lで変化し、そして実験は約24時間続いた。ゼラチンなしで、ほとんどのHA結晶はプレート様構造を有する(図2a)。HA材料の平均長さ、幅、および厚さは、それぞれ約30μm、4μm、および100nmであり、そのようなHA材料はHAナノプレートおよびHAサブマイクロプレートである。0.4g/Lのゼラチンを添加することにより、幅方向の成長が有意に妨害され、さらに多くのナノファイバーが観察された。平均幅は0.50〜2μmまで収縮し、太さは約250nmであった。さらに多く(2g/L)のゼラチンを溶液中に添加した場合、さらに多くのナノファイバーが形成された。平均直径は約200〜300nmであった。異なるゼラチン濃度での3つの条件について、有意な長さの変化は観察されなかった。ゼラチンは、特に,溶液中で幅方向のヒドロキシアパタイト繊維の成長を制限した。高ゲル強度ゼラチン(225ブルーム)は、ヒドロキシアパタイトの成長に対して低ゲル強度ゼラチン(75ブルーム)のものと類似した効果を及ぼした。図3(a)および(b)は、100℃で72時間時間成長させたHA充填剤のSEM画像である。平均長さは約60μmであり、80℃で作製された試料の長さの2倍であった。平均直径はさらに小さく、約100nmであった。これらの条件により、さらに長く、さらに細いHA充填剤が得られる。100℃で成長させたいくつかのHAナノファイバーは十分に分散しないが、おもに束状構造である。
【0081】
実施例2 PLA複合体の曲げ強度の改善および修飾
図4は、種々のポリ(L−ラクチド)(PLA)複合体に対する修飾の効果を示す。図4は、非修飾PLA複合体、2重量%の受け取ったままの状態のHA補強充填剤を含むPLA複合体、2重量%のHA補強充填剤を含み超音波処理を加えたPLA複合体および5重量%のHA補強充填剤を含み超音波処理を加えたPLA複合体の曲げ強度(MPaで表す)を示す。
【0082】
実施例3 充填剤および複合体の生体適合性
MC3T2−EI細胞系(American Type Culture Collection, VA)で細胞研究を実施した。アスコルビン酸を含まず、10%ウシ胎仔血清(FBS)を追加された変法最小必須培地(α−MEM)中で細胞を維持し、そして37℃、5%COの加湿雰囲気中でインキュベートした。MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を適用して、細胞生命力および増殖を評価した。生細胞のミトコンドリアデヒドロゲナーゼは、テトラゾリウム環を還元し、青色のホルマザン生成物を生成し、これを分光測光法で測定することができる。存在するホルマジンの量は、存在する生存細胞の数に比例する。
【0083】
Tiを対照として使用して、HAナノファイバー充填剤およびHAナノ粒子充填剤の生体適合性を試験した。図5(a)は、複数のMTT試験の平均を示す。MTT結果は、HAナノファイバーが細胞生命力および増殖に関してHAナノ粒子よりも有意に生体適合性であることを示す。さらに、MTT結果はチタンよりも優れた利点を示す。
【0084】
図5(b)は、L929細胞系を用い複数のMTT試験の平均を示す。MTT結果は、HAナノファイバーがHAナノ粒子よりも良好な生体適合性を有し、HAナノファイバーを歯科用複合体に添加することも生体適合性を改善することを示す。
【0085】
実施例4 グリオキシル酸修飾
グリオキシル酸修飾は、5gの受け取ったままの状態のヒドロキシアパタイトナノファイバーを150mLの脱イオン水中に溶解させることによって実施した。0.39gのグリオキシル酸を次いで添加し、溶液を30分間撹拌した。撹拌しながら、0.28gのナトリウムシアノボロヒドリドを滴加した。24時間撹拌した後、繊維をろ過し、脱イオン水で5回リンスして、残留する触媒を除去した。次いで、HAナノファイバーを空気中室温にて乾燥した。図6(b)は、分散が有意に改善されたHAナノファイバーのTEM(透過電子顕微鏡法)を示す。図7は、受け取ったままの状態のHAナノファイバーおよびグリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーのFT−IRスペクトルを示す。FT−IRは、受け取ったままの状態のHAナノファイバーと比較して、C=O(約1640cm−1)、C−H(約2918、2850、1470cm−1)、およびOH(約3457cm−1)バンドのピークの強度が有意に高いことを示す。これらの結果は、修飾された試料においてさらに多くのC=O、C−H、およびOH部分があることを示す。
【0086】
実施例5 二軸曲げ強度
種々のHAナノファイバーおよび0.7マイクロメートルサイズのシラン化シリカ粒子をポリマーマトリックス中で試験した。ポリマーマトリックスは、49.5重量%のBis−GMAおよび49.5重量%のコモノマーTEGDMA、カンファーキノン(0.5重量%)および4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(0.5重量%)を含有していた。HAナノファイバーを2重量%、3重量%、5重量%、7重量.%および10重量%の質量分率で添加した。60重量%のシラン化シリカ粒子も対照として試験した。所望の補強充填剤を、Bis−GMAおよびTEGDMAおよびアセトンを含むバイアルに添加した。超音波ホーンを使用して、前記充填剤をポリマーマトリックス中に分散させた。カンファーキノンおよび4−ジメチルアミノ安息香酸エチルを開始剤として添加し、バイアルをホイルで覆った。十分に混合した後、溶液を、スライドガラスで覆われたTeflon(登録商標)型(直径12mm、厚さ1.5mm)に添加した。試料を硬化させた。
【0087】
SMS TA HDPlus Texture Analyzerを円板試料上の中心に置いた。100kgのロードセルを使用して、ロードを適用し、試料を円上で互いに120°離れて位置する3個のボールベアリングによって支持させた。SMS TA HDPlusは、時間の関数として適用されたロードを記録した。二軸曲げ強度を、Skrtic and Antonucci (2004)によって報告されている通常用いられる方法にしたがって計算した。図8は、いくつかの実験の平均を示す。図8は、グリオキシル酸で修飾されたHAナノファイバーの、受け取ったままの状態のHAナノファイバーからの改善を示す。ポリマー複合体の二軸曲げ強度は、3重量%HANFおよび5%HANFで最高であった。3重量%の受け取ったままの状態のHAナノファイバーは124.2±3.5MPaの二軸曲げ強度を有し、これは対照よりも29%高く、3重量%のグリオキシル酸で修飾されたHA繊維は134.5±3.4MPaの二軸曲げ強度を有し、これは対照よりも40%高かった。
【0088】
実施例6 シラン化および複合体強度
シラン化プロセスを5gのヒドロキシアパタイト補強充填剤に関して実施した。15mLの3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを300mLのアセトンおよび水の混合物(70/30)に添加した。一定した磁気撹拌下で、溶液を40℃まで3時間加熱し、続いて60℃で5時間さらに処理した。次に、混合物をろ過し、アセトンおよび水で少なくとも2回洗浄し、次いで120℃のオーブンに2時間移して、過剰の水および溶媒を除去した。図9(a)および(b)はシラン化処理前後のHA補強充填剤の高分解能FT−IRスペクトルである。HAおよびゼラチンの特徴的なピークの他に、メタクリレートC=Oの伸縮振動(約1720cm−1)およびSi−O−Si−H対称伸縮(約2004cm−1)をはじめとするシラン(3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)の特徴的な吸収バンドがFT−IRスペクトルで同定された。試料の作製および機械的試験は実施例5と同様であった。シラン化HA補強充填剤を含有する歯科用複合体の吸水率を、American Dental Associationプロトコル(ADA, 1993)に基づいて調査した。
【0089】
二軸曲げ強度試験結果は図10に含まれる。図10で示されるように、充填剤を含まない受け取ったままの状態のHA補強充填剤の添加は、対照よりも二軸曲げ強度を有意に改善しなかった。グリオキシル酸で修飾されたHAおよびシラン化HAの添加は、機械的強度を有意に改善した。
【0090】
図11は、55重量%のシリカマイクロ粒子中5重量%のシラン化HA補強充填剤によって補強された歯科用複合体の表面のSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。図11で示されるように、個々の束状構造サイズは、典型的には1マイクロメートルよりも小さく、受け取ったままの状態のHA補強充填剤の束状構造よりもはるかに小さかった。図11はまた、前記複合体における繊維プルアウトを示す。
【0091】
前記複合体をさらに、蒸留水中に7日間浸漬した。図12は、前記複合体の吸水率を比較する。図12で示されるように、2%シラン化HA強化複合体および5%シラン化HA強化複合体はどちらもADA標準(40μg/mm−3)よりも低い吸水率(それぞれ35μg/mm−3および36μg/mm−3)を有する。
【0092】
実施例7 アクリル酸処理および複合体強度
a.ヒドロキシアパタイト補強繊維の修飾をさらに、アクリル酸を用いて実施した。1.00gの受け取ったままの状態のHA補強充填剤をアセトンの添加し、Sonifier(登録商標)450(Branson, Inc.)で20分間超音波処理した。3.00gのアクリル酸を混合物に添加し、Sonifier(登録商標)によって15分間均質化した。懸濁液を50℃で12時間磁気的に撹拌した。次に、懸濁液を洗浄して、未結合のアクリル酸を除去した。アクリル酸で修飾されたHAナノファイバーを乾燥し、後で使用するために周囲条件で保管した。
【0093】
アクリル酸で修飾されたHA補強充填剤をBis−GMA:TEGMA2:1のポリマーマトリックスに添加した。ポリマーの混合物、アクリル酸で修飾されたHAナノファイバー、およびシリカ粒子を、5mLのアセトンと30分間磁気的に撹拌した。前記混合物を次いでSonifier(登録商標)450中で10分間音波処理に付した。前記混合物をさらに2時間50℃にて磁気的に撹拌した。リアクターをホイルで完全に覆って硬化を防止しつつ、カンファーキノンおよび4−ジメチルアミノ−安息香酸エチルを溶液中に添加した。前記混合物を4℃にて1時間冷蔵した。
【0094】
前記混合物をスライドガラスで覆われた円形の型中に入れた。実施例5のプロトコルを用いて機械的特性を試験した。前記乾燥した、受け取ったままの状態の繊維およびアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤を、FT−IRによって特性化した。FT−IRは表面修飾を裏付けた。図13で示されるように、カルボニル部分(C=O、1710cm−1)およびヒドロキシル部分(OH、2900〜3450cm−1)がアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤について観察された。
【0095】
熱重量分析(TGA)を、前記受け取ったままの状態のHA補強充填剤およびアクリル酸で修飾されたHA充填剤について、Q-5000-IR(TA Instruments, Inc.)で実施し、重量損失をUniversal Analysis 2000によって測定した。窒素(10.0mL/分)をバランスガスとして使用した。測定は30℃〜1000℃で実施した。図14で示されるように、受け取ったままの状態のHA充填剤と比較して、2つの異なる重量損失ステップが、アクリル酸で修飾されたHA補強充填剤において162〜235℃および374〜452℃の範囲で見出された。
【0096】
二軸曲げ強度もまた、対照としての3M Filtek Z25(登録商標)(シリカ粒子充填剤のみからなる)に対して測定した。図15は、3M Filtek Z250生成物と比較して、どちらのアクリル酸で修飾されたHA補強充填剤もシリカのみについてよりも高い/良好な補強効果を有することを示す。
【0097】
実施例8 異なる修飾でのHA補強充填剤の表面修飾
前記HA補強充填剤を、3種の試薬、すなわち12−アミノドデカン酸、ドデカン酸およびドデカン二酸でそれぞれ表面修飾した。表面官能基滴定を使用して、表面修飾を特性化した。結果を図16で示す。全ての修飾を95℃で実施して、官能化の程度を測定した。表面カルボキシル基滴定結果は、ドデカン二酸で修飾された補強充填剤の表面上の2倍のカルボン酸部分、および12−アミノドデカン酸で修飾されたHA補強充填剤の表面上の2倍のアミノ酸を示す。
【0098】
実施例9 DCPA補強充填剤合成およびDCPA補強充填剤を含む歯科用複合体
DCPA補強充填剤を、Ca(NO、リン酸二水素ナトリウムNaHPO、ゼラチン、および尿素をそれぞれ0.02モル/L(モル/リットル)、0.02モル/L、0.2g/L(グラム/リットル)、および0.04モル/Lの濃度で溶解させることによって作製した。混合溶液を次いで室温から95℃まで加熱し、95℃で1〜9時間保持した。結果として得られた補強充填剤を次いでろ過し、脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥して、乾燥補強充填剤を得た。図17のX線回折(XRD)は、それぞれ26.5°、30.1°おおび30.3°の2θ領域でDCPAの特徴的ピークを示した。図18はDCPAナノファイバーのSEM画像を示す。
【0099】
DCPA補強充填剤ならびにDCPAおよびHA補強充填剤の組み合わせを含有する2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン/Tトリエチレングリコールジメタクリレートおよびエトキシル化ビスフェノール−A−ジメタクリレート/1,6−ビス−[2−メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]−2,4,4−トリメチルヘキサンベースの歯科用複合体を作製し、二軸曲げ強度を測定した。図19は、2重量%のDCPAを含有する歯科用複合体が対照(約100MPa、シリカ粒子のみを含有する歯科用複合体)よりも有意に高い二軸曲げ強度を有することを示す。
【0100】
実施例12 HA補強充填剤を含む射出成形されたPLA複合体の調製
射出成形を用いてPLAマトリックス中HAで補強された充填剤を作製した。PLA樹脂(Purac)を15℃で保管して、分解を防止した。良好な分散および混合効果を達成するために、PLAペレットをブレンダー(Blentec)中、3分20秒間最高速度で粉砕して、小さな粒子にした。次いで、粉砕されたPLA粒子および補強充填剤を乳鉢中で混合し、混合物を90秒間粉砕し、機械が射出成形の準備ができるまで、15℃にてプラスチックバッグ中で保管した。mini-jector model 45を使用して、純粋なPLAおよびPLA/HA試料を射出成形した。25グラムのPLA/HAを射出シリンダーの内部で232℃まで5分間加熱した。この後、試料をASTM標準的アルミニウム型(ASTM D638標準的試験片IVおよびASTM D5934)中に95psiの圧力、6秒の射出時間および232℃のノズル温度で射出成形した。射出成形プロセス後、試料を型から取り出し、機械的試験のためにデシケーター中で保管した。引張試験(ASTM D638)および曲げ試験(ASTM D5934)はどちらも対応するASTM標準でInstronモデル3600を用いて実施した。
【0101】
図20(a)で示されるように、補強充填剤の添加は、ポリマーマトリックスの曲げ強度を有意に改善することができる。5重量%のシラン化補強充填剤を組み入れると、純粋なブレンドされたPLAと比べて、曲げ強度が49.8%増加した。加えて、表面修飾は曲げ強度を増加させた。図20(b)は、純粋なブレンドされたPLAと比べて、29.6%までの曲げ弾性係数を示す。引張強度および弾性係数を図21に示す。引張強度は、5重量%のシラン化HA補強充填剤の添加にともなって54.1±4.5MPaから73.6±2.3MPaまで有意に増大し、この増加は36.1%である。引張弾性係数も実質的に改善された。
【0102】
図22は、PLAならびに、もとの非修飾HA補強充填剤、グリオキシル酸修飾HA補強充填剤およびシラン化HA補強充填剤を含有するPLA複合体の典型的な応力・歪み曲線を示す。図23は、異なる試料の最大歪みを示す。全ての場合において、破壊点での最大歪みは、受け取ったままの状態または表面修飾されたHAナノファイバーの添加にともなって、約1.7%から2.3%〜2.6%まで増加する。最大歪みは、伸長とも称され、これは破壊点での引張試験でどれほど多くの材料を伸長することができるかを特性化する。伸長が高いほど、靱性が高く、衝撃に対する耐性が高いことを示す。
【0103】
前述の詳細な説明および付随する実施例は、単なる例示的なものであり、本発明の範囲に対する制限と見なされるべきではなく、本発明の範囲は、添付の請求項およびそれらの同等物によってのみ規定されると理解される。開示された実施形態に対する種々の変更および修飾は当業者には明かであろう。限定されないが、化学的構造、処方、または本発明の使用法に関するものをはじめとするそのような変更および修飾は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくおこなうことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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図17
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図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C
図23
【手続補正書】
【提出日】2018年5月28日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスならびにリン酸カルシウムナノファイバー、サブミクロンファイバー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される補強充填剤を含むポリマー複合体であって、
補強充填剤が、アミン部分、カルボン酸部分またはそれらの組み合わせを含むゼラチンコート表面を有し、かつ
前記補強充填剤が、約10nm〜約1μmに及ぶ直径または厚さ、および約50〜約5000に及ぶアスペクト比を有し、かつ約0.6重量%〜約15重量%に及ぶ量で存在する、ポリマー複合体。
【請求項2】
ゼラチンコート表面上のアミン部分、カルボン酸部分またはそれらの組み合わせが、アルキル、アミン、カルボン酸、過酸化物、およびシランからなる群から選択される試薬で修飾される、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項3】
前記補強充填剤が、約0.6〜約6重量%に及ぶ量で存在する、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項4】
前記補強充填剤が束状構造とされている、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項5】
前記補強充填剤の直径または厚さが、約50nm〜約500nmである、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項6】
前記アスペクト比が、約100〜約500である、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項7】
前記ポリマーマトリックスが、ビスフェノールAグリシジルメタクリレートポリマーとトリエチレングリコールジメタクリレートポリマーとの混合物を含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項8】
前記ポリマーマトリックスが、ポリ(L−ラクチド)を含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【請求項9】
前記束状構造が、約5μm未満の直径を有する請求項4記載のポリマー複合体。
【請求項10】
前記束状構造が、約2μm未満の直径を有する請求項4記載のポリマー複合体。
【請求項11】
前記ポリマー複合体が、リン酸カルシウム、ストロンチウムガラス、バリウムガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、セラミック、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、医療グレードのセラミック、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(e−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、キトサン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる充填剤をさらに含む、請求項1記載のポリマー複合体。
【外国語明細書】
2018149346000001.pdf